2013/02/27

CLLとK

 患者さんのKが9mEq/lなら、透析依頼で腎臓内科に相談するだろう。しかし全ての高K血症が透析を要するわけではない。こんなにKが高くなる時は、①カリウムが細胞崩壊により大量に血中に溢れだしている、②カリウムがまったく排泄できず暫く経過している、そして、③検査の誤りだ。

 ③について知っておくべきはCLL(慢性リンパ球性白血病)。CLLで血中に何十万/mm3も白血球があると、これらが試験管内で自然崩壊してしまい見掛け上カリウム値が高くなる。検体を揺らしただけでも崩れてしまうほどだ。同じことは血小板増多症でも起こる。

 でも「そのKは見せかけだ、透析は要らない」と言っただけでは説得力がない。白血球の崩壊は患者さんの体内で起こっているかもしれないではないか。たとえ化学療法を受けていなくても、自然な腫瘍崩壊症候群というのはある。

 鍵はECGと正確なKの測定だ。カリウムが9mEq/lもあったらECG変化があって欲しい。サインカーブでもおかしくない(NEJM 2012 366 1824、この症例はKが9.1だった)。私の症例はECG変化がT波、QRS波、どこをみてもなかった。

 正確なKの測定は?UpToDateは「ヘパリン以外の抗凝固剤をいれた試験管にそーっと採血し、そーっとしかし迅速に検査室まで運び、遠心せずにそーっと血漿を血球から分離させてから測れ」という。やったことはあるが、あまり実践的でない。

 それで今回は採血後ただちに同じ病棟にある血液ガス測定器で測ったら(根拠はInt J Neprhol doi:10.4061/2011/759749、J Clin Anesth 2012 24 347)、検査室で7.5mEq/lのKがなんと3.0mEq/lだった。透析していたら、低K血症で逆に心電図変化(不整脈)を起こしていたかもしれない。


2013/02/26

sFlt-1

 新大陸とアフリカに住むマナティーと、インド洋から東ユーラシア、オーストラリアにかけて住むジュゴンはいずれもsirenianに属し、じつはクジラよりゾウに近縁だ。私はEverglades国立公園でマナティーを見たが、あの目の優しさはゾウ譲りだろうか。

 そんなマナティーの目にあって、ジュゴンの目にはないものがある。それは角膜内の血管だ。マナティーの角膜には小血管がまばらに走っており(Vet Ophthalmol 2005 8 89)、そんな生物は地球上で今のところマナティーだけだ。痕跡的で、視力を障害するほどではないが。

 どうしてマナティーの角膜には血管があるのか。そもそも角膜には強力な血管新生因子VEGF-Aがあって、ほうっておけば血管が生えてしまう。しかしVEGF-Aが細胞膜のVEGF受容体に触れないようトラップする仕組みがあるのだ。

 その仕組みが、sFlt-1(またの名をsoluble VEGFR1)。これはVEGF受容体の細胞外ドメインだけでできた切れ端で、こいつがたくさんあるとVEGF-Aが捕らえられ本物の膜受容体に結合できない。マナティーにはそれがない(Nature 2006 443 993)。

 この話と腎臓内科に関係は、大有りだ。Pre-eclampsiaは、腎生検すると(誰がしたのか知らないが)糸球体内皮細胞が膨れ上がっており、内皮細胞の異常が機序と考えられている。そして、患者さんではsFlt-1と同じく血管新生を阻害するendoglinの血中濃度が高い(NEJM 2006 355 992)。

 そこから先、sFlt-1がVEGFR1遺伝子のsplicing異常でできるのか、それともVEGFR1タンパクから切り離されてできるのか、胎盤でどんな制御がおきているのか、どうして妊娠後期におこるのか、いま分からないことも研究で明らかになるかもしれない。

2013/02/23

MPGN

 MPGN(membrano-proliferative glomerulonephritis)について語ろうと思って、知識と経験と文献を集めていた。すると、米国腎臓内科学会がだすKidney Newsの人気連載Detective NephronにMPGNが弟子と師匠の問答形式でわかりやすく説明された(Kidnry News 2013 2 22、会員でなくても読める)。著者Dr. JhaveriはブログNephron Powerを書く教育熱心なスタッフで、彼がMPGNの第一人者Dr. Sethiと協力して作った。

 MPGNは病理像を描写しただけの診断名だから、病態プロセスを反映しない。Type I-IIIの分類(Iはsubendothelial deposit、IIはdense deposit、IIIはsubepithelial deposit)も形態の違いで治療方針を変えない。それが病態生理に基づいて分類されるようになったのは最近のことだ(NEJM 2012 366 1119、著者はDr. Sethi)。

 この美しいレビューによれば、MPGNはimmune-complex mediatedとcomplement-mediated(とそれ以外)に分類される。前者は免疫グロブリンとC3いずれも沈着。抗体によって補体反応が惹起され腎糸球体内皮細胞が破壊され、さらに好中球や単球などが浸潤し増殖性変化を起こし、mesangium細胞が抗体と補体のごみ層を覆うように基底膜を修復するので膜性変化が起こる。

 その原因は自己免疫疾患、感染症、慢性炎症、paraproteinemiaなど様々だ。自分の経験で最近多いのはMGUS(monoclonal gammopathy of unknown significance)によるMPGNで、これはもはやunknown significanceではないからmonoclonal gammopathy–associated MPGNと呼ぶべきと著者は主張する。

 後者はC3のみが沈着。抗体も微生物のかけらもなくても勝手に補体が暴走して起こる。補体の代替経路は常に低レベルにオンであるが、暴発しないようにFactor Hはじめ様々なタンパク質が制御している。この制御系に先天的に異常があると、感染症など補体活性が高まるちょっとしたキッカケを機に補体が暴れてしまう。C3 nephropathy、dense deposit diseaseがこれに分類される。

 その他は、C3もIgGも糸球体に沈着しないもので、基本的にはTMA(thrombotic microangiopathy)のことだ。原因として薬剤性TMA(CNI、calcineurin inhibitorなど)、TTP(thrombotic thrombocytopenic purpura)、骨髄移植後、放射線治療後、悪性高血圧、APS(anti-phospholipid syndrome)などがあげられる。

 [2016年7月追加]MPGNの治療は上記のような原病に準じるわけだが、原発性の場合どうするかについては数が少なく小児の限られたデータしかないのでガイドライン(KDIGO 2012年、日本腎臓学会2014年)でもエビデンスレベルが低い。試されたのは1mg/kg/dのステロイドと経口cyclophosphamideないしMMFで、KDIGOは「ネフローゼで腎機能悪化例に対して」推奨されている。例によってRTXも試され効果があったようだ(Clin Nephrol 2012 77 290)。

2013/02/22

酸塩基平衡の本質 2/2

 何でも食べれば酸になる。炭水化物はCO2(嫌気下には乳酸)、脂肪はCO2(飢餓、インスリン低下時にはケトン)、たんぱく質はCO2と不揮発酸(とくに動物タンパクは硫黄やリンがあるから)になる。その結果一日に出る15000mmolのCO2と50-100mEqの酸をどう排泄するか?これが生命に課せられた課題だ。

 というのも正常のpHは7.4、H+濃度にして40ナノモル/Lに過ぎない。H+は毒なのだ。だから生命はH+をさまざまなバッファーにより取り込んでいるほか、CO2は肺で排泄、その他の酸は腎臓で排泄している。こう聴けば、あなたも愛する者の安らかな寝息に「ああ、酸を排泄しているのだなあ」と生命の神秘を感じるのではないか。

 もし感じなければ、イルカ、クジラ、ベルーガ、アシカ、アザラシなど、息を止めて長く水中に潜る愛らしい動物達のことを考えよう。彼らは代謝と心拍数を下げてCO2産生を押さえ(その分嫌気代謝で乳酸がたまるが)、CO2と乳酸を潜水が終わるまで筋肉にトラップしておくなど大変な工夫をしているのだ(Compr Physiol 2011 1 447)。

 ここから話は腎臓による酸排泄の仕組み、血液最大のバッファHCO3-、それを維持する肺と腎臓のチームプレイ、チームプレイのルールであるHenderson-Hasselbalchの方程式(式自体より、それが意味すること)へと進む。私にとってはこれが酸塩基平衡の本質、まずこれを理解しなければつまらない。数字と計算はそのあとだ。

酸塩基平衡の本質 1/2

 クマが冬眠できるのも、ペンギンの脚が凍らないのも、サケが淡水と海水を行き来できるのも、スナネズミが砂漠で生きられるのも、全部腎臓と関係ある(まだ詳しくわかってない部分もあるが)。ペンギンの話などは、ヘンレ係蹄のcounter-current exchangeを説明する際に多くの医学部の授業で取り上げられていることだろう。

 腎臓は恒常性を守り、環境に適応する臓器。腎臓を学ぶと、世界の見方が変わる。先日、日本で酸塩基平衡についてレクチャする機会に恵まれたときも、それを強調したくてタイトルを『世界は酸塩基平衡でまわってる』にした。要は酸塩基平衡をbig pictureで捉えようということだ。その一部を説明してみよう。

 まずはツカミでイルカの尿酸結石について説明した(J of Zoo and Wildlife Med 2012 43 101)。イルカの尿管結石は原因不明だが、水族館で飼育の群に見られ野性では稀だ。そして研究により水族館群では尿中のcitrateがほぼゼロなことがわかった(Comparable Med 2010 60 149)。これと酸塩基平衡の関係は、大有りだ。

 Citrateは酸のバッファーだから、酸の大量摂取により枯渇する。これは私の推察だが、水族館で飼育の群は野生に比べて魚ばっかり食べて、しかも訓練のご褒美などでたくさん食べているのかもしれない。といわれても「魚がなんで酸なの?」と思うだろう。で、生物と酸(摂取と排泄)について話を始めた。続く。

 [2013年3月追加]クマの冬眠の話がレビューされた(KI 2013 83 207)。例の尿素→アミノ酸リサイクリングのみならず、骨代謝や血管・血栓・創傷治癒についても記述されている。

2013/02/17

World Kidney Day

 2月14日はバレンタインデー。では3月14日は?もちろん世界腎臓デー(World Kidney Day、WKD)だ。八年目にあたる今年のテーマは皆が大好きな急性腎障害だ。ひょっとして、レデジントノートとその増刊が三月に出す特集記事もそれに合わせているのかな。
  関連記事(KI doi:10.1038/ki.2012.427)を読んで驚いたのは、世界規模で急性腎障害を見ると、地域によって疫学に大きな隔たりがあることだ。発展途上国は、都市部では先進国に近い(敗血症、周術期低血圧、ACEI、NSAIDs、PPI、抗生物質、造影剤、他)パターンだ。
  しかし地方にいけば様相が異なる。下痢(水の不衛生)、septic abortion、ヘビ毒、natural medicine、leptospirosis、その他の害虫…。インドの友人達は口をそろえて「始めて診た急性透析患者はヘビ毒による腎障害だった」「ICUの半分はヘビ毒、もう半分はleptospirosisだった」などという。

  いずれにせよ言えるのは、AKIは予防できるということだ。先進国の問題は、体液減少や血圧低下時の薬剤調節や造影剤前の輸液など簡単なステップでAKIを防げるかもしれない。途上国にしても、ヘビ毒の抗血清を普及させる、衛生状態を改善させるなど(お金はかかるが)予防は可能だ。

酒、タバコ、ドラッグ

 米国内科学会誌の人気記事、On Being a Doctorは多くの場合に心温まる患者さん(とその家族)との関わりが書かれているから好きだ。同時に、どんどん忙しくなる業務のなかで追いまくられ、患者さんと意味ある時間を過ごせずにやりがいを失い燃え尽きつつある医師達が、そんなときでも医の原点を守ろうとしている灯火のように思えて悲しくもある。
  先週は二つの記事があった。ひとつはend-of-life議論をする時に、家族に「あなたのお父さん、夫について教えてください」と始める医師の話だ(Ann Int Med 2013 158 215)。病状について(何度となく答えてきた)答えを力なく話す家族を「すみませんが」とさえぎり、「病気の話をするまえに、患者さんのことをもっと知りたいのです」と言う。
  「病気も診るが患者も診ろ」「病気は病態生理の観点だけでなく社会心理(スピリチュアル)の観点からも診ろ」と言われるが、実際にどのような診療や態度を指すのかは不明瞭だ。でも患者さんに即したストーリーを読むとそれがよく分かる。この話は、家族が患者さんの人生を振り返り、病気の意味といま最善の治療ゴールを見つめなおすことができた。
  いま医学部二年生に問診を教えているが、彼らは生活歴をかなりしっかりと聴取する。時間がたっぷりあることと、まだ何が大事か優先付けられないせいもあるが、患者さんに症例としてではなく人として接しているからでもあろう。臨床実習で擦れてしまっても、それを忘れずにいてほしい。「酒、タバコ、ドラッグ」だけが生活歴ではないのだから。

2013/02/12

Lectin pathway

 補体は、免疫の実働部隊。抗体にしたって、C1qを通じて古典経路を活性化している。腎移植後のAMR(antibody-mediated rejection、免疫拒絶反応)も然りで、補体活性化の跡がC4dとしてperitubular capillaryに残る。
 補体を活性化するのは古典的回路だけでなく、代替回路、レクチン回路もある。それで、レシチン回路が移植腎の生存率にどのような影響を持っているかが調べられ始めた。一般にレクチンの発現が少ないと感染症リスクが上がる。では腎グラフトのサバイバルはどうか。
 二つの大きな研究論文がでて、結果はバラバラだ。一つは(拒絶リスクが腎単独より高い)膵腎同時移植におけるオランダの研究(JASN 2007 18 2416)で、ここではレクチン(MBL2)レベルが高い群で膵腎どちらの成績も悪かった。
 もう一つは今年にだされた腎単独移植におけるスウェーデンの研究(KI 2013 83 264)で、ここでは全般にMBL2レベルが低いほど腎の成績が悪かった。しかし生体腎はMBL2レベルが高いほど成績が悪く、HLA非感作のdeceased-donor腎群では差がなかった。
 BML2は肝臓で作られ、多量体(oligomer)になって補体反応を活性化する。多量体の程度によって効果に差があり、high-order oligomerのほうがlow-orderより効果がある(EJCI 2010 40 865、日本の研究)。
 正直、「とりあえず注目してみました」というレベルなのでレクチン回路が移植腎に与える影響と病態メカニズムについて理解するにはもうしばらくかかりそうだ。Graft lossの多くがとくに移植後1-2ヶ月に集中していることは、なにか意味しているかもしれない。

2013/02/07

Secondary pseudohypoaldosteronism

 Obstructive uropathyについてきちんと学ばず、なんとなく泌尿器科の疾患という認識でいたら、知らない事実にいろいろ出会った。たとえばobstructive uropathyは遠位RTAを起こし、この場合に高K血症を伴うこと。さらにobstructive uropathyは尿細管を鉱質コルチコイドに不応にし、secondary pseudohypoaldosteronismを起こす(Eur J Pediatr 2012 171 317)こと。
 Secondary pseudohypoaldosteronismは他にも腎盂腎炎(Pediatr Nephrol 2002 17 1069)、腎静脈塞栓症などでも起こる(Pediatr Int 2012 54 936)。Grand Roundでこのトピックを発表したのが小児腎フェローだったので小児の報告が紹介されていた(日本のグループによる報告が多かった)が、成人でも起こるらしい。

2013/02/02

Euphemia

 酸性(pHが7.4未満)の血液はacidemia、アルカリ性(pHが7.4より高い)の血液pHはalkalemia。7.35-7.45などと範囲を与えることもあるが、1000人のサンプルを分布させたらいろんな人がいるから、みんなピッタリ7.4ではないというだけ。だから酸塩基平衡を解釈するときには7.4で峻別する。
 では、pHが7.4の血液を何と言う?「良い(eu)+pH+血液(emia)」、euphemia。ある教科書には載っているが正式な用語かは疑問だ、私は初めて聞いた。St. Euphemia(4世紀、Bizantiumの対岸Chalcedonで土着の多神教崇拝を拒否ししたため殉教した聖女)もいることだし、これは使わなくてもよかろう。

2013/02/01

腹膜透析と胃ろう

 「腹膜透析の人に胃ろうできるか?」と言われたら、直感的に「周術期はリークと腹膜炎の心配があるから血液透析にスイッチする」「術後一定期間を過ぎてもリスクがある程度残るんじゃ?」と思う。では逆に「胃ろうのある人は腹膜透析できるか?」と言われたら、どうする?胃ろうはよく癒着しているから大丈夫?
 常識的に分かりそうなものだが、自分では経験がないから文献を探す。すると、自施設の経験を報告した論文(Adv Perit Dial 2001 17 148)が似たようなことを言っていた。つまり、腹膜透析患者さんに胃ろうするのは腹膜炎(多くは真菌性、致死的なことも)の危険があり注意が必要だが、胃ろう患者さんに腹膜透析するのは比較的安全と。

心臓手術後の低リン血症

 肝切除後の低リン血症のは聞いたが、心臓手術後の低リン血症というのは初めて聞いた。報告(Eur J Cardiothoracic Surg 2004 26 306)によれば約1/3に見られ、より長く人工呼吸器、より多く昇圧強心剤のサポートを要した。
 ここで「なぜ低リン血症?」と少し混乱した。「カルシウム、PTH、ビタミンD」の軸、それに「腸管、骨、腎臓」間のホメオスタシスは手術の数時間でそこまで大きく動かなそうだから。それで、このような急性変化は細胞間のシフトと考えた。
 前掲論文や症例報告(Anesthesia 2006 61 1211)によれば、カテコラミン、サイトカイン、低体温などはいずれもリンを細胞内に引っ込める。飢餓(絶飲食)下に糖液とインスリンを静注しても同じことが起こりうる。なお、以前は輸血すると抗凝固剤でリンが下がると考えられていたが、実際はそんなことはない(Intensive Care Med 1985 11 144)。