2021/11/26

症例から考える電解質異常

 今回は症例から酸塩基平衡異常と電解質異常について考えてみる。


症例:

50歳男性、経口血糖降下薬使用中で、COVID-19による呼吸不全で救急搬送。挿管管理が必要と判断され、救急外来で施行。胸部CT所見上は、両側肺野の陰影を認めARDS(急性呼吸急迫症候群)の所見が有り、集中治療室に入院。ノルエピネフリンとバソプレッシンを血圧維持に使用、鎮静目的でプロポフォールを使用した。

入院3日目に腎臓内科医が急性腎不全と代謝性アシドーシスにてコンサルト。

入院3日目データ (入院初日)

Alb 4.0g/dL (4.2)、Na 133 mEq/L (134)、K 3.8mEq/L(3.7)、Cl 97mEq/L(97)、HCO3 17mmol/L (23)、BUN 31 mg/dl (14)、Cr 1.7mg/dl (0.8)、血糖 133mg/dl (123)


コンサルトを受けて、何が異常と考えるか?

まずは、代謝性アシドーシスの悪化と新規の急性腎不全があることを異常と捉える。そして、おそらくは循環不全もあるので、その影響?と考える。


続いて何を検査するか?

*血液ガス検査を行う。

pH 7.14、pCO2 39mmHg、pO2 80mmHg、HCO3 17mmol/L


では、この血液ガス異常の解釈は?

① pH 7.14でありアシデミアの状態と判断。アシデミアの原因として、HCO3 16mmol/Lであり、代謝性アシドーシスによって起こされている。

② アニオンギャップはどうか? アニオンギャップ= Na- (Cl + HCO3)

なので、AG = 133 - (97 +17) →19

AG開大と判断する。

③ 代謝性アシドーシスに対しての呼吸性代償はしっかり働いているか?

予想pC02 = [(1.5 × HCO3) +8] ±2 なので、予想pCO2は30~34となり実測が39であり、呼吸性アシドーシスの併存があることがわかる。

④補正HCO3の計算(ΔAG/ΔHCO3でも可)。隠れた酸塩基平衡異常がないか?

補正HCO3 =実測 HCO3 + ΔAG

補正HCO3 = 17 + 7 →24であり、他の隠れた電解質異常はなし。


この症例の電解質異常はAG開大性代謝性アシドーシス+呼吸性アルカローシスとなる。


この症例のAG開大の原因は?

AG開大性代謝性アシドーシスの鑑別にGOLDMARK (LANCET 2008)がある。

Glycols (ethylene, propylene)
Oxoproline
Lactic acidosis
D-lactic acidosis
Methanol
Aspirin
Renal Failure – sulfate, phosphate
Ketoacidosis
Propofol Infusion Syndrome


この症例の場合の鑑別は?

・腎不全

・プロポフォール注入症候群(PRIS)

・糖尿病ケトアシドーシス

この症例では、血糖131mg/dLであり急性腎不全に加え、硫酸塩やリン酸塩の蓄積はなかった。βヒドロキシ酪酸: 2.9mmol/L。そのため、PRISが原因?と考えられた。

また、呼吸性アシドーシスに関してはCOVID19感染による影響が考慮された。


では、PRISとは何か?(参考資料はこちらがわかりやすい)

PRISは稀ではあるが、高容量のプロポフォールの使用によって引き起こされるものになる。48時間以上4mg/kg/hr以上の使用はリスクとなる。症状としては、徐脈や横紋筋融解症、代謝性アシドーシス、腎不全を引き起こし、死亡に至る。ATPが低下し、ピルビン酸が増加し、乳酸が増加する。

この症例では、乳酸の増加はなくPRISに関しては??となってしまった。



入院4日目:プロポフォールは中止

Na 148 mEq/L 、K 4.6mEq/L、Cl 108mEq/L、HCO3 16mmol/L 、BUN 33 mg/dl 、Cr 0.99mg/dl、血糖 210mg/dl 

pH 7.17、pCO2 39.2mmHg、pO2 69mmHg、HCO3 16mmol/L

Anion-Gap: 24、βヒドロキシ酪酸: 6.9mmol/L


入院3日目から4日目で変化したことは?

・AGがさらに開大した。

・プロポフォール中止し、重炭酸製剤投与にかかわらず重炭酸濃度減少

・血糖上昇

・βヒドロキシ酪酸が増加 (2.9→6.9)


この時点での鑑別:

βヒドロキシ酪酸が増加、血糖も上昇していることからケトアシドーシスを考える。


頭の中では・・・

アニオンギャップはβヒドロキシ酪酸によって開大が考えられる。プロポフォールは24時間以上中止したが、改善乏しい。患者さんはもともと糖尿病の管理でSGLT2内服していたが、入院と同時にOFFにしてしまっていた。この症例の場合は正常血糖糖尿病性ケトアシドーシスではないか?インスリン治療も開始してみよう。


インスリン投与後:

Na 153 mEq/L 、K 4.1mEq/L、Cl 111mEq/L、HCO3 26mmol/L 、BUN 43 mg/dl 、Cr 1.0mg/dl、血糖 176mg/dl 

pH 7.43、pCO2 40mmHg、pO2 108mmHg、HCO3 26mmol/L

Anion-Gap: 14、βヒドロキシ酪酸: 0.9mmol/L

となった。


この症例の最終診断は、Euglycemic DKA (EDKA)


EDKAとは?

1973年にMunroらが211症例の正常血糖のケトアシドーシスが報告された。最近の報告だと、2017年に報告がある。EDKAの定義としては、血糖が250mg/dL未満で、アニオンギャップ開大性代謝性アシドーシスがあり、ケトン血症、ケトン尿になる。EDKAの原因は、SGLT2阻害薬の使用、来院前のインスリン接種、食事摂取制限、嘔吐などがある。SGLT2使用患者のCOVID19罹患患者のEDKAの5症例も報告されている。


あまり、個人的にはEDKAの概念を知らなかった。とても勉強になった。


今回のように、血糖が正常でもケトアシドーシスをきたしている例もあるということは、是非知ってもらいたいと思う。



2021/10/11

CKDと貧血を復習〜ESA、HIFについて〜 ESA製剤について

また、前回から期間が空いてしまいました。。

今回は、ESA(Erythropoietin stimulating agents) とHIF(Hypoxia inducible factor) について書いていきます。まずは、EPOについて


EPO製剤について

まず、EPO(Erythropoietin)については、1940-50年代にKrumdieckなどが造血をおこす血漿タンパクを指摘したことから始まった。1957年にJacobsonなどがのちにEPOとして認識される腎臓から産生されるものを認識した。

EPOは組織低酸素に反応して腎臓の間質細胞(Blood 2008)から分泌されるアミノ酸糖タンパク質ホルモンである。

1977年にヒトEPOが貧血患者の尿から抽出されて(J Biol chemi 1977)、1983年に遺伝子のクローン化に成功した。1989年に組み替えEPO(ヒトEPO遺伝子のクリーン化によって作られている)がFDAで承認され使用されるようになった。現在ESAとして知られているものが、組み替えEPO製剤である。



ESAに関しての重要な研究

NHCT:NEJM1998年、1223人の透析患者をHt 42% vs 30%にするようにした場合を比較。Htが高いほうが血管の血栓、死亡率増加、心筋梗塞の比率が増加

→透析患者さんで治療目標は高過ぎないほうがいい

CHOIR:NEJM 2006年、1432人の透析をしていないCKD患者において、Hbターゲットを13-13.5g/dL vs 10.5-11 g/dLで比較。複合エンドポインント(死亡率、心筋梗塞、うっ血性心不全における入院、全ての入院)でHb 13-13.5g/dLの方で増加。

→CKD患者さんで目標Hbは高くする必要なし

・CREATE:NEJM 2006年、603人の透析をしていないCKD患者において、Hbを13-15g/dLにしても10.5-11.5g/dLにしても心血管イベントのリスクは差はなかった。

→CKD患者さんで心臓を守るという意味でも目標Hbは高くする必要なし


EPOを使用するときに効果がない場合

原因:鉄欠乏性貧血、感染やなんらかの炎症、不適切な透析、重度な副甲状腺機能亢進症、悪性腫瘍、血液疾患などを考慮する。

抵抗性であるにも関わらず、増量をし続けることで死亡率の増加(KI sup 2008)、脳卒中を含めた心血管イベントの増加、血液透析アクセスの血栓の増加、高血圧につながることがわかっているので、無闇な投与は控える!


悪性腫瘍患者へのEPO投与(AJKD 2019)

まだ、十分な検証ができていなく結論は出ていないが、多くの研究ではがん患者でEPO投与でHb>12g/dLにすることで死亡率の上昇につながることがわかっている。しかし、癌の進行との関連性はないと言われている。なので、投与に関しては、患者においてリスクとベネフィットを考えて使う必要性がある。


Hbの目標値

KDIGO ガイドラインでは透析患者でESA使用での目標はHb 10-11.5g/dLで、なるべく少ない量のESAで管理する必要がある(鉄欠乏を見逃さないことが重要である。)

しかし、治療目標は個別化する必要もある。若い人に対しては、QOLの点でも高めに設定する場合がある。


次はHIFについて記載したいと思います。少しでも多くかけるように頑張ります!


2021/10/07

3%NaCl

 低Na血症に対する3%NaClの使用といえば一度は皆さん、経験したことがあるだろう。

 低張性低Na血症の場合で中等症から重症いわゆる神経症状を呈している場合は、3%NaClで補正することになる。この投与方法に関しては様々な議論が行われてきた。例えば、どのような方法で?どれくらいの速さで?などである。これらの疑問を含めた3%NaClの使用に関しての報告があった。

 最初に一般論として、低Na血症は自由水が相対的に多い状態と考えられている。細胞1つ1つの単位としては少し膨れているイメージだ。細胞が膨れた場合、様々な臓器がむくむ。低Na血症の症状が中枢神経系に集中している理由は頭蓋骨に囲まれた脳だけは圧を「適切に」逃すことができないためであると考えられる。

 治療の基本は原疾患の治療と自由水の調整である。特に自由水の調整に関して、TargetとLimitを把握しておくことは重要である。

 Targetとは治療の目標を指し、あくまでも症状の改善に重きをおくべきであり、数字のみを治療目標としない。

 limitはNa値の変動の制限であり時間あたりの変化と1日毎の変動に関してである。table2は特に治療のlimitに関してのこれまでの報告がまとめられている。

 では次に3%NaClについて簡単に確認する。

 3%NaClを含む低Na血症への高張食塩水の歴史は意外と古く、1938年ころにHelwigらに100-300mlの高張食塩水を急速投与した報告が最初である。その後、1980年頃には安全なレベル(Na値 120-130mEq/L)を達成するために2mEq/Lずつ上げていくとする目安も報告された。

 3%NaClの合併症としては浸透圧性脱髄症候群:ODSが有名である。イメージとしては、Na値の急速な改善により、細胞の周囲の浸透圧が上昇し、急速に細胞内の自由水がなくなり、細胞が縮んでしまうことで発症する。

 当初は本当にODSは存在する病気なのか?と懐疑的な意見もあったようだが、徐々に認知されてきて、24時間で9-10mEq/Lの補正でも発症したとする報告まで認められるようになった。最終的には2000年のNEJMに症状の改善の目的であれば僅かなNa値(3-7mEq/L)の上昇で十分であり、≦8mEq/L/dayで管理すべきと報告された。

 ODSのリスク因子も同定されており、アルコール依存、肝疾患、低K血症、低栄養、血清Na<105mEq/Lがある。いわゆる慢性的に「調子が悪そう」な状態の場合を指す。

 table1に2013年に米国と2014年に西欧からそれぞれ出された低Na血症の治療の推奨を抜粋されているので参考にすると良いだろう。

 また、この文献には3%NaClに関するいくつかのテーマについても記載されている。

 1. 持続投与 vs ボーラス投与

 利点と欠点が各々存在する。持続投与の利点は投与速度を変更することが容易であり過補正とならない可能性が高いが補正が緩徐になりやすい。

 ボーラス投与は早急に目標が達成される一方で、投与量が固定されていることで過剰補正となる可能性がある。では持続投与 vs ボーラス投与の有用性は?SALSA trialも参考にする。

 2. 末梢静脈投与 vs 中心静脈投与

 施設によっては中心静脈投与のみで許可されていることが使用をためらうことにつながっている。おそらく、3%NaCl自体の浸透圧が高い (1027mOsm/L)ことが判断の根拠にこれまではなっていたが、最近の研究では静脈炎は増えないようである。

 他に、過剰補正のために3%NaClとデスモプレシンの併用療法や、K補正でNa値が上昇することに関してなど記載されており興味深い。

 繰り返しになるが、低張性低Na血症と診断した上で神経症状を呈している場合に3%NaClの使用を考える。使用の際には、ODSのリスク因子を確認した上で、targetとlimit(特にODSのリスク因子を有する症例ではより緩徐に補正)を意識して管理することが重要である。

 *3%NaClの作成方法

①0.9%NaCl 500mlから100ml廃棄し 400ml

②10%NaCl 20mlを6アンプル    120ml 

 ①+②で 3%NaCl 520ml




2021/08/08

CKDと貧血を復習〜原因、病態、鉄について〜

 大変ご無沙汰しています!

こんなに投稿できなかったのは、久々です。執筆陣は元気ですので、ご心配しないでください!


久々の内容はCKD(慢性腎不全)における貧血について少しずつ考えてみようと思います。過去にも投稿はあるので、そちらも参考にしてもらいたいです。


・貧血はCKDの進行とともに必ずくるものなのか?

・・CKD(慢性腎不全)の進行に伴い貧血の重症度は増加するが、CKDの進行と貧血の人数の関係は相関性はなく、患者によって変化する。透析前のCKD患者では約50%が貧血を有していると言われている(Curr Med Res Opin.2004)。


・CKDにおける貧血は影響があるのか?

・・貧血は組織酸素運搬の低下をもたらし、倦怠感や息切れや活動性低下につながる。また、観察研究では貧血は左室肥大(AJKD 1996)、死亡率の上昇(JASN 1999)との関連性が示唆されているが、RCT(NEJM 2009)では貧血の改善に伴い左室肥大や死亡率の改善には寄与していない。これらのことから、貧血ではない他の因子が関連している可能性が考えられている。


・何がCKDにおける貧血の原因になるのか?

・・一般的な原因は下記のものになる(AJKD 2008)。

−相対的エリスロポエチン不足

−鉄欠乏

−失血

−炎症、感染

−隠れている血液疾患

−副甲状腺機能亢進症(透析患者)

−溶血

−栄養不足


・鉄不足の場合には、経口鉄と静脈鉄はどちらがいいのか?

・・安価(経口 8円/錠 vs 60円/1A)で、投与がしやすいことや貧血の改善に効果的であることから経口投与が推奨される。

*少し深掘り

まず、鉄不足は、Absolute iron deficiency (鉄吸収低下による欠乏)とFunctional iron deficiency(機能的鉄欠乏)に分けられる。

Absolute iron deficiencyは消化管出血や手術後の出血、透析によるものなどや稀だが摂取不足によるものが原因となる。TSAT低下、Ferritin低下が特徴。

Functional iron deficiencyは貯蔵鉄はたくさんあるが、ESA製剤を用いても赤芽球への取り込みが悪くなってしまうものである。TSAT低下、Ferritin上昇が特徴。


起こる病態としては、ヘプシジン(鉄の恒常性を調整するもの)上昇に伴う2次性の鉄欠乏であると考えられている(Semin neph 2016)。ヘプシジン上昇は慢性炎症や腎臓からのヘプシジンのクリアランス低下によって生じている。ヘプシジンは細胞の内側から外側へ鉄イオンを輸送する機能を持つ膜貫通タンパク質であるフェロポーチン(Ferroportin)に結合する。それによって、ヘプシジン上昇によって、フォロポーチンの働きを抑制し、鉄の細胞の内在化と劣化を起こす。また、ヘプシジン上昇によって十二指腸や肝臓、脾臓マクロファージからの鉄の放出を抑制する。


・鉄剤の経口投与は飲めない人がいるよどうしよう?

・・一定頻度で、消化器症状で飲めない人がいる。記載時では未発売であるが、Ferric maltol(マルトール第二鉄)は消化器症状は少なめで、効果が高いとのことで、今後に期待はしたい(Ann Pharmacy 2021)。


次回にHIF阻害薬やESAなどについて少し深掘りしていく。

2021/05/05

腎臓病患者における悪性腫瘍スクリーニング

 ある透析患者の回診で、透析歴3年のAさん(50歳)のところで。

自分「Aさん、元気ですか?体調の変わりはないですか?」

Aさん「色々な問題が発生しました。転移性の乳がんが見つかってしまって。」

Aさんは体重減少と食欲低下があり、それの原因検索で疾患が見つかった。


このような経験は、腎臓内科医や透析回診する医師ではきっとある。ただ、その一方で腎臓が悪い人に対しての悪性腫瘍のスクリーニングはどうすればいいのだろうと悩むことも多いのではないか?

一般の人の悪性腫瘍スクリーニングはUSPSTF(U.S. Preventive Services Task Force)のを参考にしていただきたい。また、日本語で2015年のものであるが、J Hospitalistのものでまとめていただいている。ここにおいては、やはり定期的に健康診断を受けることが本当に重要であると考える。

では、腎臓病の人に関してはどうか?

まずは、透析患者からみていこうと思う。これに関しては、2020年のAJKDのまとめがおすすめである。また、日腎会誌2017でも特集されているので参考にしていただきたい。

健常者の場合、本邦では40歳〜90歳において死因の第一位が悪性腫瘍になっている。

透析患者の場合には死因の原因では、心不全・感染症が多く、第3位に悪性腫瘍となっている。悪性腫瘍の割合としては、全死亡の1割ではあるが、予期できる死亡を避けるということは重要である。

ここから、少し小見出しで検討していく。

・透析患者では悪性腫瘍の発生率は何が多いのだろうか?

これに関しては、さまざまな報告がある。

本邦の報告では、消化器癌に関しては、肝臓癌の発生率が一番高く、大腸癌、胃がんがそれに次ぐ。また、腎臓癌の発生率も多く、ACD(Acquired cystic disease)関連のものは有名である。

下表にAJKDの報告をまとめた。やはり、各悪性腫瘍は頻度が増加していることがわかる。


・透析患者はなぜ悪性腫瘍の発生率が高くなるのか?
明確にはわかっていないが、次のものが言われている。
慢性炎症に伴うもの、悪性腫瘍の成長抑制や認識の低下、ヒトパピローマウイルスやB型肝炎、C型肝炎などの癌発生に寄与するウイルスの影響を受けやすいことが原因としてあげられる。
また、先にも述べたACDが腎細胞癌の発生のリスクになっている。

・悪性腫瘍は透析導入後、いつが起こりやすいのか?
これは、各国でさまざまな検討がされている。本邦では消化器癌に関しての報告があり、導入後1年未満が高く、6年目以降には減少することが報告されている。本邦の報告では1年以内が多いが、海外では3-4年での発生が多い報告もある。
これを踏まえても、導入後5年以内はスクリーニングにアンテナをしっかりとはっておくことは
重要であると考える。

・透析患者において、スクリーニング検査で注意することは?
やはり、悪性腫瘍のスクリーニングには検査が必要になってくる。その検査も、通常とは異なるということを把握しておく必要性がある。
下記に表で示している。検査にかなり偽陽性が多いことにも留意する必要がある。



・では、どのようなスクリーニングをしていけばいいのか?
 基本的には下表の流れになるかと思う。下述はするが、まず寿命が10年以上あること、移植候補者、スクリーニングの推奨に合致するものが対象になってくるということは念頭におく必要がある。



スクリーニングを行う際の根底としては
1:生命予後を推定する 
 これに関しては、Choosing wiselyでも生命予後の限られた症状などない人に対しての闇雲なスクリーニングは推奨していない。
2:悪性腫瘍が患者さんに与えうるリスクを推定する
3:スクリーニングをすることの利益・リスクを考える
4:患者さんの価値観や好みに関連する利点や欠点に重きを行なって検討する
5:患者が移植を行うことが可能かどうかを検討する


先の症例を振り返ってみると、透析を開始して5年以内、移植の適応もあり。また、50歳以上ではあり乳癌スクリーニングは2年毎のスクリーニングが推奨されている。

この症例では、それが行えていたのであろうか?

我々の明日からの診療にもぜひ役立ててもらえればと思う。



2021/04/07

悪性腫瘍と低マグネシウム血症〜導入編〜

 今回は、私の大好きな電解質で悪性腫瘍患者の低マグネシウム血症について触れたい。

今回は、導入編として一般的な話を記載していく。

定義:低マグネシウム血症:血清Mg<1.8mg/dl

悪性腫瘍、入院中や集中治療患者では50-60%程度とリスクが上昇する(Journal of intensive ar 2018)。

低マグネシウム血症は急性であろうが慢性であろうが臨床的予後の悪化と関連している。慢性の低マグネシウム血症はインスリン抵抗性、糖尿病、糖尿病性腎症の悪化の促進と関連している。

低マグネシウムの重症度と症状:

Grade1:血清Mg:1.2-1.7mg/dl   倦怠感や症状がない

Grade2:血清Mg:0.9-1.2mg/dl  筋力低下、繊維側筋攣縮

Grade3:血清Mg:0.7-0.9mg/dl  神経学的所見の出現、心房細動

Grade4:血清Mg:0.7mg/dl 未満 痙攣、テタニー、眼振、精神疾患、致死的不整脈


Mgの分布やバランスについて

Mgは大人では平均24gあり、99%が細胞内(骨、筋肉、軟部組織)に分布。30%が蛋白(主にアルブミン)と結合している。

マグネシウムはナッツ(アーモンド)や緑黄色野菜(ほうれん草、ふだん草など)、シリアルやミルクやヨーグルトに多く含まれる。


・消化管から120mg/day吸収され、20mg/day分泌される。

消化管吸収は通常は30-50%程度だが、低マグネシウム下であれば吸収が80%まで増加する。

・腎臓からは約2400mg/day濾過され、2300mg/day再吸収されnet excretion は100mg/dayになる。

低マグネシウム下であれば、net excretionが12mg/day未満になる。


□消化管吸収は2パターンある。

・Paracellular route:受動的なメカニズムでMg吸収の90%を担っている。Tight junctionの部分のClaudinによって調整されている。腸管にはClaudin2,7,12が発現している。小腸から盲腸まではこのルートで吸収している。

・Transcellular route:結腸ではこの方法で吸収される。TRPM6,7が活性され、吸収される。


□腎臓での吸収
・蛋白結合のないMgは糸球体を自由に通過する。
・近医尿細管で15%が再吸収され、ヘンレの太い上行脚(TAL)で大部分(70%)再吸収され、遠位尿細管で10%が再吸収される。

TALで再吸収の主体になるのがClaudin16,19であり、Paracellular routeで再吸収を行なっている。
図に示したようにClaudin14はClaudin16にnegativeに働き、CaやMgなどの陽イオンの再吸収を減少させる。
TALのCaSR(Calcium sensing receptor)活性化によって、NKCC2 (Na-K-2 Chloride Cotransporter) やROMK (Renal Outer Medullary K)の抑制によってMgやCaの再吸収を抑制される。また、Claudin14発現を調整させ、miR-9・miR-374のmicroRNAの発現を低下させることで、Ca・Mgの再吸収を低下させる。

*少し脱線:ここで、NKCC2、ROMK、CIC-Kb、Barttinの遺伝子の変異は、それぞれBartter症候群type1、type2、type3、type4と呼ばれ、これらは低マグネシウム血症を特徴としている。しかし、中には低マグネシウムを来さないものもあり、これは代償性にDCT (Distal Convoluted Tubule:遠位曲尿細管)での再吸収が亢進している。CIC-Kb、Barttinは DCTにも発現しているため低マグネシウム血症は来さない場合が多い。下表参照。

Bartter syndのための理解
Slide shareより引用

小児特定疾病情報センターより引用



本題に戻って、下の図には記載していないが、Claudin10もTALでの陽イオン選択性に非常に重要な役割を果たしている。動物実験で同様にClaudin10ノックアウトマウスが、高マグネシウム血症・尿路結石・Na再吸収障害を生じていることがわかった。これは、Claudin10がないことで、TALでのCaとMgの再吸収がしやすくなる。

また、DCT (Distal Convoluted Tubule:遠位曲尿細管)もMgにおいて重要な役割をはたす。Mg再吸収においては10%を担う。 
DCTにおいては、TRPM6 Mg channelを介して、transcellular routeで再吸収される。インスリンとEGFはTRPM6の発現を増加させる。
NCC (Na-Cl Cotransporter)もDCTでのMg再吸収に関わる。

Gitelman 症候群(NCCの変異)は正常血圧、低カリウム血症、代謝性アルカローシス、低マグネシウム血症が特徴である(上表参照)。NCCノックアウトマウスではTRPM6の発現が低下しすることから、Gitelman症候群での低マグネシウム血症は、再吸収の障害での尿中排泄とわかる。 DCTのTRPM6を介しての再吸収は電気的な差で生じる。Kv1.1(voltage-gated K channel)が電気的差の形成で重要である。


今回は、まずは低マグネシウム血症の導入編という形で話をしてみた。また、次回に悪性腫瘍との関連の話を進めていければと思う。




2021/03/15

満額回答、ADVOCATEトライアル

  アバコパンといえば、本ブログでも2017年から注目してきた経口C5a受容体阻害薬である。ANCA関連血管炎に対するADVOCATEトライアルが行われ、色よい速報結果が出ていたことは2019年にも紹介した

 当時からよい最終結果が予想されていたが、先月公式にNEJMから発表され(NEJM 2021 384 599)、「満額回答」といってよい結果であった。そこで、本ブログでも3度目になるが簡単に紹介したい(詳細は2019年の投稿を参照されたい)。

1. 患者

 参加したのは日本をふくむ20カ国で、対象はMPO-ANCAまたはPR3-ANCA関連血管炎で18歳以上(国によっては12-17歳も含む)の患者330人。BVASスコア主項目1つ以上、または副項目3つ以上、または血尿と蛋白尿の腎項目2つ以上が条件であった(ただしeGFRは15ml/min/1.73m2以上)。

 除外項目には、肺胞出血、腎代替療法を受けている、血漿交換や免疫抑制薬の治療歴、がん(5年以内)・感染症(結核・HBV・HCV・4週以内の生ワクチン)・心血管系イベント(12週以内)の既往、肝酵素上昇(正常上限の3倍以上)などが含まれた。

 患者の平均年齢は約60歳、女性は約4割、白人が約8割(アジア系は約1割)。約7割が初発(約3割が再発)だった。MPO-ANCAは約6割、BVASスコアは平均16点、臓器症状では腎が約8割と最も多く、平均eGFRは約45ml/min/1.73m2。次に全身症状・耳鼻咽喉・胸部・神経などが続いた。 

2. 治療

 寛解導入レジメンは①RTX4週間(375mg/m2、「半年おきの追加」はなかった;こちらも参照)、②点滴シクロフォスファミド14週間(15mg/kgを0・2・4・7・10・13週)、③内服シクロフォスファミド14週間(2mg/kg/d)。②と③は15週目から内服アザチオプリン(2mg/kg/d)。内訳は①が約65%、②が約30%、③が約4%であった。

 そのうえで、介入群はアバコパン(30mg1日2回)とプレドニゾンのプラセボ、コントロール群はプレドニゾン(60mg/dから20週で漸減;55kg未満では45mg/dから)とアバコパンのプラセボを投与された。

 ・・・が、じつは両群とも「隠れ」ステロイドが投与されている。RTX群はアレルギー反応予防に点滴されるし、スクリーニング前から入っていた患者もいる(4週で漸減中止された)。その量はプレドニソン換算で654mg(介入群)、727mg(コントロール群)であった。

3. 結果 
 
 「BVASスコア0」と「4週以上ステロイドOFF」で定義されたプライマリ・エンドポイントは、26週で標準治療群と非劣性、52週では有意にすぐれていた。

   介入群 対照群
 26週 72.3% 70.1%
 (非劣性についてp<0.001)
 52週 65.7% 54.9%
 (優性についてp=0.007)
 
 さらに、セカンダリ・エンドポイントのひとつであるeGFRは、26週・52週ともに介入群のほうが有意に上昇していた(単位はml/min/1.73m2、カッコ内は95%信頼区間)。

   介入群 対照群
 26週 +5.8 +2.9
  差2.9(0.1-5.8)
 52週 +7.3 +4.1
  差3.2(0.3-6.1)

 それだけでなく、ステロイドによる副作用をまとめた毒性指数(Glucocorticoid Toxicity Index、こちらの追記も参照)を両群で調べてみると、介入群で有意に低かった(26週時点、スコアは最小二乗平均で表示)。

      介入群 対照群
 GTI-CWS 39.7  56.6
  差-16.8(-25.6から-8.0)
 GTI-AIS 11.2  23.4
  差-12.1(-21.1から-3.2)

 また、患者QOLをSF-36とEuroQOL-5D-5Lのスコアリングで計測したところ、52週時点で量スコアとも介入群で有意に高かった。

 ・・ジャジャーン!という結果ではあるが、ここまでは2019年の速報値とほぼ同じである(「満額回答」と言われる所以である)。問題はステロイド毒性以外も含めた有害事象であるが、こちらも件数は対照群のほうが多かった。

    介入群 対照群
 全件  1779 2139
 重度  71   94
 致死的 8  22
 死亡  2   4
 
 有害事象のカテゴリー別内訳でも、対照群よりも多かったものはなかった。また、補体制御で気になる(エクリズマブ投与前にはワクチン接種しなければならない)髄膜炎菌感染は1件もなかった。

4. まとめと感想

 Steroid-sparing agent(ステロイドなしでやる薬)として、腎炎・ネフローゼ領域ではCNI・アザチオプリンなどがよく用いられ、最近はRTXもある。しかし、ほとんど誰も「寛解レジメン後はステロイドなし!」という診療をしようとはしなかった。

 だから今回、寛解レジメン中にプレドニゾン約600mg相当のステロイドが入ったとはいえ、その後ステロイドなしで寛解が維持できたのは、とても画期的なことである。コロンブスの卵みたいなことである。


こちらより引用


 もちろん、いくつかの懸念については考察しなければならない。

 まずは安全性である。有害事象がステロイドより少なく髄膜炎菌感染もなかったのは朗報であるが、比較的若い患者を対象にしてTB・HBV・HCV感染者を除外していることには注意が必要だ。RTX後のHBV劇症化も考慮すると、認可時に既感染者がどう扱われるかにも注目したい。

 また、いつまで使うかについてもきちんとした何かが今後必要になるだろう。長く内服するほど再発率は下がるだろうが、長期投与による「アバコパン毒性」がでてくる可能性もなくはないし、当然ながら高価な薬でもあるからだ(半年に1回のRTX追加が不要になるなら「トントン」なのかもしれないが)。

 とはいえ、時代を変える論文である。今後のANCA関連血管炎治療だけでなく、腎炎・ネフローゼ診療全般に強いインパクトを与えることだろう。

 アバコパンは日本でも今月に国内製造・販売・承認の申請が行われた。ADVOCATEには日本も参加しており、使えるようになるのはほぼ確実だろう。認可後に「コロンブスに続け」とステロイドのない海に漕ぎ出す医師がどれくらい腎臓内科にいるか、注目である。



フランシス・ベーコン『ノヴム・オルガヌム』表紙
(旧弊の学問からの脱却を説いた。こちらより引用)





2021/03/10

ESKDのES

 腎代替療法を要する段階を英語で「ESKD(end-stage kidney disease)」と呼ぶ。もとは「ESRD(end-stage renal disease)」と呼ばれていたが、renalという言葉はラテン語で分かりにくいので、キドニーになったことは以前も紹介した(こちらも参照)。

 今回は略語の後半ではなく前半、EとSについて考察したい。

 欧州やアフリカなど各地で観察研究を行った(国境なき医師団の活動にも参加した)米国の医療社会学者、レネー・フォックス著『生命倫理をみつめて 医療社会学者の半世紀(中野真紀子訳、みすず書房、2003年)』に、以下のような指摘がある。

「腎臓病の最終段階」という用語は、カルテなどにはESRDと略して書かれます。人工透析や腎臓移植によって、もはや腎臓が機能しなくなった患者も無限に生きつづけられるようになった今、腎臓病においては「末期(ターミナル)」というより「最終段階(エンド・ステージ)」と呼んだ方がおそらくより正確になってきています。

 日本語ではどちらも「末期」と訳されるが、「エンド・ステージ」は「ターミナル」とは違うニュアンスをもつ言葉である。「エンド・ステージ」とは、そこにとどまることである。そこから始まるとすら言えるのかもしれない(筆者もCKD外来ではそのように説明することも多い)。

 同書を読んで、「末期」という言葉を使うことで患者や社会に「もう終わり」という感覚を無意識に与えていないか心配になった。よい言葉がないか、思案中である(直訳の「腎臓病の最終段階」でも悪くはないのかもしれないが)。

 また著者は、アクロニム(アルファベットの略語)で表現することで、医療者たちはこの段階の患者に治る見込みがなく、腎代替療法にも限界があるという現実を突きつけるこの言葉から解放されるとも指摘する。

 筆者もカルテに「ESKDへの備え」などと無意識に書いている。書く手間を省くのもあるが(著者も略語が時間とスペースの節約になることは認めている)、やはり現実を直視したくないのかもしれない。

 暗黙知の概念で知られる物理学者・哲学者のマイケル・ポランニーは、『知と存在-言語的世界を超えて-(佐野安仁・澤田允夫・吉田謙二監訳、晃洋書房、1985年)』のなかで以下のように述べている。

問題を見つけ出すことが、どんな発見にとっても、また実際どんな創造的行為にとっても、その最初の一歩である。問題を認識することは、いつか到達できるかもしれない隠されたなにかを認識することである。

 筆者も、こうして得た認識から、「いつか到達できるかもしれない隠された何か」を暗黙のうちに認識しているのであろうか・・。いつかはそれが分かるようになりたいものである。



ミスター・チルドレン【es】
ジャケットを元に作成
(1995年、こちらより引用)


2021/03/08

ACE阻害薬・ARB中止の是非 後編2

3. 結果

 まず、2007年から2017年までに腎レジストリに登録された患者は30180人。そのうち、eGFRが30ml/min/1.73m2未満になるT0時点とその前(2年間の80%日数以上)ACEI/ARBが処方されていたのは10254人。なお18歳未満・移植後・データ不備がある患者などは除外している。

 そのうち、ACEI/ARBを中止されたのは1311人、継続していたのは8484人だった(足して10254人にならないのは、T0から6ヵ月後時点のため)。中止群が圧倒的に少ないのは、中止後ACEI/ARBが再開されていた患者(57%にのぼる)を除外しているからであろう。

 このコホートについてウェイティングし、中止群は9820.1人、継続群は9772.4人となった。

 「患者」は平均約72歳、女性4割、血圧約138/75mmHg(スウェーデンはフランスと同じく人種の統計がない)。既往は高血圧9割、心筋梗塞2割、心不全3割、PAD1割、糖尿病5割、COPD2割、がん1割であった。内服はβブロッカー7割、CCB6割、利尿薬8割、スタチン6割、抗血小板薬4割。

 両群間に有意差はなかった。というか、そのように調整した。

 次にアウトカムであるが、5年間絶対リスクは総死亡・MACEは中止群で有意に高かった。しかし、前編の米国スタディと異なり腎代替療法(KRT)は継続群で有意に高かった。


    中止群 継続群
 総死亡 54.5% 40.9%
 差   13.6%(7-20*)
 MACE 59.5% 47.6%
 差   11.9%(5.7-18*)
 KRT  27.9% 36.1%
 差   -8.3%(-12から-3.6*)
 *95%信頼区間


 総死亡とMACEは中断群と継続群の差が時間と共に開いていくグラフが得られた。いっぽう、KRTは最初中断群のリスクがわずかに高く、3年くらいして中断群が頭打ちとなり継続群の直線的なラインとクロスしていた。


JASN 2021 32 424 図2を元に作成


 また、総死亡・MACEの5年間RMSTは中断群で有意に短く、KRTは中断群で数字上長いが有意差はなかった(単位は、月)。


    中止群 継続群
 総死亡 44.3 47.9
 差   -3.6(-5.4から-1.8*)
 MACE 41.4 44.7
 差   -3.3(-5.3から-1.4*)
 KRT  48.9 48.1
 差   0.8(-0.8から2.5*)
 *95%信頼区間

 
 eGFRが20-30、20ml/min/1.73m2未満のサブコホートについての解析でも「総死亡とMACEは中断群で高く、KRTは中断群で有意に低い」という結論に変わりなかった。

 また年齢性別・既往・カリウム値・蛋白尿が交絡因子かどうかもAERI(absolute excess risk due to interaction)により検討されたが、カリウム値が5mEq/l未満か以上かがKRTリスクに影響していただけだった(ちなみに、血圧の影響は解析されていない)。


4. まとめと感想

①まとめ

 相関でしかないが、このスタディから導かれるのは「腎臓内科医が診れば、死亡とMACEのリスクを取ってACEI/ARBを中止すると腎代替療法を遅らせることができるかもしれない」だろう。

 腎臓内科外来にくる患者は「とにかく透析にはなりたくない」と初診されることが多い。そして医者側も、eGFRのカーブを図解して「透析になるまでの期間をできるだけ遅らせましょうね」と言うことが多い(筆者も、そう言っている)。

 その意味でこの結果は「腎臓内科医の仕事はした」という功績なのかもしれない。重曹・カリウム吸着薬・高用量のループ利尿薬・降圧薬・MRAなどの工夫なのか。あるいは、選択バイアスなのか。いまは推察するしかない。

 しかしその一方で、患者を死亡させたりMACEイベントに晒したりしているのなら、本末転倒である。

 腎臓内科外来にいると、いわゆる「消えたCKD患者パラドクス(CKD3-4期のうち、腎代替療法が必要になる患者はわずかで、大多数は心血管系イベントでその前に死亡しているという統計結果)」の実感がわきにくい。

 しかしこうした結果が出ている以上、安易にACEI/ARBは中止できない。する場合には患者に死亡・心血管系イベントのリスクを負うこと、透析を遅らせられる保証はないことを説明する必要があるだろう。あとは、STOP-ACEiスタディの結果を待ちたい。

 ②感想

 待ちたい・・と書いたものの、STOP-ACEiスタディが進行中にもかかわらずこうした大規模解析が複数の国で行われる理由、それは「待てない」からだと思われる(こちらも参照)。「ルーチンに中止しない」KDIGOガイドラインの推奨と実臨床とのギャップを埋めたいのであろう。その背景について2点から考えたい。

 1点目は医療の質である。「ACEI/ARB中断が医療の質を落としている」ということになると、QI(quality improvement)の進んだ国では医療政策に反映されるかもしれない。

 たとえば米国には「コア・メジャー」があり、たとえば肺炎なら「来院X時間以内に培養・治療開始」が全例に守られないと病院への保険償還が減額される(例外はそのように明記しなければならない)。

 こうした仕組みが多いのは入院診療であるが、いつかどこかのCKD外来で「ACEI/ARBが入っていますか(入っていないなら、その理由は何ですか)?」という問いが全例カルテに挿入されるようになるかもしれない。

 2点目はコストである。「安価でエビデンスもありガイドラインで第一選択」のACEI/ARBは今後、糖尿病におけるメトホルミンのような立ち位置になっていくだろう。ジェネリックになっていない薬との合剤が出る日も近い?かもしれない。




 
 CKD診療は新薬開発が進み、新規MRA・新規吸着薬(カリウムリンプロトン)・HIF-PH阻害薬SGLT2阻害薬バルドキソロンなどが参入してくるだろう。そんな中で、論文著者達は「(eGFRが30ml/min/1.73m2未満でも)まずはACEI/ARBを使いましょう」と言いたいのかなあ、と筆者は推察する。


 以上、2つの論文を考察した。お役に立てば幸いである。





2021/03/05

ACE阻害薬・ARB中止の是非 後編1

 スウェーデンのスタディ(JASN 2021 32 424)を、先に挙げた米国のスタディと比較しながら解説する。


こちらより引用


1. 患者


 腎臓内科に通院するCKD3-5期患者を登録した(4-5期は基本的に義務)スウェーデン腎レジストリが対象である。米国のスタディと異なり、今回は全例が腎臓内科の診察を受けている(といっても、かかりつけ医制度のためか受診は年2-3回だそうだが)。

 レジストリは患者情報や腎臓内科受診時のデータを収集するだけでなく、個人番号により処方薬や死亡のリジストリと連結されている。レジストリは国営で、国外に出ない限りフォローアップが途絶えることはまずないという。

 研究グループはこのデータを利用して、eGFRが30ml/min/1.73m2未満になった時点(このスタディはこちらがT0)から6ヶ月以内に「ACEI/ARBを中止され、以後観察期間中ずっと再開されなかった患者」と「ACEI/ARBが継続され、以後観察期間中ずっと中止されなかった患者」の比較を試みた。

 アウトカムは、5年間の死亡率・MACE(今回は死亡・心筋梗塞・脳血管障害)・腎代替療法(腎移植・維持透析)である。では早速結果を・・・と言いたいところであるが、今回は研究グループが生データに対して細工を行っている。


 そこで、まずそれを説明する。


2. ターゲット・トライアル・エミュレーション(以下、TTEと略す)

 
 TTEとは、仮定したランダム化試験に観察データに似せることで、交絡因子やバイアスの影響を減らし結果や因果関係の信頼度を高める方法である。ここでは簡単に、本スタディが患者選択時とアウトカム計測時に行った工夫を紹介する。


①患者選択時


(JASN 2021 32 424 図S1より)


 まずクローニングでは、データセットを複製して2つ作る(図の上段・下段)。そして、上段セットから「T0から6ヶ月以内にACEI/ARBを中止された患者」を選び、下段セットから「フォロー期間中ずっとACEI/ARBを継続していた患者」を選ぶことにする。

 そのため、1ヶ月ごとにセンサリング(censoring)を行い、上段患者から「中止が6ヶ月以内の中止でない患者」と「中止後に再開された患者」、下段患者からは「継続後に中止された患者」を除外する。

 これによりクロスオーバーは排除できるが、人工的な除外による選択バイアスの可能性が残る。そこで最後にインヴァース・プロバビリティ・ウェイティング(Inverse Probability Weighting、IPW)を行う。

 IPWとは、交絡因子の影響が大きそうな患者のウェイトを減らし、小さそうな患者のウェイトを増やすことで、影響の排除を試みる方法である。

 このスタディでは、「中止群から誤って除外される可能性」と「継続群から誤って除外される可能性」についてモデル係数(時間により変動する要素、年齢、性別、既往、血圧、薬、登録年、入院歴など)を40あまり設定し、両段の全患者にウェイトづけをおこなった。

 これにより患者1人は0.05人とも34人ともカウントされる(99.5パーセンタイル以上の外れ値は切り捨てるが)。なお、こうしたウェイトの総和はもはや患者総数とは全く異なるため、シュード・ポピュレーションと呼ばれる。


②アウトカム計測時


 「ウェイトづけされプールされたロジスティック回帰(weighted pooled logistic regression)」を行った。本気で知りたい方には別の学習手段をお勧めするが、①と同様に結果に与える交絡因子の影響を排除している。重みづけされるので、やはり1つのアウトカムイベントが0.1にも50にもなる。

 ともかく、これにより5年間の絶対リスクが得られ、それを元に「境界内平均生存期間(restricted mean survival time、RMST)」を計算している。「境界」とはこの場合5年間に限るということで、ざっくり言うと生存曲線カーブの面積を積分して得られる値である。
 

例:10年RMSTは左7.54年、右7.94年
(差の95%信頼区間は0.12-0.67で有意)
こちらより引用


 ビッグデータ全盛の昨今、TTE・IPW・RMSTといった概念を目にする機会はこれからどんどん増えると思われる。「プラグマティック・トライアル」ですら理解のあやしい筆者だが、時代に乗り遅れないよう勉強せねばと痛感する(いまの医学部学生は、ここまで習うのだろうか?)。


 「3. 結果」と「4. まとめ」に続く。




2021/03/03

ACE阻害薬・ARB中止の是非 前編

 70歳女性。うっ血性心不全・ステージ3CKDの既往ありARBを内服していたが、ある日の外来でeGFRが29ml/min/1.73m2に低下。




Q. どうしますか?


 KDIGOガイドラインはGFRが60ml/min/1.73m2未満で「AKIリスクをあげる重症の併発疾患をもつ患者」にACE阻害薬・ARB(以下ACEI/ARB)の中断を示唆する一方、「GFRが30ml/min/1.73m2未満の患者でルーチンに中止しない」よう強調している。

 しかし実際はそうもいかず、AKI後に中止してしまう害(そのまま再開できなくなることも多い)、CKD進行時に「透析依存までの時間を稼ぐため」に中止することの害(eGFRは一瞬あがるが、心・腎保護作用はなくなってしまう)が問題視されてきた。

 これについて、現在RCTのSTOP-ACEiスタディ(ISRCTN62869767、NDT 2016 31 255)が進行中である。しかしその前に2本の大規模な観察研究結果が発表されたため、それぞれ紹介したい。まずは昨年発表された米国の報告(JAMA Intern Med 2020 180 718)から。


1.スタディ・患者


 研究はペンシルベニア州にあるガイジンガー・ヘルス・システムの患者データを用いた。2004年から2018年までに162654人にACEI/ARBが開始されていたが、そのうち開始後(内服中)にeGFRが30ml/min/1.73m2未満に低下したのは5408人。

 さらに、eGFR低下から6ヶ月後(T0)までに中止かつ再開された例、カリウム値や血圧のデータがない例、T0までに末期腎不全に至るか死亡した例などを除く、3909例(T0までに中断された1235例と、継続した2674例)が観察対象となった。

 患者は両群とも平均年齢は約73歳、6割が女性、2%が黒人。受診頻度や腎臓内科への紹介率に有意差はなかった。

 平均eGFRは約23ml/min/1.73m2、eGFR低下直前の収縮期血圧は約125mmHgだった。4割に冠動脈疾患、3割にうっ血性心不全、5割に糖尿病、2割に脳梗塞の既往があり、約半数が抗血小板薬・スタチン・βブロッカーを内服していた。


2.アウトカム


 プライマリ・アウトカムはT0から5年間の死亡率、セカンダリ・アウトカムは同期間のMACE(死亡、心筋梗塞、PCI、CABG;心不全と脳梗塞は含まない)と末期腎不全だった。実際の平均観察期間はプライマリについて2.9年。また、AKIと高カリウム血症(5.5mEq/l以上)についても調査された。


3.結果


 死亡・MACEは中断群で高かった(下表、*はプロペンシティー・マッチング後のハザード比と95%信頼区間)。脳梗塞・糖尿病・うっ血性心不全・冠動脈疾患の有無による相関はなかった。中断群の28%でT0以降にACEI/ARBが再開されていたにもかかわらず、である。


        中断群 継続群
 死亡 35.1% 29.4% 
       1.39(1.20-1.60)*
 MACE 40% 34%
       1.37(1.20-1.56)*


 それに対して、末期腎不全には有意差がなかった。糖尿病の有無で結果に差があり、糖尿病患者では中断群の末期腎不全リスクが高かった(ハザード比1.56)。非糖尿病患者では0.61(信頼区間は表示がなく、糖尿病患者との有意差はp=0.01)。


       中断群 継続群
 末期腎不全 7% 6.6%
        1.19(0.86-1.65)*

 
 また、5.5mEq/l以上の高カリウム血症は継続群で有意に高かったが(22.2% v. 15.6%、ハザード比0.65、95%信頼区間0.54-0.79)、病名コード上のAKIには有意差がなかった(中断群の27.8%・継続群の30.1%、ハザード比0.92、95%信頼区間0.79-1.07)。


4. まとめと感想


 あくまで相関ながら、結果からは「死亡・心臓病のリスクを負ってACEI/ARBを中止したところで、透析を遅らせることにはならない(ただし、高カリウム血症にはなりにくい)」の一文が示唆される。

 「eGFRがとても低い群はちがう結果では」「AKIで中止したあと再開されなかった患者をみているだけでは」といった仮説についても感度分析が行われ、以下のような条件で解析しても結果はかわらなかった。


・Fine-Grayモデル(競合死亡リスクの影響を排除するしくみ)
・T0時点でACEI/ARBを6ヶ月以上内服していた群に限る
・eGFR低下時に低血圧や高カリウム血症のあった患者を除く
・AKIがステージ2以上の患者を除く
・がん患者を除く
・eGFRが20ml/min/1.73m2未満に低下した群に限る


 しかし後ろ向き観察研究である。「なぜACEI/ARBが中止されたのか」がまずわからない。さらに、「フォロー中に他の薬はどのように変更されたか(利尿薬・MRA・カリウム吸着薬・重曹など)」、「フォロー中に両群間の血圧はどうだったか」、「どれくらいの患者がいつごろ腎臓内科に紹介されたか」なども、わからない。

 こうした点はアウトカムに影響するし、次に述べるスウェーデンのスタディ結果との比較においても大事になってくる。つづく。



(米国メイン州、スウェーデン)



 

2021/01/31

COVID 19下における緊急腹膜透析導入

 まだ、この投稿を記載時点でCOVID-19の勢いは衰えていない。

日本透析医学会からも透析患者のCOVID19の患者数・死亡者が報告されているが徐々に増加傾向にある。血液透析に関しては、感染管理も徹底はしているが、もともとサテライト(維持透析施設)先での透析も含めて透析患者同士の間隔が少ない場合が多い。

我々が新規に緊急的に透析が必要になる場合には、首や大腿からカテーテルを挿入して血液透析導入とする場合がほとんどである。このCOVID19の中、緊急透析導入を腹膜透析で行うのはどうかという風潮が、本邦でも出ている。実際に友人の医師が出張して腹膜透析カテーテルを入れに行くので緊急腹膜透析導入をしてくださいということを言っている。

今回、この緊急腹膜透析に関してCJASNに報告があり、実際の症例もふまえてメリットなども考えてみたいと思う。

症例:

80歳男性がCOVID -19による低酸素性呼吸不全とショックにてICU入室。挿管され人工呼吸管理をされていた。血清Crが入院時の1.0→6.3mg/dlまで上昇し、無尿になった。体重も12kg上昇している。高カリウム血症などはなく、腹部手術歴も今までない患者。この患者の管理で腎臓内科がコンサルトを受けた。


・コンサルト後に考えること

このコンサルトを受けた思考過程として、腎不全の原因はショックに伴うATN(急性尿細管壊死)なのか、薬剤性なのか、COVID19によるAKIなのか(以前の記事参照)を考え、無尿で体重増加もあり腎代替療法は必要になると考えると思う。今までなら循環動態などを加味しながらCRRT(持続的血液透析)にしようかIHD(間欠的血液透析)にしようかと考えたと思う。

しかし、この症例に緊急腹膜透析という選択肢もあるというのが今回の主な話である。

今までのCOVIDがない状況で本邦では選択肢は少なかったのではないか?世界ではCOVID流行前からも報告は多い(CJASN2018)


では、ここからは少し細かく見ていこう。

・どのようなAKI患者に緊急腹膜透析が適応になるのか?

反応性の体液過剰、代謝性アシドーシス、高カリウム血症などの臨床的に透析が必要になる場合で、活動性の腹膜病変(腹膜炎、小腸閉塞、最近の腹部手術歴)がないこと、重度の高カリウム血症がないこと、腹腔内圧が過度に上昇していない患者が適応になる。BMI>30kg/m2は相対的な禁忌になる。CRRTで透析回路の血栓閉塞が生じた場合には腹膜透析に移行できるかは考慮してもいいとされている。

□腹膜透析カテーテル挿入

COVID19が流行している際に、手術室からICUへの移動が制限され腹腔鏡下のカテーテル挿入術ができない場合もあり、ベッドサイドでカテーテル挿入術をするのが一つの方法として述べられている。その場合にCOVID19感染リスクを減らすために最小限の人数で入り、第一カフを巾着縫合で縫うことでリークを減らし、すぐに使用できることが報告されている(World J Sug 2020)。

□初回の透析処方

腹膜透析処方の基本は以前の記事をぜひ参考にしてもらいたい。

腹膜透析液の交換回数などの点でAPD(automated peritoneal dialysis)がCAPD(continuous ambulatory peritoneal dialysis)より優れていると言われているが、機械などのリソースの問題点はある。APDの場合に2時間交換で、12時間行い、total volumeで10000-12000ml程度が初期量としては推奨されているが、環境によって量は調整してもいい。透析液に関しては、グルコース濃度をあげることで除水量を増やしたり、低血圧や過除水にならないようにしていく必要がある。

PD処方は毎日評価を行い、体液量や酸塩基平衡異常などをチェックする。高度に異化が進んでいる患者では、1時間毎に交換するAPD治療は体液管理や代謝管理に有効であることが報告されている(CJASN 2012)。

□腹膜透析の効率

個々によってPDにおけるクリアランスは変化する(疾患の重症度や合併症や腹膜の透過性の状況によって)。Kt/VureaはPD患者ではPD効率を見るのには不適切であるが、ISPDガイドラインではKt/Vureaは0.3/日、週で2.1(0.3*7日)がHDの週3回でKt/Vurea 1.2と同等であると考えられている(Perit Dial Int 2014)。

□COVID-19の感染状況下の中での問題

・腹臥位のポジション

COVID19でニューヨークの病院の集中治療室に入院した患者のうち、31%が腎代替療法を受け、17%が腹臥位をとっていた(Lancet 2020)。腹臥位でも、腹膜透析がAPDを行いうまくいったという報告(Perit Dial 1998)はあるが、本邦では難しい可能性はある。体位変換の際にAPDをおこなうことは一つの方法かもしれないが。

・人工呼吸器で腹腔内圧が上昇した場合

PD液があった場合に腹腔内圧が上昇し、横隔膜の運動が制限され人工呼吸の部分に弊害が出る事が考えられるが、呼吸器への影響は少なく、また腹膜透析の漏れも2000mlいれても10%未満であることが報告されている(Perit Dial Int 2014)。しかし、実際は500mlから開始して、24時間毎に評価をして最終目標を2000mlにあげていくのが一つのストラテジーである。また、腹腔内圧は18cmH2O未満に設定することが推奨されている(Kidney 360 2020)。呼吸器側は、プラトー圧とFiO2を持続的にモニターしていく必要がある。

・CRRTが凝固で動かなくなってしまった場合

COVID19では過凝固がしばしば問題になっている。これは、CRRTの抗凝固をヘパリンや全身のヘパリン投与やアルガトロバンなどにしても生じている(J Thromb Haemost 2020)。そのような患者にもPDはいい治療になる。

・スタッフを守るために

PDで長いチューブをもしも用いることができればCOVID19のハイリスク患者との接触をへらすことができる。また、CAPDではなくAPDであれば、患者エリアへ入るリスクを減らすことができる。


緊急のPDを行うことはCOVID19下の集中治療下のAKI患者で、考慮してもいいオプションかもしれない。今は大変な時期ではあるが、みんなの協力を得ながら患者さんにも、スタッフにとってもいい選択をしていく必要性がある。