2月14日はバレンタインデー。では3月14日は?もちろん世界腎臓デー(World Kidney Day、WKD)だ。八年目にあたる今年のテーマは皆が大好きな急性腎障害だ。ひょっとして、レデジントノートとその増刊が三月に出す特集記事もそれに合わせているのかな。
関連記事(KI doi:10.1038/ki.2012.427)を読んで驚いたのは、世界規模で急性腎障害を見ると、地域によって疫学に大きな隔たりがあることだ。発展途上国は、都市部では先進国に近い(敗血症、周術期低血圧、ACEI、NSAIDs、PPI、抗生物質、造影剤、他)パターンだ。
しかし地方にいけば様相が異なる。下痢(水の不衛生)、septic abortion、ヘビ毒、natural medicine、leptospirosis、その他の害虫…。インドの友人達は口をそろえて「始めて診た急性透析患者はヘビ毒による腎障害だった」「ICUの半分はヘビ毒、もう半分はleptospirosisだった」などという。
いずれにせよ言えるのは、AKIは予防できるということだ。先進国の問題は、体液減少や血圧低下時の薬剤調節や造影剤前の輸液など簡単なステップでAKIを防げるかもしれない。途上国にしても、ヘビ毒の抗血清を普及させる、衛生状態を改善させるなど(お金はかかるが)予防は可能だ。
クマさんがおしっこしないで冬眠できるのも、じん臓が一日に体液の何十倍もろ過してから不要なものを残して再吸収するのも、じん臓の替わりをしてくれる治療があるのも、すごいことです。でも一番のキセキは、こうして腎臓内科をつうじてみなさまとお会いできたこと。その感謝の気持ちをもって、日々の学びを共有できればと思います。投稿・追記など、Xアカウント(@Kiseki_jinzo)でもアナウンスしています。
2013/02/17
2013/01/15
ヘビと腎臓内科
そういえば今年は巳年。インド出身の研修医が、インドではヘビ毒による溶血、横紋筋融解、ショックなどで腎障害になる例があとを絶たないと教えてくれた。調べると、インドで年間3万人がヘビに咬まれて死亡しているという(Ann Trop Med Public Health 2012 5 335)。
北米の毒ヘビについてはNEJMのレビュー(NEJM 2002 347 347)があって、Viperidae(クサリヘビ科)、Elapidae(コブラ科)、Hydrophidae(ウミヘビ科)などの分類、毒ヘビとそうでないヘビの見分け方などが書かれていた。日本にいるマムシもハブもクサリヘビ科だ。
腎不全のリスク因子はCK高値、抗毒素血清投与の遅れ、子供など。ブラジルのスタディ(KI 2005 67 659)によれば、100例のヘビ(Crotalus durissus)咬傷のうち29%がGFR60ml/min以下の急性腎障害、そのうち24%が透析を要し10%が死亡した。
そんな怖い動物ヘビだが、沖縄ではなんと毒ヘビ入り泡盛というのが売っているらしい(エラブウミヘビを漬けたものはイラブー酒という)。アルコールはヘビ毒よりも強いのか…?
北米の毒ヘビについてはNEJMのレビュー(NEJM 2002 347 347)があって、Viperidae(クサリヘビ科)、Elapidae(コブラ科)、Hydrophidae(ウミヘビ科)などの分類、毒ヘビとそうでないヘビの見分け方などが書かれていた。日本にいるマムシもハブもクサリヘビ科だ。
腎不全のリスク因子はCK高値、抗毒素血清投与の遅れ、子供など。ブラジルのスタディ(KI 2005 67 659)によれば、100例のヘビ(Crotalus durissus)咬傷のうち29%がGFR60ml/min以下の急性腎障害、そのうち24%が透析を要し10%が死亡した。
そんな怖い動物ヘビだが、沖縄ではなんと毒ヘビ入り泡盛というのが売っているらしい(エラブウミヘビを漬けたものはイラブー酒という)。アルコールはヘビ毒よりも強いのか…?
2011/12/29
Geographic nephrology
さきほどのBEN(Balkan endemic nephrology)の話をしていたとき、ボスが"geographic nephrology"という造語を使った。そしてKorean hemorrhagic fever(いまはHFRS、hemorrhagic fever with renal syndromeという)の話になった。これは朝鮮戦争時代に兵士が次々にかかった病気で、臨津江(イムジンガン、임진강)の支流漢灘江(ハンタンガン、한탄강)から名づけられたハンタウイルスによる。
ハンタウイルスにも何種類かある(JASN 2005 16 3669)。アメリカのものは主に呼吸器症状を呈し、4-corner area(New Mexico、Arizona、Colorado、Utahといった南西部諸州)に多い。HFRSは主にScandinavia諸国、Balkan諸国、Koreaで報告されている。原因は不明だが、血管内皮細胞障害が主因と考えられている。
ハンタウイルスにも何種類かある(JASN 2005 16 3669)。アメリカのものは主に呼吸器症状を呈し、4-corner area(New Mexico、Arizona、Colorado、Utahといった南西部諸州)に多い。HFRSは主にScandinavia諸国、Balkan諸国、Koreaで報告されている。原因は不明だが、血管内皮細胞障害が主因と考えられている。
Balkan endemic nephrology
旧ユーゴスラビア移民で血尿(dysmorphic RBCs、negative cystoscopy)とタンパク尿(Upro/Ucr 0.9)、それにCKDのある患者さんを診察して「どうも腎外症状に乏しいし、よくわからないから一通り検査して腎生検かなあ」と思いつつボスに相談したら、まず「どこの街出身か聞いてこい」という。そして戻ってくると彼がパソコンにインターネットで調べたユーゴスラビアの地図(Kidney Int Suppl 1991 34 S9–S11からの転載)を広げ、「これは何だ」という。
何のことやらサッパリ分からずいると、この地図はBalkan Endemic Nephropathyのendemic areaを示したものだという。主に、ドナウ河の支流Sava河に沿って点在している。彼は患者さんの出自を聞いてすぐさまこの疾患を思い浮かべたらしい。もっとも、血尿はあまりみられない(urothelial tumorがあれば別だが)し、proteinuriaの程度もちょっと多いし、IgA腎症など他の疾患かもしれない。腎生検をすることになったので、結果を待つことにしよう。典型的にはtubular atrophy、severe fibrosis、それにatypiaがみられるらしい。
雑誌のエディトリアル(KI 2006 69 644)とUpToDateによれば、病因はいまだによく分かっていない。environmental factorとgenetic factorが考えられている。前者ではochratoxin A(真菌の毒素、穀物を地中で冬季保存するためか?)、aristolochic acid(Chinese herb nephropathyの主因)などが有力視されている。後者では3q24-26あたりの遺伝子異常、それにp53異常が見つかったりしている。endemicな村に長らく住んでいても罹らない人がいたり、家族歴があっても村に長くいなければ発症しなかったりするので未だに真相は謎だ。
何のことやらサッパリ分からずいると、この地図はBalkan Endemic Nephropathyのendemic areaを示したものだという。主に、ドナウ河の支流Sava河に沿って点在している。彼は患者さんの出自を聞いてすぐさまこの疾患を思い浮かべたらしい。もっとも、血尿はあまりみられない(urothelial tumorがあれば別だが)し、proteinuriaの程度もちょっと多いし、IgA腎症など他の疾患かもしれない。腎生検をすることになったので、結果を待つことにしよう。典型的にはtubular atrophy、severe fibrosis、それにatypiaがみられるらしい。
雑誌のエディトリアル(KI 2006 69 644)とUpToDateによれば、病因はいまだによく分かっていない。environmental factorとgenetic factorが考えられている。前者ではochratoxin A(真菌の毒素、穀物を地中で冬季保存するためか?)、aristolochic acid(Chinese herb nephropathyの主因)などが有力視されている。後者では3q24-26あたりの遺伝子異常、それにp53異常が見つかったりしている。endemicな村に長らく住んでいても罹らない人がいたり、家族歴があっても村に長くいなければ発症しなかったりするので未だに真相は謎だ。
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