2020/03/13

Critical care nephrology ~ShockとAKI~

今回は題名どおり、「ショックとAKI」について考えていく。

まずは症例を一緒に解いて、そこから考えてみよう!
症例:
65歳女性
咳・発熱・低酸素血症でクリニックを受診。迅速検査にてインフルエンザA陽性であり、オセルタミビルの内服加療開始したが、症状悪化傾向認めたため救急外来を受診。そして集中治療室に高度発熱・胸部レントゲンでの多発性肺野陰影・挿管管理が必要な呼吸不全にて入院となった。
血液培養検査、気管支肺胞洗浄を施行→MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)が両方から検出
入院後経過:
2L(30ml/kg)の外液の補液加療と適切な抗菌薬加療にもかかわらず、低血圧が持続。右内頸静脈から中心静脈カテーテルを挿入。MAP(平均血圧):45mmHg、CVP(中心静脈圧):11mmHg、ScVO2(中心静脈酸素飽和度):89%、動脈血乳酸濃度:10.2mmol/l、尿量:10mL/hrであった。

質問:次に行うマネージメントとして適切なのはでどれだろう?
1:ノルエピネフリン投与と下肢挙上テストを補液反応性かどうかを見るために行う。
2:ドパミン投与を開始する。
3:CVPが12cmH2Oを超えるまで補液を継続し続ける
4:体液過剰による危険性があるため、患者は30mL/kgでの補液投与はすべきではないし、さらなる補液も必要ない。
5:ScVO2が70%を超えているので、組織酸素運搬は適切であり追加の治療は必要ない。



正解は 1 

皆さんは正解にたどり着いただろうか?
少し、わからなかったよ〜という人のために、解説も交えて行こうと思う。

まず、ショックについて
ショックは循環不全をきたし、それに伴い組織循環不全、組織での酸素利用ができなくなる病態である。収縮機血圧<90mmHgやMAP<70mmHgの場合、いつもの血圧より40mmHg以上下がった場合などがショックと判断される。

ショックは4種類のタイプに分かれる。
・血液分布異常性ショック(Distributive shock)、循環血液量減少性ショック(Hypovolemic shock)、心原性ショック(Cardiogenic shock)、閉塞性ショック(Obstructive shock)


治療について
・まず、ショックの原因を把握することは重要。
治療の基本原則は細胞外液の補液を行い必要があれば血管作動薬を用いる。

モニタリングに関して
 −CVP、ScVO2:敗血症性ショックの際にこれらを指標にして補液量を決定することはもはや推奨されていない(ARISE, ProCESS, ProMISe trialの結果から)。ScV02>85%と高いと予後が悪いことが示されている。→3と5は間違いであるとわかる。
 −肺血管抵抗圧:有用性は示されておらず、逆にカテーテル関連感染の増加や不整脈や肺血管障害などを引き起こしうる。肺高血圧の時には検査の有用性は示唆されている。

上記のモニタリングとは異なり、補液反応性を見る方法はとても有益である。
補液反応性を見る方法として、動脈圧波形分析法(pulse contour analysis)、食道ドップラーや経胸壁ドップラー、バイオインピーダンス測定、PLR(Passive Leg Raising動画)などがあり、最近の報告ではPRLが最もいい動体分析とされている。なので、1は正解!!
しかし、各々の検査はそれぞれに特有の限界があるということと、ショックにおける補液管理は全ての可能なデータを用いながら用いることが重要である。


血管に働く薬として、全身の血管抵抗を上げる血管作動薬と心拍出量を増加させる循環作動薬がショックの治療には用いられる。心原性ショックの場合には全身血管抵抗を低下させる薬剤が用いられる。(下図参照)


ノルエピネフリン(カテコラミンの1種)は敗血症性ショックでは第一選択で用いられる薬剤である。これは様々な研究やメタ解析によってノルエピネフリンはほとんど頻脈(ほとんどが心房細動)を起こさずに、ドパミンに比べて全死亡率を下げたという研究に基づいている。このことから、選択肢2は間違い。

バソプレシンはV1受容体を介して血管収縮を起こし、カテコラミンで反応しないショックに対して有用に働く。そのため、敗血症性ショックにおいてはカテコラミンを使用して第2に使用する薬剤であり、また、心臓血管手術後の血管拡張性ショックに有効な薬剤である。バソプレシンはカテコラミンに比べて心房細動をより起こしづらいという利点がある。バソプレシン使用で低ナトリウム血症が生じるか懸念があるかもしれないが、臨床研究では報告はされていない。VANISH trial(敗血症性ショックに対してバソプレシンとノルエピネフリンを腎機能をアウトカムとしてみたもの)では、バソプレシン使用群では腎代替療法の必要な頻度を減らしたが、さらなる研究が必要で、この結果があったとしても基本は現時点では敗血症性ショックに対してはノルエピネフリンが第一選択である。

アンジオテンシン2もバソプレシンと同様に非アドレナリン作用で血管収縮を生じさせる。本邦では承認されていないが、海外では血管拡張性ショックの有用性の報告から敗血症性ショックで使用されているようだ。ここの部分に関しては、非常にわかりやすいトライアルのまとめがあるのでリンクを貼っておく。

これらの血管に働く薬はMAP≧65mmhgを目標にして投与される。
このMAPのゴールに関しては、MAPを上げすぎた方がいいかということに関しては、研究(NEJM 2014)でMAP高くする事での有用な結果は出ていない。ただ、慢性的に高血圧のある人ではMAPの設定を高くした方が腎代替療法の必要な割合が減るという報告がある。ただし、心房細動の頻度も増えるというおまけ付きではあるが。。

今回はShockとAKIについて触れてみた。
絶対見なくてはいけない疾患であり、薬剤選択もぜひ復習していただきたい。