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2020/08/11

コバン? COVID-19感染のAfrican americanを見たら。。

今回の話は、いまだに話題の中心になっているCOVID-19関連の話である。

日本人とは関連が薄いかもしれないが、ApolipoproteinL1(APOL1)を交えての話になる。

APOL1遺伝子変異は黒人に多いことが知られており、また西アフリカの血を引くカリブ諸国やラテンアメリカの人にもよく認められる。APOL1遺伝子に関しては以前の投稿を参照していただきたい。

APOL1のG1とG2の2つの変異がある人ではFSGSを発症リスクがOR(Odds Ratio)で10倍、高血圧による腎疾患を起こすORが3倍であることはわかっている。このAPOL1の中でも2つの変異があるリスクの高い患者では何らかの要因がトリガーとなって("Second Hit")、collapsing glomerulopathyを生じるリスクが高い。

何らかの原因によるcollapsing glomerulopathyと聞いてふと思い出されるのは、HIV感染に伴うものであり、組織形態学的にHIVAN(HIV associated nephropathy)ではないであろうか?

HIVANは1980年代に認知され、ネフローゼ症候群と腎不全を伴う疾患である。APOL1遺伝子変異を有している人は、HIVANのリスクが通常よりも30~90倍高いと言われている。HIVだけでなく、パルボウイルスB19、サイトメガロウイルス、EBウイルスなどの感染やSLEなどでもcollapsing glomerulopathyを起こすことがわかっている。

Collapsing glomerulopathyとAPOL1遺伝子変異の関連にインターフェロンが示唆されている。

APOL1遺伝子変異の症例のC型肝炎治療にインターフェロンを用いてcollapsing glomerulopathyが生じたという報告もある。そのメカニズムに関しては現時点ではわかっていない。

COVID-19のケースで、6例のcollapsing glomerulopathyの症例が報告されているが、全症例がAfrican Americanであった。また、APOL1の2つの変異を認めていた。ネフローゼ症候群とAKIを伴っており、臨床所見と病理所見がHIVANに似ていることからCOVAN (Covid-19-associated nephropathy) とこの論文では提唱している。


           


ただ、通常のCOVID-19に関連するAKIのケースではほとんどがATN(急性尿細管壊死)であるということには留意していただきたい。

もしも、African americanのCOVID-19感染の症例をみて、AKIとネフローゼ症候群を伴っていた場合にはCOVAN!?と是非考えて欲しい。

COVID-19の早期終息を願っている。。


2020/07/01

肥満と腎障害について振り返ってみる。

肥満関連腎症(ORG : Obesity-related glomerulopathy)はかなり知られた疾患になっている。
今回はこのORGを整理していきたいと思う。

時間のない人は最初の「簡単なまとめ」だけを読んでいただければ概念はつかめると思う。

簡単なまとめ:
現在、CKD(慢性腎不全)は重大な社会健康問題になっている。
 肥満もCKD発展のリスク因子であることが報告されている(KI 2017)。肥満により、糸球体還流が増加し糸球体の肥大を生じることでORGを起こし、タンパク尿や二次性FSGSを引き起こしCKD進行に寄与することが知られている(Nephron 2017)。
 ORGはBMI≧30でFSGSの有無に関係なく糸球体肥大があれば診断される(Front med 2017)。
 治療は体重を落とすということが一番の治療になる。体重を落とすということに関していえば、食事療法と外科的手術療法がある。

□肥満関連腎症の臨床症状:
 蛋白尿の検出がもっとも典型的なパターンである(腎機能障害の併存がある場合とない場合がある)。
 蛋白尿に関しては30%でネフローゼレベルの蛋白尿になると言われているが、多くの場合はネフローゼレベルの蛋白尿には至らない(KI 2001)。興味深いのは高度のネフローゼレベルの蛋白尿になっても、血清アルブミンの低下がない症例も多い。この理由は明確にはわかってはいないが、そのような症例ではβ2ミクログロブリンやNAGなどの尿細管障害マーカーの尿中排泄が低下していることが報告されている(NDT 2001
 その他に合併するものとして高血圧(50-75%)、脂質異常症(70-80%)と言われている。また、先に述べたようにネフローゼレベルの蛋白尿でも浮腫をきたすことは稀ではあるが、長期で見ると徐々に蛋白尿が増加し、末期腎不全に至る割合が10-33%であることが報告されている(KI report 2017)。
 日本からも報告がでていて、20人の肥満関連腎症の2年フォローで7人の患者が腎機能の上昇を認め、2人(10%)が末期腎不全に至っている(CEN 2013)。やはり診断の遅れというのが一番の問題になるため、蛋白尿を手がかりに疑うことが非常に重要になる。

□肥満関連腎症の鑑別疾患と鑑別ポイント:
■高血圧腎症
・・高血圧腎症では糸球体のびまん性腎硬化が生じ、腎臓のサイズが正常腎に比べ小さくなる。硬化していない残っている糸球体はhypertrophyを生じるという特徴がある。高血圧と肥満は併存していることも多いが、中等度から高度血管病変に糸球体変化病変があった場合には高血圧性腎症を疑う。

■糖尿病性腎症
・・糖尿病性腎症では典型的にはメサンギウムの拡張と糸球体基底膜の肥厚所見を認め、これはORGの病変とは異なる。

■Primary FSGS
・・下記に表を記載するが、これは悩ましい。理由は先にも述べたようにORGによって2次性FSGSを生じるためである。
 臨床所見では蛋白尿出現が緩徐でネフローゼレベルでない蛋白尿がORGによるFSGSの特徴である。
 病理所見ではPrimary FSGSでは糸球体ボリュームが正常で、びまん性の足細胞の喪失所見が違いとして認められる。
Nat rev nephro 2016


ORGの病理所見:
 これは、先に述べているが正常腎に比べてORGでは病理解剖などでも腎臓の大きさ・重さが大きくなっている特徴がある。その原因としては糸球体肥大が主要な要因である。観察研究で正常腎に比べて糸球体ボリュームが3倍くらいになっているが、糸球体密度は低いという特徴があった(CJASN 2012)。
 FSGSに進展したものではPerihilar FSGSが一番多い。また、中等度巣状メサンギウム硬化、中等度糸球体基底膜肥厚化や尿細管基底膜肥厚化などの糖尿病様性変化(糖尿病の診断基準には至っていない)を認めるものもある。
 電子顕微鏡では、主に足細胞の数の減少と中等度の足細胞の癒合が認められる。また、蛋白と脂肪の吸収顆粒がメサンギウム細胞や尿細管上皮細胞に認められる。


□ORGの病因:下記の要因だけではないが、説明していく。
・血行動態の変化、RAA系、ホルモン反応不全・脂質代謝異常がメインの病因になっている。
■血行動態の変化
→腎血漿流量、糸球体灌流量の増加などを引き起こし糸球体腫大を生じる(Nat rev nephro 2012)。また、尿細管でのNa再吸収が亢進している。
■RAA系
→RAAS(レニンーアンギオテンシンーアルドステロン系)が亢進しており、それにともない循環動態の変化をもたらす(KI supp 2015)。
■ホルモン反応性不全、脂質代謝異常
→直接的、もしくは間接的に腎細胞の形態や機能の障害を起こし、糸球体腫大・糸球体数の減少をおこす(NDT 2013)。

+αの知識:
□肥満に伴う循環動態の変化
Nat rev nephro 2016
・輸入細動脈の拡張によるGFR増加、TGF(尿細管糸球体フィードバック)の減少によるGFR増加、RAASの増加などにより糸球体灌流増加により糸球体腫大・糸球体内圧の上昇をきたし足細胞の欠損が生じ二次性FSGSを生じる。

□脂質の異所性蓄積にともなうORG
メサンギウム細胞、足細胞、尿細管に蓄積することでORG発症につながる。


□ORGの治療
・体重を減らす
・・体重減少は蛋白尿の減少に寄与する。体重減少と比例して蛋白尿も減少する事が言われている。体重減少はカロリーの低下や減量手術で達成する必要がある。

・RAAS阻害薬
・・肥満を伴う蛋白尿患者では蛋白尿の減量を認め、十分効果が認められている(Curr hyperten Rep 2015)。

・血糖降下薬
・・DPP4阻害薬やGLP1受容体作動薬などのインクレチン関連治療は高脂質によって発症したORGの発展を抑制したことがネズミの実験でわかっている(Am J Physiol Renal Physiol 2018)。
 メトホルミンに関しては腎の線維化を抑制する可能性が示唆されているがはっきりとはしていない(Nephron 2018)。

・脂質代謝調整の治療
・・ネズミの実験でINT-777というTGR5受容体の選択的作動薬が蛋白尿を減らし、足細胞障害、メサンギウム拡張、線維化を障害し、マクロファージの腎の発言が減少したことが報告されている(JASN 2016)。また、ミトコンドリアの発生を生じ酸化ストレスも減少したと報告している。
 Lipoxin A4というIL-12の産生を減少させる重要な因子がORGマウスに対してNF-κBとERK/p38 MARK経路の活性阻害によって、腎の炎症を抑えることが報告され、将来的な治療に注目されている(Life sci 2018)。

・新規治療
・・SS31というミトコンドリアに対しての抗酸化作用をもつものが、糸球体の内皮細胞や足細胞の保護をして、メサンギウム拡大、糸球体硬化、マクロファージの流入、炎症因子や脂肪による毒性からのミトコンドリア障害を防ぐことがわかり、ORGの治療薬への期待がある(KI 2016)。
 亜鉛がP38 MARK関連炎症反応を低下させ、ORGの進展抑制が報告されている(Obesity 2016)。
 クルクミン(ウコンなどに含まれるポリフェノール化合物)がWnt/β-catenin経路を阻害することによって足細胞に対するレプチン毒性を減少させ、これがORgの治療に寄与するのではと考えられている(Evid based Complement Akternat Med. 2015)。

下の2つはORG患者の治療になりうる可能性があると考えられている。
・mTOR阻害薬が腎臓への脂肪蓄積を抑制させるのに有効であると報告がある(Lancet Diabetes Endocri 2014)。
・選択的エンドセリンA受容体阻害薬は糖尿病患者の尿蛋白減少と腎機能保護に寄与することが報告されている(Lancet 2019)。


なので、治療に関しては現時点では体重コントロールというのがメインにはなってくる。高血圧があればRAS阻害薬、DMがあればDPP4阻害薬やGLP1作動薬を選択することがプランになるのではないか。
もちろんORG単独の治療だけでなく、ORGを発症しやすい患者では心血管合併症も多くなりうる。そのためASCVD riskは計算しておく必要性はあり、それに対しての積極的な介入も行うことは非常に重要となりうる。


2017/11/18

少しアフェレシスと透析について PAについて③

今回が一応アフェレシス祭り(こう呼ばれたので)の最後になる。


今回の話題はLDL吸着療法である。

まず、LDL吸着療法はPlasma adsorberがリポソーバー(LA-15、40)の血漿吸着療法である。
吸着の対象となるのはLDLコレステロールである。


保険適応の疾患に関しては以下の3つである。
①家族性高コレステロール血症
②閉塞性動脈硬化症
③巣状糸球体硬化症

である。

①は想像がしやすいと思うが、スタチンなどの薬剤投与によっても高脂血症(血清総コレステロール250mg/dl以下にならない)が持続する場合は適応になる。
これは週1回までの適応になる。

疾患について簡単に概説をする。
家族性高コレステロール血症:
LDL受容体異常による高コレステロール血症をきたす常染色体優性遺伝の疾患である。
遺伝型はホモ型とヘテロ型がある。
 -ホモ型は新生児から著明な高コレステロール血症をきたし全身の動脈硬化をきたす。
 -ヘテロ型はホモ型より予後良好だが、70%が65歳までに死亡する。


治療に関してはホモ型とヘテロ型で異なる。2017年に動脈硬化ガイドラインがでているので、参考にして頂きたい。
・ホモ型であればスタチンを投与し治療目標に到達しない場合には定期的にLDLアフェレーシスなどを行う。(下図)




・ヘテロ型であれば、スタチン投与を行いPCSK9投与などを行い効果不十分であればLDLアフェレーシスの適応となる。(下図)



②閉塞性動脈硬化症
これに関しては、PADに関してまとめた以前の記事があるので参考にしていただきたい。
保険請求できる回数は一連につき3ヶ月で10回までとなる。

適応としては下記を全て満たすものである。
・Fontaine分類Ⅱ度以上の症状を呈するもの
・薬剤療法により、血中総コレステロール220㎎/dl,あるいはLDL-C値140mg/dl以下まで低下しない高コレステロール血症
・膝窩動脈以下の閉塞、または広範な閉塞部位を有するなど外科的治療が困難で、かつ従来の薬物療法では十分な効果を得られない場合。

LDL-Cを低下させることが一つのメカニズムであるが、そのほかにも酸化LDLの低下作用と血管内皮細胞改善に優れていたとの報告もある。
過去にはスタチン+LDLアフェレーシスとスタチンのみを比較したもので、併用した場合のが良かったという報告も出ている(Ann Intern Med 1996)。


③巣状糸球体硬化症
日本からの報告が多い。
機序に関しては明確にはわかっていないが、酸化LDLの低下や関連する炎症性サイトカインの除去を行うことができ、ネフローゼに伴う過凝固の状態の改善に寄与するのではないかと言われている。

条件としては
ステロイド抵抗性を示すネフローゼ症候群で、総コレステロールが250㎎/dl以下に低下しない場合が挙げられる。
保険請求できる回数は一連につき3ヶ月で12回までとなる。


LDLアフェレーシスの使用方法を示す。


何故、カラムが二つあるかに関しては、一つのカラムで吸着を行なっている際にもう一方のカラムは洗浄・賦活化を行なっているためである。

ちなみに用いるカラムのリポソーバーLAの
リポソーバー40:400mL容量カラム
リポソーバー15:150mL容量カラム
である。

LDL吸着療法の治療時間としては、
治療時間1.5~2.5時間
血液流量100~150ml/min
血漿流量30~45ml/min
目標血漿処理量3000~5000ml
である。

最後は簡単にであるが、LDLアフェレーシスについてまとめた。
アフェレーシスは奥が深いし、正直使いこなせていない。。ここを見て少しでもアフェレーシスの面白さ・奥深さがわかっていただければ嬉しい。





2017/07/26

がん患者の急性腎不全 6

今回は前回の続きで、抗がん剤とAKIについての実践的な内容について触れたいと思う。
少しでも知識の片隅に置いてもらえたらうれしいと感じる。


まとめるとNEJMの下記の表と図がとてもみやすい。(NEJM 2017



上記を文章にまとめてみる。
★細胞障害性抗がん剤では
・シスプラチン:直接的に尿細管障害を生じ、ATNを生じる。また、Salt wastingを生じ低ナトリウム血症になったり、マグネシウム排泄が亢進し、低マグネシウム血症もきたす。低クロール環境が毒性の増悪を生じるため、投与前に生食投与を行い尿量を維持する事は重要である。1/3が治療後数日でAKIになる。また、反復投与で悪化しやすい。


・カルボプラチン・オキサプラチン:シスプラチンと同様の白金製剤ではあるが、尿細管障害は生じる頻度は低い。


・イフォスファミド:シクロフォスファミドと同様なアルキル化剤。30%程度にAKIを生じる。近医尿細管障害を生じ、尿糖・低カリウム血症・低リン血症・近医尿細管アシドーシスを生じる。重度な症例ではFanconi症候群を呈する。CKDがある症例やシスプラチン投与歴がある症例、腎に悪性腫瘍の進展がある症例はAKIのリスクになりうる。


・メソトレキセート:代謝阻害薬の薬である。白血病・肉腫・リンパ腫の治療に使用。高容量(1g/m2)は尿細管内の結晶を形成し閉塞を生じ、また直接的に尿細管障害を生じAKIを引き起こす。


・ペトレキセド:代謝阻害薬で、尿細管障害を生じATNを生じAKIを生じる。重度の場合ではFanconi症候群を生じる。


下記は骨粗鬆症の予防で使用されものであるが、
・パミドロネート:FSGSを生じやすい。
・ゾレドロネーと:ATNを生じやすい。
は覚えておく必要はある・


★分子標的薬
・VEGF阻害薬:大腸ガンや腎細胞癌などの治療薬として使用される。高血圧、タンパク尿、AKIとの関連性が示されている。また、TMAやFSGSの報告もありVEGF阻害薬のAKI機序としては最多である。

・BRAF阻害薬:容量依存性のAKIを生じる。尿細管間質障害を生じる。80%の症例が薬剤の中止で改善するが、はっきりとした機序までは不明確である。

・ALK阻害薬:クリゾチニブ(ザーコリ)はATNやAINを生じAKIを生じうる。

★免疫治療薬
パート5のカテゴリには入れてはいなかったが、インターフェロンやインターロイキン2はAKIにおいては重要なので、把握しておく必要がある。
両者ともAKIを生じ、
−インターフェロンは、高容量のタンパク尿を生じ、微小変化群やFSGSといった腎炎所見をもたらしたことがわかっている。機序としてはインターフェロンがpodocyteにくっつき正常細胞の増生を変化させたと考えられている。薬剤の中止によりAKIの多くはよくなるが、collapsing FSGSなどは効果が乏しいと言われている。

★免疫チェックポイント阻害薬
これはAKIに関しては急性間質性腎炎を生じることが報告されている。また、AKIの程度も中等度から重度になることも多い。ステロイド治療や薬剤の中止により徐々に改善する。

今回は2回にわたって抗がん剤と腎機能障害に関して振り返ってみた。
うまくまとめきれていなく、読みづらい部分も多いと思うが、少しでも臨床の参考になればと思う。





2016/12/30

suPARとタンパク尿(proteinuria)

前回の投稿でsuPARとCKDについて記載した。これは、Nephrologyの2015年のインパクトのあるもので14番目にランクされた(ちなみにこの年の1位はSPRINT trial)。

今回、nature medicineから基礎の分野であるがsuPARに関する論文が発表され、2016年のインパクトのある論文の1位を獲得しているので見ていただきたい。

この論文は
タンパク尿の増加は腎疾患(糖尿病や高血圧や遺伝子異常や薬物や感染や原因不明なもの)の特徴である。suPARは前述した様にCKDの進行や発症に関連がある。例えばFSGSなどとの関連性もある(Nat med 2011)。
しかし、suPARの上昇が未来の腎疾患の予測になるかは不明確であり、今回の論文では骨髄由来のimmature myeloid cellsがsuPAR上昇に関連あるものとして、動物実験でsuPAR高値を持つタンパク尿を有する動物の増加したGr1(lo) myeloid cellsを健康なマウスに導入しsuPARとタンパク尿を有する腎疾患の関連を示すものである。

この論文はとてもよく練られているものであり、今までFSGS(移植後の再発も)やCKDとの関連性が言われていたsuPARがタンパク尿の腎症との関連性があるとのことであり、今後このsuPARを抑えることで腎疾患のコントロールがつきやすくなるのかもしれない。

この様に基礎実験の上に臨床が成り立っていると実感する論文であり、また今後の腎疾患の未来を明るくするものであると感じた。



2015/06/09

アカデミズム(aka ORG)

 大学の勉強会に参加してきた。教授が親切にも(医局員でもない)私の成長を気遣ってくださり、ご厚意で参加を許されてありがたいことだ。心の中は不思議と静謐で、やはりアカデミズムのなかにいると自分は落ち着くようだ。そして、そこで私がフェロー時代に同級生がNephrology Grand Roundで最初に(2011年9月)発表したobesity-related glumerulopathy(ORG)を思わせる症例を聞いた。

 糖尿病のない重度肥満に伴うネフローゼ症候群は1974年に初めてPalo AltoのVA病院から報告された(Ann Int Med 1974 81 440)。腎病理標本データベースを見直したコロンビア大学の報告(KI 2001 59 1498)によれば、その頻度は徐々に増えているそうだ。まあ肥満じたいが増えているから無理もない。

 病理像としてはFSGSないし糸球体肥大を呈する。原発性FSGSと比較すると、ORGは蛋白尿の程度が軽度でネフローゼ症候群にまでなることは少なく、分節性硬化や足突起のeffacementは少ない代わりに糸球体は肥大していたそうだ。またイヌに高脂肪食を食べさせて肥満にすると(JASN 2001 12 1211;こんな実験は今はもう出来ないかもしれないが)腎が肥大し、糸球体が肥大し(TGFβ1の発現が亢進し)、hyperfiltrationになり、intraglomerular hypertensionを反映してか(交感神経の刺激により)RAA系が亢進する。またadiponectin減少も病態に大きく関係しているようだ(NDT 2008 23 3767)。

 治療はRAA系阻害薬、睡眠時無呼吸の治療、bariatric surgery(減量のための胃切除;有効性を示したペンシルベニア大学の発表はClin Nephrol 2009 71 69)など。



2012/01/12

FSGS

腎臓内科といえば、腎臓固有のいろんな糸球体疾患をたくさん診るのが仕事かと思っていたが実際はそんなことはない。糸球体疾患はそんなに多くないからだ(大学病院にいても)。そんなわけで、FSGSだの膜性腎症だの医学生のころから知っている腎疾患のことを掘り下げて勉強する機会が実はほとんどない。とはいえ回診で「FSGSの組織学的分類は?」とか「二次性FSGSの原因は?」とか聞かれてぱっと答えられないのはさすがにまずい。

 FSGSの組織学的分類は、①FSGS NOS(Not Otherwise Specified)、②Collapsing variant、③Tip variant、④Perihilar variant、⑤Cellular variantだ。臨床上最低限知っておくべきことは②が最も予後が悪く、③がもっとも予後がよいということだ(KI 2006 69 920)。他はだいたいその中間(数の少ない⑤についてはKI 2006 70 1783を参照)。

 二次性FSGSの原因は?有名なのはHIV(FSGSがあるだけでHAARTの適応になる)だが、他にもネフロン喪失(→適応しようとして糸球体の過濾過、肥大→糸球体硬化)、腎血管拡張(やはり過濾過、妊娠・糖尿病・肥満)、薬剤(interferon、同化ステロイド、pamidronate、etc)、その他の腎炎(lupus、IgA腎症、血管炎など→healing processにおいてサイトカインがたくさん出て糸球体硬化を起こす)など。

2011/08/25

suPAR

今週のjournal clubは二本の興味深い基礎研究の論文が紹介された。一つ目はカリウムチャネル遺伝子のひとつ(KCNJ5)の変異が細胞内へのカルシウム流入を介してアルドステロン産生と細胞増殖を起こすことを示した、アルドステロン産生副腎腫瘍の病態生理の一部を明らかにする論文(Science 331, 768-772, 2011)。

 この研究者は、遺伝性アルドステロン産生副腎腫瘍の家系を探し出し、腫瘍の遺伝子(exome)をくまなく調べた。そして共通するsomatic mutationを見つけ、その部位が生物種を越えて保存されていることを示した(進化の過程で保存されているということは、それだけ生存に重要と考えられる)。さらにたんぱく質構造解析により変異部位はチャネルの透過特異性に重要ということも示した。

 もう一つの論文は、FSGS(原因不明のネフローゼ症候群、治療法も確立していない)の原因に、circulating urokinase receptorが関与しているというもの(Nature medicine 17, 952-960, 2011)。FSGSは移植した腎臓にも起こるぐらいだから、この病気を起こす何らかの"circulating factor"(血中を流れる未特定の物質)があるに違いないと考えられていた。

 この研究者はすでに腎臓糸球体の足細胞の細胞膜にあるurokinase receptorが、細胞間器質のbeta-3 integrinなどを介して足突起のeffacementを起こすことを知っていた。さらに研究を進めて、urokinase receptorは細胞膜を離れて血中を循環することを突き止めた。

 そこで、①FSGSはcirculating factorによると考えられている、②urokinase receptorは糸球体病変を起こす、③urokinase receptorはserum soluble urokinase receptor(略してsuPAR)として血中を漂っている、という考えを総合して、④suPARがcirculating factorなのではないか?という推論を立てそれを証明しにかかった。

 調べてみると、FSGS患者の血漿には、原疾患を問わずsuPARの濃度が高いことが分かった。また患者血清を健康なヒトの足細胞に振りかけるとbeta-3 integrinが誘導されることが分かった。この効果はrecurrent FSGS患者の血清でより大きく、患者血清に抗suPAR抗体を混ぜると打ち消された。

 さらにsuPAR遺伝子(plaur)ノックアウトマウスを作製し、このマウスにsuPARを大量静注したり、wild typeのマウスにノックアウトマウスの腎臓を移植したり、さらにはwild typeのマウスにplaur遺伝子入りのプラスミドを組み込んでsuPARを異常発現させたマウスを作ったりして、suPARがFSGSを起こすことを美しく論理的に示した。

 これは、膜性腎症にPLA2Rが関与していることが判ったのに続き、難病であるネフローゼ症候群の病態解明につながる重要な論文だ。これからさらに、suPARがなぜFSGS患者で異常に発現しているのか、suPARを除去すれば病気は元に戻るのか(残念ながら今のところ血漿交換はFSGSには効かない)、など研究が進んでいくことだろう。