造影剤腎症の診断に尿生化学を使うことはわたしはほとんどなかったが、KSAP(今年から始まった米国腎臓内科専門医試験対策+CMEのオンライン問題集)で「造影剤腎症ではしばしばFENaが低い」と書いてあり、UpToDateにも書いてあった。造影剤後の腎障害でFENaが低いのを見て「輸液しなきゃ」という人たちがたくさんいて注意喚起しなければならないということなんだろうなと思った。
クマさんがおしっこしないで冬眠できるのも、じん臓が一日に体液の何十倍もろ過してから不要なものを残して再吸収するのも、じん臓の替わりをしてくれる治療があるのも、すごいことです。でも一番のキセキは、こうして腎臓内科をつうじてみなさまとお会いできたこと。その感謝の気持ちをもって、日々の学びを共有できればと思います。投稿・追記など、Xアカウント(@Kiseki_jinzo)でもアナウンスしています。
2015/09/11
2013/05/30
Sorry FENa
Josephineとは女性の名前(男性はJoseph)で、これをラテン系にするとJosefinaだ。米国のミネラルウォーターブランドAQUAFINA®は、aqua(水)にfinaを付けて親しみやすくしているわけだが、FENa(Fractional Excretion of Na)を「フィーナ」と呼ぶのも、何でもかんでもニックネームにしたがる米国英語らしい。
さてフィーナには悪いが、腎臓内科を勉強するほどその限界が目に付いて、私はこれを一応計算するがあまり依存しなくなった。この指数は乏尿性腎不全のごく小規模なスタディでしかvalidateされておらず、多くの場合misleadingなのだ(CJASN 2012 7 167)。今日はFENaにまつわるいくつかの点を指摘したい。
一つは、いま元気にしているeuvolemicなあなたのFENa。あなたの腎臓はあなたが一日に摂取する9gの塩のほぼ全てを排泄する(これを利用して心不全における食塩摂取量とmortalityのJ-shapeな相関を示したスタディについて前に書いた)。9gの塩には154mEqのNa+が入っている(生理食塩水1Lと同じ)。あなたの2L/dの尿Na濃度は77mEq/L。あなたの血液Na濃度は、ADHのおかげで140mEq/L。
あなたのUcr/Pcrはいくら?Ucr/Pcrは水再吸収の指数だ。ろ過されたクレアチニンは再吸収されない(何なら尿細管から少し排泄される)のに、水はほぼ99%再吸収される。だから、健康な腎臓ではUcr/Pcrは1/(1-0.99)、まあ100といっていい。だから、健康なあなたのFENaは77/140/100、0.55%。でもあなたは腎前性腎不全じゃない。
もう一つは、たとえ尿細管の機能が落ちてもFENaは多くの場合に腎前性を示すこと。たとえば虚血に弱い近位尿細管機能が落ちて水再吸収指数Ucr/Pcrが40まで下がったとしよう。それでも(血液Na濃度が140mEq/Lとして)尿Na濃度が112mEq/Lを超えないとFENaは2%に達しない。
実際に、尿Na濃度が60mEq/lあり、尿沈査で顆粒円柱が出ているのにどういうわけかFENaが腎前性を示す、というようなことは良くある。それなのにFENaを信じると、尿細管機能が落ちているのに「pre-renal、pre-renal」と輸液してvolume overloadになってしまうかもしれない。何事も金科玉条にせず限界を知って活用し、総合的に判断しろということか。
さてフィーナには悪いが、腎臓内科を勉強するほどその限界が目に付いて、私はこれを一応計算するがあまり依存しなくなった。この指数は乏尿性腎不全のごく小規模なスタディでしかvalidateされておらず、多くの場合misleadingなのだ(CJASN 2012 7 167)。今日はFENaにまつわるいくつかの点を指摘したい。
一つは、いま元気にしているeuvolemicなあなたのFENa。あなたの腎臓はあなたが一日に摂取する9gの塩のほぼ全てを排泄する(これを利用して心不全における食塩摂取量とmortalityのJ-shapeな相関を示したスタディについて前に書いた)。9gの塩には154mEqのNa+が入っている(生理食塩水1Lと同じ)。あなたの2L/dの尿Na濃度は77mEq/L。あなたの血液Na濃度は、ADHのおかげで140mEq/L。
あなたのUcr/Pcrはいくら?Ucr/Pcrは水再吸収の指数だ。ろ過されたクレアチニンは再吸収されない(何なら尿細管から少し排泄される)のに、水はほぼ99%再吸収される。だから、健康な腎臓ではUcr/Pcrは1/(1-0.99)、まあ100といっていい。だから、健康なあなたのFENaは77/140/100、0.55%。でもあなたは腎前性腎不全じゃない。
もう一つは、たとえ尿細管の機能が落ちてもFENaは多くの場合に腎前性を示すこと。たとえば虚血に弱い近位尿細管機能が落ちて水再吸収指数Ucr/Pcrが40まで下がったとしよう。それでも(血液Na濃度が140mEq/Lとして)尿Na濃度が112mEq/Lを超えないとFENaは2%に達しない。
実際に、尿Na濃度が60mEq/lあり、尿沈査で顆粒円柱が出ているのにどういうわけかFENaが腎前性を示す、というようなことは良くある。それなのにFENaを信じると、尿細管機能が落ちているのに「pre-renal、pre-renal」と輸液してvolume overloadになってしまうかもしれない。何事も金科玉条にせず限界を知って活用し、総合的に判断しろということか。
2011/09/07
虚血に弱い
尿細管にも虚血に強い場所と弱い場所がある。腎臓における場所としては、outer medullaが虚血に弱い。ここは血行が届きにくい場所だからだ。ネフロンにおける場所としては、近位尿細管が虚血に一番弱く、遠位尿細管は虚血に比較的強い。だからFENAとFEUREAで、前者が低く後者が高いような場合には、近位尿細管の障害を疑う。
というのも、Naは近位だけでなく遠位尿細管でも再吸収されるから、たとえ近位尿細管が障害されてもまだ再吸収できるからだ。なぜ近位尿細管のほうが虚血に弱いのかは、よく知らない。たぶん、近位尿細管は浸透圧勾配を維持したり様々な溶質を大量に再吸収するためにたくさんATPをつかっているので、その分虚血に弱いのだろうと推察する。
というのも、Naは近位だけでなく遠位尿細管でも再吸収されるから、たとえ近位尿細管が障害されてもまだ再吸収できるからだ。なぜ近位尿細管のほうが虚血に弱いのかは、よく知らない。たぶん、近位尿細管は浸透圧勾配を維持したり様々な溶質を大量に再吸収するためにたくさんATPをつかっているので、その分虚血に弱いのだろうと推察する。
2011/07/19
オンコール
土日の連続当直をした。まず20人近い患者さんのリストを片手に、バイタルサインとI/O(身体に入った水の量と出ていった水の量)、検査データを集める。透析を予定または考慮している患者さんの分を最初にチェックして、あとは診察をして透析するかどうか、透析条件をどうするかなど決める。
そのあと、この巨大な病院をぐるぐる回って患者さんを診察し、primary teamと方針を軽く話したころには、回診の時間なので急いで待ち合わせの場所まで戻る。病院の巨大さといえば、アメフトの競技場くらい大きい。というのもうちの病院の真横に、ほぼ同じ大きさのスタジアムがあるのだ(7万人収容)。
回診では生理学に基づいた議論が延々と続く。指導医でもA先生とB先生によって言うことが全然違い、A先生が教えてくれたことをB先生が"That is completely wrong"とか言うのには当惑することもある。みんな生理学を独自に修めているのでそういうことになるだろうか。
たとえばA先生はFENa(Naの排泄割合)を診断の手がかりにしていたが、B先生はFENaなど意味がないという。B先生は代わりに尿Naとfree water excretion(Pcr/Ucr)を活用している。Free water excretionは腎臓が正常ならば1%以下なはずで、この割合が高いのは近位尿細管が障害されているせいだという。
いずれにせよ、回診は3-4時まで続き、そのあとカルテを書き、土曜日は終わった。日曜日は、カルテを書き新患を二人診て、そのあとさらにERに来た患者さんを診たので遅くなった。しかし、ERがぼんやりしているところ(8時間に8回立て続けに下血しているのに輸血以外の応急処置がなく、一般病棟に送るとかいう)をキチンと診察して、MICUに患者を送りICUチーム、消化器内科と議論して、貢献したなという気持ちになった。
そのあと、この巨大な病院をぐるぐる回って患者さんを診察し、primary teamと方針を軽く話したころには、回診の時間なので急いで待ち合わせの場所まで戻る。病院の巨大さといえば、アメフトの競技場くらい大きい。というのもうちの病院の真横に、ほぼ同じ大きさのスタジアムがあるのだ(7万人収容)。
回診では生理学に基づいた議論が延々と続く。指導医でもA先生とB先生によって言うことが全然違い、A先生が教えてくれたことをB先生が"That is completely wrong"とか言うのには当惑することもある。みんな生理学を独自に修めているのでそういうことになるだろうか。
たとえばA先生はFENa(Naの排泄割合)を診断の手がかりにしていたが、B先生はFENaなど意味がないという。B先生は代わりに尿Naとfree water excretion(Pcr/Ucr)を活用している。Free water excretionは腎臓が正常ならば1%以下なはずで、この割合が高いのは近位尿細管が障害されているせいだという。
いずれにせよ、回診は3-4時まで続き、そのあとカルテを書き、土曜日は終わった。日曜日は、カルテを書き新患を二人診て、そのあとさらにERに来た患者さんを診たので遅くなった。しかし、ERがぼんやりしているところ(8時間に8回立て続けに下血しているのに輸血以外の応急処置がなく、一般病棟に送るとかいう)をキチンと診察して、MICUに患者を送りICUチーム、消化器内科と議論して、貢献したなという気持ちになった。
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