2017/05/04

アシドーシスの裏テーマ 4(治療)

 酸負荷がおおく酸排泄がすくなければ酸がたまる。ならば酸負荷のすくない食事をとってはどうか?と考えるのは、まあ理にかなっている。みてきたように酸はタンパクに、アルカリは野菜と果物におおいので、ひとつはタンパクを減らすこと、もうひとつは野菜や果物を増やすことだ。

 たんぱく制限はMDRDスタディの頃から長い歴史があって、最近VLPD(very-low protein diet) がふたたび注目されていることは以前書いたが、たんぱく制限は以前からおこなわれてきたし、最近プロテイン消耗(PEW)の問題がわかってきたこともありなかなか難しい。

 いっぽうの野菜と果物を多く摂るほうはどうか。以前にも書いたが、酸負荷を50%に減らすように計算して野菜と果物を貧しい高血圧性CKD患者さんにただで配るテキサスのGoyara先生らのグループがCKD1-2、3、4それぞれについての「3部作」を発表した(KI 2012 81 86、CJASN 2013 8 371、KI 2014 86 1031)。野菜と果物を摂ると重曹と同様に酸負荷がへり腎障害マーカーがへり腎機能低下が抑えられ、カリウムは増えなかった。
 
 これを受けて、「新しい腎臓病食」をつくろう、という論説を海外雑誌でたくさんみかける。タイトルも「お皿になにを盛ればいい?」(AJKD 2017 69 436)、「食事の酸負荷をへらすには」(J Ren Nutrition、doi:10.1053/j.jrn.2016.11.006)、「食の西洋化・産業化と腎臓病」(AJKD、doi:10.1053/j.ajkd.2016.11.012、こんな口絵まで)、「CKD患者さんの食事、見直すべき?」(BMC Nephrology 2016 17 80)など刺激的だ。


 
 もっともすべての野菜と果物がアルカリなわけでもすべてのたんぱく質が酸なわけでもない。上に書いたようにタンパク不足にはPEWの心配もある。ほかにも塩分にリンに、考えることはたくさんあるから、総合的に考えるには栄養師さんとの協力が不可欠だ。これらの動きでCKD患者さんの利益になればいいと思う。たとえば、透析があまり普及していない東ネパールで政府とISNがコラボして、減塩と野菜摂取励行などによりCKD進行を予防する試みも行われている(Lancet Global Health 2014 2 e506、写真はDharan Hill Station)。



 ここまで「裏テーマ」と題して酸負荷・酸排泄・食事療法についてみてきた。「裏」としたのは、現行ガイドラインがHCO3に基づく重曹補充が中心だからだ。しかしこの「表テーマ」にも、わかっていないことがおおい。つづく。