2019/05/02

ARBの教訓

 昨年このブログに、ACE阻害薬と肺がんの関連について投稿されたのを覚えておられる読者もおられるかもしれないが、今度はARBと発がんについての論文がニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシンに投稿された(NEJM 2019 380 1589)。

 日本では第一選択のARBだが、他国では「一世代前のACE阻害薬とちがってプラセボと比較した大規模試験が少ない」、「ACE阻害薬と同等の効果なら、高価なARBは第二選択にすべき」などの批判もある。

 しかし、咳や血管浮腫の副作用がみられないなど、少なくとも安全性はACE阻害薬よりも高いと一般に考えられ、日本以外の国々でもその使用は着実に増えている。

 そんなARB製剤が、米国で2018年7月から2019年3月までの間に20種類も次々とリコールされたのだ!リコールの理由はARB自体ではなく、原薬生産過程で混入したNDMA(N-ニトロソジメチルアミン)、NDEA(N-ニトロソ-N-ジエチルアミン)、NMBA(N-ニトロソ-N-メチル-4-アミノ酪酸)だった。

 ここまでくるともはや一騒動であり、論文のタイトルも、"Hypertension Hot Potato"(「熱くてやけどするので誰も触りたくない問題」という意味、写真)。社会への影響をよく言い表している。






 「ARBを飲み続けていいのか」「必要な患者はどうすればいいのか」「どの会社のが問題なのか」「発がんリスクはどれくらいなのか、閾値は妥当なのか」「ARB以外の薬にも混じっているのではないか」・・・といった不安。さらに、FDAが原薬を生産する中国の浙江華海薬業を名指ししたことで、時節柄、外交問題の様相もみせはじめている。

 しかし論文は「FDAと医療界はこれをよいストレス・テストにしよう」と締めくくる。

 たしかに、薬の生産過程・供給過程の多様化は時代の流れだ(日本でも「海外工場が閉鎖したのでこの薬は採用がなくなります」といった話がふえた)。今後ますますチェック機構の充実が望まれるし、医療者も「自分の処方する薬に含まれるのは、薬だけではない」という認識があらためて必要だと感じた。

(写真は、「手にした薬ではなく、薬を渡す手が患者を癒す」という作者不明の引用句をイメージしたもの。最新刊『医のアート ヒーラーへのアドバイス』第2章も参照)




[2019年5月23日追記]薬の生産過程・供給過程の多様化は時代の流れと書いたが、たとえば韓国の英字紙Korea Timesによれば、このほど韓国がEUから原薬輸出のwhitelistを得た。これで、韓国の原薬企業はEUに煩雑な審査や書類なしにEUへ製品を輸出できる。

 韓国は原薬など医療分野を経済の柱にしようとしており、忠清北道のオソン(五松)にバイオ企業を集約してもいる。なお韓国が原薬でwhitelistを得るのは7地域目で、それにはもちろん日本も含まれている。

 こういうことは、やはり国外に出ないと見えにくい(写真は、高層ビルが立ち並ぶソウルの政治・金融・マスコミの中心地、ヨイド)。