2019/05/30

慢性腎不全に対する高血圧治療 (ACE-I、ARBは使用すべきなのか?)

 今回は降圧薬について少し具体的にふれていく。

・ACE-I /ARB

 この薬に関してはCKD患者の高血圧治療において主力の薬である。

 既知のようにACE-IはAngiotensin Ⅰ→Angiotensin Ⅱへの変換を阻害し、ARBはAngiotensin Ⅱ受容体阻害としてはたらく。Angiotensin Ⅱは血管収縮作用がある。

 最終的にはAldosteron分泌を減らし末梢血管抵抗の減少をもたらし、収縮期血圧低下に効果がある。

 また、腎臓にとってAngiotensin Ⅱの阻害が糸球体輸出細動脈の拡張をもたらし糸球体内圧を低下させ、腎臓に保護的に働いている。

 これらの薬は、

 ・蛋白尿を伴うCKD患者(AJKD 2007)
 ・HFrEF(Heart Failure with reduction Ejection Fraction)、急性心筋梗塞患者(NEJM 2003)

 に対して確立している治療であり重要な薬となっている。

 腎臓の話題を中心に進めるが、下記のことは疑問に多く生じるのではないか。

 ・最新の状況としてはどのくらい推奨されているか?
 ・ACE-IとARBの両者を一緒に使うのはどうなのか?
 ・末期腎不全の患者には使用していいのか?
 ・最新の状況としてどれくらい推奨されているのか?

 JNC8(Joint National Committee 8):腎予後改善の点で全てのCKD患者における高血圧治療で第一選択、もしくは第二選択以降の追加薬剤としてACE-IやARBの使用を推奨(JAMA 2014)。

 AHA/ACC(American Heart Association and American College of Cardiology):CKD stage3以降、もしくはCKD stage Ⅰ・Ⅱでアルブミン尿が300mg/day以上 or 300mg/g Cre以上の場合には使用が推奨されている(JACC 2018:下図)。


JACC 2018より引用


 両者の適応でCKD stageⅠ、Ⅱの時の蛋白尿の部分での推奨の違いがあるが、これはエビデンスが様々あり、不確実な部分も多いため異なっている。

 ・ACE-IとARBの両者を一緒に使うのはどうなのか?

 一時期これは話題になったが、現在は高血圧治療においての推奨はされていない。この根拠としては、Veterans Affairs Nephropathy in Diabetes Trial(NEJM 2014)の結果がある。この研究では糖尿病性腎症患者に対しての両薬剤の併用により副作用リスク(高カリウム血症、AKI)の増加が認められ早期に中断された。ここに関しては、今後の研究も待たれるところである。

・末期腎不全の患者には使用していいのか?

 末期腎不全患者に対するACE-IやARBの投与はメタアナリシスの結果で、左心室の拡張を減少させたことが示されている。しかし、統計学的に心血管・非心血管死亡を明確に減らしたということは言えてはない(CJASN 2010)。

 血液透析患者に対して薬剤の使用をする際に、ACE-Iは透析で抜ける薬が多いことは知っておく必要があり、透析後に内服・週3回内服で中等度高血圧の改善に寄与している報告も多い。コンプライアンスの点で、ACE-Iを透析が終了し医療従事者が目の前で見ているときに内服をするというのも一つの選択肢ではある。下図はNKF Guideleineの表。ARBと比較してACE-Iの透析性を理解することができる。


NKF Guidelineより引用

 
 今回はACE-I/ARBに関してお話しした。

 次回以降に他の降圧薬についても触れていってみる。続く。


2019/05/27

僕たちのMGRS 1/6(歴史)

 骨髄腫は形質細胞が癌化してクローン増殖したものだ。そして、形質細胞はB細胞から分化した、抗体を大量に産生・分泌する細胞だ。




 だから、骨髄腫は同じ種類の抗体分子を作る(図はIgG)。IgAなら二量体、IgMなら五量体だが、IgMは過粘稠症候群を起こすためWaldenstromマクログロブリン血症という別名がついていることはご存知の通りだ。




 異常タンパクは、上図のように重鎖と軽鎖がそろっている場合はMタンパクと呼ばれ、軽鎖だけで尿中にみられるとベンス・ジョーンズ(BJ)タンパクと呼ばれる。血液や尿の電気泳動で、同じ分子量のところに集中してピークを作るのも、ご存知の通りだ。本稿ではこれらをまとめてモノクローナル免疫グロブリン(monolonal immunogloblin、MIg)と呼ぶ。



 
 なお、骨髄腫患者の尿中に異常タンパクを発見し発表したのは英国のBence Jones博士だが、これが免疫グロブリン軽鎖だとわかるまでには100年以上かかった。1956年、ニューヨーク記念病院(現在のスローン・ケタリング研究所)にいたLeonard Korngold博士と助手の Rose Lapiri女史の功績だ(Cancer 1956 9 262、κ鎖とλ鎖の由来である)。

 では、MIgがみられる患者はみな骨髄腫なのかというと、そんなことはない。まず、免疫グロブリンを作るのは形質細胞だけではないから、Waldenstromマクログロブリン血症・リンパ腫・CLLなどでも見られうる。

 さらに、血液腫瘍がみつからない患者も多数いる。当初これらは「良性(benign monoclonal gammopathy)」と呼ばれていたが、1978年、メイヨーのRobert Kyle博士はそうした241例を5年間フォローし、11%が骨髄腫などに進展したことを報告した(Am J Med 1978 64 814)。逆に言えば、残りは進展しなかった(57%はMIgの増加すらみられなかった)。

 がんはみつからない、前がん病変なのだろうが、多くは進展しない・・・そんな、良性とも悪性とも言いにくいこうした概念は、MGUS(monoclonal gammopathy of undetermined significance)、つまり「意義不明(これが正式な訳語のようだ)」と呼ばれることになった。定義は(IgM、軽鎖についてはBlood 2018 131 163も参照):

1. Mタンパク 3g/dl未満
2. 骨髄中の形質細胞クローンの割合が10%未満
3. CRABが見られない
 (C:高カルシウム、R:腎障害、A:貧血、B:骨病変)
4. その他のB細胞系腫瘍の増殖がみられない

 しかし、MIgをつくっているクローナルな細胞の意義は「不明」でも、MIgがあるだけで(だれがどこで産生しているかを問わず)意義が「大有り」の臓器がある。

 それが、よりによって腎臓なのである!



上段左からビリー・ザ・キッド、二コール・キッドマン、ハローキティ
下段左からジョン・F・ケネディ、王様と私、キッド・ロック



 MGRSは、提唱者が「MGRS:MGUSはもはやundeterminedでもinsignificantでもない」と題している(Blood 2012 130 4292)ように、こうしたモノクローナルな免疫グロブリン(MIg)の持つ腎毒性を強調した概念だ。

 ここでのポイントは、だれがどこで産生しているかを問わず、MIg自体に腎毒性があるということだ。根拠となったのは1991年、テネシー大学のAlan Solomon博士らによる実験だ(NEJM 1991 324 1845)。それによれば、ヒトBJタンパクをマウスに注射しただけでアミロイドーシスや尿細管沈着など、多彩な腎病変が再現された。

 では、どうやって腎毒性のあるMIgを減らす(除く)か?

 たとえば、MIgによる腎病変が上記CRABを伴う骨髄腫によるものなら、血液内科に相談して化学療法なり骨髄移植なりしてもらえばよい。しかし、腫瘍が姿をみせない場合(こうした悪い子達のことを、dangerous small B-cell clonesと呼ぶ)、コンサルトされた同僚もおいそれとは治療できない。

 そうなると、仕方がないので腎臓内科で腎炎に用いるような免疫抑制薬などを試すが、MGRSによる腎炎はそうでない(ポリクローナルで自己免疫的機序の)ものにくらべて成績がわるく、なかには後述するPGNMIDのように移植後に再発するようなものもある。
 
 そこで、(化学療法や骨髄移植などの)治療資源を「各政府の機関が割り振れるように(本当にそう書いてある、Nat Rev Nephrol 2019 15 45)」、MGUSから独立させてできたのが、MGRSなのである。つづく。



2019/05/26

APSN/KSN CME 2019 2/2


5. 膜性腎症アップデート2019


 スライドのタイトルは"bane of nephrologists"、「ベイン」とはジレンマや悩みを意味する(破滅という意味もあるそうだが)。確かに診断、治療ともに「こうすればいい」と決まっていない部分が多いので、悩ましいのが膜性腎症だ。

 まず診断では、抗PLA2R抗体と抗THSD7A抗体があれば腎生検しなくてもよいのかという悩みが(検査できる地域では)ある。実際、血中の抗PLA2R抗体陽性なら腎生検もせず、悪性腫瘍検索も年齢相応でよいというアルゴリズムも提案されている(JASN 2017 28 421、図)。




 メタアナリシスは抗PLA抗体陽性が原発性膜性腎症の感度75%、特異度99%という(Plos One 2014 9 e104936)。しかし、既存データにセレクションバイアスが多く、鵜呑みには出来ないのが現状だ。

 治療のジレンマも「治療(免疫抑制)するか、しないか」「何で免疫抑制するか」「再発したらどうするか」など数多い。

 膜性腎症はよく「1/3病(自然寛解、不変、進行が同程度)」と呼ばれ、進行リスクの層別化が鍵になる(Nat Rev Nephrol 2013 9 443)。しかし、たとえ進行高リスクでも、高齢で悪性腫瘍による可能性を否定できない場合は免疫抑制のリスク(易感染性や腫瘍増殖)も考慮しなければならない。

 免疫抑制の種類は、ポンティチェリ・レジメンは隔世の感で、世界的にはCNI(ポンティチェリと比較されているのはタクロリムス、Nephrology 2016 21 139)、RTX(シクロスポリンと比較したMENTORトライアルが進行中;2017年のASNではRTXの優位性を示す中間報告がなされた)のどちらかを選択する施設が多いようだ。
 
 そして再発については、再発時に何を選択するかの道しるべはないが、再発リスクの評価には抗PLA2R抗体価の推移(陽性例にかぎられるが)が有効なようだ(抗体価がさがっていると再発しにくいデータはKI 2013 83 940、さがっていないと再発しやすいデータはCJASN 2011 6 1285)。


6. CKDのPEW


 世界中で蔓延しており、20-50%とも言われる。血液検査でBMIが25を切ると死亡率と負の相関がある(Mayo Clin Proc 2013 88 479)というのは、いわゆる「肥満パラドクス」を裏付けるものであるが、ではどうすればよいか、答えは出ていない。

 食事ではタンパクをとってリンを取らない工夫をする(ケト酸の使用も考慮)、運動は機能とQOLを上げるが大規模で死亡率低下を示したデータまではない、薬物療法もミオスタチン阻害薬(FASEB J 2011 25 1653)は実験段階、同化ステロイドは機能向上にはつながらず心血管系リスク上昇が懸念され、食欲刺激薬(megastrol、dronabinol、cyproheptadine、melatonin、ghrelinなど)も効果はさまざまだ。

 尿毒素を除けば食欲が改善するのでは?と期待したいが、まだ確実な方法がない(こちらも参照)。


7. HD中の低血圧予防についての進歩


 このトークも前項とおなじで、とてもコモンな問題だが"one fits all solution"はない(写真)。定義が単なる血圧低下(収縮期20mmHg以上)ではなく「症状があり何らかの看護介入を必要とするもの」なことは知っておいてよいかもしれない。




8. ADPKDに対する新規治療


 新規治療といいつつも、お話はトルバプタンだった。ADPKD患者の割合は日本なら新規透析患者全体の2%程度で一定しているが、「それは数としては年々増えているということだ」という指摘にハッとした。

 また、根治療法がないことと、透析開始年齢が62歳(全体だと68歳、いずれも日本のデータ)なことを考えると、数年(eGFR 60ml/min/1.73m2群で6年、45で4年、30で2年)透析を遅らせることに大きな意義があるという主張も頷けた。

 REPRISEトライアルのサブ解析では55歳以上で有意差がなかったこと、TEMPOでドロップアウトが30%だったことなどから、とくに海外からは価格に見合った効果があるのかという質問がつきもののトルバプタン。しかしレクチャ翌日、ADPKDが専門の米国医師と個人的に話すと、やはり「とにかく今は他にないから」という結論だった。

 現時点で次の候補はソマトスタチンアナログだが、Octreotide-LARはeGFR15-40の群で腎容積増大を遅らせた(ALADIN2、PLoS Med 2019 16 e1002777)ものの、Lanreotideは効果ないばかりか腹部症状と肝のう胞感染リスクが上昇していた(JAMA 2018 320 2010)など、道は遠い。



 おそらく演者や座長でなければ、日本からしかも全8レクチャに参加したのは筆者だけと思われる。ノートは全部とったが、分かりやすさ・興味・体力などの問題で、質と量にばらつきがあることをご了承されたい。理解の助け、話題提供など、何かの役に立てば幸いである。


(写真は日本でも韓国でもみかける、サギの仲間。ソウル大公園で筆者撮影)





2019/05/25

APSN/KSN CME 2019 1/2

 APSN(アジア太平洋腎臓学会)とKSNの共催CMEに参加してきた。4時間で8つのレクチャーを聴いたが、まず前半を紹介する。


1. 腎障害における酸化ストレスと低酸素


 まずSTAT3、Th17、Sphingosine kinase 2、VAP-1、自律神経といった、AKIの発症・予防に関わるさまざまな要素が説明された。神経の脱落や再生を調べるのには透明な腎臓が作成されており(CUBIC-kidney、doi:10.1016/j.kint.2019.02.011)、改めて衝撃的だった。なお、VAP-1は既に経口阻害薬ASP8232が治験されている(Lancet Diabetes Endocrinol 2018 6 925)。





 AKIで低酸素状態などでエピジネティックなスイッチが入ると、線維化などでCKD進展リスクとなる。こうした転写因子を阻害する試み(EZH2阻害薬DZNep:Sci Rep 2018 8 3779、HDAC阻害薬Pracinostat:Int Immunopharmacol 2017 42 25など)も紹介され、腫瘍内科のような分子標的アプローチが腎臓内科でも本格化していることが実感された。

 そのあとDKDについて、各クラスの経口血糖降下薬の腎保護作用(メトホルミン、DPP4、SGLT2)が紹介された。SGLT2阻害薬はeGFRが低下すると血糖降下作用は低減するが、腎保護作用は持続する(ので、患者と相談のうえcompassionate useも考慮しては)という話もあった。ほんとうに腎保護薬としての適応が通るかもしれないし、腎保護作用を強調して工夫された新しい薬がでるかもしれない。

 その新しい薬として、バルドキソロンとHIF-PH阻害薬が紹介された。バルドキソロンは国内第三相試験AYAME、Alport症候群に対するCARDINALトライアルが進行中である。eGFRを上げアルブミン尿を増やすこの薬の長期的な効果を心配する声もある(JASN 2018 29 357)。

 CKDがこの薬でまったく新しいパラダイムに入ることを期待しているが、2022年に終了予定のAYAMEが万一「eGFRによい有意差がありすぎて早期終了」になった場合、喜びつつも慎重に長期データを注視したい。


2. 糖尿病患者とPD


 なぜこのようなトピックが話されたのかと思ったが、韓国はまだPD患者の比率が比較的多い。以前紹介したグラフを見ていただくと、10年前まではHD:PDが3:1くらいですらあった(もっとも、どんどんその差は開いているが)。

 さらに、PD患者の糖尿病には独自の注意点がいくつかある。まず、腹膜透析液に含まれるグルコースを考慮しなければならない(300kcal/d程度は吸収されるという)。それで、グルコース含有の少ない(「生体適合性のよい」とも)透析液も開発されているが、IMPENDIAスタディ(JASN 2013 24 1889)ではHgbA1cは有意に低下したが死亡率は上昇した。除水不十分によるものと考えられており、今後の課題と言える。

 ここで「透析と言えば、HgbA1cよりグリコアルブミン(GA)じゃないの?」、「何で測るにせよ、どこが治療ゴールなの?」という二つの質問が頭に浮かんだ読者もおられるかもしれない(筆者もそうだった)。

 PDでは一般的に血液喪失が少ない一方、透析液と一緒にアルブミンが失われる(DKDで残腎機能があれば尿からも)。HgbA1cを指標にした研究を多く目にするが、近年はGAのほうが正確とする報告(Int J Mol Sci 2016 17 619)もあり、現場も個別に対応したり両方測ったりしているようだった。

 ゴールについては、"vigilant"という言葉が使われていた。これは「ちゃんと見張る」くらいの意味で、インテンシブではないということだ。HgbA1cが8%以上の群で死亡率が高かったデータがいくつかある(Diabetes Care 2014 37 1304)ことと、「燃え尽き糖尿病」になっている患者も多いことがその理由のようだった。


3. CKD-MBDの最新コンセプト


 100枚ちかいスライドで25分のお話をされたので駆け足だったが、一番のメッセージは「栄養から25(OH)ビタミンDを摂取しましょう」だった。25(OH)ビタミンDが足りないと副甲状腺が「ビタミンD飢餓」になり、活性型ビタミンD用量が増えて異所性石灰化などの問題も多くなるので、25(OH)ビタミンを摂取するのがよいという筋だった。

 なお発表者は台湾の方だったが、台湾のような低緯度地域でもビタミンD欠乏は多く、大気汚染も関係しているらしかった(Rev Endocr Metab Disord 2017 18 207)。レクチャ後は「医局のみんなで25(OH)を測ってみたら、みんな低かったんだよ」という小話も聞けた(なお、日本でも2016年から測定可能)。

4. がん診療でみられる腎障害のマネジメント


 抗腫瘍薬に用いられるさまざまな薬と腎障害について述べられた。どんどん新薬がでてくるので把握しにくいが、部位で大別でき(図はKI Reports 2017 2 108)、薬のクラスによってもだいたいどの腎障害が起こるかを予測できるようだった。




 抗血管新生薬のなかでは、bevacizumabが最も早くから高血圧・蛋白尿の合併に気づかれたので研究が進んでおり、病態はTMA(VEGFによる補体制御因子CFHの活性化が抑制され、組織レベルで補体制御が利かなくなる;JCI 2017 127 199)と分かっている(図はJASN 2019 30 187)。眼科での硝子体注射でも血中に移行して腎障害を起こした報告がある(CKJ 2019 12 92)ので要注意だ。




 つづいて、免疫チェックポイント薬についてだった(なお、CTLA4、B7/CD28、PD-1L/PD1のような話はCancer Discov 2018 8 1069が詳しいようだ)。どんどん適応が広がって、移植後の免疫抑制薬使用者にがんが見つかってニボルマブを使うといった場合すらある(NEJM 2017 376 191)。

 腎障害で薬剤を中止するか、ステロイドをつかうかといった常識的なアルゴリズムはある(下図、doi:10.2215/CJN.02340219)ので、あると便利かもしれない。




 他にもCAR T細胞療法による腎障害(CJASN 2018 13 796)、BCL2の特異的阻害薬venetoclaxによるCLLの腫瘍崩壊症候群予防などが紹介されていた。また、内容とは別に、eAJKDやNephron Powerでもお馴染みのKenar D. Jhaveri先生(上記論文のうちいくつかの著者でもある)による、GlomConをイチオシしていた。


 後半へつづく(写真は、韓国で見かけることの多い、カササギ)。





2019/05/24

慢性腎不全における高血圧治療 (降圧をなぜするのか?目標は?)

よく臨床で疑問に思いつつ、本当にこれでいいのかな?と思いながら治療をしているのがこのテーマではないか?筆者もその一人である。この薬をこの人に使って正しいのか?標準化されているものかなどよく考えてしまう。

2019年に本邦では高血圧ガイドラインが刷新された。下表は各ガイドラインの比較のものになる。


日経メディカルより引用


 これをみてみると高血圧の目標基準は全体的に厳しくなっている。高血圧治療には日常的に最も関わるし、治療の方法を知っておかなくてはならない。

 一般的な高血圧治療はガイドラインに譲るとして、今回はCKDやESKDにおける高血圧治療についてみていこうと思う。

・降圧目標:

 降圧目標に関しては、本邦では蛋白尿の有無により目標値が異なってはいるが原則130/80mmHgを目標に治療をしていく。

・なぜ治療するか?:

 これに関しては、高血圧治療がCKD、ESKD患者の心血管疾患予後を改善することがわかっている(NEJM 2015Hypertension 2009)。

 ただ、大規模コホート試験でCKD患者のうち60%の患者は3種類以上の降圧薬を必要とする場合が多いことがわかっている(AJKD 2010)。

→もちろん塩分制限などの一般的な生活改善も必要ではあるが、降圧薬の使用は非常に重要である。

 今回は、CKDやESKDにおける降圧薬でどのようなものを使うのがいいのか?その悪影響はどんなものが出るのか?を少し触れていきたいと思う。

 つづく。

2019/05/20

MGRSをめぐる混乱の中から

 ある朝起きると、こんなメールが届いていた。

「MGRSについて書いてみたので、見てくれませんか?」

 名前の通り複数のブロガーが参加している本ブログであるが、ブロガーどうしが会うことは稀で、記載中に内容について話し合うこともあまりない。しかし、この分野について書くなら、おそらく筆者も相談しただろう。

 もしかしたら読者のなかにも、MGRS(monoclonal gammopathy of renal significance)という概念に苦手意識を持つ方がおられるかもしれない。筆者の分析では、その原因は少なくとも4つある。

 1つ目には、歴史が浅い。MGRSという概念がIKMG(international kidney and monoclonal gammopathy research group)によって提唱されたのは、2012年(Blood 2012 130 4292)。まだ10年も経っていない。

 2つ目は、腎病理と血液内科が中心になっている。MRGS関連腎症のなかには、腎病理で特殊な染色をしたり、電子顕微鏡を使わなければ診断がつきにくいものが多い。また、モノクローナルな免疫グロブリンをどこでどんな細胞のクローンが作っているか(そして、それらをどうやって治療するか)は、血液内科の領域だ。

 3つ目には、欧米が中心になっている。IgG4関連疾患が正式に命名されたのも2012年(Modern Rheumatology 2012 22 1)だが、こちらは日本が「本場」であり、詳しい方も周りに多いだろう。すでに難病指定され、日本語の診断手引きや治療規約も充実している。

 そして4つ目は、発音しにくい。MGUS(monoclonal gammopathy of undetermined significance)が「エムガス」と呼びやすいのに対し、MGRSはそのまま読むしかない(筆者は、MRGSとつづりを間違えることもしばしばだ!)。米国では2018年に破産したTOYS"Я"USのように、「エムガラス」と発音するのも一案ではあるが(下図は、TOYSRUSのロゴ・フォントを使って筆者が作成)。




 そんなMGRSの苦手意識を払拭するには、どうしたらいいか?

 やはり、一から学ぶに限る(写真は、筆者が研修医時代に指導医に言われた「馬に乗れるようになるには、馬に乗るのが一番」をイメージしたもの)。



 
 幸い、MGRS提唱者であるIKMGによる文献は診断(Nat Rev Nephrol 2019 15 45)・治療(Blood 2013 122 3583)ともにオープン・アクセスだ。そこで、これらを参照しながら、ブロガーどうしコラボして、MGRSについてまとめてみることにした。

 といっても、「僕たちの」まとめが全てだと言うつもりは毛頭ない。さらに知りたい方は、すでに出されている:

『多発性骨髄腫の腎病変とMGRS』
 2016年の日本内科学会誌の特集
(Nihon Naika Gakkai Zasshi 2017 5 947)

『パラプロテイン関連腎症:新しい疾患概念MGRSと関連疾患像をとらえる』
 2018年のHOSPITALIST誌
(HOSPITALIST 2018 腎疾患2 コラム11)

 などの極めて秀逸なレビューも、ぜひご参照いただきたい。


 では稿を改めて、まずMGRSという概念が生まれた歴史を解説する。そしてそのあと定義、分類、病理像、診断、治療なども概述する予定だ。乞うご期待!




2019/05/10

腎炎を簡単に振り返る〜Immunotactoid glomerulopathy〜

今回は、前回のFibrillary GNと鑑別されるImmunotactoid glomerulopathy (ITG) について触れたいなと思う。
まず、日本語ではイムノタクトイド糸球体症と訳される。

少しFibrillary GNとの違いを先に書きたいと思う。
似ている点:
・沈着する部位が両方ともメサンギウム領域と基底膜領域
・コンゴレッド染色で両方とも陰性

異なる点:
・Fibrillary GNでは10-30nmのFibris(細繊維)が沈着し、Immunotactoid glomerulopathyでは20-90nmのTubules(微小管)が沈着する。

では、簡単にImmunotactoid glomerulopathyについて説明する。
定義:IgGの微小管の糸球体沈着によって生じる疾患。微小管は典型的には直径30nm以上。Congo red染色陰性

疫学:
腎生検の0.1%未満に生じる稀な疾患
50〜60歳に多く、女性がわずかに起こりやすい。白人が多い。

臨床所見:
蛋白尿(100%):ネフローゼ症候群(70-75%程度)
血尿(70%)
腎不全(Crea≧1.5):50-55%
低補体血症(C3,C4)が40%に生じる
M蛋白の出現(63%)
血液悪性腫瘍が背景にある(38%):骨髄腫、CLL、リンパ腫など
HIVやHCVに合併する症例もある。

鑑別にあげる疾患(鑑別ポイント):
・Fibrillary GN:細繊維沈着(20nm)、蛍光染色でIgG4が染まることが多い
・Cryoglobulinemic GN:血清のクリオグロブリン陽性
・Fibronectin glomerulopathy:30nm未満の細繊維沈着、IgG陰性、免疫組織染色でfibronectin陽性
・TypeⅢ collagen glomerulopathy:電子顕微鏡でperiodic banded collagen fibrisを認め、免疫組織染色でtypeⅢ collagenを認める。
・Nail-Patella syndrome:爪の低形成と骨異常を伴う稀な疾患、糸球体基底膜に電子顕微鏡でperiodic, sparse collagen fibrisを認める。

治療:
基礎疾患に血液腫瘍などがあれば、それに対する化学療法

予後:
データが少ないが、半分が部分寛解し、17%が末期腎不全に至る。
化学療法に反応する場合もある。
腎移植後の再発は50%未満

光顕所見:
様々な所見を認める。
Membranoproliferative(56%)、Membranous(31%)、Endocapillary proliferation(13%)
好酸球浸潤によるメサンギウム領域の拡大、membranous patternではspike形成が見られることも。


Membranoproliferative pattern, mesangial matrix expansion
蛍光所見:
IgG優位の沈着(稀にIgAやIgMも):IgG1がもっともサブクラスでは多い
kappa, lambdaに関しては69-93%がどちらかの沈着の場合が多く、kappaの場合が多い
C3は陽性の場合が多く、C1qは陽性にならない場合が多い。


IgGがメサンギウム領域と基底膜領域に陽性の所見
電顕所見:
30nmより大きな微小管の沈着
内皮下に不規則に沈着。上皮下沈着なども見られることはある。


35nm程度の微小管の沈着所見を認める。

左がFibrillary GNでFibris沈着、右がImmunotactoid glomerulopathyでmicrotubulesの沈着を示している。


診断のチェックリスト:
・Monoclonal immunoglobulinの染色パターン
・Congo red 陰性で沈着物が30nmより大きいもの


腎生検でこの疾患の診断がされた場合には基礎疾患として、何かないかをしっかりと検査をすることは非常に重要である。
また、Fibrillary GNで陽性だったDNAJB9は陰性であるので注意である。

また、何処かのタイミンングでこれらの総まとめをしたものを解説できればなと思う。



2019/05/09

目の前に腎不全の患者!聞くことは・・

 今回はNEJMにReviewが出ていたので書いてみる。

 先に題名に対する答えからであるが、職業、生活、労働環境は?と聞く必要がある。
NEJMでは、農業群落で働く人に起こる腎不全というReviewが乗っている(NEJM 2019)。


NEJM 2019より引用


 この中に数個の疾患が載っているが、私はあまり馴染みがなかった(Mesoamerican nephropathy, Sri Lankan nephropathy, Uddanam nephropathyなど)。本邦で見る割合は少ないかもしれないが、温暖化が進み、多種多様の海外旅行者が来る現在なので、本邦でも見る機会はあると思う。ただ、この疾患の概念を知らないとわからないことなのかなと思い、今回書いてみた。今回は、この中で一番popularなMesoamerican nephropathyについて触れてみる。

 この疾患は農業従事者に見られる疾患であり、原因不明の慢性腎障害と言われている。発症地域は中米が多いが、他の地域でも報告されている。

 最初に認知されたのは、中米のエルサルバドルで、若年のサトウキビを取っている人たちに原因不明で透析を開始しなくてはならないCKD患者が多くいた(205人中135人の原因が不明)。

 色々な調査でエルサルバドルとニカラグアで、高度が低く沿岸部に住む人にCKD発生が多いことがわかった。また、農業もサトウキビだけでなく、様々な農業の人に起こりうることもわかった。

 リスクファクター:

・高温の環境下で農業や身体を酷使した仕事をしている人
・殺虫剤の暴露がある
・NSAIDsの過剰使用がある
・60歳以上、男性
・痩せている
・砂糖を含んだ飲み物を飲水している。
・貧困、低所得者

 が挙げられる。

 原因:明らかな原因に関しては不明である。

 もっとも可能性のあるものとしては何回も脱水からAKIを生じることと、感染、薬物、毒素などの暴露による尿細管間質性腎炎を生じることが原因ではないかと考えられている。


AJKD 2014より引用


 病理所見:

 早期のMesoamerican nephropathyでは尿細管間質腎炎の所見を認める。
 CKD患者の腎生検では、尿細管の萎縮と繊維化、腎臓の硬化所見を認める。


Kidney Intより引用
左は慢性(尿細管の萎縮)と急性(間質へのリンパ球浸潤)の病態が入り混じっている
右はすでに慢性の状態であり、繊維化が生じている。


 診断:

 GFRが低下している人で、蛋白尿や血尿がない患者でCKDの原因が不明な人にはこの疾患を考慮する必要がある。この場合には、蛋白尿や血尿がなくてもこの疾患を想起して腎生検を行うことを考慮する必要がある。

 この疾患には特異的な治療方法は現段階ではない。

 そのため、予防を行うことが重要である。先にも述べたように高温下で重労働の人々に多いため、環境暴露を避けることも重要である。また、電解質を含んだ水分摂取も重要である。以前は仕事中に5~6Lしか高温環境下で飲んでいなかったが、現在では10L以上飲むようにしているようだ。

 なので、もし腎炎所見もないのにCKDの患者を見たら、何のお仕事ですか?海岸沿いですか?高温環境で暮らしてますか?などの質問をして絞り込むのはいいかもしれない。

 下記は中米のサトウキビ畑で働いている人。かなり高温環境下であることが推測される。





[2019年8月22日追記 by T]本稿で取り上げた、中米腎症(CKD of unknown etiology、略してCKDuとも呼ばれる)が、ふたたび今日付のニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスンの「温暖化特集」で取り上げられた(NEJM 2019 381 693)。本稿でも解説したように、CKDuは高温ストレスによる腎障害の一種と考えられるからだ。
 
 今後地球温暖化が進めば、生理的な限界をこえた高温・渇水地域が増え、そこに暮らす逃げ場のない(おおくは貧困な)人々がCKDuの犠牲になるおそれがある。熱波は洪水や地震のようにドラマチックな映像にはなりにくいが、その影響は両者に劣らず甚大だ。

 今年の夏が終わっても、また夏は来るし、来年も再来年もいっそう暑いだろう。『喉元過ぎれば「暑さ」忘れる』とならぬよう、さまざまな温暖化への対策をしておく必要があるが、腎臓領域もまたその例外ではない。






2019/05/08

薬を変えてください、さもなければ・・

 「この薬をやめて(あるいは、変えて)もらえませんか?」――腎臓内科医なら、だれもが口にしたことのあるセリフだろう。フィブラート系、NSAIDsPPI・・・状況によって、議論になるときもならないときもある。

 しかし、だいたい議論にならないのが、リチウムだ。リチウム以外の気分安定薬に変更してくださいとは、腎臓内科医からも気軽にはいえないし、精神科的にも変更は困難なことが多いからだ。

 だから、中毒などであれば輸液したり透析したりするが(こちらや、こちらも参照)、尿崩症などであれば、「水を飲んでください」というシュールな治療しか提案できないこともある。




 そんな中、「腎性尿崩症に新しい治療か?」という論文がJASNにでた(JASN 2019 30 795)。なんと、抗真菌薬のフルコナゾールに、水チャネルAQP2を集合管内腔により多く分布させる働きがあるらしいことが示されたのだ。

 AQP2は細胞内小胞と細胞膜の間を行き来して、バソプレシン→バソプレシン受容体(V2R)の支配を受けている。ところが、フルコナゾールはその支配と別に、AQP2そのものをリン酸化したり、細胞内骨格のアクチンを分解して小胞を細胞膜に近づけたりしている可能性がある(図は前掲論文より)。




 問題は、マウスに投与された80mg/kg(腹腔内への注射)という量である。というのも、フルコナゾールはすでに臨床で用いられている薬だが、低ナトリウム血症の報告はあまり知られていない。よほど大量に投与しなければ効果は薄いかもしれない。

(なお、フルコナゾールだけでなくケトコナゾールやイトラコナゾールなど「アゾール」系の抗真菌薬が、アルドステロン産生を抑制し高カリウム血症を起こすことは知られている;BMJ 2009 339 b4114)

 しかし、腎性尿崩症に有効な治療があまりないこと、フルコナゾールが「新薬」ではなく臨床成績が確立していることを考えると、おそらくドラッグ・リポジショニング(英語ではdrug repurposingとも、こちらも参照)で治験が組まれるだろう。

 また、フルコナゾールそのものでは効果が薄くても、AQP2を尿細管内腔に表出させる独自の機序がみつかったことで、フルコナゾールを改良した薬ができるかもしれない。読者のなかには、サイアザイドもループ利尿薬もそのはじまりが抗菌薬のサルファ剤だったことを思い出す方もおられるだろう(Arch Int Med 2009 169 1851も参照)。

 さらにいえば、ADPKDに対してトルバプタンなどでV2Rを抑える治療をしながら、その下流の細胞内でAQP2の内腔側への表出を保てれば、トルバプタンの副作用である多尿を押さえる道だって、開けるかもしれない(薬効を維持できるかは、検証されなければならないが)。


 筆者はながらく"less is more"、つまり薬を使わず(減らして)患者を治すのが最上という考えを信奉してきた。しかし、どうしても切れない薬というのはある。たとえば「リチウムによる腎性尿崩症ですね、ならばこの薬を足しましょう」というように、薬の副作用を薬で治す方法を考えることも大切だと痛感した次第である。




2019/05/03

腎炎を簡単に振り返る。〜Fibrillary GN〜

 おそらく読者のニーズとしては少ないと思うが、色々な腎炎を病理を中心に簡単に振り返ってみたい。今回最初に触れるのはFibrillary Glomerulonephritis(GN)である。日本語では細線維性糸球体腎炎と訳される。

 この腎疾患は腎生検の約0.6%程度と言われ、50歳前後に起こる。

 蛋白尿(100%、ネフローゼレベルは38%)、血尿(~50%)、腎不全(60~70%)、高血圧(70%)を認める。また、何も治療しない場合に2~4年で末期腎不全に至ってしまう。補体は下がらないことが多い。この疾患の患者が移植をして、再発する割合は小さな研究ではあるが36%程度と言われている。

 そもそも、この疾患はCongo-red染色陰性のアミロイド様物質に沈着を糸球体に認める疾患である。

 確定診断には電顕が必要(ここは後で述べます)で、immunotactoid glomerulopathyは30~50nm幅の微小管状構造物が、Fibrillary GNでは16~24nmの同様の構造物が糸球体基底膜やメサンギウム領域に沈着する(蛍光抗体法でPeripheral(GBM) and mesangial patternをとり、IgG (C3c)が沈着する)。


CJASN 2006


 原因:

 当初は特発性と考えられていたが、2011年のレポートで3分の1が、悪性腫瘍、単クローン性ガンマグロブリン血症や自己免疫疾患を基礎疾患に有していたということが報告されている。

 鑑別診断:

 アミロイドーシス、Immunotactoid腎症、クリオグロブリン腎炎、Fibronectin腎症

 予後:

 半月体形成(半月体は基本的に基底膜破壊の修復過程)や尿細管間質繊維化などを併発した場合には腎予後は非常に悪い。また、特別な治療がないのが現状である(ACE-I/ARBなどが蛋白尿低下を目的として使用される)。

 光顕所見:

 糸球体基底膜肥厚を伴い(時に二重化)、メサンギウム基質の拡張を認める。半月体形成は17~31%程度に認められ、MPGNパターンなど様々な所見を認める。


矢印のところがメサンギウム基質の増加(up to dateより引用)


基底膜の二重化所見を認める(AJKDより引用)


 蛍光染色:

 IgG(IgG4単独となる場合が多い), C3, カッパとラムダの軽鎖沈着所見を認める。


AJKDより引用


 電顕所見:

 電顕では、先に示した基底膜、メサンギウム領域に沈着しているのを確認する。

 大きさが、直径で

 10nm:アミロイドーシス
 16~24nm:Fibrillary GN
 30~50nm:Immunotactoid glomerulopathy

 となる。


矢印は基底膜への沈着 (Up to Dateより)


 また、Congo red陰性がアミロイドーシスとの鑑別になるとされてはいるが、2018年のレポートでCongo red陽性のFibrillary GNもcase seriesで示されておりCongo red単独で言うのは難しいと言うことは知ってもらいたい。

 では、何を指標にすればいいのか?

 DNAJB9 (DnanJ heat shock family member B9)というタンパクが注目されている。

 これは、健常者やアミロイドの患者や他の糸球体疾患患者には発現していないが、Fibrillary GNの患者では糸球体に豊富に認められる(2017年レポート)。また、このDNAJB9は自己抗原、または自己免疫応答の標的になっている可能性がある。
2019年のレポートでも血清のDNAJB9が診断に有効であると報告がある(感度67%、特異度98%)。

 このことから、今後蛍光抗体染色でDNAJB9が同定できれば、診断までに時間がかかってしまう電子顕微鏡を待つ必要はなく早期の診断が可能となり、またこれをターゲットとする治療がFibrillary GNを改善する治療になる可能性がある。

 稀な疾患だが、非常に末期腎不全への移行の割合が高い疾患であり治療の発達などにも注目したい。

 初めからRareな疾患で非常に申し訳ない。

 あまり面白くない分野かもしれないが、参考になれば幸いである。



2019/05/02

ARBの教訓

 昨年このブログに、ACE阻害薬と肺がんの関連について投稿されたのを覚えておられる読者もおられるかもしれないが、今度はARBと発がんについての論文がニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシンに投稿された(NEJM 2019 380 1589)。

 日本では第一選択のARBだが、他国では「一世代前のACE阻害薬とちがってプラセボと比較した大規模試験が少ない」、「ACE阻害薬と同等の効果なら、高価なARBは第二選択にすべき」などの批判もある。

 しかし、咳や血管浮腫の副作用がみられないなど、少なくとも安全性はACE阻害薬よりも高いと一般に考えられ、日本以外の国々でもその使用は着実に増えている。

 そんなARB製剤が、米国で2018年7月から2019年3月までの間に20種類も次々とリコールされたのだ!リコールの理由はARB自体ではなく、原薬生産過程で混入したNDMA(N-ニトロソジメチルアミン)、NDEA(N-ニトロソ-N-ジエチルアミン)、NMBA(N-ニトロソ-N-メチル-4-アミノ酪酸)だった。

 ここまでくるともはや一騒動であり、論文のタイトルも、"Hypertension Hot Potato"(「熱くてやけどするので誰も触りたくない問題」という意味、写真)。社会への影響をよく言い表している。






 「ARBを飲み続けていいのか」「必要な患者はどうすればいいのか」「どの会社のが問題なのか」「発がんリスクはどれくらいなのか、閾値は妥当なのか」「ARB以外の薬にも混じっているのではないか」・・・といった不安。さらに、FDAが原薬を生産する中国の浙江華海薬業を名指ししたことで、時節柄、外交問題の様相もみせはじめている。

 しかし論文は「FDAと医療界はこれをよいストレス・テストにしよう」と締めくくる。

 たしかに、薬の生産過程・供給過程の多様化は時代の流れだ(日本でも「海外工場が閉鎖したのでこの薬は採用がなくなります」といった話がふえた)。今後ますますチェック機構の充実が望まれるし、医療者も「自分の処方する薬に含まれるのは、薬だけではない」という認識があらためて必要だと感じた。

(写真は、「手にした薬ではなく、薬を渡す手が患者を癒す」という作者不明の引用句をイメージしたもの。最新刊『医のアート ヒーラーへのアドバイス』第2章も参照)




[2019年5月23日追記]薬の生産過程・供給過程の多様化は時代の流れと書いたが、たとえば韓国の英字紙Korea Timesによれば、このほど韓国がEUから原薬輸出のwhitelistを得た。これで、韓国の原薬企業はEUに煩雑な審査や書類なしにEUへ製品を輸出できる。

 韓国は原薬など医療分野を経済の柱にしようとしており、忠清北道のオソン(五松)にバイオ企業を集約してもいる。なお韓国が原薬でwhitelistを得るのは7地域目で、それにはもちろん日本も含まれている。

 こういうことは、やはり国外に出ないと見えにくい(写真は、高層ビルが立ち並ぶソウルの政治・金融・マスコミの中心地、ヨイド)。

 


2019/05/01

腎生検はいつすべきなのか?

 今回、新たに腎生検に挑戦する若手の腎臓内科医も多くいると思う。ただ、このどのタイミングですべきなのか?に関しては、私のような新人ではなくなった医師でも本当に迷う。

 今、腎生検をしないで先延ばしにして腎生検ができなくなったらどうしよう?この患者さんに腎生検をして、結果は正常だが合併症を起こしたらどうしよう?など考えてしまう。
 
 もちろん、腎生検の適応に関してはある一定の基準は決まってはいるが、日本では所属している病院の腎生検をするタイミングの方針に従うというのが多いのではないか?今回、少しこの点を確認しながら知識の整理ができればと思う。

 こんな患者が来た場合にどうしよう?

 55歳男性で10年前から2型糖尿病に罹患。糖尿病性眼症、神経症に関しては認めていない。高血圧に罹患しておりACE-I、β遮断薬を内服しコントロール良好。身体所見は下腿浮腫軽度認める以外は問題なし。採血・尿検査はAlb 2.5 g/dL(3年前は正常範囲)、Cr 1,1mg.dL(3年間変化なし)、尿蛋白は定量で4.8g/gCr (1年前は0.2)、尿沈渣で赤血球 5-10/視野赤血球円柱を認めた。

 この患者にどんな対応をするか?

 1:数ヶ月後に尿蛋白再測定
 2:ACE-Iの増量
 3:ステロイドの治療開始
 4:腎生検を行う 

 腎生検を選択する際には採取した組織が腎臓疾患の診断、治療、予後に影響を与えるのか?この患者に危険性があるのか?を考える必要がある。

 まず、腎生検の適応になるには疾患を診断し、治療の適応があるかが重要となる。
血尿、蛋白尿、急性腎障害、慢性腎障害の時に考える。




 少し、細かくみていこう。

 血尿:

 腎機能障害、蛋白尿がなく血尿単独の場合→多くの場合腎生検の必要はない。
 ただ、蛋白尿や腎機能障害が併発してくるようであれば腎生検は必要である。

 単独血尿の場合に想起する疾患:Alport症候群、菲薄基底膜病やIgA腎症などである。 
 
 下図はIgA腎症の蛋白尿量の予後を示したものであるが尿蛋白の増加とともに予後は悪化するため、早期の診断治療の考慮は重要となる。




 蛋白尿:

 新規の蛋白尿や蛋白尿+血尿→腎生検の適応となる
 少量の蛋白尿(<0.5-1.0g/day)単独(血尿、腎機能障害ない)→腎生検の適応は乏しい
 糖尿病患者で新規のネフローゼ相当の蛋白尿出現(以前は蛋白尿がない)→腎生検の適応
 となる(他の疾患の併発を考える必要があるため。)
 
 ネフローゼレベルの蛋白尿があった場合に想起する疾患:微小変化群(MCD)、巣状糸球体硬化症(FSGS)、膜性腎症(MN)などがある。

 急性腎障害:

 急性腎障害の中でも腎血流が落ちて腎機能障害が生じている場合(ATN:急性尿細管壊死など)や閉塞に伴う腎障害の場合→腎生検の必要性は低い。まずは原疾患の治療を行い改善が乏しく原因がわからない場合には考慮する。薬剤などで急性間質性腎炎の可能性がある場合→腎生検は必要な場合がある(診断に自信が持てない場合やステロイドなどの免疫抑制剤治療開始前の診断のため)。

 下表はAKIやネフローゼ症候群で診断して治療を行う場合の例である。


Clin Med 2003


 慢性腎機能障害:

 急な腎機能障害の悪化、新規の血尿や大量の蛋白尿が出現した場合
 
 ここに関しては非常に悩ましい。これも、腎生検を行うことで治療の適応がどうか、予後が変わるのかを考えながら行う必要がある。

 SLEでは腎生検を以前に行なっていることで腎疾患の活動性などを推測でき、また治療プランを再検討することができる。そのため、腎生検をすることの意味合いという点で他のものとは異なってくることに注意する必要がある。

 では、症例を考えてみると糖尿病患者で他の糖尿病合併症がなく、急激な蛋白尿、血尿の出現を認めている。この場合に自然な糖尿病性腎症の経過とは違うため、何らかの腎疾患の併発を考えて腎生検することが勧められる。なので、答えは4となる。

 腎生検は日本では腎臓内科が行うが、米国では放射線科医が行なっている場合が多い。なので、我々はこの手技を大切にし、また腎臓内科医が行う数少ない侵襲的な処置であるため、しっかりとした判断をするべきである。