ラベル RTA の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル RTA の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2020/05/22

電解質異常は好きですか?代謝性アシドーシス症例を検討。

腎臓内科領域でどこが好きかに関しては人それぞれだと思う。
私は全然できていないことは承知しているが、電解質異常が大好きである。

皆さんもご存知のようにSkeleton Key Group(全世界の腎臓内科フェローが電解質異常に対して症例を出しているグループ)が、いくつか電解質異常について症例を提示している。
とっても教育的で興味深いのでぜひ参考にしてもらいたい。

今回は、このグループからの症例で自分なりにも解釈を加えながら解説していきたい。

症例:
30歳女性で鎌状赤血球症がありハイドロキシウレアで治療、HIVがあり抗レトロウイルス薬で治療。2年前のCD4は410 cell/microL。現在、急性の腹痛、胸痛、両側のすねの痛みで入院中。
内服薬:テノホビル(HIVの薬)、ラミブジン(HIVの薬)、エファビレンツ(HIVの薬)、ヒドロモルフォン(オピオイド系鎮痛薬)、市販薬の内服はなし
痛みは高流量酸素投与とヒドロモルフィンでコントロールされていた。痛みはSick cell crisisによるもの(Sick cell crisisは血管閉塞によって疼痛が生じるものである。)

入院時採血
Alb 4.0mg/dL、BUN 10mg/dL、血清Cr:0.7mg/dL(GFR 78mL/min/1.73m2)、Na 140mmol/L、K 3.0mmol/L、 Cl 115mmol/L、HCO3 15mmol/L、血糖 90mg/dL

血液ガス検査
pH 7.38、pCO2 30mmHg、pO2 138mmHg(nasal 5L)、HCO3 14mmol/L

まず、この症例にある電解質異常と酸塩基平行異常を見てみる。

採血検査からは、低カリウム血症、高クロール血症

血液ガス検査からは、代謝性アシドーシスがあり、AG(Anion gap)はNa-(Cl+HCO3)で計算すると10となり、AG非開大性の代謝性アシドーシスがあるとわかる。
代償に関しては、予想pCO2=1.5×HCO3+8±2で計算すると、29±2となり実際は30であり予想範囲内である。
なので、この症例ではAG非開大性の代謝性アシドーシス、低カリウム血症となる。

皆さんはこの症例から何故このような電解質異常が生まれたのかわかるだろうか?

代謝性アシドーシス+低カリウムの原因として一番多いのは、下痢であるがこの症例では下痢は有していない。次の鑑別としては尿細管性アシドーシスがあがる。
内服薬の中でテノホビルはproximal RTAを起こし、鎌状赤血球はdistal RTAを起こしうる。

非AG開大性代謝性アシドーシスの原因として語呂での覚え方がある。
一つはHARD UP(生活が苦しいという意味)
Hyperventilation(過換気)
Acetazolamide(アセタゾラミド)
 Renal tubular acidosis(尿細管性アシドーシス)
Diarrhea(下痢)
Ureterosigmoidostomy(尿管S状結腸瘻)
Parental Saline(NaCl大量輸液)


もう一つはUSED PART(中古という意味)
Utero enterostomy(尿管結腸瘻)
Small bowell fistula(小腸瘻)
Extra chloride(NaCl大量輸液),
Diarrhea(下痢)
Pancreatic fistula(膵液瘻)
Addison's disease(アジソン病)、Acetazolamide(アセタゾラミド)
Renal tubular acidosis(尿細管性アシドーシス)
Tenofovir and topiramate(テノホビルやトピラマート(抗てんかん薬))

続いて、非AG開大性代謝性アシドーシスの際は尿中アニオンギャップ(尿AG)と尿浸透圧ギャップの計算は鑑別に重要になる。

尿AGは尿中アンモニアの排泄の指標となる。
尿AG=尿Na+尿K−尿Cl
    =未測定陰イオン−未測定陽イオン(アンモニアイオンも未測定陽イオンに含まれる)

つまり、代謝性アシドーシスの際には尿から酸がしっかりと排泄される(=尿アンモニアが排泄される)ので、尿中AGは負(<0)になる。正常は−20〜−50μEq/Lである。


尿中AGが正(>0)になる場合には、遠位型RTAなどの尿アンモニア排泄障害を考えなければならない。

この有用な尿中AGであるが、限界があるということも知っておく必要性がある。
・未測定陽イオン(ケトン、重炭酸、馬尿酸(トルエン中毒)など)の存在が尿AGを上昇させている場合
・リチウム高値が尿AGを低下させている場合
・腎機能低下でアンモニア排泄が抑えられている場合
などは、尿中AGの信頼性が落ちることも認識しておく。

その場合には尿中浸透圧ギャップが非常に鑑別に有用な手段になる。

尿浸透圧ギャップ=測定尿浸透圧 − [2×(UNa+Uk) + UGlu/18 + Uua/2.8]
となり、正常は10〜100mOsm/kgである。尿中アンモニアは尿浸透圧ギャップの半分であり、正常は5〜50mmol/Lになる。
なので、
尿浸透圧ギャップ/2 < 150では、尿アンモニア排出ができていないので腎臓由来の遠位型RTAを鑑別にあげる必要がある。
尿浸透圧ギャップ/2 > 400では、尿アンモニア排出が問題なく腎臓以外の原因(下痢など)を考える必要がある。

なので、トルエン中毒や糖尿病性ケトアシドーシスでは積極的に尿浸透圧ギャップを用いる必要がある。

尿浸透圧ギャップの限界としては、
・ウレアーゼ産生菌がいる場合には尿中アンモニアと尿浸透圧ギャップの関連が乏しくなる。
・アルコールやマンニトールなどの浸透圧物質の尿中排泄がある場合に尿アンモニアが増加していない割に尿中浸透圧ギャップは大きくなる。
・尿中Naや尿中Kが異常な場合


今回の尿所見としては
尿pH 7.1、尿糖 2+、尿蛋白定量 100mg/dL、尿蛋白/Cr比 0.42 mg/mg、尿Na 130mmol/L、尿K 42mmol/L、尿Cl 94mmol/L

今回の症例では尿糖や尿Uaなどはなく尿浸透圧ギャップは計算できなかったが、
尿AG=尿Na+尿K−尿Cl
          =130+42-94
          =78
となった。つまりアンモニア排泄がうまくできていないことがわかる。

ここで、想起される疾患は尿細管性アシドーシスである。

尿細管性アシドーシスの際に
尿AGが正になるのは基本的にdistal RTAである。

distal RTAでは尿中pH >5.3で、尿中AGが正になる特徴がある。
Proximal RTAでは尿中pH <5.3で尿中AGは負である。重炭酸などの治療で尿中pHが上昇し、尿中AGが正になる。

この症例では、尿中pH7.1で尿AGが正であり、distal RTAと判断する。

採血で下記のものが追加された。
尿酸:2.1 mg/dL
血清リン:2.9mg/dL

ここで、ふと疑問が出る。尿糖陽性、尿酸低下、血清リン低下があり、近位尿細管での再吸収が阻害されているのでは?と考える必要がある。つまり、proximal RTAの存在も考える必要がある。

この症例では画像検査で両側の腎結石を認めた。
distal RTAではアルカリ尿であり、かつ尿中カルシウム 排泄が亢進。それによってリン酸とカルシウムが結合してリン酸カルシウム結石ができたと考える。また、結石形成を阻害するクエン酸が代謝性アシドーシスと低カリウム血によって減少する。それによって、より結石を形成しやすくなる。

最終的に今回の症例は

・鎌状赤血球によるDistal RTA
・テノホビル±鎌状赤血球によるProximal RTA

によって生じていると考える。

今回の症例のように深くアニオンギャップ正常代謝性アシドーシスを考える機会も少ないのではないか?
なので、個人的には非常に勉強になった。


2019/10/16

虎ノ門みやげ 前編

 NBCe1と言われても、何の略かわかりにくい。NaとBicarbonateのCo-transporterと、元素記号と英語がチャンポンになっているが、要はHCO3-を近位尿細管の細胞内から間質側に出す輸送体だ(図はFront Physiol 2013 19 350より)。




 本ブログでも何度か名前くらいは紹介してきた(こちらこちらも参照)ものの、これだけを取り上げたことはなかった。・・今日までは。

 東部腎臓学会の教育講演16「近位尿細管性アシドーシスと腎性低尿酸血症(Nat Genet 1999)」では、この輸送体とその遺伝子異常について、発見した先生ご本人からお話があった。行かれなかった方のためにも、その内容(と興奮)を一部紹介したい。

 講演ではまず、遺伝子異常が濃厚に疑われる近位尿細管性アシドーシス(ただしFanconi症候群はみられない)・帯状角膜変性・脳基底核の石灰化・膵酵素上昇などを合併した女子の症例が提示された。

 先生はまず、これを"systemic disease with a distinct clinical entity which may be transmitted by autosomal recessive inheritance"として報告した(Pediatric Nephrol 1994 8 70)。まだ責任遺伝子は不明で、1979年報告の類似症例では(男子の兄弟だったため)X-linkedと誤解されていたほどだ。

 近位尿細管でHCO3-再吸収に関わる上図輸送体のうち、①NHE3とNa-K-ATPaseは全ての細胞にあるし、②CA2は大理石病という別の疾患を起こす。残りはNBCe1(当時はキドニーのkをとって、kNBCと呼ばれていた)だが、この輸送体の異常による疾患はいまだ報告がなかった。

 しかし、調べてみると、はたして輸送体をコードするSLC4A4遺伝子に責任となる異常が見つかった(講演タイトルのNat Genet 1999 23 264)!

 以後、角膜変性が角膜内のpH上昇による石灰化であること(JCI 2001 108 107)、遺伝子変異の場所によってさまざまな表現型があり、家系により偏頭痛が起きるのにはシナプス内のpH上昇が関連しているらしいこと(PNAS 2010 107 15963、図はdoi:10.5772/39225より)などが、続々分かった!




 先生は締めくくりに、「存在しない疾患とされていた疾患が存在した」と仰った。それが今や、NBCe1異常による疾患だけのレビュー論文まである(上述のFront Physiol 2013 19 350)。まさに、学会テーマである「目前に悩む患者の中に明日の腎臓内科学教科書の中身がある」だ。

 筆者も臨床医のはしくれ、診ている患者の中にも未知の疾患が隠れているという眼を忘れないようにしようと思った。なお先生によれば、現在は日本医療研究開発機構(AMED)が研究班と進める未診断疾患イニシアチブ Initiative on Rare and Undiagnosed Diseases(IRUD、サイトはこちら)もあるそうだ。


 つづく(写真は、会場そばの浄土宗榮閑院。杉田玄白先生のお墓があるので、学会ついでに参拝された方もおられるかもしれない)。






2019/07/18

早とちりは禁物

 特記すべき既往のない70歳女性。数ヶ月の倦怠感、体重減少などあり受診した前医で腎機能障害を指摘され、腎臓内科を紹介された。

Cr     1.5mg/dl
潜血尿   なし
蛋白尿   定性陰性、定量1/gCr
総蛋白   9.5g/dl
アルブミン 3.5g/dl

Q:骨髄腫以外に、何を疑いますか?

 
 ポイントは、蛋白尿で非アルブミン尿がみられ(試験紙法はアルブミンしか検出できない)、血液検査で高グロブリン血症がみられる(総蛋白とアルブミンの差が開いている)ことだ。もちろん、これらをみたらまずは骨髄腫を疑ってほしい。

 しかし、非アルブミン尿と高グロブリン血症がみられる疾患はそれだけではない。

 尿細管が障害されれば、本来メガリンやキュビリンによって再吸収されるはずの低分子蛋白が漏れる。間質性腎炎や、Dent's diseaseなどはそのよい例だ。また高グロブリン血症も、モノクローナルだけでなくポリクローナルな可能性を考える必要がある。自己免疫疾患などは、そのよい例だ。

 だから、こういう場合でも骨髄腫一本の決めうちは禁物で、間質性腎炎を起こす自己免疫疾患(シェーグレン症候群など)も頭の隅にいれておきたい。M蛋白もB-J蛋白も陰性の代わりに、SS-A・Bが振り切れるほど高値で、腎生検したら間質性腎炎であった・・などということも、ときにはある(「告知」を取り消したり、わりと大変だ)。

 シェーグレン症候群なんて、目や口の乾きなどの腎外症状、低カリウム血症を伴う遠位RTAを起こす(米国腎臓学会の機関紙Kidney Newsの人気コーナー、Detective Nephronにも取り上げられた)から普通気づくと思うかもしれない。しかしそれも、「そういう眼でみれば」の話である(写真は、「後医は名医」を意味する英語のことわざ)。







2019/07/02

遠位RTAの謎

 遠位RTA(ベーシックな内容はこちらも参照)の謎、それは「遠位RTAで低カリウム血症になるのはなぜか?」である(ACKD 2018 25 303)。

 …と言われても、謎と思わない方も多いかもしれない(筆者もそうだった)。遠位尿細管で酸を排泄するA型介在細胞には、内腔側にH+-ATPaseだけでなく、H+を排泄する交換にK+を再吸収するH+/K+-ATPaseもついている(図はJCI 2013 123 4139)。




 もしH+/K+ATPaseが異常なら、H+が排泄できずK+が吸収されないはずだ。じっさい、H+/K+ATPaseを阻害するバナジン酸(VO4 3-)を投与すると、低カリウム血症と代謝性アシドーシスになる(Am J Physiol 1992 262 F449)。とても単純な話だ。

 しかし問題なのは、遠位RTA患者にH+/K+-ATPase遺伝子の異常が1例も報告されていてないことだ(小児患者で、腸管のH+/K+-ATPase活性が低下していた例はあるが、Arch Dis Child 2001 84 504)。

 遠位RTA患者に多いのはH+-ATPaseの遺伝子異常であり、ここから話を始めなくてはならない。そこでATP6V1B1遺伝子(H+-ATPaseのB1サブユニット)欠損マウスをモデルに実験した(JCI 2013 123 4219)ところ、いくつかの驚くべきことがわかった。

 まず、A型介在細胞だけでなく、主細胞やB型介在細胞にも変化がみられた。主細胞ではENaC活性が抑制され、B型介在細胞ではPendrin(Cl-再吸収/HCO3-排泄)とNDCBE(Na+・HCO3-再吸収/Cl-排泄、図は図はJCI 2013 123 4139)の活性が抑制されていたのだ。




 さらに、主細胞のENaC活性低下は、B型介在細胞が集合管内腔に分泌するPGE2によるパラクラインな機序で説明できることが分かった。PGE2が内腔側から各チャネルの働きを調節していることは以前から知られていたが(こちらも参照)、集合管の細胞どうしの相互作用が、今後いっそう解明されていくと思われる。

 それはそうと、低カリウム血症はどうなったか?

 同実験ではカリウムチャネルの分布も調べており、そのひとつであるBKチャネルが増加していた。BKチャネルは尿の流れに依存してカリウムを排泄するので、皮質集合管でNa+・Cl-の再吸収が減る(AQP2発現も低下する)ことで尿の流れが増えた結果と考えられる。

 さらに、主細胞にあるROMKチャネルは、ENaC活性の減る皮質集合管では増えていなかったが、下流の髄質集合管で増えていた。髄質集合管では(おそらく届くNa+の増加を反映して)ENaCも活性化していたので、その影響と思われる。


 なお、遠位RTAのなかでも、アンホテリシンBなど尿細管細胞の傷害による場合は、低カリウム血症の機序もダメージをうけた尿細管からのカリウム喪失(leak)でよいかもしれない。

 しかし、アンホテリシンBと同様に低カリウム血症と代謝性アシドーシスをきたすトルエン中毒の場合は、尿細管に漏れやすい傷害は起こらない。この場合の機序は不詳だが、馬尿酸代謝にともなう変化ではないかと言われている。


 
 遠位ネフロン研究は、近位ネフロンにくらべると歴史が古い。それで「もうこれ以上、この部分に効く利尿薬もできないでしょ…」とか、「論文が難解すぎる!」といった気持ちから、着いていくのを諦めそうになることも正直ある。

 しかし、学ぶのをやめているうちに、いつかこの分野の研究が想像もつかない(AKI、CKD、腎移植、尿路感染症などすらも越えた)ところにたどり着いているかもしれないから、できるだけついて行きたい(写真は、サウジアラビアで工事再開が待たれる、予定では高さ1008メートルのジッダ・タワー)。







2018/06/14

CaSR組曲 6

6. 集合管
 
 集合管の介在細胞、主細胞それぞれにCaSRはある。集合管はヘンレのループが生み出した浸透圧勾配を利用して最終的に尿を濃縮する場所だ(下図は著者が2013年に米国の腎臓内科で発表した腎生理レクチャ『ADHと水』スライドより)。




 そもそも髄質の深いところは、濃縮によってカルシウムが結晶しやすい(これをRandall's plaqueと呼ぶことは以前にもふれた、写真はJCI 2003 111 607より)。





 だから、そんな集合管でのCaSRの働きは「いかに石を作らせないか」で考えると分かりやすい。

 まず介在細胞では、内腔側で高Ca尿を感知したCaSRが、H+-ATPaseを刺激して尿のacidificationを促進する。カルシウムリン酸結石は尿pHがたかいほど析出しやすいので、これは理にかなっている。カルシウム再吸収チャネルTRPV5をノックアウトして尿中カルシウム濃度を増やしても、H+-ATPaseが働いて尿pHをさげるので石はできない。

 しかし、TRPV5だけでなく集合管にあるH+-ATPaseのB1サブユニット(ここが異常だと遠位RTAになる、こちらを参照)もノックアウトすると、尿pH低下という防御機構が働かないので腎臓が石化(nephrocalcinosis)して生きられない(JASN 2009 20 1705)。

 つづいて主細胞では、CaSRはなんとAQP2と共発現している。AQP2はAVPの支配下にあって水再吸収をふやす(図もおなじレクチャで取り上げたもの、Eur J Physiol 2012 464 133より)。




 CaSRは高Ca尿を内腔で感知して、上記支配に拮抗してAQP2を細胞内に引っ込める。その仕組みには、AQP2セリン残基(256番目)リン酸化の抑制が関与しているとされる(J Cell Sci 2015 128 2350)が、詳しいことはまだ分かっていない。

 AQP2とCaSRが共発現しているというのは、少し立ち止まって考えていいことかもしれない。AVP-V2R-AQP2というのは陸上生活に不可欠な軸だ。そのことは、軸が機能しない時(尿崩症)を考えてみればよく分かるだろう。水は貴重だ(写真はカリフォルニア州・デスバレー国立公園)。




 また、バソプレシンに似たペプチド(プロトタイプの名前を取ってバソトシン・スーパーファミリーとよばれる)は種を越えて保存されており、進化に大きく関与しているとされる。オキシトシンもその一種だが、オキシトシンがなければ哺乳類も生まれなかったかもしれない。

 そんな生命の根源にあたる軸に拮抗するCaSRには、CaSRなりの大事な役割があるのだろう。

 陸上の体液保持に不可欠といえども、尿濃縮の仕組みには結晶・析出のリスクが常に付いてまわる。しかし、腎臓が石になっては元も子もないので、それを防ぐ仕組みがどうしても必要だったのではないか(写真はメドゥサ退治のためアテナからペルセウスに与えられ、退治後はそのメドゥサの頭をつけさらに最強の盾となった、イージス)。




・おわりに
 
 ここまで、「組曲」の体裁をとってCaSRとネフロンについて概述してみた(おもな参考文献は、Oxford Textbook Clinical Nephrology、Nat Rev Nephrol 2016 12 414)。基礎医学的な内容ではあるが、臨床的な話を理解する助けにもなれば幸いである。

 たとえば、「結石患者にCaSR(Curr Opin Nephrol Hypertens 2012 21 355)やクローディン14(Nat Genet 2009 41 926)の遺伝子多型が多い」とか。

 あるいは、「CaSR遺伝子がないとTALでのCa2+再吸収が抑制されず、低カルシウム尿症になる(JCI 1983 72 667)」とか(これと、PTHによるCa2+再吸収に抑制がかからないことが、少なくともCaSR遺伝子異常によるFHHの本態とされる)。
  

 それにしても、ネフロンは面白い。次は、どんな「組曲」を書こうかな?




 [2019年4月追加]日本人の結石患者におこなったGWAS結果が、JASNにでた(doi.org/10.1681/ASN.2018090942)。BioBank Japanのビッグ・データを使って、「minor allele frequencyが0.01以上」、「Hardy Weinberg Equilibriumが10のマイナス6乗以上」、「call rate が0.99以上」など未知の方法論で検索すると、17個の有意な遺伝子多型がみられた(Pが5×10のマイナス8乗未満という)。

 乗っている染色体、遺伝子とその主な機能をあわせて表にすると:




 筆者にはCaSRが出てこないのが意外だったが、CKDのGWASでもお馴染みのUMODが出てくるのは納得(こちらも参照)だった。

 なお上記で「?」とあるように、Regulator of G protein signaling 14、Indolethylamine N-methyltransferase、Family with Sequence Similarity 128 member B(論文には188とあるがOMIMには128しかない・・誤植だろうか)、Diacylglycerol Kinaseといった遺伝子に乗っている多型の作用は、いまだ分かっていない。

 結石と言えば「カルシウム・リン・PTH」や「中性脂肪・尿酸・肥満」にかかわる異常が背景にあることは、なんとなく分かっている。今やそれが遺伝子多型でわかるんだから、まさにprecision medicineといえる。

 今後、こういう論文がどんどん増えて、疾患の機序解明や治療につながることが期待される。いっぽう、こうした多型の有無を調べるだけなら、市販のキットで安価かつ簡単にできるようになる。好むと好まざるに関わらず、外来患者に「私はrs6975977多型があるらしいのですが、どうしたらいいですか?」といわれても対応できなければならない。
 

2017/07/10

素敵な論文との出会い

 尿検査項目でまず見るのはなにか。ERで研修医をしていたころは、まず白血球エステラーゼと亜硝酸塩で尿路感染症かを見たものだ。あるいは、ケトンをみてケトアシドーシスか見る(Ketostix®でないとβOH酪酸は測れないが)かもしれない。ほかにも潜血、蛋白、糖、比重などそれぞれ情報がおおいけれど、尿pHについてはどうだろう。

 尿pHは、RTA結石で問題になるけれど、注目度はあまり高くないかもしれない。しかし、クロード・ベルナール先生が恒常性をみつけたきっかけはウサギが「酸を食べれば尿に酸を捨て、アルカリを食べればアルカリを捨てる」観察だし、食事の酸負荷が腎にあたえる影響という「裏テーマ」は最近腎臓内科で注目をあつめてもいる。

 さらにこのテーマは、糖尿病領域でも注目されている。フランスのE3N-EPICコホートで高いPRALとNEAPが糖尿病発症のリスクだと示され(Diabetologia 2014 57 313)、日本のコホートでも若い男性についてのみ示された(J Nutr 2016 146 1076)。糖質だけでなく酸も独立した糖尿病リスク因子のようで、RAA系とか、(バルドキソロンがターゲットにする)Nrf2とか、いろいろ機序が推察されている。

 …という文脈で、この論文(Diabetes Res Clin Pract 2017 130 9)に出会った。ニュースになっているから知っている人も多いかもしれない。京都の先生が出しておられるが、NAGALAという岐阜のNAFLD(非アルコール性脂肪肝;酒は飲んでいてもいいらしい)コホート男性、平均40歳代の約3000人を5年フォローしたものだ(写真は長良川)。




 で、個人的に「いいね(英語はLike、図)」と思ったのは、酸負荷の指標に尿pHを用いたことだ。




 食事の酸負荷を尿で調べるとき、24時間油壺に蓄尿したりアンモニア濃度を測ったりするのは手間だ。食事内容の詳細なアンケートをとる方法もあるが、これも手間だし正確かわからない。いい方法はないかな?と誰もが思う。尿AGもひとつだが、素直に尿のpHで代用したら?というストレートな発想がグッドデザイン(図)と思う。



 結果、尿pHが5.0の群は、5.5、6.0、6.5以上の群のくらべて糖尿病の発症率がたかかった(統計的なパワーは測られていないが、有意差あり)。尿pHが低い群は、高い群にくらべて尿酸値がたかく、BMIがたかく、高脂血症がたかく、飲酒量がおおかった。言い換えると肉食でメタボな感じだが、これらを考慮して多変量解析しても、有意差がでた。

 なお、eGFRが60ml/min/1.73m2未満は除外され、内服薬のない人を対象にしているので、CKDや利尿薬・RAA系阻害薬など酸塩基平衡に影響する要素はあまり考えなくてよさそうだ。血中のHCO3-を測っていないことは筆者も認めている。

 しかし、そもそもこの論文の趣旨は、尿pHのように健診でやるような基本的な項目から糖尿病という大事な危険を予測できるかもしれないということにあると思う。ときに半定量的で不正確なマーカーと切ってしまうこともある尿pHだが、そう言わずに調べてみたらちゃんと結果がでた。腎臓内科医としては少し反省し、謙虚な拍手を送りたい。

 次の方向は、3つだろうか。ひとつは尿pHが酸負荷のよいマーカーかを検証すること。さらに、もうひとつは酸負荷が糖尿病を起こす仕組み(あるいは、尿pH低下そのものが糖尿病を起こすのかもしれないが…それは、腎臓内科の仕事かもしれない)。さいごに、尿pHをほかのこと(とくに腎予後)についても調べて結果が出るか。

 楽しみなことをいろいろ考えさせてくれる、素敵な論文に出会えた。







2017/05/07

腎移植レシピエントとHCO3濃度

 腎移植患者さんと代謝性アシドーシスといえば、移植時点のグラフト機能(献腎か生体腎か)、カルシニューリン阻害薬(4RTAの原因となる)、そして高血圧や糖尿病や原疾患などによるCKDの進行などが関係していそうで、おそらく代謝性アシドーシスのあるレシピエントはそうでないレシピエントに比べてグラフト予後や生命予後がわるい気がする。これを調べた韓国のグループによる論文が昨年出た(doi:10.1681/ASN.2016070793)。

 結果を見ると移植3ヵ月後のポイントTCO2、時間ごと追ったtime-varying TCO2いずれも、低い群で正常群にくらべグラフト予後が有意にわるく、生命予後はtime-varying TCO2が低い群で正常群より有意にわるかった。前段の交絡因子(eGFR、合併症、ドナーのタイプ、タクロリムスかシクロスポリンかなど;タクロリムス群のほうがシクロスポリン群よりTCO2が低かった)などを補正しても、有意だった。



 なお、これらの施設(ソウル大学病院、ソウル大学Boramaeメディカルセンター、ソウル峨山病院)ではTCO2が22mEq/l以下の群の約10%に重曹を使っている。

 個人的にこの論文は、韓国の移植事情が見え隠れして興味深かった。生体腎が約7割、ABO不適合が約5%、レシピエントの男女比が約6:4、PEKTが約10%、など。ABO不適合が少ないのはKPDの影響だろうか(以前かいたが、最初におこなったのは韓国だ)。


Paragraph Break Symbol


 ここまで腎におけるHCO3回収、酸排泄とアンモニア輸送のしくみ、スチュワート法のエッセンス、高Cl輸液とSIDアシドーシス、酸負荷・酸産生・酸排泄を計算する歴史やそれにもとづいたCKDアシドーシスの診療、重曹の使い方、血液透析患者さんの血中・透析液HCO3濃度と移植患者さんの代謝性アシドーシスについて最近の論文をレビューしてみた。

 知らないことがたくさんあったし、調べるほどわからないことは増えるけど、こういう機会があるとまた新しい知見が網にひっかかり少しずつ深めていくことも出来るからありがたい。酸塩基平衡はさまざまな患者さんのさまざまなシチュエーション、さらに人間だけでなく動物・自然界までも支配する普遍的名法則だから、いろいろ飽きない。

 ほら、いま日本の温室で見ごろのこの花がなぜこんなに鮮やかかだって、色素とpHで決まる(Biochemical Systematics and Ecology 2010 38 630)のだから。花の名前は、ヒスイカズラ。






 [2017年6月追加]オンラインで先行した上記論文に紙が追いついて(JASN 2017 28 1886)、エディトリアルも手にはいった(JASN 2017 28 1672)。このエディトリアル論文の注目度を示すAltmetricsのAttention Scoreは115で、トップ5%の注目度らしい。なかでもわたしの注目は、タクロリムスとシクロスポリンがアシドーシスを起こす仕組みに違いがあることだった。

 シクロスポリンは、ペプチジルプロリルcic-transイソメラーゼ活性をもつシクロフィリンをブロックしてβ介在細胞(β、すなわちbaseを捨てる)からα介在細胞(alpha、すなわちacidを捨てる)への変身を妨げる(Am J Physiol 2005 288 F40)。それに対してタクロリムスはNHE3、アニオン交換体(AE1)、Na/HCO3共輸送体(NBCn1)などの発現を減らす(Am J Physiol 2009 297 F499)。いままでカルシニューリンインヒビターはRAA系をレニンのところでブロックする(図はNEJM 2004 351 585より)と教わってきたが、もう少し複雑みたいだ。


 実際、冒頭のスタディでもシクロスポリンよりもタクロリムスで有意にアシドーシスが多かった。CNI-sparingレジメンのベラタセプトがシクロスポリンに優れていたBENEFIT-EXTスタディ(Am J Transplant 2016 16 3192)の結果も、このような差を考慮しなければならないのかもしれない。


2013/06/17

Distal RTA

 Wake Forest大学から先生がやってきて講演した。この先生は私の尊敬する今は亡き恩師とUT Southwesternでフェローした腎臓生理学のもう一人の巨人で、ふたりは若い頃一緒に論文も出している(JCI 1979 64 1277)。体液過剰時の集合管によるCl-排泄にprostaglandinが関与しているという刺激的な内容だ。神が授けた互いに拮抗するRAAS系とprostaglandin/kallikrein系のうち、まだ謎の多い後者の作用の一つとして興味深い。

 前置きはさておき、講演は遠位RTAについてだった。不揮発酸摂取は1mEq/kg/dayといわれているが、これは米国食文化がsupersizingを迎える前の研究結果なので、高カロリー高タンパクの今はこれよりずっと多いかもしれない。この先生はtype 1 RTAをclassical(最初に見つかったから)、type 4 RTAをgeneralized distal RTAと呼んでいたが、私も「どちらも遠位では?」と思っていたので納得した。

 Classical distal RTAはtype A intercalated cellの異常によって酸排泄が出来ない。先天的には内腔側にあるH+-ATPaseのサブユニット(B1、A4;前者は難聴を合併する)、基底側にあるAE1(Cl-/HCO3- exchanger)、細胞質にあるCAIIの異常などが知られている。後天的な原因で有名なSjogren症候群ではH+-ATPaseが細胞質に閉じ込められて酸排泄が出来ない([2015年5月追加]CAIIに対する自己抗体も見つかっている、Am J Med 2005 118 181)。Amphotericin Bは、細胞膜に孔をあけてH+のback leakを起こすらしい。

 Classical distal RTAは酸が骨や筋肉(バッファー)を弱くし、先天性なら伸長障害、後天性でも骨粗しょう症などを起こし全身に影響が及ぶ。さらに骨から流れてきたCa2+が腎で結晶しnephrocalcinosisやnephrolithiasisを合併する。しかし、アルカリさえ飲み続ければ治療できる!Classical distal RTAの子供でHCO3-レベルを正常に保ったら、背が伸びた(JCI 1978 61 509)。先生は「Classical distal RTAは治すのに最もお金が掛からない病気だ」といっていた。

[2019年5月24日追記]上述の恩師とは故・John B. Stokes先生、Wake Forestから来たのはThomas D. DuBose Jr.先生。そして昨日、KSN 2019のレセプションで声を掛けたのも、たまたま遠位RTAの第一人者、NorthwesternのDaniel Batlle(「バティエ」のように発音する)先生だった。

 彼にDuBose先生の「もっとも安い病気」発言を紹介したところ、"Well・・・"と留保して、「治療があることと、治療を続けることは違う」という答えが返ってきた。アルカリは苦くてかさばり、子供はもちろん大人でも、続けるのは並大抵の容易さではないと。

 そして今日、彼の講演のなかで、こんな写真が提示された(NEJM 2008 359 e1)。




 上記症例は当時37歳の男性で、9歳に遠位RTAと診断されたが15歳で中断していたという。この時はCr 3mg/dlで、論文には「アルカリ治療で腎機能は安定している」とあるが、実際は10年あまりで透析になったそうだ(遠位RTAで腎機能低下が進行するのは稀)。

 Batlle先生が留保した時も、この症例が頭に浮かんだのかもしれない。やはり疾患は、診ていないとイメージがつかみにくい。直接診られれば一番だが、稀な疾患は、たくさん診ている人から話を聴くことも大切だ。

 筆者は正直、Batlle先生が第一人者だとは少しも知らずに声を掛けた。そうさせる親しみ深い雰囲気をお持ちだったのもあるが、KSNが交流を重視しており、人と人との距離が近かった。

 あるいは、これもまた縁なのだろうか?



 

2011/09/10

RTAふたたび

 回診で、例の教え上手な先生が尿細管性アシドーシス(RTA)、遠位RTAと近位RTAのことを説明した。しかしRTAは難解なので、さすがの先生でも「なぜそうなるのか」をすべて明らかにして解説するのは大変げだったが。彼の説明を復習して、自分で教えるときのための糧にしよう。

 彼はまず、アメリカの一般的な食事では酸を1mEq/kg/dayくらい摂取するというところから始めた(主なsourceは肉)。身体が酸性にならないように、腎臓ではH+を遠位尿細管の介在細胞から捨てている。遠位尿細管でNa+が再吸収されることによるnegative driving forceが、代わりにK+とH+を捨てさせる仕組みだ。

 それに対してHCO3-は、腎臓でほとんど捨てられることはなく、近位尿細管で90-95%、わずかな残りを遠位尿細管で再吸収している。腎臓がHCO3-を捨てるのは、体内にHCO3-が充満している時([HCO3-]が24以上の時)で、この時には尿pHがアルカリ性になる。しかしこれは例外的で、尿pHがアルカリ性になるのは他に、urea-splitting organism(proteus, saprophyticus, some E. coli)、それにRTAくらいしかない。ただし近位RTAでは血中から運ばれてくるHCO3-の量によって尿pHは変わる。アシドーシスが進むと[HCO3-]が下がるので少ししか尿中にHCO3-が来ず、それらの幾分かは遠位尿細管で再吸収されるので尿pHは下がる。

 尿中に捨てられたH+は、そのままでいることはなくNH3バッファーと結合してほとんどNH4+になる。だから遠位尿細管で酸排泄が出来ているかどうかは、尿中NH4+を調べれば分かる。おなじnon-AG metabolic acidosisでも、酸排泄が出来ない場合には尿NH4+は低下するし、腎外でHCO3-を喪失している場合には腎は代償的に酸を排泄しているはずだ。

 しかし尿NH4+は簡単には計測できないので、代わりに尿anion gap(UNa+UK-UCl)を用いる。これはanion gapというが要は尿中のunmeasured anion - unmeasured cationを計算している。尿HCO3-がないのは、前述のようにHCO3-はほとんど再吸収され尿中には無視できるほどしか残らないからだ。NH4+はcationだから、これが多ければ尿anion gapはマイナスとなり、少なければプラスとなる。ちなみにHCO3-はanionだから、これが多くてもプラスになる。と言うわけで全てのRTAで尿RTAはプラスになるはずだ。

 ただし尿anion gapが使えない場合が二つある。ひとつは尿Naが低値(less than 20mEq/l)の場合で、distal sodium deliveryがないのでnegative driving forceが起こらずH+も排泄できない。二つ目はunmeasured acidがある場合で、たとえばhippuric acid(トルエン中毒)やketoacidosisなどではこれらがunmeasured anionなので尿anion gapが使えない。この時には尿osmolar gapによって尿NH4+を推定する。

 近位RTAでは尿管結石が見られないのに対して遠位RTAではみられる理由も習った。RTAに限らず、アシドーシスがあると近位尿細管でのanion再吸収が亢進し、bicarbonateのみならずcitrateも再吸収される。尿中のcitrateは尿中Ca++が石を作らない様にbufferしているので、これがなくなると石ができやすくなる。ところが近位RTAではcitrateの再吸収が起きないため石ができない。

 遠位RTAでも前述の理由(citrateが再吸収される)により石が出来やすいが、普通の石(calcium oxalate)ではなくcalcium phosphate stoneができる。それは尿pHがアルカリ性になるからだ。calcium phosphate stoneができるのは他に、hyperparathyroiismなどがある。PTHはphosphateをどんどん尿に捨てるホルモンだし、骨からCa++を遊離させて血中からどんどん尿にCa++を運んでくるし、Vitamin Dを25-OHから1,25-OHにして腸管からのCaとPの吸収を促進するからだ。

 他にも、なぜ近位RTAはbicarbonateに不応で遠位RTAはbicarbonateに反応するかとか、いろいろ習ったがこれくらいにしておこう。RTAは深淵なテーマなのでこれからも何度もrevisitすることになりそうだ。いろいろ読んでいろいろ聞いて、自分なりの説明ができるようになれば良いと思う。そして、経験を積んで自信を持って教えたり診療したりできるようになりたい。

2011/02/08

RTA

 Noon lectureで腎臓内科医がRTAの話をした。彼女はうちの病院では珍しいHarvard graduateで、教育熱心で有名な先生なのだが、RTAは何と言っても複雑で、聴いている人はほとんど寝ているか苦笑するかしていた。私も正直難解と思ったが、聴きながら非常に面白い物の見方が得られた。さらに、理解を助ける三つのポイントも学んだ。
 面白い物の見方とは、アシドーシスのプロセスを尿細管細胞側(外側)からではなく、尿細管内腔(内側)に視点を置いて観察するということだ。糸球体を透過して濾し出された多くの溶質達が、あたかもシティマラソンのように一斉に内腔を走り出し、途中で「じゃあこれで」と消えていったり(再吸収)、途中から「やあどうも」と参加してきたり(排泄)するイメージ。
 それを踏まえて、三つのポイントについて。一つは、NAE(net acid excretion)という概念だ。
      
NAE = NH4 + titratable acid - HCO3

 腎臓が排出する酸はこの三つにより決定される。遠位RTAは前者二つの異常、近位RTAはHCO3再吸収の異常。NH4イオンは、尿アニオンギャップまたは尿浸透圧ギャップにより推定できる。titratable acidは、尿pHに反映される(NH4についたプロトンは固くアンモニアに結びついて離れず、尿中プロトンのほとんどは滴定酸由来なため)。

 二つ目は、aldosteroneの作用だ。遠位尿細管の詳しいレセプターはさておき、基本的にこのホルモンのおかげで遠位尿細管でNa吸収が起こり、結果生じるluminal negative driving force(尿細管内腔が陰性にチャージされ、それにより陽イオンを引き込もうとする力)によりプロトンとKが排泄されるというイメージが頭に入った。これによりType 4 RTAの機序、それにType 4 RTAが高K血症をきたすことが容易に説明できる。

 三つ目は、HCO3 is a non-reabsorbable anion in distal tubuleという概念だ。あたかも高速道路のように、近位尿細管というexitを逃すとHCO3はそのまま再吸収されずに走りつづけるしかない。その結果、電気的中性を保つためNaを(Kも)遠位尿細管まで引き連れることになり、前述のaldosteroneの作用によりここでNa再吸収とK排泄が起こる。これが近位RTAが低K血症をおこす理由だ。