2019/05/08

薬を変えてください、さもなければ・・

 「この薬をやめて(あるいは、変えて)もらえませんか?」――腎臓内科医なら、だれもが口にしたことのあるセリフだろう。フィブラート系、NSAIDsPPI・・・状況によって、議論になるときもならないときもある。

 しかし、だいたい議論にならないのが、リチウムだ。リチウム以外の気分安定薬に変更してくださいとは、腎臓内科医からも気軽にはいえないし、精神科的にも変更は困難なことが多いからだ。

 だから、中毒などであれば輸液したり透析したりするが(こちらや、こちらも参照)、尿崩症などであれば、「水を飲んでください」というシュールな治療しか提案できないこともある。




 そんな中、「腎性尿崩症に新しい治療か?」という論文がJASNにでた(JASN 2019 30 795)。なんと、抗真菌薬のフルコナゾールに、水チャネルAQP2を集合管内腔により多く分布させる働きがあるらしいことが示されたのだ。

 AQP2は細胞内小胞と細胞膜の間を行き来して、バソプレシン→バソプレシン受容体(V2R)の支配を受けている。ところが、フルコナゾールはその支配と別に、AQP2そのものをリン酸化したり、細胞内骨格のアクチンを分解して小胞を細胞膜に近づけたりしている可能性がある(図は前掲論文より)。




 問題は、マウスに投与された80mg/kg(腹腔内への注射)という量である。というのも、フルコナゾールはすでに臨床で用いられている薬だが、低ナトリウム血症の報告はあまり知られていない。よほど大量に投与しなければ効果は薄いかもしれない。

(なお、フルコナゾールだけでなくケトコナゾールやイトラコナゾールなど「アゾール」系の抗真菌薬が、アルドステロン産生を抑制し高カリウム血症を起こすことは知られている;BMJ 2009 339 b4114)

 しかし、腎性尿崩症に有効な治療があまりないこと、フルコナゾールが「新薬」ではなく臨床成績が確立していることを考えると、おそらくドラッグ・リポジショニング(英語ではdrug repurposingとも、こちらも参照)で治験が組まれるだろう。

 また、フルコナゾールそのものでは効果が薄くても、AQP2を尿細管内腔に表出させる独自の機序がみつかったことで、フルコナゾールを改良した薬ができるかもしれない。読者のなかには、サイアザイドもループ利尿薬もそのはじまりが抗菌薬のサルファ剤だったことを思い出す方もおられるだろう(Arch Int Med 2009 169 1851も参照)。

 さらにいえば、ADPKDに対してトルバプタンなどでV2Rを抑える治療をしながら、その下流の細胞内でAQP2の内腔側への表出を保てれば、トルバプタンの副作用である多尿を押さえる道だって、開けるかもしれない(薬効を維持できるかは、検証されなければならないが)。


 筆者はながらく"less is more"、つまり薬を使わず(減らして)患者を治すのが最上という考えを信奉してきた。しかし、どうしても切れない薬というのはある。たとえば「リチウムによる腎性尿崩症ですね、ならばこの薬を足しましょう」というように、薬の副作用を薬で治す方法を考えることも大切だと痛感した次第である。