2012/07/03

KLHL3 and CUL3

Journal clubで、Gordon syndrome(FHH、familial hyperkalemic hypertension)の原因遺伝子を新たに二つ突き止めたという論文が紹介された(Nature 2012 482 98)。オーストラリアのGordon医師がまとめて発表(Aust Ann Med 1970 19 287)したのでこの名がある(レビューはHypertension 1986 8 93)。原因は遠位尿細管のNCCT(Na-Cl co-transporter)が過剰に働くためと考えられている。

 しかしNCCT自体への遺伝子異常はみつかっていない。この病気をずっと研究しているのはYale大学遺伝学教室のLifton先生と言って、彼のグループはlinkage analysisをしてWNK1を同定し(Science 2001 293 1107)、さらにWNK1のparalogを探してWNK4を同定した。正常なWNK4は遠位尿細管のNCCT、集合管でのK排泄、集合管でのCl再吸収を抑制する。

 しかしWNK1、WNK4の変異は症例の13%にしか見つからない。それで、他の遺伝子異常を探すべく彼のグループはexome sequenceを始めた。これはタンパク質をエンコードしている部分のDNA、約9000万塩基をsequenceして変異を見つける作業だ。これによって見つかったのがKLHL3とCUL3だ。

 KLHL3は、index caseの24/52(46%)に見つかり、うち16例はheterozygous(つまり常染色体優性遺伝)、8例はhomozygous(常染色体劣性遺伝)だった。異常なKLHL3タンパクが半分作られるだけでphenotypeがでるのだ。こういうのを"negative dominant"という。KLHLは遠位尿細管と集合管にみられ、正常であればNCCTを細胞のapical surfaceに動かす働きがある(Nat Genetics 2012 44 456)。

 一方、CUL3はindex caseの33%(17/52)に見つかり、どれも異常はskipping exon 9であった。こちらで注目すべきなのは8例がde novo変異であったこと(親兄弟に同じ変異が見つからない)と、CUL3変異例はいずれも発症が若く、高血圧も重度だったことだ。つまり自然選択を受けるので代々受け継がれている家系は少なく、従ってde novoが多いのかもしれない。

 CUL3もKLHL3も、CRL(Culin-RING E3 ubiquitin ligase)と呼ばれるubiquitin ligaseの一部だ。それで、CRLがNCCTをubiquitin化する→(不明)→NCCTが細胞のapical surfaceに動かす、という機序が想定されるが、まだそこまでは分かっていない。でも、遺伝子変異を見つけて発表されたのが2月、正常なKLHL3の働き(NCCTへの作用)がわかって発表されたのが4月だから、わりとすぐ突き止められるかもしれない。