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2017/12/09

ADPKD~少し知っておいていいこと~

T 「ADPKDのこと好きになりました!色々と他に知りたいこともあって。。嚢胞ってプスッと穿刺して水抜いて小さくするのはどうなんですか?あと、トルバプタンに関しても具体的な使い方や保険も教えてくれませんか?」


M 「とても大事な疑問ですね。やはり、実際に机上の話だけでは臨床の応用はできないので、今日はしっかりと実践にもつながる事を含めて話しましょう!」


★腎嚢胞穿刺吸引について
前提として、腎嚢胞穿刺吸引によって腎機能が保たれたりするエビデンスは現時点では認めていない。そのため、無症状の患者に腎機能を良くするために穿刺吸引を行う事はすすめられない。
基本的に適応になるのは、症候性(嚢胞に伴う慢性疼痛。腹部圧迫症状)の改善のための一つの手段として使用される(J Endo 2013)。
海外のものでは、吸引ドレナージにはなるが感染性嚢胞で抗菌薬治療に奏功しない場合には適応となっている
下記はADPKD2014のガイドラインにある、Flemingらの症候性ADPKDの治療アルゴリズムである。

ADPKD ガイドラインより抜粋
どのように手技を行うか:
エコー下経皮的腎嚢胞穿刺吸引療法が使用されている。
通常の単純嚢胞であれば穿刺して、縮小効果を維持するためにエタノールなどの硬化剤を使用する事が多い。
しかし、ADPKDなどであれば、基本的には全ての嚢胞へのアプローチはできないため安全性を考慮して、疼痛を来たしていると考えられる、1つないし少数の大きな嚢胞をターゲットとして治療する事が多い。


合併症は嚢胞出血・血尿・嚢胞感染・気胸などがあるため、注意する!


★トルバプタンの具体方法
トルバプタンの使用適応
①両側総腎容積が750ml以上
②腎容積増大速度が概ね5%/年以上


では、腎容積に関してはどのように測定するのがいいのか?
検査機械のmodarityは基本はMRIやCTを用いて検索する。測定に関しては下記のように計算をして腎容積をもとめる。


杏林大学ページより引用


なので、腎臓の容積をもとめ、年毎の増大速度を計算する。
そこから、年齢・両側総腎容積・腎増大速度/年をもちいて患者の腎機能低下を予測する(下図:大塚製薬資料より)。
大塚製薬資料より引用



大塚製薬資料より引用
なので、これによって患者さんには個別化した治療になる。
80歳の高齢者に腎予後をのばす事を目標としてトルバプタンの導入をすることは個人的には、適応は無いと考える。


もし、患者さんがトルバプタンの導入をしようと思った場合には原則は入院加療でおこなうべきである。用法・用量に関しては、色々とあるが一例としては、


160mg2回(朝45mg夕方15mg投与開始


160mgの用量で1週間以上投与忍容性があれば190mg(朝60mg30mg)へ増量


③最高用量を1120mg(朝90mg30mg)と1週間以上の間隔を空けて段階的に増量する。
    最高用量は1120mgまで


入院中の指導として大事なのは尿量が非常に増えるため、水分補給をしっかりとして頂くことが重要となる。また、肝機能障害の有無に関しては検査をする必要がある。


また、本邦ではADPKDに対するトルバプタンの処方にあたっては、高用量であり大塚製薬のe-learningを受講する必要があり、その受講後にもらえるサムスカカードが重要になる。
(e-learningの受講は担当MRに確認してください。)


また、大事なのは難病申請である。
難病申請を行う事で自己負担の軽減につながる。下図のように所得によってことなるが、自己負担額が3割→2割になり、軽減される。


大塚ホームページより
トルバプタンは30mg:4000円/錠で、60mg内服で8000円/日となる。
単純計算で(1か月を28日とした場合)
3割負担で67200円、2割負担で44800円となる。


そのうえで、上限が下図のようになる。そのため、難病申請は患者負担という意味では非常に重要である。
大塚ホームページより


T 「ありがとうございます!長々と話していただいてすみませんでした。腎嚢胞の穿刺吸引のこと、ADPKDの周囲の状況などよくわかりました。」


M 「日常の臨床では、患者さんの病態のこと周囲の保険のことの把握も非常に大事です!なので、患者さんの常に視点にたって医療をできるようにしましょう!」







2017/11/24

ADPKDについての復習と新しい試み ②

前回、簡単なADPKDに関しての概論を話した。

ある時に、のんびりとコーヒーを飲みながら歩いている時に後輩の先生からこのように尋ねられた。仮に後輩をTとして自分をMとする。

T「先生に教えていただいたことをよく見ながらやっていたら、自分の外来の人にADPKDっぽい人がいました。でも、30歳で腎機能もGFR<60未満なんです。なんか、トルバプタンも使うといいという報告もあるし、この人の治療をどうすればいいですか?」

M「いい質問ですね!本邦で使える薬も含めて見ていきましょ!最近、これに関する論文も出ているので是非見てね!」

ADPKDは個人的にはやはりとっつきにくいなと思う時も多い。それは、やはり患者予後や治療プランや方向性をある程度自分が知っておく必要性がある。

※まず、脱線するが最近の報告でFGF23とADPKDの話題が取り上げられている。FGF23上昇と腎サイズ上昇は関連があり、腎サイズ上昇は腎予後不良に直結する(CJASN 2017)。

治療について
・血圧管理
 −厳密な血圧管理はADPKDの進展を予防する可能性を示しており、薬剤としては投与禁忌がなければACE-IやARBは初期の血圧治療薬として推奨されている(理由としては、RAA系の活性上昇と細胞外液量増加のため。)。特にタンパク尿があるものには効果があるとされ、HALT-PKD trialではARBとARB+ACE-IでADPKD進展を比較しているが、差はなかった(NEJM 2014)。

※まず、血圧管理で120-130/70-80mmHgを目標に禁忌がなければACE-IやARBを1剤でいいので入れる。

・塩分制限
    −塩分制限に関しては2g/日以下を推奨しているものもある。塩分制限の効果としては、尿中Na排泄増加→腎疾患悪化につ上がることがわかっているためである(CJASN 2011)。これは、先に述べたHALT-PKD trialでも証明されている。ADPKDでは高血圧になる傾向もあり、それに対しての塩分制限は重要である。

・飲水励行
 −これは、原理としては血清のバソプレシン濃度を抑えてADPKDの嚢胞の進行を防ごうとしている。ある先行研究からは水を3L/day以上飲むと尿浸透圧を抑え、ADH分泌も抑えるとしている。ただ、腎不全の進行した症例などは飲水によって低ナトリウム血症が助長される場合もあるため、気をつける必要性がある。3L飲むのは大変そうである。。

・スタチン投与
 −高脂血症は慢性腎不全患者の冠動脈病変の進展に寄与する。また、CKD患者の腎機能の進行をスタチン投与で遅らせることができる報告もある。ADPKDのデータは少ないが、RCTでプラバスタチン(メバロチン)が小児や若年のADPKDの進行抑制に寄与したという報告もある(CJASN 2014)。

・トルバプタン
 −トルバプタンが効果がある機序としては、詳細は図に示すが、嚢胞の増大にはcAMP上昇が関与している。そのcAMP上昇を抑える治療としてトルバプタンが用いられる。
杏林大学ホームページより

トルバプタンとADPKDの関連でまずは覚えておく必要があるのが、TEMPO trial(NEJM 2012)である。研究の詳細は割愛するが、世界129の医療機関でのRCT第3相試験である。1445人に対して961人にトルバプタン投与、484人がプラセボに振り分けられ3年間見た研究になる。腎容積の増加に有意な差が認められた研究である。日本人グループでの解析も行われているが、その結果でも効果があったという。

トルバプタンに関しての詳細は次回の話題に述べるが、今回はREPRISE trial(NEJM 2017)に関しての話題である。
この前提として、トルバプタンはTEMPO trialの結果を受けて承認される国もあったが米国のFDAでは承認されなかった。その理由としては、やはり副作用である。
副作用は肝機能障害、多尿、夜間頻尿などであった。
また、TEMPO trial ではGFR≧60の患者を対象に見ている研究であった。

今回のREPRISE trialでは、平均GFR41(30-50)の中等度〜重度腎不全に対するADPKD患者のトルバプタンの作用を見ている。詳細は割愛するが、一年の期間で見てCKD stage4の人であってもトルバプタンの効果があるということが示されている。副作用に関しても肝機能上昇は投与群で5.6%で非投与群で1.2%であった。ただ、全体を通しての副作用には有意差はなかった。FDAはこの結果を見てどう動くのか?また、この論文の感度分析では高齢者での効果は薄く、非白人でも効果は薄いという結果であった。
なので、現時点では非高齢者(55歳以下)のADPKDの症例で腎不全があってもトルバプタンを内服することができる場合には適応になる可能性はありそうである。

・mTOR阻害薬
 −これに関しては、2010年のNEJM,NEJM2に論文が出ている。シロリムスとエベロリムスを用いて見ているが現状では腎機能障害を遅らせるという報告には至ってはいない。
mTOR阻害薬が用いられる理由としては、ADPKDではmTORパスウェイの活性化が促進していることがあり、これを阻害したらどうだろうというのが治療薬の選択となった。

他にもソマトスタチンやアミロライド、メチルプレドニンなども選択肢にはなっている。
今回は、特にトルバプタンの話題に触れたかった。

では、会話に戻る。
M「最近の論文でGFR<60の人に対するトルバプタンの使用も有用性は認められているね。あとは、トルバプタンを使用するとかなりの部分で患者さんに協力してもらわないといけないことも多くなるから、それが大丈夫であれば患者さんと相談して始めよう。あとは、保険や金銭的なものも。これは、次回に話すね。」

T「ありがとうございます。とてもスッキリしました。」

ADPKDは遺伝性の疾患であり、一人を見つけたら家族も考えて治療・検査も行わなくてはならない。

2017/11/19

ADPKDについての復習と新しい試み ①

今回はADPKDについての話題に触れたいと思う。


自分の患者でもADPKDの人は多いが、遺伝性疾患であるので患者のケアももちろんであるが家族のケアも非常に重要な疾患である。
下図のように進行性の病気であることもわすれてはならない。




まず、今回はADPKDに関してお話しするが、ARPKD(常染色体劣性多発性嚢胞腎)もしっかりと認識しておくことは重要である。


常染色体優先遺伝の場合は下記。
常染色体上に存在する一対の遺伝子の一方に異常があれば発症する。
なので、やはり家族へのケアは注意する必要性がある。


大塚製薬サイトより


原因:遺伝子異常が原因
ADPKD:PKD1遺伝子とPKD2遺伝子が主役になる。このPKD遺伝子は腎臓ならば尿細管の液体のながれを感知し、肝臓ならば胆細管の胆汁の流れを感知する。流れを感知して、順序よく並んで流れをスムーズにいくように働きかけている。
※PKD1から作成されるものがPC1(polycystin1)、PKD2から生成されるものはPC2である。


※PKDの違いによるものは下記に示す。

杏林大学Homepageより
杏林大学Homepageより



この遺伝子異常が生じると、順序よく並べなくなり嚢胞が生じる(図)。


その際に治療で重要になるのが、cAMPである。
cAMPは抗利尿ホルモン(バソプレッシン)の作用を細胞内に伝える働きがある。
正常細胞ではcAMPは細胞増殖を抑制するが、ADPKDでは嚢胞細胞の数を増やしてしまう。

★また、ADPKDの発生に関しては遺伝子異常はもちろんであるが、下図に示すように多彩な原因で生じてくる。その一つが肥満である(図)。(JASN 2007


症状に関してはほとんど無症状の場合が多い。
血尿が30%程度におこり、嚢胞感染や嚢胞出欠などがある際に生じる背部痛を契機に気づかれる症例もいる。

検査:下記が診断基準となっている。

つまり、検査ではCT検査やMRI検査が重要となる。
ここで、除外すべき疾患として記載されているように、それらの疾患の可能性はどうなのかを常に考えることは重要である。
家族内発生をしっかりと認識する事は一番重要である。


また、併存症の管理が大事である。
致死的になるものは脳動脈瘤破裂であり、だいたい10%程度の人に見られるものなので、ここに関しては把握しておく必要がある。
杏林大学Homepageより


2部構成に今回はしようと思う。
今回の点で大事なのは、遺伝子異常はもちろんのことADPKDを悪化させるものはないか?家族は大丈夫か?である。




2016/06/21

Expand differential diagnoses 2

 ADTKDと言われても初耳だが、私が卒業してからKDIGOがADTKD consensus conferenceをひらいて遺伝性の尿細管萎縮と間質線維化(IFTA)で末期腎不全にいたる諸病をこう総称することにしていた(doi:10.1038/ki.2015.28)。

 尿管拡張がmicrocystに見えることからMCKDと呼ばれていた時期もあったが嚢胞腎とは違うので紛らわしいということになった。総称されるのUMOD、MUC1、REN、HNF1Bの遺伝子異常で、これらの遺伝子は遠位ネフロン(UMODはHenle上行脚、TAL)にある(HNF1Bは腎外にもあり、糖尿病の亜型MODY5をおこす)。多くの場合小児科でみつかるだろうが初発年齢、腎機能悪化速度に差があり孤発例もあるので成人外来にくるかもしれない。

 UMOD異常はNKCC2チャネルを阻害して体液量を減らし代償的に近位ネフロンでの尿酸再吸収を増やすと考えられており、FEuric acidが5%以下になるのが特徴だ。腎生検でIFTAのほかにTAL細胞内のUMODたんぱく貯留がみられる。

 MUC1はムチンをコードするユビキタスな遺伝子だが、遠位ネフロンでは糸球体内腔をコーティングしている。この変異でできる異常たんぱくMUC1-fsが細胞内にたまるが他の臓器で異常をきたさないのがなぜかは分かっていない。

 RENはプレプロレニンをコードしており変異があるとレニン産生細胞が異常レニンがたまることでアポトーシスを起こす。これがIFTAを起こすしくみはまだわかっていない。

 HNF1Bは転写因子で肝、膵、腎などで諸遺伝子発現を調節しているが腎ではUMODの発現に関与している。動物実験でHGFによる尿細管発生をSOCS3遺伝子を介して抑制すると考えられている。

 また膵発生では内分泌細胞の前駆となるNGN-3遺伝子陽性細胞がHNF1B陽性の原始膵管細胞の周囲に並ぶが、HNF6発現を欠損させると膵管細胞でHNF1Bが発現されなくなり内分泌前駆細胞も並ばなくなるという。MODY5なのに普通の2型糖尿病として診断されることもあるから注意が必要だ。RCAD(renal cysts and diabetes syndrome)と呼ばれていたこともあり、腎嚢胞があればとくに。

 ただADTKDができて、今度は遺伝形式が違う嚢胞を主病変とする疾患があぶれた。Juvenile nephronophthisis(日本語ではネフロン癆;赤芽球癆、眼球癆、脊髄癆などもあるが共通した病気ではない)、Bardet-Biedl syndrome、Jorbert syndrome、Meckel-Grober syndrome(MKS)、Alstrom syndrome、Oral-facial-digital syndrome Type I(X-linked)などだ。

 しかしこれらは線毛に関係する遺伝子異常だとわかってきており、ADPKDとならびciliopathyと総称される(JASN 2009 20 23にもレビューあり、図;Jeune症候群は前稿に書いた)。ARPKDも原因遺伝子PKHD1の主要な遺伝子産物fibrocystin/polyductinがPKDの遺伝子産物polycystin 2と相互作用する。

 多発性結節症コンプレックス(TSC)は9番染色体にあるTSC1、TSC2遺伝子の異常でmTOC1が活性化されるが、TSC2とPKD1は隣同士なので大きなデリーションでは2つが抜けてTSC2/PKD1 contiguous gene syndrome(PKDTS)を起こす。




 これでもあぶれるのはvon Hippel Lindau病、medullary sponge kidney(MSK)くらいか。MSKは比較的有病率が多く、Beckwith-Wiederman症候群(巨舌、腹壁欠損、過成長)、Ehlers-Danlos症候群、Marfan症候群との関係があるが原因はいまだ不詳(尿管芽と後腎組織の相互作用異常が示唆されている)。

 Ca結石患者の20%にみられるともいうが、無症状で診断されていない例も多い。腎髄質の点状石灰化、IVPで腎乳頭に「花束」「刷毛」と言われる特徴的な像がみられる。問題は石と感染で、石にはクエン酸Kなど、感染はとくにurea-splittingな菌に注意が必要で「aggressiveに治療」とある。ただしこれらが守れれば腎機能低下をおこさないこともできる疾患だ。

[2016年6月追加]遺伝性間質性腎炎に、karyomegalic interstitial nephritis(核巨大化間質性腎炎)がある。ネフロン癆に似ているが、原因遺伝子FAN1はDNA damage response pathwayに関係する。これがないとinterstrand cross-linkの修復ができず(Nat Genet 2012 44 910)、その結果ciliopathy的なフェノタイプになるのかもしれない。たいてい20-40代くらいの兄妹で緩徐に進行する腎障害で発症する報告が多いが、常染色体劣性遺伝とされる。Lancetにも知っておこう的な記事が載っている(Lancet 2013 382 2093)。

[2018年12月追加]Nature Communicationsに発表された研究によれば(DOI: 10.1038/s41467-018-07260-4)、CKD患者コホートのGWASで引っかかる100以上の遺伝子多型(CKD-defining trait)のうち、3つでGFR低下との因果関係が証明された。そして、その代表的なものが上記のMUC1だった(なお他はNAT8BとCASP9だった)。

 MUC1の多型rs4072037は、MUC1遺伝子が転写されたあとのスプライシングパターンを変え、結果MUC1たんぱく質のN末端で9アミノ残基が失われるらしい(下図dからe、欠損部分はf、論文より)。




 ささいな違いだが、MUC1は腎にとって重要な分子なので、何か意味があるのだろう。そしてどう腎機能低下に関わるかは、今頃「よーいドン!」で各国研究機関が調べている。なおMUC1といえば日本で発見された肺臓疾患マーカー(肺がんにも応用されている)KL6の標的抗原でもあり、わが国からの研究成果にも期待したい。



2016/06/20

Expand differential diagnoses 1

 I can't know everythingと言いながら、学ぶことが尽きないのは感謝すべきことで、少しずつ学び続けるのが専門医の道かなと思っている。腎機能低下とたんぱく尿で、脂質パネルをみるとHDLが10mg/dlを切っているときはLCAT(Lecithin-Cholesterol Acyltransferase)欠損症を想起すべきだと教わった。コレステロールのエステル化ができず非エステル化コレステロールがたまって糸球体に泡沫細胞、内皮細胞と基底膜の肥厚がみられる。腎外では赤血球脆弱による溶血性貧血、角膜混濁などを起こす(部分欠損で角膜のみ異常なのはfish eye diseaseと呼ばれる)。

 家族性で稀な小児科の病気かと思ったが末期腎不全に至るのは40-50才代、日本だけで17の遺伝子変異が確認されており、さらに孤発例もあるだろうから成人腎臓内科外来、とくに日本ではいつ来るかわからない。さらに自己免疫機序で抗LCAT抗体による後天性LCAT欠損と、免疫複合体によるとみられる膜性腎症でみつかった症例報告もある(JASN 2013 24 1305、この症例は20年来のSjogren症候群と、ネフローゼになる15年前からたんぱく尿の指摘があった)。治療はFabry病のように酵素を補充すればいいかというとそうではないようで、LCAT遺伝子導入前脂肪細胞の自家移植が試されているという。

 というわけで読み込んだはずの教科書の空白部分を開くと糸球体沈着病の類縁疾患で成人腎臓内科医も知っておくべきものがいくつかあった。Lipoprotein glomerulopathyは日本で1986年初報告され、APOE遺伝子変異の名前もSendaiとかKyotoとか日本の地名がついている。Apolipoprotein E(A、Bも)が内皮細胞に貯まり脂肪塞栓様にみえる。主に貯まるのはApoE2/E3、ApoE2/E4だが、ApoE2/E2(家族性III型高脂血症の場合)、ApoE3/E3(乾癬との合併報告あり)も。Fibratesが試みられる。

 Collagenofibrotic glomeropathy(collagen III glomeropathyとも)は、Collagen IIIの異常を起こす点でLMX1B遺伝子のhaplotype insufficiencyであるPatella-Nail syndromeと似ているが主病変は腎臓だ(多臓器への沈着もしられていはいるが)。常染色体劣性遺伝だが責任遺伝子は明らかでないようだ。緩徐に進行する腎機能低下とたんぱく尿で中年で気づかれることがおおい。これも初報告は1979年、日本で、アジアに多い(Clin Kidney J 2012 5 7)。糸球体はTrichromeで真っ青になり(内皮下、メサンジアル領域;PAS弱陽性)、電顕で特徴的なスパイラルフィブリルがみられる(図、烏龍茶エキス染色でよく見えるらしい)。


 Fibronectin Glomerulopathyは常染色体優性遺伝で内皮下、メサンジアル領域に異常fibronectinが蓄積する。約半数はFN-1遺伝子変異がみられるが他は不明だ。尿潜血、尿蛋白、高血圧、4型RTAなどを20-40才代で発症し、効果的な治療はなく数十年の経過で緩徐な腎機能低下をおこして末期腎不全に至る。初報告は1995年欧米だが、日本にも稀ながら報告はある。Late-onset adult cystinosisはリソソーム膜のシスチン輸送たんぱくをコードするCTNS遺伝子のマイルドな変異で、10代後半ころ、有名なFanconi症候群や角膜異常ではなくシスチン血症の糸球体沈着によるFSGS様のネフローゼで発症する。

 ここからは本当に稀でしかも子供の病気だが、Hurler症候群(デルマタン硫酸やヘパラン硫酸の沈着)、von Gierke病(glucose-6-phosphatase欠損)、Gaucher病(グルコセレブロシドの沈着)、Refsum病(分岐脂肪酸であるフィタン酸の沈着)、nephrosialidosis(neuraminidase欠損、糸球体と尿細管の細胞が空胞だらけになる)、I-cell病(ムコリピドーシスII型)など。Imerslund症候群(先天性コバラミン欠損;AmnionlessとCubilinでできた小腸でのビタミンB12吸収に特化したCubamという受容体の異常)もたんぱく尿がでるが腎機能低下はまれ、Jeune症候群(窒息性胸郭異形成症とも;新生児の病気、線毛に関係するIFT-80遺伝子、線毛運動に関係するダイニン重鎖をコードするDYNC2H1遺伝子が関連)も腎症がしられているという。

2015/05/30

遠位ネフロンの遺伝子異常

 昨日の投稿でpseudohypoaldosteronism type 1について触れたが、このへんは混乱しやすい(というか初稿で間違えてGordon症候群とか書いてしまった…Gordonは今はFHHとも言われるけど昔はpseudohypoaldosteronism type 2とmisnomerがついていたので;訂正してお詫びします)ので、この際だから遠位尿細管の遺伝子異常とそれが起こす症候群をまとめた表(米国時代に作って米国腎臓内科フェローたちが学びを共有するウェブサイトに載せたもの;クリックすると拡大します)を貼っておく。日進月歩についていくのも大変だが、学んだ知識をretainするのも大変だ。時々振り返らなければならない。



2013/10/03

代謝性アルカローシス 5/5

 代謝性アルカローシスの治療は、Cl-補充、K+補充、嘔吐に制酸薬(機序を考えれば病気の本態を治療している訳ではないが)、アルドステロン過剰(あるいはGRA、AMEなど)は腫瘍を摘出するなりdexamethasoneを使うなり抗アルドステロン薬を使うなり甘草を止めるなり。Liddle症候群ならamiloride…、と病態が分かっていれば思いつくのはそんなに難しくない。しかし、実行するのは難しいこともある。

 たとえばGitelmanやBartter症候群は大量に漏れるK+を補うのが本当に難儀だ。重度の非代償性心不全で利尿していたらK+喪失も多いしCl-も補えない。HCO3-を捨てようとacetazolamideを使うのも理にかなっているものの、副作用のK+喪失が激しくcounter-productiveになる恐れもある(こういうときはvaptanなのだろうか…?あるいは透析か)。Bulimiaだって隠れた利尿剤だって、精神的な治療は時間がかかるし難しい。

 ここまで代謝性アルカローシスをオーバービューした。あと、二次性変化(いわゆる「代償」)のこともあるが、以前触れたからいいや。尿細管の機能を新しい切り口で学べて楽しかった。それに、体液量とか腎外喪失とかアルドステロンとか、全身と腎臓とのダイナミックな関わりを体感するのもエキサイティングだった(このエキサイティングさは、尿細管アシドーシスどころではない)。

 代謝性アルカローシス、最高!!


2013/01/25

TEMPO3:4

 気になっていたTEMPO3:4トライアル(NEJM 2012 367 2407)をやっとレビューする機会があった。自分で読むタイミングがなかったので、Grand Roundで話すトピックを探していた内科レジデントに「これなんかいいんじゃない?」とお勧めし、スタディ論文といくつかの参考文献をセットにして送っておいたのだ。彼の発表は分かりやすく面白く高評価で、私も学べたし、これぞチームプレイ?

 ADPKDで同定された二つの遺伝子異常PKD1もPKD2も、尿細管細胞の内腔側に一本ずつヒョロっと付いている線毛に関係しており、nephronophthisisなどと同様にciliopathiesの一つだ。Kartagener症候群で内臓逆位になるように線毛は極性決定に関係するので、難解なレビュー(NEJM 2011 364 1533)によればPKDでは尿細管細胞が縦に伸長せず横に伸長し、cystやら何やら作ってしまうらしい。

 どうしてtolvaptanが試されたのか?それは、線毛の異常が尿細管細胞に起こすさまざまな変化(細胞内カルシウム濃度の低下、cAMP増加、mTORなど細胞増殖シグナル、他)の一つがV2Rだからだ。ADHが多いとcystが成長してしまうので、もともとADPKD患者さんは日ごろから水をたくさん飲むようアドバイスされていた。では、いっそV2Rをブロックしてはどうか?というのがこのスタディだ。

 このスタディが2012年に腎臓内科界が最も興奮したニュースなどと騒がれる一つのわけは、それが腎のサイズ増加率を低くしたのみならず、GFR低下率も低くしたからだ(もう一つのわけは年末に発表されたからだが…)。プラセボ群との差は有意だが正直控えめだ。そのわけは①両群とも水分摂取を励行したから、②病気進行がゆっくりな(あるいは病初期の)患者群が対象だったから、などと推測されている。

 [2016年7月追加]ADPKDは単一遺伝子(PKD1、PKD2)疾患ではあるものの、その異常の種類がさまざまで、おのおの病状の進行などがちがう。というのもPKD1は14000塩基以上で46個のexonを持つ巨大な遺伝子なうえに、1-33番までのexonはPKD1遺伝子のそばで6回複製されている(進化の過程でつかわれなくなったとされる偽遺伝子PKDP1-PKDP6)からだ。PKD2遺伝子にも15個のexonがある。それでいままではPKD1異常のほうがPKD2よりも進行が早いというくらいのざっくりさしか分からなかった。

 しかしPKD1特異的PCRによって、フレームシフトや大きな欠損だけでなくミスセンス変異やin-frame insertion/deletion(コドンが崩れない3塩基単位の挿入欠損)のようなわかりにくいももわかるようになった(JASN 2007 18 2143、CRISPコホート)。その技術をトロントのTGESPコホートに用いて腎・生命予後を調べた研究結果がでた(JASN 2016 27 1861)。すると、protein truncatingなPKD1異常がもっとも悪く、次にPKD1 in-frame insertion/deletionで、non-truncatingなPKD1異常と変異が見つからない群はPKD2とほぼ同じだった。これらは白人中心のコホートなので、日本の研究結果も知りたいところだ。

 ADPKDは画像診断で遺伝子検査は高価なうえ研究や遺伝コンサルティングでないとしないと思われるから、TEMPO3:4トライアルはもちろんPKD1、PKD2、PKD1異常の種類までランダム化していない。各遺伝子異常の進行速度は腎サイズに相関するので、腎サイズを合わせていればあるていど振り分けられるとは思うが、理論上同じ腎サイズでも進行の早い若い症例と進行の遅い高齢者がいるので、そういう目で見たほうがいいかもしれない。


2012/03/11

Oxalate nephropathy

 先日、oxalate nephropathyについての講義があった。講義したのは、なんとレジデント時代の先輩だった(うちのスタッフ枠に応募し、面接の一環で講義していた)。この人は一緒にいた当時は威張ったところがあったが、そのあとMayoで修行しただけあって、レクチャの様子といい質問を受ける様子といい、あふれる知性に謙虚さが同居する様子で、「変わったなあ」と感心した。

 さて内容だ。Oxalateは腸管から吸収される分とendogenousに作られる分がある。腸管からの吸収には脂肪酸、カルシウムなどが関係しているが、それ以外にもSCL26A familyと呼ばれるトランスポーターや、oxalobacter formigenesという細菌などが関係していることが分かった(関係文献:Nature Clinical Practice Nephrology 2008 4 368)。

 Endogenousなほうは、glyoxylateからLDHによってoxalateになる(関連文献:JASN 2001 12 1986)。Glyoxylateはperoxisomeとcytosolのあいだを往き来できるが、peroxisomeではglyoxylateが出来過ぎないように、alanine + glyoxylate → pyruvate + glycineという反応が起きている。これを司る酵素がalaine/glyoxylate aminotransferase(AGXT)で、主に肝臓に存在している。補酵素はvitamin B6。

 Cytosolでも、glyoxylateが全てoxalateにならないようにglyoxylate → glycolateという反応が起きている。これを司るのがglyoxylate reductase(GR)だが、この酵素には他の活性(hydroxypyruvate reductase, HPR)もあって、合わせてGRHPRと呼ばれる。これも主に肝臓に存在している。

 AGXTの異常による高oxalate血症をprimary hyperoxalosis type 1(PH1)、GRHPR異常によるものをPH2という。確定診断には肝生検、DNA検査などが必要になる。治療は、尿路結石がチョコチョコでているうちは支持的でよい(食事、補水、PH1には大量Vitamin B6療法)が、腎機能が低下するとそうではない。

 というのも、PH1、PH2の患者さんではGFRが30ml/minを切ると身体でどんどん作られるoxalateが行く場を失い、どんどん溜まる。これをsystemic oxalosisと言って、calcium oxalateが骨など(基本的に全ての臓器)に沈着し痛み、貧血、神経症状などが起こる。だからoxalateを除くため早期に透析導入する(場合によっては長時間透析や持続透析が必要)。

 腎移植は成績が良くない、というのも身体中にcalcium oxalateが大量に溜まっている限り、そして酵素異常のために肝臓がどんどんoxalateを作り続ける限り、せっかく移植した腎もすぐさまoxalate nephropathyに掛かってしまうからだ。なので肝腎同時移植が推奨される。oxalateの血中濃度が戻るには時間がかかるので、大量の輔液とalkali citrateで腎を洗い流す必要がある。


[2020年1月6日追記]高シュウ酸血症には二次性もあり、脂肪酸やbile saltが吸収されない患者さんではenteric hyperoxaluriaが起こりcalcium oxalateの結石ができやすい。カルシウムが脂肪酸に捕捉されてそのまま吸収されずに流出してしまうことと、小腸(回腸末端)で吸収されずに流れてきたbile saltにより大腸の小分子透過性が亢進することが主因という。

 ・・そしてそれが、NEJMの人気コーナー、"Clinical Problem Solving"の先週号で取り上げられた(doi:10.1056/NEJMcps1809996)から、もはや世界の常識になってしまった(写真はテネシーでデビューしたガーナ出身の歌手・Ruby Amanfuによる1998年のファーストアルバム、"So Now The Whole World Knows")!




 症例は、ベースのCrが1.4mg/dlだった55歳女性が、数日間の食思不振や倦怠感のため受診したところ、Cr 11.8mg/dlであったという。腎前性・腎後性腎障害を除外されたあと、CVVHDFを行いながら腎生検したところ、シュウ酸カルシウム結晶がメザンギウムに沈着し、周囲に軽度の炎症を伴っていた。

 それだけなら非特異的だが、BMIが43kg/m2で、数ヶ月前から肥満治療薬・オルリスタット(リパーゼ阻害薬、日本では未承認)を開始された病歴が鍵になった。

 さらに、尿中シュウ酸排泄が1.06mmol/d(正常値は0.04-0.5)なこと、一次性高シュウ酸血症を疑わせる代謝異常がみられず(尿中glyoxalate・glycerate・hydroxy-1-oxoglutarateは正常)、遺伝子異常もみられなかった(上記のAGXT・GRHPRだけでなく、PH3の原因遺伝子HOGA1も正常)ことから、二次性の診断にいたった。

 本例はオルリスタットを中止してビタミンB6を投与したが腎機能は戻らず、腹膜透析依存となった。オルリスタット投与開始後は頻回に腎機能をフォローするなどの予防・早期診断が望まれる。さらに知りたい方は、レビュー論文(NDT 2016 31 375、World J Nephrol 2015 4 235など)も参照されたい。


 ・・それにしても、タイトルを"When the Cause Is Not Crystal Clear"とつけるあたり、アートだ(こちらも参照)。Cで頭韻を踏み、さらにクリスタル・クリア(とても明らかなことを意味する英語イディオム、下図も参照)と、結晶のクリスタルを掛けている。さすが、英国の著者だ。


(出典はこちら


2011/08/25

suPAR

今週のjournal clubは二本の興味深い基礎研究の論文が紹介された。一つ目はカリウムチャネル遺伝子のひとつ(KCNJ5)の変異が細胞内へのカルシウム流入を介してアルドステロン産生と細胞増殖を起こすことを示した、アルドステロン産生副腎腫瘍の病態生理の一部を明らかにする論文(Science 331, 768-772, 2011)。

 この研究者は、遺伝性アルドステロン産生副腎腫瘍の家系を探し出し、腫瘍の遺伝子(exome)をくまなく調べた。そして共通するsomatic mutationを見つけ、その部位が生物種を越えて保存されていることを示した(進化の過程で保存されているということは、それだけ生存に重要と考えられる)。さらにたんぱく質構造解析により変異部位はチャネルの透過特異性に重要ということも示した。

 もう一つの論文は、FSGS(原因不明のネフローゼ症候群、治療法も確立していない)の原因に、circulating urokinase receptorが関与しているというもの(Nature medicine 17, 952-960, 2011)。FSGSは移植した腎臓にも起こるぐらいだから、この病気を起こす何らかの"circulating factor"(血中を流れる未特定の物質)があるに違いないと考えられていた。

 この研究者はすでに腎臓糸球体の足細胞の細胞膜にあるurokinase receptorが、細胞間器質のbeta-3 integrinなどを介して足突起のeffacementを起こすことを知っていた。さらに研究を進めて、urokinase receptorは細胞膜を離れて血中を循環することを突き止めた。

 そこで、①FSGSはcirculating factorによると考えられている、②urokinase receptorは糸球体病変を起こす、③urokinase receptorはserum soluble urokinase receptor(略してsuPAR)として血中を漂っている、という考えを総合して、④suPARがcirculating factorなのではないか?という推論を立てそれを証明しにかかった。

 調べてみると、FSGS患者の血漿には、原疾患を問わずsuPARの濃度が高いことが分かった。また患者血清を健康なヒトの足細胞に振りかけるとbeta-3 integrinが誘導されることが分かった。この効果はrecurrent FSGS患者の血清でより大きく、患者血清に抗suPAR抗体を混ぜると打ち消された。

 さらにsuPAR遺伝子(plaur)ノックアウトマウスを作製し、このマウスにsuPARを大量静注したり、wild typeのマウスにノックアウトマウスの腎臓を移植したり、さらにはwild typeのマウスにplaur遺伝子入りのプラスミドを組み込んでsuPARを異常発現させたマウスを作ったりして、suPARがFSGSを起こすことを美しく論理的に示した。

 これは、膜性腎症にPLA2Rが関与していることが判ったのに続き、難病であるネフローゼ症候群の病態解明につながる重要な論文だ。これからさらに、suPARがなぜFSGS患者で異常に発現しているのか、suPARを除去すれば病気は元に戻るのか(残念ながら今のところ血漿交換はFSGSには効かない)、など研究が進んでいくことだろう。