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2020/12/15

理想のPD液を求めて(イコデキストリンの歴史)

 結婚相手や就職先などと同様に、腹膜透析の透析液(PD液)にも下記のような「望まれる条件」があるという。しかし残念ながら、現在PD液にはグルコースとイコデキストリンの2種類しかチョイスがない。

 

(日腎会誌 2009 51 864)

 じつは、PDの黎明期からグルコースに代わるPD液は模索されていた。グルコースには体内吸収による除水効率の低下や血糖への悪影響だけでなく、糖やその代謝産物(glucose degradation products、GDP)などによる腹膜障害などの害が懸念されるからだ。

 アミノ酸含有PD液は、除水効率ではグルコースに引けを取らないが、高BUN血症とアシドーシスが問題になる(精製が難しいため、価格も)。台湾など海外ではNutrineal®として承認されているが、その使用は低栄養患者に限られている。

 グリセロールも、グルコースよりも急速に吸収されてしまい製品化には至らなかった。多分鎖ポリグリセロールPD液はラットに試されたが(Perit Dial Int 2013 33 15)、その後ヒトに応用されたという話は聞かない。

 他にも1980年代には牛乳由来の「ポリペプチドPD液」なるものが開発され(ASAIO 1986 32 550)、1990年代にベルギーで患者に応用された形跡はあるが(Perit Dial Int 1994 14 215)、商品化には至っていないようだ。

 結局、グルコース濃度を限ったり(日本は高濃度の4.25%PD液を使わない)、中性・低GDPのPD液にしたりといった工夫はあるものの、「非グルコース含有PD液」となると未だにイコデキストリンしかない。

 そう考えると、イコデキストリンPD液は数少ない「成功事例」といえる。その開発経緯を共有するので(Perit Dial Int 1994 14 S5、Perit Dial Int 2011 31 S49)、あらたなPD液開発のヒントになれば幸いである。


☆ ★ ☆


 イコデキストリンの元になったのは、トウモロコシ由来のマルトデキストリン、キャロリーン(Caloreen®)である。元々は栄養剤だったが、これをPD液に応用できないかという取り組みが、1980年代の英国マンチェスターで始まった。


(こちらより引用)


 デンプンを加水分解して生じるマルトデキストリンには、さまざまな分子長の重合体が混ざっている。そこで、「サイズ排除クロマトグラフィー」による分画をおこなうと、下図のような分布がみられた。


(前掲論文より引用)


 上図には、分子量1kDaと20kDaのピークがある。有機溶媒により分画したところ、前者はすぐさま体内に吸収されてしまった。しかし、後者(ギリシャ語で20を意味するicasaに因み「イコデキストリン」)では除水が維持され、血中への吸収も少なかった。

 その後、ポリマーごとの分子量を揃えるために重量平均分子量Mw・数平均分子量Mn・分子量分布(MWD)などを考慮して試行錯誤がなされた。その結果、新技術「膜分画法」などにより、ついに安価で再現性の高い7.5%イコデキストリンPD液が完成する。


前掲論文より引用
(新しいピークがイコデキストリン)

 しかし、その道のりは簡単ではなかった。1988年には、開発に関わってきたFisons社が撤退。そこで、Caloreen®の特許保持者Jerry Milnerが起業家Kevin Leechの支援を受けてMLラボラトリーズを立ち上げ、リバプール工業団地の片隅でなんとか研究が続けられた。 

 また、初期の開発段階では1施設33人の腹膜透析患者がのべ11の治験に参加した。幸い健康被害は最小限(数例に無菌性腹膜炎がでた)だったが、こうした文字通り献身的な協力と信頼関係があってこそ、製品化と承認にこぎつけることができた。

 その後、Inveresk Research International社と提携してMIDASスタディ(KI 1994 46 496)が行われ、治験が終了した1992年にさっそく英国で認可が下りる。欧州でもすぐに認可され、米国は遅れたが2002年に認可され(日本は2003年販売開始)、現在に至る。


☆ ★ ★


 いかがであろうか?断っておくが、患者の残腎機能や腹膜性能が低下してPDを離脱することが敗北なのではない。「PDファースト」よりも「患者ファースト」であり、病状やライフスタイルにあわせて適切に腎代替療法を選ぶことが大切なのは言うまでもない。

 しかし、PDに技術的な改善余地があることもまた事実である。イコデキストランは、グルコース液のみではPD離脱していたであろう患者の体液管理を改善した。しかし、まだそれだけでは十分とは言えない。

 英国でのイコデキストラン承認から28年。その間、小惑星から2度もサンプルが届くようになった。「胸アツ」エピソードの多い(こちらも参照)PD領域だから、不可能に思える「理想のPD液」の開発も本気でやれば実現するのではないか。筆者はそう信じたい。



(こちらより引用)


2020/12/08

炎症性貧血とジルチベキマブ

 先日、米国の血液透析患者の炎症性貧血に対して抗IL-6ヒトモノクローナル抗体のジルチベキマブの効果を調べた第1/2相試験が米国腎臓内科学会誌に発表された(doi:10.1681/ASN.2020050595)。

 IL-6といえば「急性期反応」を引き起こす重要なサイトカインであり、わが国で発見されていち早く抗IL-6Rヒト化モノクローナル抗体・トシリズマブが開発されたことでも知られている(現在は抗IL-6Rヒトモノクローナル抗体・サリルマブもある)。

 急性期反応には有名な「C反応蛋白(CRP)」だけでなくヘプシジンなども含まれ、IL-6は炎症性貧血に重要な役割を果たす。実際に、トシリズマブやサリルマブでリウマチ患者の貧血が改善するのはその道では常識だった。

 ジルチベキマブはIL-6の受容体ではなくリガンドに対する抗体で、AstraZeneca傘下のMedImmuneとWuXi AppTecの合弁ベンチャーにより抗リウマチ薬として開発された。しかし現在では、Novo Norvisk傘下のCorvidiaにより腎領域で治験されている。

 筆者が知る限り治験は2つあり、1つはCKD3-5患者を対象に月1回7.5、15、30mg皮下注してCRPやproNT-BNPなどの低下を調べる1/2相治験RESCUE(NCT03926117)。そしてもう1つが上述の治験だ。

1. 治験の概要

 対象はESA抵抗性指数(エリスロポエチン[U/kg]とHgb[g/dl]の比)が8以上の貧血ある成人の血液透析患者。それに加えて、①IL-6値が4pg/ml以上、②TMPRSS6(別名マトリプロテアーゼ2)のrs855791多型も条件だった。

 TMPRSS6は膜たんぱく質で、肝細胞表面でヘモジュベリンを分解している。ヘモジュベリンが分解されると、ヘプシジン遺伝子HAMPをONにするBMP複合体が作られない。ヘプシジンが抑制されるとフェロポーチンが細胞表面によく出るので、鉄の輸送・利用がされやすくなる。


(Haematologica 2009 94 840より)


 上記の多型があると、TMPRSS6のIL-6に対する反応が高まるのだという(Corvidia内部データ)。そこで、とくにIL-6阻害によるヘプシジン抑制・貧血改善効果が見込めるということでこの多型が治験参加の条件になっている。

 実際の患者は61人。4群に分かれて、それぞれプラセボ・2・6・20mgの透析時静注を14日ごと12週間受けた。ただし、人数が少ないためか群ごとの患者背景には違いがあり、介入群で女性・黒人・人工血管グラフトの比率が高かった。また、高感度CRPも0.4・0.6・0.9・1.3mg/dlと、用量の多い群ほど高かった。

2. 結果

 10-12週後に、hsCRPは有意低下、ヘモグロビンは約1g/dl上昇(有意差つかず)、ESA抵抗指数は有意低下(6・20mg群はp<0.05、用量反応についてのP-DR<0.01)。ヘプシジンは4週後には低下傾向(p=0.08)も、鉄用量変更が可能になった12週後にはまちまちだった。


JASNより引用
(*はプラセボとp<0.05、†はP-DR<0.01)


 安全性はというと、皮下注射ではないので局所反応はなかった。しかし、34週までの観察期間までふくめると、6mg群と20mg群でそれぞれ2人の患者が死亡していた(敗血症、突然死)。治療との関連はないとされ、死亡率は米国統計であるUSRDSデータの平均よりも低かった。

3. 感想

 ペニシリン発見者フレミング卿の師であるライト卿は、「将来の医者とは、免疫者のことになるだろう」とよく語っていたという(アンドレ・モロワ『フレミングの生涯』より、邦訳は1959年)」。炎症は感染症や膠原病に限った病態ではなく、本来はすべての医者が扱うべきテーマなのだろう。

 1/2相で、無関係とはいえ死亡例もあった本治験がこうして発表された背景にも、炎症に「うまいこと」効く薬の開発を応援する意図があると思いたい(あのHIF-PH阻害薬も、炎症そのものは改善しないそうである)。

 また、IL-6は新型コロナウイルスにおいても病態に大きく関与しているといわれ、この経路をさまざまに阻害してサイトカイン・ストームを緩和できないか検討されているのは周知の通りだ(doi:10.1016/j.cytox.2020.100029)。


(こちらより引用)

 IL-6にはじつは抗炎症作用もあるなど、免疫は複雑だ(Medical Hypotheses 2020 144 110053の著者らは、COVID感染へのIL-6阻害には否定的のようだ)。しかし、フレミングがペニシリンの発見に至ったように、努力していればいつかは何かにうまく使える薬ができるはず。筆者は、そう信じたい。






2020/12/04

FIDELIO-DKDスタディ

 「ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)をARBまたはACE阻害薬(ACEI)に追加すれば、eGFR低下率を抑えられるか?」という問いは、大規模試験で未検証であった。それで、「AKIと高K血症をおこさなければ使ってよい」と暗然ながら了解されていた。

 しかし昨日、2型糖尿病をもつCKD患者約5600人をランダム化して新規MRAフィネレノンの追加効果を調べた多国籍スタディ、FIDELIO-DKDスタディが発表され(NEJM 2020 383 2220)、平均2.6年のフォローアップでeGFR低下(40%以上の増悪)などが介入群で有意に低下していた。


ベートーベンが完成させた唯一のオペラ、フィデリオ
(Wikipediaより引用)


 日本も参加したスタディであり、認可は時間の問題だろう。フィネレノンはカリウムが上がりにくい「非ステロイド選択的MRA」だそうで、そうした治療選択肢が増えるのは喜ばしいことである。

 ただ、(AKIや高K血症になった患者を紹介されるかもしれない)腎臓内科医としては、どうしても慎重にならざるを得ない。そこで、患者背景や有効性などについて思いつく以下の4点を考察したい。


1. eGFR


 まず、本スタディはeGFR25ml/min/1.73m2未満を除外している。「リアル・ワールド」においても、腎臓内科外来などではCKDが4-5期と進行する過程でRAA系阻害薬を中止せざるを得ない(透析開始後に再開)ことがよくある。認可時にどのような禁忌・慎重投与がつくにせよ、こうした例に開始する場合は注意が必要だろう。


2. ARB/ACEI 


 また本スタディでは、ほぼ全例がどちらかを「添付文書の範囲内で患者が忍容できる最大量(maximally tolerated labelled dose)」内服してランダム化を受けている。しかし、添付文書上の最大量を内服していたのはACEI群の約22%(咳のためか?)、ARB群の約55%であった。

 そうした患者で本当にACEI・ARBを増やせなかったのか、フィネレノンだったからこそ追加することができたのか、(添付文書の最大量まで使ってから別のを追加することの多い)筆者としては少し疑問である。


3. K降下作用のある薬


 K降下作用のある薬がどのように併用されていたかも気になるところだ。まず利尿薬は半数以上が内服していた。また、吸着薬(こちらも参照)はベースラインで約2%、スタディ開始後は介入群で10%(プラセボ群は6%)に使われていた。

 しかし筆者が注目したのは、両群ともベースラインで患者の約64%がインスリンを使用しており、彼らの多くはスタディ開始後に導入されていたことである(表S3によれば、患者の約47%とある)。

 患者のベースラインHgbA1cは平均7.7%と「あと一歩」なので、インスリンのよい適応だろう(そう考えてスタディを組んだのなら流石だが・・交絡には留意が必要だろう)。逆に、RAA系阻害薬を増量したいがカリウムが気になる場合は、インスリンも考慮してよいのかもしれない。


4. SGLT2阻害薬・GLP1受容体アゴニストとの関係


 最後になるが、じつは本スタディのサブ解析では、残念ながらSGLT2阻害薬・GLP1受容体アゴニストの併用患者におけるプライマリ・アウトカム発生率が介入群よりプラセボ群でむしろ低かった(ただし有意差はなく、併用患者数はそれぞれ全体の10%未満であった)。

 今となっては、「ARB/ACEIを忍容最大量内服しているがSGLT2阻害薬・GLP1受容体アゴニストを内服していないDKD患者」にまず追加すべきは、MRAよりもSGLT2阻害薬かGLP1受容体アゴニストなのかもしれない。

 だから、論文著者もSGLT2阻害薬・GLP1受容体アゴニストを内服している患者にもMRAを追加する利益があることを示したかったと推察される(考察でも、CREDENCEスタディとの違いが強調・詳述されている)。

 それが示せなかったのは残念だが、RAA系阻害とSGLT2阻害は相殺的でなく相補的と思われる(個人的には、そう思いたい)。これについては、今後も検討されていくことだろう。

  

 ともあれ、CKD診療(とくに蛋白尿のあるDKD)の本丸であるRAA系阻害において、今まで微妙だったARB/ACEI+MRAの組み合わせが「アリ」になったなら朗報だろう。結果待ちのFIGARO-DKDスタディにも注目したい。



モーツァルトのオペラ、フィガロの結婚
(Wikipediaより引用)


2020/12/02

「知らん」じゃアカン、siRNA

 このほど、米国FDAがsiRNA医薬品のルマシラン(Oxlumo®)を原発性シュウ酸尿症1型(PH1、こちらも参照)に認可した。そこで、本稿でもsiRNA医薬品と、ルマシランの治験であるILLUMINATEについて解説したい。


1. siRNA医薬品


 si(small interfering)RNAとはRNA干渉を起こす20塩基前後の短いRNAのことで、ターゲットとなるmRNA配列(センス)とそれに相補的な配列(アンチセンス)の2本鎖RNAからなる。

 siRNAは細胞内で1本鎖のアンチセンスのみになり、アンチセンスが結合した標的mRNAはRISC(RNA-induced silencing complex)によって切断される(これを、RNA干渉という)。これにより、遺伝子自体を変えなくても、その転写翻訳を阻害することができる。


(Wikipediaより引用)


 siRNAは細胞内で作用するため、いかに細胞膜を通過させるかが鍵であった。しかし、RNAの末端にN-アセチルガラクトサミンを付加することで、アシアロ糖タンパク受容体から選択的に肝細胞に取り込ませることができるようになった。

 この技術は米国アルナイラム社が開発し、それにより肝臓の遺伝子をターゲットにしたさまざまなsiRNA医薬品が作られている。最もよく知られたインクリシランは、肝細胞のPCSK9遺伝子mRNAを阻害することで、LDL受容体が肝細胞表面に残りやすくなる。


(Cardiovasc Res 2020 116 e136より)


 ORION9-11スタディ(NEJM 2020 382 1507、NEJM 2020 382 1520)では初回・3ヵ月後・以後6ヵ月後の治療でも効果が持続し、PCSK9遺伝子が持つLDL低下以外の作用も抑制する可能性が示唆されている(Cardiovasc Res 2020 116 e136)。

 パティシランは、TTR遺伝子mRNAを阻害することで肝のトランスサイレチン産生を抑制し(APPOLOスタディ、NEJM 2018 379 11)、ギボシランはヘム代謝に関わるALAS1遺伝子mRNAを阻害する。

 前者はすでに日本でも家族性アミロイドポリニューロパチーに認可されており、後者もまた急性肝性ポルフィリン症に対して昨年11月にFDAで認可されている。そしてこのほど、PH1の原因であるAGXT遺伝子mRNAを阻害するルマシランが認可された。


2. ILLUMINATEスタディ


 6歳以上を対象にしたILLUMINATE-A、6歳未満を対象にしたILLUMINATE-B、年代を問わず腎障害患者(血液透析も含む)を対象にしたILLUMINATE-Cスタディがあり、AとBの速報は10月のヴァーチャル米国腎臓学会でも発表された(Cは2021年に結果が出る予定)。

 ILLUMINATE-Aスタディは、39人を介入群2:プラセボ群1にランダム化し、平均年齢は18歳(6-60歳)、尿中シュウ酸排泄は1.8mmol(160mg)/24時間/1.73m2、eGFRは80ml/min/1.73m2だったが8割にグレード1以上の腎石灰化がみられた。

 スタディデザインはやや複雑で、介入群は3mg/kg皮下注を0・1・2・3・6・9・12・・・月目に受けた。いっぽうのプラセボ群は最初6ヶ月プラセボで、そこから追いかけるように6・7・8・9・12・15・・・月目からルマシランを受けた。

 すると、両群ともルマシランの開始とともに尿中シュウ酸排泄が低下・維持される下図のような平行四辺形グラフがみられた。


(こちらより引用)

 また、短期間のデータではあるが、両群ともルマシラン開始後には結石イベント発生率の低下がみられた(介入群は開始前12ヶ月で3.19件/人・年だったのが0.85件/人・年、プラセボ群も開始前12ヶ月で0.54件/人・年だったのが0.17件/人・年)。

 有害事象は、重大なものは介入群に1件あった(尿路感染症からの敗血症)が、治療とは無関係とされた。重大でないもののうちでは、介入群のほうが注射部位の局所反応がおおくみられた。

 いっぽう、6歳未満を対象にしたILLUMINATE-Bは、患者18人全員がルマシランを受けた(10kg未満、10-20kg未満、20kg以上かで量に微妙な違いあり)。蓄尿は困難なためシュウ酸尿は随時尿(クレアチニン比)で評価したが、やはり下図のような低下・維持がみられた。


(こちらより引用)


 さらに、6ヵ月後の超音波検査による評価では、8人で腎石灰化が改善(両側3、片側5)していたという。シビアな有害事象はみられず、シリアスのうちではウイルス感染症が1件あったが治療に無関係とされ、それ以外は注射部位の局所反応などだった。


 筆者は正直、siRNAが何の略かも知らなかった。しかし、すでに腎疾患にも認可されている薬であり、方法論的にはほかの腎疾患にも応用できそうだ。腎特異的なトランスポーターを通すようsiRNAを修飾する試行錯誤が、世界のどこかで(日本でも?)されていると信じたい。 



 [2021年4月1日追記]上述のILLUMINATE-A試験の結果がきょうNEJMに掲載された(NEJM 2021 384 1216)。

2020/10/02

(EMPEROR Reducedと)DAPA-CKDスタディ

 2019年4月にCREDENCE(こちらも参照)により「糖尿病のある」CKD患者に示されたSGLT2阻害薬の腎保護作用。しかし、当時から同薬は「糖尿病のない」CKDに対しても有効であろうと推察されていた。

 そしてついに、EMPEROR Reduced(doi:10.1056/NEJMoa2022190)、DAPA-CKD(doi:10.1056/NEJMoa2024816)スタディが発表されたので、順を追って説明したい。


1. EMPEROR-Reducedスタディ


 EMPEROR-Reducedは、EFの低下した心不全(HFrEF)患者を対象にエンパグリフロジン(以下、エンパ)の有効性を調べた日本を含む他国籍RCTだ。ダパグリフロジン(以下、ダパ)の有効性を示した前年のDAPA-HF(NEJM 2019 381 1995)よりも左室収縮能が低い患者を対象にしたことを強調した命名である(平均EF 27%、NT-proBNPは1900pg/ml)。

 両群あわせて3730人の患者が「その国の標準的な」心不全治療を受け、介入群にはエンパ(10mg/d)、対照群にはプラセボが投与された。利尿薬がどのように使われたかは不明だが(ARNIとMRAのみ記載がある)、参考までに日本の心不全ガイドラインに挙げられた利尿薬の推奨用量を以下に載せる。


急性・慢性心不全診療ガイドライン
(2017年改訂版)


 その結果、プライマリ・アウトカムの心血管系死亡と(初回)心不全入院で有意差がみられた(介入群15.8/100人・年、対照群21.0/100人・年、p<0.001)。DAPA-HFと同様、糖尿病の有無に関わらず有効性が示された(糖尿病患者・非糖尿病患者のハザード比は0.72・0.78)。

 それだけでなく、セカンダリ・アウトカムの一つ、eGFRの低下率を調べると、有意差がみられた(介入群-0.55ml/min/1.73m2/年、対照群-2.28ml/min/1.73m2/年、p<0.001)。そして、図にあるように、RAA系阻害薬に見られるような「eGFRが開始直後下がって維持される」パターンも示された。


(赤太線は筆者)


 ただし、本スタディは次に挙げるCKD-DAPAと違い、心不全患者を対象にしたものである。よって、患者の平均eGFRは約61ml/min/1.73m2(約半数が60未満だが、20未満は除外)で、蛋白尿などのデータはなかった(除外基準にも含まれてはいない)。

 なお、SGLT2阻害薬は原理的には低血糖を起こしにくいはずであるが、血糖70mg/dl未満で誰かの助けを必要とした低血糖イベントは、非糖尿病患者の介入群で7件(0.7%)報告があった。ただし、対照群でも6件(0.6%)報告されていた。


2. DAPA-CKD


 DAPA-CKDは、DAPA-HFで(糖尿病の有無に関わらず)心不全患者に対する有効性が確認されたダパ10mg/dを、(これまた糖尿病の有無に関わらず)CKD患者に対して用い、腎保護作用がみられるかを確かめたものだ。腎臓内科としては、EMPEROR Reducedよりもこちらのほうが重要であり、詳しめに解説したい。


■対象患者は?


 日本を含む21カ国386施設で、eGFRが25-75ml/min/1.73m2で尿Alb/Cr比が0.2-5.0の成人CKD患者(4週以上ACEI/ARBを内服している)をリクルート。除外基準にADPKD・ARPKD・ANCA関連腎炎・ループス腎炎・NYHA4度の心不全、12週以内の心血管系イベント/治療などが含まれた。

 その結果、両群あわせて4304人があつまった。平均年齢は約61歳、男性約2/3、アジア系約1/3。平均eGFRは約43ml/min/1.73m2(60以上が約10%、45-60が約30%、30-45が約40%、25-30が約15%)、平均尿Alb/Cr比は約0.9(約半数が1.0以上)だった。

 糖尿病かどうかは問わなかった(ただし1型糖尿病は除外された)が、2型糖尿病患者は全体の約2/3を占めた。平均血圧は約130/70台mmHg、ACEI/ARBに加えて約4割が利尿薬を内服し、カリウム値は平均4.6mEq/lであった。


■アウトカムは?


 プライマリ・アウトカムは、①eGFR低下(50%以上の低下が28日以上あけた再検でも持続)、②末期腎不全(28日以上の維持透析依存、腎移植、またはeGFR15%未満が28日以上あけた再検でも持続)、③腎・心血管系による死亡、のいずれかが最初に起きるまでの時間。

 セカンダリ・アウトカムは、以下の3つ。A:上記①-③(③は、腎による死亡のみ)すべてを複合した時間(①のあと②になって③になる患者もいるので)、B:心血管系アウトカム(心血管系による死亡、心不全入院)すべてを複合した時間、C:総死亡だった。

 また、安全性については、一般的な副作用のみならず、体液貯留・低血糖・骨折・足切断・ケトアシドーシス・フルニエ壊疽などSGLT2阻害薬との関連が懸念されるものも特に調べられた(フルニエ壊疽は、全例を内部安全調査グループが検証した)。


■結果は?


 まず、結果が明らかすぎて、早期中止になった。

 平均2.4年の観察期間で、プライマリ・アウトカムに挙げたイベント①~③が対照群の14%にみられたのに対し、介入群では9%。ハザード比は0.61(信頼区間0.51-0.72)、p<0.001、NNT(1人をイベントから救うために何人の患者に薬を飲ませればよいか)は19だった(信頼区間15-27)。

 ①②③の内訳は下記(*をつけた項目はハザード比の信頼区間が1未満、+をつけた項目は1をまたいだ)。


          介入群  対照群
eGFR低下*     5.2% 9.3%
末期腎不全*  5.1%  7.5%
腎関連死亡    <0.1%   0.3% 
心血管系死亡+  3.0%    3.7%

 
 eGFRの低下傾向をグラフにすると、やはり「最初さがって維持される(低下率が緩徐になる)」傾向がみられた。


表3を元に作成
(青:介入群、赤:対照群)


 また、セカンダリ・アウトカムも、下に示したようにA・B・Cのいずれも介入群で有意に低かった。


  ハザード比(信頼区間) 
A   0.56(0.45-0.68)
B   0.71(0.55-0.92)
C   0.69(0.52-0.88)


■サブ解析は?


 プライマリ・アウトカムのハザード比は糖尿病の有無にかかわらず低かった(糖尿病群で0.64、非糖尿病群で0.50;信頼区間はそれぞれ0.52-0.79、0.35-0.72)。また、eGFRでも差はなく(45ml/min/1.73m2以上で0.63、以上で0.49;信頼区間はそれぞれ0.51-0.78、0.34-0.69)、蛋白尿の多寡でも差はなかった(尿Alb/Cr比1以下で0.54、1以上で0.62;信頼区間はそれぞれ0.37-077、0.50-0.76)。

 年齢(65歳以下・以上)・性別・血圧(収縮期血圧130mmHg以下・以上)などでも有意差はなかったが、地域では唯一「アジア」がハザード比の有意差がギリギリ(0.70、信頼区間0.48-1.0)であった。ただ、人種の「アジア系」は、それほどではなかった(0.66、信頼区間0.46-0.93)。


■安全性は?

 
 有害事象による内服中止、重度有害事象、上述のSGLT2阻害薬で懸念される有害事象の発生率は以下の通りであった。とくに懸念されたフルニエ壊疽は、介入群では0件で、むしろ対照群で1件みられた。


          介入群 対照群 
内服中止          5.5%   5.7%
重度有害事象  29.5%   33.9%
足切断      1.6%  1.8%
DKA(確定+疑い) 0.0%  <0.1%
骨折       4%   3.2%
腎関連有害事象  7.2%  8.7%
重度の低血糖   0.7%  1.3%
体液欠乏     5.9%  4.2%


3. 感想


 冒頭にも触れたように、SGLT2阻害薬は以前から「糖尿病の有無に関わらず心不全・CKD患者で有益であろう」と憶測されていたので、これらのスタディ結果は納得といえる。

 米国FDAは、DAPA-HF発表から約半年後の今年5月にダパを心不全に認可している(こちらも参照)。エンパが心不全に、ダパがCKDに認可されるのは時間の問題だろう。その後、日本をふくむ各国でも使用は広がると思われる。

 個人的には、2013年に「こんな薬があるのか!」と驚いてから(こちらも参照)、糖尿病→糖尿病のあるCKD→心不全→CKDと適応がひろがっていくのを同時代に見られていることをエキサイティングに感じる。

 ・・というのも、そうではなかったかもしれないからである。

 SGLT2阻害薬は19世紀フランスでリンゴの樹皮から抽出された(Annales Academie Science 1835 15 178)フロリジンを祖にもち、〇〇フロジンと呼ばれるのもそのためである。

 しかし、尿糖を起こすことはすぐにわかったが、SGLT阻害作用が示されるまで100年以上かかった(Am J Physiol 1973 224 552)。この発見がなかったら、T-1095(日本の製薬会社がつくったプロトタイプ)などの試行錯誤を経て現在に至ることはなかっただろう。

 今後も、こうした「科学的な本草学」ともいうべき方法で(できれば自分とその患者が生きているあいだに)サクセス・ストーリーがたくさん起きるといいなと思う。


 


 

2019/12/04

速報 ADVOCATE試験

 2017年に速報した、C5a受容体阻害薬の小分子、アバコパン(こちらも参照)。その後行われていた、ANCA関連血管炎に対する第3相試験ADVOCATE(NCT02994927)が、先月終了した。そして11月25日には、はやくも製薬企業から速報が発表された(こちらなど)!




 さっそく紹介したい・・が、最初に、このニュースリリースが論文ではないことをお断りしておく(製薬会社がみずから発表しているのだから、当然ながら記事にはよいニュースしか書かれていない)。なお、筆者はこれら製薬企業に利益の相反を持たない。

 まず、治験情報によれば、ADVOCATEは、ANCA抗体はMPOかPR3かを問わず、BVASスコア(下表も参照)で①大項目1つ以上、②小項目3つ以上、③腎項目2つ(蛋白尿・潜血尿)のいずれかがあり、eGFRが15ml/min/1.73m2以上の患者が登録された(日本でも行われた)。速報は「20カ国の331人」というが、実際の年齢やANCA抗体・国の内訳、ベースのBVASスコア・腎機能などは未公開だ。


出典はこちら


 プロトコルは、いずれの群も①RTX4週間または②シクロフォスファミド12週間→アザチオプリンが入ったうえ、介入群はアバコパン(30mg1日2回)とプレドニゾンのプラセボ、コントロールの標準治療群はプレドニゾン(60mg/dから20週で漸減)とアバコパンのプラセボを投与された。プレドニン開始量は多めだが、パルスはせず、30mg/dから年単位で漫然と使うよりも累積量は少ないだろう。

 結果であるが、「BVASスコア0」と「4週以上ステロイドOFF」で定義されたプライマリ・エンドポイントは、26週で標準治療群と非劣性(介入群72.3%、標準治療群70.1%、非劣性についてp<0.0001)、52週では、有意に優性すぐれていた(介入群64.7%、標準治療群54.9%、優性についてp=0.0066)。
 
 さらに、セカンダリ・エンドポイントのひとつであるeGFRは、26週・52週ともに介入群のほうが有意に上昇していた(26週では介入群5.8ml/min/1.73m2、標準治療群2.8ml/min/1.73m2、p=0.04;52週では介入群7.3ml/min/1.73m2、標準治療群4.0ml/min/1.73m2、p=0.02)。eGFRが15ml/min/1.73m2未満の患者が除外されているとはいえ、期待させるデータである。

 それだけでなく、ステロイドによる副作用をまとめた毒性指数(Glucocorticoid Toxicity Index、追記も参照)を両群で調べてみると、介入群で有意に低かった(増悪のみをカウントするCummulative Worsening Scoreは介入群で39.7、標準治療群で56.6、p=0.0002)。また、患者のQOLも介入群で高かった(SF-36とEuroQOL-5D-5Lが用いられた、数値は未公開)。

 ステロイドを使わないアバコパンのレジメンで、ステロイドの害を避けてしかもより有効に寛解できるなら、いいことづくめだ。あとは、アバコパン長期投与の安全性と、この試験の適応範囲を確認しておくことだろう。

 まず安全性であるが、プロトコル上、アバコパンのレジメンにはアバコパンを「何年続けたらやめる」といった期限が見当たらない(製薬会社にとってはいい話だろうが)。GTIが低く患者QOLが高いのはよいが、当然ながら副作用のない薬はないので、確認が必要だ。

 たとえば、おなじ補体阻害薬のエクリズマブで有名な、髄膜炎菌などナイセリア属への易感染性はどうか?アバコパンはmembrane attack complexの形成を阻害しないとされるが、これについてのデータは未公開だ。実際にどうだったかは来年論文が出るのを待たねばならない。

 次に適応範囲であるが、まずはスタディどおり「(GFRが15ml/min/1.73m2以上の例で)RTXまたはシクロフォスファミド後の維持として、ステロイドの代わりに、アザチオプリンと併用する」に限定されるだろう。しかしスタディでみられたGTIの低さとQOLの高さを考えると、ゆくゆくは「なんとなく(しかたなく)ステロイド」という使用を置き換える可能性もある。


 腎臓内科領域は自己免疫疾患を扱う他科に比べてステロイド依存が強い感もあるが、実際には「他の免疫抑制薬で恐ろしい感染症を起こすよりはまし」というネガティブな使用も多い。また、「ステロイドでなんとかなってる」と言いながら、じんわり確実に累積する毒性で多くの患者が命を落としているのかもしれない。

 今回の結果は、そこからやっと脱却できるチャンスにつながる可能性がある。

 なお補体阻害薬は、じつはアバコパンの他にもさまざまな創薬が試みられており、先日もその一つであるCRIg/FHがループス腎炎のMRL/lprモデルマウスでステロイドより優れた効果を示したと発表される(doi:10.1186/s12882-019-1599-0)など、ホットな領域だ。この新しいパラダイムで、これからより一層安全で有効な薬が登場することを期待したい。






[2019年12月11日追記]上記のステロイド毒性指数、GTIとは何か?調べてみると、ステロイド量を減らす(ステロイドに代わる)薬の治験での使用を意図してごく最近生まれたものだった(Ann Rheum Dis 2017 76 543)。GTI composite scoreは下記のように、9つの領域について31の項目からあてはまるものを選び、点数を総計する。項目や点数の重み付けは、19人のエキスパートによるコンセンサスで決められた。




 感染のグレードとは聞きなれないが、米国の国立がん研究所が出しているCTCAE(Common Terminology Criteria for Adverse Events)グレードだとすれば、以下のようになる。




 また、下記のリストはSpecific Listと呼ばれ、スコアと別に特記される(アステリスクをつけたものに関しては、上記Composite Scoreの最高点にもなる)。

BMI上昇*
糖尿病性網膜症*
糖尿病性腎症*
糖尿病性神経障害*
高血圧性緊急症*
PRES*
骨密度低下*
脆弱性骨折*
重度のステロイド筋症*
重度の皮膚症状*
サイコーシス*
ステロイドに起因する暴力行動*
その他の重症な神経・精神症状*
グレードIVの感染*
グレードVの感染*
副腎不全
消化管穿孔
消化性潰瘍
骨頭壊死
腱断裂
中心性漿液性脈絡網膜症
眼内圧上昇
水晶体嚢後部の白内障

 上記Composite Scoreを加点・減点したものは、改善分も加味するためAggregate Improvement Scoreと呼ばれ、マイナス36点から439点の値をとる。いっぽう増悪した加点のみ総計するのが、Cummulative Worsening Scoreだ。

 ・・・とまあ、極めて複雑だが、幸い計算アプリが開発中だ(デモをこちらから入手できる)。ADVOCATEにおける20点程度の両群間の有意差が臨床的にどれくらいなのか(どの領域にどのような差があったか、など)は、論文も待ちたい。

 それにしても、ステロイド毒性を客観的に評価する一般的なツールがいまだ存在しないというのは、驚くべきことだ。論文著者は、ステロイド毒性が「仕方のないこと(fact of life)」と諦められている現状を問題視してこの指数を作ったという。それだけでも、大事な一歩だろう。




2019/08/23

NPT2a阻害薬から見える未来

 近位尿細管トランスポーターで治療標的のものといえば、まずSGLT2を思い浮かべるだろうが、URAT1(こちらの追記も参照)、NHE3(こちらも参照、ただし腸管のNHE3に対する薬だが・・)なども実用化にむけて治験が進んでいる。そして今月はJASNに、NPT2aの阻害薬の報告が載った(DOI: 10.1681/ASN.2018121250)。

 NPT2aとは聞きなれないかもしれないが、近位尿細管にあるナトリウム(Na)とリン(iP)の共輸送体だ。NPT2aというからには他のファミリーメンバーもいて、NPT2bは腸管にあり、NPT3cはやはり近位尿細管にある(図はCJASN 2015 10 1257)。なお近位尿細管には別にPiT-2というナトリウム・リン共輸送体もあり、いずれも再吸収をおこなっている。




 今回でた実験は、PF-06869206というNPT2a阻害薬を、5/6腎摘したCKDモデルマウスに静注したものだ。NPT2aだけを阻害しても、上述のようにリンの再吸収は複数のトランスポーターによるので、リン排泄は増えないようにも思われる(おそらくそれが、いままでNPT2a阻害薬が作られなかった背景にあるのだろう)。

 しかし、蓋を開けてみるとリン排泄は増え、血中リン濃度は低下した。組織をみると、近位尿細管でのNPT2a発現が低下したのに対して、たとえばNPT2cの発現は代償性に増えていなかった(ただし定量化はしていないが)。また、NPT2aはナトリウムの共輸送体でもあるので、尿ナトリウム排泄も増えていた。

 つまり、この世にまたひとつ、新しい利尿薬の候補と、高リン血症の治療薬の候補が生まれたということだろうか?

 たしかにそれも大事だが、この実験から予見されるのはそれだけではない。筆者にとっては、少なくとも2つある。

 1つ目は、単にリンを下げるだけでないかもしれないことだ。腸管からのリン吸収を阻害する吸着薬とちがい、NPT2a阻害薬は近位尿細管細胞に直接作用する。そして、近年はFGF23・KlothoとPTHがNPT2a発現を調節する仕組みも解明されつつある(図はKI 2009 75 882、Front Endocrinol 2018 9 267)。NPT2a阻害薬は、こうしたCKD-MBDのホルモン軸に、独自の影響をおよぼす可能性がある。





 そして2つ目は、「(SGLT2阻害薬につづき)近位尿細管の負担を軽減して腎機能低下を抑制する薬」が生まれる可能性である。この実験は注射も1回だし、24時間後の変化しか見ていないが、おそらく連用した場合の腎機能への影響もとっくに調べられているに違いない。「NPT2a阻害薬による腎保護」がコンセプトとして通用すれば、剤形や安全性を高めるなどの課題は工夫すれば解決できるだろう(SGLT2阻害薬がそうであったように)。

 
 やはり、フロンティアというか、いま近位尿細管には「きてる」感がある。今後も勢いよくさまざまな標的分子が治療対象となってゆくだろう。きっと今頃、試行錯誤と努力を続けるどこかの研究室で、未来が生まれているに違いない(写真は伝説的なSF作家、ウィリアム・ギブソンの引用句、「未来はここにある、ただ均等に行きわたっていないだけだ」)。






2019/08/09

抗MRSA薬アップデート

 抗MRSA薬の第一選択と言えばバンコマイシンであり、それは血液透析患者においても例外ではない。むしろバンコマイシンは「1グラムのローディング+透析ごと0.5グラム」と、連日投与が必要な他の薬に比べて覚えやすく使いやすい薬と言える。しかし、そこで思考停止していた筆者の目を覚ます論文に出会った(CJASN 2019 14 1080)。

 まずは、バンコマイシン用量についてだ。ロー・フラックス膜のころはバンコマイシンは透析で抜けなかったので「15mg/kgを7-10日ごと」だったという。ハイ・フラックス膜になって現在の用量に落ち着いたが、その後も透析膜の性能は向上している(Neprol Dial Transplant 1997 12 2647)ので本来は量の見直しが必要だろう。また、透析の最後1時間で投与する場合にも増量が必要だ。

 透析間隔や体重・Kt/Vなどを考慮した「バンコマイシン用量計算機(Vancomycin Dose Calculator)」を用いて効率よく透析患者でトラフ15-20mcg/dlを得たという報告もあり(Clin Infect Dis 2011 53 124、図のPhase 3)、バンコマイシンが第一選択であり続ける限りはこうした計算機が有用かもしれない。




 「バンコマイシンが第1選択であり続ける?」・・それが次の問題である。

 よく効く第一選択薬も、使っていれば耐性がついてくるのが世の常。MRSAも2010年、耐性と考えるべきバンコマイシンのMIC(最小阻害濃度)が4mcg/ml以上から2mcg/ml以上に引き下げられた。いつかはVISA(バンコマイシンが「I」、つまり感受性が微妙なブドウ球菌)、VRSA(バンコマイシンが「R」、つまり耐性のブドウ球菌)が増えるだろう。

 では、バンコマイシン以外の抗MRSA薬にはどのようなものがあり、腎機能低下例にはどのように使用すればよいのだろうか?主なものを下記にまとめる。

・リポペプチド

 いまのところこのファミリーにはダプトマイシンしかないが、グラム陽性球菌の細胞膜を脱分極して殺菌作用を示す。心内膜炎・骨髄炎などに好んで用いられるが、呼吸器感染には無効だ(サーファクタントにより失活するため)。また検査試薬と反応するためPT-INRが偽性に伸びることにも注意が必要だ。

 ダプトマイシンは78%が尿中排泄されるので、クレアチニン・クリアランスが30ml/min未満の患者では48時間おきが推奨される。蛋白結合率86%であるが、透析患者でも透析ごとで投与できる(72時間あく時の増量も提案されているが、そのぶん筋障害などの副作用は増える)。

・オキサゾリジノン

 リネゾリドのみであったが、骨髄抑制などの副作用が少ないテディゾリドがファミリーに加わった。50Sリボソームサブユニットを阻害して静菌作用を示す。なおいずれもMAO-A、Bを可逆的に阻害するためSSRI、SNRIらとの併用時はセロトニン症候群に注意。

 いずれも腎排泄ではないため腎機能による容量調整は不要だが、リネゾリドの代謝産物は腎機能低下例で蓄積する(その害は明らかではない)。リネゾリドは30%が透析で除去されるので、透析患者でも用量は同じだ(ただし1日2回なので2回目は透析後)。

・リポグリコペプチド

 テラバンシンに、ダルババンシンとオリタバンシンが加わったファミリー。バンコマイシンに似た細菌細胞壁への静菌作用(ただし細胞壁への結合力は強い)に加え、ダルババンシン・オリタバンシンはダプトマイシンに似た細胞壁脱分極による殺菌作用を備えている。

 テラバンシンは76%が尿中排泄であり、クレアチニン・クリアランスが50ml/min未満の例では減量が必要だ。腎障害の警告があるが、薬自体の作用か、スタディの患者群がグラム陰性桿菌感染を合併していたためかははっきりしない。透析患者への用量は明記されていないが、透析ごとの使用が多い。

 ダルババンシン・オリタバンシンはどうか?ダルババンシンはクレアチニン・クリアランス30ml/min未満で減量だが、透析性があるため透析患者では減量は必要ない。いっぽうオリタバンシンは透析性もなく、クレアチニン・クリアランス30ml/min未満と透析患者では試験されていない。

・セフタロリン

 抗MRSA活性を付加されたセファロスポリン(第5世代とも言われる)。細菌性市中肺炎と急性皮膚感染にしか用いることができない。クレアチニン・クリアランス30−50ml/minで1/3の減量、15−30ml/minで1/2の減量、透析を含む15ml/min未満で2/3の減量となっている。
 

 このようにさまざまな新薬があるのは結構だが、こんな薬が「ガツンと鋭い切れ味、新発売!(下図は酒類のうたい文句)」などと宣伝され節度なく使用されては、耐性ができて大変だ。




 しかし、創薬した企業は投資家にいち早く利益をリターンしなければならず、そういう売り方もやむを得ない(売れなければ、次世代アミノグリコシドのプラゾマイシンを上市したのち今年4月に倒産したAchaogen社の二の舞いだ)。そんなわけで、こうした新規抗MRSA薬は米国で売れまくっている(下表は2018年10ヶ月間の売上、doi:10.1056/NEJMp1905589)。

セフタロリン    1.15億ドル
ダルババンシン   0.31億ドル
オリタバンシン   0.18億ドル
テディゾリド    0.32億ドル
テラバンシン    0.18億ドル

 前掲のニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン論文は、こうした商業モデルでは必要な新薬が持続的に作れず耐性をいたずらに増やすだけであるとして、非営利組織による開発モデルを提案している。今後、抗MRSA薬がどのように開発され処方されるようになるかにも、注目したい。





2019/07/18

速報 MENTORトライアル

 14日間も遅れて恐縮だが、7月4日付のニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシンにMENTORトライアルがでた(NEJM 2019 381 36)。原発性膜性腎症に対するリツキシマブとシクロスポリンの比較試験で、よい中間報告を受けて世界的に結果が注目されていた(こちらも参照)のだが、やはりよい結果だった!


(NEJMのツイートより)


上図にもあるように、参加したのは北米の原発性膜性腎症(生検で確定診断、約70%が抗PLA2R抗体陽性、RTX群の1例で抗THSD7A抗体陽性)で、3ヶ月のACEI/ARBによっても5グラム/日以上(平均約8グラム/日)の蛋白尿が持続する患者。平均年齢は約50歳、男性が約7割だった。

 介入はRTXが1000mg点滴を14日空けて2回。6ヵ月後に蛋白尿が25%以上減少したが完全寛解(下記参照)していなかった場合には、もう1クールだけ追加できた。シクロスポリンはトラフ125-175ng/mlを目指し、Cr 30%以上の上昇がみられた場合はプロトコルに従い減量した(それでもCr値が戻らなければ中止となった)。

 なお、RTXがmPSL100mgの前投薬を受けたものの、両群ともステロイドはレジメンに含まれなかった。

 結果は、完全寛解(蛋白尿0.3グラム/日以下+アルブミン3.5g/dl以上)と部分寛解(蛋白尿が50%以上減少して0.3-3.5グラム/日になった)が24ヶ月経過時にRTX群で60%と、シクロスポリン群の20%よりも有意差に多かった(非劣性を前提に組んだスタディであったが、より優れている結果になった)。

 副作用報告の割合は両群とも70-80%であったが、Grade 3以上ではRTX群で17%と、35%のシクロスポリン群より有意に少なかった。RTX群の主な副作用は点滴時のアレルギー反応と皮膚のかゆみなどで、シクロスポリンの主な副作用は消化器症状と腎機能低下であった。

 なお、RTXの販売会社が薬を無償供与していること、オープン・レーベルなこと(剤形が違うので無理もない)はさておき、RTX1回量は多く(ANCA関連腎炎などは375mg/体表面積m2)、血球減少や劇症肝炎などには注意が必要だ。またコントロール群であるシクロスポリンの中止基準は厳しめかもしれない。また、治験患者は比較的若く、80歳以上は除外されていた。

 それでも、「2回注射したらネフローゼが治る」なんて、夢みたいだ。わが国のリツキシマブ添付文書には「成人期に発症したネフローゼ症候群の患者に対する有効性及び安全性は確立していない」とあるが、書き換えられる日もそう遠くないと期待される。





[2019年7月24日追記]昨日、FDAがリツキシマブのバイオシミラー、rituximab-pvvr(RUXIENCE®)を承認した。同国のバイオシミラーとしては、2018年11月に認可されたrituximab-abbs(TRUXIMA®)以来2件目になる。ただし、1件目は腫瘍領域のみの適応申請であったのが、2件目はANCA関連血管炎の適応も通った。

 じつは、欧州のFDAにあたるEMAは、すでに6件のリツキシマブ・バイオシミラーを認可している。いっぽう米国はバイオシミラーの認可に保守的で、市場にでているバイオシミラーは数えるほどしかない。オリジナル企業の利権を守っているとも、創薬インセンティブを削がぬよう配慮しているとも言われる。下図によれば、日本のほうが多いほどだ。


(出典はこちら)


 そんなわけで、日本にもバイオシミラーは1件認可されており(リツキシマブBS®)、薬価は500mgで約12万円(オリジナルは約15万円)。前述のrituximab-abbsが治験中で、これが通れば2件目になるかもしれない(今回FDAを通ったrituximab-pvvrのほうは、試みられたようだが予定は立っていない)。

 ただし、少なくとも1件目は腫瘍領域のみの適応である。バイオシミラーが独自の適応を取得するとは考えにくいが、すくなくともオリジナルが持っている適応までは拡大しうる。また、オリジナルの治験がすすみ膜性腎症などにまで拡大すれば、バイオシミラーまで波及するかもしれない。今後の展開に注目したい。




2019/05/08

薬を変えてください、さもなければ・・

 「この薬をやめて(あるいは、変えて)もらえませんか?」――腎臓内科医なら、だれもが口にしたことのあるセリフだろう。フィブラート系、NSAIDs、PPI・・・状況によって、議論になるときもならないときもある。

 しかし、だいたい議論にならないのが、リチウムだ。リチウム以外の気分安定薬に変更してくださいとは、腎臓内科医からも気軽にはいえないし、精神科的にも変更は困難なことが多いからだ。

 だから、中毒などであれば輸液したり透析したりするが(こちらや、こちらも参照)、尿崩症などであれば、「水を飲んでください」というシュールな治療しか提案できないこともある。




 そんな中、「腎性尿崩症に新しい治療か?」という論文がJASNにでた(JASN 2019 30 795)。なんと、抗真菌薬のフルコナゾールに、水チャネルAQP2を集合管内腔により多く分布させる働きがあるらしいことが示されたのだ。

 AQP2は細胞内小胞と細胞膜の間を行き来して、バソプレシン→バソプレシン受容体(V2R)の支配を受けている。ところが、フルコナゾールはその支配と別に、AQP2そのものをリン酸化したり、細胞内骨格のアクチンを分解して小胞を細胞膜に近づけたりしている可能性がある(図は前掲論文より)。




 問題は、マウスに投与された80mg/kg(腹腔内への注射)という量である。というのも、フルコナゾールはすでに臨床で用いられている薬だが、低ナトリウム血症の報告はあまり知られていない。よほど大量に投与しなければ効果は薄いかもしれない。

(なお、フルコナゾールだけでなくケトコナゾールやイトラコナゾールなど「アゾール」系の抗真菌薬が、アルドステロン産生を抑制し高カリウム血症を起こすことは知られている;BMJ 2009 339 b4114)

 しかし、腎性尿崩症に有効な治療があまりないこと、フルコナゾールが「新薬」ではなく臨床成績が確立していることを考えると、おそらくドラッグ・リポジショニング(英語ではdrug repurposingとも、こちらも参照)で治験が組まれるだろう。

 また、フルコナゾールそのものでは効果が薄くても、AQP2を尿細管内腔に表出させる独自の機序がみつかったことで、フルコナゾールを改良した薬ができるかもしれない。読者のなかには、サイアザイドもループ利尿薬もそのはじまりが抗菌薬のサルファ剤だったことを思い出す方もおられるだろう(Arch Int Med 2009 169 1851も参照)。

 さらにいえば、ADPKDに対してトルバプタンなどでV2Rを抑える治療をしながら、その下流の細胞内でAQP2の内腔側への表出を保てれば、トルバプタンの副作用である多尿を押さえる道だって、開けるかもしれない(薬効を維持できるかは、検証されなければならないが)。


 筆者はながらく"less is more"、つまり薬を使わず(減らして)患者を治すのが最上という考えを信奉してきた。しかし、どうしても切れない薬というのはある。たとえば「リチウムによる腎性尿崩症ですね、ならばこの薬を足しましょう」というように、薬の副作用を薬で治す方法を考えることも大切だと痛感した次第である。




2019/04/22

Veverimer(ヴェヴェリマー)

 「薬のない製薬企業」というと、「薬ではなく幸せや健康、安心といった価値ををつくり提供する企業」、という意味の比喩表現かと思うかもしれない。しかし、ウォール・ストリート・ジャーナル(2018年10月31日付)にそう報じられたTricida社は、文字通り認可された薬が一個もないが、Venture RoundsとIPOで数100万ドルの資金を集めた。

 これは市場(とFDA)が治験中の「ある薬」に期待しているからである。筆者は腎臓内科医なので、読者のご賢察どおりそれは腎臓内科領域の薬で、名前をVeverimerという。先月に第3相がLancetに発表された(Lancet 2019 393 1417)ので、ご存知の方も多いだろう。第2相がCJASN(CJASN 2018 13 26)だったことを考えると、(市場をふくめた)インパクトの大きさがうかがえる。

 まず薬の説明をすると、VeverimerとはH+とCl-をどちらも吸着する、いわば「新世代」の樹脂である。吸着は二段階で、まずアミノ基にH+を吸着し、それにひきつけられる陰イオンのうち(小さくて腸管に豊富な)Cl-がより選択的に吸着されるように分子構造を工夫している。

 こんな薬はよほどの高分子化学のノウハウを持った人でないと作れないだろうが、実際Tricida社のCEOであるGerritt Klaernerは、Max Planck Institute for Polymer Researchを卒業している。そして何を隠そう、昨年の米国腎臓学会で祭りを起こした(こちらも参照)カリウム吸着樹脂PatiromerのRelypsa社の創立者でもある。Tricida社も、その流れで最初はTrilypsa社と呼ばれていた。

 そして治験についてPICOフォーマットで説明すると、P(患者)の治験対象はブルガリア、クロアチア、ジョージア、ハンガリー、セルビア、スロベニア、ウクライナと米国(米国は全体の約10%)の保存期CKD患者200人余りで、介入群の各データ(中央値など)は以下の通り。

年齢 62歳
白人 98%
男性 60%
糖尿病 61%
高血圧 97%
ACEI/ARB内服 67%
利尿薬(ループないしサイアザイド) 60% 
eGFR 29ml/min/1.73m2
HCO3- 17.3mmol/l
アルブミン尿 241mg/gCr(24.8mg/mmolCr) 

 なお、国をこのような選択にした理由は明記されていない。EU内で治験基準が統一されているとすれば、治験参加費の問題だろうか(資金は当然、Tricida社がだしている)。あるいは、このコホートでは重曹使用者が8-10%と少数だったので、重曹使用率の高い国を避けたのかもしれない。

 I(介入)はveverimerを6g/d、12週間。C(対照)はプラセボで、HCO3-濃度が18未満/以上の比率が同じになるようランダム化され、クロスオーバーはしていない。O(アウトカム)はHCO3-濃度が①4mmol/l以上上昇、または②22-29mmol/lを達成した患者割合だった。ほかに、アシドーシスによる骨や筋肉への害をみるため、身体機能なども比較している。

 なお測定はAbbott社のiSTAT®で採血後ただちに行われ、患者は採血前4時間は絶食にされた。絶食の理由は、アルカライン・タイド(alkaline tide)と呼ばれる食後の胃酸分泌の「反作用」で血中にHCO3-が放出される現象による影響を除外するためだ。

 結果、上記アウトカム達成者の割合は介入群で59%、プラセボ群で22%にくらべ有意に高かった。椅子から立ち上がるなどの身体機能検査でも有意差が見られた。なお副作用では消化器症状が多く、とくに下痢は介入群で9%、プラセボ群で3%だった。

 効果のある薬が増えたのは喜ばしいことだ。今後、重曹との差や、よりハードなエンドポイント(腎予後、生命予後)での効果が検証されたときに、「価格に見合った価値があるか?」という話になるのだろう。欧米で認可されれば、Patiromerのように日本でも治験されるかもしれない(ただし、パチロマーのように透析患者で用いられることはまず考えにくいが)。

 ポリマー技術が今後さらに応用されて、「腸管分子標的薬(または、利尿薬ならぬ利便薬)」の開発がさらに進むことが予想される。腎臓内科医も、腸管の生理学やチャネル(こちらも参照)に詳しくなる必要があるだろう(上述のアルカライン・タイドも、筆者は正直最近まで知らなかった)。





 なお創薬という意味で、化学の次はなんだろう?おそらく生物製剤なのだろう(遺伝子もまた、書き換えと合成の可能な「ポリマー」のひとつだ)。倫理的な障壁や、環境面への影響が懸念されるのでその時代はすぐには来ないと思われるが、いずれ「降圧菌」「吸着菌」といった治療ができるようになるかもしれない。
 

2018/11/02

IgA腎症アップデート

「IgA腎症の治療は、かつてないほどエキサイティングな時期を迎えています。もうすこしで、よい治療がうまれると思います。」

Q:2018年の米国腎臓内科学会で、講演者の女性がこう話したのはなぜでしょう(写真は、サンディエゴでパーティを楽しむ人々)?




 IgA腎症の治療は、日本と海外で大きく異なる。そして、2012年KDIGOガイドラインの推奨に従ってしまうと、確立したものがACEI/ARBくらいしかない(こちらも参照)。糖尿病性腎臓病にしても、IgA腎症にしても、コモンすぎると原因が多すぎて、全てにあてはまるとなると最大公約数的な治療に限定されてしまうのかもしれない。

 しかし、そんななかでも近年はIgA腎症の病態解明がすすんで、潜在的な治療ターゲットもふえてきた。

 以前にも言及されたように、粘膜免疫(扁桃、パイエル板など)でつくられるGd-IgA1(二量体をつなぐヒンジ部にガラクトース糖鎖が少ないIgA1、しばしば多量体)がIgA腎症の鍵になる異常である。それに対して自己抗体(IgA、IgG)ができたり補体が活性化したりして炎症がおこると考えられている(図はNDT 2015 30 360)。




 それでステロイドが用いられるわけだが、全身投与のSTOP-IGAN(NEJM 2015 373 2225)とTESTING(JAMA 2017 318 432)では感染症の副作用が多かった(後者は中止になった)。そこで「腸溶カプセルにしたステロイドNeficon®(budenoside)を使おう」というのがNEFIGANトライアルだ(Lancet 2017 389 2117;IGANは、IGA Nephropathyのこと)。結果、8mg/dと16mg/dでeGFRに有意差が出て、16mg/dで蛋白尿(gCr比)で有意差が出た。有害事象には有意差がなかった。

 さらに、異常Gd-IgA1を作る細胞をターゲットにしてはどうかという戦略もある。しかし、RTXをもちいても(JASN 2017 28 1306)蛋白尿、eGFRには無効だった。腸管でGd-IgA1をつくる「CD20陰性CD19陽性CD27強陽性」形質細胞、骨髄で抗Gd-IgA1抗体(IgG)を作る「CD19陰性CD20陰性」形質細胞はRTXでも生き残ることが知られており、無効な理由のひとつかもしれない(CJASN 2018 13 1584に解説あり)。

 ならばと、形質細胞をターゲットにしたBortezomibも治験されている。パイロットスタディ(KI Reports 2018 3 861)では8人中3人で寛解した。なおいずれの病理像も、免疫抑制が効きやすい(というよりも、免疫抑制しなければ予後不良な)Oxford分類E1で、管内増殖ありだった。

 しかし、今日この頃は「腸管」とか「細胞」というターゲットでは大雑把過ぎる。そこで、より細かなターゲットも試されている。

 Blisibimodは、BAFF阻害薬であり、SLEに用いられるBelimumabの仲間だ。BAFFはB細胞の活性化因子のひとつで、IgA腎症においても、粘膜免疫でB細胞が異常IgA1をつくるのにAPRIL、TACIなどと同様にBAFFが重要な役割を果たしていると考えられている。じつはBlisibimodはSLEのPhase 3トライアルではエンドポイントを満たさなかった(Ann Rheum Dis 2018 77 883)が、IgA腎症のBRIGHT-SCトライアルは結果まちだ。

 さらに抗BAFF・抗APRILのAtaciceptもリクルート中(NCT02808429)で、spleen tyrosine kinase(SYK)阻害薬Fostamatinibのスタディも進行中だ(NCT02112838)。ここまでくると正直私の理解をとうに越えているが、WikipediaとJaneway's immunobiologyによればSYKはFcγRやITAMなどに関係しB細胞の成熟や活性化に関与しているらしい。

 さらに、どこかで誰かが始めているかもしれないのが、補体をターゲットにした治療だ。レクチン経路の関与(腎病理におけるC4dの病的意義を示したのはCJASN 2014 9 897)、alternative pathwayの関与(C3aを押さえているH因子を抑制する、Factor H-related protein1・5の関与を示したのはKidney International 2017 92 953)は明らかで、アバコパンなど抗補体薬の報告が見られるようになるかもしれない。

 


2018/10/30

新規尿酸降下薬

 1706年、マサチューセッツ州生まれ。質素・勤勉で、28歳時は著作で痛風予防のために節食節酒を勧めたこともある。しかし立身出世し生活が変化したこともあり、中年以降に痛風発作、腎結石を繰り返す。74歳時に散文詩「痛風との対話」を著す。84歳、胸膜炎のためフィラデルフィアで病没。

Q:これは、誰ですか(写真は彼が使っていた歩行杖)?




 腎臓で尿酸を下げたほうがいいかというのは結論がまだでていないけれど、下げないほうがいいのだろうか?先日紹介したFEATHERトライアルでもちいられたfebuxostatは、実はFDAに心血管系死などの警告が出ている(相関であり、因果関係は調査中)。アロプリノールは生命に関わるSteven-Johnson症候群を起こすことがあり、安価で昔からあるがこのために敬遠されることがある。

 とはいえ、痛風や結石の慢性管理ではさすがに尿酸値を下げたほうがいい。そして、これらを扱うリウマチ内科は新薬がどんどん生まれている分野だから、尿酸についても新しい薬がでてきている。以前紹介した(存在を予言して的中した)Lesinuradは近位尿細管のトランスポーターURAT1を阻害して尿酸排泄を促進する薬だが、今回紹介するPegloticaseは尿酸を分解するウリカーゼそのものだ。

 ウリカーゼはヒトにない酵素(なぜないかについては、進化や適者生存の観点からさまざまな仮説がある)だが、ラスブリカーゼとして既に商品化され腫瘍崩壊症候群に用いられている(こちらも参照)。Pegloticaseはそれをペグ化して半減期を伸ばしたもので、2週間に一度の注射薬だ。

 適応は既存の尿酸降下薬に不応の痛風結節(tophi)をともなう慢性痛風だ。使えばたちまち尿酸値が下がるし、結節も消える。こういうテキメンな下がり方は、コレステロールに対するPCSK9モノクローナル抗体にも似ている(こちらも参照)。

 ただしPeglosicaseはペグ化しているので、人によって抗ペグ抗体ができることがあり、その場合は効果が減弱する(10mg/dl以上のひとが、7くらいまでしかさがらない)。また、副作用としてはinfusion reactionが最も多い。 
 
 米国とカナダの治験(JAMA 2011 306 711)後、2010年にFDAが認可し、2013年にはEUで認可された。2016年にEUの認可が取り消されたが、その理由はメーカー側のcommercial reasonとされている。ちなみに冒頭の患者は、ベンジャミン・フランクリン(写真はスミソニアン博物館サイトより)。もし彼が現在も生きていたら、役に立ったかもしれない。

 Peglosicaseは薬としてまだ完璧ではないけれど、こういう研究の積み重ねで新規クラスの薬がうまれてよい治療につながっていく感じが、腎臓内科でも感じられるようになればいいなと思う(写真は、ファージを用いた方法でモノクローナル抗体技術に革命を起こし、2018年ノーベル化学賞を受賞したGreg Winter卿。抗TNFα抗体、adalimumabの開発者でもある)。




2018/06/07

キセキのその先へ ブロスマブの意味するもの

 抗FGF23モノクローナル抗体ブロスマブ(Burosumab)のX-linked hypophosphatemic rickets児に対する治験結果(NEJM 2018 378 1987)は、おそらく日本資本の会社が開発したこともあって多くの人がすでに目にしたことと思う(NEJM日本語サイトにもアブストラクトがある)。これからマスコミなどでもひろく取り上げられるだろう。

 この論文のインパクトはさまざまで、もちろん難病の内分泌疾患であるXLH(X-linked hypophosphatemia)にたいする新しい治療がみつかった(子供の成長発育が改善した)という感動は計り知れない。まさにキセキだ。同様に、FGF23産生腫瘍によるTIO(Tumor-induced osteomalacia)に対してもこの治療が有効かもしれない。内分泌領域ではそのようなレビューが既に出ている(Endocrine Reviews 2018 39 274)。

 この話題を、腎臓内科医はどのように受け止めればよいだろうか(図はKidney Health Australiaのキャラクター、キドニー・マン)?





 ひとつは、「電解質異常をモノクローナル抗体で治療する」というカテゴリーでの感想だろう。といってもまだ他には高Ca血症に対するデノスマブ(抗RANKLモノクローナル抗体)くらいしか知らないが、同じような考え方をすれば細胞表面にあるたんぱく質ならなんでもターゲットになりうる。

 腎臓内科は伝統的には利尿薬の分野で分子標的治療をリードしていたはずだが、最近はSGLT2阻害薬もURAT1阻害薬(こちらに触れた)も他科主導でつかわれているし、尿細管よりむしろ腸管の分子標的治療薬のほうが耳目を集めてもいる(腎臓領域ではTenapanorがあるが、むしろIBS治療薬が多い)。

 今後、電解質治療だけでなくても、モノクローナル抗体による降圧薬とか、でてくるかもしれない。と、2015年に予想していたことが少しずつ現実化しているのだろうか。あるいは、巡り巡って元いたところに戻ってきたのだろうか(図)。今後に注目していきたい。
 



 もうひとつ考えるべきは、もちろんCKD-MBD領域への応用だ。

 FGF23が心肥大をおこすことは、2011年から分かっていた。その論文(JCI 2011 121 4393)では動物モデルだがFGFR阻害薬PD174074で心肥大が抑制されていた。しかし、いまのところ臨床へのトランスレーションは「リンを下げましょう」という、セクシーさに欠ける(コーラはやめましょうとか、患者さんにあまり評判のよくない)ものに限られているのが実情だ。





 抗FGF23モノクローナルも、もちろんそれを意識して開発されているし、もしかしたら既にどこかでCKD患者の心肥大・心血管系イベント予防についての治験が行なわれているかもしれない。あるいは、同じ軸のFGFR4(受容体サブクラスのひとつで、これがとくに心肥大と関係するという)抗体も試験されているかもしれない。

 NEJM論文の勝利が、これからCKD領域でのさらなる成果につながったらすごい。でももしかすると、サッカー日本代表がワールドカップで優勝するよりも、こちらのほうが現実的で見込みがあってインパクトの大きなことかもしれない。どの国がそのような治療法を見つけても素晴らしいことに違いはないが、こっちのサムライブルーにも期待したい。




2017/08/25

赤ちゃんに学ぶ 2

 FcRnは大人にもあって、やっぱりIgGが分解されるのを防ぐ。IgGの半減期は約20日で、ふつうのたんぱくが約5日なのにくらべても長いが、その理由のひとつとして造血系の細胞や血管内皮細胞のFcRnがIgGを守るからと考えられている(J Immunol 2015 194 4595)。

 逆に言うと、FcRnがあると身体にわるいIgG(自己免疫疾患とか)がなかなか消えない。それで、これらの疾患でFcRnの働きをおさえる研究もおこなわれている。

 たとえば、FcRnに高い親和性で結合するようFc部分を加工して、本物のIgGが守られないようにするとか。これらのお薬カテゴリーをAbdegsと呼ぶらしい(Nat Rev Immunol 2007 7 715)。Ab、すなわち抗体をdegrade、分解するということか。

 ほかにも、医薬品が分解されないようFcRnに守らせたり、抗体医薬品のFc部を加工したりするのが流行っている(図はAdv Drug Deliv Rev 2015 91 109)。FcRnで検索すれば日本語でもたくさんサイトが出るし、こないだもGLP-1アゴニストのデュラグルチド(Fcを持っている)が宣伝されているのを目にした。




 そんなわけで、今後、日常臨床のなかでFcRnという言葉を聞く機会は増えてくると思われる。


 さて、そのFcRnは腎臓で何をしているか?つづく。





2017/06/05

HIF-PH阻害薬アップデート

 貧血で輸血依存で大変だった透析患者さんが、EPOの発見・単離・合成で救われた。けれどもEPO(ESA)抵抗性というのはあって、ESAだけでは治らない貧血も多い(いくつかの原因について以前にふれた;図はそこで取り上げた論文より)。そして、ESA必要量が多くなる患者さんほど予後がよくない。




 ESA抵抗性のひとつに、機能的鉄欠乏(functional iron deficiency、FID)がある。端的に言うと鉄利用障害で、2003年に発見されたヘプシジンなどが重要な責任分子だ。この状態に陥ると、鉄を補充しても却って貯蔵鉄の利用ができなくなり、悪循環になる。

 FIDを解決しようと開発されているのがHIF-PH阻害薬だ。以前にこのブログでも取り上げられた(こことここ)が、HIF-PHを阻害するとHIFが分解されずに安定し、造血と鉄利用障害が改善する。

 そのHIF-PH阻害薬のレビュー論文(AJKD 2017 69 815)がでたから紹介する。「あと少しで市場にでてくるから、MRさんがきれいな動画とパンフレットをもって説明に来る前に、自分達でも準備しておきましょう」ということなのかもしれない(HIFは高地への適応と関係あるから、パンフレットはこんな表紙かも)。




 いまのところ、治験中なのは4種類だ。

 Roxadustat(FG-4592):週3回飲むお薬で、第3相。日本では透析患者さんを対象にしたオープンレーベルの試験(NCT01888445)、透析非依存の患者さんを対象にした二重盲検試験(NCT01964196)がおこなわれている。下痢、悪心、高血圧が副作用に挙げられる。

 Vadadustat(AKB-6548):毎日飲むお薬で、第3相。Roxadustatも下痢、悪心、高血圧を起こすことがある。透析患者さんを対象にしたINNO2VATE、透析非依存患者さんを対象にしたPRO2TECTプログラムが治験中だ。なお、Akebia社が開発した6548番目の分子なだけで、AKB48とは関係ないはずである。

 Daprodustat(GSK-1278863):毎日のむお薬。米国で第2相、日本では第3相(JASN 2015 Suppl 26 818Aというポスター発表もされている)。悪心が知られる。

 Molidustat(BAY85-3934):毎日のむお薬。第2相。ほかのに比べて、高血圧になりにくいかもしれない。動物実験で血圧をさげるデータがあるそうだ。

 なおDPP4阻害薬がラットである種の腫瘍をおこしたように、HIF-PH阻害薬もVEGFの活性化により悪性腫瘍や糖尿病性網膜症を悪化させる可能性がある。いままでの治験ではVEGFレベルに変化はないらしいが、注意は必要だ。

 腎性貧血はEPO欠乏とFIDどちらもが関与しているからESAはESAで重要だ。HIF-PH阻害薬は、ESA抵抗例から用いられていくのかなと思う。そのように用いられながら長期の安全性が確かめられ、「使い勝手」もわかってきて、適応や使用例がだんだん広がっていくのかもしれない。

 治療の武器はたくさんあったほうがいいので、このクラスも慎重に広まって根付いてくれたらいいなと思う。



 [2019年10月4日追記]上記のRoxadustatが、ついに日本でも透析患者に認可された!




 しかも、上図のように高山を意識した宣伝になっていた(商品名:エベレンゾ®)!このクラスで世界初なので、最高峰のエベレストにあやかったのだろうか?




 Roxadustatは、じつは昨年12月には中国で透析患者にまず認可され(商品名は爱瑞卓、Ai Rui Zhuo®;エポエチンアルファとの非劣勢を示したスタディはNEJM 2019 381 1011)、今年4月には非透析依存患者にも拡大していた(プラセボと比較したスタディはNEJM 2019 381 1001)。今後世界で認可が広がるだろう。

 内服なので注射が要らない(冷蔵保存なども要らない)利点がある一方、透析患者では「飲み薬がまた増える」という面もあるだろう。週3回なので、まだ少ないとも言えるし、飲み忘れやすいとも言える。

 また、上に挙げた消化器系副作用や理論上のVEGF活性化だけでなく、前掲論文では高カリウム血症・代謝性アシドーシスが多かったので、これらには引き続き注意が必要だろう(保存期CKD患者では重曹量が増えるかもしれない)。

 非EPOのESAではPegisenatideで残念な思いをしたが(こちらも参照)、HIF-PH阻害薬はHIF-PHという別の軸で効くお薬でもあり、日の目を見ることを期待していた。スタートラインに立ったこのクラスが、腎臓内科領域で大事な位置を占めるといいなと思う。


(写真は、ハイチのことわざ「山を越えればまた山がある」をタイトルにした、ポール・ファーマー医師の話。ピュリッツァー賞を受賞し、『国境を越えた医師』として2004年に訳書が刊行されている)