2011/09/16

インスリンの作用

 前回のJournal clubは、CJASNのインスリンがカリウムを細胞内にシフトさせるのにグルコースが必要か?という面白いテーマについての研究論文だった(CJASN, 2011, 6, 1533)。研究のデザインと結果じたいにはあまり説得力がなかったが、話としては勉強になった。
 まずカリウムについての基本的な知識を学んだ。体内のカリウムは90%が細胞内に存在するが、そのうちの70%は筋肉に存在する。カリウムが細胞外にシフトするのは、高血糖(高浸透圧により水と一緒にカリウムが出てくる)、アシドーシス、細胞自体が壊れる時(cell lysis)。カリウムを細胞内にシフトするのはインスリン、beta agonist。
 インスリンはもちろんグルコースを細胞内にシフトする働きもある。しかしこの働きはインスリン抵抗性がある患者さんでは落ちてしまう。そこで研究者が立てた質問は「糖尿病患者では、グルコースを細胞内にシフトしにくくなるだけでなく、カリウムも細胞内にシフトしにくくなるの?」というものだ。
 それで彼らは、糖尿病患者と健常な患者に一定速度でインスリンを流し、glucose uptake rateとpotassium uptake rateを調べた。glucose uptake rateはインスリン抵抗性の指標に(研究目的で)よく用いられるが、potassium uptake rateは、計算式があったが色々想定している条件が多そうで信憑性はよくわからない。
 ともかく結果は、両者の間でpotassium uptake rateは変わらなかった。このことから、インスリンが起こす細胞内シグナルのカスケードはグルコースのuptakeとカリウムのuptakeで別であり、インスリン抵抗性は前者にしか関係しないということが推察される。EditorialにAKT、aPKC、MEK1/2、など大学時代ならエキサイトしたであろう様々なシグナル分子を載せた図があった。