ラベル 肥満 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル 肥満 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2020/07/01

肥満と腎障害について振り返ってみる。

肥満関連腎症(ORG : Obesity-related glomerulopathy)はかなり知られた疾患になっている。
今回はこのORGを整理していきたいと思う。

時間のない人は最初の「簡単なまとめ」だけを読んでいただければ概念はつかめると思う。

簡単なまとめ:
現在、CKD(慢性腎不全)は重大な社会健康問題になっている。
 肥満もCKD発展のリスク因子であることが報告されている(KI 2017)。肥満により、糸球体還流が増加し糸球体の肥大を生じることでORGを起こし、タンパク尿や二次性FSGSを引き起こしCKD進行に寄与することが知られている(Nephron 2017)。
 ORGはBMI≧30でFSGSの有無に関係なく糸球体肥大があれば診断される(Front med 2017)。
 治療は体重を落とすということが一番の治療になる。体重を落とすということに関していえば、食事療法と外科的手術療法がある。

□肥満関連腎症の臨床症状:
 蛋白尿の検出がもっとも典型的なパターンである(腎機能障害の併存がある場合とない場合がある)。
 蛋白尿に関しては30%でネフローゼレベルの蛋白尿になると言われているが、多くの場合はネフローゼレベルの蛋白尿には至らない(KI 2001)。興味深いのは高度のネフローゼレベルの蛋白尿になっても、血清アルブミンの低下がない症例も多い。この理由は明確にはわかってはいないが、そのような症例ではβ2ミクログロブリンやNAGなどの尿細管障害マーカーの尿中排泄が低下していることが報告されている(NDT 2001
 その他に合併するものとして高血圧(50-75%)、脂質異常症(70-80%)と言われている。また、先に述べたようにネフローゼレベルの蛋白尿でも浮腫をきたすことは稀ではあるが、長期で見ると徐々に蛋白尿が増加し、末期腎不全に至る割合が10-33%であることが報告されている(KI report 2017)。
 日本からも報告がでていて、20人の肥満関連腎症の2年フォローで7人の患者が腎機能の上昇を認め、2人(10%)が末期腎不全に至っている(CEN 2013)。やはり診断の遅れというのが一番の問題になるため、蛋白尿を手がかりに疑うことが非常に重要になる。

□肥満関連腎症の鑑別疾患と鑑別ポイント:
■高血圧腎症
・・高血圧腎症では糸球体のびまん性腎硬化が生じ、腎臓のサイズが正常腎に比べ小さくなる。硬化していない残っている糸球体はhypertrophyを生じるという特徴がある。高血圧と肥満は併存していることも多いが、中等度から高度血管病変に糸球体変化病変があった場合には高血圧性腎症を疑う。

■糖尿病性腎症
・・糖尿病性腎症では典型的にはメサンギウムの拡張と糸球体基底膜の肥厚所見を認め、これはORGの病変とは異なる。

■Primary FSGS
・・下記に表を記載するが、これは悩ましい。理由は先にも述べたようにORGによって2次性FSGSを生じるためである。
 臨床所見では蛋白尿出現が緩徐でネフローゼレベルでない蛋白尿がORGによるFSGSの特徴である。
 病理所見ではPrimary FSGSでは糸球体ボリュームが正常で、びまん性の足細胞の喪失所見が違いとして認められる。
Nat rev nephro 2016


ORGの病理所見:
 これは、先に述べているが正常腎に比べてORGでは病理解剖などでも腎臓の大きさ・重さが大きくなっている特徴がある。その原因としては糸球体肥大が主要な要因である。観察研究で正常腎に比べて糸球体ボリュームが3倍くらいになっているが、糸球体密度は低いという特徴があった(CJASN 2012)。
 FSGSに進展したものではPerihilar FSGSが一番多い。また、中等度巣状メサンギウム硬化、中等度糸球体基底膜肥厚化や尿細管基底膜肥厚化などの糖尿病様性変化(糖尿病の診断基準には至っていない)を認めるものもある。
 電子顕微鏡では、主に足細胞の数の減少と中等度の足細胞の癒合が認められる。また、蛋白と脂肪の吸収顆粒がメサンギウム細胞や尿細管上皮細胞に認められる。


□ORGの病因:下記の要因だけではないが、説明していく。
・血行動態の変化、RAA系、ホルモン反応不全・脂質代謝異常がメインの病因になっている。
■血行動態の変化
→腎血漿流量、糸球体灌流量の増加などを引き起こし糸球体腫大を生じる(Nat rev nephro 2012)。また、尿細管でのNa再吸収が亢進している。
■RAA系
→RAAS(レニンーアンギオテンシンーアルドステロン系)が亢進しており、それにともない循環動態の変化をもたらす(KI supp 2015)。
■ホルモン反応性不全、脂質代謝異常
→直接的、もしくは間接的に腎細胞の形態や機能の障害を起こし、糸球体腫大・糸球体数の減少をおこす(NDT 2013)。

+αの知識:
□肥満に伴う循環動態の変化
Nat rev nephro 2016
・輸入細動脈の拡張によるGFR増加、TGF(尿細管糸球体フィードバック)の減少によるGFR増加、RAASの増加などにより糸球体灌流増加により糸球体腫大・糸球体内圧の上昇をきたし足細胞の欠損が生じ二次性FSGSを生じる。

□脂質の異所性蓄積にともなうORG
メサンギウム細胞、足細胞、尿細管に蓄積することでORG発症につながる。


□ORGの治療
・体重を減らす
・・体重減少は蛋白尿の減少に寄与する。体重減少と比例して蛋白尿も減少する事が言われている。体重減少はカロリーの低下や減量手術で達成する必要がある。

・RAAS阻害薬
・・肥満を伴う蛋白尿患者では蛋白尿の減量を認め、十分効果が認められている(Curr hyperten Rep 2015)。

・血糖降下薬
・・DPP4阻害薬やGLP1受容体作動薬などのインクレチン関連治療は高脂質によって発症したORGの発展を抑制したことがネズミの実験でわかっている(Am J Physiol Renal Physiol 2018)。
 メトホルミンに関しては腎の線維化を抑制する可能性が示唆されているがはっきりとはしていない(Nephron 2018)。

・脂質代謝調整の治療
・・ネズミの実験でINT-777というTGR5受容体の選択的作動薬が蛋白尿を減らし、足細胞障害、メサンギウム拡張、線維化を障害し、マクロファージの腎の発言が減少したことが報告されている(JASN 2016)。また、ミトコンドリアの発生を生じ酸化ストレスも減少したと報告している。
 Lipoxin A4というIL-12の産生を減少させる重要な因子がORGマウスに対してNF-κBとERK/p38 MARK経路の活性阻害によって、腎の炎症を抑えることが報告され、将来的な治療に注目されている(Life sci 2018)。

・新規治療
・・SS31というミトコンドリアに対しての抗酸化作用をもつものが、糸球体の内皮細胞や足細胞の保護をして、メサンギウム拡大、糸球体硬化、マクロファージの流入、炎症因子や脂肪による毒性からのミトコンドリア障害を防ぐことがわかり、ORGの治療薬への期待がある(KI 2016)。
 亜鉛がP38 MARK関連炎症反応を低下させ、ORGの進展抑制が報告されている(Obesity 2016)。
 クルクミン(ウコンなどに含まれるポリフェノール化合物)がWnt/β-catenin経路を阻害することによって足細胞に対するレプチン毒性を減少させ、これがORgの治療に寄与するのではと考えられている(Evid based Complement Akternat Med. 2015)。

下の2つはORG患者の治療になりうる可能性があると考えられている。
・mTOR阻害薬が腎臓への脂肪蓄積を抑制させるのに有効であると報告がある(Lancet Diabetes Endocri 2014)。
・選択的エンドセリンA受容体阻害薬は糖尿病患者の尿蛋白減少と腎機能保護に寄与することが報告されている(Lancet 2019)。


なので、治療に関しては現時点では体重コントロールというのがメインにはなってくる。高血圧があればRAS阻害薬、DMがあればDPP4阻害薬やGLP1作動薬を選択することがプランになるのではないか。
もちろんORG単独の治療だけでなく、ORGを発症しやすい患者では心血管合併症も多くなりうる。そのためASCVD riskは計算しておく必要性はあり、それに対しての積極的な介入も行うことは非常に重要となりうる。


2020/06/10

代謝異常(主に肥満・糖尿病・副甲状腺)と腎移植

今日は腎移植での代謝異常について触れていこうと思う。この代謝異常の管理・認識こそが腎臓内科医が移植医療に介入する意義だと個人的には考える。
代謝異常と言っても様々なものがあるが、①肥満、②副甲状腺機能、③糖尿病に絞ってみていこうと思う。

そして、それぞれの代謝異常を移植前、移植周術期、移植後という違う局面で見てみる。

・移植前
 ①肥満:肥満があることで腎移植患者にとっては様々な悪影響をもたらす(Cardiol Rev 2019)。心血管疾患、CKD、高脂血漿、うつ病、糖尿病、逆流性食道炎、痛風、肝疾患、結石、悪性腫瘍(乳がん、大腸、胆嚢、腎、肝臓、肺、膵臓など)との関連が言われている。
本邦でも、生体腎移植のドナー条件としてBMI 30以下がドナーガイドラインでは推奨されている(マージナルドナーでは、32以下)。レシピエントに関しては、明確な基準は本邦ではないが、systematic reviewでもBMI 30以下が推奨されている。

移植前は、レシピエント・ドナーともに、まずこの目標に達してもらうためにダイエットをしていただくことになる(肥満手術治療も有用であることが言われている(後述))。

 ②副甲状腺機能:移植前のPTH増加は加療する必要性がある。これは腎移植後の副甲状腺機能亢進症の重大なリスクになるためである。移植後副甲状腺機能亢進症は移植後の骨粗鬆症やグラフトに対してのリスクとなりうる。移植前に副甲状腺摘出術を行うことは移植後の骨密度の改善に寄与することは示されている(AJT2014)後ろ向き研究で移植前に正常の6倍以上のPTHレベルの場合には移植後の腎臓廃絶と関連することが示されている(Surgery 2017)。

移植前にPTHコントロールが悪い場合には副甲状腺摘出術も含め積極的に考慮することが重要である。

 ③糖尿病:糖尿病は、心血管リスク増加、生存率低下や移植腎廃絶との関連性が示唆されている(KI rep 2017)。
耐糖能異常者における生体腎移植のドナー条件では糖尿病がないこと(早朝空腹時血糖126mg/dl以下でHbA1c 6.2%以下。迷うときはOGTTを行う)をドナーガイドラインでは推奨している。マージナルドナーとしては経口糖尿病治療薬でHbA1c 6.5%以下で良好に管理されているもの(インスリン治療は適応外)である。

何にせよ生体腎移植前にドナーは糖尿病をもっていないことが望ましい。また、レシピエントも良好なコントロールをすることが必要である。

ただ、移植後に糖尿病になることがある(以前のNODATの記事参照、移植後1年で7-30%)。NODATのリスクとしては研究から7個挙げられている(Diabetes care 2011)(年齢、ステロイド治療、高尿酸血症に対する処方、BMI、空腹時血糖、中性脂肪、2型糖尿病の家族歴)。その他の因子としては人種、C型肝炎、シクロスポリンよりタクロリムスを使用している場合が挙げられる(JASN 2006


・移植周術期
 ①肥満:これは最近のSystematic reviewでBMI>30で急性拒絶、患者死、graft loss、移植腎機能低下のリスクが高くなることが示されている(Exp Clin Transplant2016)また、創傷治癒低下が肥満患者で40%以上が経験する。意外にもステロイド使用は移植後の体重増加との関連はないとされている(Transplant proc 2014)ただ、肥満であっても移植をしたほうが透析をしているよりも予後は良いことがわかっている。

 ③糖尿病:観察研究ではあるが、非糖尿病患者であっても術中高血糖が感染・有害事象・再手術・死亡率の上昇に寄与することが示されている(Ann Surg2013)。また、移植後早期の高血糖は感染と拒絶リスクを上げることがしめされている(Transplantation 2001)。
NODATの予防に有効な薬物療法としてはインスリンである(JASN2012)。これは個人的に知らなかったので驚いた。メトホルミンやSU剤などの有効性に比べ、基礎・追加インスリン治療(速攻型と持効型を用いたもの)のほうがβ細胞の保護やさらなるダメージ防止の観点で有効性が高い。

・移植後
 ①肥満:体重増加は移植後に多く起こるため、肥満は移植後に最も多く直面する代謝異常である(CKJ 2017)。肥満に対しては、体重コントロールのアドバイスよりも肥満手術の方が移植後や末期腎不全の症例に対しても有用性の高さが示されている。これは移植前のBMIのゴールを達成するのにも有用である(Journal of gastric surgery 2019)。肥満は交感神経の活性化・RAA系の変化を起こしうる(Exp Ther Med 2016)。移植後の肥満管理は重要である。

 ②副甲状腺機能:PTH上昇は血管抵抗の構造的変化や血管拡張障害を起こす(EJE 2017)。
二次性副甲状腺機能亢進症はCKD患者で起こり、移植後で66%の患者で持続する。移植後にPTHが正常化することは骨、移植腎機能や死亡率の点でも重要である(Transplantation 2015)。
PTHは下記に示すように腎臓、骨や消化管でのカルシウム・リンのバランス維持に寄与している。

シナカルセルト(レグパラ)は移植後の副甲状腺機能亢進症に対して最もデータがある。しかし、本邦では純粋な保険適応はないのが現状ではある。副甲状腺摘出術に関しては、ある論文では副甲状腺摘出術を行っても移植腎にとってのメリットは少なく、逆に手術をすることで腎機能が軽度悪化したと報告している。RCTで副甲状腺摘出術とシナカルセルトによる薬物治療を比較したものがJASN 2015にあり、これでは副甲状腺摘出術を行った場合の方がカルシウムやPTH濃度のコントロールが容易であり、骨密度の改善もあったが、長期の有用性に関しては定かではない。
副甲状腺機能亢進症があることは移植後にとって良くない結果をもたらすため、移植前にしっかりと対処しておくことが非常に重要である。移植後の管理に関しては、明確なものがないが、シナカルセルトが使用できる状況であれば使用しての管理が適切なのかもしれない。


 ③糖尿病:糖尿病は動脈硬化を促進し、動脈の弾性を低下させる(NEJM 2003)。死亡、移植腎機能、急性拒絶反応との関連性が示唆されている(CJASN 2008)。
移植後DM治療でSGLT2阻害薬は心血管系合併症や微小血管合併症の店でも有用な治療の選択肢となりうる。しかし、懸念されるのは使用に伴う尿路感染ではあるが小さな研究にはなるが移植後1年経過した患者49人にでSGLT2阻害薬を使用したところ、1名だけが尿路感染による敗血症で中止している(Diabetes care 2019)。なので、SGLT2阻害薬は移植後1年を経過し腎機能が安定した症例には考慮していい選択肢の可能性がある。
DPP4阻害薬に関しては低血糖リスクを避けつつ糖尿病管理をするというメリットがある。シタグリプチン(ジャヌビア)は腎移植患者の空腹時血統改善効果が示されているが、腎機能に応じての容量調整が必要になる。その点でリナグリプチン(トラゼンタ)は腎機能に応じての容量調整が必要がないという点で有用である。また、GLP-1阻害薬はインスリン抵抗性の改善と体重減少の点で有用な手段である。
免疫抑制剤は移植後高血糖との関連性が示唆されていて、ステロイドとタクロリムスが代表であり容量依存性である。タクロリムスをシクロスポリンに変更することで高血糖を避けることができる可能性はあるが、拒絶リスクが上昇するためここの症例で吟味が必要である。


腎移植の代謝異常は腎臓内科医にとって重要な部分であるし、ここに注目をして管理をしていく必要性がある。
でも、移植って本当に奥が深いし、その分しっかりと基礎的な知識をつけていかなくてはならないなと実感する。


2017/09/01

CB1受容体と学会に入るメリット

 今朝のJASN最新論文は、近位尿細管にあるCB1受容体の腎障害における役割という刺激的な内容だった(doi:10.1681/ASN.2016101085)。CB1受容体は内因性カナビノイド受容体のひとつである。カナビノイドといえば脳に働くイメージで、肥満や禁煙治療のターゲットとしてまず注目されたが、腎臓にも働く(以前にもふれた)。炎症を惹起するCB1受容体と抑えるCB2受容体は拮抗しており、炎症をおさえるCB1拮抗薬が糖尿病や糖尿病性腎症で研究中だ。

 CB1受容体は食欲だけでなく脂肪代謝じたいにも関係している。では、腎臓のCB1受容体が炎症をおこすのにも脂肪代謝が関わっているのだろうか?CB1受容体は腎臓の足細胞、メサンギウム細胞、そして近位尿細管にあるが、肥満になると近位尿細管に脂肪がたまり、炎症のもとになるらしい(これをlipotoxicityとよぶ)。

 近位尿細管のCB1をノックアウトしたマウスでは、肥満にしても野生型のように近位尿細管に脂肪がたまらず、炎症もおさえられ、蛋白尿や腎機能低下などもおこらない。細胞内のメカニズムを詳しく調べると、CB1受容体にスイッチがはいると、近位尿細管細胞内で脂肪酸のβ酸化を促進するシグナル経路(AMPKなど)を抑えるので、脂肪が分解されず貯まってしまうらしい(図は前掲論文より)。




 肥満にともなう尿細管障害、というものがどれくらい意義があるのかは、よくわからない。肥満といえば糸球体の障害が有名かと思う。実験動物に脂肪ばかり食べさせないとおこらない現象なのかもしれない。

 でも、近位尿細管は最近のホットトピックだと思うし、これからいろいろわかってくる近位尿細管の真相に私はついていきたい。

 また、この話には将来性がある。糖尿病性腎症とのかかわりもあるし、腎臓以外でもひろくメタボ世代の健康寿命をのばすかもしれない。CB1受容体は全身にあるはずなので、CB1拮抗薬、ないし、CB2受容体のアゴニストがあれば、他の組織でも脂肪分解ができず炎症や線維化がおこるのを防げるかもしれない。

 それで、この論文の注目度を示すAltmetricは公開初日から32ときわめて高い(図)。この論文が紙媒体で届くのは来年だろうが、その前から読めるのだから、やっぱり、米国腎臓内科学会の会員でよかった。






[2019年9月20日追記]末梢CB1拮抗薬のJD5037(こちらにも触れた)が、近位尿細管におけるグルコース輸送体のひとつGLUT2の発現を減少させて、糖尿病性腎症モデルのマウスで腎障害を軽減することが、米国腎臓学会雑誌に報告されていた(JASN 2018 29 434)。

 近位尿細管のグルコース輸送体といえばSGLT2が有名だが、GLUT2もある。通常は間質側にあり、(SGLT2などを通じて)尿細管内腔から尿細管細胞に入ってきたグルコースや、尿細管細胞内での糖新生(こちらも参照)でできるグルコースを、間質側に運ぶ役割をしている。

 しかし糖尿病では、GLUT2発現が増えるだけでなく、(より多くのグルコースを汲み出すためか)局在が尿細管内腔側にまでひろがる。しかし、CB1受容体をブロックすると、こうした変化が抑制される。細胞内カルシウムイオン濃度の上昇と、それによるホスホリパーゼCβの活性化が抑えられるためだ(図は前掲論文)。




 糖尿病性腎症といえば永らくRAA系阻害薬で、日本ではとくにARBであった。今後こうした研究が進めば、現在一世を風靡しているSGLT2阻害薬や、治験中のNrf2アゴニスト(バルドキソロン)などと共に、「CRB(カナビノイド受容体拮抗薬、Cannabinoid Receptor Blocker)」の出番・・となるかもしれない。






2015/06/09

アカデミズム(aka ORG)

 大学の勉強会に参加してきた。教授が親切にも(医局員でもない)私の成長を気遣ってくださり、ご厚意で参加を許されてありがたいことだ。心の中は不思議と静謐で、やはりアカデミズムのなかにいると自分は落ち着くようだ。そして、そこで私がフェロー時代に同級生がNephrology Grand Roundで最初に(2011年9月)発表したobesity-related glumerulopathy(ORG)を思わせる症例を聞いた。

 糖尿病のない重度肥満に伴うネフローゼ症候群は1974年に初めてPalo AltoのVA病院から報告された(Ann Int Med 1974 81 440)。腎病理標本データベースを見直したコロンビア大学の報告(KI 2001 59 1498)によれば、その頻度は徐々に増えているそうだ。まあ肥満じたいが増えているから無理もない。

 病理像としてはFSGSないし糸球体肥大を呈する。原発性FSGSと比較すると、ORGは蛋白尿の程度が軽度でネフローゼ症候群にまでなることは少なく、分節性硬化や足突起のeffacementは少ない代わりに糸球体は肥大していたそうだ。またイヌに高脂肪食を食べさせて肥満にすると(JASN 2001 12 1211;こんな実験は今はもう出来ないかもしれないが)腎が肥大し、糸球体が肥大し(TGFβ1の発現が亢進し)、hyperfiltrationになり、intraglomerular hypertensionを反映してか(交感神経の刺激により)RAA系が亢進する。またadiponectin減少も病態に大きく関係しているようだ(NDT 2008 23 3767)。

 治療はRAA系阻害薬、睡眠時無呼吸の治療、bariatric surgery(減量のための胃切除;有効性を示したペンシルベニア大学の発表はClin Nephrol 2009 71 69)など。