腎臓業界は次から次に良書・秀書がでてくるので、とてもフォローしきれない。とはいえ、ブロガーだって本は読む。そこで試しに、「腎生理」のお題で一人1冊ずつお気に入りを出し合ってみたところ、こうなった(一応ことわっておくが、どのブロガーもこれらの本に利益の相反を持たない)。
・考える腎臓病学(2011年)
・一目でわかる電解質(3版は2013年)
・極論で語る腎臓内科(2015年)
ブロガーAのお気に入りをブロガーBは読んだことがないなど、トレーニングを受けた年代と場所による違いを示す結果になった。また、「本もいいが論文もいい」(自分なりの「論文集」を日々編纂されている人は腎臓内科に多い、写真は筆者のUSBメモリー)、「本もいいがブログもいい(こちらも参照)」、といった声も聴かれた。
これらが参考になれば幸いである。が、やはり夏の読書には「読み物」色の強いものを薦めたくなるのが人情。あのNephJCでさえ、今夏は医のアートについて考えさせるAndrew Bombackの短編集、"Doctor (Object Lessons)"を薦めているほどだ。そんなわけで、利益の相反はあるが、筆者訳によるこの一冊もオススメしておく。
・医のアート ヒーラーへのアドバイス(原著第2版は2013年、翻訳は2019年)
それでは、リゾートのプールサイドであれ、電車の中であれ(写真は筆者が車内で読んだ長田弘著『本を愛しなさい』)、自宅で#バーガーインザハウスしながらであれ、皆さまにとってよい読書の夏になりますように!
クマさんがおしっこしないで冬眠できるのも、じん臓が一日に体液の何十倍もろ過してから不要なものを残して再吸収するのも、じん臓の替わりをしてくれる治療があるのも、すごいことです。でも一番のキセキは、こうして腎臓内科をつうじてみなさまとお会いできたこと。その感謝の気持ちをもって、日々の学びを共有できればと思います。投稿・追記など、Xアカウント(@Kiseki_jinzo)でもアナウンスしています。
2019/07/28
2018/11/11
Kir
クイズです(写真は1992年まで日本テレビ系列で放送された、アメリカ横断ウルトラクイズ)。
出題者:生活習慣病等の厚生労働大臣が別に定める疾患を主病とする患者について、プライマリケア機能を担う地域のかかりつけ医師が計画的に療養上の管理を 行うことを評価したもので、厚生労働大臣が定める疾患を主病とする患者に対して、治療計画に基づき、服薬、運動、栄養等の療養上の管理を行った場合に、月2回に限り算定できるのは・・・
回答者:「特定疾患療養管理料(ただし許可病床数200 床以上の病院においては算定できない)」!
出題者:ですが、カリウム摂取で血圧が下がるのはなぜでしょう?
回答者:・・・。
カリウム摂取と血圧の関係は疫学で証明され(NEJM 2014 371 601)、クリニックで高血圧の患者さんに「野菜を摂りましょう」といえば上記加算も取れるだろう。しかし、そのメカニズムはどうか?
アルドステロンなどさまざまな要素が関与しているので全貌は分かっていない。ただ、米国腎臓学会の小部屋でおこなわれたWNK(以前も何度か紹介した)セッションに出て、遠位尿細管の間質側にあるKirチャネルがWNKを制御しているらしいことがわかった(写真は辛口白ワインに甘いカシスリキュールを加えたフランスうまれのカクテル、Kir)。
Kirチャネルはカリウムチャネルで、irはinward rectifying(細胞内への一方通行)の略だ。脳で発見されて(初期論文のひとつはNature 1993 362 127)以来、多くのスーパーファミリーが見つかり、さまざまな場所で発現していることがわかっている。
腎臓もそのひとつで、たとえば有名なROMKはKir1.1だ。遠位尿細管の間質側にはKir4.1(遺伝子KCNJ10)とKir5.1(KCNJ16)でできたヘテロ4量体があり、これが血中カリウム濃度を感知していると考えられている。そして、血中濃度がたかいとNCC発現が下がり(下図紫線、JASN 2017 28 1814)、ナトリウム再吸収が落ちる。
Kir4.1遺伝子を腎臓に限りノックアウトするとどうなるか?Kir5.1のヘテロマーはカリウムを通さないこともあり、カリウムセンサーの働きが失われる(上図赤線)。なぜ腎臓に限りノックアウトするかというと、けいれんを起こしてしまうからだ。
この遺伝子異常はヒトでも知られており、EAST症候群(Epilepsy, Ataxia, Sensorineural deafness, Tubulopathy)と呼ばれる(NEJM 2009 360 1960)。NCC発現が減るのでGitelman症候群に似て低K血症、アルカローシスをきたす。
Alport症候群(治験の話はこちら)、Pendred症候群、ループ利尿薬、シスプラチン、アミノグリコシドなどほかにも耳と腎臓に影響する疾患はあるが、EAST症候群もそのひとつとして覚えておきたい。
Kir5.1をノックアウトすると、Kir4.1のホモ4量体はヘテロ4量体と異なりpHに関わらず恒常的にカリウムを通すので、NCCが過剰発現になる(JCI insight 2017 2 pii92331)。その結果、Gitelmanのミラーイメージ、FHHt(Gordon症候群)にちかい病状となる(整理されたものはこちら)。
さらに、間質側のKirが、どうやって反対側(内腔側)のNCC発現を制御しているのかについての話もあった。下図(PNAS 2014 111 11864)にあるように、細胞内クロール濃度、SPAK、KS-WNK1などが関与しているようだが、それはまた。
遠位ネフロンのイオンチャネル研究といえば、もとは腎臓内科の花形(いまは、近位尿細管や腸管のほうが流行りではあるが)。高血圧の健康と社会への影響の大きさを考えても、今後の発展と応用が期待される。
出題者:生活習慣病等の厚生労働大臣が別に定める疾患を主病とする患者について、プライマリケア機能を担う地域のかかりつけ医師が計画的に療養上の管理を 行うことを評価したもので、厚生労働大臣が定める疾患を主病とする患者に対して、治療計画に基づき、服薬、運動、栄養等の療養上の管理を行った場合に、月2回に限り算定できるのは・・・
回答者:「特定疾患療養管理料(ただし許可病床数200 床以上の病院においては算定できない)」!
出題者:ですが、カリウム摂取で血圧が下がるのはなぜでしょう?
回答者:・・・。
カリウム摂取と血圧の関係は疫学で証明され(NEJM 2014 371 601)、クリニックで高血圧の患者さんに「野菜を摂りましょう」といえば上記加算も取れるだろう。しかし、そのメカニズムはどうか?
アルドステロンなどさまざまな要素が関与しているので全貌は分かっていない。ただ、米国腎臓学会の小部屋でおこなわれたWNK(以前も何度か紹介した)セッションに出て、遠位尿細管の間質側にあるKirチャネルがWNKを制御しているらしいことがわかった(写真は辛口白ワインに甘いカシスリキュールを加えたフランスうまれのカクテル、Kir)。
Kirチャネルはカリウムチャネルで、irはinward rectifying(細胞内への一方通行)の略だ。脳で発見されて(初期論文のひとつはNature 1993 362 127)以来、多くのスーパーファミリーが見つかり、さまざまな場所で発現していることがわかっている。
腎臓もそのひとつで、たとえば有名なROMKはKir1.1だ。遠位尿細管の間質側にはKir4.1(遺伝子KCNJ10)とKir5.1(KCNJ16)でできたヘテロ4量体があり、これが血中カリウム濃度を感知していると考えられている。そして、血中濃度がたかいとNCC発現が下がり(下図紫線、JASN 2017 28 1814)、ナトリウム再吸収が落ちる。
Kir4.1遺伝子を腎臓に限りノックアウトするとどうなるか?Kir5.1のヘテロマーはカリウムを通さないこともあり、カリウムセンサーの働きが失われる(上図赤線)。なぜ腎臓に限りノックアウトするかというと、けいれんを起こしてしまうからだ。
この遺伝子異常はヒトでも知られており、EAST症候群(Epilepsy, Ataxia, Sensorineural deafness, Tubulopathy)と呼ばれる(NEJM 2009 360 1960)。NCC発現が減るのでGitelman症候群に似て低K血症、アルカローシスをきたす。
Alport症候群(治験の話はこちら)、Pendred症候群、ループ利尿薬、シスプラチン、アミノグリコシドなどほかにも耳と腎臓に影響する疾患はあるが、EAST症候群もそのひとつとして覚えておきたい。
Kir5.1をノックアウトすると、Kir4.1のホモ4量体はヘテロ4量体と異なりpHに関わらず恒常的にカリウムを通すので、NCCが過剰発現になる(JCI insight 2017 2 pii92331)。その結果、Gitelmanのミラーイメージ、FHHt(Gordon症候群)にちかい病状となる(整理されたものはこちら)。
さらに、間質側のKirが、どうやって反対側(内腔側)のNCC発現を制御しているのかについての話もあった。下図(PNAS 2014 111 11864)にあるように、細胞内クロール濃度、SPAK、KS-WNK1などが関与しているようだが、それはまた。
遠位ネフロンのイオンチャネル研究といえば、もとは腎臓内科の花形(いまは、近位尿細管や腸管のほうが流行りではあるが)。高血圧の健康と社会への影響の大きさを考えても、今後の発展と応用が期待される。
2018/06/15
ひとつの答えと、たくさんの質問
アルプスの少女ハイジは「口笛はなぜ遠くまで聞こえるの?」「あの雲はなぜ、私を待ってるの?」とおじいさんにたずねた(『おしえて』より)。
前者は「口笛が遠くまで届く周波数域で人間の耳がこの周波数域を聞き取りやすいため」とされ(Wikipedia日本語版『口笛』より)、後者はハイジ自身の心情が多分に反映されていると思われる。雲のほうへ歩いていきたい気分だったのだろう(図)。
このように答えが分かるものもあればないものもあるが、質問する人の清らかな好奇心と知的関心といった人柄が垣間見えるのは嬉しいものだ。
それでは、「サイアザイドはなぜ、低Na血症を起こすの?」という質問はどうだろうか。
実は私はこの質問に明確な答えをできずにいた。サイアザイドによる低Na血症(TIH、thiazide-induced hyponatremia)は、よく使われる降圧薬のよくある副作用なのに、完全には解明されていない。
通説は「塩類(Na+、Cl-)喪失によりAVPが刺激され、水分が貯留する」というものである(体重がふえたことを示したのはAnn Int Med 1989 110 24)。このことは、たとえばループのようにネフロンの浸透圧勾配を消すことで自由水を排泄させる利尿薬でNa値がむしろ上昇することと対比される。
しかし、「どうして(低Na血症に)ならない人はならないのに、なる人は何度でもなるの?」とか「AVPがでていないのに水がたまる人もいるのはなぜ?」とかの問いには、「おじさんは忙しいんだ、さああっちへ行きな(図)」とまでは言わないが、「そうだから」くらいしか答えられなかった。
今回は、それが解明されつつあるという投稿だ。TIHの患者さんたちについてGWASをおこなった結果わかった(JCI 2017 127 3367、レビューはAJKD 2018 71 769)。
結論から言うと、起こりやすい人はプロスタグランジン・トランスポーター(SLCO2A1遺伝子にコードされる)の活性が低く、プロスタグランジンが集合管内腔にたまりやすく、内腔側にあるプロスタグランジン受容体(EP4)の刺激によって内腔表面へのAQP2がふえやすく、水が再吸収されやすい(図は前掲AJKDレビューより)。
プロスタグランジンは「組曲(この名づけについてはこちら)」はおろか、体液保持と進化の歴史についての「叙事詩」がかけるくらい奥が深いが、とにかくこれで質問に一個答えを用意することはできる。
もっとも、一個の答えは「サイアザイドがこの絵にどう関与し、AVPとどう関与するか」など、より多くの質問を生む。しかしそれでも、学び続けるしかない。
なおTIHのリスクは女性(と高齢者と低体重者)に高いが、今回の論文でも同様な性差が確認された。プロスタグランジン・トランスポーター遺伝子異常は一連のSLCO2A1 関連小腸症(非特異性多発性小腸潰瘍症は難病指定)を起こすが、これも女性に多い(日本消化器病学会雑誌 2016 113 1380)。これなどは、日常診療に活かせる知見かもしれない。
質問は、プレゼント(こちらも参照)。これからもたくさんのプレゼントボックスを開けて、いろんな世界をみていきたい。
前者は「口笛が遠くまで届く周波数域で人間の耳がこの周波数域を聞き取りやすいため」とされ(Wikipedia日本語版『口笛』より)、後者はハイジ自身の心情が多分に反映されていると思われる。雲のほうへ歩いていきたい気分だったのだろう(図)。
このように答えが分かるものもあればないものもあるが、質問する人の清らかな好奇心と知的関心といった人柄が垣間見えるのは嬉しいものだ。
それでは、「サイアザイドはなぜ、低Na血症を起こすの?」という質問はどうだろうか。
実は私はこの質問に明確な答えをできずにいた。サイアザイドによる低Na血症(TIH、thiazide-induced hyponatremia)は、よく使われる降圧薬のよくある副作用なのに、完全には解明されていない。
通説は「塩類(Na+、Cl-)喪失によりAVPが刺激され、水分が貯留する」というものである(体重がふえたことを示したのはAnn Int Med 1989 110 24)。このことは、たとえばループのようにネフロンの浸透圧勾配を消すことで自由水を排泄させる利尿薬でNa値がむしろ上昇することと対比される。
しかし、「どうして(低Na血症に)ならない人はならないのに、なる人は何度でもなるの?」とか「AVPがでていないのに水がたまる人もいるのはなぜ?」とかの問いには、「おじさんは忙しいんだ、さああっちへ行きな(図)」とまでは言わないが、「そうだから」くらいしか答えられなかった。
今回は、それが解明されつつあるという投稿だ。TIHの患者さんたちについてGWASをおこなった結果わかった(JCI 2017 127 3367、レビューはAJKD 2018 71 769)。
結論から言うと、起こりやすい人はプロスタグランジン・トランスポーター(SLCO2A1遺伝子にコードされる)の活性が低く、プロスタグランジンが集合管内腔にたまりやすく、内腔側にあるプロスタグランジン受容体(EP4)の刺激によって内腔表面へのAQP2がふえやすく、水が再吸収されやすい(図は前掲AJKDレビューより)。
プロスタグランジンは「組曲(この名づけについてはこちら)」はおろか、体液保持と進化の歴史についての「叙事詩」がかけるくらい奥が深いが、とにかくこれで質問に一個答えを用意することはできる。
もっとも、一個の答えは「サイアザイドがこの絵にどう関与し、AVPとどう関与するか」など、より多くの質問を生む。しかしそれでも、学び続けるしかない。
なおTIHのリスクは女性(と高齢者と低体重者)に高いが、今回の論文でも同様な性差が確認された。プロスタグランジン・トランスポーター遺伝子異常は一連のSLCO2A1 関連小腸症(非特異性多発性小腸潰瘍症は難病指定)を起こすが、これも女性に多い(日本消化器病学会雑誌 2016 113 1380)。これなどは、日常診療に活かせる知見かもしれない。
質問は、プレゼント(こちらも参照)。これからもたくさんのプレゼントボックスを開けて、いろんな世界をみていきたい。
2018/06/14
CaSR組曲 6
6. 集合管
集合管の介在細胞、主細胞それぞれにCaSRはある。集合管はヘンレのループが生み出した浸透圧勾配を利用して最終的に尿を濃縮する場所だ(下図は著者が2013年に米国の腎臓内科で発表した腎生理レクチャ『ADHと水』スライドより)。
そもそも髄質の深いところは、濃縮によってカルシウムが結晶しやすい(これをRandall's plaqueと呼ぶことは以前にもふれた、写真はJCI 2003 111 607より)。
だから、そんな集合管でのCaSRの働きは「いかに石を作らせないか」で考えると分かりやすい。
まず介在細胞では、内腔側で高Ca尿を感知したCaSRが、H+-ATPaseを刺激して尿のacidificationを促進する。カルシウムリン酸結石は尿pHがたかいほど析出しやすいので、これは理にかなっている。カルシウム再吸収チャネルTRPV5をノックアウトして尿中カルシウム濃度を増やしても、H+-ATPaseが働いて尿pHをさげるので石はできない。
しかし、TRPV5だけでなく集合管にあるH+-ATPaseのB1サブユニット(ここが異常だと遠位RTAになる、こちらを参照)もノックアウトすると、尿pH低下という防御機構が働かないので腎臓が石化(nephrocalcinosis)して生きられない(JASN 2009 20 1705)。
つづいて主細胞では、CaSRはなんとAQP2と共発現している。AQP2はAVPの支配下にあって水再吸収をふやす(図もおなじレクチャで取り上げたもの、Eur J Physiol 2012 464 133より)。
CaSRは高Ca尿を内腔で感知して、上記支配に拮抗してAQP2を細胞内に引っ込める。その仕組みには、AQP2セリン残基(256番目)リン酸化の抑制が関与しているとされる(J Cell Sci 2015 128 2350)が、詳しいことはまだ分かっていない。
AQP2とCaSRが共発現しているというのは、少し立ち止まって考えていいことかもしれない。AVP-V2R-AQP2というのは陸上生活に不可欠な軸だ。そのことは、軸が機能しない時(尿崩症)を考えてみればよく分かるだろう。水は貴重だ(写真はカリフォルニア州・デスバレー国立公園)。
また、バソプレシンに似たペプチド(プロトタイプの名前を取ってバソトシン・スーパーファミリーとよばれる)は種を越えて保存されており、進化に大きく関与しているとされる。オキシトシンもその一種だが、オキシトシンがなければ哺乳類も生まれなかったかもしれない。
そんな生命の根源にあたる軸に拮抗するCaSRには、CaSRなりの大事な役割があるのだろう。
陸上の体液保持に不可欠といえども、尿濃縮の仕組みには結晶・析出のリスクが常に付いてまわる。しかし、腎臓が石になっては元も子もないので、それを防ぐ仕組みがどうしても必要だったのではないか(写真はメドゥサ退治のためアテナからペルセウスに与えられ、退治後はそのメドゥサの頭をつけさらに最強の盾となった、イージス)。
・おわりに
ここまで、「組曲」の体裁をとってCaSRとネフロンについて概述してみた(おもな参考文献は、Oxford Textbook Clinical Nephrology、Nat Rev Nephrol 2016 12 414)。基礎医学的な内容ではあるが、臨床的な話を理解する助けにもなれば幸いである。
たとえば、「結石患者にCaSR(Curr Opin Nephrol Hypertens 2012 21 355)やクローディン14(Nat Genet 2009 41 926)の遺伝子多型が多い」とか。
あるいは、「CaSR遺伝子がないとTALでのCa2+再吸収が抑制されず、低カルシウム尿症になる(JCI 1983 72 667)」とか(これと、PTHによるCa2+再吸収に抑制がかからないことが、少なくともCaSR遺伝子異常によるFHHの本態とされる)。
それにしても、ネフロンは面白い。次は、どんな「組曲」を書こうかな?
[2019年4月追加]日本人の結石患者におこなったGWAS結果が、JASNにでた(doi.org/10.1681/ASN.2018090942)。BioBank Japanのビッグ・データを使って、「minor allele frequencyが0.01以上」、「Hardy Weinberg Equilibriumが10のマイナス6乗以上」、「call rate が0.99以上」など未知の方法論で検索すると、17個の有意な遺伝子多型がみられた(Pが5×10のマイナス8乗未満という)。
乗っている染色体、遺伝子とその主な機能をあわせて表にすると:
筆者にはCaSRが出てこないのが意外だったが、CKDのGWASでもお馴染みのUMODが出てくるのは納得(こちらも参照)だった。
なお上記で「?」とあるように、Regulator of G protein signaling 14、Indolethylamine N-methyltransferase、Family with Sequence Similarity 128 member B(論文には188とあるがOMIMには128しかない・・誤植だろうか)、Diacylglycerol Kinaseといった遺伝子に乗っている多型の作用は、いまだ分かっていない。
結石と言えば「カルシウム・リン・PTH」や「中性脂肪・尿酸・肥満」にかかわる異常が背景にあることは、なんとなく分かっている。今やそれが遺伝子多型でわかるんだから、まさにprecision medicineといえる。
今後、こういう論文がどんどん増えて、疾患の機序解明や治療につながることが期待される。いっぽう、こうした多型の有無を調べるだけなら、市販のキットで安価かつ簡単にできるようになる。好むと好まざるに関わらず、外来患者に「私はrs6975977多型があるらしいのですが、どうしたらいいですか?」といわれても対応できなければならない。
2018/06/13
CaSR組曲 4-5
4. TAL(ループ上行脚)
TALではCaSRは基底膜側にある。で、よく知られているようにNKCC2とROMKを止めてNa再吸収という「波」を鎮め、波に乗ってカルシウムが細胞の脇から間質側へ打ち上げられるのを防ぐ(図はオンライン・ファーストのJASNから、doi: 10.1681/ASN.2017111155)。
CaSRは、どのようにNKCC2とROMKを止めるのか?細胞内での仕組みとしては、ホスホリパーゼA2がROMKを止めるらしいことがわかっている(Am J Physiol 1997 273 F421)。ROMKを止めたら、NKCC2も止まる。なぜか?
TALにおける「波」とはNKCC2からのNa+とCl-の流入を意味する。ならば、NKCC2はカリウムまで通さなくてもよさそうなものだ。しかし実際には、カリウムは調節役を果たしている。
NKCC2から入ったカリウムはROMKから排出されて内腔側にリサイクルされるが、ROMKの阻害でそれが止まってしまえば内腔のK+が少なくなって、NKCC2は動かなくなるのだ。内腔K+がTALでのNaCl再吸収量を規定することは実験でも示されている(JASN 2001 12 1788)。
なお、TALでのNa+、Cl-再吸収が障害される遺伝疾患をBartter症候群と総称するが、このCaSR遺伝子異常によるものをBartter 5型という(他の遺伝子についてはこちらも参照)。この場合、CaSRが恒常的に働いてしまうほうの異常(gain of function)であり、常染色体顕性(優性)遺伝だ。
さらに、最近は細胞間にあるタイト・ジャンクションを形成するClaudinにも直接影響すると考えられている。Claudとはラテン語でlame(足が不自由な)、転じて「遅い」「止まる」という意味がある(写真は交響曲『海』でも有名なClaude Dubussyが載った20フラン札)。
そのClaudin 14、16、19分子は互いにダイマーをつくり、それぞれが異なったカルシウム透過性(とマグネシウム透過性)をもっている。CaSR刺激は、このうちクローディン14遺伝子の転写を抑制することがわかっている。なお薬剤のなかではシクロスポリンもクローディン14を抑制する(JASN 2015 26 663)。
5. DCT(遠位尿細管)
腎臓内科界の2018年10大ニュース、とまでは言わないが、腎生理のなかでは割とインパクトがあると思われる論文がこないだ出た。それが、「CaSRはWNK4-SPAK経路を通じてNCCを活性化する」というものだ(doi: 10.1681/ASN.2017111155)。
NCCがヒラメの膀胱から発見されて(PNAS 1993 90 2749)25年になるが、現在ではNCCを調節する分子がだいぶん上流まで見つかっている。そのひとつがKLHL3-WNK-SPAK-NCCという系だ(詳細はこちらも参照)。
また、いわゆるaldosterone paradoxと呼ばれる現象(アルドステロンは高K血症時にはK+排泄をしてNaCl再吸収はしないのに、体液不足時にはNaCl再吸収はするのにK排泄はしない)にもアンジオテンシンIIとWNK4が関わっていることが分かっている。
さて、そのNCCがあるDCTで、CaSRは内腔側にある。CaSRが(Gqタンパク→PKC→KLHL3リン酸化によって、WNKが分解されにくくなり、結果SPAKを介して)NCCを活性化させるというのは、どういう意味があるのだろうか?
ひとつ考えられるのは、高Ca血症を間質側で感知したTALでのさまざまな変化をDCTの内腔でキャッチし、ファイン・チューニングすることだ。たとえばTALではNaCl再吸収が抑制されるので、DCTでNCCを活性化して体液喪失を緩和しているのかもしれない。同様に、DCTでCaSRはカルシウムチャネルTRPV5のすぐ隣にあって、CaSRはTRPV5によるカルシウム再吸収を亢進させる(Cell Calcium 2009 45 331)。
とはいえ、DCTのCaSRがナトリウム再吸収をどうしているかについてはまだ未確定な部分がおおい。
基底膜側のNCX1(Ca2+を一個だす代わりにNa+を三個細胞に入れる)を刺激するとか、KCNJ10(基底膜側のNa+/K+-ATPaseで細胞内に入ったK+を間質側にリサイクルする)を抑制する(Am J Physiol 2007 292 F1073)とか、むしろナトリウム再吸収の抑制を示唆する知見もある。今後の論文にも注目したい。
最後に、集合管でのCaSRについて説明する(図は企業の社会への責任を表すCorporate Social Responsibility、CSR)。
TALではCaSRは基底膜側にある。で、よく知られているようにNKCC2とROMKを止めてNa再吸収という「波」を鎮め、波に乗ってカルシウムが細胞の脇から間質側へ打ち上げられるのを防ぐ(図はオンライン・ファーストのJASNから、doi: 10.1681/ASN.2017111155)。
CaSRは、どのようにNKCC2とROMKを止めるのか?細胞内での仕組みとしては、ホスホリパーゼA2がROMKを止めるらしいことがわかっている(Am J Physiol 1997 273 F421)。ROMKを止めたら、NKCC2も止まる。なぜか?
TALにおける「波」とはNKCC2からのNa+とCl-の流入を意味する。ならば、NKCC2はカリウムまで通さなくてもよさそうなものだ。しかし実際には、カリウムは調節役を果たしている。
NKCC2から入ったカリウムはROMKから排出されて内腔側にリサイクルされるが、ROMKの阻害でそれが止まってしまえば内腔のK+が少なくなって、NKCC2は動かなくなるのだ。内腔K+がTALでのNaCl再吸収量を規定することは実験でも示されている(JASN 2001 12 1788)。
なお、TALでのNa+、Cl-再吸収が障害される遺伝疾患をBartter症候群と総称するが、このCaSR遺伝子異常によるものをBartter 5型という(他の遺伝子についてはこちらも参照)。この場合、CaSRが恒常的に働いてしまうほうの異常(gain of function)であり、常染色体顕性(優性)遺伝だ。
さらに、最近は細胞間にあるタイト・ジャンクションを形成するClaudinにも直接影響すると考えられている。Claudとはラテン語でlame(足が不自由な)、転じて「遅い」「止まる」という意味がある(写真は交響曲『海』でも有名なClaude Dubussyが載った20フラン札)。
そのClaudin 14、16、19分子は互いにダイマーをつくり、それぞれが異なったカルシウム透過性(とマグネシウム透過性)をもっている。CaSR刺激は、このうちクローディン14遺伝子の転写を抑制することがわかっている。なお薬剤のなかではシクロスポリンもクローディン14を抑制する(JASN 2015 26 663)。
5. DCT(遠位尿細管)
腎臓内科界の2018年10大ニュース、とまでは言わないが、腎生理のなかでは割とインパクトがあると思われる論文がこないだ出た。それが、「CaSRはWNK4-SPAK経路を通じてNCCを活性化する」というものだ(doi: 10.1681/ASN.2017111155)。
NCCがヒラメの膀胱から発見されて(PNAS 1993 90 2749)25年になるが、現在ではNCCを調節する分子がだいぶん上流まで見つかっている。そのひとつがKLHL3-WNK-SPAK-NCCという系だ(詳細はこちらも参照)。
また、いわゆるaldosterone paradoxと呼ばれる現象(アルドステロンは高K血症時にはK+排泄をしてNaCl再吸収はしないのに、体液不足時にはNaCl再吸収はするのにK排泄はしない)にもアンジオテンシンIIとWNK4が関わっていることが分かっている。
さて、そのNCCがあるDCTで、CaSRは内腔側にある。CaSRが(Gqタンパク→PKC→KLHL3リン酸化によって、WNKが分解されにくくなり、結果SPAKを介して)NCCを活性化させるというのは、どういう意味があるのだろうか?
ひとつ考えられるのは、高Ca血症を間質側で感知したTALでのさまざまな変化をDCTの内腔でキャッチし、ファイン・チューニングすることだ。たとえばTALではNaCl再吸収が抑制されるので、DCTでNCCを活性化して体液喪失を緩和しているのかもしれない。同様に、DCTでCaSRはカルシウムチャネルTRPV5のすぐ隣にあって、CaSRはTRPV5によるカルシウム再吸収を亢進させる(Cell Calcium 2009 45 331)。
とはいえ、DCTのCaSRがナトリウム再吸収をどうしているかについてはまだ未確定な部分がおおい。
基底膜側のNCX1(Ca2+を一個だす代わりにNa+を三個細胞に入れる)を刺激するとか、KCNJ10(基底膜側のNa+/K+-ATPaseで細胞内に入ったK+を間質側にリサイクルする)を抑制する(Am J Physiol 2007 292 F1073)とか、むしろナトリウム再吸収の抑制を示唆する知見もある。今後の論文にも注目したい。
最後に、集合管でのCaSRについて説明する(図は企業の社会への責任を表すCorporate Social Responsibility、CSR)。
2018/06/12
CaSR組曲 1-3
1. 糸球体
存在自体に諸説あったものの、いまでは糸球体にCaSRがあることは確実視されており、足細胞とメサンギウム細胞でさまざまな病態に関わっていることが示唆されている。足細胞のCaSRをCaSRアナログで刺激すると糸球体ダメージが起こりにくくなる(Kidney Int 2011 80 483)。
いっぽうメサンギウム細胞のCaSRを刺激すると、糸球体傷害がおこる。その機序にはGqタンパクによる細胞内カルシウム移動、TRPC3やTRPC6が開くことによる細胞外からのカルシウム流入が考えられている(JCI 2015 125 1913)。
なおTRPCという名前は、最近の和雑誌にTRPC5が紹介された(日腎会誌 2018 60 526)こともあり、聞いたことがある人も多いかもしれない。TRPC5は細胞膜にあるRhoキナーゼRac1のシグナルを受けて足細胞破壊を起こす(ネフローゼとなる)。
電解質が糸球体疾患にも関与しているなんて、面白い。まさに、「すべての道は、電解質に通ず」だ(写真はローマ皇帝シーザー、Caesar)。
2. 傍糸球体装置
傍糸球体装置(JG)、T-Gフィードバックといわれても生理学の最初に学んだきり忘れているかもしれない(図はTGIF、Thank God it's Friday)。
目的論的にはGFRや体液量を維持する仕組みだ。具体的には糸球体でろ過された原尿の量や濃度を尿細管のマクラデンサが感知して、JG細胞によるレニン分泌を調節している。
カルシウムとレニン分泌については、「カルシウム・パラドクス」という現象が知られている(Am J Physiol Renal Physiol. 2010 298 F1)。これは、多くの分泌細胞でカルシウム濃度の上昇は分泌を促進するのに対して、JG細胞のレニン分泌はカルシウム濃度の上昇でむしろ抑制されることを指す。
CaSR刺激によるGqタンパク活性化、カルシウム支配下にあるアデニル酸シクラーゼADCY5、ADCY6によるcAMPプールの抑制などはわかっているが、どうしてカルシウムがレニンを抑制するのかは分かっていない。高カルシウム(CaSR刺激)が一般に尿細管内の結晶化を防ぐことを考えると、RAA系を抑制して尿細管再吸収を減らしたいのかもしれない。
3. 近位尿細管
近位尿細管のCaSRは、内腔側にある(Oxfordの教科書はsubapicalと書いているが)。現在わかっている働きとしては、PTHによるリン利尿の抑制、ビタミンD活性化の抑制、NHE3による酸排泄とNa再吸収の促進がある。
PTHはリンとナトリウムを再吸収するNPT2a、2cを抑制してリン排泄を促進しているが、CaSRはそれに拮抗する。といっても、両方が相殺するように働いては調節できないので、高リン摂取時などリンを排泄したいときにはPTHが勝ってCaSRは抑制される。
ビタミンD活性化(近位尿細管での1α水酸化)を抑制するのは、活性化ビタミンDによってカルシウム再吸収が増えてほしくない高カルシウム血症時を考えれば納得されるだろう。また、CaSRとPTHをダブル・ノックアウトしたマウスの実験からは、CaSRは活性化ビタミンDの作用そのものまで減弱させることが示されている(Am J Physiol Renal Physiol 2009 297 F720)。
なお、CaSRは内腔カルシウム濃度を感知しているが、濃度上昇の刺激によって活性化されるのはカルシウムチャネルではない。近位尿細管でカルシウムは受動的に細胞の脇をすり抜けるように打ち上げられるからだ(写真は波に打ち上げられた椰子の実)。
そして、その波にあたるのがNHE3刺激によるナトリウム再吸収といえる。その結果、近位尿細管ではカルシウム再吸収が促進されることになるが、最終的なカルシウムの出納は以遠ネフロンで調節される。
なお、NHE3はナトリウム再吸収と引き換えにH+(じっさいはNH4+とも)を放出するが、それは結果的に近位尿細管での大量のHCO3-再吸収(reclamation)の元になる。この辺のくだりは以前にもまとめたが、体液と酸塩基平衡の維持にCaSRが関わっているとは(実はPTHも関わっている;CaSRと拮抗的に)!話は一層面白くなる。
後編へつづく(図は2006年のピクサー映画、Cars)。
存在自体に諸説あったものの、いまでは糸球体にCaSRがあることは確実視されており、足細胞とメサンギウム細胞でさまざまな病態に関わっていることが示唆されている。足細胞のCaSRをCaSRアナログで刺激すると糸球体ダメージが起こりにくくなる(Kidney Int 2011 80 483)。
いっぽうメサンギウム細胞のCaSRを刺激すると、糸球体傷害がおこる。その機序にはGqタンパクによる細胞内カルシウム移動、TRPC3やTRPC6が開くことによる細胞外からのカルシウム流入が考えられている(JCI 2015 125 1913)。
なおTRPCという名前は、最近の和雑誌にTRPC5が紹介された(日腎会誌 2018 60 526)こともあり、聞いたことがある人も多いかもしれない。TRPC5は細胞膜にあるRhoキナーゼRac1のシグナルを受けて足細胞破壊を起こす(ネフローゼとなる)。
電解質が糸球体疾患にも関与しているなんて、面白い。まさに、「すべての道は、電解質に通ず」だ(写真はローマ皇帝シーザー、Caesar)。
2. 傍糸球体装置
傍糸球体装置(JG)、T-Gフィードバックといわれても生理学の最初に学んだきり忘れているかもしれない(図はTGIF、Thank God it's Friday)。
目的論的にはGFRや体液量を維持する仕組みだ。具体的には糸球体でろ過された原尿の量や濃度を尿細管のマクラデンサが感知して、JG細胞によるレニン分泌を調節している。
カルシウムとレニン分泌については、「カルシウム・パラドクス」という現象が知られている(Am J Physiol Renal Physiol. 2010 298 F1)。これは、多くの分泌細胞でカルシウム濃度の上昇は分泌を促進するのに対して、JG細胞のレニン分泌はカルシウム濃度の上昇でむしろ抑制されることを指す。
CaSR刺激によるGqタンパク活性化、カルシウム支配下にあるアデニル酸シクラーゼADCY5、ADCY6によるcAMPプールの抑制などはわかっているが、どうしてカルシウムがレニンを抑制するのかは分かっていない。高カルシウム(CaSR刺激)が一般に尿細管内の結晶化を防ぐことを考えると、RAA系を抑制して尿細管再吸収を減らしたいのかもしれない。
3. 近位尿細管
近位尿細管のCaSRは、内腔側にある(Oxfordの教科書はsubapicalと書いているが)。現在わかっている働きとしては、PTHによるリン利尿の抑制、ビタミンD活性化の抑制、NHE3による酸排泄とNa再吸収の促進がある。
PTHはリンとナトリウムを再吸収するNPT2a、2cを抑制してリン排泄を促進しているが、CaSRはそれに拮抗する。といっても、両方が相殺するように働いては調節できないので、高リン摂取時などリンを排泄したいときにはPTHが勝ってCaSRは抑制される。
ビタミンD活性化(近位尿細管での1α水酸化)を抑制するのは、活性化ビタミンDによってカルシウム再吸収が増えてほしくない高カルシウム血症時を考えれば納得されるだろう。また、CaSRとPTHをダブル・ノックアウトしたマウスの実験からは、CaSRは活性化ビタミンDの作用そのものまで減弱させることが示されている(Am J Physiol Renal Physiol 2009 297 F720)。
なお、CaSRは内腔カルシウム濃度を感知しているが、濃度上昇の刺激によって活性化されるのはカルシウムチャネルではない。近位尿細管でカルシウムは受動的に細胞の脇をすり抜けるように打ち上げられるからだ(写真は波に打ち上げられた椰子の実)。
そして、その波にあたるのがNHE3刺激によるナトリウム再吸収といえる。その結果、近位尿細管ではカルシウム再吸収が促進されることになるが、最終的なカルシウムの出納は以遠ネフロンで調節される。
なお、NHE3はナトリウム再吸収と引き換えにH+(じっさいはNH4+とも)を放出するが、それは結果的に近位尿細管での大量のHCO3-再吸収(reclamation)の元になる。この辺のくだりは以前にもまとめたが、体液と酸塩基平衡の維持にCaSRが関わっているとは(実はPTHも関わっている;CaSRと拮抗的に)!話は一層面白くなる。
後編へつづく(図は2006年のピクサー映画、Cars)。
2018/06/07
CaSR組曲 前奏曲
ことし生誕333周年を迎える大作曲家、バッハ(1685-1750)。数々の名曲のなかでも、国名を冠した組曲はイギリス組曲とフランス組曲だけである。なお国名を冠した曲には他にフランス風序曲、イタリア協奏曲などがある。
組曲というのは今ではいろんな意味で使われる言葉だけれど、当時の慣習ではアルマンド、クーラント、サラバンド、ジーグなど特定の舞曲が組み合わさったものを指していたという。そして、たいていはこの順で演奏された(写真はバッハを愛したグレン・グールド)。
おなじように、腎臓において何かががどのような働きをしてどのような病態に関わっているかを糸球体、傍糸球体装置、近位尿細管、TAL、DCT、集合管というように順番に沿って説明することを「組曲」と呼んではどうだろうか。
この概念自体は以前から知られているし、たとえば「アンモニア組曲」とか(このブログではこちらで説明した、図はこちら)はわりと有名かと思う。
まあ「絵巻」でも「縁起」でもいいのだけれど、とにかくそんな風に、CaSRについて説明してみようと思う。
以前「TALのCaSRが」などと軽く触れてからそのままになってもいたので。レジデントノート増刊を渡して何か質問があるかと聞いたら「TALでCaSRによるROMK阻害って、どうやって起こるんですか?」と質問してくれた(腎臓志望でもないのに!)学生さんにも、書くきっかけをくれたことを感謝したい。
それでは、アイン・ツヴァイ・トライ(写真は1968年発表のBeatlesによる"Back in the USSR")。
組曲というのは今ではいろんな意味で使われる言葉だけれど、当時の慣習ではアルマンド、クーラント、サラバンド、ジーグなど特定の舞曲が組み合わさったものを指していたという。そして、たいていはこの順で演奏された(写真はバッハを愛したグレン・グールド)。
おなじように、腎臓において何かががどのような働きをしてどのような病態に関わっているかを糸球体、傍糸球体装置、近位尿細管、TAL、DCT、集合管というように順番に沿って説明することを「組曲」と呼んではどうだろうか。
この概念自体は以前から知られているし、たとえば「アンモニア組曲」とか(このブログではこちらで説明した、図はこちら)はわりと有名かと思う。
まあ「絵巻」でも「縁起」でもいいのだけれど、とにかくそんな風に、CaSRについて説明してみようと思う。
以前「TALのCaSRが」などと軽く触れてからそのままになってもいたので。レジデントノート増刊を渡して何か質問があるかと聞いたら「TALでCaSRによるROMK阻害って、どうやって起こるんですか?」と質問してくれた(腎臓志望でもないのに!)学生さんにも、書くきっかけをくれたことを感謝したい。
それでは、アイン・ツヴァイ・トライ(写真は1968年発表のBeatlesによる"Back in the USSR")。
2018/01/30
あなたのネフロンを数えましょう 3
前回、「ネフロンの数が減っても、一個一個のネフロンが何割増かで働けば、GFRは保たれるのではないか?」という話をした。ここでいう一個一個のネフロンの働きを、シングル・ネフロン・GFR(SNGFR)という。
SNGFRは、理論上は輸入細動脈、輸出細動脈の圧(静水圧差ΔP、浸透圧πcap)や糸球体のろ過係数Kfなどでスターリンの法則に基づいて以下のように決められる。
これはこれで、血圧が下がっても輸入細動脈を締める(ΔPをあげる)ことでGFRを維持する、など糸球体を一個取り出してその調節機能を研究するときには役立つ式だ。
しかし、あなたのネフロン何十万個それぞれのSNGFRがどんなかを一個一個測るのは今のところ現実には無理だ。そこで、GFRをネフロン数で割った平均のSNGFRが代用される。
本稿の冒頭であげた問題提起にあるように、実際ネフロン数の小さい(と思われる、低出生体重の)動物モデルでは、SNGFRが高くなっているので全体のGFRはかわらない(Hypertens 2003 41 457など)。
しかし、このようにSNGFRを増やして代償した動物たちを観察すると、高血圧だったり、尿たんぱくが出ていたり、困ったことも起きていた。それで現在では、SNGFRが高くなる→腎臓の負担が増える→ネフロンがさらに(糸球体硬化などで)失われる→さらにSNGFRが高くなる、という悪循環が考えられている(図はBrenner9版22章より)。
あなたのネフロンを数えましょうの初回に紹介した論文(NEJM 2017 376 2349)も、その流れに符合するものだ。続く(写真はOfficially missing youを2012年にアレンジしてカバーした韓国のGeeksとSoyou)。
SNGFRは、理論上は輸入細動脈、輸出細動脈の圧(静水圧差ΔP、浸透圧πcap)や糸球体のろ過係数Kfなどでスターリンの法則に基づいて以下のように決められる。
SNGFR = Kf x (ΔP - πcap)
これはこれで、血圧が下がっても輸入細動脈を締める(ΔPをあげる)ことでGFRを維持する、など糸球体を一個取り出してその調節機能を研究するときには役立つ式だ。
しかし、あなたのネフロン何十万個それぞれのSNGFRがどんなかを一個一個測るのは今のところ現実には無理だ。そこで、GFRをネフロン数で割った平均のSNGFRが代用される。
SNGFR = GFR / ネフロン数
本稿の冒頭であげた問題提起にあるように、実際ネフロン数の小さい(と思われる、低出生体重の)動物モデルでは、SNGFRが高くなっているので全体のGFRはかわらない(Hypertens 2003 41 457など)。
しかし、このようにSNGFRを増やして代償した動物たちを観察すると、高血圧だったり、尿たんぱくが出ていたり、困ったことも起きていた。それで現在では、SNGFRが高くなる→腎臓の負担が増える→ネフロンがさらに(糸球体硬化などで)失われる→さらにSNGFRが高くなる、という悪循環が考えられている(図はBrenner9版22章より)。
あなたのネフロンを数えましょうの初回に紹介した論文(NEJM 2017 376 2349)も、その流れに符合するものだ。続く(写真はOfficially missing youを2012年にアレンジしてカバーした韓国のGeeksとSoyou)。
2017/05/19
仮説の検証(塩を捨てても水は捨てない仕組み)
火星有人探査のための訓練プロジェクト(JCI 2017 127 1932、解説はこちらも参照)から、いくつかの仮説がうまれた。
A. 塩分摂取がふえると尿素が間質にたまり、尿濃縮で水を保存する
B. 塩分摂取がふえると飲水量のかわりに代謝水がふえる
C. 塩分摂取がふえると糖質コルチコイド作用でたんぱく異化が亢進して尿素合成がふえる
D. 間質への尿素の取り込みにはUT-A1が関与している
これらを検証するべく、マウスで実験が行われた(JCI 2017 127 1944)。まずマウスで実験系を確立し、低塩から高塩にするとUNaVが増える分UKVとUUreaVが減ってNa利尿を防いでいること、糖質コルチコイド排泄量がおおいとき尿量がふえ飲水量が減ることなどが有人探査の訓練クルーと程度の差はあれ同じ傾向なことを示した。
そのあといろいろ調べた結果、おおくのことが分かった。まず、塩分摂取がふえると:
・腎髄質の尿素量がふえる。
・髄質内層のUT-A1発現がふえる。
ことでAとDが示された。さらに、
・血中の尿素濃度がふえる。
・肝臓と筋肉での尿素合成酵素が活性化する。
・筋細胞で糖質コルチコイド受容体が活性化する。
・筋細胞でオートファジーが活性化する(たんぱく分解を示唆)。
などでCも示された。これで、火星探査の訓練クルーの実験(JCI 2017 127 1932)では推論だったalternative natriuretic-ureotelic conceptの図から、クエスチョンマークが消えた(Bが残っているので代謝水のところはまだ?な気もするが)。
このあとこのグループは研究を進めて腎外、とくに肝臓と筋肉の代謝について詳しく調べた。結果、塩分がふえると:
・呼吸商がさがる(エネルギー源のβ酸化へのスイッチを示唆)。
・アラニンなど窒素ドナーになるアミノ酸が筋から失われる。
・アスパラギン酸、グルタミンなどのアミノ酸が肝臓にふえる。
・アラニンをとりこむトランスポーターが肝臓にふえる。
・肝臓で糖新生がさがりケトン体合成があがる。
・筋でβ酸化を促進するAMP、p-AMPK、p-ACCなどがふえる。
とわかった。これらをまとめると、塩分負荷で肝臓と筋に図のような動きがおきることがわかった(緑は塩分負荷によりふえる・亢進するのに対して青はへる・抑制される)。
A. 塩分摂取がふえると尿素が間質にたまり、尿濃縮で水を保存する
B. 塩分摂取がふえると飲水量のかわりに代謝水がふえる
C. 塩分摂取がふえると糖質コルチコイド作用でたんぱく異化が亢進して尿素合成がふえる
D. 間質への尿素の取り込みにはUT-A1が関与している
これらを検証するべく、マウスで実験が行われた(JCI 2017 127 1944)。まずマウスで実験系を確立し、低塩から高塩にするとUNaVが増える分UKVとUUreaVが減ってNa利尿を防いでいること、糖質コルチコイド排泄量がおおいとき尿量がふえ飲水量が減ることなどが有人探査の訓練クルーと程度の差はあれ同じ傾向なことを示した。
そのあといろいろ調べた結果、おおくのことが分かった。まず、塩分摂取がふえると:
・腎髄質の尿素量がふえる。
・髄質内層のUT-A1発現がふえる。
ことでAとDが示された。さらに、
・血中の尿素濃度がふえる。
・肝臓と筋肉での尿素合成酵素が活性化する。
・筋細胞で糖質コルチコイド受容体が活性化する。
・筋細胞でオートファジーが活性化する(たんぱく分解を示唆)。
などでCも示された。これで、火星探査の訓練クルーの実験(JCI 2017 127 1932)では推論だったalternative natriuretic-ureotelic conceptの図から、クエスチョンマークが消えた(Bが残っているので代謝水のところはまだ?な気もするが)。
このあとこのグループは研究を進めて腎外、とくに肝臓と筋肉の代謝について詳しく調べた。結果、塩分がふえると:
・呼吸商がさがる(エネルギー源のβ酸化へのスイッチを示唆)。
・アラニンなど窒素ドナーになるアミノ酸が筋から失われる。
・アスパラギン酸、グルタミンなどのアミノ酸が肝臓にふえる。
・アラニンをとりこむトランスポーターが肝臓にふえる。
・肝臓で糖新生がさがりケトン体合成があがる。
・筋でβ酸化を促進するAMP、p-AMPK、p-ACCなどがふえる。
とわかった。これらをまとめると、塩分負荷で肝臓と筋に図のような動きがおきることがわかった(緑は塩分負荷によりふえる・亢進するのに対して青はへる・抑制される)。
筋がグルコースからできたピルビン酸にアミノ基をつけてアラニンにして肝臓に届ける。アラニンは肝臓に届き、ATPを消費して尿素とピルビン酸がつくられる。ピルビン酸は、ATPを食う糖新生に行かずに、節電モードでアセチルCoAからケトン体になる。ケトン体が筋に届き、エネルギー源がβ酸化に切り替わる。この動きはアラニンーグルコースー窒素シャトルともよばれる。
このエネルギーの切り替えが論文タイトルにあるreprioritization of energy metabolismだが、じつはこの現象じたいは以前から知られていた。なんと、夏眠(estivation、aestivation)だ。夏眠とは、生物がとくに夏期の乾燥にたえるため仮眠状態になること。カタツムリ、カメ、アフリカハイギョなどのほか、哺乳類でもマダガスカルに住むfat-tailed dwarf lemur(写真)が行っているという。
このエネルギーの切り替えが論文タイトルにあるreprioritization of energy metabolismだが、じつはこの現象じたいは以前から知られていた。なんと、夏眠(estivation、aestivation)だ。夏眠とは、生物がとくに夏期の乾燥にたえるため仮眠状態になること。カタツムリ、カメ、アフリカハイギョなどのほか、哺乳類でもマダガスカルに住むfat-tailed dwarf lemur(写真)が行っているという。
アフリカハイギョの夏眠については、あのホーマー・スミス博士も研究していたらしい(J Bio Chem 1930 88 97)。アフリカハイギョは、夏眠で水を身体にためるために尿素を作っている間に、心血管系のエネルギー消費(要は脈拍と血圧のこと)を減らすことが知られている(J Exp Biol 1974 61 111)。
そこで、夏眠とおなじようなエネルギー消費・産生モードになっている塩分負荷時にも同じ傾向が見られるかをしらべた。すると塩分がふえたマウスはその直後に脈拍があがるが、4日以内には脈拍も血圧もさがり、脈拍パターンは副交感神経優位を示唆し夏眠中のハイギョと似ていた(直後の反応は、糖質コルチコイドがふえることと関係あるかもしれない)。
塩を捨てないRAA系、水を捨てないバソプレシンに対して、今回わかったシステムは「塩を捨てても水は捨てない」仕組みといえそうだ。これまで塩も水も捨てて心血管系を守りたい、というのでRAA系やバソプレシンを抑制する薬をたくさんつくってきたが、この仕組みがフロンティアなのかもしれない。
さらに、この仕組みがストレスホルモンを増やすことはもっと興味ぶかく、それにより長期にどんな影響が身体にでるかも調べる価値がありそうだ。端的に言えば、糖質コルチコイドがでるんだから、糖尿病になりやすいかもしれない。私が知らないだけで既にもういろんなことが調べられているにちがいないから、今後に期待したい。
そこで、夏眠とおなじようなエネルギー消費・産生モードになっている塩分負荷時にも同じ傾向が見られるかをしらべた。すると塩分がふえたマウスはその直後に脈拍があがるが、4日以内には脈拍も血圧もさがり、脈拍パターンは副交感神経優位を示唆し夏眠中のハイギョと似ていた(直後の反応は、糖質コルチコイドがふえることと関係あるかもしれない)。
塩を捨てないRAA系、水を捨てないバソプレシンに対して、今回わかったシステムは「塩を捨てても水は捨てない」仕組みといえそうだ。これまで塩も水も捨てて心血管系を守りたい、というのでRAA系やバソプレシンを抑制する薬をたくさんつくってきたが、この仕組みがフロンティアなのかもしれない。
さらに、この仕組みがストレスホルモンを増やすことはもっと興味ぶかく、それにより長期にどんな影響が身体にでるかも調べる価値がありそうだ。端的に言えば、糖質コルチコイドがでるんだから、糖尿病になりやすいかもしれない。私が知らないだけで既にもういろんなことが調べられているにちがいないから、今後に期待したい。
2017/05/17
火星だより 3
火星探査訓練の被験者を対象にしたデータが2013年アトランタのASNのKidney Weekで口頭発表されているときには、センセーションだけで何のことだか分からなかった。いま論文を読み返すと(Cell metab 2013 17 125)、JCIの論文がこれを発展させたものだと分かる。
このときすでに塩分12g/d食から6g/d食にするとアルドステロン排泄量(UAldoV)があがることと、コルチゾール排泄量(UFFV)とコルチゾン排泄量(UFEV)がさがることは発表されていた。コルチゾン/コルチゾール比(コルチゾールを分解する11β-HSD2活性に相関)はあがっていた。
さらにこの論文でわかったのが、同じ塩の量をとっていてもNa排泄量(UNaV)、UAldoV、UFFV、UFEVが日によってばらつきがあることだ。
何日も何日も調べたからこそわかる結果と言える。なんとなく4つのグラフはおたがい関係しているようにも思えるが、これだけではわからない。しかしこれらのばらつきを分析する方法が、ある。まずパワースペクトラル濃度をみると、UNaVとUAldoVには6日周期(赤、緑のもっとも大きなピーク)、UFFVとUFEVには約1ヶ月周期(青、黄色の左端のピーク)の波があり、ほかにも3、5、15などいくつかの波がある(グラフ中の数字)ことがわかった。
どうしてこんなリズムがあるのかはわからない。6日周期は、被験者が6日にいちど夜勤をしていたことと関係がありそうだ(実際夜勤データを重ね合わせると、夜勤日のUNaVはひくくUAldoVは高かった…夜勤の夜食は塩分すくなめがいいのだろうか??写真)。ほかの周期は、わからない。
さらにふたつのグラフが似ているかどうかをしらべる相互相関分析をおこなうと、UAldoVとUNaVは負に相関(UAldoVが増えるとUNaVは減る、つまりNa排泄抑制)、UFFV・UFEVとUNaVは正に相関(Na排泄促進)することがわかった。図中心のディップとピークがそれにあたる。
「定常状態」では摂取した塩分量と排泄する塩分量はおなじはずだが、諸行無常の世の中で「定常状態」なんてものは存在しなくて、実際にはおなじ塩分量を摂っていても寄せては返す波のようなホルモンバランスで排泄量は揺れうごく。しかも、RAA系のアルドステロンだけでなく、糖質コルチコイドも影響している。
…という延長にJCIの論文がある。JCIの論文では、おなじ食塩量を摂っていても日によってホルモン量(UAldoV、UCortisoneV)にばらつきがあることを利用して、ホルモンが多い日、中くらいの日、低い日の三つにわけた。
そして、6g/d食、9g/d食、12g/d食のときにホルモンが高い群と低い群では尿量、溶質の排泄量、尿浸透圧、自由水クリアランス、飲水量、体重などがどうちがうかを調べて、アルドステロンと糖質コルチコイドの関与を推察した。その結果をまとめたのがFigure 5なのだが、やや複雑なので次にする。つづく。
このときすでに塩分12g/d食から6g/d食にするとアルドステロン排泄量(UAldoV)があがることと、コルチゾール排泄量(UFFV)とコルチゾン排泄量(UFEV)がさがることは発表されていた。コルチゾン/コルチゾール比(コルチゾールを分解する11β-HSD2活性に相関)はあがっていた。
さらにこの論文でわかったのが、同じ塩の量をとっていてもNa排泄量(UNaV)、UAldoV、UFFV、UFEVが日によってばらつきがあることだ。
何日も何日も調べたからこそわかる結果と言える。なんとなく4つのグラフはおたがい関係しているようにも思えるが、これだけではわからない。しかしこれらのばらつきを分析する方法が、ある。まずパワースペクトラル濃度をみると、UNaVとUAldoVには6日周期(赤、緑のもっとも大きなピーク)、UFFVとUFEVには約1ヶ月周期(青、黄色の左端のピーク)の波があり、ほかにも3、5、15などいくつかの波がある(グラフ中の数字)ことがわかった。
どうしてこんなリズムがあるのかはわからない。6日周期は、被験者が6日にいちど夜勤をしていたことと関係がありそうだ(実際夜勤データを重ね合わせると、夜勤日のUNaVはひくくUAldoVは高かった…夜勤の夜食は塩分すくなめがいいのだろうか??写真)。ほかの周期は、わからない。
さらにふたつのグラフが似ているかどうかをしらべる相互相関分析をおこなうと、UAldoVとUNaVは負に相関(UAldoVが増えるとUNaVは減る、つまりNa排泄抑制)、UFFV・UFEVとUNaVは正に相関(Na排泄促進)することがわかった。図中心のディップとピークがそれにあたる。
「定常状態」では摂取した塩分量と排泄する塩分量はおなじはずだが、諸行無常の世の中で「定常状態」なんてものは存在しなくて、実際にはおなじ塩分量を摂っていても寄せては返す波のようなホルモンバランスで排泄量は揺れうごく。しかも、RAA系のアルドステロンだけでなく、糖質コルチコイドも影響している。
…という延長にJCIの論文がある。JCIの論文では、おなじ食塩量を摂っていても日によってホルモン量(UAldoV、UCortisoneV)にばらつきがあることを利用して、ホルモンが多い日、中くらいの日、低い日の三つにわけた。
そして、6g/d食、9g/d食、12g/d食のときにホルモンが高い群と低い群では尿量、溶質の排泄量、尿浸透圧、自由水クリアランス、飲水量、体重などがどうちがうかを調べて、アルドステロンと糖質コルチコイドの関与を推察した。その結果をまとめたのがFigure 5なのだが、やや複雑なので次にする。つづく。
2017/05/15
火星だより 2
前回、塩分6g/d食のひとが12g/d食になると、捨てる溶質が増えるが尿は濃縮するので自由水クリアランスがへる、つまり自由水が身体にたまるという話をした。いっぽう、6g/d食のひとが12g/d食になると水分摂取量はへる。これが液体の水分なのか食事中のも含むのかが分かりやすい場所に書いていないが、とにかく減る。
塩を取れば血液の浸透圧があがり喉が渇き水分摂取が増える、という定説と違うが、尿データをかんがえると、溶質が増えても腎臓が尿濃縮で自由水をためるので、身体の浸透圧がさがり口渇がさがるということかもしれない。血液の浸透圧データはないので、詳しいことまではわからない。
6g/d食から12g/dになって減った水分摂取量の差(図の薄い青)は、腎臓でためた水(図左バー)から不感蒸泄による喪失分(斜線)を差し引いた量(図の濃い青)にほぼひとしかった。一日水分摂取量が一日尿量より32%おおいことから、ためた自由水の32%が不感蒸泄ででていくと推定したそうだが、正確かわからないことは研究グループもみとめている。ちなみに火星探査の訓練なので、被験者は運動も肉体作業もした。
このあと、彼らは塩をおおくとった時に腎臓が尿を濃縮する仕組みについて考えさらに実験をおこなった。まず一日Na排泄量(蓄尿Na濃度に1日尿量をかけて計算するので、UNaVと書く)と尿Na、K、尿素濃度の関係をみると、一日Na排泄量が多いほど尿Na濃度があがり、尿K濃度は変わらず、尿urea濃度は低くなった(それぞれ左、中央、右)。
尿の尿素濃度と尿の濃縮にはどんな関係があるか?まず尿素と尿濃縮の関係をおさらいしよう(レビューはJASN 2007 18 679、図)。尿の濃縮に寄与するのは主にNaClと尿素で、NaClは有名なヘンレ係蹄のcountercurrent multiplicationで維持される。一方ureaは、とくに髄質内層の浸透圧勾配に重要だ。
集合管をおりていく原尿はV2(バソプレシン)受容体の支配下にあるアクアポリン2を介して水を吸われるが、この部分は尿素を通さない。だから原尿が髄質内部の集合管(IMCD、internal medullary collecting duct)までくると尿素濃度はとても高くなっている。
IMCDには尿素トランスポーターUT-A1、A3があって尿素は一気に間質にでていき、内腔と間質の浸透圧がほぼ等しくなる。それで浸透圧利尿で水が失われるのを防いでいる。その証拠に、UT-A1とA3をノックアウトすると(十分にたんぱくをあたえられた)マウスは水をどんどん喪失してしまう。
高濃度の尿素を維持する仕組みのひとつはvasa rectaによるcountercurrent exchangeで、ヘアピンになった血管にあるUT-Bを通じて尿素が上がって降りてを繰り返す。もうひとつが尿素リサイクルで、ヘンレ係蹄のUT-A2を通じて間質の尿素が内腔に排泄され、遠位ネフロンをまわりIMCDでふたたび間質に再吸収される、の繰り返しだ。
それをふまえてみると・・。
尿の尿素濃度がさがることと尿の濃縮をむすびつけるひとつの考えは、尿素が尿に出てこないぶん腎間質にとどまり、濃度勾配をきつくして尿をいっそう濃縮させたというものだ。研究グループはそういっている。
ただ間質の尿素濃度は測れないし、UT-A1、A3は濃度依存のトランスポーターだから間質の尿素濃度がたかければ集合管内腔の尿素濃度も高いかもしれない。尿素の摂取量はかわらなかったようだが、異化や同化がかわって尿素がつくられなくなったのかもしれない。この段階では、まだなんともいえない。塩分摂取が増えて尿素排泄がへる理由も、わからない。
つぎに、研究グループは尿アルドステロン排泄とコルチゾン排泄をしらべたので、それをみてみよう。つづく。
塩を取れば血液の浸透圧があがり喉が渇き水分摂取が増える、という定説と違うが、尿データをかんがえると、溶質が増えても腎臓が尿濃縮で自由水をためるので、身体の浸透圧がさがり口渇がさがるということかもしれない。血液の浸透圧データはないので、詳しいことまではわからない。
6g/d食から12g/dになって減った水分摂取量の差(図の薄い青)は、腎臓でためた水(図左バー)から不感蒸泄による喪失分(斜線)を差し引いた量(図の濃い青)にほぼひとしかった。一日水分摂取量が一日尿量より32%おおいことから、ためた自由水の32%が不感蒸泄ででていくと推定したそうだが、正確かわからないことは研究グループもみとめている。ちなみに火星探査の訓練なので、被験者は運動も肉体作業もした。
このあと、彼らは塩をおおくとった時に腎臓が尿を濃縮する仕組みについて考えさらに実験をおこなった。まず一日Na排泄量(蓄尿Na濃度に1日尿量をかけて計算するので、UNaVと書く)と尿Na、K、尿素濃度の関係をみると、一日Na排泄量が多いほど尿Na濃度があがり、尿K濃度は変わらず、尿urea濃度は低くなった(それぞれ左、中央、右)。
尿の尿素濃度と尿の濃縮にはどんな関係があるか?まず尿素と尿濃縮の関係をおさらいしよう(レビューはJASN 2007 18 679、図)。尿の濃縮に寄与するのは主にNaClと尿素で、NaClは有名なヘンレ係蹄のcountercurrent multiplicationで維持される。一方ureaは、とくに髄質内層の浸透圧勾配に重要だ。
集合管をおりていく原尿はV2(バソプレシン)受容体の支配下にあるアクアポリン2を介して水を吸われるが、この部分は尿素を通さない。だから原尿が髄質内部の集合管(IMCD、internal medullary collecting duct)までくると尿素濃度はとても高くなっている。
IMCDには尿素トランスポーターUT-A1、A3があって尿素は一気に間質にでていき、内腔と間質の浸透圧がほぼ等しくなる。それで浸透圧利尿で水が失われるのを防いでいる。その証拠に、UT-A1とA3をノックアウトすると(十分にたんぱくをあたえられた)マウスは水をどんどん喪失してしまう。
高濃度の尿素を維持する仕組みのひとつはvasa rectaによるcountercurrent exchangeで、ヘアピンになった血管にあるUT-Bを通じて尿素が上がって降りてを繰り返す。もうひとつが尿素リサイクルで、ヘンレ係蹄のUT-A2を通じて間質の尿素が内腔に排泄され、遠位ネフロンをまわりIMCDでふたたび間質に再吸収される、の繰り返しだ。
それをふまえてみると・・。
尿の尿素濃度がさがることと尿の濃縮をむすびつけるひとつの考えは、尿素が尿に出てこないぶん腎間質にとどまり、濃度勾配をきつくして尿をいっそう濃縮させたというものだ。研究グループはそういっている。
ただ間質の尿素濃度は測れないし、UT-A1、A3は濃度依存のトランスポーターだから間質の尿素濃度がたかければ集合管内腔の尿素濃度も高いかもしれない。尿素の摂取量はかわらなかったようだが、異化や同化がかわって尿素がつくられなくなったのかもしれない。この段階では、まだなんともいえない。塩分摂取が増えて尿素排泄がへる理由も、わからない。
つぎに、研究グループは尿アルドステロン排泄とコルチゾン排泄をしらべたので、それをみてみよう。つづく。
2017/05/14
火星だより 1
自由水クリアランスについては何度か紹介されている(こことここ)が、基本の考えは「腎臓は血液より濃縮した尿をだすとき自由水をため、希釈した尿をだすとき自由水を捨てている」ということだ。自由水クリアランスというのはどれだけ捨てているかという値だから、捨てている時にプラス、ためているときにマイナスになる(図はJASN 2008 19 1076より改変)。
自由水クリアランスは尿と血液の濃度をくらべているので血液の値(浸透圧であれ電解質であれ)がないと測れない、はずである。それを尿の値だけで計算する考え方が、JCI5月号の論文(JCI 2017 127 1932)で用いられているようだ。
この論文は3月にオンラインででたから、4月には日本腎臓学会のメーリングリストKidney Shareでも杉本俊郎先生が取り上げておられた。ニューズレターASN In The Loopにも、こないだでた。なおこの論文は、個人的には、火星への有人探査に備え健常男性を何百日も宇宙ステーションのような部屋(図)に隔離し生活させるデータを解析していることが興味深い。重力は、ある。
実験結果でもっとも大事なもののひとつが、食塩6g/dの食事をしていた人が12g/dの食事にふやすと自由水クリアランスが減る、というものだ。しかし血中浸透圧への言及はひとつもない。どうやって計算したか?しらべると、Supplementに解説があった。
ひとことで言うと、二つの状態の尿浸透圧を比較して、前より尿が希釈されていれば自由水クリアランスがプラス、濃縮されていればマイナスということだ。
図左端のように溶質を1Lの尿に5粒の溶質を捨てていた人が、溶質をたくさん摂って8粒すてるのに、2Lの尿をつくったとする(その隣)。このとき尿浸透圧は、5粒/Lから8÷2Lで4粒/Lに希釈されている。ということは、5粒/Lの尿をだしていたときにくらべ自由水を捨てている。尿浸透圧が5粒/Lのままなら、8粒の溶質を捨てるのに8÷5で1.6Lしか尿はいらないはず。だから、2-1.6の0.4Lが自由水として捨てられた、つまり自由水クリアランスが0.4Lというわけだ。それを式にするとこうなる。
食塩6g/dのときと12g/dのとき、尿量と尿中溶質量(Na、Kだけでなく尿素もつかうモデル)、そこから計算される尿浸透圧は以下のようであった。溶質は682mmolから872mmolに、食塩6g(NaとClで205mEq)に相当するだけ増えた。しかし尿量は1783mlから1814mlにしかふえておらず、浸透圧が431mmol/lから508mmol/lにまで高くなった。
6g食のときと同じ尿浸透圧で12g食の溶質を捨てるには、872÷431で2.02Lの尿が必要。なのに1.81Lの尿しかつくらなかったということは、2.02-1.81で0.21L自由水をためこんだ、つまり自由水クリアランスがマイナスになる。
…ほんとう、だろうか?
参考文献に2005年版のOxford Textbook of Clinical Nephrologyが載せてあるが、2016年版のwater homeostasisの章には記載が見られない。自由水排泄をきめるのは溶質量とADHで、溶質量の変化よりADHの変化がより大きく働く(図右、バートン・ローズ先生の教科書より)。
だから、この方法がADHを無視するというかなりざっくりな仮定をしていることは、知っておいていい。実際、著者も論文の最後に認めている。それでも、膨大な尿データから言えることはたくさんあるはず。著者グループはこれまでもこの方法で論文をたくさん書いている(Cell metab 2013 17 125、Hypertension 2015 66 850)から、仮定を受け入れて読み進めてみよう。つづく。
自由水クリアランスは尿と血液の濃度をくらべているので血液の値(浸透圧であれ電解質であれ)がないと測れない、はずである。それを尿の値だけで計算する考え方が、JCI5月号の論文(JCI 2017 127 1932)で用いられているようだ。
この論文は3月にオンラインででたから、4月には日本腎臓学会のメーリングリストKidney Shareでも杉本俊郎先生が取り上げておられた。ニューズレターASN In The Loopにも、こないだでた。なおこの論文は、個人的には、火星への有人探査に備え健常男性を何百日も宇宙ステーションのような部屋(図)に隔離し生活させるデータを解析していることが興味深い。重力は、ある。
実験結果でもっとも大事なもののひとつが、食塩6g/dの食事をしていた人が12g/dの食事にふやすと自由水クリアランスが減る、というものだ。しかし血中浸透圧への言及はひとつもない。どうやって計算したか?しらべると、Supplementに解説があった。
ひとことで言うと、二つの状態の尿浸透圧を比較して、前より尿が希釈されていれば自由水クリアランスがプラス、濃縮されていればマイナスということだ。
図左端のように溶質を1Lの尿に5粒の溶質を捨てていた人が、溶質をたくさん摂って8粒すてるのに、2Lの尿をつくったとする(その隣)。このとき尿浸透圧は、5粒/Lから8÷2Lで4粒/Lに希釈されている。ということは、5粒/Lの尿をだしていたときにくらべ自由水を捨てている。尿浸透圧が5粒/Lのままなら、8粒の溶質を捨てるのに8÷5で1.6Lしか尿はいらないはず。だから、2-1.6の0.4Lが自由水として捨てられた、つまり自由水クリアランスが0.4Lというわけだ。それを式にするとこうなる。
食塩6g/dのときと12g/dのとき、尿量と尿中溶質量(Na、Kだけでなく尿素もつかうモデル)、そこから計算される尿浸透圧は以下のようであった。溶質は682mmolから872mmolに、食塩6g(NaとClで205mEq)に相当するだけ増えた。しかし尿量は1783mlから1814mlにしかふえておらず、浸透圧が431mmol/lから508mmol/lにまで高くなった。
6g食のときと同じ尿浸透圧で12g食の溶質を捨てるには、872÷431で2.02Lの尿が必要。なのに1.81Lの尿しかつくらなかったということは、2.02-1.81で0.21L自由水をためこんだ、つまり自由水クリアランスがマイナスになる。
…ほんとう、だろうか?
参考文献に2005年版のOxford Textbook of Clinical Nephrologyが載せてあるが、2016年版のwater homeostasisの章には記載が見られない。自由水排泄をきめるのは溶質量とADHで、溶質量の変化よりADHの変化がより大きく働く(図右、バートン・ローズ先生の教科書より)。
だから、この方法がADHを無視するというかなりざっくりな仮定をしていることは、知っておいていい。実際、著者も論文の最後に認めている。それでも、膨大な尿データから言えることはたくさんあるはず。著者グループはこれまでもこの方法で論文をたくさん書いている(Cell metab 2013 17 125、Hypertension 2015 66 850)から、仮定を受け入れて読み進めてみよう。つづく。
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