2019/05/01

腎生検はいつすべきなのか?

 今回、新たに腎生検に挑戦する若手の腎臓内科医も多くいると思う。ただ、このどのタイミングですべきなのか?に関しては、私のような新人ではなくなった医師でも本当に迷う。

 今、腎生検をしないで先延ばしにして腎生検ができなくなったらどうしよう?この患者さんに腎生検をして、結果は正常だが合併症を起こしたらどうしよう?など考えてしまう。
 
 もちろん、腎生検の適応に関してはある一定の基準は決まってはいるが、日本では所属している病院の腎生検をするタイミングの方針に従うというのが多いのではないか?今回、少しこの点を確認しながら知識の整理ができればと思う。

 こんな患者が来た場合にどうしよう?

 55歳男性で10年前から2型糖尿病に罹患。糖尿病性眼症、神経症に関しては認めていない。高血圧に罹患しておりACE-I、β遮断薬を内服しコントロール良好。身体所見は下腿浮腫軽度認める以外は問題なし。採血・尿検査はAlb 2.5 g/dL(3年前は正常範囲)、Cr 1,1mg.dL(3年間変化なし)、尿蛋白は定量で4.8g/gCr (1年前は0.2)、尿沈渣で赤血球 5-10/視野赤血球円柱を認めた。

 この患者にどんな対応をするか?

 1:数ヶ月後に尿蛋白再測定
 2:ACE-Iの増量
 3:ステロイドの治療開始
 4:腎生検を行う 

 腎生検を選択する際には採取した組織が腎臓疾患の診断、治療、予後に影響を与えるのか?この患者に危険性があるのか?を考える必要がある。

 まず、腎生検の適応になるには疾患を診断し、治療の適応があるかが重要となる。
血尿、蛋白尿、急性腎障害、慢性腎障害の時に考える。




 少し、細かくみていこう。

 血尿:

 腎機能障害、蛋白尿がなく血尿単独の場合→多くの場合腎生検の必要はない。
 ただ、蛋白尿や腎機能障害が併発してくるようであれば腎生検は必要である。

 単独血尿の場合に想起する疾患:Alport症候群、菲薄基底膜病やIgA腎症などである。 
 
 下図はIgA腎症の蛋白尿量の予後を示したものであるが尿蛋白の増加とともに予後は悪化するため、早期の診断治療の考慮は重要となる。




 蛋白尿:

 新規の蛋白尿や蛋白尿+血尿→腎生検の適応となる
 少量の蛋白尿(<0.5-1.0g/day)単独(血尿、腎機能障害ない)→腎生検の適応は乏しい
 糖尿病患者で新規のネフローゼ相当の蛋白尿出現(以前は蛋白尿がない)→腎生検の適応
 となる(他の疾患の併発を考える必要があるため。)
 
 ネフローゼレベルの蛋白尿があった場合に想起する疾患:微小変化群(MCD)、巣状糸球体硬化症(FSGS)、膜性腎症(MN)などがある。

 急性腎障害:

 急性腎障害の中でも腎血流が落ちて腎機能障害が生じている場合(ATN:急性尿細管壊死など)や閉塞に伴う腎障害の場合→腎生検の必要性は低い。まずは原疾患の治療を行い改善が乏しく原因がわからない場合には考慮する。薬剤などで急性間質性腎炎の可能性がある場合→腎生検は必要な場合がある(診断に自信が持てない場合やステロイドなどの免疫抑制剤治療開始前の診断のため)。

 下表はAKIやネフローゼ症候群で診断して治療を行う場合の例である。


Clin Med 2003


 慢性腎機能障害:

 急な腎機能障害の悪化、新規の血尿や大量の蛋白尿が出現した場合
 
 ここに関しては非常に悩ましい。これも、腎生検を行うことで治療の適応がどうか、予後が変わるのかを考えながら行う必要がある。

 SLEでは腎生検を以前に行なっていることで腎疾患の活動性などを推測でき、また治療プランを再検討することができる。そのため、腎生検をすることの意味合いという点で他のものとは異なってくることに注意する必要がある。

 では、症例を考えてみると糖尿病患者で他の糖尿病合併症がなく、急激な蛋白尿、血尿の出現を認めている。この場合に自然な糖尿病性腎症の経過とは違うため、何らかの腎疾患の併発を考えて腎生検することが勧められる。なので、答えは4となる。

 腎生検は日本では腎臓内科が行うが、米国では放射線科医が行なっている場合が多い。なので、我々はこの手技を大切にし、また腎臓内科医が行う数少ない侵襲的な処置であるため、しっかりとした判断をするべきである。