2019/05/26

APSN/KSN CME 2019 2/2


5. 膜性腎症アップデート2019


 スライドのタイトルは"bane of nephrologists"、「ベイン」とはジレンマや悩みを意味する(破滅という意味もあるそうだが)。確かに診断、治療ともに「こうすればいい」と決まっていない部分が多いので、悩ましいのが膜性腎症だ。

 まず診断では、抗PLA2R抗体と抗THSD7A抗体があれば腎生検しなくてもよいのかという悩みが(検査できる地域では)ある。実際、血中の抗PLA2R抗体陽性なら腎生検もせず、悪性腫瘍検索も年齢相応でよいというアルゴリズムも提案されている(JASN 2017 28 421、図)。




 メタアナリシスは抗PLA抗体陽性が原発性膜性腎症の感度75%、特異度99%という(Plos One 2014 9 e104936)。しかし、既存データにセレクションバイアスが多く、鵜呑みには出来ないのが現状だ。

 治療のジレンマも「治療(免疫抑制)するか、しないか」「何で免疫抑制するか」「再発したらどうするか」など数多い。

 膜性腎症はよく「1/3病(自然寛解、不変、進行が同程度)」と呼ばれ、進行リスクの層別化が鍵になる(Nat Rev Nephrol 2013 9 443)。しかし、たとえ進行高リスクでも、高齢で悪性腫瘍による可能性を否定できない場合は免疫抑制のリスク(易感染性や腫瘍増殖)も考慮しなければならない。

 免疫抑制の種類は、ポンティチェリ・レジメンは隔世の感で、世界的にはCNI(ポンティチェリと比較されているのはタクロリムス、Nephrology 2016 21 139)、RTX(シクロスポリンと比較したMENTORトライアルが進行中;2017年のASNではRTXの優位性を示す中間報告がなされた)のどちらかを選択する施設が多いようだ。
 
 そして再発については、再発時に何を選択するかの道しるべはないが、再発リスクの評価には抗PLA2R抗体価の推移(陽性例にかぎられるが)が有効なようだ(抗体価がさがっていると再発しにくいデータはKI 2013 83 940、さがっていないと再発しやすいデータはCJASN 2011 6 1285)。


6. CKDのPEW


 世界中で蔓延しており、20-50%とも言われる。血液検査でBMIが25を切ると死亡率と負の相関がある(Mayo Clin Proc 2013 88 479)というのは、いわゆる「肥満パラドクス」を裏付けるものであるが、ではどうすればよいか、答えは出ていない。

 食事ではタンパクをとってリンを取らない工夫をする(ケト酸の使用も考慮)、運動は機能とQOLを上げるが大規模で死亡率低下を示したデータまではない、薬物療法もミオスタチン阻害薬(FASEB J 2011 25 1653)は実験段階、同化ステロイドは機能向上にはつながらず心血管系リスク上昇が懸念され、食欲刺激薬(megastrol、dronabinol、cyproheptadine、melatonin、ghrelinなど)も効果はさまざまだ。

 尿毒素を除けば食欲が改善するのでは?と期待したいが、まだ確実な方法がない(こちらも参照)。


7. HD中の低血圧予防についての進歩


 このトークも前項とおなじで、とてもコモンな問題だが"one fits all solution"はない(写真)。定義が単なる血圧低下(収縮期20mmHg以上)ではなく「症状があり何らかの看護介入を必要とするもの」なことは知っておいてよいかもしれない。




8. ADPKDに対する新規治療


 新規治療といいつつも、お話はトルバプタンだった。ADPKD患者の割合は日本なら新規透析患者全体の2%程度で一定しているが、「それは数としては年々増えているということだ」という指摘にハッとした。

 また、根治療法がないことと、透析開始年齢が62歳(全体だと68歳、いずれも日本のデータ)なことを考えると、数年(eGFR 60ml/min/1.73m2群で6年、45で4年、30で2年)透析を遅らせることに大きな意義があるという主張も頷けた。

 REPRISEトライアルのサブ解析では55歳以上で有意差がなかったこと、TEMPOでドロップアウトが30%だったことなどから、とくに海外からは価格に見合った効果があるのかという質問がつきもののトルバプタン。しかしレクチャ翌日、ADPKDが専門の米国医師と個人的に話すと、やはり「とにかく今は他にないから」という結論だった。

 現時点で次の候補はソマトスタチンアナログだが、Octreotide-LARはeGFR15-40の群で腎容積増大を遅らせた(ALADIN2、PLoS Med 2019 16 e1002777)ものの、Lanreotideは効果ないばかりか腹部症状と肝のう胞感染リスクが上昇していた(JAMA 2018 320 2010)など、道は遠い。



 おそらく演者や座長でなければ、日本からしかも全8レクチャに参加したのは筆者だけと思われる。ノートは全部とったが、分かりやすさ・興味・体力などの問題で、質と量にばらつきがあることをご了承されたい。理解の助け、話題提供など、何かの役に立てば幸いである。


(写真は日本でも韓国でもみかける、サギの仲間。ソウル大公園で筆者撮影)