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2018/09/08

血尿と蛋白尿での鑑別(メモ程度)

 今日は簡単に、図が多い投稿なのでカンペ用にぜひ。

 僕もよく混同する腎疾患の鑑別についてであるが、腎炎を見た際には

 ・Nephrotic syndrome
 ・Nephritic syndrome

 を鑑別することが重要である。

 簡単には

 Nephroticは蛋白尿主体で血清アルブミン低下し浮腫をきたす。
 Nephriticは血尿主体で高血圧・腎機能障害の合併をきたす。

 下記にわかりやすい図を添付する。






 では、これらがわかった場合の鑑別は好発年齢なども重要となるが、パターンも非常に
重要である。




 このようにして考えると非常に腎炎の鑑別もしやすいのではないか?




2018/01/26

戌年にあたり

 今年は戌(いぬ)年だ。巳(み)年にはヘビの話をしたから、今年も何か干支にちなんだ話をしよう。アステカ文明ではイヌはXolotlという神の化身で、これは稲妻と死の象徴であり、夜に地下世界を見回り太陽を守護するそうだ。

 そして、水を意味する言葉はAlt。この二つをあわせたAxolotl(アホロートル)は「水のイヌ」ということになるが、これはメキシコサンショウウオのことだ。日本ではこの一種のアルビノが「ウーパールーパー(写真はぬいぐるみ)」と呼ばれていたこともある。




 さて、アホロートルには腹膜とつながった(糸球体のない)「オープン」ネフロンと、糸球体とつながった「クローズド」ネフロンの二種類がある。それで、蛋白尿が腎障害を起こすかどうかの実験に用いられたことがある(Kidney Int 2002 62 51)。この話は、Oxfordの腎臓の教科書(137章)に載っているので興味ある方は参照されたい。

 アホロートルの腹腔内に子牛のアルブミンを注射すれば、オープンネフロンの尿細管だけが蛋白尿に曝され、クローズドネフロンは曝されない。そうして各尿細管の炎症マーカーや組織障害などを比較したところ、蛋白尿に曝されたほうがTGF-βが高く、組織の線維化も進んでいた。

 異種のたんぱくなら抗原性などもあるかもしれないが、この実験は「蛋白尿じたいが腎臓にわるいのか、蛋白尿を出させるようなプロセス(糸球体の異常など)がわるいのか」という議論に一石を投じることになった。現在では、たんぱく質が近位尿細管でCCL2(以前にふれた)やCCL5などを分泌させ炎症を惹起し、補体活性化などさまざまな機序で尿細管障害を起こすと考えられている。

 その一方、以前にふれたBardoxoloneのように蛋白尿が悪化しても炎症を抑えれば腎障害を抑えられるという仮説で試されている薬もある。この薬は現在、Alport症候群での治験CARDINALが第3相に入り、米国腎臓内科界をざわつかせている。

 たとえば「バルドキソロンは不死鳥か?」というコメント(doi: 10.1681/ASN.2017121317)、「Alport症候群でバルドキソロンによってGFRをあげるべきなのか?」というコメント(doi: 10.1681/ASN.2017101062)などが、JASNに載ったばかりだ。

 また日本でも、糖尿病性腎症を対象にして失敗した米国BEACONトライアルを改良したというTSUBAKIトライアルがひそかに進行中で、こちらも日本腎臓内科界をざわつかせている。

 そんなわけで2018年は、腎臓病の進行を抑えるとはどういうことなのか?何をすればいいのか?というその方法論が根本から問い直される年になるかもしれない(写真はイヌの概念を問い直すaibo)。






2017/08/29

赤ちゃんに学ぶ 4

 腎臓のFcRnとIgGについては、とくに足細胞の研究が知られている(PNAS 2008 105 967)。足細胞のFcRnは、基底膜からIgGを取り込み除去する働きがある。基底膜をすり抜けるが足細胞(のスリット)をすり抜けないIgGのような物質は、理論上基底膜を詰まらせる。透析膜の孔がつまるのと同じ考えだ。

 そしてIgGが基底膜に詰まっては、免疫複合体とか補体とかが沈着して炎症など面倒なことになる。腎生検の電子顕微鏡で腎炎・ネフローゼにみられるelectron dense deposit(高電子密度沈着物、図は日本病理学会による病理コア画像から)など、まさに基底膜に沈着した免疫複合体をみている。





 それでは困るので、足細胞が基底膜からIgGを除去していると、この論文からは考えられる。実際マウスに高濃度のIgG注射をおこなうと、(足細胞のFcRnが飽和するためか)基底膜にIgGが沈着した。またアルブミンを注射した(FcRnの飽和を意図した)マウスにネフローゼをおこす抗体を極少量注射しただけでも、蛋白尿がみられた。

 蛋白尿=基底膜の異常=基底膜の病気、というわけでは必ずしもなくて、内皮細胞や足細胞の病気(足細胞病、という言葉もある)ととらえなおされている、という枠におさまるお話だなと思う。前の投稿によれば、そこにさらに近位尿細管も加わるのかもしれない(たとえば、糖尿病性腎症やAlport症候群に治験されているバルドキソロンは糸球体の炎症を抑えるが、尿細管ではmegalin発現をさげて蛋白尿を起こす;JASN 2012 23 1663)。

 なお、その近位尿細管は足細胞を通り抜けたIgGをアルブミンのように再吸収するかと言うと、そうではないらしい(JASN 2009 20 1941)。これが、尿路の免疫として身体を守っているという説を唱える人もいる(J Immunol 2015 194 4595)が、いまだ推測の域をでていない。

・ ・ ・
 
ここまで赤ちゃんがお母さんから免疫をもらう話にはじまり、FcRnをテーマに創薬、免疫疾患、腎臓でのアルブミンやIgGのろ過や再吸収まで、領域横断的にみてきた。ワーズワースはMy Heart Leaps Upという詩の中で子供は大人の父である(The Child is the father of the Man)と言ったが、赤ちゃんから学べることはたくさんある。

 そしてこの詩はこう終る;

I could wish my days to be
Bound each to each by natural piety.

 (虹をみて心が躍る少年のように)自然を敬う心に満ちた日々を送れますように、というような意味だ。

 


2017/01/14

妊娠している人の腎機能障害(AKI in pregnancy) パート1

今回は妊娠している人の腎機能障害に関して触れて見たいと思う。
妊娠している人の腎機能障害は総合病院で勤めていると絶対にコンサルトされる内容であるし、しっかりと知識の整理ができていることが重要である。

・妊娠時のGFRやタンパク尿などに関して
妊娠中は一般的にはGFRが増加し、血清Crの減少を呈する。平均して0.4-0.8mg/dlの低下を認めると言われる(Adv chronic kid 2007)。
そのため、Crが1mg/dlは非妊娠者では正常値であるが、妊娠者では腎機能障害があると考えるのが重要である!

GFRの推算でMDRD式やCockroft-Gaultの式などがあるが、これは妊娠者の腎機能を評価するのは不適切の可能性が高い。MDRD式では、GFRの過小評価になり、Cockroft-GaultではGFRを過大評価すると言われている(Am J Perit 2007)。そのため、妊娠中のGFRのGold standardとしては24時間蓄尿のクレアチニンクリアランスになる。

タンパク尿に関しては尿のタンパク/クレアチニンが評価に用いられる。蓄尿のタンパクの方が正確であるが、ある研究(AJKD 2003)では正確性に差はなく、簡便であるため、これが用いられる。
妊娠患者でのタンパク尿の測定の意義は2つあり、1つは妊娠中のタンパク尿の推移の把握をし、腎炎などが妊娠時にないかの把握である。2つめは子癇前症(preeclampsia)の診断のためである。preeclampsiaは定義は妊娠20週以降に、新規の高血圧(140/90を超える)、タンパク尿(24時間で300mg以上)を認めるものである。
preeclampsiaの診断に尿のタンパク/クレアチニンを用いることは24時間蓄尿に比べてどうなのかという議論はある。
これに関しては、あるメタアナリシスで24時間蓄尿に比べタンパク/クレアチニンを用いた場合のpreeclampsiaの診断感度は90%で特異度は78%となっている(Clin chem 2005)。
タンパク尿が250-400mg/dayの時は診断しづらいという報告もある。

今回は、妊娠における腎機能の話とタンパク尿の話をパート1として話した。
次回以降に腎機能障害についてお話ししていこうと思う。


2016/12/30

suPARとタンパク尿(proteinuria)

前回の投稿でsuPARとCKDについて記載した。これは、Nephrologyの2015年のインパクトのあるもので14番目にランクされた(ちなみにこの年の1位はSPRINT trial)。

今回、nature medicineから基礎の分野であるがsuPARに関する論文が発表され、2016年のインパクトのある論文の1位を獲得しているので見ていただきたい。

この論文は
タンパク尿の増加は腎疾患(糖尿病や高血圧や遺伝子異常や薬物や感染や原因不明なもの)の特徴である。suPARは前述した様にCKDの進行や発症に関連がある。例えばFSGSなどとの関連性もある(Nat med 2011)。
しかし、suPARの上昇が未来の腎疾患の予測になるかは不明確であり、今回の論文では骨髄由来のimmature myeloid cellsがsuPAR上昇に関連あるものとして、動物実験でsuPAR高値を持つタンパク尿を有する動物の増加したGr1(lo) myeloid cellsを健康なマウスに導入しsuPARとタンパク尿を有する腎疾患の関連を示すものである。

この論文はとてもよく練られているものであり、今までFSGS(移植後の再発も)やCKDとの関連性が言われていたsuPARがタンパク尿の腎症との関連性があるとのことであり、今後このsuPARを抑えることで腎疾患のコントロールがつきやすくなるのかもしれない。

この様に基礎実験の上に臨床が成り立っていると実感する論文であり、また今後の腎疾患の未来を明るくするものであると感じた。