2017年3月26日日曜日

低ナトリウム血症を再度考える パート2 (Rethinking about hyponatremia from case record of MGH NEJM)

パート1での回答は各々の中で出ただろうか?




今回の論文では数々学ぶポイントがある。


A)低ナトリウムと尿浸透圧高値の所見からは何を考えるか?
-CSWS(cerebral salt wasting syndrome)、薬剤、ホルモンの変化に伴うもの、中毒、SIADHなど。


今回の症例では甲状腺機能は問題なく、薬剤使用もなく、CSWSを疑わせる所見もなく、もし他の鑑別があがらないとSIADHになる。


・ここで、ポイントは若年女性では妊娠は考えなくてはならず、また妊娠は程度として強くないが低ナトリウム血症を引き起こしうることである(相対的水分過剰)。
・SIADHは常に除外診断である事である。


B)利尿剤の乱用と低ナトリウム血症
今回の鑑別で若い女性で考えないといけないのは、利尿薬の乱用である。
利尿剤の中でサイアザイドの使用はループ利尿薬より低ナトリウム血症を来たす。


まず、サイアザイドが低ナトリウム血症を来たす機序を説明する前に、一つ知っておく必要性があるのが、countercurrent multiplication(対向還流)というヘンレループ特有の機序である。
これは、ヘンレの下降脚は電解質の移動を起こさずに、水の再吸収を行う。
逆にヘンレの上向脚はNa/Cl/Kなどの電解質の再吸収のみ行い水の再吸収はおこさない。これにより髄質で高い浸透圧を作ることが出来る。
また、ヘンレループは腎臓の髄質にあるということも重要な情報である。

ループ利尿薬ではヘンレの上行脚でNa再吸収が阻害され、腎髄質の浸透圧が下がる。
それにより、最終的に水の再吸収が行われる集合管でも浸透圧が下がり、浸透圧勾配にしたがって移動する水は再吸収されにくくなる結果、尿量は増加。
サイアザイドは腎髄質の浸透圧に影響を来さないので、尿量の増加は多くはなく、またADHに対する水貯留の反応が良好なため低ナトリウム血症を生じる。


サイアザイドによる低ナトリウム血症は治療開始後1-2週間で生じる。


多いのは痩せた高齢女性であり、volume statusは正常な場合が多い。


この症例では、女性は若年であり発生頻度の多い年齢には合わないが鑑別としては残る。



C)副腎不全と低ナトリウム血症


全ての副腎不全で低ナトリウム血症は生じやすいが、原発性の場合に最も多く生じる傾向にある。


副腎不全の中でも原発性の頻度は稀である。これは、腫瘍・炎症・出血などで副腎が>90%破壊されると生じる。Glucocorticoidと mineral-corticoid(アルドステロン)の両方が低下するというのがポイントである。


二次性では下垂体機能低下, ACTH分泌低下による機序である。


原発性で低ナトリウム血症になる機序は2つあげられる。
①コルチゾールの欠乏
-これがADH分泌を抑制させる機構を破綻させる(CRH産生亢進でADH分泌促進)。


②アルドステロン欠乏
-尿細管のNaバランスを調整する部分を変化させ、低ナトリウム血症をおこす。


volume statusは正常か低下の場合がおおい。


この症例では、可能性は否定はできない。


D)MDMAの使用と低ナトリウム血症
エクスタシーとよばれるもので合成麻薬である。使用による合併症として高血圧・頻脈・横紋筋融解症・セロトニン症候群・低ナトリウム血症・昏睡・死亡などがある。


低ナトリウム血症の機序としてはADH様物質の増加と口渇に伴う飲水過多が原因となる。
volume statusは正常か低下の場合が多い。


この症例では薬剤のチェックで引っかからず病歴的にも合致しなかった(薬剤服用して1-3日で陽性になる)。


結果的には・・・
この症例では利尿剤濫用・副腎不全が除外できていない。


この症例を鑑別していくときのキーポイントは
・低血圧、軽度高カリウム血症、代謝性アシドーシスの点である。
低血圧に関しては、輸液のみで改善している。この点では、副腎不全には少しそぐわない。


軽度高カリウム血症や代謝性アシドーシスは、利尿剤の乱用を行っていた場合には高アルドステロン状態になり、低カリウム血症・代謝性アルカローシスになる場合が多く合わない。


この症例では最終的には、検査も行い原発性副腎不全という結果になった。

最初コルチゾールの基礎値を測定した際には高値であった。しかし、これはストレス環境下であり、その場合には高値になる事が多い。






今回の症例とは関係ないが我々として覚えておかなくてはならないのが、3次性の副腎不全(長期ステロイドによる副腎不全)である。


これは、長期ステロイド内服による視床下部-下垂体-副腎(HPA axis)の萎縮である。20-30mg/日のステロイドを5日以上使用した患者は常にリスクがあるが、 短期投与の場合は抑制も数日で改善する。機能低下は先ず中枢性に起こり、その後副腎萎縮となる。抑制されたHPA axisが戻るのには9ヶ月以上かかることを知っておく必要がある。そのために、ステロイドを避ける治療があれば選択することは重要である。


この症例からは様々学ぶものがあると感じた。低ナトリウム血症を見た時のアセスメントは非常に重要である。