2011/09/20

とても息の長い論証(上)

 今日のJournal clubは、pure basic scienceの論文だった(J Clin Invest 2011, doi:10.1172 / JCI58662)。sepsis AKIモデルを使って、順を追った息の長い論理的思考で実験を重ねた大作だ。まずsepsis AKIモデルマウスでendotoxin injection後にrenal blood flowが著しく低下するにも関わらず酸素消費量が減らないことを示した。血流量はmicro ultrasoundで、酸素消費量はBOLD MRIとHIF-1の活性で調べた。
 そのあと、作者は酸素消費が低下するのはミトコンドリア機能低下によるのだろうと考えた。ここまでは、『ICU BOOK』のMoreno先生も書いている"cytopathic dysoxia"というやつだ。そこで、電子顕微鏡で尿細管細胞を観察しミトコンドリアは腫れあがり大量のvacuoleで満たされていることを示し、また病理標本でcytochrome c oxydaseのin situ activityが低下していることを示した。
 そのあと作者は、ミトコンドリア機能不全を起こす一連の遺伝子レベルの出来事をorchestrateしているのは一体なんだろうと考えた。そこで何千という遺伝子のexpression profileを分析し、そこからself-organizing mappingという手法を使い「endotoxinによる障害で発現が抑制され、AKIの回復時には発現が復元する」ような遺伝子群を抽出した。
 これらの遺伝子群がいったいどんなことに関わっているのかを調べるため、canonic pathway enrichmentを行った。これはもはや私の理解を越えたポストゲノム時代のブラックボックスだが、Ingenuity Pathway Analysis toolなる分析ソフトウェアに遺伝子たちの情報を放り込むと、それがどんな機能にどう関係しているかを明らかにしてくれるのだ。その結果、驚くべきこともないが前述の遺伝子群はoxidative phosphorylationやmitochondrial dysfunctionに関係していることが分かった。まだここまでで半分、くどい位息の長い論証と実験を重ねていくので続きはまた。