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2020/09/14

IMPROVE-CKDとドミノ倒し

 CKD4期(eGFR 26ml/min/1.73m2)の63歳男性。内服にACEI/ARB、βブロッカー、スタチンなど。血圧140/76mmHg、頚動脈‐大腿動脈間PWV 10.8m/秒、腹部大動脈の石灰化スコア1535。血液検査結果は以下のようであった。

T-Chol 173mg/dl
Ca 9.2mg/dl
IP 3.9mg/dl
ALP 89U/l
25(OH)VitD 28ng/ml
1,25(OH)2VitD 30pg/ml
Intact PTH 112pg/ml
Intact FGF23 133pg/ml

Q:IMPROVE-CKDスタディを踏まえて、どうしますか?


 IMPROVE-CKDスタディ(doi:10.1681/ASN.2020040411)といえば、CKD3B・4期の278人を、炭酸ランタン群(500mg1日3回から開始、リン値が4.9mg/dlを越えたら増量)とプラセボ群にランダム化した多国籍(オーストラリア・マレーシア・ニュージーランド)スタディだ。

 コレステロールを「下げれば下げるほど」心血管系イベントを抑制できることを示したIMPROVE-ITスタディ(NEJM 2015 372 2387)にあやかったのか、96ヶ月フォローしてのプライマリ・エンドポイントは、頚動脈‐大腿動脈PMV。石灰化スコア・PTH・FGF23なども調べられた。


 しかし結果は・・


 そもそも「リンが下がらなかった」!グラフを見てわかるように、介入群でリンは低めなのであるが、すべてのデータをあわせてもその差は0.28mg/dlにすぎなかった(信頼区間0.03~0.4mg/dl、p=0.03)。


(前掲論文より)

 
 これでは、「リンをさげる→石灰化を抑制する→PMV・石灰化スコア・FGF23などの数値が改善する」のドミノ倒しが始まらない。それでか、PMV・石灰化スコア・FGF23などにも有意差は見られなかった(石灰化スコアは、介入群のほうが治療前から高かったのだが)。

 なぜリンが下がらなかったのか?アドヒアランスは74%の患者で80%以上と悪くなかったが、介入群の93.5%が炭酸ランタン500mg3錠/日であり、用量を増やす閾値(前述の4.9mg/dl)を越えなかったようだ。

 もしこの閾値を低くして薬を増やしておけば、下図のようにもっとクッキリしたリン値の差がでたのかもしれない。しかし、CKD3B・4期で3台mg/dlの患者に、炭酸ランタン500mg6錠/日を処方しようと思う方は少ないだろう。 消化器系副作用・薬の量・コストなどが馬鹿にならないからだ。


クッキリとした差(模式図)


 それもあってか、JASN同月号のエディトリアルは題名からして「吸着薬の失敗(Binder Blunder)」と手厳しい(doi:10.1681/ASN.202081182)。しかし理論上は、リン値をクッキリと(2台mg/dlとかのレベルまで)さげると石灰化をキッチリと抑制できる(できない)かが証明されておらず、ドミノ倒し仮説は完全には否定できない。

 だからこそ、NHE3阻害薬・NPT2a阻害薬など新規リン吸着薬が数々治験されている(こちらも参照)のだし、その文脈でFGF23とそのモノクローナル抗体が注目されてもいる(こちらも参照)。ドミノ倒しの研究は、まだまだ続くだろう。

 
 

(引用元はこちら

 
 
 


2019/08/23

NPT2a阻害薬から見える未来

 近位尿細管トランスポーターで治療標的のものといえば、まずSGLT2を思い浮かべるだろうが、URAT1(こちらの追記も参照)、NHE3(こちらも参照、ただし腸管のNHE3に対する薬だが・・)なども実用化にむけて治験が進んでいる。そして今月はJASNに、NPT2aの阻害薬の報告が載った(DOI: 10.1681/ASN.2018121250)。

 NPT2aとは聞きなれないかもしれないが、近位尿細管にあるナトリウム(Na)とリン(iP)の共輸送体だ。NPT2aというからには他のファミリーメンバーもいて、NPT2bは腸管にあり、NPT3cはやはり近位尿細管にある(図はCJASN 2015 10 1257)。なお近位尿細管には別にPiT-2というナトリウム・リン共輸送体もあり、いずれも再吸収をおこなっている。




 今回でた実験は、PF-06869206というNPT2a阻害薬を、5/6腎摘したCKDモデルマウスに静注したものだ。NPT2aだけを阻害しても、上述のようにリンの再吸収は複数のトランスポーターによるので、リン排泄は増えないようにも思われる(おそらくそれが、いままでNPT2a阻害薬が作られなかった背景にあるのだろう)。

 しかし、蓋を開けてみるとリン排泄は増え、血中リン濃度は低下した。組織をみると、近位尿細管でのNPT2a発現が低下したのに対して、たとえばNPT2cの発現は代償性に増えていなかった(ただし定量化はしていないが)。また、NPT2aはナトリウムの共輸送体でもあるので、尿ナトリウム排泄も増えていた。

 つまり、この世にまたひとつ、新しい利尿薬の候補と、高リン血症の治療薬の候補が生まれたということだろうか?

 たしかにそれも大事だが、この実験から予見されるのはそれだけではない。筆者にとっては、少なくとも2つある。

 1つ目は、単にリンを下げるだけでないかもしれないことだ。腸管からのリン吸収を阻害する吸着薬とちがい、NPT2a阻害薬は近位尿細管細胞に直接作用する。そして、近年はFGF23・KlothoとPTHがNPT2a発現を調節する仕組みも解明されつつある(図はKI 2009 75 882、Front Endocrinol 2018 9 267)。NPT2a阻害薬は、こうしたCKD-MBDのホルモン軸に、独自の影響をおよぼす可能性がある。





 そして2つ目は、「(SGLT2阻害薬につづき)近位尿細管の負担を軽減して腎機能低下を抑制する薬」が生まれる可能性である。この実験は注射も1回だし、24時間後の変化しか見ていないが、おそらく連用した場合の腎機能への影響もとっくに調べられているに違いない。「NPT2a阻害薬による腎保護」がコンセプトとして通用すれば、剤形や安全性を高めるなどの課題は工夫すれば解決できるだろう(SGLT2阻害薬がそうであったように)。

 
 やはり、フロンティアというか、いま近位尿細管には「きてる」感がある。今後も勢いよくさまざまな標的分子が治療対象となってゆくだろう。きっと今頃、試行錯誤と努力を続けるどこかの研究室で、未来が生まれているに違いない(写真は伝説的なSF作家、ウィリアム・ギブソンの引用句、「未来はここにある、ただ均等に行きわたっていないだけだ」)。






2019/05/25

APSN/KSN CME 2019 1/2

 APSN(アジア太平洋腎臓学会)とKSNの共催CMEに参加してきた。4時間で8つのレクチャーを聴いたが、まず前半を紹介する。


1. 腎障害における酸化ストレスと低酸素


 まずSTAT3、Th17、Sphingosine kinase 2、VAP-1、自律神経といった、AKIの発症・予防に関わるさまざまな要素が説明された。神経の脱落や再生を調べるのには透明な腎臓が作成されており(CUBIC-kidney、doi:10.1016/j.kint.2019.02.011)、改めて衝撃的だった。なお、VAP-1は既に経口阻害薬ASP8232が治験されている(Lancet Diabetes Endocrinol 2018 6 925)。





 AKIで低酸素状態などでエピジネティックなスイッチが入ると、線維化などでCKD進展リスクとなる。こうした転写因子を阻害する試み(EZH2阻害薬DZNep:Sci Rep 2018 8 3779、HDAC阻害薬Pracinostat:Int Immunopharmacol 2017 42 25など)も紹介され、腫瘍内科のような分子標的アプローチが腎臓内科でも本格化していることが実感された。

 そのあとDKDについて、各クラスの経口血糖降下薬の腎保護作用(メトホルミン、DPP4、SGLT2)が紹介された。SGLT2阻害薬はeGFRが低下すると血糖降下作用は低減するが、腎保護作用は持続する(ので、患者と相談のうえcompassionate useも考慮しては)という話もあった。ほんとうに腎保護薬としての適応が通るかもしれないし、腎保護作用を強調して工夫された新しい薬がでるかもしれない。

 その新しい薬として、バルドキソロンとHIF-PH阻害薬が紹介された。バルドキソロンは国内第三相試験AYAME、Alport症候群に対するCARDINALトライアルが進行中である。eGFRを上げアルブミン尿を増やすこの薬の長期的な効果を心配する声もある(JASN 2018 29 357)。

 CKDがこの薬でまったく新しいパラダイムに入ることを期待しているが、2022年に終了予定のAYAMEが万一「eGFRによい有意差がありすぎて早期終了」になった場合、喜びつつも慎重に長期データを注視したい。


2. 糖尿病患者とPD


 なぜこのようなトピックが話されたのかと思ったが、韓国はまだPD患者の比率が比較的多い。以前紹介したグラフを見ていただくと、10年前まではHD:PDが3:1くらいですらあった(もっとも、どんどんその差は開いているが)。

 さらに、PD患者の糖尿病には独自の注意点がいくつかある。まず、腹膜透析液に含まれるグルコースを考慮しなければならない(300kcal/d程度は吸収されるという)。それで、グルコース含有の少ない(「生体適合性のよい」とも)透析液も開発されているが、IMPENDIAスタディ(JASN 2013 24 1889)ではHgbA1cは有意に低下したが死亡率は上昇した。除水不十分によるものと考えられており、今後の課題と言える。

 ここで「透析と言えば、HgbA1cよりグリコアルブミン(GA)じゃないの?」、「何で測るにせよ、どこが治療ゴールなの?」という二つの質問が頭に浮かんだ読者もおられるかもしれない(筆者もそうだった)。

 PDでは一般的に血液喪失が少ない一方、透析液と一緒にアルブミンが失われる(DKDで残腎機能があれば尿からも)。HgbA1cを指標にした研究を多く目にするが、近年はGAのほうが正確とする報告(Int J Mol Sci 2016 17 619)もあり、現場も個別に対応したり両方測ったりしているようだった。

 ゴールについては、"vigilant"という言葉が使われていた。これは「ちゃんと見張る」くらいの意味で、インテンシブではないということだ。HgbA1cが8%以上の群で死亡率が高かったデータがいくつかある(Diabetes Care 2014 37 1304)ことと、「燃え尽き糖尿病」になっている患者も多いことがその理由のようだった。


3. CKD-MBDの最新コンセプト


 100枚ちかいスライドで25分のお話をされたので駆け足だったが、一番のメッセージは「栄養から25(OH)ビタミンDを摂取しましょう」だった。25(OH)ビタミンDが足りないと副甲状腺が「ビタミンD飢餓」になり、活性型ビタミンD用量が増えて異所性石灰化などの問題も多くなるので、25(OH)ビタミンを摂取するのがよいという筋だった。

 なお発表者は台湾の方だったが、台湾のような低緯度地域でもビタミンD欠乏は多く、大気汚染も関係しているらしかった(Rev Endocr Metab Disord 2017 18 207)。レクチャ後は「医局のみんなで25(OH)を測ってみたら、みんな低かったんだよ」という小話も聞けた(なお、日本でも2016年から測定可能)。

4. がん診療でみられる腎障害のマネジメント


 抗腫瘍薬に用いられるさまざまな薬と腎障害について述べられた。どんどん新薬がでてくるので把握しにくいが、部位で大別でき(図はKI Reports 2017 2 108)、薬のクラスによってもだいたいどの腎障害が起こるかを予測できるようだった。




 抗血管新生薬のなかでは、bevacizumabが最も早くから高血圧・蛋白尿の合併に気づかれたので研究が進んでおり、病態はTMA(VEGFによる補体制御因子CFHの活性化が抑制され、組織レベルで補体制御が利かなくなる;JCI 2017 127 199)と分かっている(図はJASN 2019 30 187)。眼科での硝子体注射でも血中に移行して腎障害を起こした報告がある(CKJ 2019 12 92)ので要注意だ。




 つづいて、免疫チェックポイント薬についてだった(なお、CTLA4、B7/CD28、PD-1L/PD1のような話はCancer Discov 2018 8 1069が詳しいようだ)。どんどん適応が広がって、移植後の免疫抑制薬使用者にがんが見つかってニボルマブを使うといった場合すらある(NEJM 2017 376 191)。

 腎障害で薬剤を中止するか、ステロイドをつかうかといった常識的なアルゴリズムはある(下図、doi:10.2215/CJN.02340219)ので、あると便利かもしれない。




 他にもCAR T細胞療法による腎障害(CJASN 2018 13 796)、BCL2の特異的阻害薬venetoclaxによるCLLの腫瘍崩壊症候群予防などが紹介されていた。また、内容とは別に、eAJKDやNephron Powerでもお馴染みのKenar D. Jhaveri先生(上記論文のうちいくつかの著者でもある)による、GlomConをイチオシしていた。


 後半へつづく(写真は、韓国で見かけることの多い、カササギ)。





2018/11/07

Karnivalのあとで

 米国腎臓学会メイン会場のエキシビションにはさまざまな会社・団体が出展して(日本腎臓学会もそのひとつ)いるが、今年もっとも派手に宣伝していたのはPatiromerで、カリウムだけに"K"arnival(カーニバル、写真)と題したブースでお祭り気分を演出していた。




 この新規K吸着薬(商品名Veltassa®)はこのブログでも何度か紹介した。スイスの製薬会社がつくったが、2018年には日本の製薬会社が国内における独占的開発・販売契約を締結した。どこかで外挿試験をして、認可されればMRさんがパンフレットを持ってくるかもしれない(ペンやお弁当の提供については、来年以降さらに業界の自主規制が強まる見込みなので、わからない)。

 そのpatiromerについて、新しい論文(doi.org/10.2215/CJN.04500418)がCJASNにでた。こちらのvisual abstractにあるように、一番のメッセージはこの薬を4週間内服すると尿リン排泄(24時間、尿Cr補正)がさがるが、尿Ca排泄は変わらないということだ。

 PatiromerはCa/K交換なので、Kを吸着する代わりにCaが腸管にでて、リンを吸着すると言いたいようだ。CKD患者でリンが減るのはよいが、Ca含有リン吸着薬のように放出されたCaが血管石灰化などを起こしては困る。尿Ca排泄に有意差はなかったが、このスタディはカルシウムのネットバランスをみていないし、4週間と短期間なので長期の影響はなんともいえない。

 またabstractには載っていないが、以前から知られているように血中Mg濃度は有意に低下した(0.2mg/dl、P<0.001)。マグネシウムもまた、減ると血管石灰化や心血管系イベントなどさまざまな悪影響があるとされているから、これにも注意を要する。
 
 ただ正直、これらの心配にどれくらい実質的に意味があるかは分からない。

 実はCa/K交換樹脂(カリメート®、アーガメイト®)とNa交換樹脂(ケイキサレート®)の争いは、日本でずっとある。そして、例によって前者は石灰化の心配、後者はNa貯留・血圧上昇の心配などが言われている。また最近は、K+吸着選択性の高い後者がK+とサイズの似ている(こちらも参照)NH4+をよく吸着しアシドーシスを補正するという。しかし、宣伝文句以上ではない印象もある。
 
 お祭り騒ぎのPatiromerだが、宣伝文句以上の効果があればいいなと思う(写真は2011年ドラマ『パーティーは終った』の主題歌、『夢の世界』を歌ったMonkey Majik)。




2018/07/13

ピロリン酸に願いを

 先週は七夕。短冊に願いを込めるのは、一種の自己暗示といえる(これを心理学の用語ではself-fulfilling prophecy、自己実現的予言というらしい)。ただまあ、こないだ筆者がみかけた「砂肝が死ぬほど食べられますように」という願いなどは、本気か冗談かわからない。あなたは、何を願いましたか?




 さて、CKD領域の一番の願いはCKD自体の治癒だろう。しかし、その次にくる願いのひとつは「CKD患者の心血管系イベント・死亡を減らしたい」かもしれない。そのためにFGF23、PTH、KlothoOPG、オステオポンチンなどCKD-MBD領域のさまざまな分子に対して治療が試みられているが、ピロリン酸もそのひとつだ。最近この分野の論文が相次いでだされた(Nefrologia 2018 38 250、KI 2018 93 1293、KI 2018 94 72、doi: 10.1681/ASN.2017101148)。

 リン酸二分子の重合でできたピロリン酸(PPi、図)は、偽痛風でもおなじみだが、じつは石灰化を強力に阻害する。あのビスフォスフォネートも、PPiを加工して作られたものだ(真ん中に炭素をはさんだP-C-Pの構造をしており、Cの側鎖R1、R2によって力価がかわる)。CKD・とくに透析患者では血中PPi濃度が低下しており(JASN 2005 16 2495)、その石灰化への関与がうたがわれる。




 PPiはeNPP1(ectonucleotide pyrophosphate/phosphadiesterase 1)によってATPから作られる(PPiを外されたATPはAMPになる)ので、eNPP活性がさがるとPPiが減って石灰化が抑えられない。先月号のKI(2018 94 72)に載った(日本を中心とするグループの)論文は、その機序のひとつにタンパクのカルバミル化が関与していることを示したものだ。

 カルバミル化とは、尿素(NH2-CO-NH2)が酵素によらずタンパクにカルバミル基としてくっつく現象だ。尿素窒素のたかい尿毒症時によくおこる。実験ではヒト血管平滑筋細胞を尿素に漬け込んだところ、eNPP1発現が低下していた。eNPP1そのものはカルバミル化されておらず、ミトコンドリアタンパクのカルバミル化による酸化ストレスが間接的にeNPP1を抑制したと考えられた。

 PPiにかかわる系はそれだけではない。細胞膜上のさまざまなトランスポーター(ANK、ABCC6など)異常によってもPPiが減り、細胞外にATPやPPiを提供できないためと考えられている(もっとも、上に挙げたトランスポーターがATPやPPiを通したという証拠はまだないようだ)。またPPiを分解する酵素にeNTPD、eNPP3、TNAP(組織非特異のALP)などがある(図はNefrologia)。




 なかでもABCC6遺伝子異常は弾性線維性仮性黄色腫(pseudoxanthoma elasticum)と呼ばれ、PPiが低下し皮膚などに異所性石灰化をきたす。そしてJASN express(doiは上記)は、このマウスモデルで、腎症状としてRandall's plaque(結石の元ともいわれる、腎乳頭付近にできるリン酸カルシウム結晶)ができていることを確認したものだ。

また、ALPは「アルカリ」フォスファターゼというだけあってアルカリ性で活性が強くなる。そのため、透析後にHCO3のバッファーによりpHがあがることでPPiが一層分解されるのではないかという仮説もある。

 ここまでわかって、治療をどうするか。PPi補充はラットで試され(KI 2011 79 512)、血中半減期が30分以内なので腹腔内に注射された。結果としては石灰化を抑制し、懸念された骨への影響もみられなかった。ただ、それ以降のPPi治験などは見つからない。代わりにeNPP1、TNAP、そしてカルバミル化などをターゲットにした研究が行なわれているのかもしれない。

 願いが叶って、そんなニュースがそれこそ「ピロリン♪」とスマホに入ってくる日が来てほしい。




2018/06/07

キセキのその先へ ブロスマブの意味するもの

 抗FGF23モノクローナル抗体ブロスマブ(Burosumab)のX-linked hypophosphatemic rickets児に対する治験結果(NEJM 2018 378 1987)は、おそらく日本資本の会社が開発したこともあって多くの人がすでに目にしたことと思う(NEJM日本語サイトにもアブストラクトがある)。これからマスコミなどでもひろく取り上げられるだろう。

 この論文のインパクトはさまざまで、もちろん難病の内分泌疾患であるXLH(X-linked hypophosphatemia)にたいする新しい治療がみつかった(子供の成長発育が改善した)という感動は計り知れない。まさにキセキだ。同様に、FGF23産生腫瘍によるTIO(Tumor-induced osteomalacia)に対してもこの治療が有効かもしれない。内分泌領域ではそのようなレビューが既に出ている(Endocrine Reviews 2018 39 274)。

 この話題を、腎臓内科医はどのように受け止めればよいだろうか(図はKidney Health Australiaのキャラクター、キドニー・マン)?





 ひとつは、「電解質異常をモノクローナル抗体で治療する」というカテゴリーでの感想だろう。といってもまだ他には高Ca血症に対するデノスマブ(抗RANKLモノクローナル抗体)くらいしか知らないが、同じような考え方をすれば細胞表面にあるたんぱく質ならなんでもターゲットになりうる。

 腎臓内科は伝統的には利尿薬の分野で分子標的治療をリードしていたはずだが、最近はSGLT2阻害薬もURAT1阻害薬(こちらに触れた)も他科主導でつかわれているし、尿細管よりむしろ腸管の分子標的治療薬のほうが耳目を集めてもいる(腎臓領域ではTenapanorがあるが、むしろIBS治療薬が多い)。

 今後、電解質治療だけでなくても、モノクローナル抗体による降圧薬とか、でてくるかもしれない。と、2015年に予想していたことが少しずつ現実化しているのだろうか。あるいは、巡り巡って元いたところに戻ってきたのだろうか(図)。今後に注目していきたい。
 



 もうひとつ考えるべきは、もちろんCKD-MBD領域への応用だ。

 FGF23が心肥大をおこすことは、2011年から分かっていた。その論文(JCI 2011 121 4393)では動物モデルだがFGFR阻害薬PD174074で心肥大が抑制されていた。しかし、いまのところ臨床へのトランスレーションは「リンを下げましょう」という、セクシーさに欠ける(コーラはやめましょうとか、患者さんにあまり評判のよくない)ものに限られているのが実情だ。





 抗FGF23モノクローナルも、もちろんそれを意識して開発されているし、もしかしたら既にどこかでCKD患者の心肥大・心血管系イベント予防についての治験が行なわれているかもしれない。あるいは、同じ軸のFGFR4(受容体サブクラスのひとつで、これがとくに心肥大と関係するという)抗体も試験されているかもしれない。

 NEJM論文の勝利が、これからCKD領域でのさらなる成果につながったらすごい。でももしかすると、サッカー日本代表がワールドカップで優勝するよりも、こちらのほうが現実的で見込みがあってインパクトの大きなことかもしれない。どの国がそのような治療法を見つけても素晴らしいことに違いはないが、こっちのサムライブルーにも期待したい。




2017/05/31

シナカルセトとエテルカルセチド

 「勝るとも劣らない」と言う言葉は、劣らないとは言っているが勝るかどうかについてはお茶を濁している。「BはAに勝る」と言ってしまうとAに角が立つ。「BはAにも勝るとも劣らない」と言えば、Bを褒めつつAにも気を遣うことができる。そう考えると「ペンは剣より強し」いう慶応大学のモットーが宣言のように力強く感じられるかもしれない。

 さて、薬Aと薬Bで有効性を比べる試験で最近よく聞くのが非劣性(non-inferiority)という言葉だ。従来の薬Aに対して、あたらしい薬Bが非劣勢なら、わざわざ薬Bに替えなくていい気がする。でもそういうときは、効きは劣らないのにBのほうがAより副作用が少ないとか安いとか便利とか、ほかの要素を売りにしている。

 CaSRを刺激しPTHを減らすお薬をcalcimimeticsというが、シナカルセトが先にでて、それに対するエテルカルセチドの非劣勢を示そうとした論文が1月にJAMAにでた(JAMA 2017 317 156)。いままで耳に入ってこなかったのは不思議だ…もっと勉強しなければ。シナカルセトもエテルカルセチドも開発したのはAmgenだが、販売する会社は違うから、おたがいこれに触れない「紳士協定」でもあるのか(写真は1947年公開映画、Gentleman's Agreement)。




 スタディでは欧米、ニュージーランドなどで二次性副甲状腺亢進症(PTH 500pg/ml以上)の透析患者さん600人あまりに対してシナカルセト、経口プラセボ、エテルカルセチド、静注プラセボを26週間投与してPTHの下がりをみた。用量はシナカルセトで30-180mg/d、エテルカルセチドで2.5-15mg/週3回の範囲で5、9、13、17週目にどちらも調節できた。

 結果、30%以上さがった割合はエテルカルセチド群で高かった(68%、シナカルセトは57%)。よく効くぶん、Ca値も低めになる(Alb補正Caが8.3mg/dl以下になる割合は68%、シナカルセトは59%)。シナカルセトで有名な消化器症状は、エテルカルセチドでも同様にみられた(悪心はシナカルセトで22%、エテルカルセチドで18%;嘔吐はいずれも13%)。

 PTHが目標まで降下した割合は、非劣勢なだけでなく、優勢かどうか(superiority)でも有意差がでた。じゃあ優勢なんだから、二次性副甲状腺機能亢進症のcalcimimetics第一選択はシナカルセトからエテルカルセチドに代替わりだろうか?AにもBにも気を遣わなくてよい立場からいくつか考察してみたい。

 エテルカルセチドは、PTHの先にある心血管系イベントや骨粗しょう症予防に実質的に効くかもしれない。エテルカルセチド群はシナカルセト群よりもFGF23の前値がたかかった(4033pg/ml、シナカルセトは2984pg/ml)が、介入後はシナカルセト群より低くなった。骨粗しょう症マーカーも、介入後シナカルセト群より低くなった。マーカーとハード・エンドポイントは違うので再検は必要だが、示唆はされる。

 また透析患者さんはお薬の数がおおいから、注射になって飲む数がへるのは朗報かもしれない。同様のことは、腎性貧血で開発中のHIF阻害薬についてもいえるかもしれない、ESAとちがい経口だから逆に敬遠される可能性がある。

 いっぽう、サブ解析を見るとエテルカルセチドが優勢なのは65歳以下、透析年数5年以上の群だった(65歳以上、透析年数5年以内では有意差がなかった)。透析年数が浅いと残腎機能があってエテルカルセチドが尿中にうしなわれるのかもしれない。また注射製剤は透析室スタッフの手間になる。プリフィルドシリンジでないので、針刺しや用量間違いの元かもしれない。価格も含め、こういった「使い勝手」は透析現場にきいてみないとわからない。

 しかし結局、透析患者さんのPTHをどこまで下げるとどう良いのかには、議論の余地があるかもしれない。シナカルセトとプラセボで透析患者さんにおける心血管系イベントと死亡率を比較したEVOLVE試験(NEJM 2012 367 2482)では介入で有意差がなかった。データが少ないのでPTHゴールは各国ガイドラインで異なる。せっかくエテルカルセチドがよく効くなら、死亡率や心血管系イベント、骨折予防のデータも出るといいなと思う。


2017/01/11

Chronic kidney disease and bone fracture(CKDと骨折)

腎臓が悪い人は骨折をしやすいことは耳にしたことがあると思う。透析患者における大腿骨の近位部骨折は様々な報告がされエビデンスが蓄積されている(Osteoporos Int 2014)し、透析患者では骨容量が低下していることもわかっている(Clin nephro 2016)。

ある症例を見てみよう。
慢性腎不全(CKD stage4)で入院中の患者で退院間近であった。
夜にトイレに行こうと思った際にふらついてしまって、転倒してしまい臀部と大腿骨を売ってしまった。色々と精査をしてみると大腿骨頸部の骨折が認められた。

その際に慢性腎不全患者では骨に関してはどうなのか?ということが疑問になり今回書いてみる。

まず、CKDと骨粗しょう症の関連性はある(NDT 2009)。
原因として、一つはCKD-MBD(mineral bone disease)に伴いカルシウムやリンやPTH、VitD欠乏などの変動が生じるためであるが、はっきりとした原因に関してはわかってはいない(Clin Exp Nephrol 2016)。
骨折に関しては骨粗しょう症の他に慢性腎不全の増悪に伴う脆弱性の出現があり、それに伴う転倒リスクが増大するためと考えられている。


面白いなと思ったのが、日本の報告で尿毒素物質自体が骨質の劣化を起こし、骨粗しょう症を起こしているのではないかと言う報告である(Bone 2013)。
尿毒症性骨粗しょう症と言う名もあるようで、これは今後の研究が進んでいく分野であると感じた(KI Suppl 2011)。

やはり骨折は患者のQOLが落ちるので、我々がしっかりと機序を認知して、今回は書かなかったが予防をすることが重要であると感じた。



2016/05/10

Osteoporosis and CKD

 CKD、ESRDの骨粗鬆症はどうするんですか?と言われるとちょっと戸惑う。CKD、ESRDの骨病変はCKD-MBDのカテゴリー、osteitis fibrosa cystica、osteomalacia、adynamic bone disease、mixed renal bone diseaseなどの病気を考えて、骨粗鬆症は骨密度Tスコア−2.5以下を原因にかかわらず総称した症候群的なものだと思っていたからだ。

 KDIGOの2009年のCKD-MBDガイドラインでは、原則1−3期のCKDではCKD-MBDよりもpostmenopausalなど腎以外による骨粗鬆症がメインで治療もそれに準じてやればいいが、CKD4−5期になると疾患の中心はCKD-MBDになるのでTスコアが低くても骨粗鬆症というよりも「CKD-MBD with low bone mineral density」と考えるのがよいとある。

 CKD-MBDが骨折リスクに相関していることは間違いないが、基本的にpost-menopausal womenや高齢者をもとに作られたTスコアやFRAXは進行CKD患者には当てはまらない(underestimateになる)。だからガイドラインはこの患者層に対するルーチンの骨密度測定を推奨していない。

 とはいえ骨折リスクは高いわけで、どうするか。このトピックを掘り下げた論文があって(AJKD 2014 64 290)、ほんとうは骨ターンオーバーに関わる各種バイオマーカー、テトラサイクリンlabeling試験、骨生検などで疾患の種類によって治療するのがよいとある。ただ選択肢は限られている。

 Bisphosphonateは、経口は吸収率1%だが、うち50%が腎排泄で、蓄積して腎毒性を示したという報告は実はないが、静注は100%身体に入るので、とくにzolendronateは尿細管障害を起こす(私はcollapsing FSGSを起こすと習ったが)。それで経口でも静注でもeGFR 30-35ml/min(C-G式)以下に警告・禁忌がついている。有効性を示したデータが少ないということもある。

 ただしzolendronateの腎毒性は点滴速度などにもよるとされ、同様に静注のibandronateでは報告がなく、post hoc analysisでeGFR 15-30ml/min(やはりC-G式)患者においてalendronateとresidronateが骨折予防効果があったという報告があるそうだ。経口薬はFDAはavoid、日本は慎重投与だから使えないことはない。他の患者群と同様に長期投与でrare subtrochanteric fractureが起こるのに注意で、CKDではさらにadynamic bone diseaseに使うと逆効果だ。

 他の選択肢として注目されているのがRANKL阻害薬のdenosumab(高Ca血症の治療薬だと思っていた)。これは100% humanized monoclonal抗体(IgG2)なので網内系で分解され腎機能には関係ないはずである。ただし注意することが2つ、気になることが一つある。一つはこの薬がピタリと骨ターンオーバーを止めることである。だからやっぱりadynamic diseaseには使えない。もう一つは、どういうわけか進行CKDで重症で遷延する低Ca血症が報告されていることだ。

 厚生省のブルーシートによれば2012年4月から8月の間に(腎機能に関係なく)32件、うち死亡が2件。同じ年のAJKDにもカナダでの透析患者で低Ca血症(経口・静注・透析液からのCa補充とVitamin D補充でも20−30日遷延)が報告された(AJKD 2012 60 626)。ビタミンD濃度が載っていない(日本は25−OHは測れないし、カナダはルーチンでは測らないらしい)ので低ビタミンD血症があったかは不明だ。

 前掲のレビュー著者はビタミンDをしっかり事前に補充しておけば防げるかもしれないというが、あくまで楽観的な意見だ(その数段落後で「データが蓄積するまでは慎重に」と言い直している)。翌年にはオーストラリアからも報告があって(Am J Nephrol 2015 41 129)、ほとんどが透析患者だが保存期(4〜5期)、また移植後の患者もいたが、彼らの25−OH Vit D濃度はほとんどが正常だった(mean 69ng/ml)。

 気になることの一つは、RANKLと対になる骨ホルモンで血管石灰化に関連すると言われるOPGを上げることだ(OPGについてはレジデント時代に講演を聞いた覚えがある;あれから5年経って、OPGと動脈石灰化や心血管イベントとの相関にはmixed resultsがでているそうだが)。

 ついでにdenosumabは低リン血症、低Mg血症も起こし、これもよく経験する(添付文書によれば1%以上)。それから、この薬とセットで内服するデノタス(デノ足す)®はおそらく日本の処方箋でだせる唯一の天然型ビタミンD(cholecalciferol)だ。これを期にあまり腎臓内科に関係ない人は気を止めないリンやMgに注意が払われ、25−OHビタミンDが注目されあわよくば測定したり処方できるようになればいいなと思う。

 [2016年6月追加]25-OHビタミンDにはD2(ergocalciferol)とD3(cholecalciferol)がある。前者はしいたけなどに含まれ植物性、後者は魚油や肝油にふくまれ動物性と呼んだりする。工業的にD2は酵母由来のergosterolを、D3はウールに覆われた動物の皮脂腺からでるlanolinという蝋からとれる7-dehydrocholesterolをUVB照射して作る(なお動物が毛づくろいするのは皮脂に含まれるビタミンDを口から摂るためと言われる)。どちらもサプリメントになっているが、アメリカでも処方薬になっているのはD2だけだ(とNEJM 2007 357 266は言うがUpToDate®にはOTCと書いてある)。

 しかし最近、D3が肝臓で25位を水酸化されたcaicifediol(検査で測る25OH Vitamin Dと一緒)の徐放剤、Rayaldee®がCKD3-4期の二次性副甲状腺機能亢進症をともなうビタミンD欠乏症の治療薬としてFDAに認可された。社長は「CKDにおけるいままでのVitamin D補充療法はFDA認可されていないし安全性も効果も確認されていない」というが、たしかにKDIGOガイドラインに補充レジメンは書いてあるがFDA的にはoff-labelなうえD3は市販薬だ。




2015/12/01

Iron-Based Phosphate Binders

 米国の腎臓内科雑誌にながらく広告されている新規リン吸着剤が、日本でも承認されていた。Sucroferric oxyhydroxide(米国名Velphoro®は2013年11月にFDA認可、日本名P-TOL®は2015年9月認可)と、ferric citrate(米国名Auryxia®は2014年9月にFDA認可、日本名Riona®は2014年1月認可というわけで日本のほうが認可が早くおりていた)。

 前者の鉄成分は不溶性なのにたいして後者は鉄として吸収される違いがあって、後者の使用により静注鉄やESAの使用が減ったというスタディもある(JASN 2015 26 2578)。ただ前者はchewableで食前一錠で済むのが便利なのと、相互作用のなかで後者はフルオロキノロンと結合してその作用を減弱させるのに対して前者は大丈夫なようだ。副作用でおおいのはどちらも下痢(ほかの吸着剤が便秘を起こすのと対照的だ)。

 しかしなぜ鉄なのか?それは無機リンが三価陰イオンで、三価陽イオンをとれる金属とよく結合するからだ。結合力が強い順にCrPO4、LaPO4、FePO4、AlPO4。しかしクロムやアルミニウムは毒性があるので現在ランサナムと鉄が実用化されている。



2015/06/06

FGF23 and Klotho

 JSN/ASN joint science symposiumに参加してきた。まずKlothoについて黒尾先生が、つぎにFGF23についてDr. Myles S. Wolfがお話した。黒尾先生のお話では、Klotho欠損マウスが短命なのはgenotoxic stressのためではなくCPP(calciprotein particle)による炎症によるものだというお話が興味深かった。CPPとは、1nm以下のリン酸カルシウム塩の最小単位であるPosner's cluster;分子式Ca9(PO4)6がFetuin-Aと凝集してできた径100nm程度のかたまりで、血漿ではコロイドとして存在しているそうだ。あたかも水に溶けない脂肪がapoproteinと一緒になってlipoproteinとして存在しているように。

 CPPは内皮細胞にひっついてTLR、MCP-1(好中球のchemotactic agent)などを介してサイトカイン、炎症、動脈硬化などをきたす。ふつうはFGF23のco-receptorとしての膜型Klothoがあって、リン摂取時には骨からリン排泄亢進ホルモンであるFGF23が産生されて尿中にリンが排泄されてリンの恒常性が保たれるはずであるが、Klotho欠損マウスはその機構がはたらかないので高リン血症になる。しかしKlotho欠損因子にリン制限をかけるとリン値はあがらずCPPも減って寿命は延びる。さらに、Klothoには二種類あってもうひとつは可溶性Klothoだが、これが減ると線維化、Wntシグナリング経路の活性化、IGF-1シグナリング経路の活性化などがおこる(Science 2007 317 803、Am J Physiol Renal Physiol 2012 301 F1641←ああ、この雑誌の論文に触れるのひさしぶりだな…フェロー時代は読んでたけどな…)。

 じゃあ翻って、CKD患者さんではKlothoが減少するわけだが、マウスのようにリン制限をかけていればいいのかというと、話はそう単純ではない。というのはKlothoの減少の前から後かは不明だがとにかくCKDの進行とともに患者さんの身体の中ではFGF23値が指数的に増えていくからだ。これはリン排泄を一生懸命するための代償的な反応と考えることもできるが、残念ながら心筋肥大を起こし心血管系死を招くことは良く知られた事実だ(JCI 2011 121 4393←これは、私が米国腎臓内科フェローになって初めてJournal Clubで発表した論文なので感慨深いものがある…当時の様子もちゃんと書いてある)。

 あのあと抗FGF23モノクローナル抗体を試したがうまくいかなかったと風の便りに聞いていたが、今回その論文が紹介され(JCI 2012 122 2543)、この抗体で5/6腎摘ラットのFGF23をブロックすると、LVHは改善させるが著明な高リン血症と劇しい血管石灰化を起こしたそうだ。というわけでFGF23はFGF-2などと同様LVHを起こす意味で有害なホルモンだが、リン排泄とCPPコロイドの減少と言う意味で保護的なホルモンだ(というかホルモンなんて皆そうだ;出過ぎも出なさ過ぎもよくない)。しかしFGF23がLVHを起こす細胞内シグナリングがcalcineurinというのは興味深い;calcineurin inhibitorが効くかもしれないからだ(そういう質問がフロアからでていた)。



2013/01/30

EVOLVE

 腎臓内科医にとって最大の夢-CKDならびにESRD患者さんを心血管疾患から救うこと-をかなえるため研究は続く。私は個人的にFGF23とKlothoに希望を見出しているが、もう一つの重要なプレーヤーはPTHだ。それを抑えるcinacalcetがESRD患者の死亡率と心血管疾患を予防するかを調べた大規模スタディ、EVOLVEが昨年に出た(NEJM 2012 367 2482)。

 カルシウムを保ってもリンを下げても活性化ビタミンDをあげてもPTHが下がらない、でも副甲状腺摘出をしない(妥当なcinacalcetの適応だろう)約3600のESRD症例にcinacalcetとプラセボを投与した。しかし平均21ヶ月の追跡で、primary end-point(死亡と心血管系イベント)で両者に差はなかった。それで皆がっかりした。

 PTHを下げれば血管の石灰化が緩和され心疾患予防に効くはず、というのは理にかなっている。なんとかポジティブな結果を引き出そうとsub-group analysisが行われ、「よく見ると効いている」などと宣伝されている(Nephrology Times 2012 5 1)。が、薬の高コストを考えると(2014年までにはESRDの包括医療費に組み込まれるらしいし)適応は広がらなさそうだ。


2011/12/04

FGF23 induces LVH

Journal clubで"FGF23 induces LVH"(JCI 2011 121 4393)を発表した。これは、①慢性腎不全の患者さんは心疾患で亡くなる、②慢性腎不全の患者さんではFGF23血中濃度が高い、③FGF23濃度は左心肥大に相関する、④FGF2は心肥大を起こす、という研究結果を踏まえて行われた実験だ。

 15ページもある長編で、実験も多い。慢性腎不全cohortをcross sectionalとprospectiveに調べ、in vitroでFGF23を心筋に振りかけて調べ、FGF23がどの受容体や細胞内シグナルを用いるか調べ、in vivoでマウスにFGF23を注射して、さらにFGF23が高レベルなマウス(kl/kl)や慢性腎不全モデル(5/6腎摘ラット)を用いた。

 分かったことは多い。FGF23がFGF2と同様に病的な心肥大を起こすこと。それはFGF受容体を介すること。従来知られていた、FGF23のリンやビタミンDに関する作用に必要なKlotho co-receptorに依存しないこと。細胞内シグナルは、FGF2が用いるMAPKではなくcalcineurin-NFATであること、など。

 この実験から日常臨床に翻って言えることは、腎臓内科医は患者さんのリンをメチャメチャ本気で下げなければならないということだ。高リン血症が慢性腎不全患者における心疾患および死亡のリスク因子であることはずっと前から知られていたし、KDOQI guidelineもリンの上限を5.5mg/dlに推奨している(AJKD 1998, 31, 607-17などが典拠になっている)。高リン血症を放置するとFGF23濃度が上がってしまう。