2019年4月にCREDENCE(こちらも参照)により「糖尿病のある」CKD患者に示されたSGLT2阻害薬の腎保護作用。しかし、当時から同薬は「糖尿病のない」CKDに対しても有効であろうと推察されていた。
そしてついに、EMPEROR Reduced(doi:10.1056/NEJMoa2022190)、DAPA-CKD(doi:10.1056/NEJMoa2024816)スタディが発表されたので、順を追って説明したい。
1. EMPEROR-Reducedスタディ
EMPEROR-Reducedは、EFの低下した心不全(HFrEF)患者を対象にエンパグリフロジン(以下、エンパ)の有効性を調べた日本を含む他国籍RCTだ。ダパグリフロジン(以下、ダパ)の有効性を示した前年のDAPA-HF(NEJM 2019 381 1995)よりも左室収縮能が低い患者を対象にしたことを強調した命名である(平均EF 27%、NT-proBNPは1900pg/ml)。
両群あわせて3730人の患者が「その国の標準的な」心不全治療を受け、介入群にはエンパ(10mg/d)、対照群にはプラセボが投与された。利尿薬がどのように使われたかは不明だが(ARNIとMRAのみ記載がある)、参考までに日本の心不全ガイドラインに挙げられた利尿薬の推奨用量を以下に載せる。
急性・慢性心不全診療ガイドライン (2017年改訂版) |
その結果、プライマリ・アウトカムの心血管系死亡と(初回)心不全入院で有意差がみられた(介入群15.8/100人・年、対照群21.0/100人・年、p<0.001)。DAPA-HFと同様、糖尿病の有無に関わらず有効性が示された(糖尿病患者・非糖尿病患者のハザード比は0.72・0.78)。
それだけでなく、セカンダリ・アウトカムの一つ、eGFRの低下率を調べると、有意差がみられた(介入群-0.55ml/min/1.73m2/年、対照群-2.28ml/min/1.73m2/年、p<0.001)。そして、図にあるように、RAA系阻害薬に見られるような「eGFRが開始直後下がって維持される」パターンも示された。
(赤太線は筆者) |
なお、SGLT2阻害薬は原理的には低血糖を起こしにくいはずであるが、血糖70mg/dl未満で誰かの助けを必要とした低血糖イベントは、非糖尿病患者の介入群で7件(0.7%)報告があった。ただし、対照群でも6件(0.6%)報告されていた。
2. DAPA-CKD
DAPA-CKDは、DAPA-HFで(糖尿病の有無に関わらず)心不全患者に対する有効性が確認されたダパ10mg/dを、(これまた糖尿病の有無に関わらず)CKD患者に対して用い、腎保護作用がみられるかを確かめたものだ。腎臓内科としては、EMPEROR Reducedよりもこちらのほうが重要であり、詳しめに解説したい。
■対象患者は?
日本を含む21カ国386施設で、eGFRが25-75ml/min/1.73m2で尿Alb/Cr比が0.2-5.0の成人CKD患者(4週以上ACEI/ARBを内服している)をリクルート。除外基準にADPKD・ARPKD・ANCA関連腎炎・ループス腎炎・NYHA4度の心不全、12週以内の心血管系イベント/治療などが含まれた。
その結果、両群あわせて4304人があつまった。平均年齢は約61歳、男性約2/3、アジア系約1/3。平均eGFRは約43ml/min/1.73m2(60以上が約10%、45-60が約30%、30-45が約40%、25-30が約15%)、平均尿Alb/Cr比は約0.9(約半数が1.0以上)だった。
糖尿病かどうかは問わなかった(ただし1型糖尿病は除外された)が、2型糖尿病患者は全体の約2/3を占めた。平均血圧は約130/70台mmHg、ACEI/ARBに加えて約4割が利尿薬を内服し、カリウム値は平均4.6mEq/lであった。
■アウトカムは?
プライマリ・アウトカムは、①eGFR低下(50%以上の低下が28日以上あけた再検でも持続)、②末期腎不全(28日以上の維持透析依存、腎移植、またはeGFR15%未満が28日以上あけた再検でも持続)、③腎・心血管系による死亡、のいずれかが最初に起きるまでの時間。
セカンダリ・アウトカムは、以下の3つ。A:上記①-③(③は、腎による死亡のみ)すべてを複合した時間(①のあと②になって③になる患者もいるので)、B:心血管系アウトカム(心血管系による死亡、心不全入院)すべてを複合した時間、C:総死亡だった。
また、安全性については、一般的な副作用のみならず、体液貯留・低血糖・骨折・足切断・ケトアシドーシス・フルニエ壊疽などSGLT2阻害薬との関連が懸念されるものも特に調べられた(フルニエ壊疽は、全例を内部安全調査グループが検証した)。
■結果は?
まず、結果が明らかすぎて、早期中止になった。
平均2.4年の観察期間で、プライマリ・アウトカムに挙げたイベント①~③が対照群の14%にみられたのに対し、介入群では9%。ハザード比は0.61(信頼区間0.51-0.72)、p<0.001、NNT(1人をイベントから救うために何人の患者に薬を飲ませればよいか)は19だった(信頼区間15-27)。
①②③の内訳は下記(*をつけた項目はハザード比の信頼区間が1未満、+をつけた項目は1をまたいだ)。
介入群 対照群eGFR低下* 5.2% 9.3%末期腎不全* 5.1% 7.5%腎関連死亡 <0.1% 0.3%心血管系死亡+ 3.0% 3.7%
eGFRの低下傾向をグラフにすると、やはり「最初さがって維持される(低下率が緩徐になる)」傾向がみられた。
表3を元に作成 (青:介入群、赤:対照群) |
また、セカンダリ・アウトカムも、下に示したようにA・B・Cのいずれも介入群で有意に低かった。
ハザード比(信頼区間)A 0.56(0.45-0.68)B 0.71(0.55-0.92)C 0.69(0.52-0.88)
■サブ解析は?
プライマリ・アウトカムのハザード比は糖尿病の有無にかかわらず低かった(糖尿病群で0.64、非糖尿病群で0.50;信頼区間はそれぞれ0.52-0.79、0.35-0.72)。また、eGFRでも差はなく(45ml/min/1.73m2以上で0.63、以上で0.49;信頼区間はそれぞれ0.51-0.78、0.34-0.69)、蛋白尿の多寡でも差はなかった(尿Alb/Cr比1以下で0.54、1以上で0.62;信頼区間はそれぞれ0.37-077、0.50-0.76)。
年齢(65歳以下・以上)・性別・血圧(収縮期血圧130mmHg以下・以上)などでも有意差はなかったが、地域では唯一「アジア」がハザード比の有意差がギリギリ(0.70、信頼区間0.48-1.0)であった。ただ、人種の「アジア系」は、それほどではなかった(0.66、信頼区間0.46-0.93)。
■安全性は?
有害事象による内服中止、重度有害事象、上述のSGLT2阻害薬で懸念される有害事象の発生率は以下の通りであった。とくに懸念されたフルニエ壊疽は、介入群では0件で、むしろ対照群で1件みられた。
介入群 対照群内服中止 5.5% 5.7%重度有害事象 29.5% 33.9%足切断 1.6% 1.8%DKA(確定+疑い) 0.0% <0.1%骨折 4% 3.2%腎関連有害事象 7.2% 8.7%重度の低血糖 0.7% 1.3%体液欠乏 5.9% 4.2%
冒頭にも触れたように、SGLT2阻害薬は以前から「糖尿病の有無に関わらず心不全・CKD患者で有益であろう」と憶測されていたので、これらのスタディ結果は納得といえる。
米国FDAは、DAPA-HF発表から約半年後の今年5月にダパを心不全に認可している(こちらも参照)。エンパが心不全に、ダパがCKDに認可されるのは時間の問題だろう。その後、日本をふくむ各国でも使用は広がると思われる。
個人的には、2013年に「こんな薬があるのか!」と驚いてから(こちらも参照)、糖尿病→糖尿病のあるCKD→心不全→CKDと適応がひろがっていくのを同時代に見られていることをエキサイティングに感じる。
・・というのも、そうではなかったかもしれないからである。
SGLT2阻害薬は19世紀フランスでリンゴの樹皮から抽出された(Annales Academie Science 1835 15 178)フロリジンを祖にもち、〇〇フロジンと呼ばれるのもそのためである。
しかし、尿糖を起こすことはすぐにわかったが、SGLT阻害作用が示されるまで100年以上かかった(Am J Physiol 1973 224 552)。この発見がなかったら、T-1095(日本の製薬会社がつくったプロトタイプ)などの試行錯誤を経て現在に至ることはなかっただろう。
今後も、こうした「科学的な本草学」ともいうべき方法で(できれば自分とその患者が生きているあいだに)サクセス・ストーリーがたくさん起きるといいなと思う。