JCウイルスは、BKウイルスと同じポリオーマウイルスの一族だ。例によって、子供の頃に初感染してからは、腎臓・骨髄・リンパ組織などでアリエッティのようにこっそり暮している。しかしAIDSや移植後の免疫抑制下では、まれに悪さすることがある。主に問題になるのはPML(progressive multifocal leukoencephalopathy)だが、JC nephropathyというのも存在する。
移植後のPMLはまだ数十件しか報告されていない(Ann Neurol 2011 70 305)が、腎臓は最も多く移植される臓器なので件数としては骨髄移植後に次いで二番目に多い。移植後半年がもっとも発症リスクが高く、このコホートでは臓器移植後のPMLのほうが骨髄移植後のPMLよりも予後が悪かった。
確立された治療はない。BKに用いられるcidofovirは効かない上に副作用が多く、改良したCMX001がin vitroで効果があった(Antimicrob Agents Chemother 2010 54 4723)。抗マラリア薬のmefloquineもin vitroでいくらかの効果があった(Antimicrob Agents Chemother 2009 53 1840)。さらに、免疫抑制剤を減らせばIRIS(immune reconstitution inflammatory syndrome)を引き起こすこともあるから注意が必要だ。
要するに、一旦なると治せないので、予防が重要だ。ある人にとっては必要十分な免疫抑制が、べつの人には多すぎて感染症を起こし、べつの人には少なすぎて拒絶反応を起こすわけだから、どうしたらちょうどよい量の免疫抑制をかけられるかという話だ。拒絶のリスク因子はだいぶん分かってきたが、これくらいのリスクにはこれくらいの免疫抑制という治療はまだ行われていない。