以前にふれた、NHE3阻害薬tenapanorが透析患者さんの高リン血症をさげるかを調べた治験の結果が発表された(doi: 10.1681/ASN.2016080855)。4週間の内服で用量依存性にリン濃度低下がみられ、10mg1日2回と30mg1日2回でプラセボに対して有意差があった(1.7-1.8mg/dlの効果)。ただし下痢の副作用が多く、30mg1日2回の群では半分が途中で薬をやめていた。TenapanorはLubiprostone(アミティーザ®)のように便秘薬として開発された薬だから無理もなく、著者は「便が硬く通過時間のながい透析患者さんにとっては有益かもしれない」と考えている。
腸管のNHE3を阻害すると便中のリン含有量が増えることは事実だが、ナトリウムイオンと水素イオンの交換輸送体であるNHE3がどうリンに関係するかはまだわかっていない。腸管にはリン吸収にかかわるナトリウム依存のリン輸送体NPT2bというのがあるから、ナトリウムイオンの再吸収が阻害され腸管内にナトリウムがたまることと関係がありそうに思われる(tenapanorにNPT2bに対する阻害作用はないが;JASN 2015 26 1138)。腸管で塩素イオンの再吸収を阻害するlubiprostoneでも、リンはさがるようだ(コントロールのない一施設スタディはRRT 2016 2 50)。
このスタディは、いままで「いかに摂取をへらすか」「いかに吸着するか」が基本だった高リン血症治療に新たな考え方をもたらす可能性があると思う。これから研究が進んで、遠位ネフロンのように腸管の溶質吸収とその制御にかかわるさまざまな治療標的がみつかるかもしれない。みつかれば、いまは阻害薬を探す方法は high throughput screeningとかいろいろある。ただ下痢をおこす薬が多そうで、アドヒアランスをたかめるためにも腎臓内科医や透析医は尿量コントロールと同じように便の回数、ブリストル・スケール(図)などもみて調節しながら診療する必要が出てくるかもしれない。
[2017年6月追加]この薬が日本人の健康被験者を対象に1相治験された(Clin Exp Nephrol 2017 21 407)。両親、父方母方の両親が日本人で、日本で生まれ、5年間以上日本以外に住んでいない20-45歳の被験者83人をカリフォルニア州の治験センターWCCT Globalに連れていきTenapanorないしプラセボを飲んでもらった。
結果、予測されたように介入群では便Na排泄がふえた。プラセボが4mmol/dに対して30-40mmol/d、食塩換算で2グラムくらいだから、利尿薬ならぬ「利便薬」としても使えるのかも知れない。便リン排泄は、0.8-8.0mol/dふえたとあるが、統計学的有意差や信頼区間は明記されていない。第1相で安全性を示すのが目的だからだろうか。
安全性といえば、便の回数は180mg1日1回投与群で約6回、15-90mg1日2回投与群で約2回、プラセボで約1回だった。180mg1回投与は、大変そうだ。便の性状は投与群でBristolスケール約5、プラセボで3だった(上の写真)。副作用は下痢が2回嘔吐が1回。白人被験者では頭痛や腹痛もあったが、国民性ゆえ軽微なら訴えなかったのだろうか。
それにしても、WCCT Globalなんてしらなかった。日本語ホームページによれば、最高約10000ドルの報酬を提供するらしい。それでも元が取れるのだろう。日本市場に入るためには日本人データがあったほうが有利だから、外資企業がこうやって外国で日本人を対象に治験する時代なのだなと驚いた。