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2020/08/31

もうひとつの低カルシウム尿性高カルシウム血症

 乾癬、喘息、類天疱瘡、自己免疫性膵炎などの既往ある66歳女性。類天疱瘡に対して経口ステロイドを開始後に(MMFの追加・増量とともに)漸減・中止したところ、高カルシウム血症となった。以下に、データを示す。

Ca 13.4mg/dl
iCa 1.77mmol/l
IP 2.1mg/dl
iPTH 128pg/ml
1,25(OH)2・25(OH)VitD 基準範囲内
蓄尿Ca 19mg/d
Ca/Crクリアランス比 0.004

 Q:診断は(症例はNEJM 2004 351 362より)?


 高カルシウム血症にかかわらずiPTHが抑制されていないが、尿中のカルシウム排泄がとても少ない。原発性副甲状腺機能亢進症では、多くの場合Ca/Crクリアランス比が0.02以上となる(ビタミンD欠乏の合併例はその限りではないが、本例では除外されている)。副甲状腺腫もみられなかった。

 いわゆる「低カルシウム尿性高カルシウム血症(hypocalciuric hypercalcemia、HH)」であるが、家族性(FHH)だろうか?


(引用元はこちら


 FHHには1型(CASR遺伝子)、2型(G蛋白α11サブユニットをコードするGNA11遺伝子)、3型(アダプター関連蛋白複合体2のσ1サブユニットをコードするAP2S1遺伝子)が知られているが、いずれも常染色体顕性遺伝であり、世代間の浸透度も高い(日内会誌 2007 96 681も参照)。


(Best Pract Res Clin Endocrinol Metab 2018 32 609より)


 孤発例もありえるが、そもそも本例は以前に血清カルシウム濃度が正常であったことが確認されている。となると、後天性(AHH)も考えなければならない。さらに、自己免疫疾患の病歴、ステロイド中止後の発症(じっさいは、再発)も考えると・・。


 A:抗CaSR抗体によるAHH


 本例では、CaSRを発現させたHEK細胞に患者血清を添加するなどして、IgG4サブクラスの抗CaSRポリクローナル抗体(CaSRの細胞外ドメインに結合)の存在が証明された。ステロイド量と抗CaSR抗体価・血清Ca値に相関がみられ、ステロイドの再開でコントロールされたという。

 AHHでは、抗CaSR抗体によりCaSRのスイッチが入りにくくなる(PTHの抑制が起きにくくなる)。ただし、どの経路を阻害するか(Gq蛋白によるイノシトールトリスリン酸の蓄積、Gi蛋白によるERK1/2のリン酸化)は、抗体の種類によって異なるようだ。

 本例や、抗グリアジン抗体・抗甲状腺抗体陽性例(J Clin Endocrinol Metab 2003 88 60)、抗核抗体・抗RNP抗体陽性例(J Clin Endocrinol Metab 2011 96 672)などの「いかにも」な症例だけでなく、高血圧だけの症例(PNAS 2007 104 5443)も報告されており、注意が必要だ。


 AHHはおろかFHHの理解すら「ふんわり」の筆者であるが、じつはAHHは日本内科学会雑誌の「今月の症例」に取り上げられている(日内会誌 2014 103 1180;なお前掲PNAS論文も日本からの報告)。「セルフトレーニング」に取り上げられる日も近い?・・かもしれない。



(引用元はこちら


2020/03/19

高カルシウム血症の新たな鑑別

 38歳男性。20歳代から尿路結石の既往あり、ESWL・経皮的切石術をうけたが両腎に結石が残存(石の成分は100%リン酸カルシウム)。血液・尿検査は以下であった。

iCa 1.35mmol/l
iPTH 3pg/ml
Cr 1.3mg/dl
25(OH)VitD3 40ng/ml
1,25(OH)2VitD3 100pg/ml

 尿pHは6.0、尿中Ca排泄量は400mg/d、尿中シュウ酸・クエン酸・リン排泄量は基準値内であった。 


Q:診断は(CJASN 2013 8 649をもとに作成)?


 本例の高カルシウム血症は軽度(およそ10.8mg/dl、こちらも参照)であるが、結石患者でもあり、カルシウム代謝に関わる何らかの異常を示すサインと受け止めたい。そのうえ高カルシウム尿症(300mg/d~、こちらも参照)を伴っているのだから、なおさらだ。

 なぜカルシウムが高いのか?iPTHが「適切に」抑制されており原発性副甲状腺機能亢進症は除外される。しかし、25(OH)VitD3が基準値範囲内なのに対して1,25(OH)2VitD3値が高い(60pg/mlまでを基準値としている施設が多いようだ)。

 1,25(OH)2VitD3は、下図のようにCYP27B1遺伝子にコードされた1α-水酸化酵素によって25(OH)VitD3から作られる。





 この酵素遺伝子は主に近位尿細管で発現しているが、1,25(OH)2VitD3が上昇する腎疾患はないか、あっても稀だ(Dent病など、こちらも参照)。それよりも考えたいのはサルコイドーシスなどの肉芽腫疾患だが(マクロファージにも発現しているので)、本例では検索され否定的だった。だとすると・・?


 A:CYP24A1遺伝子の変異


 じつは上図には続きがあって、下図のように25(OH)VitD3と1,25(OH)2VitD3はCYP24A1遺伝子のコードする水酸化酵素によって不活性化される。




 CYP24A1遺伝子に異常があると1,25(OH)2VitD3が分解されないので、たまる(25のほうは、他にも不活性化する酵素があるので、あまりたまらないとされている)。

 診断の手がかりは:

尿路結石や腎石灰化
骨密度も低い
高カルシウム血症・高カルシウム尿症
PTHが低い
正常程度の25(OH)VitD3
1,25(OH)2VitD3が高い

 など。こうした例で肉芽腫を除外後にVitD3の分解産物である24,25(OH)2VitD濃度を測定して低値を示し、CYP24A1遺伝子異常の同定に至る流れが多いようだ。

 治療として、通常の結石予防に加えて、P450代謝酵素であるCYP24A1の抑制を意図したケトコナゾール(J Clin Endocrinol Metab 2012 97 E423)・フルコナゾール(Clin Kidney J 2015 8 453)が試され、長期内服の安全性が検証されている。

 最初の報告は2011年に幼児症例だったが(NEJM 2011 365 410)、成人症例の報告も相次ぎ、異常SNPの頻度は4-20%とも言われる(CJASN 2013 8 649)。そのためか、最近は米国腎臓学会のフォーラムなどでも鑑別に挙がるようになってきた。




 まだ米国も含めて24,25(OH)2VitDが測定できる施設は限られているが、原理的には1,25(OH)2VitDと同様に測定できるはず。今後、結石・高カルシウム血症の鑑別として知名度が上がってゆけばより身近な検査になるかもしれない。

 



2018/06/14

CaSR組曲 6

6. 集合管
 
 集合管の介在細胞、主細胞それぞれにCaSRはある。集合管はヘンレのループが生み出した浸透圧勾配を利用して最終的に尿を濃縮する場所だ(下図は著者が2013年に米国の腎臓内科で発表した腎生理レクチャ『ADHと水』スライドより)。




 そもそも髄質の深いところは、濃縮によってカルシウムが結晶しやすい(これをRandall's plaqueと呼ぶことは以前にもふれた、写真はJCI 2003 111 607より)。





 だから、そんな集合管でのCaSRの働きは「いかに石を作らせないか」で考えると分かりやすい。

 まず介在細胞では、内腔側で高Ca尿を感知したCaSRが、H+-ATPaseを刺激して尿のacidificationを促進する。カルシウムリン酸結石は尿pHがたかいほど析出しやすいので、これは理にかなっている。カルシウム再吸収チャネルTRPV5をノックアウトして尿中カルシウム濃度を増やしても、H+-ATPaseが働いて尿pHをさげるので石はできない。

 しかし、TRPV5だけでなく集合管にあるH+-ATPaseのB1サブユニット(ここが異常だと遠位RTAになる、こちらを参照)もノックアウトすると、尿pH低下という防御機構が働かないので腎臓が石化(nephrocalcinosis)して生きられない(JASN 2009 20 1705)。

 つづいて主細胞では、CaSRはなんとAQP2と共発現している。AQP2はAVPの支配下にあって水再吸収をふやす(図もおなじレクチャで取り上げたもの、Eur J Physiol 2012 464 133より)。




 CaSRは高Ca尿を内腔で感知して、上記支配に拮抗してAQP2を細胞内に引っ込める。その仕組みには、AQP2セリン残基(256番目)リン酸化の抑制が関与しているとされる(J Cell Sci 2015 128 2350)が、詳しいことはまだ分かっていない。

 AQP2とCaSRが共発現しているというのは、少し立ち止まって考えていいことかもしれない。AVP-V2R-AQP2というのは陸上生活に不可欠な軸だ。そのことは、軸が機能しない時(尿崩症)を考えてみればよく分かるだろう。水は貴重だ(写真はカリフォルニア州・デスバレー国立公園)。




 また、バソプレシンに似たペプチド(プロトタイプの名前を取ってバソトシン・スーパーファミリーとよばれる)は種を越えて保存されており、進化に大きく関与しているとされる。オキシトシンもその一種だが、オキシトシンがなければ哺乳類も生まれなかったかもしれない。

 そんな生命の根源にあたる軸に拮抗するCaSRには、CaSRなりの大事な役割があるのだろう。

 陸上の体液保持に不可欠といえども、尿濃縮の仕組みには結晶・析出のリスクが常に付いてまわる。しかし、腎臓が石になっては元も子もないので、それを防ぐ仕組みがどうしても必要だったのではないか(写真はメドゥサ退治のためアテナからペルセウスに与えられ、退治後はそのメドゥサの頭をつけさらに最強の盾となった、イージス)。




・おわりに
 
 ここまで、「組曲」の体裁をとってCaSRとネフロンについて概述してみた(おもな参考文献は、Oxford Textbook Clinical Nephrology、Nat Rev Nephrol 2016 12 414)。基礎医学的な内容ではあるが、臨床的な話を理解する助けにもなれば幸いである。

 たとえば、「結石患者にCaSR(Curr Opin Nephrol Hypertens 2012 21 355)やクローディン14(Nat Genet 2009 41 926)の遺伝子多型が多い」とか。

 あるいは、「CaSR遺伝子がないとTALでのCa2+再吸収が抑制されず、低カルシウム尿症になる(JCI 1983 72 667)」とか(これと、PTHによるCa2+再吸収に抑制がかからないことが、少なくともCaSR遺伝子異常によるFHHの本態とされる)。
  

 それにしても、ネフロンは面白い。次は、どんな「組曲」を書こうかな?




 [2019年4月追加]日本人の結石患者におこなったGWAS結果が、JASNにでた(doi.org/10.1681/ASN.2018090942)。BioBank Japanのビッグ・データを使って、「minor allele frequencyが0.01以上」、「Hardy Weinberg Equilibriumが10のマイナス6乗以上」、「call rate が0.99以上」など未知の方法論で検索すると、17個の有意な遺伝子多型がみられた(Pが5×10のマイナス8乗未満という)。

 乗っている染色体、遺伝子とその主な機能をあわせて表にすると:




 筆者にはCaSRが出てこないのが意外だったが、CKDのGWASでもお馴染みのUMODが出てくるのは納得(こちらも参照)だった。

 なお上記で「?」とあるように、Regulator of G protein signaling 14、Indolethylamine N-methyltransferase、Family with Sequence Similarity 128 member B(論文には188とあるがOMIMには128しかない・・誤植だろうか)、Diacylglycerol Kinaseといった遺伝子に乗っている多型の作用は、いまだ分かっていない。

 結石と言えば「カルシウム・リン・PTH」や「中性脂肪・尿酸・肥満」にかかわる異常が背景にあることは、なんとなく分かっている。今やそれが遺伝子多型でわかるんだから、まさにprecision medicineといえる。

 今後、こういう論文がどんどん増えて、疾患の機序解明や治療につながることが期待される。いっぽう、こうした多型の有無を調べるだけなら、市販のキットで安価かつ簡単にできるようになる。好むと好まざるに関わらず、外来患者に「私はrs6975977多型があるらしいのですが、どうしたらいいですか?」といわれても対応できなければならない。
 

2018/06/12

CaSR組曲 1-3

1. 糸球体

 存在自体に諸説あったものの、いまでは糸球体にCaSRがあることは確実視されており、足細胞とメサンギウム細胞でさまざまな病態に関わっていることが示唆されている。足細胞のCaSRをCaSRアナログで刺激すると糸球体ダメージが起こりにくくなる(Kidney Int 2011 80 483)。

 いっぽうメサンギウム細胞のCaSRを刺激すると、糸球体傷害がおこる。その機序にはGqタンパクによる細胞内カルシウム移動、TRPC3やTRPC6が開くことによる細胞外からのカルシウム流入が考えられている(JCI 2015 125 1913)。

 なおTRPCという名前は、最近の和雑誌にTRPC5が紹介された(日腎会誌 2018 60 526)こともあり、聞いたことがある人も多いかもしれない。TRPC5は細胞膜にあるRhoキナーゼRac1のシグナルを受けて足細胞破壊を起こす(ネフローゼとなる)。

 電解質が糸球体疾患にも関与しているなんて、面白い。まさに、「すべての道は、電解質に通ず」だ(写真はローマ皇帝シーザー、Caesar)。





2. 傍糸球体装置

 傍糸球体装置(JG)、T-Gフィードバックといわれても生理学の最初に学んだきり忘れているかもしれない(図はTGIF、Thank God it's Friday)。




 目的論的にはGFRや体液量を維持する仕組みだ。具体的には糸球体でろ過された原尿の量や濃度を尿細管のマクラデンサが感知して、JG細胞によるレニン分泌を調節している。

 カルシウムとレニン分泌については、「カルシウム・パラドクス」という現象が知られている(Am J Physiol Renal Physiol. 2010 298 F1)。これは、多くの分泌細胞でカルシウム濃度の上昇は分泌を促進するのに対して、JG細胞のレニン分泌はカルシウム濃度の上昇でむしろ抑制されることを指す。

 CaSR刺激によるGqタンパク活性化、カルシウム支配下にあるアデニル酸シクラーゼADCY5、ADCY6によるcAMPプールの抑制などはわかっているが、どうしてカルシウムがレニンを抑制するのかは分かっていない。高カルシウム(CaSR刺激)が一般に尿細管内の結晶化を防ぐことを考えると、RAA系を抑制して尿細管再吸収を減らしたいのかもしれない。 

3. 近位尿細管

 近位尿細管のCaSRは、内腔側にある(Oxfordの教科書はsubapicalと書いているが)。現在わかっている働きとしては、PTHによるリン利尿の抑制、ビタミンD活性化の抑制、NHE3による酸排泄とNa再吸収の促進がある。

 PTHはリンとナトリウムを再吸収するNPT2a、2cを抑制してリン排泄を促進しているが、CaSRはそれに拮抗する。といっても、両方が相殺するように働いては調節できないので、高リン摂取時などリンを排泄したいときにはPTHが勝ってCaSRは抑制される。

 ビタミンD活性化(近位尿細管での1α水酸化)を抑制するのは、活性化ビタミンDによってカルシウム再吸収が増えてほしくない高カルシウム血症時を考えれば納得されるだろう。また、CaSRとPTHをダブル・ノックアウトしたマウスの実験からは、CaSRは活性化ビタミンDの作用そのものまで減弱させることが示されている(Am J Physiol Renal Physiol 2009 297 F720)。

 なお、CaSRは内腔カルシウム濃度を感知しているが、濃度上昇の刺激によって活性化されるのはカルシウムチャネルではない。近位尿細管でカルシウムは受動的に細胞の脇をすり抜けるように打ち上げられるからだ(写真は波に打ち上げられた椰子の実)。




 そして、その波にあたるのがNHE3刺激によるナトリウム再吸収といえる。その結果、近位尿細管ではカルシウム再吸収が促進されることになるが、最終的なカルシウムの出納は以遠ネフロンで調節される。

 なお、NHE3はナトリウム再吸収と引き換えにH+(じっさいはNH4+とも)を放出するが、それは結果的に近位尿細管での大量のHCO3-再吸収(reclamation)の元になる。この辺のくだりは以前にもまとめたが、体液と酸塩基平衡の維持にCaSRが関わっているとは(実はPTHも関わっている;CaSRと拮抗的に)!話は一層面白くなる。

 後編へつづく(図は2006年のピクサー映画、Cars)。





2018/01/28

カルシフィラキシス or CUAについて考える。 治療について

CUAだと分かった時に治療としてはどのような手があるか?


現時点でCUAに対する適切な治療に関しては分かっていない。ただ、これから示す治療で一つの治療よりも治療を組み合わせた方が良かったという事は分かっている。
アルゴリズムとしては下記のものがある。
Up To Dateより引用


1:チオ硫酸ナトリウム:デトキソール注射液
静脈投与が治療では最も使用される。
・透析患者の場合:透析の最後に100mlの生理食塩水に25g溶いて使用(30-60分以上かけて投与)。60kg未満の症例では治療の量を12.5gとする。


・腹膜透析患者:週3回で100mlの生理食塩水に25g溶いて使用(30-60分以上かけて投与)。60kg未満の症例では治療の量を12.5gとする。


・非透析患者:eGFRの値によって変更する。
eGFR>60mL/min/1.73m2 : 25gを週3-5回投与する
eGFR<60mL/min/1.73m2 : 初期量は12.5gで開始して、徐々に増量はするが25gで週3回は超えないように投与する。


治療期間:明確な決まりはないが、3カ月の静脈投与での治療期間が一つは推奨されている。疼痛の改善は2週間以内におこると言われている。


合併症:あまり使い慣れていないくすりだとやはりここが一番心配になる。
吐き気、嘔吐、代謝性アシドーシス、低血圧、低カルシウム血症、QT延長やvolume過多などが合併症としてはある。
とくに代謝性アシドーシスは重度である事が多く注意が必要である。


2:しっかりとした傷の管理;
傷のデブリードメン:これに関してはむやみにやる事で、その部位からの感染の波及のリスクがあるため、適応を判断して行う事が重要である。


3:しっかりとした疼痛管理;
麻薬をもちいた疼痛管理がしばしば行われる。


4:リン、カルシウム、PTHのコントロール
リン吸着薬などはCa非含有のものを用いる。
PTHが高い症例ではシナカルセルトの使用を考慮する。


5:透析処方:
適切な透析ができるような透析を組む。


6:薬剤の中止:
ワーファリンや活性VitD製剤やカルシウム製剤や鉄剤は中止できればする。


上記治療に反応しない場合のCUA
1:高圧酸素治療:


2:ビスフォスフォネート投与
パミドロネートを30mgで週3回投与。VitD活性を押さえ治療効果


3:その他:
VitK投与、t-PA、マゴット治療など


予後:
致死率も非常に高い。
特に感染症の合併で亡くなる症例が非常におおいため、感染の管理には気を付ける必要がある。


今回、CUAの話しを行いまずは透析患者であれば通常の透析管理が非常に重要であり、また非透析患者の場合は必要のない薬物の使用はさけることが重要であると認識した。



2018/01/27

カルシフィラキシス or CUAについて考える 病態と全体像

カルシフィラキシスという言葉はあまり聞く機会も見る機会も少ないと思う。


ただ、カルシフィラキシスは患者さんの死亡率が50%以上という報告もあり、しっかりと認知・治療にあたることは非常に重要である。


言葉:
CalciphylaxisよりCalcific uremic arteriolopathy (CUA) のほうがESRD(末期腎不全)の人の病態を正確に示している。


病態:
正確な部分は不明な所が多いが、全身の血管や軟部組織の石灰化によって生じると考えられている。ただ、血液透析患者などは石灰化が強い症例が全例CUAをおこさないため、他の要因があると考えられる(リスクファクター参照)。


中等度の動脈の石灰化→血管内皮障害の進行→血管の狭窄や過凝固→組織壊死


となる。


リスクファクター:
・透析期間>6~7年
・女性
・肥満(BMI>30)
・糖尿病
・高リン血症
・高カルシウム血症
・高PTH血症
・低アルブミン血症
・薬剤:ワーファリン、カルシウム含有リン吸着薬、活性型ビタミンD製剤、鉄剤投与、全身のステロイド投与


★しかし、ESRDがなくてもカルシフィラキシスは生じる。
下記の図で示したように原発性副甲状腺亢進症や悪性腫瘍での割合は高い。
また、表にはないがカルシフィラキシスを発症した60%の患者でステロイド投与歴があり、25%にワーファリン投与歴がある。
なので、ESRDがなくても薬剤暴露(ステロイド、ワーファリン)や下表の疾患の患者の皮膚病変をみたら鑑別に上げる事は重要である!
CJASN 2008より
どのような所見か?:
皮膚病変は一言で言うと疼痛をともなった虚血性壊死である。
先程の病態にあったように虚血に伴って生じるので、治りづらい。
Am J Kid Dise 2015より
病理に関して:
下図のように一つの特徴は血管の石灰化である。
もうひとつは間質のカルシウム沈着が特徴である。
Am J Kid Dise 2015より
採血検査は何かわかる?:
特異的な採血検査項目に関してはない。PTHが高かったり、リンが高かったりなどの原因の推定には繋がる可能性がある。


★診断:
疼痛病変で非潰瘍性の病変があればCUAを疑う
→Ca×PやPTHの濃度を見て病変の悪化に直結する変化がないかを見る
→病変の皮膚生検は推奨(しかし、感染の併発をしている場合などは感染の助長をしてしまうため行われない場合も多い)
※ここで上記のように生検をせずに治療をする場合があるが、CUAににて違う疾患のこともある!なので生検はなるべくしたほうがいい(下表のような疾患を見逃す可能性も)。
表:カルシフィラキシスの鑑別
Am J Kid Dise 2015より
日本の診断基準もあるのでのせる。
病理はもちろん必須ではないが、やったほうがいいのではないかということがわかる。




好発部位:
下肢が最多であり、腹部や乳房や陰部などにも生じる。


まずは、カルシフィラキシス or CUAについて全体的に触れた。


次は治療について触れたい。

写真はカルシフィラキシスを提唱したProffessor Selye





2017/04/11

腎結石はライフスタイルや食事に影響する?(Dietary and Lifestyle Risk Factors Associated with Incident Kidney Stones in Men and Women)

今回の話題は腎結石についての話題である。
腎結石に関しては以前の記事を参考にしていただきたい。

いくつかの食事や生活習慣の因子が腎結石産生のリスク上昇の危険があることが知られている。
今回の論文はBMI、飲水摂取、DASH食、カルシウム摂取、糖分の多い飲料のリスク因子をPAF(population attribute fraction)、NNTP(number needed to prevent)で見ている。

データはHPFS(Health Professionals Follow-up Study)、NHS(Nurses Health Studies)から使用している。

192126人の患者で、6449人が腎結石が発症した。
HPFS,NHSⅠ,NHSⅡのデータで見ている。
PAFは糖分の多い飲料の4.4%から飲水摂取低下の26%まで分かれている。
10年以上のNNTPが飲水摂取低下の67からカルシウム摂取低下の556まで分かれている。

今回のものでは上記のリスク因子を減らすことで、結石の予防は可能であることがわかる。

ちなみに、
BMIに関しては30以上は21-22.9に比べて30%-109%リスクが高くなる。
飲水摂取増加は結石発生率の低下を起こす(RCTで56%再発を防いだとされている。)
フルーツ摂取、野菜摂取、低脂肪食は結石発生率を45%低下させる。
適切なカルシウム摂取は女性で27-35%、男性で44%の結石発生を低下させる。
動物性脂肪食制限や塩分制限は結石再発を51%低下する。
また、SSB(soda and punch)の頻回な摂取は結石の発生率を30-40%上昇させる。

結石は色々な種類があり、まずは成分分析が重要であり、それに応じた対応をすることが重要である。


2013/07/04

やっぱカルシウムでしょ

 Milk-alkali syndromeは歴史があり(1915年にシカゴのBertram Welton Sippy医師が始めた胃潰瘍治療Sippy dietの副作用が最初)、病歴で臨床診断でき、病態生理が多臓器にわたる興味深い疾患だが、実は高カルシウム血症の原因として悪性腫瘍、副甲状腺機能亢進症に続き三番目に多いとは知らなかった(Clinical Endocrinology 2005 63 566)。これは透析患者さんを除外したランキングだ(透析患者さんはphosphate binders、activated vitamin D、透析液のHCO3-などにより高リスク群)。

 といっても、Sippy dietが復刻ブームになったわけではない。理由は一つにはカルシウム(とビタミンD)補充が盛んになったためである。ことにpost-menopausalや高齢の方ではカルシウムのnet fluxがout of boneなので、カルシウムを大量摂取しても骨がreservoirになりにくい。もう一つには、この病態生理が広まるにつれミルクとアルカリ以外の症例にも広く適応されるようになったからだ。

 たとえば妊娠中は、placental lactogenやprolactinなどの影響で腸管のカルシウム吸収が高まり、悪阻などvolume depletionでmetabolic alkalosisと尿中カルシウム排泄低下をきたすので、GERD症状にカルシウムを内服して高カルシウム血症になることがある(JGIM 2011 26 939)。Betel nuts chewing(檳榔子を石灰と混ぜキンマの葉で包んで噛む台湾以南の東南アジアとインド地域の嗜好品)による高カルシウム血症なんてのもある(Tzu Chi Med J 2005 17 265)。

 これらを総して、Milk-Alkaline syndromeをCalcium-Alkali syndromeと改称しようという人もいる(JASN 2010 21 1440、Proc Bayl Univ Med Cent 2013 26 179)。JASN articleのタイトルは"GOT Calcium? Welcome to the Calcium-Alkali Syndrome"で、これは米国牛乳普及キャンペーン"Got Milk?(日本で昔やってた「やっぱ牛乳でしょ」のような)"のパロディだ。

2012/11/15

Evidence-based management of hypercalcemia

 電解質第三弾、高Ca血症。高Ca血症は、悪性疾患などで患者さんの状態が元々良くないうえ、腎不全などをきたし、じつは予後不良だ。San Diego VAのretrospective studyでは約30%が悪性腫瘍によるものだった(Endocrine Practice 2006 12 535、この患者層はほとんどスモーカーだが)。台湾のERが行ったretrospective studyでは、高Ca血症患者の死亡率が23%だった(Am J Med Sci 2006 331 119)。意外な数字だが、副腎不全や結核患者も多かったようだ。

 悪性腫瘍による高Ca血症の原因は80%がHHM(PTHrPによる、とくに扁平上皮細胞由来の悪性腫瘍)、20%がosteolytic、1%以下が1,25-OH vitamin D上昇による(NEJM 2005 352 373)。PTHrPはtype1 PTH receptorに結合しPTHと同じく骨の脱石灰化を亢進し尿中のCa排泄を阻害する(JCI 1988 81 932)が、1,25-OH vitamin Dを抑制するのがPTHと反対だ(J Bone Miner Res 2005 20 1792)。

 治療はどうか?先月のCJASNにまとまったレビュー(CJASN 2012 7 1722)が出た。まずはカルシウムに毒されたTALと集合管を助ける。どちらもCaSRがあって、高Ca血症で前者ではNaClの再吸収が落ち、後者ではADHが不応になるから、補液でこれを解消する。生理食塩水が用いられるが、volume overloadと低Na血症に気を付ける必要がある。

 ループ利尿剤はどうか?生理食塩水との併用は(とくに腫瘍内科領域で)慣習だが、エビデンスは乏しい(Ann Int Med 2008 149 259)。というか、あるのはfurosemide単独使用の小規模スタディだけで、これは1120mg/dという高用量でも1/3の患者しかCaが正常化せず、多くは低Mg血症を発症した。生理食塩水との併用は、だから、奨めるデータも奨めないデータもない。少なくともvolume overload例には正当化できるだろう。 

 Bisphosphonateはどうか?効く、量に比例して効く(Am J Med 1993 95 297)、とくに強いpamidronate、zolendronate、ibandronateは(ibandronateはFDAが適応を認可していないが)。しかし腎毒性と腎機能低下時のdose adjustmentに留意が必要で、ASCOがガイドラインを出した(CJASN 2012 7 1722、表1)。腎毒性はcollapsing FSGS(とくにpamidronateに多い)、ATN(zolendronateに多い、不可逆的で透析導入になることも)、どちらも繰り返し投与した場合に起こりやすい。

 Calcitoninは?サケ(salmon)から作られるというのがユニークだが、まあ効かない、でも害もない。重症の高Ca血症でbisphosphonateと併用したら良かったというデータはある(BMJ 1986 292 1549)。[2015年5月追加]日本では即効性があるとして使われるようだが、推奨量が4単位/kgなのにたいして、日本の保険適応上限は80単位で足りないそうだ。なおBMJのスタディでは10単位を8時間ごと皮下注している。

 とまあここまでは知っている話で、ここからが新しかった。Gallium Nitrate(ガリウムは周期表の第13族、アルミニウムと同じ)は破骨細胞を止めるらしく、五日間連続静注でbisphosphonateより効くかもしれないというデータがある(Cancer J 2006 12 47)。ステロイドはリンパ腫による高Ca血症に用いられ、1α-hydroxylaseを阻害して1,25-OH vitamin Dを下げるという(NEJM 1992 326 1196)。

 抗PTHrP抗体(Clin Cancer Res 2005 11 4198、日本の研究)、抗RANKL抗体denosumab(Lancet 2011 377 4198)も開発された。RANKL(receptor activator of nuclear factor κB ligand)とはosteoblastがosteoclastに話しかけるシグナルの一つで、これを受けた破骨細胞は成熟し増殖し活性化する(逆のシグナルは以前ここでも紹介したosteoprotegerin)。Bisphoshonate不応の高Ca血症にdenosumabを試した報告(一例、Ann Int Med 2012 156 906)もでた。

2011/07/30

calciphylaxis

 腎疾患に関連した最も恐るべき皮膚疾患といえばNSF(Nephrogenic Systemic Fibrosis、ガドリニウム造影剤に関連した全身の線維化)だが、その次はcalciphylaxisだろう。どちらもcripplingで、かつ有効な治療法がない。透析患者さんにガドリニウムを避けるようになってからNSFはまず診ることはないが、きょうはcalciphylaxisかもしれないという症例にあった。

 Calciphylaxisとは全身のリン酸カルシウム結晶の沈着で、いうなれば全身が骨になる病気だ。とくに沈着するのは小血管内膜で、それゆえ皮膚や皮下脂肪に網状の皮疹や発赤、潰瘍などができる。透析患者さんに圧倒的に多い現象だが、腎疾患(PTH、血清リン値)がコントロールされていないと起こるというわけでもなく、原因はいまだ不明だ。ワーファリン内服と関係しているともいわれる。

 治療もまた決定的なものはなく、皮膚科、外科、腎臓内科などが一緒になって局所治療やCa、P、PTHをコントロールする。Sodium thiosulfateは、理論上不溶性のカルシウムを水溶性のCalcium thiosulfateに変えることで結晶沈着を抑えるはずだが、痛みなど症状を緩和したというわずかな報告があるだけでその有効性は未知数だ。

2011/07/23

塩の換算

 いまだに混乱するのが食塩とナトリウムの関係だ。食品の栄養成分表にはたいていナトリウムがmg表示で記されているが、私たちはたいてい体内のナトリウムをmEqで考え、食品の場合は食塩何gで考えるので、単位がバラバラだ。

 分かりやすい基準は、生理食塩水1Lに9gの食塩が入っており、それはNa 154mEq、Cl 154mEqだということだ。そして原子量の違いから、9グラムの食塩は約4グラムのNaと約5グラムのClからなる。これで換算できるはずだ。

 たとえば醤油大さじ1杯には940mgのNaが含まれている。これは940 x 9/4 = 約2グラムの食塩に相当し、2 x 154/9 = 約36mEqのNaとClに相当する。また生理食塩水を125ml/hで輔液した場合、一日に0.125 x 24 x 9 = 27グラムもの食塩を身体に入れることになる。


ポテトトングで塩分摂取


[2019年1月追記]カルシウムのmEq/l、mmol/l、mg/dlの変換も追加する。カルシウムの原子量は40、そしてイオンは2価イオンだ。だから計算しやすい10mg/dl(100mg/l)は、2.5mmol/l。そして1mmolのカルシウムは2mEq分荷電しているので、2.5mmol/lは5mEq/lになる。

 ただし、「イオン化カルシウム」は血中総カルシウムの約半分。実験では39.5%が蛋白結合、46.9%がイオン化し、13.6%がdiffusible calcium complexes(その間の、細胞膜などを透過できる状態)だった(JCI 1970 49 318)。それで、血中総Caが10mg/dlの患者さんでイオン化カルシウムだけをはかると、2.5の半分で1.25mmol/l程度になる。

 なお、血中カルシウムの一部が半透膜を透過しない(蛋白結合しているからだが)ことを1911年に初めて発表した論文(Biochem Z 1911 31 336)の第二著者、D. Takahashi博士は日本人と思われる。

 東大柏キャンパス図書館まで原著論文を閲覧しに行った筆者だが、「D」は原著にもイニシャルしか書かれていなかった・・。東京大学農芸化学科発酵学教室・第二代教授の高橋禎造博士のことかとも推察したが、確証はない。


頭文字Dを探して


[2020年6月4日追記]マグネシウムは原子量24、2価イオンであるから、1mmol/lは2mEq/l(2倍)、2.4mg/dl(24÷10の2.4倍)となる。したがって、SI単位系の血中Mg正常値である0.7-1.0mmol/lは、1.7-2.4mg/dlだ。

 また、混乱しやすい各種Mg製剤の単位も、いちど整理する。

 MgSO4・7水和物の分子量は約240。よって硫酸マグネシウム製剤1グラムには約4mmol(1000÷240)、8mEq(2倍)、100mg(24倍)のマグネシウムが含まれる。逆に、Mg20mEq含有のMgSO4製剤1アンプルは、2.5グラム(20÷8)に相当する。

 MgOの分子量は約40。よって酸化マグネシウム製剤1グラムには約25mmol、50mEq(2倍)、600mg(24倍)のマグネシウムが含まれる。ただし、剤形や腸の状態などによって吸収率に大きな差がでることに注意が必要だ(Nutrients 2019 11 1663)。

 ささいなことだが、単位を間違えると事故の元である。