先日、米国の血液透析患者の炎症性貧血に対して抗IL-6ヒトモノクローナル抗体のジルチベキマブの効果を調べた第1/2相試験が米国腎臓内科学会誌に発表された(doi:10.1681/ASN.2020050595)。
IL-6といえば「急性期反応」を引き起こす重要なサイトカインであり、わが国で発見されていち早く抗IL-6Rヒト化モノクローナル抗体・トシリズマブが開発されたことでも知られている(現在は抗IL-6Rヒトモノクローナル抗体・サリルマブもある)。
急性期反応には有名な「C反応蛋白(CRP)」だけでなくヘプシジンなども含まれ、IL-6は炎症性貧血に重要な役割を果たす。実際に、トシリズマブやサリルマブでリウマチ患者の貧血が改善するのはその道では常識だった。
ジルチベキマブはIL-6の受容体ではなくリガンドに対する抗体で、AstraZeneca傘下のMedImmuneとWuXi AppTecの合弁ベンチャーにより抗リウマチ薬として開発された。しかし現在では、Novo Norvisk傘下のCorvidiaにより腎領域で治験されている。
筆者が知る限り治験は2つあり、1つはCKD3-5患者を対象に月1回7.5、15、30mg皮下注してCRPやproNT-BNPなどの低下を調べる1/2相治験RESCUE(NCT03926117)。そしてもう1つが上述の治験だ。
1. 治験の概要
対象はESA抵抗性指数(エリスロポエチン[U/kg]とHgb[g/dl]の比)が8以上の貧血ある成人の血液透析患者。それに加えて、①IL-6値が4pg/ml以上、②TMPRSS6(別名マトリプロテアーゼ2)のrs855791多型も条件だった。
TMPRSS6は膜たんぱく質で、肝細胞表面でヘモジュベリンを分解している。ヘモジュベリンが分解されると、ヘプシジン遺伝子HAMPをONにするBMP複合体が作られない。ヘプシジンが抑制されるとフェロポーチンが細胞表面によく出るので、鉄の輸送・利用がされやすくなる。
(Haematologica 2009 94 840より) |
上記の多型があると、TMPRSS6のIL-6に対する反応が高まるのだという(Corvidia内部データ)。そこで、とくにIL-6阻害によるヘプシジン抑制・貧血改善効果が見込めるということでこの多型が治験参加の条件になっている。
実際の患者は61人。4群に分かれて、それぞれプラセボ・2・6・20mgの透析時静注を14日ごと12週間受けた。ただし、人数が少ないためか群ごとの患者背景には違いがあり、介入群で女性・黒人・人工血管グラフトの比率が高かった。また、高感度CRPも0.4・0.6・0.9・1.3mg/dlと、用量の多い群ほど高かった。
2. 結果
10-12週後に、hsCRPは有意低下、ヘモグロビンは約1g/dl上昇(有意差つかず)、ESA抵抗指数は有意低下(6・20mg群はp<0.05、用量反応についてのP-DR<0.01)。ヘプシジンは4週後には低下傾向(p=0.08)も、鉄用量変更が可能になった12週後にはまちまちだった。
JASNより引用 (*はプラセボとp<0.05、†はP-DR<0.01) |
安全性はというと、皮下注射ではないので局所反応はなかった。しかし、34週までの観察期間までふくめると、6mg群と20mg群でそれぞれ2人の患者が死亡していた(敗血症、突然死)。治療との関連はないとされ、死亡率は米国統計であるUSRDSデータの平均よりも低かった。
3. 感想
ペニシリン発見者フレミング卿の師であるライト卿は、「将来の医者とは、免疫者のことになるだろう」とよく語っていたという(アンドレ・モロワ『フレミングの生涯』より、邦訳は1959年)」。炎症は感染症や膠原病に限った病態ではなく、本来はすべての医者が扱うべきテーマなのだろう。
1/2相で、無関係とはいえ死亡例もあった本治験がこうして発表された背景にも、炎症に「うまいこと」効く薬の開発を応援する意図があると思いたい(あのHIF-PH阻害薬も、炎症そのものは改善しないそうである)。
また、IL-6は新型コロナウイルスにおいても病態に大きく関与しているといわれ、この経路をさまざまに阻害してサイトカイン・ストームを緩和できないか検討されているのは周知の通りだ(doi:10.1016/j.cytox.2020.100029)。
(こちらより引用) |
IL-6にはじつは抗炎症作用もあるなど、免疫は複雑だ(Medical Hypotheses 2020 144 110053の著者らは、COVID感染へのIL-6阻害には否定的のようだ)。しかし、フレミングがペニシリンの発見に至ったように、努力していればいつかは何かにうまく使える薬ができるはず。筆者は、そう信じたい。