今日のgrand roundは仲良しのフェローが発表したが、grand roundにふさわしい質の高さだった。コンサルトの時に私も一緒に診た症例を元に、Aminoglycoside(AG) nephrotoxicityについて、機序と対策について自信に満ちた声で適切な論文(たとえばKidney International 2001, 79, 33-45)を参照して説明していた。こういう、誰もが知っていることを深く取り上げるのが専門家に求められることだと思うし、その着眼点に脱帽だ。たとえ私が発表しなければならなかったとしても、この症例に着目してこのように発表することはできなかっただろう。
AGによる腎障害の機序で最も有名なのは尿細管細胞の破壊による。AGの尿細管細胞への取りこみは、megalinとcubilinの複合体が主に関わっており、エンドサイトーシスによる。そのあとオルガネラ(lysosome、Goldi、ER)に運ばれ、phopholipidosisと呼ばれる膜破壊を起こす。これにはAGの強い陽性荷電(AGは名前の通りアミノ基がたくさんあって陽性なのだ)とphospholipase活性の阻害が関わっているとされる。AG濃度がオルガネラ内で高まると、オルガネラが破裂してAGが細胞質内に飛び散る。これがアポトーシスのスイッチを入れたり(cathepsin、caspace)、ミトコンドリア機能不全を起こしたり(PPAR-alpha, Bax)して細胞死に導く。さらにAGはNa/K-ATPaseをはじめ様々なcell membrane transportersを阻害する。
尿細管の崩壊により尿細管内腔はjunkでいっぱいになり、tubular obstruction、backleak(間質への原尿の逆流)、Bowman嚢内圧の上昇(filtration pressureの低下)などによりGFR低下をきたす。でもこららはGFR低下の原因の一部にすぎないと彼女はいう。他にもAGはglomerular effects、vascular effectsなどにより腎障害をきたす。Glomerular effectsとは①mesangial contraction、②mesangial proliferation、③diffuse swelling of the filtration barrier with neutrophil infiltration(高濃度で)、④loss of filtration barrier(陽性電荷のAGが沈着して基底膜が陰性電荷を失うから)など。Vascular effectsとは腎細動脈の収縮(①T-G feedbackのactivation、②vasoconstrictorsの産生などにより)だ。
これらの対策として(使わずに済むなら使わない、使うなら最小限の期間にする、などの頓智みたいなのは別にして)感染症科医が薦めるのがconsolidated regimenだ。これはAGがpeak concentrationに依存して効果を発揮し、腎障害はtrough levelがさがるほど起こりにくいという考えで行われる、一度に沢山投与(7mg/kg)して間隔を空ける方法だ。残念ながらanimal dataでしか有効性は確認されていないが、今のところはこれが推奨されている。他にもstatinが効くとかCa channel blockerが効くとか、endocytosisを阻害するblebbistatin(endocytosis-myosin 6 inhibitor)とか色々あるが、実験の域を出ていない。