さて、CKD領域の一番の願いはCKD自体の治癒だろう。しかし、その次にくる願いのひとつは「CKD患者の心血管系イベント・死亡を減らしたい」かもしれない。そのためにFGF23、PTH、Klotho、OPG、オステオポンチンなどCKD-MBD領域のさまざまな分子に対して治療が試みられているが、ピロリン酸もそのひとつだ。最近この分野の論文が相次いでだされた(Nefrologia 2018 38 250、KI 2018 93 1293、KI 2018 94 72、doi: 10.1681/ASN.2017101148)。
リン酸二分子の重合でできたピロリン酸(PPi、図)は、偽痛風でもおなじみだが、じつは石灰化を強力に阻害する。あのビスフォスフォネートも、PPiを加工して作られたものだ(真ん中に炭素をはさんだP-C-Pの構造をしており、Cの側鎖R1、R2によって力価がかわる)。CKD・とくに透析患者では血中PPi濃度が低下しており(JASN 2005 16 2495)、その石灰化への関与がうたがわれる。
PPiはeNPP1(ectonucleotide pyrophosphate/phosphadiesterase 1)によってATPから作られる(PPiを外されたATPはAMPになる)ので、eNPP活性がさがるとPPiが減って石灰化が抑えられない。先月号のKI(2018 94 72)に載った(日本を中心とするグループの)論文は、その機序のひとつにタンパクのカルバミル化が関与していることを示したものだ。
カルバミル化とは、尿素(NH2-CO-NH2)が酵素によらずタンパクにカルバミル基としてくっつく現象だ。尿素窒素のたかい尿毒症時によくおこる。実験ではヒト血管平滑筋細胞を尿素に漬け込んだところ、eNPP1発現が低下していた。eNPP1そのものはカルバミル化されておらず、ミトコンドリアタンパクのカルバミル化による酸化ストレスが間接的にeNPP1を抑制したと考えられた。
PPiにかかわる系はそれだけではない。細胞膜上のさまざまなトランスポーター(ANK、ABCC6など)異常によってもPPiが減り、細胞外にATPやPPiを提供できないためと考えられている(もっとも、上に挙げたトランスポーターがATPやPPiを通したという証拠はまだないようだ)。またPPiを分解する酵素にeNTPD、eNPP3、TNAP(組織非特異のALP)などがある(図はNefrologia)。
なかでもABCC6遺伝子異常は弾性線維性仮性黄色腫(pseudoxanthoma elasticum)と呼ばれ、PPiが低下し皮膚などに異所性石灰化をきたす。そしてJASN express(doiは上記)は、このマウスモデルで、腎症状としてRandall's plaque(結石の元ともいわれる、腎乳頭付近にできるリン酸カルシウム結晶)ができていることを確認したものだ。
ここまでわかって、治療をどうするか。PPi補充はラットで試され(KI 2011 79 512)、血中半減期が30分以内なので腹腔内に注射された。結果としては石灰化を抑制し、懸念された骨への影響もみられなかった。ただ、それ以降のPPi治験などは見つからない。代わりにeNPP1、TNAP、そしてカルバミル化などをターゲットにした研究が行なわれているのかもしれない。
願いが叶って、そんなニュースがそれこそ「ピロリン♪」とスマホに入ってくる日が来てほしい。