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2017/08/29

赤ちゃんに学ぶ 4

 腎臓のFcRnとIgGについては、とくに足細胞の研究が知られている(PNAS 2008 105 967)。足細胞のFcRnは、基底膜からIgGを取り込み除去する働きがある。基底膜をすり抜けるが足細胞(のスリット)をすり抜けないIgGのような物質は、理論上基底膜を詰まらせる。透析膜の孔がつまるのと同じ考えだ。

 そしてIgGが基底膜に詰まっては、免疫複合体とか補体とかが沈着して炎症など面倒なことになる。腎生検の電子顕微鏡で腎炎・ネフローゼにみられるelectron dense deposit(高電子密度沈着物、図は日本病理学会による病理コア画像から)など、まさに基底膜に沈着した免疫複合体をみている。





 それでは困るので、足細胞が基底膜からIgGを除去していると、この論文からは考えられる。実際マウスに高濃度のIgG注射をおこなうと、(足細胞のFcRnが飽和するためか)基底膜にIgGが沈着した。またアルブミンを注射した(FcRnの飽和を意図した)マウスにネフローゼをおこす抗体を極少量注射しただけでも、蛋白尿がみられた。

 蛋白尿=基底膜の異常=基底膜の病気、というわけでは必ずしもなくて、内皮細胞や足細胞の病気(足細胞病、という言葉もある)ととらえなおされている、という枠におさまるお話だなと思う。前の投稿によれば、そこにさらに近位尿細管も加わるのかもしれない(たとえば、糖尿病性腎症やAlport症候群に治験されているバルドキソロンは糸球体の炎症を抑えるが、尿細管ではmegalin発現をさげて蛋白尿を起こす;JASN 2012 23 1663)。

 なお、その近位尿細管は足細胞を通り抜けたIgGをアルブミンのように再吸収するかと言うと、そうではないらしい(JASN 2009 20 1941)。これが、尿路の免疫として身体を守っているという説を唱える人もいる(J Immunol 2015 194 4595)が、いまだ推測の域をでていない。

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ここまで赤ちゃんがお母さんから免疫をもらう話にはじまり、FcRnをテーマに創薬、免疫疾患、腎臓でのアルブミンやIgGのろ過や再吸収まで、領域横断的にみてきた。ワーズワースはMy Heart Leaps Upという詩の中で子供は大人の父である(The Child is the father of the Man)と言ったが、赤ちゃんから学べることはたくさんある。

 そしてこの詩はこう終る;

I could wish my days to be
Bound each to each by natural piety.

 (虹をみて心が躍る少年のように)自然を敬う心に満ちた日々を送れますように、というような意味だ。

 


2012/10/10

野菜や果物を摂ろう

 今週のJournal Clubは、重曹より野菜や果物を摂ろうという、一風変わったトピックだった(KI 2012 81 86)。同じ号のエディトリアル(KI 2012 81 7)の題名も「CKD(慢性腎不全)の進行を止める鍵は薬局ではなく市場にあるかもしれない」と刺激的だ。どういうことか。

 重曹はCKDの末期で透析を遅らせるために用いられる(有効性を示したスタディはJASN 2009 20 2075)が、CKDの早期であっても病気の進行を抑えるというデータもある(KI 2010 78 303)。アシドーシスが腎不全を進行させる機序の一つは、アンモニアがC3のconformational changeを起こすことによる補体経路の活性化だ(アンモニアがC3分子内のthioester bondを解くらしい)。

 重曹はアシドーシスを改善するが、ナトリウムも摂取するので体液貯留や血圧上昇の心配がある。そこで、重曹の代わりに食事でAlkaliを摂ろう、というわけだ。ここで、アルカリ食品という意味を説明しなければならない(オレンジジュースがアルカリと言われても混乱するでしょう?)。

 酸の電離式をおぼえているだろうか(HA⇔H+ + A-)。アルカリ食品とは、このA-(具体的には有機酸のlactateやacetate)を含む食事のことだ。これらは細胞内でTCAサイクルに入る際にH+を食う。このH+は、水と二酸化炭素から来る(H2O + CO2 ⇔ H+ + HCO3-)ので、結果的にHCO3-が生まれる。だからアルカリ食品なのだ。

 逆に酸性食品とは、基本的に肉のことだ。肉、タンパク質にはtitratable acid(滴定酸、sulfateなど)が多く、腎臓にとってacid loadになる。各食品のミネラル元素(Na、K、Ca、Mg、Cl、PO4、SO4)、タンパク質の比率、それに腸管からの吸収率を勘案して、potential renal acid loadを算出したデータ(J Am Diet Assoc 1995 95 791)によると、アルカリ性食品(野菜・果物・ワイン)のなかではレーズンとほうれん草が飛びぬけてアルカリだった。

 Alkali-rich dietは、重曹にくらべて優れているのか?このスタディはrenal acid loadを50%下げる等価のアルカリ食品と重曹をCKD stage 1、2の患者群それぞれに30日摂取してもらい、尿中の腎障害マーカーとされる分子(N-acetyl-beta-D-glucosaminidaseなど)を測定した。結果はCKD stage 1ではどちらも効果なし、Stage 2では両者ほぼ同効果だった。

 研究グループは、食品のほうがカリウムも多いし血圧低下効果もあるから、重曹よりも食品がいいかもしれないと言う。野菜や果物は、腎臓のみならず多くの面でおそらくヘルシーなはず(常識的にもそう)だが、このように科学的に示そうするのも大事かなとは思う。

 [2013年3月追加]CJASNにStage 4 hypertensive CKD患者を対象にした同様のスタディがでて、TCO2(HCO3のこと)は野菜より錠剤のほうが上がったが、腎障害の尿マーカーの改善は大差なかった(CJASN 2013 8 371)。野菜と果実にはKが多く含まれるが、血清Kにも差はなかった(アルドステロンが働いたせいか)。

 [2013年4月追加]動物モデルの論文。7/8腎摘ラットでNaHCO3投与が生理食塩水投与に比べてアンモニア産生を抑えC3活性を抑えた(JCI 1985 76 667)。5/6腎摘ラットにcalcium citrateとcaptoprilを投与し組織学的に傷害が抑えられた(KI 2004 65 1224)。2/3腎摘ラットで腎組織のH+量をmicrodialysisで測るとGFR低下に相関していた(KI 2009 75 929)。2/3腎摘ラットでH+貯留に相関したendothelin-1とaldosteroneをアルカリ投与が緩和した(KI 2010 78 1128)。

2011/10/11

Atypical HUS

 HUSといえばO-157などの出血性病原性大腸菌の毒素によるものだと思っていたが、10%位の例はatypical HUSと呼ばれ、補体の制御異常によることがわかった。この疾患はヨーロッパで盛んに研究・治療されているが、うちの病院に米国でこれを初めて報告しかつ治療経験も豊富な先生がいるので症例に接しかつ学ぶことができた。NEJMのレビュー(NEJM 2009 361 1676)を復習してみよう。

 Atypical HUSはShiga-like toxinともStreptococcus pneumoniaeとも関係ない。典型的なHUSにくらべ予後が悪い。補体の、なかでもalternative pathwayに異常があってC3のみが低下しC4は正常だ。というのもclassic pathwayとlecithin pathwayではC2、C4 fragmentによってC3 conversatesが作られるのに対し、alternative pathwayではC4が消費されないからだ。

 Alternative pathwayではC3がC3a、C3bに加水分解するところから始まる。C3aは好中球を呼び寄せ、C3bはC5をC5a、C5bに分解する。C5aはやはり好中球を呼び寄せ、C5bはC6-C9を引き連れてMAC(membrane-activating complex)を形成し、opsonizationを起こす。

 これを制御する様々な仕組みがあって、ひとつはCFH(complement factor H)で、C末端で細胞膜にくっつきN末端でfactor Bと競合してC3 convertaseが出来ないようにする。またCFI(complement factor I)はC3bを不活性化する。ThrombomodulinはCFHやCFIの働きを助けるほか、TAFIa(thrombin-activatable fibrinolysis inhibitor)によりC3aとC5aを不活性化する。

 いまのところatypical HUSの原因として知られているのは、CFH遺伝子の異常、CFI遺伝子の異常、C3遺伝子の異常(C3bが不活性化されにくくなる)、他にもTHBD、MCP、CFHR1/3など補体制御遺伝子の異常やCFHに対する自己抗体などがある。これらの異常があると、感染(URIなど)を契機に補体の活性化が止まらなくなる。それで血管内皮細胞の障害から血栓が起こる。

 治療は血漿交換で、患者の多くは血漿交換-dependentになる。腎不全に陥る例が多く、移植しても遺伝子異常のタイプによっては90%で再発することがある。ヨーロッパで様々な治療が検討されているが、anti-C5 monoclonal antibodyのeculizumabは患者さんを血漿交換-independentにしたり(Pediatr Nephrol 2011 26 621)、移植後の再発を防止することができる(Pediatr Nephrol 2011 26 613)と注目されている。