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2016/05/28

Impressive

 以前に競走馬のことを書いたが、その馬の左腎はハート型をしている。なぜかは知らない。馬は優しい動物だからということにしておくか。重量に統計的な左右差はない(Anat Histol Embryol 2013 42 448;数値上は左が少し大きいが)。

 それはさておき、アメリカにImpressiveという名前の馬がいた。馬に詳しい人には説明はいらないだろうが、ImpressiveはAmerican quarter horseという短距離(quarterはquarter mileに由来する)、乗馬、ロデオなどに使われる品種で1969年に産まれ、競争馬としては怪我のために脱落したが肉付きが良いためHalter(breederたちが種牡馬としての優秀さを見定めるショー)で人気を博し、種牡馬として2500以上の仔を産ませた。

 ところが80年代にはいりImpressiveの産駒に原因不明の麻痺を繰り返すものが多発した。痙攣でもなく、ウマ運動性横紋筋融解症でもなく、意識もあるのに突然ガクンと脚が立たなくなり、ひどいと呼吸筋麻痺で死に至る。痛みもなく、馬もどうして立てないのかわからず混乱する。乗馬している人も落馬する可能性があるので危ない。

 いまではSCN4A遺伝子(神経筋接合部にあって再分極をおこすvoltage-gated Na channel Nav1.4をコード)のコドン変異によるとわかっている。この変異により筋は常に収縮していることになるが、再分極しにくく不応になると麻痺が起こる。とくに高K血症(トレーニング後、アルファルファなど高Kの餌を食べた時)があるとKの筋からの流出が妨げられより再分極しにくくなる。このためこの病気はhyperkalemic periodic paralysisと呼ばれる。治療には炭水化物食、利尿剤など(Kを下げる)が行われる。

 常染色体優性遺伝でquarter horseの50頭に1頭の割合で生まれるが、その遺伝子変異がすべてImpressiveに行き着くと言われている。いまはホモ接合体を種牡馬にすることは禁じられていて、ヘテロ接合体についても各団体が登録抹消するかを検討しているが、業界としてはこの遺伝子を残したくないもののあまりにも数が多いので対応はまちまちなようだ。ただImpressiveの遺伝子すべてが抹消されるわけではない、あくまでもSCN4A遺伝子変異がH/H、H/Nなものだけだ。



2013/05/07

Furosemide use in the Derby

 先日は米国競馬の三大レースのひとつKentucky Derbyが行われた。ダートが泥々で混戦だったが最後にはOrbという馬が勝った。Kentucky Derbyは1870年代から続く歴史あるレースで、観客はドレスアップ(女性はつばの広い帽子をかぶる)し、Kentucky whiskeyで作ったMint Julepを飲むなど特別な慣習がある。

 ところで、競走馬は心肺機能の極限を追求するし、大地を蹴るたび気道が強い衝撃を受けるので、どうしてもEIPH(exercise-induced pulmonary hemorrhage)が起こりやすい。それで米国の多くの州では1970年代からfurosemide 350-500mgがレース前に静注されている。というか、このpracticeはKentucky Derbyで始まった。

 しかしこれにはEIPHの予防という意味もあるが、馬のperformanceを上げるという意味もある(軽くなるから)。低K血症、Ca2+喪失も心配される(レース翌日にカルシウムを注射するらしい)。それで、禁止している国も多いし、米国競馬界でもfurosemide禁止と容認で議論が続いている(New York Times Horse Racing Blog 2012/5/5)。