だから、骨髄腫は同じ種類の抗体分子を作る(図はIgG)。IgAなら二量体、IgMなら五量体だが、IgMは過粘稠症候群を起こすためWaldenstromマクログロブリン血症という別名がついていることはご存知の通りだ。
異常タンパクは、上図のように重鎖と軽鎖がそろっている場合はMタンパクと呼ばれ、軽鎖だけで尿中にみられるとベンス・ジョーンズ(BJ)タンパクと呼ばれる。血液や尿の電気泳動で、同じ分子量のところに集中してピークを作るのも、ご存知の通りだ。本稿ではこれらをまとめてモノクローナル免疫グロブリン(monolonal immunogloblin、MIg)と呼ぶ。
なお、骨髄腫患者の尿中に異常タンパクを発見し発表したのは英国のBence Jones博士だが、これが免疫グロブリン軽鎖だとわかるまでには100年以上かかった。1956年、ニューヨーク記念病院(現在のスローン・ケタリング研究所)にいたLeonard Korngold博士と助手の Rose Lapiri女史の功績だ(Cancer 1956 9 262、κ鎖とλ鎖の由来である)。
では、MIgがみられる患者はみな骨髄腫なのかというと、そんなことはない。まず、免疫グロブリンを作るのは形質細胞だけではないから、Waldenstromマクログロブリン血症・リンパ腫・CLLなどでも見られうる。
さらに、血液腫瘍がみつからない患者も多数いる。当初これらは「良性(benign monoclonal gammopathy)」と呼ばれていたが、1978年、メイヨーのRobert Kyle博士はそうした241例を5年間フォローし、11%が骨髄腫などに進展したことを報告した(Am J Med 1978 64 814)。逆に言えば、残りは進展しなかった(57%はMIgの増加すらみられなかった)。
がんはみつからない、前がん病変なのだろうが、多くは進展しない・・・そんな、良性とも悪性とも言いにくいこうした概念は、MGUS(monoclonal gammopathy of undetermined significance)、つまり「意義不明(これが正式な訳語のようだ)」と呼ばれることになった。定義は(IgM、軽鎖についてはBlood 2018 131 163も参照):
1. Mタンパク 3g/dl未満
2. 骨髄中の形質細胞クローンの割合が10%未満
3. CRABが見られない
(C:高カルシウム、R:腎障害、A:貧血、B:骨病変)
4. その他のB細胞系腫瘍の増殖がみられない
しかし、MIgをつくっているクローナルな細胞の意義は「不明」でも、MIgがあるだけで(だれがどこで産生しているかを問わず)意義が「大有り」の臓器がある。
それが、よりによって腎臓なのである!
上段左からビリー・ザ・キッド、二コール・キッドマン、ハローキティ 下段左からジョン・F・ケネディ、王様と私、キッド・ロック |
MGRSは、提唱者が「MGRS:MGUSはもはやundeterminedでもinsignificantでもない」と題している(Blood 2012 130 4292)ように、こうしたモノクローナルな免疫グロブリン(MIg)の持つ腎毒性を強調した概念だ。
ここでのポイントは、だれがどこで産生しているかを問わず、MIg自体に腎毒性があるということだ。根拠となったのは1991年、テネシー大学のAlan Solomon博士らによる実験だ(NEJM 1991 324 1845)。それによれば、ヒトBJタンパクをマウスに注射しただけでアミロイドーシスや尿細管沈着など、多彩な腎病変が再現された。
では、どうやって腎毒性のあるMIgを減らす(除く)か?
たとえば、MIgによる腎病変が上記CRABを伴う骨髄腫によるものなら、血液内科に相談して化学療法なり骨髄移植なりしてもらえばよい。しかし、腫瘍が姿をみせない場合(こうした悪い子達のことを、dangerous small B-cell clonesと呼ぶ)、コンサルトされた同僚もおいそれとは治療できない。
そうなると、仕方がないので腎臓内科で腎炎に用いるような免疫抑制薬などを試すが、MGRSによる腎炎はそうでない(ポリクローナルで自己免疫的機序の)ものにくらべて成績がわるく、なかには後述するPGNMIDのように移植後に再発するようなものもある。
そこで、(化学療法や骨髄移植などの)治療資源を「各政府の機関が割り振れるように(本当にそう書いてある、Nat Rev Nephrol 2019 15 45)」、MGUSから独立させてできたのが、MGRSなのである。つづく。