ラベル 遠位ネフロン の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル 遠位ネフロン の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2019/07/02

遠位RTAの謎

 遠位RTA(ベーシックな内容はこちらも参照)の謎、それは「遠位RTAで低カリウム血症になるのはなぜか?」である(ACKD 2018 25 303)。

 …と言われても、謎と思わない方も多いかもしれない(筆者もそうだった)。遠位尿細管で酸を排泄するA型介在細胞には、内腔側にH+-ATPaseだけでなく、H+を排泄する交換にK+を再吸収するH+/K+-ATPaseもついている(図はJCI 2013 123 4139)。




 もしH+/K+ATPaseが異常なら、H+が排泄できずK+が吸収されないはずだ。じっさい、H+/K+ATPaseを阻害するバナジン酸(VO4 3-)を投与すると、低カリウム血症と代謝性アシドーシスになる(Am J Physiol 1992 262 F449)。とても単純な話だ。

 しかし問題なのは、遠位RTA患者にH+/K+-ATPase遺伝子の異常が1例も報告されていてないことだ(小児患者で、腸管のH+/K+-ATPase活性が低下していた例はあるが、Arch Dis Child 2001 84 504)。

 遠位RTA患者に多いのはH+-ATPaseの遺伝子異常であり、ここから話を始めなくてはならない。そこでATP6V1B1遺伝子(H+-ATPaseのB1サブユニット)欠損マウスをモデルに実験した(JCI 2013 123 4219)ところ、いくつかの驚くべきことがわかった。

 まず、A型介在細胞だけでなく、主細胞やB型介在細胞にも変化がみられた。主細胞ではENaC活性が抑制され、B型介在細胞ではPendrin(Cl-再吸収/HCO3-排泄)とNDCBE(Na+・HCO3-再吸収/Cl-排泄、図は図はJCI 2013 123 4139)の活性が抑制されていたのだ。




 さらに、主細胞のENaC活性低下は、B型介在細胞が集合管内腔に分泌するPGE2によるパラクラインな機序で説明できることが分かった。PGE2が内腔側から各チャネルの働きを調節していることは以前から知られていたが(こちらも参照)、集合管の細胞どうしの相互作用が、今後いっそう解明されていくと思われる。

 それはそうと、低カリウム血症はどうなったか?

 同実験ではカリウムチャネルの分布も調べており、そのひとつであるBKチャネルが増加していた。BKチャネルは尿の流れに依存してカリウムを排泄するので、皮質集合管でNa+・Cl-の再吸収が減る(AQP2発現も低下する)ことで尿の流れが増えた結果と考えられる。

 さらに、主細胞にあるROMKチャネルは、ENaC活性の減る皮質集合管では増えていなかったが、下流の髄質集合管で増えていた。髄質集合管では(おそらく届くNa+の増加を反映して)ENaCも活性化していたので、その影響と思われる。


 なお、遠位RTAのなかでも、アンホテリシンBなど尿細管細胞の傷害による場合は、低カリウム血症の機序もダメージをうけた尿細管からのカリウム喪失(leak)でよいかもしれない。

 しかし、アンホテリシンBと同様に低カリウム血症と代謝性アシドーシスをきたすトルエン中毒の場合は、尿細管に漏れやすい傷害は起こらない。この場合の機序は不詳だが、馬尿酸代謝にともなう変化ではないかと言われている。


 
 遠位ネフロン研究は、近位ネフロンにくらべると歴史が古い。それで「もうこれ以上、この部分に効く利尿薬もできないでしょ…」とか、「論文が難解すぎる!」といった気持ちから、着いていくのを諦めそうになることも正直ある。

 しかし、学ぶのをやめているうちに、いつかこの分野の研究が想像もつかない(AKI、CKD、腎移植、尿路感染症などすらも越えた)ところにたどり着いているかもしれないから、できるだけついて行きたい(写真は、サウジアラビアで工事再開が待たれる、予定では高さ1008メートルのジッダ・タワー)。







2019/02/14

ナトリウムで語る低ナトリウム血症

 ST合剤といえば、Tのほう(トリメトプリム)にENaC阻害作用があって、スピロノラクトンやトリアムテレンなどのK保持性利尿薬と同様に高カリウム血症を起こすことはよく知られている(こちらも参照)。

 しかし、同じように低ナトリウム血症も起こすことは、正直初めて知った。AJKDのティーチング・ケース(AJKD 2013 62 1188)に取り上げられたニューモシスチス肺炎に対する高用量ST(トリメトプリムとして15mg/kg/d)で発症した症例では、SIADHとして水分制限とトルバプタンで治療しても体液喪失になり、塩分負荷で改善していた。

 そして、彼らが参考文献に挙げていた2つの論文はいずれも日本内科学会の英字誌、Internal Medicineからだった(図は同誌ウェブサイトより)!




 一つ目(Intern Med 1995 34 96)はホジキン病の化学療法後に発症したニューモシスチス肺炎で12g/d(トリメトプリムとして960mg/d)のSTを用いて120未満mEq/lの低ナトリウム血症をきたし、380mmol/dのナトリウム(22g/dの食塩)を点滴し改善を認めている。STを予防量にして軽快した。

 二つ目(Intern Med 2003 42 665)はニューモシスチス予防や尿路感染症などのため比較的少ない用量でSTを処方された53人について電解質異常(135mEq/l未満の低Na血症、5mEq/l以上の高K血症)の頻度を調べたもので、トリメトプリムとして平均68mg/d、82mg/d、315mg/dの三群にわけるとそれぞれ9、22、46%に異常がみられた。

 どうして起きるのか直接には証明されていないが、AJKDの例も一つ目の日本の例もナトリウムの喪失が機序なことを十分に示唆しており、簡単に言えば「ENaCをおさえるからナトリウムが抜ける」ということらしい。これで、利尿薬について

 サイアザイド 低ナトリウム血症
       (SIADHないしPGトランスポーターの異常)
       (こちらも参照)
 フロセミド  高ナトリウム血症
       (浸透圧勾配をなくし低張尿がでて水が抜ける)
 バプタン   高ナトリウム血症
       (集合管の水再吸収ができず水が抜ける)
 ST合剤    低ナトリウム血症
       (ENaCをおさえてナトリウムが抜ける)

 という4通りのナトリウムへの影響がリストできるようになった。

 では、やはりENaCに効くトリアムテレンや(わが国にはないが)アミロライドなども同様に低ナトリウム血症になるのだろうか?トリテレン®の添付文書には副作用に食欲不振などしかないが、「減塩療法を受けている患者」は低ナトリウム血症を起こしうるので慎重投与となっている。
 
 筆者の受けたトレーニングでは、低ナトリウム血症は水の量とADHの効きぐあいで説明されてきた。なので、「ナトリウムが抜ける低ナトリウム血症」というトピックは苦手というか避けてきた感もある(クリアカットに説明できない感じがするのは、私だけだろうか・・)。

 しかし実際にはCSW(脳疾患による塩類喪失)、RSW(腎疾患による塩類喪失)、副腎不全、MRHE(高齢者に起こる鉱質コルチコイド反応性の低ナトリウム血症)などについてもよく学び経験を積まなければならないと、じっさいにST合剤による低ナトリウム血症を経験して痛感した。



2018/11/11

Kir

 クイズです(写真は1992年まで日本テレビ系列で放送された、アメリカ横断ウルトラクイズ)。




出題者:生活習慣病等の厚生労働大臣が別に定める疾患を主病とする患者について、プライマリケア機能を担う地域のかかりつけ医師が計画的に療養上の管理を 行うことを評価したもので、厚生労働大臣が定める疾患を主病とする患者に対して、治療計画に基づき、服薬、運動、栄養等の療養上の管理を行った場合に、月2回に限り算定できるのは・・・

回答者:「特定疾患療養管理料(ただし許可病床数200 床以上の病院においては算定できない)」!

出題者:ですが、カリウム摂取で血圧が下がるのはなぜでしょう?

回答者:・・・。



 カリウム摂取と血圧の関係は疫学で証明され(NEJM 2014 371 601)、クリニックで高血圧の患者さんに「野菜を摂りましょう」といえば上記加算も取れるだろう。しかし、そのメカニズムはどうか?

 アルドステロンなどさまざまな要素が関与しているので全貌は分かっていない。ただ、米国腎臓学会の小部屋でおこなわれたWNK(以前も何度か紹介した)セッションに出て、遠位尿細管の間質側にあるKirチャネルがWNKを制御しているらしいことがわかった(写真は辛口白ワインに甘いカシスリキュールを加えたフランスうまれのカクテル、Kir)。




 Kirチャネルはカリウムチャネルで、irはinward rectifying(細胞内への一方通行)の略だ。脳で発見されて(初期論文のひとつはNature 1993 362 127)以来、多くのスーパーファミリーが見つかり、さまざまな場所で発現していることがわかっている。

 腎臓もそのひとつで、たとえば有名なROMKはKir1.1だ。遠位尿細管の間質側にはKir4.1(遺伝子KCNJ10)とKir5.1(KCNJ16)でできたヘテロ4量体があり、これが血中カリウム濃度を感知していると考えられている。そして、血中濃度がたかいとNCC発現が下がり(下図紫線、JASN 2017 28 1814)、ナトリウム再吸収が落ちる。



 Kir4.1遺伝子を腎臓に限りノックアウトするとどうなるか?Kir5.1のヘテロマーはカリウムを通さないこともあり、カリウムセンサーの働きが失われる(上図赤線)。なぜ腎臓に限りノックアウトするかというと、けいれんを起こしてしまうからだ。

 この遺伝子異常はヒトでも知られており、EAST症候群(Epilepsy, Ataxia, Sensorineural deafness, Tubulopathy)と呼ばれる(NEJM 2009 360 1960)。NCC発現が減るのでGitelman症候群に似て低K血症、アルカローシスをきたす。

 Alport症候群(治験の話はこちら)、Pendred症候群、ループ利尿薬、シスプラチンアミノグリコシドなどほかにも耳と腎臓に影響する疾患はあるが、EAST症候群もそのひとつとして覚えておきたい。
 
 Kir5.1をノックアウトすると、Kir4.1のホモ4量体はヘテロ4量体と異なりpHに関わらず恒常的にカリウムを通すので、NCCが過剰発現になる(JCI insight 2017 2 pii92331)。その結果、Gitelmanのミラーイメージ、FHHt(Gordon症候群)にちかい病状となる(整理されたものはこちら)。

 さらに、間質側のKirが、どうやって反対側(内腔側)のNCC発現を制御しているのかについての話もあった。下図(PNAS 2014 111 11864)にあるように、細胞内クロール濃度、SPAK、KS-WNK1などが関与しているようだが、それはまた。






 遠位ネフロンのイオンチャネル研究といえば、もとは腎臓内科の花形(いまは、近位尿細管腸管のほうが流行りではあるが)。高血圧の健康と社会への影響の大きさを考えても、今後の発展と応用が期待される。


2018/06/15

ひとつの答えと、たくさんの質問

 アルプスの少女ハイジは「口笛はなぜ遠くまで聞こえるの?」「あの雲はなぜ、私を待ってるの?」とおじいさんにたずねた(『おしえて』より)。

 前者は「口笛が遠くまで届く周波数域で人間の耳がこの周波数域を聞き取りやすいため」とされ(Wikipedia日本語版『口笛』より)、後者はハイジ自身の心情が多分に反映されていると思われる。雲のほうへ歩いていきたい気分だったのだろう(図)。




 このように答えが分かるものもあればないものもあるが、質問する人の清らかな好奇心と知的関心といった人柄が垣間見えるのは嬉しいものだ。

 それでは、「サイアザイドはなぜ、低Na血症を起こすの?」という質問はどうだろうか。

 実は私はこの質問に明確な答えをできずにいた。サイアザイドによる低Na血症(TIH、thiazide-induced hyponatremia)は、よく使われる降圧薬のよくある副作用なのに、完全には解明されていない。

 通説は「塩類(Na+、Cl-)喪失によりAVPが刺激され、水分が貯留する」というものである(体重がふえたことを示したのはAnn Int Med 1989 110 24)。このことは、たとえばループのようにネフロンの浸透圧勾配を消すことで自由水を排泄させる利尿薬でNa値がむしろ上昇することと対比される。

 しかし、「どうして(低Na血症に)ならない人はならないのに、なる人は何度でもなるの?」とか「AVPがでていないのに水がたまる人もいるのはなぜ?」とかの問いには、「おじさんは忙しいんだ、さああっちへ行きな(図)」とまでは言わないが、「そうだから」くらいしか答えられなかった。




 今回は、それが解明されつつあるという投稿だ。TIHの患者さんたちについてGWASをおこなった結果わかった(JCI 2017 127 3367、レビューはAJKD 2018 71 769)。

 結論から言うと、起こりやすい人はプロスタグランジン・トランスポーター(SLCO2A1遺伝子にコードされる)の活性が低く、プロスタグランジンが集合管内腔にたまりやすく、内腔側にあるプロスタグランジン受容体(EP4)の刺激によって内腔表面へのAQP2がふえやすく、水が再吸収されやすい(図は前掲AJKDレビューより)。

 


 プロスタグランジンは「組曲(この名づけについてはこちら)」はおろか、体液保持と進化の歴史についての「叙事詩」がかけるくらい奥が深いが、とにかくこれで質問に一個答えを用意することはできる。

 もっとも、一個の答えは「サイアザイドがこの絵にどう関与し、AVPとどう関与するか」など、より多くの質問を生む。しかしそれでも、学び続けるしかない。

 なおTIHのリスクは女性(と高齢者と低体重者)に高いが、今回の論文でも同様な性差が確認された。プロスタグランジン・トランスポーター遺伝子異常は一連のSLCO2A1 関連小腸症(非特異性多発性小腸潰瘍症は難病指定)を起こすが、これも女性に多い(日本消化器病学会雑誌 2016 113 1380)。これなどは、日常診療に活かせる知見かもしれない。

 質問は、プレゼント(こちらも参照)。これからもたくさんのプレゼントボックスを開けて、いろんな世界をみていきたい。



2018/06/14

CaSR組曲 6

6. 集合管
 
 集合管の介在細胞、主細胞それぞれにCaSRはある。集合管はヘンレのループが生み出した浸透圧勾配を利用して最終的に尿を濃縮する場所だ(下図は著者が2013年に米国の腎臓内科で発表した腎生理レクチャ『ADHと水』スライドより)。




 そもそも髄質の深いところは、濃縮によってカルシウムが結晶しやすい(これをRandall's plaqueと呼ぶことは以前にもふれた、写真はJCI 2003 111 607より)。





 だから、そんな集合管でのCaSRの働きは「いかに石を作らせないか」で考えると分かりやすい。

 まず介在細胞では、内腔側で高Ca尿を感知したCaSRが、H+-ATPaseを刺激して尿のacidificationを促進する。カルシウムリン酸結石は尿pHがたかいほど析出しやすいので、これは理にかなっている。カルシウム再吸収チャネルTRPV5をノックアウトして尿中カルシウム濃度を増やしても、H+-ATPaseが働いて尿pHをさげるので石はできない。

 しかし、TRPV5だけでなく集合管にあるH+-ATPaseのB1サブユニット(ここが異常だと遠位RTAになる、こちらを参照)もノックアウトすると、尿pH低下という防御機構が働かないので腎臓が石化(nephrocalcinosis)して生きられない(JASN 2009 20 1705)。

 つづいて主細胞では、CaSRはなんとAQP2と共発現している。AQP2はAVPの支配下にあって水再吸収をふやす(図もおなじレクチャで取り上げたもの、Eur J Physiol 2012 464 133より)。




 CaSRは高Ca尿を内腔で感知して、上記支配に拮抗してAQP2を細胞内に引っ込める。その仕組みには、AQP2セリン残基(256番目)リン酸化の抑制が関与しているとされる(J Cell Sci 2015 128 2350)が、詳しいことはまだ分かっていない。

 AQP2とCaSRが共発現しているというのは、少し立ち止まって考えていいことかもしれない。AVP-V2R-AQP2というのは陸上生活に不可欠な軸だ。そのことは、軸が機能しない時(尿崩症)を考えてみればよく分かるだろう。水は貴重だ(写真はカリフォルニア州・デスバレー国立公園)。




 また、バソプレシンに似たペプチド(プロトタイプの名前を取ってバソトシン・スーパーファミリーとよばれる)は種を越えて保存されており、進化に大きく関与しているとされる。オキシトシンもその一種だが、オキシトシンがなければ哺乳類も生まれなかったかもしれない。

 そんな生命の根源にあたる軸に拮抗するCaSRには、CaSRなりの大事な役割があるのだろう。

 陸上の体液保持に不可欠といえども、尿濃縮の仕組みには結晶・析出のリスクが常に付いてまわる。しかし、腎臓が石になっては元も子もないので、それを防ぐ仕組みがどうしても必要だったのではないか(写真はメドゥサ退治のためアテナからペルセウスに与えられ、退治後はそのメドゥサの頭をつけさらに最強の盾となった、イージス)。




・おわりに
 
 ここまで、「組曲」の体裁をとってCaSRとネフロンについて概述してみた(おもな参考文献は、Oxford Textbook Clinical Nephrology、Nat Rev Nephrol 2016 12 414)。基礎医学的な内容ではあるが、臨床的な話を理解する助けにもなれば幸いである。

 たとえば、「結石患者にCaSR(Curr Opin Nephrol Hypertens 2012 21 355)やクローディン14(Nat Genet 2009 41 926)の遺伝子多型が多い」とか。

 あるいは、「CaSR遺伝子がないとTALでのCa2+再吸収が抑制されず、低カルシウム尿症になる(JCI 1983 72 667)」とか(これと、PTHによるCa2+再吸収に抑制がかからないことが、少なくともCaSR遺伝子異常によるFHHの本態とされる)。
  

 それにしても、ネフロンは面白い。次は、どんな「組曲」を書こうかな?




 [2019年4月追加]日本人の結石患者におこなったGWAS結果が、JASNにでた(doi.org/10.1681/ASN.2018090942)。BioBank Japanのビッグ・データを使って、「minor allele frequencyが0.01以上」、「Hardy Weinberg Equilibriumが10のマイナス6乗以上」、「call rate が0.99以上」など未知の方法論で検索すると、17個の有意な遺伝子多型がみられた(Pが5×10のマイナス8乗未満という)。

 乗っている染色体、遺伝子とその主な機能をあわせて表にすると:




 筆者にはCaSRが出てこないのが意外だったが、CKDのGWASでもお馴染みのUMODが出てくるのは納得(こちらも参照)だった。

 なお上記で「?」とあるように、Regulator of G protein signaling 14、Indolethylamine N-methyltransferase、Family with Sequence Similarity 128 member B(論文には188とあるがOMIMには128しかない・・誤植だろうか)、Diacylglycerol Kinaseといった遺伝子に乗っている多型の作用は、いまだ分かっていない。

 結石と言えば「カルシウム・リン・PTH」や「中性脂肪・尿酸・肥満」にかかわる異常が背景にあることは、なんとなく分かっている。今やそれが遺伝子多型でわかるんだから、まさにprecision medicineといえる。

 今後、こういう論文がどんどん増えて、疾患の機序解明や治療につながることが期待される。いっぽう、こうした多型の有無を調べるだけなら、市販のキットで安価かつ簡単にできるようになる。好むと好まざるに関わらず、外来患者に「私はrs6975977多型があるらしいのですが、どうしたらいいですか?」といわれても対応できなければならない。
 

2018/06/13

CaSR組曲 4-5

4. TAL(ループ上行脚)
 
 TALではCaSRは基底膜側にある。で、よく知られているようにNKCC2とROMKを止めてNa再吸収という「波」を鎮め、波に乗ってカルシウムが細胞の脇から間質側へ打ち上げられるのを防ぐ(図はオンライン・ファーストのJASNから、doi: 10.1681/ASN.2017111155)。





 CaSRは、どのようにNKCC2とROMKを止めるのか?細胞内での仕組みとしては、ホスホリパーゼA2がROMKを止めるらしいことがわかっている(Am J Physiol 1997 273 F421)。ROMKを止めたら、NKCC2も止まる。なぜか?

 TALにおける「波」とはNKCC2からのNa+とCl-の流入を意味する。ならば、NKCC2はカリウムまで通さなくてもよさそうなものだ。しかし実際には、カリウムは調節役を果たしている。

 NKCC2から入ったカリウムはROMKから排出されて内腔側にリサイクルされるが、ROMKの阻害でそれが止まってしまえば内腔のK+が少なくなって、NKCC2は動かなくなるのだ。内腔K+がTALでのNaCl再吸収量を規定することは実験でも示されている(JASN 2001 12 1788)。

 なお、TALでのNa+、Cl-再吸収が障害される遺伝疾患をBartter症候群と総称するが、このCaSR遺伝子異常によるものをBartter 5型という(他の遺伝子についてはこちらも参照)。この場合、CaSRが恒常的に働いてしまうほうの異常(gain of function)であり、常染色体顕性(優性)遺伝だ。

 さらに、最近は細胞間にあるタイト・ジャンクションを形成するClaudinにも直接影響すると考えられている。Claudとはラテン語でlame(足が不自由な)、転じて「遅い」「止まる」という意味がある(写真は交響曲『海』でも有名なClaude Dubussyが載った20フラン札)。



 
 そのClaudin 14、16、19分子は互いにダイマーをつくり、それぞれが異なったカルシウム透過性(とマグネシウム透過性)をもっている。CaSR刺激は、このうちクローディン14遺伝子の転写を抑制することがわかっている。なお薬剤のなかではシクロスポリンもクローディン14を抑制する(JASN 2015 26 663)。

5. DCT(遠位尿細管)

 腎臓内科界の2018年10大ニュース、とまでは言わないが、腎生理のなかでは割とインパクトがあると思われる論文がこないだ出た。それが、「CaSRはWNK4-SPAK経路を通じてNCCを活性化する」というものだ(doi: 10.1681/ASN.2017111155)。

 NCCがヒラメの膀胱から発見されて(PNAS 1993 90 2749)25年になるが、現在ではNCCを調節する分子がだいぶん上流まで見つかっている。そのひとつがKLHL3-WNK-SPAK-NCCという系だ(詳細はこちらも参照)。

 また、いわゆるaldosterone paradoxと呼ばれる現象(アルドステロンは高K血症時にはK+排泄をしてNaCl再吸収はしないのに、体液不足時にはNaCl再吸収はするのにK排泄はしない)にもアンジオテンシンIIとWNK4が関わっていることが分かっている。

 さて、そのNCCがあるDCTで、CaSRは内腔側にある。CaSRが(Gqタンパク→PKC→KLHL3リン酸化によって、WNKが分解されにくくなり、結果SPAKを介して)NCCを活性化させるというのは、どういう意味があるのだろうか?

 ひとつ考えられるのは、高Ca血症を間質側で感知したTALでのさまざまな変化をDCTの内腔でキャッチし、ファイン・チューニングすることだ。たとえばTALではNaCl再吸収が抑制されるので、DCTでNCCを活性化して体液喪失を緩和しているのかもしれない。同様に、DCTでCaSRはカルシウムチャネルTRPV5のすぐ隣にあって、CaSRはTRPV5によるカルシウム再吸収を亢進させる(Cell Calcium 2009 45 331)。

 とはいえ、DCTのCaSRがナトリウム再吸収をどうしているかについてはまだ未確定な部分がおおい。

 基底膜側のNCX1(Ca2+を一個だす代わりにNa+を三個細胞に入れる)を刺激するとか、KCNJ10(基底膜側のNa+/K+-ATPaseで細胞内に入ったK+を間質側にリサイクルする)を抑制する(Am J Physiol 2007 292 F1073)とか、むしろナトリウム再吸収の抑制を示唆する知見もある。今後の論文にも注目したい。

 最後に、集合管でのCaSRについて説明する(図は企業の社会への責任を表すCorporate Social Responsibility、CSR)。




2017/06/16

滝を追いかける 4

 閉塞後多尿(POD)は、実験しやすいので昔からいろいろ調べられており、教科書にも割と深くその仕組みが書いてある。Brennerの37章がそれに当てられているが、著者の一人がMark L. Zeidel先生なことから話は少しdigress、つまり脱線する。

 Zeidel先生と出会ったのは2003年のピッツバーグ(当時の写真はこちら;この投稿を書いたのは私ではないが)。そのときは、Zeidel先生が腎臓内科医なことも知らなかったし、そのあとこの街で研修することになるなんて思わなかった。

 2010年、ピッツバーグで研修医になりCCUをまわっていたとき、循環器フェローがボストンでZeidel先生に教わったと聞き、ピッツバーグから移られたのを知った。そして今年、この調べものをして先生の著作に会った。7年周期なのだろうか。

 医師のジェダイ道は、私は大事だと以前から思ってきた。そして、たくさんの恩師から心に刻む教えを受けた(たとえばこれ)。こういう質問に答えるのも、知識や智恵を共有するのも、ジェダイ・ナイトフッドの実践と思ってつづけていきたい(写真はオビ=ワン・ケノービ)。





 さて、そのZeidel先生は何と書いているか?閉塞解除後は、糸球体の機能が落ちてGFRが下がるのに尿細管機能もおちて再吸収と濃縮ができなくなり尿は多くなる(JCI 1978 62 1228、JCI 1982 69 165)。また両側閉塞では体液貯留の影響もある。

 遠位尿細管、ループ上行脚などネフロンほぼ全域にわたってNKCC2、ENaC、NHE3、NaPi-2など多くの輸送体遺伝子の転写とたんぱく発現が低下する。NKCC2の再吸収がおちれば対向交換系がはたらかず、ネフロンの浸透圧勾配と、それによる濃縮力がおちる。

 この仕組みもある程度調べられている。ミトコンドリアの密度が低下しATPが作れなくなるので、Na/K-ATPaseによる能動輸送にまでエネルギーを回せなくなる。閉塞で尿がとどかなくなるので、再吸収しなくてよくなるせいもある。COX-2誘導でPGE2が著明にふえる、単球が誘導され炎症サイトカインをだす、AGII-AT1Rの系も関係しているようだ。

 尿濃縮は浸透圧勾配と、集合管のAVP-V2R-AQP2系(図はEur J Physiol 2012 464 133)による水再吸収が大事なはたらきだ。閉塞後にはV2R自体も減っているが、その下流の細胞内cAMP濃度上昇を起こしてもAQP2は増えないし内腔側にも動いてくれない。PGE2濃度上昇がAQP2抑制に効いているという結果がでているらしい。




 両側閉塞のばあい、体液貯留が問題になる。その結果、浸透圧利尿もおこるし、ほかに交感神経低下、アルドステロン低下、ANP増加などがおこる。とくにANPはマクラデンサでreninを抑制し、近位尿細管でAGIIを抑制し、集合管でアルドステロンを抑制するらしい。


 このように仕組みがいろいろ分かっているのは素晴らしいが、具体的にどう治療すればいいのだろうか?つづく(写真はピッツバーグ近郊の落水荘)。




2016/12/21

ウロジラチン(Urodilatin)について

ウロジラチンという言葉を聞いたことがあるだろうか?今回浮腫の成因のoverfilling に伴う浮腫でこの話が出てきたときなんだろ?と思った。

恥ずかしながら私は知らなかったので、今回の話題に触れてみた。

簡単にいうとウロジラチンはNa利尿ペプチドの一種である。

ナトリウム利尿ペプチドに関しては3つの異なった遺伝子によって作成され、3つの異なった様式で蓄積される。その形がANP(atrial natriuretic peptide),BNP(brain natriuretic peptide),CNP(C-type natriuretic peptide)である。

ANP前駆体ホルモンは4つのペプチドであるが、BNPやCNPは単一のホルモンから生成されている。ANPはこの4つのペプチドの99-126の部分が切断されて生成される。

ウロジラヂンは腎臓でANP前駆体ホルモン(1-126)によって異なる経路で産生される。産生部位は腎臓の遠位尿細管や集合管で産生される。ANP前駆ホルモンの95-126の断片である。ウロジラチンは商品でウラリチドというものである。

AKIやCKDでの尿量が低下した症例に対して、血清Crを下げたり尿量増加を起こしたりするホルモンとして知られている。

ウロジラチンに関しては分かっていないことも多々あるが、知っておくと良いと感じた。




2015/05/30

遠位ネフロンの遺伝子異常

 昨日の投稿でpseudohypoaldosteronism type 1について触れたが、このへんは混乱しやすい(というか初稿で間違えてGordon症候群とか書いてしまった…Gordonは今はFHHとも言われるけど昔はpseudohypoaldosteronism type 2とmisnomerがついていたので;訂正してお詫びします)ので、この際だから遠位尿細管の遺伝子異常とそれが起こす症候群をまとめた表(米国時代に作って米国腎臓内科フェローたちが学びを共有するウェブサイトに載せたもの;クリックすると拡大します)を貼っておく。日進月歩についていくのも大変だが、学んだ知識をretainするのも大変だ。時々振り返らなければならない。



2015/04/14

介在細胞(aka 生涯教育)

 ぱっとめくったページが腎生理特集で、遠位ネフロンの介在細胞についてだった(CJASN 2015 10 305)。Last authorのDr. Pastor-Solerは私がUPMC(University of Pittsburgh Medical Center)の腎臓内科フェローシップの面接に行ったとき面接官の一人だった。またアイオワ大学腎臓内科のボスであったDr. John Stokesが亡くなって後任を選ぶのに、彼女がアイオワまで面接に来て講演した(そのときも介在細胞の話だった)。

 First authorとsecond authorは彼女の部下なのだろう、ヤングスタッフ、あるいはフェロー。アイオワも尿細管(とくに遠位ネフロン)を研究しているから、私も米国に残っていたらこういった総説を書く機会があったのかもしれないなどと思ったりする。が、今となってはこうしてせめて読者としてついていくしかない。これが"C(Clinical)"JASNに載っているということは、臨床家でも専門医ならこれくらいは知っておけということだ…。

 介在細胞は、遠位ネフロン(発生学的には中腎由来の部分)にあって、形態的には簡単に見分けられる。他の尿細管細胞にある中心に一本立った線毛がないからだ(なおこの線毛がどんな機能をしているかはまだ分かっていない、おそらく尿のフローセンサーだろうと推察されるが)。その名の通り、A型介在細胞は酸(acid)を、B型介在細胞は塩基(base)を排泄する。

 A型介在細胞は内腔側にH+-ATPase、H+/K+-ATPaseを持ちH+を排泄し、H+と一緒に出来るHCO3-(この反応はCAII: carbonic anhydrase IIによりなされる;B型介在細胞も同じ)は血管側のAE1(anion exchanger 1)に取り込まれる。またA型介在細胞は内腔側に大きなK+チャネル(big KだからBKチャネルという、またはMaxi-Kチャネルともいう)があってカリウム過剰摂取のときなどにK+をflow-dependentに排泄する。

 それに対してB型介在細胞はA型介在細胞をひっくり返したようにチャネルが付いていて、内腔側にあるPendrinと呼ばれるCl-/HCO3- exchangerでHCO3-を排泄し、逆にH+-ATPaseが血管側に付いている。

 ここまでは、よく知られたことで教科書にも書いてある。臨床的には、H+-ATPaseのa4、B1サブユニットの異常やAE1の遺伝子異常が遠位RTAを起こすことが知られている(以前に触れた)し、Pendrinの異常はPended症候群を起こす(これも以前に触れた)。このあと知らないことが次々に出てきた。

 まずはB型介在細胞の内腔側にあるNDCBE(Na+-driven chloride/bicarbonate exchanger)だ。B型介在細胞で能動的にH+が血管側に出ると細胞内外に電位差が起こり、NDCBEを通じてNa+が内腔側から細胞内に入ってくる(そして血管側のAE4; anion exchanger 4を使って再吸収される)。同時にHCO3-が細胞内に入りCl-が内腔側に出るが、Pendrinも回るので細胞内に入ったHCO3-は内腔側に再び出て行きCl-が細胞内に再吸収される。

 結果、NDCBEが一回周りPendrinが二回周れば、H+-ATPaseによってNaClが再吸収されることになる。いままで遠位ネフロンでのECF再吸収は主細胞の3Na+-2K+-ATPaseによるENaCのみで起こり、残りの現象はENaCによって生じた電位差を利用して説明されてきたので、これは意外だった。

 さらに、内腔側と血管側だけでなく介在細胞質内のメカニズムも分かってきた。たとえばA型介在細胞では、H+をたくさん捨てさせる機構としてCAIIでH+と一緒にできるHCO3-を感知するsAC(solubule adenylyl cyclase)活性化→cAMP/PKA活性化→H+-ATPaseの175番アミノ酸残基(Ser)を介したものが発見されている。

 逆にH+排泄をdownregulateする機構には[AMP]/[ATP]比の増加→AMPK(AMP-activated protein kinase)活性化→H+-ATPaseの384番アミノ酸残基(Ser)を介したものがある。センサーでいえば、内腔のpHを感知するものとしてGPR4(G protein-coupled receptor 4)、non-receptor tyrosine kinase Pyk2が調べられている。

 いわゆるaldosterone paradoxと呼ばれる現象(アルドステロンは高K血症時にはK+排泄をしてNaCl再吸収はしないのに、体液不足時にはNaCl再吸収はするのにK排泄はしない;いまではアンジオテンシンIIとWNK4が関わっていることが分かっているが、これはまた別に書く)にも、介在細胞が関わっている。高K血症でアルドステロンが出るがレニンやアンジオテンシンはない場合、介在細胞のMR(mineralcorticoid receptor)はリン酸化されておりアルドステロンは主細胞にしか作用できない。それでENaC↑→ROMK↑→K+排泄が起こる。

 それに対し体液不足でRAASが活性化されている場合、介在細胞内MRのリン酸化が解けてアルドステロンが介在細胞に作用できるようになる。そうすればH+-ATPaseによるNaCl再吸収でENaCまでNa+が届かなかったり、A型介在細胞のH+/K+-ATPaseによりK+が再吸収されたりして、NaClは吸収されてもK+は排泄されない。

 他にも介在細胞のH+-ATPaseを修飾するタンパクにはPRR(prorenin receptor)があり、これがreninやproreninをひきつけるのでRAA系の反応効率が上がり、angiotensinogen→angiotensinの変換効率は4倍になる。また介在細胞はPGE2を産生し、paracrineな方法で主細胞のENaCをdownregulateするなどが書かれていた。

 そして最後に、これは介在細胞に限ったことではないが、尿細管細胞はTLR(Toll-like receptor)のほぼ全種類を持っていて、とくにTLR4はuropathogenic E. coliを認識しているといわれ、さまざまなAMP(antimicrobial peptides)を放出して尿を無菌に保とうとすると書かれていた。AMPはdefensin(とくにβ-defensin-2はヘンレ係蹄から集合管まで広く分布している)や、RNAase7(こちらは介在細胞、膀胱上皮、尿道上皮に分布している)、cathelicidin、hepcidinなど100アミノ酸残基以下のペプチドだ。

 これらの殺菌物質のほかに静菌物質もあり、A型介在細胞はlipocalin 2を産生する。lipocalin 2と言われてもピンとこないだろうが、これはNGAL(neutrophil gelatinase-associated lipocalin)のことだ。NGALはAKIでも産生されるが、感染時にも産生されグラム陰性菌の増殖に必要なenterochelinとFe3+の結合体に張り付いて増殖を抑える。さらにNGALはTLRの活性化にも必須とされている。

 こんなに長く文献をまとめたのは久しぶりだ。時間があったこともあるが、これを毎日やったら疲弊する。フェロー時代は学びのシャワーを浴びるのが良いからどんどん論文を読んでどんどん吸収していたが、スタッフになったいま、生涯教育として専門性をアップデートするためには、やはり何度も何度もいうように持久力が必要で、そのコツも学んでいかなくてはならない。




[2018年11月追加]本文の最後に介在細胞が抗菌ペプチド(antimicrobial peptide、AMP)を産生して尿路感染症から腎臓を守っていると書いたが、それがインスリン受容体の支配下にあるという論文がJCIにでた(doi.org/10.1172/JCI98595)。糖尿病患者で尿路感染症が多いことと関係あるかもしれない、と著者は言う。


2013/07/22

アンモニアと腎 2/2

 腎臓でアンモニアはどのような移動をしているか?まだ分かっていない部分もあるが参考文献(Advan in Physiol Edu 2009 33 275、Am J Physiol Renal Physiol 2011 300 F11)を参照に興味深い事実を中心に書く。簡潔に言うと、アンモニアは近位尿細管で作られ、尿細管内に出て、ヘンレ上行脚で再吸収され、間質を移動して遠位ネフロンで再び尿中に排泄される。

 近位尿細管で1分子のglutamineから2つのNH4+と2つのHCO3-が出来る。酸を排泄するにはHCO3-をNBCe1(Na+-HCO3- co-transporter)で間質に残す一方、NH4+を尿細管に捨てなければならない(NH4+が間質に残ると差し引きゼロになってしまう)。アンモニアがNH3として細胞膜を透過して尿細管に出るのか、NH4+として出るのか、NH4+はNHE3(Na+-H+ exchanger)を介して出るのか、詳しいことは分かっていない。

 ただNH3とNH4+の電離定数pKa'は9.15で、pH 7.4下にNH3はアンモニア全体の1.7%に過ぎないし、NH3には極性があるのでリン脂質の細胞膜をそれほど容易には透過しないかもしれない(vasa rectaにある尿素チャネルUT-BがNH3 gas channelでもあるという論文が最近でた、doi: 10.​1152/​ajprenal.​00609.​2012)。

 いずれにせよ、膜を透過したNH3は酸性尿のH+とくっついてNH4+になる。尿細管内腔にトラップされたNH4+は、ヘンレ係蹄上行脚でなんとNKCC2(とapical K+ channel)から再吸収される。というのも、NH4+とK+は大きさや電荷がほぼ同じだからだ。そして基底側のNHE4から間質に戻ると考えられている。

 間質のアンモニアは、永らくNH3分子として組織を漂流し、集合管を透過して内腔にたどり着きNH4+になると考えられていた。しかし最近になってRhBG、RhCGが発見された。RhBGもRhCGも赤血球上でRh血液型を決定するRhAGの従兄弟だが、これらは腎臓・肝臓・腸などアンモニア輸送に関わる臓器に発現している。

 腎集合管でRhBG、RhCGは酸・アルカリ排泄を司る介在細胞により多く見られ、内腔側にも基底側にもある。RhBG、RhCGがNH3チャネルなのかNH4+チャネルなのか意見が分かれ、今後の研究が待たれる(私には、NH3として内腔に出てH+をバッファーしているように思われる)。RhCGは慢性アシドーシスで酸排泄のニーズに応えて発現が増えるなど、調節メカニズムもありそうだ。

2012/10/23

Hypomagnesemia and hypokalemia

 電解質異常・酸塩基平衡は腎臓内科の専売特許ではない。こないだ総合内科の診療チームの部屋で共有する患者さんの治療方針について議論していたら、ふとホワイトボードをみると細胞とイオンチャネルの図が描いてある。聞けば、チームについている医学生が「どうして低Mg血症があると低K血症は治りにくいのか」について論文を調べて講義したのだという。

 正直この質問については「まだ良くわかっていない」という答えに安住していたので、感心して彼の見つけた論文(JASN 2007 18 2649)を読んだ。著者によれば低Mg血症は低K血症の半数以上にみられ、低Mg血症が低K血症の治療を困難にする理由は"remains unexplained"としつつもどうやらそれが遠位尿細管での尿K排泄の亢進によるらしいと主張し説明している。

 というのも、Bartter症候群の患者やHCTZ服用の患者にMgを補うと尿K排泄が減り、健常な人にMgを静注するとに尿K排泄が減り、Gitelman症候群の患者にMgを静注するとTTKGが減るからだ。遠位尿細管でのK排泄はROMK(non-flow stimulated)とmaxi-K channels(flow stimulated)が司るが、MgはROMKを通じたK排泄を抑制しているらしい。

 ROMKはチャネル(ポンプではない)なのでKは自由に出入りできる。ただmembrane potential(細胞内が陰性チャージ)による内向きK流とカリウムのgradient(細胞内にKがたくさん)による外向きK流が平衡して、通常はKが外に排泄されている。しかし細胞内にfree Mgがあると、これが内側からチャネルの孔をふさいでK排泄を抑制するのだ(Science 1994 371 243)!

 では低Mg血症のとき、尿細管細胞内のfree Mg濃度もやはり低いのだろうか。実は、これを直接証明した人はまだいない。まずMgは60%が骨、38%が細胞内、2%がplasmaなど細胞外液にある。細胞内Mg濃度は10-20mMだが、free Mg濃度は0.5-1mM。細胞内外のMgは3-4時間で100%入れ替わる(Biometals 2002 15 203)ので、おそらく低Mg血症なら細胞内 free Mgも低いだろうと著者は推測している。

 OK、では低Mg血症だが低K血症を起こさない疾患(TRPM6変異など)はどう説明する?著者は、いくらROMKの滑りが良くなっても、流れを起こすdriving forceがなければK排泄は変わらないだろうと主張し、driving forceの例に遠位尿細管へのNa delivery、アルドステロンなどを挙げている。この論文はextremely interestingだった、関連論文も読みたい。


2012/02/04

NCC

 ネフロンの各部分をフェローが担当して発表する"physiology lecture series"で、私は遠位尿細管を担当することになり、さっそくBrenner(腎臓内科の最も有名な教科書)を図書館のeBookで読み始めた。基本的には組織学的な話、ナトリウムの再吸収とその制御の話、カルシウムの再吸収とその制御の話がメインになりそうだ。

 臨床的にはthiazide利尿薬の話、高カルシウム尿による尿管結石とその治療の話、Gitelman症候群の話などがメインになりそうだと思っていたら、NCC(Na-Cl cotransporter)を制御するWNK kinases(WNKはWith-No-Lysine [K]の略)の異常をきたすGordon syndrome、そこからさらに話が広がりそうだ。

 Gordon syndromeとはfamilial hyperkalemic hypertension (FHHt)とも言い、WNK遺伝子のgain-of-functionな変異によるものだ。つまりNCCが出過ぎてしまい、高血圧、高K血症、高Ca尿、代謝性アシドーシスなどちょうどGitelman症候群あるいはthiazide服用患者の正反対な病態をきたす。

 さらにここから、こないだJournal clubで紹介された論文(Nat Med 7 1304 2011)につながった。これは免疫抑制剤tacrolimusが高血圧、高K血症などGordon syndromeとよく似た副作用を起こすことから、これらは元来腎のafferent arterioleの血管収縮によるものと考えられていたが実はNCCの制御に関係しているのではないかと調べた研究だ。

 研究結果をみる限り、tacrolimusがどうやらWNK kinaseを活性化させNCCをupragulateすることが分かった。それで、いままでの「移植腎は脱水を嫌うので高血圧に利尿薬は避けよう」という思い込みに反して、実はthiazideを使うほうが理にかなっている可能性が出て来た。やがてcontrol trialが組まれるだろう。

 [2016年6月追加]同じグループがタクロリムスの高血圧機序について掘り下げた論文を発表した(JASN 2016 27 1456)。ネフロン特異的FKBP12 deletionによってタクロリムスによる血圧上昇・dipping消失が緩和されNCCリン酸化が抑制されたことと、SPAKとNCCを強制発現させたHEK細胞でタクロリムスがNCCの脱リン酸化を抑制したことから、この現象に腎(ネフロン細胞)のcalcineurinが直接関与している可能性が高まった。


2011/07/30

Osmotic gradient

 Furosemideがヘンレ上行脚のNa-K-2Clトランスポーターを阻害することは知られているが、そこで水の再吸収が行われているわけではない。ではなぜ、Furosemideによって水排泄が促進されるのだろうか。このように、現象としては常識なことも生理学的に問われると答えに詰まる。

 正解は、furosemideによってネフロンの浸透圧勾配(osmotic gradient)が消失するから。水の再吸収と尿の濃縮は、それぞれヘンレ下行脚と集合管で行われるが、そのためには腎髄質の高浸透圧が必要だ。これを維持しているのがヘンレ上行脚なのである。Na-K-2Clで細胞内に再吸収されたNaは、血管側にあるNa-K ATPaseによって汲みだされ体循環に帰っていく。

 この話は回診で一週間前くらいにあったが、なかなか一回聴いて全部覚えられるものではない(先生は一回で覚えなければならないとおっしゃるが)。同僚のフェローが同じ質問をしたら、先生は「この話、前にしたよね…」と言いつつちゃんともう一度教えてくれた。私も忘れていたので復習できてよかった。