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2018/11/08

PPI(プロトンポンプ阻害薬)はどうするべき?(腎臓疾患の場合)

 毎年、米国腎臓学会でもこの話題はポスター発表などで見かけることが多く、また関心が強い理由としては処方することの多さなのかもしれない。
 
 下記の表は2016年に発表されたNDB(レセプト情報・特定健診等情報データベース)のものであるが、PPIの使用は2番目に多い。




 では、今回は腎疾患患者でどんな場合にPPIが必要なのか?

 使った場合のデメリットをどこまで考えているかを少し話したいと思う。

 台湾や韓国の報告(Ren Fail 2011, World J Gastro 2015, Clin Exp Nephrol 2016)などで、いくつかPPI使用がいいという報告(上部消化管症状の改善、上部消化管出血の減少、QOLスコアの改善など)がある。

 これらの報告は、血液透析患者を患者群としたものであるが、報告の中には使用期間が4週間だけであったり実際の臨床の現場とそぐわないものも多い。

 PPIの使用に関しては、色々なところで警鐘が鳴らされており、一つにCanadaのChoosing wiselyでも取り上げられている。

 ・Do you need a PPI?
 ・PPIs have risks.
 ・PPIs can change the way other drug work.
 ・When should you consider a PPI?
 ・Ease heart burn without drugs.
 ・Watch what you eat.
 ・Eat smaller meals and do not go to bed right after you eat.
 ・Stop smoking.

 これは非常に大事なことである。

 PPI使用のリスクは既知の事実かも知れないが列挙しておく(Eur J Gastroenterol Hepatol 2018)。

 一般的には

 ・低マグネシウム血症(入院率増加、利尿薬と併用で増加)
 ・VitB12欠乏症
 ・CD(Clostridium difficile)感染
 ・認知症(BBB通過し、アミロイドの変性を起こしアルツハイマーに。)
 ・肺炎
 ・臀部骨折
 ・心血管疾患(最近の研究でも示唆、Plasma Asymmetrical Dimethyl Arginineの上昇と NO(nitro oxide)の減少が心血管疾患発症に関連)
 ・悪性腫瘍(大腸、膵臓、胃がんなど)
 ・腎疾患

 などを引き起こす。

 血液透析患者でPPI使用のリスクも報告されている。低マグネシウム血症、高リン血症、動脈石灰化、骨密度低下などである(Drug Saf 2013, Nephrology 2012, Int J Clin Pract 2009,)。

この中でも、やはり骨折を起こさせないことは重要になる。

 一般でのPPI使用での骨折の絶対リスクは低い(0.1-0.5%)。しかし、透析患者ではこの割合は高くなる。また、骨折を生じた場合に入院が必要になり廃用が進み寝たきりになる可能性もある。

 我々の処方がどこまで患者さんのアウトカムにはつながるかは、目に見えてわかるものではないが、処方をするときになるべくリスクを考え、必要なものを最小限にを目標にできたらと思う。





2013/05/06

EGF and Mg

 マグネシウムを愛する人が訪れたい場所でまず思いつくのはギリシャのThessaly地方にあるMagnesiaであろう。ここで取れる滑石、Mg3Si4O10(OH)2がmagnesiaと呼ばれたのがマグネシウムの語源だからだ。

 そして、もう一つ訪れたいのがEnglandのSurrey地方にあるEpsom。ここの泉から湧く水はMgSO4を多く含み苦く、水気を抜いたEpsom saltという粉が医薬品として昔から売られていた。もっとも今では当時の面影はほとんど残っていないらしいが。

 前置きはさておき、マグネシウムについてまた学ぶ機会があった。それは、血中マグネシウム濃度はPPI、calcineurin inhibitorsなど様々な薬の影響を受けるが、ほかに分子標的抗がん剤EGFR inhibitors(のなかでもcetuximabとerlotinib)もあるということ。

 これは、EGFが遠位尿細管でEGFRに結合してMgチャネルTRPM6発現を増やしMg再吸収を増やすからだ。それをブロックするEGFR inhibitorを投与すれば尿中Mg排泄が増えて低Mg血症になる(Clinical Science 2012 123 1)。

 それから、マグネシウムとは関係ないがEGFR inhibitorのcetuximabがネフローゼ症候群を起こしたかもしれないという報告を知った(DOI: 10.1177/1078155212459668)。分子標的抗がん剤のなかでは他にVEGF inhibitorのbevacizumabが蛋白尿とネフローゼのリスクを上げる(JASN 2010 21 1381)。

 VEGF inhibitorの方は、なんとなく「VEGFって言うくらいだからそれをブロックしたら糸球体の内皮細胞異常が起こるのかな」と想像されるが、原因ははっきり分かっていない。Thrombotic microangiopathyの報告もあるようだ。


[2020年3月25日追記]上述のEpsom(エプソム)は、元々からして地名である。Epsom Downsと呼ばれる丘陵に位置し、その地盤はほぼ100%が石灰岩の一種、白亜(chalk)だ。泉から湧くのが硬水なのもうなずける。

 ハイキングに最適のようで、ロンドンの街並みも望める(写真)。またエプソムは、英国で最も格式の高い競馬場の一つ、Epsom Down Racecourseがある(ダービーとオークスの舞台)。


出典はこちら


 いっぽう、硫酸カルシウムの英語は、gypsum(ジプサム)。エプサムと語感が似ているが、こちらは地名ではない。ギリシャの自然哲学者・博物学者のテオプラストスが名づけたそうだ。「ギプス」の語源でもある。

 ジプサムの結晶は、岩の空洞内部に生えるように産出することがある。こうした岩を晶洞(geode)というが、世界最大のものはスペイン南部のプルピ晶洞だ(写真)。1999年に元鉱山で発見され、2019年8月に一般公開された。


出典はこちら


2013/01/04

PPI and AIN

 米国でおそらく一、二を争うほど多く処方されるPPI(OTC、処方箋がなくても買える)。この薬と間質性腎炎(AIN)の関係はよく知られているし、実際臨床でもPPIを止めてクレアチニンが下がるというのはよく経験する。しかし、それ以上にこのトピックを掘り下げる機会はなかった。こないだRenal Grand Roundでこれが取り上げられ、紹介された文献に触れた。

 ひとつはオーストラリアの著者が書いたeditorial(Nephrology 2006 11 379)で、ニュージーランドの論文(Nephrology 2006 11 381)がPPIによるAINの罹患率が1:12000と発表したのを紹介していた。ほとんどが腎生検で確定診断された例だから、おそらく実際はもっと多いだろう。PPIのなかではomeprazole関連のAIN報告が最も多いが、これがomeprazole固有の問題なのか、先行薬でそれだけ報告が多いのかは不明だ。

 もう一つはコロンビアのグループによるsystematic review(Aliment Pharmacol Ther 2007 26 545)。色々検索して、腎生検による確定診断例に限ってピックアップしたら1970-2006年のあいだに60例みつかった。それらを分析すると、非特異的な症状が多く(腎障害なので無理もないが、典型的とされる発熱や皮疹はまれだった)、約半数は利尿剤やACE阻害薬を併用していた。

 投与からAIN発症までの期間は?2-52週間と幅があった(ただし2/3は12週間以内)。治療は?ステロイド?有効性のエビデンスは乏しい。薬を止めたらどうやってGERDをコントロールするの?H2ブロッカーを奨めるが、それでは症状を抑えられないこともある。

 このジレンマを紹介したNEJMの論文"Bitter pills"が有名だ(NEJM 2010 363 1847)。PPIによるAINを疑って、PPIを止めてステロイドパルスしたら、クレアチニンは下がったが上部消化管出血になったという話だ。日々の臨床経験ではステロイドはまず使わない、薬を止めただけでクレアチニンは下がる。

 なおPPIで腎臓内科がもう一つ知っておくべきことは低Mg血症だが、この話はまた。

2012/07/28

FEMgふたたび

一年前にFEMgなるものを初めて知り、それからCNI(calcineurin inhibitors)やGitelman症候群で遠位尿細管のMgチャネルTRPV5によるMg再吸収が阻害されることなどを学んだが、「FEMgの正常値は?」と問われて知らないことに気づき、実験データを調べた。

 このMg好きによるMg好きのための論文(Magnesium Research 1997 10 315)によれば、extra-renal wastingによる低Mg血症患者さんではFEMgが1.4%(0.5-2.7%)、renal wastingによる患者さんでは15%(4-48%)だった。Control群では1.8%(0.5-4%)だった。

 腎機能が悪ければFEMgも下がるのではないか?と思われたが、彼らのデータによればrenal wasting群のクレアチニンは1.2mg/dl(0.7-1.4)で、血中Cr濃度とFEMgには相関は見られなかった。

 低Mg血症は利尿剤(renal wasting)、下痢、PPI(extra-renal wasting)によっても起こるし、通常は病歴でrenal wastingかextra-renal wastingか分かるはずだが、FEMgが助けてくれるかもしれない。やっと正常値が分かったので、これからもっと使ってみよう。