2020/03/19

高カルシウム血症の新たな鑑別

 38歳男性。20歳代から尿路結石の既往あり、ESWL・経皮的切石術をうけたが両腎に結石が残存(石の成分は100%リン酸カルシウム)。血液・尿検査は以下であった。

iCa 1.35mmol/l
iPTH 3pg/ml
Cr 1.3mg/dl
25(OH)VitD3 40ng/ml
1,25(OH)2VitD3 100pg/ml

 尿pHは6.0、尿中Ca排泄量は400mg/d、尿中シュウ酸・クエン酸・リン排泄量は基準値内であった。 


Q:診断は(CJASN 2013 8 649をもとに作成)?


 本例の高カルシウム血症は軽度(およそ10.8mg/dl、こちらも参照)であるが、結石患者でもあり、カルシウム代謝に関わる何らかの異常を示すサインと受け止めたい。そのうえ高カルシウム尿症(300mg/d~、こちらも参照)を伴っているのだから、なおさらだ。

 なぜカルシウムが高いのか?iPTHが「適切に」抑制されており原発性副甲状腺機能亢進症は除外される。しかし、25(OH)VitD3が基準値範囲内なのに対して1,25(OH)2VitD3値が高い(60pg/mlまでを基準値としている施設が多いようだ)。

 1,25(OH)2VitD3は、下図のようにCYP27B1遺伝子にコードされた1α-水酸化酵素によって25(OH)VitD3から作られる。





 この酵素遺伝子は主に近位尿細管で発現しているが、1,25(OH)2VitD3が上昇する腎疾患はないか、あっても稀だ(Dent病など、こちらも参照)。それよりも考えたいのはサルコイドーシスなどの肉芽腫疾患だが(マクロファージにも発現しているので)、本例では検索され否定的だった。だとすると・・?


 A:CYP24A1遺伝子の変異


 じつは上図には続きがあって、下図のように25(OH)VitD3と1,25(OH)2VitD3はCYP24A1遺伝子のコードする水酸化酵素によって不活性化される。




 CYP24A1遺伝子に異常があると1,25(OH)2VitD3が分解されないので、たまる(25のほうは、他にも不活性化する酵素があるので、あまりたまらないとされている)。

 診断の手がかりは:

尿路結石や腎石灰化
骨密度も低い
高カルシウム血症・高カルシウム尿症
PTHが低い
正常程度の25(OH)VitD3
1,25(OH)2VitD3が高い

 など。こうした例で肉芽腫を除外後にVitD3の分解産物である24,25(OH)2VitD濃度を測定して低値を示し、CYP24A1遺伝子異常の同定に至る流れが多いようだ。

 治療として、通常の結石予防に加えて、P450代謝酵素であるCYP24A1の抑制を意図したケトコナゾール(J Clin Endocrinol Metab 2012 97 E423)・フルコナゾール(Clin Kidney J 2015 8 453)が試され、長期内服の安全性が検証されている。

 最初の報告は2011年に幼児症例だったが(NEJM 2011 365 410)、成人症例の報告も相次ぎ、異常SNPの頻度は4-20%とも言われる(CJASN 2013 8 649)。そのためか、最近は米国腎臓学会のフォーラムなどでも鑑別に挙がるようになってきた。




 まだ米国も含めて24,25(OH)2VitDが測定できる施設は限られているが、原理的には1,25(OH)2VitDと同様に測定できるはず。今後、結石・高カルシウム血症の鑑別として知名度が上がってゆけばより身近な検査になるかもしれない。