2011/09/20

とても息の長い論証(中)

 このあと作者はどの遺伝子がいったい上流にあって鍵を握るのだろうと考えた。遺伝子群といってもまだ数百もあるのだ。ここで、どういうわけかPGC-1-alphaに注目して、他の遺伝子との相関が最も強いことを示した。そのあとin situ hybridizationによって、腎臓においてPGC-1-alphaがoxydative phosphorylationの行われている場所にoverlapして発現されていることを示した。
 ここまでで、①septic AKIでは腎の酸素消費が落ちること、②septic AKIではミコトンドリア機能不全が起こること、②PGC-1-alphaが酸化的リン酸化に関わる遺伝子群をシャットオフすることが分かった。次に彼らが確かめようとしたのは①と③の間を直接つなげて示すこと、すなわち「septic AKIでPGC-1-alphaの低下が腎の酸素消費を低下させること」だった。
 興味深いのは、彼らがその相関を逆に「PGC-1-alpha活性が上がると酸素消費量が増える」ことで示したことだ。ここから話はAKIの障害から、AKIの回復に移る。彼らはhuman proximal tubular cellにTNF-alphaを与えるモデルを用いた。まずTNF-alphaが細胞の酸素消費をtime- and dose-dependentに低下させることを示し、次にadenovirusでmurine PGC-1-alphaを導入した細胞では、TNFによって低下した酸素消費が回復することを示した。
 さらに「PGC-1-alphaがAKIの回復に必要」という仮説を立てて、例によって逆に「PGC-1-alphaがないとAKIの回復が遅れる」ということを示そうとした。ここでは腎尿細管細胞のみで転写される遺伝子Sglt-2-Cre miceとfloxed PGC-1-alpha mice交配させて作った(この技術も私の頭を越えているが)proximal tubule-specific knock-out modelを用いた。ここまで大量の実験データでもうおなかがいっぱいだが、このあと(私の)考察。続く。