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2017/05/18

火星だより 4

 同じ食塩量を摂っていても、アルドステロンとコルチゾンの1日排泄量(それぞれUAldoV、UCortisoneV)には波がある。高い日と低い日の差は、6g/d食でも9g/d食でも12g/d食でも大体同じで、UAldoVは7.6mcg/d、UCortisoneVは33.8mcg/dだった。

 UAldoVが多い日は、少ない日にくらべて飲水量がおおく、尿量がすくなく、水がたまった(体重も増えた)。ここでも、以前に書いた、尿浸透圧と尿量の変化から自由水どれだけたまった(または、捨てられた)かを計算する方法をつかっている。


 いっぽう、6g食から12g食にするとUAldoVは減る(平均5.1mcg/d)。上記変化はUAldoVが7.6mcg/d増えた結果なので、UAldoVが5.1mcg/d減った影響は上記に5.1/7.6を掛けて正負を反転させたものになるとグループは考えた。


 同様のことをUCortisoneVでもおこなうと、次のようになる。6g/d食から12g/dになってコルチゾンはふえるので、今回は正負が反転しない。ここでUAldoVの時と違う点のひとつは、体重が減らなかったことだ。コルチゾンがふえて自由水が捨てられたのに、飲水量がかわらないのだから、体重は減りそうなものだが減っていない。


 これをみてグループは、捨てられた自由水は内因的に作られた水、つまり代謝水だと推察している。食べ物から余計に水が作られれば、飲み水が増えなくてもいい。たしかに糖質コルチコイドには異化を亢進する作用があるから、それでいいのかもしれない。

 では、アルドステロンはどのように尿量をへらし、コルチゾンはどのように尿量をふやすのか?それを調べるのに、グループはそれぞれのホルモンが高い日と低い日の尿中溶質排泄と浸透圧をくらべてみた。

 するとアルドステロンが低い日は、高い時にくらべて尿Na排泄量(UNaV)がふえたが、尿K排泄量(UKV)は減り、尿素排泄量(UUreaV)も減ったので全体の溶質排泄量はかわらず、尿浸透圧はさがった。いっぽう、コルチゾンが高い日は、低い日にくらべてUNaV、UKV、UUreaVいずれもふえたが尿浸透圧はさがった。

 これらの現象でいまのところわかっているのは、アルドステロンがさがるとENaCによるNa再吸収がおちて、それに付随しておこるROMKによるK排泄も減ることくらいだ。これをグループはTraditional natriuretic conceptと呼んでいる(図)が、伝統的というだけあって目新しいことではない。RAA系ということだ。



 いっぽう、アルドステロンと尿素、糖質コルチコイドとNa、K、尿素の関係は、これから調べられるフロンティアだ。これを説明するのに、このグループは伝統的なコンセプトにかわるAlternative natriuretic-ureotelic conceptというコンセプトを提唱していて興味深い(図)。


 なお「-telic」はテロメアのテロと同語源で終末を意味するから、ureotelicとは尿素で終る、つまり「尿素排泄の」ということ。それに対して窒素の最終排泄物がアンモニアの場合をammonotelic、尿酸の場合をuricotelicという(それぞれ魚、鳥など;図はJournal of Experimental Biology 1995 198 273を改変)。


 Alternative natriuretic-ureotelic conceptは、ふえた塩分を排泄するとき一緒に水を失わない合理的な仕組みといえる。RAA系だけでは、塩分がふえるとENaCを介したNa再吸収が減って水が失われてしまう。しかしそれに平行して腎髄質の間質に尿素が蓄積し水を引き、抗利尿に働くかもしれない(推測)。また糖質コルチコイドの働きで代謝水がふえ、飲水量をふやさずに済むかもしれない(推測)。

 これらのメカニズムはいまだ不明だが、糖質コルチコイド作用がたかまってたんぱく異化により尿素が増えているのかもしれない(推測)。髄質への尿素の汲みだしには、UT-A1が関与しているかもしれない(推測)。

 さらに、鉱質コルチコイドと糖質コルチコイドが自由水の管理を互いに拮抗する働きを持ち、どちらも周期的にゆるやかに上下を繰り返していることから、両者はあたかも交感神経と副交感神経、RAA系とプロスタグランジンのように調節しあっているのかもしれない(推測、図)とグループは提唱する。


 このモデルによれば、鉱質コルチコイドがふえると塩と水が身体にたまる(図の環が6時から12時にまわる)。すると今度は糖質コルチコイドが増えて塩と水を捨てる(環が12時から6時にまわる)。塩分摂取がすくなければ塩と水を守る方向、すなわち鉱質コルチコイドが優位になる(図の左半分)。塩分摂取がおおければ逆で、糖質コルチコイドが優位になる(図の右半分)。

 推察ばっかりだが、糖質コルチコイドが体液バランスにおよぼす影響や、尿濃縮に大事な役割をもっているのにいままで(電解質でないためか)あまり掘り下げられてこなかった尿素の仕組みについて考えるきっかけになった。バソプレシン(と血漿浸透圧)を考えなくてもここまで説明できるのは、目からウロコだった。

 ここまで推論したら、あとは実証すればいいというわけで、JCI5月号にもうひとつ載った論文(JCI 2017 127 1944)がそのアンサーソングになっている。これは、べつに紹介する。もしこれからこの領域の知見が増えてくれば、高血圧や腎疾患などの診療が別次元に深まるのかもしれない。UT-A1阻害薬(Nat Rev Nephrol 2015 11 113)とかそういうレベルではなく、それこそ「火星に人が着陸する」くらい、変わるかもしれない。それにしても、宇宙開発はその過程でいろんな科学の副産物をもたらしてくれる。






2017/05/17

火星だより 3

 火星探査訓練の被験者を対象にしたデータが2013年アトランタのASNのKidney Weekで口頭発表されているときには、センセーションだけで何のことだか分からなかった。いま論文を読み返すと(Cell metab 2013 17 125)、JCIの論文がこれを発展させたものだと分かる。

 このときすでに塩分12g/d食から6g/d食にするとアルドステロン排泄量(UAldoV)があがることと、コルチゾール排泄量(UFFV)とコルチゾン排泄量(UFEV)がさがることは発表されていた。コルチゾン/コルチゾール比(コルチゾールを分解する11β-HSD2活性に相関)はあがっていた。



 さらにこの論文でわかったのが、同じ塩の量をとっていてもNa排泄量(UNaV)、UAldoV、UFFV、UFEVが日によってばらつきがあることだ。



 何日も何日も調べたからこそわかる結果と言える。なんとなく4つのグラフはおたがい関係しているようにも思えるが、これだけではわからない。しかしこれらのばらつきを分析する方法が、ある。まずパワースペクトラル濃度をみると、UNaVとUAldoVには6日周期(赤、緑のもっとも大きなピーク)、UFFVとUFEVには約1ヶ月周期(青、黄色の左端のピーク)の波があり、ほかにも3、5、15などいくつかの波がある(グラフ中の数字)ことがわかった。


 どうしてこんなリズムがあるのかはわからない。6日周期は、被験者が6日にいちど夜勤をしていたことと関係がありそうだ(実際夜勤データを重ね合わせると、夜勤日のUNaVはひくくUAldoVは高かった…夜勤の夜食は塩分すくなめがいいのだろうか??写真)。ほかの周期は、わからない。

 さらにふたつのグラフが似ているかどうかをしらべる相互相関分析をおこなうと、UAldoVとUNaVは負に相関(UAldoVが増えるとUNaVは減る、つまりNa排泄抑制)、UFFV・UFEVとUNaVは正に相関(Na排泄促進)することがわかった。図中心のディップとピークがそれにあたる。


 「定常状態」では摂取した塩分量と排泄する塩分量はおなじはずだが、諸行無常の世の中で「定常状態」なんてものは存在しなくて、実際にはおなじ塩分量を摂っていても寄せては返す波のようなホルモンバランスで排泄量は揺れうごく。しかも、RAA系のアルドステロンだけでなく、糖質コルチコイドも影響している。

 …という延長にJCIの論文がある。JCIの論文では、おなじ食塩量を摂っていても日によってホルモン量(UAldoV、UCortisoneV)にばらつきがあることを利用して、ホルモンが多い日、中くらいの日、低い日の三つにわけた。

 そして、6g/d食、9g/d食、12g/d食のときにホルモンが高い群と低い群では尿量、溶質の排泄量、尿浸透圧、自由水クリアランス、飲水量、体重などがどうちがうかを調べて、アルドステロンと糖質コルチコイドの関与を推察した。その結果をまとめたのがFigure 5なのだが、やや複雑なので次にする。つづく。


 

 

2017/05/15

火星だより 2

 前回、塩分6g/d食のひとが12g/d食になると、捨てる溶質が増えるが尿は濃縮するので自由水クリアランスがへる、つまり自由水が身体にたまるという話をした。いっぽう、6g/d食のひとが12g/d食になると水分摂取量はへる。これが液体の水分なのか食事中のも含むのかが分かりやすい場所に書いていないが、とにかく減る。


 塩を取れば血液の浸透圧があがり喉が渇き水分摂取が増える、という定説と違うが、尿データをかんがえると、溶質が増えても腎臓が尿濃縮で自由水をためるので、身体の浸透圧がさがり口渇がさがるということかもしれない。血液の浸透圧データはないので、詳しいことまではわからない。

 6g/d食から12g/dになって減った水分摂取量の差(図の薄い青)は、腎臓でためた水(図左バー)から不感蒸泄による喪失分(斜線)を差し引いた量(図の濃い青)にほぼひとしかった。一日水分摂取量が一日尿量より32%おおいことから、ためた自由水の32%が不感蒸泄ででていくと推定したそうだが、正確かわからないことは研究グループもみとめている。ちなみに火星探査の訓練なので、被験者は運動も肉体作業もした。


 このあと、彼らは塩をおおくとった時に腎臓が尿を濃縮する仕組みについて考えさらに実験をおこなった。まず一日Na排泄量(蓄尿Na濃度に1日尿量をかけて計算するので、UNaVと書く)と尿Na、K、尿素濃度の関係をみると、一日Na排泄量が多いほど尿Na濃度があがり、尿K濃度は変わらず、尿urea濃度は低くなった(それぞれ左、中央、右)。


 尿の尿素濃度と尿の濃縮にはどんな関係があるか?まず尿素と尿濃縮の関係をおさらいしよう(レビューはJASN 2007 18 679、図)。尿の濃縮に寄与するのは主にNaClと尿素で、NaClは有名なヘンレ係蹄のcountercurrent multiplicationで維持される。一方ureaは、とくに髄質内層の浸透圧勾配に重要だ。


 集合管をおりていく原尿はV2(バソプレシン)受容体の支配下にあるアクアポリン2を介して水を吸われるが、この部分は尿素を通さない。だから原尿が髄質内部の集合管(IMCD、internal medullary collecting duct)までくると尿素濃度はとても高くなっている。

 IMCDには尿素トランスポーターUT-A1、A3があって尿素は一気に間質にでていき、内腔と間質の浸透圧がほぼ等しくなる。それで浸透圧利尿で水が失われるのを防いでいる。その証拠に、UT-A1とA3をノックアウトすると(十分にたんぱくをあたえられた)マウスは水をどんどん喪失してしまう。

 高濃度の尿素を維持する仕組みのひとつはvasa rectaによるcountercurrent exchangeで、ヘアピンになった血管にあるUT-Bを通じて尿素が上がって降りてを繰り返す。もうひとつが尿素リサイクルで、ヘンレ係蹄のUT-A2を通じて間質の尿素が内腔に排泄され、遠位ネフロンをまわりIMCDでふたたび間質に再吸収される、の繰り返しだ。

 それをふまえてみると・・。

 尿の尿素濃度がさがることと尿の濃縮をむすびつけるひとつの考えは、尿素が尿に出てこないぶん腎間質にとどまり、濃度勾配をきつくして尿をいっそう濃縮させたというものだ。研究グループはそういっている。

 ただ間質の尿素濃度は測れないし、UT-A1、A3は濃度依存のトランスポーターだから間質の尿素濃度がたかければ集合管内腔の尿素濃度も高いかもしれない。尿素の摂取量はかわらなかったようだが、異化や同化がかわって尿素がつくられなくなったのかもしれない。この段階では、まだなんともいえない。塩分摂取が増えて尿素排泄がへる理由も、わからない。

 つぎに、研究グループは尿アルドステロン排泄とコルチゾン排泄をしらべたので、それをみてみよう。つづく。




2013/03/31

ネフロンの大冒険 3/3

 陸に初めて上がった両生類。彼らのネフロンには、近位尿細管の先に水を通さずNaClを通す管が新たに取り付けられた(後のヘンレ係蹄上行脚)。しかしこれだけでは尿希釈はできても尿濃縮はできない。つまり彼らの腎はまだ淡水適応時代の流れを継承しており、陸上で水と塩の吸収と再吸収を司るのは主に皮膚と膀胱だ(これらがアルドステロンに依存していることはに述べた)。

 爬虫類もまた両生類同様の水排泄を得意とするネフロンを持っているが、水から離れて生きるには必要ない。それで海水魚と同じように尿細管分泌の役割に多くを依存している(Am J Physiol Renal Physiol 2002 282 F1)。その証拠に、彼らはrenal portal system(腎門脈システム)をもっている。これは腎が静脈還流を受け、尿細管分泌により老廃物を排泄してから心臓に返すシステムだ。さらに彼らは腎だけでなく、salt gland、lower GI tract、膀胱などでも水と塩類を調節している(Seminars in Avian and Exotic Pet Medicine 1998 7 62)。

 爬虫類から進化した鳥類はどうか。彼らは温血動物だから代謝レベルが圧倒的に高まり、老廃物をごっそり捨てるのに糸球体は欠かせない。しかし既存のネフロンでは水排泄過多で干上がってしまう。そんな彼らに、脊椎動物で初めての尿濃縮システムが取り付けられた。尿管芽(ureteral bud)由来の集合管と、vasa recta、ループ係蹄が腎髄質(medullary cone)を縦に並んで走る、哺乳類型のネフロンだ。

 しかしネフロンの70-90%はいまだループのない爬虫類型だし、鳥類は尿素でなく水に溶けない尿酸を窒素排泄に用いているから哺乳類ほどosmotic gradientがでない。だから濃縮力は哺乳類に比べてずっと弱いが、彼らにはそれでいいのである。というのも尿濃縮は主に直腸で浸透圧勾配にしたがい行われる(余り腎で濃縮したら、逆に直腸内腔へ水が失われてしまう)し、鳥類も爬虫類同様にsalt glandを持っている。

 温血で生じる大量の老廃物をろ過しつつ水を保持する難題は、哺乳類に至って解決された。ここでは全てのネフロンが尿濃縮機構を持し、窒素排泄に水溶性の尿素を用いることで得た高いosmotic gradientにより尿濃縮能は飛躍的に上がった(それはAVPの支配下にあるurea recyclingによって維持されている、JASN 2007 18 679)。これらによって、体液調節のほぼ全てを腎が引き受けるようになった。

 幾多の試みの果てに、哺乳類は淡水で生まれた糸球体ろ過/尿細管再吸収システムに、陸上に適したループ係蹄/vasa recta/集合管システムを融合して最強のネフロンを作り上げた。しかしその間に、5億年前から伝わる糸球体分泌機能が捨てられることはなかった。現に哺乳類のネフロンにもそれは残されているし、私達が思っている以上に大きな役割を果たしているかもしれないのだ。その役割とは一体?それは別のコラムに書く。


2013/03/17

Conquest of land 2/2

 初めてaldosteroneを手にした脊椎動物、肉鰭類。お陰でハイギョは住む沼が乾季に干からびても生き延びることができる。しかしこの分野のレビュー論文(J Endocrinol Invest 2006 29 373)は、原始肉鰭類にとってステロイドは体液保持だけでなく低酸素に対するストレス反応に重要だったと推察している。かれらが初めて呼吸した4億年前の地球の空気には、酸素が現在の半分しかなかったのだ。

 両生類になるとステロイド代謝が大きく変化し、糖質コルチコイドのcortisolやcortisoneはCYP17がブロックされて産生が抑えられ、代わりに(17番炭素が水酸化されない代謝経路にある)aldosteroneとその前駆体corticosteroneが中心になる(なんとaldosteroneが鉱質・糖質コルチコイドを兼ねている)。これにより、両生類は皮膚と膀胱の上皮からNa+を再吸収することで体液を保持できるようになった。

 このステロイド代謝シフトはsauropsids(竜弓類、爬虫類と鳥類と恐竜の総称)で完成し、彼らではCYP17が完全にブロックされている。しかしaldosterone濃度は両生類の1/1000まで低下する。これが受容体の感度が高まったためか、前駆体のcorticosteroneに依存しているためかは分からない。いずれにせよ鉱質コルチコイドは腎臓と総排泄腔(鳥類にはダチョウを除き膀胱がない)でNa+を再吸収する。海鳥類では鼻と眼窩にある塩類腺からのNa+排泄調節も行う。

 哺乳類になっても、9600年前に分化したげっ歯類までは副腎でのCYP17が止まっている(corticosteroneがメインの糖質コルチコイド)。しかしそれ以降ではCYP17遺伝子発現が再開し、cortisolやcortisoneを利用できるようになる。ここにきて糖質・鉱質ステロイドの区別は明確になり、MR(鉱質コルチコイド受容体)のあるところでは糖質コルチコイド(MRと親和性あり)が11b-HSDにより分解される(この臨床的側面はこちら)。

 そんな哺乳類が、今度は海に戻る。5000万年前にシカのような動物がクジラ類に、2200万年前にクマのような動物が鰭脚類(アザラシなど)になる。生物の適応たるや、何でもありだ。高浸透圧の海で暮らす彼らにとってはナトリウム排泄が課題であり、ナトリウム保持のaldosteroneなど必要ない。だから、彼らの副腎を調べるとaldosterone産生が皆無か痕跡的らしい。

 "Nothing in biology makes sense except in the light of evolution"とは米国で活躍したロシア人生物学者Theosodius Dobzhanskyが1973年に発表したエッセーだ。大局的で進化論的な見方は生理学の理解を助けるし、なによりダイナミックで興味が尽きない。ここではaldosterone中心に論じたが、steroid receptorは?reninとangiotensinは?ADHは?質問が次々に生まれ、どんどん調べたくなる。

2013/03/15

Conquest of land 1/2

 6年前に腎臓内科の先生とrenin-angiotensin-aldosteroneの話をして、これがあるから生物は陸に上がることが出来たと聴いた。それまで「こいつらのせいで血圧が上がり血管にもダメージが…」とブロックすることばかり考えていた軸が、体液保持という陸上生物にとっての生命線と学び、目からウロコが落ちた(ウロコが落ちて、私も陸上生物の仲間入り?)。

 そして今、この話を深く調べる機会を得た。さかのぼること4億2000万年前、脊椎動物から肉鰭綱が分化した。そして、3億7000万年前頃までには肉鰭綱から進化して、初めての陸上動物である迷歯亜綱(Acanthostega、Elginerpetonら原始両生類)が誕生した。私達が陸上で生きられるのも、肉鰭類が適応したおかげ。

 その肉鰭綱とはどんな動物か?現存するのはなんとシーラカンスとハイギョだ。シーラカンスの太く肉厚な鰭は、肢への前段階と考えられる。同族の絶滅したEusthenopteronには胸鰭内部に骨があり、Tiktaalikには肘関節と手関節まであった。ハイギョは食道腹側の憩室が発達して肺になり、成長につれ鰓呼吸から肺呼吸に移行する。

 しかし肢と肺があるだけでは陸上で生きていけない、体液維持も不可欠だ。その点、肉鰭類はCYP11B2によってaldosteroneを作ることができる(General and Comparative Endocrinology 2007 153 47)!Aldosteroneは他の魚類が作るDOC(11-deoxycorticosterone)に比べてNa+貯留活性が圧倒的に高く、乾燥した陸上への適応を準備したと考えられる。で、このあとどうなったか?続く。

 [2017年5月追加]ハイギョに会ってきた(写真)。ハイギョの夏眠に関連した論文を読んだから。会ってみると、肉鰭類なだけあって鰭を足のようにして這い、ときどき水面で肺呼吸していた。仙台うみの杜水族館にいるが、アフリカハイギョではなくプロトプテルス・アネクテンスという学名で紹介され、解説もない(ホームページには数行あるが)。カメレオンの隣りにいて、みんなに無視されていた。おかげでじっくり観察することができたが、どうしてそういう展示なのか不思議だった。




[2019年5月追加]オーストラリアハイギョに会ってきた(写真)。日本内科学会の開催地から近い、名古屋港水族館にいた。鯉のように見えるかもしれないが、鰭があまり上肢らしくなく、アフリカハイギョより前に進化したと考えられている。「私達の祖先」と展示され、お客さんにも注目されていた。6月に開催の日本腎臓学会も名古屋なので、興味ある方は見学されたい。




2012/10/10

野菜や果物を摂ろう

 今週のJournal Clubは、重曹より野菜や果物を摂ろうという、一風変わったトピックだった(KI 2012 81 86)。同じ号のエディトリアル(KI 2012 81 7)の題名も「CKD(慢性腎不全)の進行を止める鍵は薬局ではなく市場にあるかもしれない」と刺激的だ。どういうことか。

 重曹はCKDの末期で透析を遅らせるために用いられる(有効性を示したスタディはJASN 2009 20 2075)が、CKDの早期であっても病気の進行を抑えるというデータもある(KI 2010 78 303)。アシドーシスが腎不全を進行させる機序の一つは、アンモニアがC3のconformational changeを起こすことによる補体経路の活性化だ(アンモニアがC3分子内のthioester bondを解くらしい)。

 重曹はアシドーシスを改善するが、ナトリウムも摂取するので体液貯留や血圧上昇の心配がある。そこで、重曹の代わりに食事でAlkaliを摂ろう、というわけだ。ここで、アルカリ食品という意味を説明しなければならない(オレンジジュースがアルカリと言われても混乱するでしょう?)。

 酸の電離式をおぼえているだろうか(HA⇔H+ + A-)。アルカリ食品とは、このA-(具体的には有機酸のlactateやacetate)を含む食事のことだ。これらは細胞内でTCAサイクルに入る際にH+を食う。このH+は、水と二酸化炭素から来る(H2O + CO2 ⇔ H+ + HCO3-)ので、結果的にHCO3-が生まれる。だからアルカリ食品なのだ。

 逆に酸性食品とは、基本的に肉のことだ。肉、タンパク質にはtitratable acid(滴定酸、sulfateなど)が多く、腎臓にとってacid loadになる。各食品のミネラル元素(Na、K、Ca、Mg、Cl、PO4、SO4)、タンパク質の比率、それに腸管からの吸収率を勘案して、potential renal acid loadを算出したデータ(J Am Diet Assoc 1995 95 791)によると、アルカリ性食品(野菜・果物・ワイン)のなかではレーズンとほうれん草が飛びぬけてアルカリだった。

 Alkali-rich dietは、重曹にくらべて優れているのか?このスタディはrenal acid loadを50%下げる等価のアルカリ食品と重曹をCKD stage 1、2の患者群それぞれに30日摂取してもらい、尿中の腎障害マーカーとされる分子(N-acetyl-beta-D-glucosaminidaseなど)を測定した。結果はCKD stage 1ではどちらも効果なし、Stage 2では両者ほぼ同効果だった。

 研究グループは、食品のほうがカリウムも多いし血圧低下効果もあるから、重曹よりも食品がいいかもしれないと言う。野菜や果物は、腎臓のみならず多くの面でおそらくヘルシーなはず(常識的にもそう)だが、このように科学的に示そうするのも大事かなとは思う。

 [2013年3月追加]CJASNにStage 4 hypertensive CKD患者を対象にした同様のスタディがでて、TCO2(HCO3のこと)は野菜より錠剤のほうが上がったが、腎障害の尿マーカーの改善は大差なかった(CJASN 2013 8 371)。野菜と果実にはKが多く含まれるが、血清Kにも差はなかった(アルドステロンが働いたせいか)。

 [2013年4月追加]動物モデルの論文。7/8腎摘ラットでNaHCO3投与が生理食塩水投与に比べてアンモニア産生を抑えC3活性を抑えた(JCI 1985 76 667)。5/6腎摘ラットにcalcium citrateとcaptoprilを投与し組織学的に傷害が抑えられた(KI 2004 65 1224)。2/3腎摘ラットで腎組織のH+量をmicrodialysisで測るとGFR低下に相関していた(KI 2009 75 929)。2/3腎摘ラットでH+貯留に相関したendothelin-1とaldosteroneをアルカリ投与が緩和した(KI 2010 78 1128)。

2011/08/25

suPAR

今週のjournal clubは二本の興味深い基礎研究の論文が紹介された。一つ目はカリウムチャネル遺伝子のひとつ(KCNJ5)の変異が細胞内へのカルシウム流入を介してアルドステロン産生と細胞増殖を起こすことを示した、アルドステロン産生副腎腫瘍の病態生理の一部を明らかにする論文(Science 331, 768-772, 2011)。

 この研究者は、遺伝性アルドステロン産生副腎腫瘍の家系を探し出し、腫瘍の遺伝子(exome)をくまなく調べた。そして共通するsomatic mutationを見つけ、その部位が生物種を越えて保存されていることを示した(進化の過程で保存されているということは、それだけ生存に重要と考えられる)。さらにたんぱく質構造解析により変異部位はチャネルの透過特異性に重要ということも示した。

 もう一つの論文は、FSGS(原因不明のネフローゼ症候群、治療法も確立していない)の原因に、circulating urokinase receptorが関与しているというもの(Nature medicine 17, 952-960, 2011)。FSGSは移植した腎臓にも起こるぐらいだから、この病気を起こす何らかの"circulating factor"(血中を流れる未特定の物質)があるに違いないと考えられていた。

 この研究者はすでに腎臓糸球体の足細胞の細胞膜にあるurokinase receptorが、細胞間器質のbeta-3 integrinなどを介して足突起のeffacementを起こすことを知っていた。さらに研究を進めて、urokinase receptorは細胞膜を離れて血中を循環することを突き止めた。

 そこで、①FSGSはcirculating factorによると考えられている、②urokinase receptorは糸球体病変を起こす、③urokinase receptorはserum soluble urokinase receptor(略してsuPAR)として血中を漂っている、という考えを総合して、④suPARがcirculating factorなのではないか?という推論を立てそれを証明しにかかった。

 調べてみると、FSGS患者の血漿には、原疾患を問わずsuPARの濃度が高いことが分かった。また患者血清を健康なヒトの足細胞に振りかけるとbeta-3 integrinが誘導されることが分かった。この効果はrecurrent FSGS患者の血清でより大きく、患者血清に抗suPAR抗体を混ぜると打ち消された。

 さらにsuPAR遺伝子(plaur)ノックアウトマウスを作製し、このマウスにsuPARを大量静注したり、wild typeのマウスにノックアウトマウスの腎臓を移植したり、さらにはwild typeのマウスにplaur遺伝子入りのプラスミドを組み込んでsuPARを異常発現させたマウスを作ったりして、suPARがFSGSを起こすことを美しく論理的に示した。

 これは、膜性腎症にPLA2Rが関与していることが判ったのに続き、難病であるネフローゼ症候群の病態解明につながる重要な論文だ。これからさらに、suPARがなぜFSGS患者で異常に発現しているのか、suPARを除去すれば病気は元に戻るのか(残念ながら今のところ血漿交換はFSGSには効かない)、など研究が進んでいくことだろう。

2011/02/08

RTA

 Noon lectureで腎臓内科医がRTAの話をした。彼女はうちの病院では珍しいHarvard graduateで、教育熱心で有名な先生なのだが、RTAは何と言っても複雑で、聴いている人はほとんど寝ているか苦笑するかしていた。私も正直難解と思ったが、聴きながら非常に面白い物の見方が得られた。さらに、理解を助ける三つのポイントも学んだ。
 面白い物の見方とは、アシドーシスのプロセスを尿細管細胞側(外側)からではなく、尿細管内腔(内側)に視点を置いて観察するということだ。糸球体を透過して濾し出された多くの溶質達が、あたかもシティマラソンのように一斉に内腔を走り出し、途中で「じゃあこれで」と消えていったり(再吸収)、途中から「やあどうも」と参加してきたり(排泄)するイメージ。
 それを踏まえて、三つのポイントについて。一つは、NAE(net acid excretion)という概念だ。
      
NAE = NH4 + titratable acid - HCO3

 腎臓が排出する酸はこの三つにより決定される。遠位RTAは前者二つの異常、近位RTAはHCO3再吸収の異常。NH4イオンは、尿アニオンギャップまたは尿浸透圧ギャップにより推定できる。titratable acidは、尿pHに反映される(NH4についたプロトンは固くアンモニアに結びついて離れず、尿中プロトンのほとんどは滴定酸由来なため)。

 二つ目は、aldosteroneの作用だ。遠位尿細管の詳しいレセプターはさておき、基本的にこのホルモンのおかげで遠位尿細管でNa吸収が起こり、結果生じるluminal negative driving force(尿細管内腔が陰性にチャージされ、それにより陽イオンを引き込もうとする力)によりプロトンとKが排泄されるというイメージが頭に入った。これによりType 4 RTAの機序、それにType 4 RTAが高K血症をきたすことが容易に説明できる。

 三つ目は、HCO3 is a non-reabsorbable anion in distal tubuleという概念だ。あたかも高速道路のように、近位尿細管というexitを逃すとHCO3はそのまま再吸収されずに走りつづけるしかない。その結果、電気的中性を保つためNaを(Kも)遠位尿細管まで引き連れることになり、前述のaldosteroneの作用によりここでNa再吸収とK排泄が起こる。これが近位RTAが低K血症をおこす理由だ。