気になっていたTEMPO3:4トライアル(NEJM 2012 367 2407)をやっとレビューする機会があった。自分で読むタイミングがなかったので、Grand Roundで話すトピックを探していた内科レジデントに「これなんかいいんじゃない?」とお勧めし、スタディ論文といくつかの参考文献をセットにして送っておいたのだ。彼の発表は分かりやすく面白く高評価で、私も学べたし、これぞチームプレイ?
ADPKDで同定された二つの遺伝子異常PKD1もPKD2も、尿細管細胞の内腔側に一本ずつヒョロっと付いている線毛に関係しており、nephronophthisisなどと同様にciliopathiesの一つだ。Kartagener症候群で内臓逆位になるように線毛は極性決定に関係するので、難解なレビュー(NEJM 2011 364 1533)によればPKDでは尿細管細胞が縦に伸長せず横に伸長し、cystやら何やら作ってしまうらしい。
どうしてtolvaptanが試されたのか?それは、線毛の異常が尿細管細胞に起こすさまざまな変化(細胞内カルシウム濃度の低下、cAMP増加、mTORなど細胞増殖シグナル、他)の一つがV2Rだからだ。ADHが多いとcystが成長してしまうので、もともとADPKD患者さんは日ごろから水をたくさん飲むようアドバイスされていた。では、いっそV2Rをブロックしてはどうか?というのがこのスタディだ。
このスタディが2012年に腎臓内科界が最も興奮したニュースなどと騒がれる一つのわけは、それが腎のサイズ増加率を低くしたのみならず、GFR低下率も低くしたからだ(もう一つのわけは年末に発表されたからだが…)。プラセボ群との差は有意だが正直控えめだ。そのわけは①両群とも水分摂取を励行したから、②病気進行がゆっくりな(あるいは病初期の)患者群が対象だったから、などと推測されている。
[2016年7月追加]ADPKDは単一遺伝子(PKD1、PKD2)疾患ではあるものの、その異常の種類がさまざまで、おのおの病状の進行などがちがう。というのもPKD1は14000塩基以上で46個のexonを持つ巨大な遺伝子なうえに、1-33番までのexonはPKD1遺伝子のそばで6回複製されている(進化の過程でつかわれなくなったとされる偽遺伝子PKDP1-PKDP6)からだ。PKD2遺伝子にも15個のexonがある。それでいままではPKD1異常のほうがPKD2よりも進行が早いというくらいのざっくりさしか分からなかった。
しかしPKD1特異的PCRによって、フレームシフトや大きな欠損だけでなくミスセンス変異やin-frame insertion/deletion(コドンが崩れない3塩基単位の挿入欠損)のようなわかりにくいももわかるようになった(JASN 2007 18 2143、CRISPコホート)。その技術をトロントのTGESPコホートに用いて腎・生命予後を調べた研究結果がでた(JASN 2016 27 1861)。すると、protein truncatingなPKD1異常がもっとも悪く、次にPKD1 in-frame insertion/deletionで、non-truncatingなPKD1異常と変異が見つからない群はPKD2とほぼ同じだった。これらは白人中心のコホートなので、日本の研究結果も知りたいところだ。
ADPKDは画像診断で遺伝子検査は高価なうえ研究や遺伝コンサルティングでないとしないと思われるから、TEMPO3:4トライアルはもちろんPKD1、PKD2、PKD1異常の種類までランダム化していない。各遺伝子異常の進行速度は腎サイズに相関するので、腎サイズを合わせていればあるていど振り分けられるとは思うが、理論上同じ腎サイズでも進行の早い若い症例と進行の遅い高齢者がいるので、そういう目で見たほうがいいかもしれない。