2021/05/05

腎臓病患者における悪性腫瘍スクリーニング

 ある透析患者の回診で、透析歴3年のAさん(50歳)のところで。

自分「Aさん、元気ですか?体調の変わりはないですか?」

Aさん「色々な問題が発生しました。転移性の乳がんが見つかってしまって。」

Aさんは体重減少と食欲低下があり、それの原因検索で疾患が見つかった。


このような経験は、腎臓内科医や透析回診する医師ではきっとある。ただ、その一方で腎臓が悪い人に対しての悪性腫瘍のスクリーニングはどうすればいいのだろうと悩むことも多いのではないか?

一般の人の悪性腫瘍スクリーニングはUSPSTF(U.S. Preventive Services Task Force)のを参考にしていただきたい。また、日本語で2015年のものであるが、J Hospitalistのものでまとめていただいている。ここにおいては、やはり定期的に健康診断を受けることが本当に重要であると考える。

では、腎臓病の人に関してはどうか?

まずは、透析患者からみていこうと思う。これに関しては、2020年のAJKDのまとめがおすすめである。また、日腎会誌2017でも特集されているので参考にしていただきたい。

健常者の場合、本邦では40歳〜90歳において死因の第一位が悪性腫瘍になっている。

透析患者の場合には死因の原因では、心不全・感染症が多く、第3位に悪性腫瘍となっている。悪性腫瘍の割合としては、全死亡の1割ではあるが、予期できる死亡を避けるということは重要である。

ここから、少し小見出しで検討していく。

・透析患者では悪性腫瘍の発生率は何が多いのだろうか?

これに関しては、さまざまな報告がある。

本邦の報告では、消化器癌に関しては、肝臓癌の発生率が一番高く、大腸癌、胃がんがそれに次ぐ。また、腎臓癌の発生率も多く、ACD(Acquired cystic disease)関連のものは有名である。

下表にAJKDの報告をまとめた。やはり、各悪性腫瘍は頻度が増加していることがわかる。


・透析患者はなぜ悪性腫瘍の発生率が高くなるのか?
明確にはわかっていないが、次のものが言われている。
慢性炎症に伴うもの、悪性腫瘍の成長抑制や認識の低下、ヒトパピローマウイルスやB型肝炎、C型肝炎などの癌発生に寄与するウイルスの影響を受けやすいことが原因としてあげられる。
また、先にも述べたACDが腎細胞癌の発生のリスクになっている。

・悪性腫瘍は透析導入後、いつが起こりやすいのか?
これは、各国でさまざまな検討がされている。本邦では消化器癌に関しての報告があり、導入後1年未満が高く、6年目以降には減少することが報告されている。本邦の報告では1年以内が多いが、海外では3-4年での発生が多い報告もある。
これを踏まえても、導入後5年以内はスクリーニングにアンテナをしっかりとはっておくことは
重要であると考える。

・透析患者において、スクリーニング検査で注意することは?
やはり、悪性腫瘍のスクリーニングには検査が必要になってくる。その検査も、通常とは異なるということを把握しておく必要性がある。
下記に表で示している。検査にかなり偽陽性が多いことにも留意する必要がある。



・では、どのようなスクリーニングをしていけばいいのか?
 基本的には下表の流れになるかと思う。下述はするが、まず寿命が10年以上あること、移植候補者、スクリーニングの推奨に合致するものが対象になってくるということは念頭におく必要がある。



スクリーニングを行う際の根底としては
1:生命予後を推定する 
 これに関しては、Choosing wiselyでも生命予後の限られた症状などない人に対しての闇雲なスクリーニングは推奨していない。
2:悪性腫瘍が患者さんに与えうるリスクを推定する
3:スクリーニングをすることの利益・リスクを考える
4:患者さんの価値観や好みに関連する利点や欠点に重きを行なって検討する
5:患者が移植を行うことが可能かどうかを検討する


先の症例を振り返ってみると、透析を開始して5年以内、移植の適応もあり。また、50歳以上ではあり乳癌スクリーニングは2年毎のスクリーニングが推奨されている。

この症例では、それが行えていたのであろうか?

我々の明日からの診療にもぜひ役立ててもらえればと思う。