2018/07/27

リュートニクスとグッド・ドクター

 ドラマ"굿 닥터(グッダクト)"は2013年放映の韓国ドラマで、主人公の不器用だが純粋で真実の愛を歌にしたOST"사랑하고 있습니다(愛しています)"に感動した読者もいるかもしれない。




 グッダクトとは、英語のgood doctorを韓国語に音訳したものだ。といえばもうお分かりのように、このドラマは2017年米国、2018年日本でリメイクされている(邦題は『グッド・ドクター』)。

 同じように、他の数カ国で使用されてから日本でも使えるようになる治療というのは、けっこうある。

 パクリタキセル被覆バルーンもそのひとつで、欧州と米国で認可されてから日本で認可された。昨年認可されたIN.PACT Admiral®、Lutonix®バルーンは末梢動脈疾患で浅大腿動脈に用いるが、Lutonix®には透析内シャント用のシリーズもあって、欧州につづき昨年末に米国FDAが認可した。それもあって、腎臓関係の雑誌やウェブサイトでは、よく宣伝されている(下図)。



 その認可の根拠になった研究が先日CJASNにでたが(CJASN 2018 13 1215)、改めてこの領域が慣習・政策・医療経済とつよく結びついていることを認識させられた。

 このスタディは一応RCTで、同じような病変の患者を両群に割り付けたが、Shamバルーン(形の似た、パクリタキセルを含まないもの)は見た目が違うし、バルーンの拡張圧にも有意差が出ている。

 プライマリ・アウトカムは180日以内の再介入率(であって、上記広告の数字ではない)だが、統計的な有意差は出なかった。そもそも、冠動脈疾患や末梢動脈疾患のような動脈病変と、シャントのような静脈病変では病態生理がちがうかもしれない。

 それでもこのデバイスが認可されたのはなぜか?論文のeditorial(doi: 10.2215/​CJN.07360618)に、その背景が透けて見える。

 要は、内シャントPTA後の開存率はどうしようもなく低く(原語のabysmalは「奈落の底」という意味)、シャント狭窄が患者・透析施設・医療において大きな負担になっているので、少しでもいいようなら害もないようだし認可しよう、ということだ。

 この内シャント用デバイスも日本での認可に向けて話し合いがもたれることだろう。認可の決め手はやはり、華々しい外挿データ(他国のデータが日本にも当てはまるかを見る、質の高くない小スタディ)よりも、慣習・政策・医療経済だろう。

 安全性の担保を忘れずに、善かれという動機でやっているのなら、この領域はそれでいい気がする。グッド・エビデンスがなくても、グッド・ドクターにはなれるのかもしれない。




[2019年5月追記]上述のように結論したものの、残念ながら使用長期成績で心配がみられてしまった。

 パクリタキセル被覆カテーテルをうけた末梢動脈疾患患者を長期観察したところ、被覆のないカテーテルやステントをうけた対照群にくらべて死亡率が有意にたかかったという研究がでたのだ(J Am Heart Assoc 2018 7 e011245)。

 これをうけてFDAが2019年1月・3月に通達をだし、現時点では因果関係が明確でないこともあり、利益がリスクを上回るとしている。しかし、報告では使用後2年以上経過してから有意差が出る(薬と総死亡の相関には用量・時間依存性が見られる)ことから、今後も注意深いモニターを呼びかけている。