2011/09/09

リチウム中毒

 リチウム中毒の患者さんを初めて診療して、リチウムについて勉強した。リチウムは双極性障害に用いられる薬だが、副作用も多い。使いはじめた初期には約30%の患者さんにnephrogenic DIをおこす。リチウムは遠位尿細管のprincipal cellにENaC(ナトリウムチャネル)を通じてナトリウムに紛れて入りこみ、Glycogen synthese kinase-3 betaの障害などにより尿細管細胞をADH不応にする。リチウムはナトリウムよりも数倍ENaCへの親和性が高いのだ。初期であればamilorideでENaCをブロックすることでリチウムの尿細管細胞への流入を防ぐことができる。

 他にも、副甲状腺機能亢進症による高カルシウム血症(機序は不明)、慢性間質性腎炎なども起こす。またリチウムはunmeasured cationなので、リチウム中毒の患者ではanion gap(= unmeasured anion - unmeasured cation)が低下する。anion gapが低下するのは他に、hypoalbuminemia、paraproteinemia(paraproteinはプラス電荷なのだ)、hypermagnesemiaなどがある。

 リチウムはvolume of distributionはそこまで大きくない(0.6-0.9L/kg)ので透析には適しているが、長期間リチウムを服用していれば身体中にリチウムがいっぱいだ。だから、いくら透析して血中・細胞外液からリチウムを除いても除き切れるものではない。今度の例でも、透析前に4mEq/lだった血中濃度は、透析を開始して2時間後に1.1になったが、透析をやめて数時間後には1.7にもどった。

 リチウムはほとんどが腎で排泄される。NSAIDs、ACEIなどGFRを下げる薬を飲んでいると、排泄が不十分になり血中濃度があがる。脱水や利尿剤(体液量が減ってしまう)などもリスク因子だ。リチウム中毒では消化管症状(嘔吐や下痢)が起こるので、これが脱水をきたし悪循環になる。だから十分に輔液して腎からのリチウム排泄を促す必要がある。

 リチウム中毒による神経症状は、透析などの手段でリチウム濃度を下げることによって回復するか。回復する場合が多いが、SILENT(the syndrome of irreversible lithium-effectuated neurotoxicity)という症候群もあって小脳症状、錐体外路症状などが残ることもある。そんなわけでリチウムは厄介な薬だが、mood stabilizerとしてvalproic acidなどと並びいまだに良く使われているので、中毒の治療には慣れておかなければならない。

[2013年3月追加]リチウムによる腎障害に特徴的な画像所見として、punctate echogenecityやmicrocystic calcificationが提案されている(J Ultrasound Med 2012 31 637)。GSK3β障害がAQP2をdownregulateする機序の一つにCOX2-PGE2経路のupregulationが示唆されている(Am J Physiol Cell Physiol 2012 302 C131)。