2017/05/07

腎移植レシピエントとHCO3濃度

 腎移植患者さんと代謝性アシドーシスといえば、移植時点のグラフト機能(献腎か生体腎か)、カルシニューリン阻害薬(4RTAの原因となる)、そして高血圧や糖尿病や原疾患などによるCKDの進行などが関係していそうで、おそらく代謝性アシドーシスのあるレシピエントはそうでないレシピエントに比べてグラフト予後や生命予後がわるい気がする。これを調べた韓国のグループによる論文が昨年出た(doi:10.1681/ASN.2016070793)。

 結果を見ると移植3ヵ月後のポイントTCO2、時間ごと追ったtime-varying TCO2いずれも、低い群で正常群にくらべグラフト予後が有意にわるく、生命予後はtime-varying TCO2が低い群で正常群より有意にわるかった。前段の交絡因子(eGFR、合併症、ドナーのタイプ、タクロリムスかシクロスポリンかなど;タクロリムス群のほうがシクロスポリン群よりTCO2が低かった)などを補正しても、有意だった。



 なお、これらの施設(ソウル大学病院、ソウル大学Boramaeメディカルセンター、ソウル峨山病院)ではTCO2が22mEq/l以下の群の約10%に重曹を使っている。

 個人的にこの論文は、韓国の移植事情が見え隠れして興味深かった。生体腎が約7割、ABO不適合が約5%、レシピエントの男女比が約6:4、PEKTが約10%、など。ABO不適合が少ないのはKPDの影響だろうか(以前かいたが、最初におこなったのは韓国だ)。


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 ここまで腎におけるHCO3回収、酸排泄とアンモニア輸送のしくみ、スチュワート法のエッセンス、高Cl輸液とSIDアシドーシス、酸負荷・酸産生・酸排泄を計算する歴史やそれにもとづいたCKDアシドーシスの診療、重曹の使い方、血液透析患者さんの血中・透析液HCO3濃度と移植患者さんの代謝性アシドーシスについて最近の論文をレビューしてみた。

 知らないことがたくさんあったし、調べるほどわからないことは増えるけど、こういう機会があるとまた新しい知見が網にひっかかり少しずつ深めていくことも出来るからありがたい。酸塩基平衡はさまざまな患者さんのさまざまなシチュエーション、さらに人間だけでなく動物・自然界までも支配する普遍的名法則だから、いろいろ飽きない。

 ほら、いま日本の温室で見ごろのこの花がなぜこんなに鮮やかかだって、色素とpHで決まる(Biochemical Systematics and Ecology 2010 38 630)のだから。花の名前は、ヒスイカズラ。






 [2017年6月追加]オンラインで先行した上記論文に紙が追いついて(JASN 2017 28 1886)、エディトリアルも手にはいった(JASN 2017 28 1672)。このエディトリアル論文の注目度を示すAltmetricsのAttention Scoreは115で、トップ5%の注目度らしい。なかでもわたしの注目は、タクロリムスとシクロスポリンがアシドーシスを起こす仕組みに違いがあることだった。

 シクロスポリンは、ペプチジルプロリルcic-transイソメラーゼ活性をもつシクロフィリンをブロックしてβ介在細胞(β、すなわちbaseを捨てる)からα介在細胞(alpha、すなわちacidを捨てる)への変身を妨げる(Am J Physiol 2005 288 F40)。それに対してタクロリムスはNHE3、アニオン交換体(AE1)、Na/HCO3共輸送体(NBCn1)などの発現を減らす(Am J Physiol 2009 297 F499)。いままでカルシニューリンインヒビターはRAA系をレニンのところでブロックする(図はNEJM 2004 351 585より)と教わってきたが、もう少し複雑みたいだ。


 実際、冒頭のスタディでもシクロスポリンよりもタクロリムスで有意にアシドーシスが多かった。CNI-sparingレジメンのベラタセプトがシクロスポリンに優れていたBENEFIT-EXTスタディ(Am J Transplant 2016 16 3192)の結果も、このような差を考慮しなければならないのかもしれない。