患者さんのKが9mEq/lなら、透析依頼で腎臓内科に相談するだろう。しかし全ての高K血症が透析を要するわけではない。こんなにKが高くなる時は、①カリウムが細胞崩壊により大量に血中に溢れだしている、②カリウムがまったく排泄できず暫く経過している、そして、③検査の誤りだ。
③について知っておくべきはCLL(慢性リンパ球性白血病)。CLLで血中に何十万/mm3も白血球があると、これらが試験管内で自然崩壊してしまい見掛け上カリウム値が高くなる。検体を揺らしただけでも崩れてしまうほどだ。同じことは血小板増多症でも起こる。
でも「そのKは見せかけだ、透析は要らない」と言っただけでは説得力がない。白血球の崩壊は患者さんの体内で起こっているかもしれないではないか。たとえ化学療法を受けていなくても、自然な腫瘍崩壊症候群というのはある。
鍵はECGと正確なKの測定だ。カリウムが9mEq/lもあったらECG変化があって欲しい。サインカーブでもおかしくない(NEJM 2012 366 1824、この症例はKが9.1だった)。私の症例はECG変化がT波、QRS波、どこをみてもなかった。
正確なKの測定は?UpToDateは「ヘパリン以外の抗凝固剤をいれた試験管にそーっと採血し、そーっとしかし迅速に検査室まで運び、遠心せずにそーっと血漿を血球から分離させてから測れ」という。やったことはあるが、あまり実践的でない。
それで今回は採血後ただちに同じ病棟にある血液ガス測定器で測ったら(根拠はInt J Neprhol doi:10.4061/2011/759749、J Clin Anesth 2012 24 347)、検査室で7.5mEq/lのKがなんと3.0mEq/lだった。透析していたら、低K血症で逆に心電図変化(不整脈)を起こしていたかもしれない。