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2018/01/09

尿AGプラス

 AASKコホートで酸摂取量・酸排泄量などと腎・生命予後をみているグループ(以前の論文はこちらにまとめた)から、あたらしい論文がCJASNにでた(doi.org/10.2215/CJN.0377417)。尿アンモニア排泄量と、尿アニオンギャップの相関を調べたもので、「相関しない」という結論だった。以前も書いたように尿アニオンギャップは


[測定されない陰イオン] - [測定されない陽イオン]

 なので、NH4+だけでなく測定されない陰イオンの影響も受けるからだ。測定されない陰イオンのなかでは、硫酸イオン(SO42-)、リン酸イオン(HPO42-、H2PO4-)がおおきい(不揮発酸)。HCO3-は尿pHが6.5以下では尿中には有意な濃度で存在しないのであまり問題にならない。

 硫酸イオン、リン酸イオンを測った「尿AGプラス」を以下のように求めると、尿アンモニアと相関する。


尿AGプラス = ([尿Na] + [尿K]) - ([尿Cl] + [尿硫酸イオン] + [尿リン酸イオン])

 ここまでするなら尿アンモニアを直接測れば?と思われるだろうし、これだけやっても蓄尿容器にクエン酸がはいって尿pHが測れない、など問題がある。エディトリアルも「CKDの実臨床では尿AGプラスの価値はほとんどない」とそっけなく書いている。結局、血液検査と随時尿でわかるHCO3-と尿pH以上に使いやすく情報量の多いマーカーが現れるかはわからない。





 [おまけ]今回の論文で、尿リン酸はモリブデン酸塩(MoO42−)の光度計法、尿硫酸は硫酸バリウム(BaSO4)の沈降法で測定している。尿といえば、尿酸濃度は昔リンタングステン酸(H3PW12O40)の還元を利用して測定していた。元素が好きな方は、Ag、P、Sなどと合わせ周期表(下図)のなかに探してみてはいかが。なお尿アンモニア濃度はグルタミン酸脱水素酵素法で測定している。





2017/07/10

素敵な論文との出会い

 尿検査項目でまず見るのはなにか。ERで研修医をしていたころは、まず白血球エステラーゼと亜硝酸塩で尿路感染症かを見たものだ。あるいは、ケトンをみてケトアシドーシスか見る(Ketostix®でないとβOH酪酸は測れないが)かもしれない。ほかにも潜血、蛋白、糖、比重などそれぞれ情報がおおいけれど、尿pHについてはどうだろう。

 尿pHは、RTA結石で問題になるけれど、注目度はあまり高くないかもしれない。しかし、クロード・ベルナール先生が恒常性をみつけたきっかけはウサギが「酸を食べれば尿に酸を捨て、アルカリを食べればアルカリを捨てる」観察だし、食事の酸負荷が腎にあたえる影響という「裏テーマ」は最近腎臓内科で注目をあつめてもいる。

 さらにこのテーマは、糖尿病領域でも注目されている。フランスのE3N-EPICコホートで高いPRALとNEAPが糖尿病発症のリスクだと示され(Diabetologia 2014 57 313)、日本のコホートでも若い男性についてのみ示された(J Nutr 2016 146 1076)。糖質だけでなく酸も独立した糖尿病リスク因子のようで、RAA系とか、(バルドキソロンがターゲットにする)Nrf2とか、いろいろ機序が推察されている。

 …という文脈で、この論文(Diabetes Res Clin Pract 2017 130 9)に出会った。ニュースになっているから知っている人も多いかもしれない。京都の先生が出しておられるが、NAGALAという岐阜のNAFLD(非アルコール性脂肪肝;酒は飲んでいてもいいらしい)コホート男性、平均40歳代の約3000人を5年フォローしたものだ(写真は長良川)。




 で、個人的に「いいね(英語はLike、図)」と思ったのは、酸負荷の指標に尿pHを用いたことだ。




 食事の酸負荷を尿で調べるとき、24時間油壺に蓄尿したりアンモニア濃度を測ったりするのは手間だ。食事内容の詳細なアンケートをとる方法もあるが、これも手間だし正確かわからない。いい方法はないかな?と誰もが思う。尿AGもひとつだが、素直に尿のpHで代用したら?というストレートな発想がグッドデザイン(図)と思う。



 結果、尿pHが5.0の群は、5.5、6.0、6.5以上の群のくらべて糖尿病の発症率がたかかった(統計的なパワーは測られていないが、有意差あり)。尿pHが低い群は、高い群にくらべて尿酸値がたかく、BMIがたかく、高脂血症がたかく、飲酒量がおおかった。言い換えると肉食でメタボな感じだが、これらを考慮して多変量解析しても、有意差がでた。

 なお、eGFRが60ml/min/1.73m2未満は除外され、内服薬のない人を対象にしているので、CKDや利尿薬・RAA系阻害薬など酸塩基平衡に影響する要素はあまり考えなくてよさそうだ。血中のHCO3-を測っていないことは筆者も認めている。

 しかし、そもそもこの論文の趣旨は、尿pHのように健診でやるような基本的な項目から糖尿病という大事な危険を予測できるかもしれないということにあると思う。ときに半定量的で不正確なマーカーと切ってしまうこともある尿pHだが、そう言わずに調べてみたらちゃんと結果がでた。腎臓内科医としては少し反省し、謙虚な拍手を送りたい。

 次の方向は、3つだろうか。ひとつは尿pHが酸負荷のよいマーカーかを検証すること。さらに、もうひとつは酸負荷が糖尿病を起こす仕組み(あるいは、尿pH低下そのものが糖尿病を起こすのかもしれないが…それは、腎臓内科の仕事かもしれない)。さいごに、尿pHをほかのこと(とくに腎予後)についても調べて結果が出るか。

 楽しみなことをいろいろ考えさせてくれる、素敵な論文に出会えた。







2017/05/18

火星だより 4

 同じ食塩量を摂っていても、アルドステロンとコルチゾンの1日排泄量(それぞれUAldoV、UCortisoneV)には波がある。高い日と低い日の差は、6g/d食でも9g/d食でも12g/d食でも大体同じで、UAldoVは7.6mcg/d、UCortisoneVは33.8mcg/dだった。

 UAldoVが多い日は、少ない日にくらべて飲水量がおおく、尿量がすくなく、水がたまった(体重も増えた)。ここでも、以前に書いた、尿浸透圧と尿量の変化から自由水どれだけたまった(または、捨てられた)かを計算する方法をつかっている。


 いっぽう、6g食から12g食にするとUAldoVは減る(平均5.1mcg/d)。上記変化はUAldoVが7.6mcg/d増えた結果なので、UAldoVが5.1mcg/d減った影響は上記に5.1/7.6を掛けて正負を反転させたものになるとグループは考えた。


 同様のことをUCortisoneVでもおこなうと、次のようになる。6g/d食から12g/dになってコルチゾンはふえるので、今回は正負が反転しない。ここでUAldoVの時と違う点のひとつは、体重が減らなかったことだ。コルチゾンがふえて自由水が捨てられたのに、飲水量がかわらないのだから、体重は減りそうなものだが減っていない。


 これをみてグループは、捨てられた自由水は内因的に作られた水、つまり代謝水だと推察している。食べ物から余計に水が作られれば、飲み水が増えなくてもいい。たしかに糖質コルチコイドには異化を亢進する作用があるから、それでいいのかもしれない。

 では、アルドステロンはどのように尿量をへらし、コルチゾンはどのように尿量をふやすのか?それを調べるのに、グループはそれぞれのホルモンが高い日と低い日の尿中溶質排泄と浸透圧をくらべてみた。

 するとアルドステロンが低い日は、高い時にくらべて尿Na排泄量(UNaV)がふえたが、尿K排泄量(UKV)は減り、尿素排泄量(UUreaV)も減ったので全体の溶質排泄量はかわらず、尿浸透圧はさがった。いっぽう、コルチゾンが高い日は、低い日にくらべてUNaV、UKV、UUreaVいずれもふえたが尿浸透圧はさがった。

 これらの現象でいまのところわかっているのは、アルドステロンがさがるとENaCによるNa再吸収がおちて、それに付随しておこるROMKによるK排泄も減ることくらいだ。これをグループはTraditional natriuretic conceptと呼んでいる(図)が、伝統的というだけあって目新しいことではない。RAA系ということだ。



 いっぽう、アルドステロンと尿素、糖質コルチコイドとNa、K、尿素の関係は、これから調べられるフロンティアだ。これを説明するのに、このグループは伝統的なコンセプトにかわるAlternative natriuretic-ureotelic conceptというコンセプトを提唱していて興味深い(図)。


 なお「-telic」はテロメアのテロと同語源で終末を意味するから、ureotelicとは尿素で終る、つまり「尿素排泄の」ということ。それに対して窒素の最終排泄物がアンモニアの場合をammonotelic、尿酸の場合をuricotelicという(それぞれ魚、鳥など;図はJournal of Experimental Biology 1995 198 273を改変)。


 Alternative natriuretic-ureotelic conceptは、ふえた塩分を排泄するとき一緒に水を失わない合理的な仕組みといえる。RAA系だけでは、塩分がふえるとENaCを介したNa再吸収が減って水が失われてしまう。しかしそれに平行して腎髄質の間質に尿素が蓄積し水を引き、抗利尿に働くかもしれない(推測)。また糖質コルチコイドの働きで代謝水がふえ、飲水量をふやさずに済むかもしれない(推測)。

 これらのメカニズムはいまだ不明だが、糖質コルチコイド作用がたかまってたんぱく異化により尿素が増えているのかもしれない(推測)。髄質への尿素の汲みだしには、UT-A1が関与しているかもしれない(推測)。

 さらに、鉱質コルチコイドと糖質コルチコイドが自由水の管理を互いに拮抗する働きを持ち、どちらも周期的にゆるやかに上下を繰り返していることから、両者はあたかも交感神経と副交感神経、RAA系とプロスタグランジンのように調節しあっているのかもしれない(推測、図)とグループは提唱する。


 このモデルによれば、鉱質コルチコイドがふえると塩と水が身体にたまる(図の環が6時から12時にまわる)。すると今度は糖質コルチコイドが増えて塩と水を捨てる(環が12時から6時にまわる)。塩分摂取がすくなければ塩と水を守る方向、すなわち鉱質コルチコイドが優位になる(図の左半分)。塩分摂取がおおければ逆で、糖質コルチコイドが優位になる(図の右半分)。

 推察ばっかりだが、糖質コルチコイドが体液バランスにおよぼす影響や、尿濃縮に大事な役割をもっているのにいままで(電解質でないためか)あまり掘り下げられてこなかった尿素の仕組みについて考えるきっかけになった。バソプレシン(と血漿浸透圧)を考えなくてもここまで説明できるのは、目からウロコだった。

 ここまで推論したら、あとは実証すればいいというわけで、JCI5月号にもうひとつ載った論文(JCI 2017 127 1944)がそのアンサーソングになっている。これは、べつに紹介する。もしこれからこの領域の知見が増えてくれば、高血圧や腎疾患などの診療が別次元に深まるのかもしれない。UT-A1阻害薬(Nat Rev Nephrol 2015 11 113)とかそういうレベルではなく、それこそ「火星に人が着陸する」くらい、変わるかもしれない。それにしても、宇宙開発はその過程でいろんな科学の副産物をもたらしてくれる。






2017/05/03

アシドーシスの裏テーマ 3(疫学)

 酸の摂取量PRAL、産生量NEAP、排泄量NAEなどによって大規模コホートを層別化してCKDの進行やESRDとの相関を示したスタディが最近でてきた。

 まず2011年、アフリカ系アメリカ人の高血圧性腎症を対象にしたAASKコホートで、Frassettoの式で計算したNEAPと血中HCO3濃度の相関をしらべた論文がでた(CJASN 2011 6 1526)。たんぱくとカリウムの摂取量は24時間蓄尿の尿素窒素とカリウムから推計され、NEAPは平均71mEq/dだった。

 結果、NEAPが10mEq/dふえるごとHCO3-濃度が0.16mEq/lさがり、この関係はCKD2・3期よりもCKD4・5期でより顕著にみられた(図)。いままで代謝性アシドーシスでHCO3-を上げるには重曹と考えられてきたが、このスタディでNAEPを減らすのに(とくに動物性)たんぱくを減らし(アルカリのもとであるクエン酸カリウムなどが多い)野菜や果物をとってもいいんじゃないかと示唆された。


 
 つづいて、NHANESIIIコホートでRemer式の酸負荷(PRALとOAの和)とESRDリスクの相関を調べた論文がでた(JASN 2015 26 1693)。RRALは食事内容のアンケートから推計し、OAは体表面積から計算し、酸負荷は平均で42mEq/dだった。結果、酸負荷が多い群ほどESRDリスクが高く(図)、HCO3-やたんぱく摂取量、糖尿病や高血圧、腎機能やアルブミン尿などの交絡因子の影響を除外しても酸負荷が1mEq/d増えるごとESRDリスクが1.39(95%CI 1.19-1.63)倍になった。


 うえのふたつは酸負荷(摂取、産生量)からみたスタディで、負荷がおおいと腎臓に悪いから負荷を減らそうという結論が示唆された。それにたいして2015年にヨーロッパのNephroTestコホート(KI 2015 88 137)を対象に酸排泄能に注目した論文がでた。

 まずcross-sectional研究をおこない、腎機能が低下した群ほどNAE(尿NH4 + 滴定酸 - HCO3)が下がり酸排泄能がおちているのに対し酸産生NEAP(Frassettoの式)は下がらないのでNAE-NEAPバランスがプラスで酸がたまっていることを示した(図)。


 
 つづいてこのコホートを約4年フォローしてESRDリスク因子について分析したところ、TCO2ではなく24時間尿NH4量(Cr補正)と断食早朝尿NH4濃度(浸透圧補正)に相関がみられた(図)。どうしてNAEではなく尿アンモニアでみたかというと、cross-sectional研究のときに腎機能に比して滴定酸排泄量はあまり変わらず、NAEの低下にもっとも関与するのはアンモニアと考えたからだそうだ。尿HCO3は、もともと微量だ。


このスタディで、

A. 酸負荷がおおいのがいけないのか
B. 酸排泄できないのがいけないのか

 という問題がうまれた(図は前出JASN論文の著者Scialla先生によるcommentary;KI 2015 88 9)。


 で、この問いに答える形で4月に発表されたのがこのブログでも取り上げられた論文だ(doi: 10.1681/ASN.2016101151)。2011年のCJASN論文とおなじAASKコホートを使い、24時間蓄尿で求めたアンモニア排泄量とさまざまな因子の関係を調べた。これをみると尿アンモニア排泄量とESRD/死亡率の関係はU字で、30mEq/を底辺にそれより低いほどあがるのは2015年KI論文と一緒だけれど、たかくても上がることがわかった(図)。



 尿アンモニア能があれば酸をどれだけ摂っても排泄してくれるから大丈夫、というわけではないということだ。そう考えると、前出のA・Bをあわせた

C 酸がたまるのがいけない

 ようにも思われる。NAEPとNAEの差や、間質のアンモニアレベルやそれを代理する新たなマーカーを調べた研究が今後あれば、それについて分かるかもしれない。

 これらを踏まえて、CKDのアシドーシス診療どうなっていくのだろうか?つづく。





2017/05/02

アシドーシスの裏テーマ 2(PRAL、NEAP、NAE)

 動物の食餌にふくまれる酸を見積るDCADについて書いたが、人間の食事ではどうか?よく用いられる式がいくつかある。ひとつは、食事そのものの成分をみるRemerの式(J Am Diet Assoc 1995 95 791)だ。

0.49 x たんぱく[g/d] + 0.03 x リン[mg/d] - 0.021 x カリウム[mg/d] - 0.026 x マグネシウム[mg/d] - 0.013 x カルシウム[mg/d]

 で、S(たんぱく)・Pは酸でK・Mg・Caはアルカリという動物のDCADと同様の考え方だ。これをPRAL(Potential Renal Acid Load)と呼び、これを元にさまざまな食品がどれくらい身体に酸性、アルカリ性かをしらべることができる(ACKD 2013 20 141)。



 ただし、どのミネラルとタンパクをどれだけ食べたかを推計するのは手間で不正確だし、どれだけ吸収されているかもわからない。身体のなかで新たにつくられる酸もある(おもに有機酸)。じっさいにほしいのは、身体で1日につくられる(捨てなければならない)酸の量だ。

 そこで、ベルナールがいうように恒常性が保たれるならば「身体に入ってきた+身体のなかで新たにつくられた有機酸の量」と「排泄された酸の量」は同じでしょ、という前提を導入する。前者をNEAP(Net Endogenous Acid Production)、後者をNAE(Net Acid Excretion)と呼ぶ。健常人ならNEAPとNAEは同じで、身体に酸はたまらないはずである。

 NEAPをさきほどのPRALから求めるには、体表面積や体重で推定した有機酸(organic acid、OA)の量を足す。OA[mEq/d]は

41 x 体表面積[m2] / 1.73m2 または 体重[kg] x 0.66

 だ。あるいは、ふたつめのFrassettoの式(Am J Clin Nutr 1998 68 576)で食事のたんぱく量とカリウム量から以下のように推計する。

54.5 x たんぱく[g/d] / カリウム[mEq/d] - 10.2

いっぽうNAEは、尿からもとめる。

NH4+ + 滴定酸 - HCO3-

 しかし、24時間蓄尿しなければならず、またアンモニアやCO2が揮発しないよう工夫(油の膜を表面にはるとか)するのも手間だ。

 このように酸の1日摂取量・産生量・排泄量はそれぞれPRAL、NEAP、NAEとよばれ、体格と食事量、蓄尿などで算出できる。腎臓が正常な例で、いくつもの仮定をたててつくられた式ではあるけれど、最近はこれらの式と概念がCKD領域の疫学研究に用いられ、治療への応用も示唆されるようになってきた。つづく。


2017/04/21

近位尿細管とアンモニア 3

 近位尿細管でつくられたNH4+は、まずミトコンドリアから細胞質にでるが、その通過にアクアポリン8が関与すると考えられている。アクアポリンといえば水チャネルだが、水のように小さくて電気的に極性のある分子は通す。ただしアクアポリン8遺伝子を削除しても尿中アンモニア排泄はかわらない報告もあるから、ほかの仕組みもあるのかもしれない。

 細胞質にでたNH4+が内腔に排泄されるにあたっては、細胞質と内腔の細胞膜にいくつかの調節の仕組みがある。まず細胞質にはNH4+をグルタミンにもどすglutamine synthetaseという酵素があってNH4+の排泄にブレーキをかけている。この酵素を削除した実験などから、アシドーシスのときにはこの酵素の活動が低下していると考えられる。

 細胞膜をどう越えて内腔にでるか?じつは正確にはわかっていない。以前はアンモニア分子が拡散すると考えられていたが、現在はNa+とH+を交換するNHE3チャネルがH+のかわりにNH4+を通すというのが通説だ。アシドーシスで近位尿細管のNHE3発現量が
ふえて、それにはアンジオテンシンII(AT1を介した)、エンドセリン1(エンドセリンB受容体を介した)がかかわっていることがわかっている。

 ただしNHE3遺伝子を削除しても尿中アンモニア排泄はかわらない(が、Na+再吸収がおちて血圧を保てない。10.1016/j.kint.2017.02.001)。ほかのチャネルを介しているのだろうか。たとえばK+チャネルは、NH4+とK+の流体力学半径が1.14オングストロームで同一で荷電も1価だからNH4+を通す。近位尿細管にはKCNA10、KCNQ1/KCNE1、TWIK-1などたくさんのカリウムチャネルがあって、基底側のNa+/K+-ATPaseだってNH4+を通す。これらを無差別に阻害するバリウムイオンで近位尿細管のアンモニア輸送は止まる。もっとも実験ではNH4+の排泄ではなく再吸収が止まった。
 
 じつはNH4+を通せるチャネルというのはたくさんある(アクアポリン1とか)。渋谷駅の交差点(写真)のような複雑な流れを一本の矢印で説明(図)できるのはすばらしいことだが、これからこの領域の研究がすすむと生理学の理解が変わるかもしれない、と思ったりする。




 
 おまけ:NHE3阻害薬Tenapanorのことを以前に書いた(便中のNa・P排泄をふやし透析患者さんでリン値をさげた)ので参照されたい。

2017/04/20

近位尿細管とアンモニア 2

 近位尿細管にはいったグルタミンはいくつかの経路でミトコンドリアに入り分解される。ミトコンドリア内膜にはPDG(phosphate-dependent glutaminase)があって、

グルタミン → グルタミン酸 + NH4+

 でグルタミン酸になる。グルタミン酸はグルタミン酸脱水素酵素(GDH)により

グルタミン酸 → αKG(αケトグルタル酸) + NH4+

 で、クエン酸回路の中間体であるαKGになる。NH4+が外れたあとは、リンゴ酸になり細胞質にもどり、オキサロ酢酸からPEPCKでホスホエノールリン酸となって①解糖系からクエン酸回路、②糖新生のふたつの経路をたどる。その結果、それぞれ次式でグルタミン1分子あたり2つずつNH4+とHCO3-ができる。

2グルタミン + 9O2 → 6CO2 + 4HCO3- + 4NH4+
2グルタミン + 6H2O + 3O2 → グルコース + 4HCO3- + 4NH4+
 
となる。突然HCO3-がでてきたが、「〇〇酸」とかいてきたのはCOOH基のH+が電離した陰イオン(H+がついたものを「-ic acid」、電離したものを「-ate」と英語表記するが、よい訳語がない)だ。その分が結局HCO3-になると考えてよいと思う。

 代謝性アシドーシスなどでアンモニア産生がふえるときには、以上の反応が進むためPDG、GDH、PEPCK酵素の活性があがる。またミトコンドリアへのグルタミン取り込みをふやすグルタミンユニポーターもしられている。

 なお糖新生でできたグルコースはGLUT1、2を介して血中にでていく。アシドーシスになると糖新生がふえて耐糖能異常になりやすいという説もあるが、議論がわかれている。いずれにしても腎臓が糖を再吸収しているだけでなく糖新生もしている(ふだんでも血中にでていくグルコースの20%くらいは腎臓の糖新生由来とか;Diabetes Care 2001 24 382)、というのは意外と知られていない事実かと思う。砂糖工場だ(写真はSUGAR FACTORYラスベガス店)。

 こうして生まれたNH4+はどうなる?つづく。


2017/04/18

近位尿細管とアンモニア 1

 以前にアンモニアが腎臓でどのように移動しているかをまとめた。図にするとこういうことだ(Am J Physiol Renal Physiol 2011 300 F11より改変)。アンモニアは尿中のほかの溶質とちがってろ過されてくるのではなく、近位尿細管でつくられネフロンを流れる。ループ上行脚のNKCC2でK+のかわりに再吸収され間質にはいる。一部はまたループの下降脚から内腔に戻りリサイクルされ、一部が集合管から排泄される。




 尿中アンモニアと腎予後の論文(doi:10.1681/ASN.2016101151)が注目されてもいるし、これから「HCO3を保てばいい」という代謝性アシドーシス診療が変わるかもしれない。そこで、腎とアンモニアについて基礎から振り返ってみよう(参考にしたのは今年2月にででたPhysiol Rev 2017 97 465、下図も)。まずはアンモニアの生成から。




 以前に近位尿細管で1分子のグルタミンから2つのNH4+と2つのHCO3-が出来ると触れたが、グルタミンはどこからくるか?糸球体をろ過されアミノ酸トランスポーターB0AT1などでほぼ100%吸収される。そのうち分解されてNH4+、HCO3-になるのは一部で、余った分はY+LAT1-4F2hcやLAT2-4F2hcから間質にでていく(かわりにTAT1から芳香族アミノ酸が入ってくる)。略語が多いが、これらのついての説明は別に書く。

 代謝性アシドーシス、あるいは酸の負荷が過ぎる、低カリウム血症などでNH4+排泄を増やしたいときに近位尿細管細胞はどうするか?ろ過されたグルタミンだけでなく間質からもグルタミンを取り込むことがわかり、これは基底側にあるSN1とよばれるNa+依存グルタミントランスポーターによっておこなわれる。上記の条件下でSN1の近位ネフロンで発現範囲と発現量がふえることがわかっている。また取り込んだグルタミンが出て行かないようにか、Y+LATの発現は減る。

 とりこまれたグルタミンはどうなるか?つづく。

 

2017/04/10

尿のアンモニアが予後予測につながる?(Urine Ammonium Predicts Clinical Outcomes in Hypertensive Kidney Disease)

ご無沙汰しています。
4月の投稿の初回です。間が空いてしまいすみませんでした。

今回の投稿は尿中アンモニアの話です(JANS 2017)。
アシドーシスの場合には一般的には腎臓(尿)からHNH4の形で排出される。
尿中アンモニアは尿の緩衝系で働いており、尿中アンモニア排泄の低下は慢性腎不全において代謝性アシドーシスを引き起こす(酸の排泄低下により)。
つまり、尿中アンモニア排泄低下→これがアシドーシス進行や早期の腎不全の予後予測マーカーになるのではということを見た研究になる。

今回の論文は1044人のAASK ( African American Study of Kidney Disease and Hypertension)のデータから取って見ている。
平均のアンモニア排泄量は19.5mEq(6.5-43.2mEq)であった。
排泄量を
①(low group):10.5mEq(4.2-14.8mEq)
②(median group):19.4mEq(15.6-23.5mEq)
③(high group):31.4mEq(24.9-53.1mEq)
に分けた。
結果では、③のグループ(ちゃんと尿中からアンモニアを排泄している群)に比べて、末期腎不全や死亡のリスクが、①のグループのHazard ratioは1.46(1.13-1.87)、②のグループは1.14(0.89-1.46)で上昇していた。



アシドーシスがない慢性腎不全群で見た場合に尿中アンモニア排泄を20mEqをカットオフとして、20以上排泄に比べて、20未満の排泄であれば1年でのアシドーシス発生の頻度が優位に高く、また末期腎不全や死亡のリスクが高かった。



この論文からは高血圧性の慢性腎不全において、アシドーシスがその際に存在していようがいまいが、尿中アンモニア排泄の低下は死亡や末期腎不全のリスクを上昇させると結論づけている。

尿中NH4は日常的に測定できるものではなく、尿AGが用いられており、それを代用とした研究も進んでいるのが事実である。


2013/07/22

アンモニアと腎 2/2

 腎臓でアンモニアはどのような移動をしているか?まだ分かっていない部分もあるが参考文献(Advan in Physiol Edu 2009 33 275、Am J Physiol Renal Physiol 2011 300 F11)を参照に興味深い事実を中心に書く。簡潔に言うと、アンモニアは近位尿細管で作られ、尿細管内に出て、ヘンレ上行脚で再吸収され、間質を移動して遠位ネフロンで再び尿中に排泄される。

 近位尿細管で1分子のglutamineから2つのNH4+と2つのHCO3-が出来る。酸を排泄するにはHCO3-をNBCe1(Na+-HCO3- co-transporter)で間質に残す一方、NH4+を尿細管に捨てなければならない(NH4+が間質に残ると差し引きゼロになってしまう)。アンモニアがNH3として細胞膜を透過して尿細管に出るのか、NH4+として出るのか、NH4+はNHE3(Na+-H+ exchanger)を介して出るのか、詳しいことは分かっていない。

 ただNH3とNH4+の電離定数pKa'は9.15で、pH 7.4下にNH3はアンモニア全体の1.7%に過ぎないし、NH3には極性があるのでリン脂質の細胞膜をそれほど容易には透過しないかもしれない(vasa rectaにある尿素チャネルUT-BがNH3 gas channelでもあるという論文が最近でた、doi: 10.​1152/​ajprenal.​00609.​2012)。

 いずれにせよ、膜を透過したNH3は酸性尿のH+とくっついてNH4+になる。尿細管内腔にトラップされたNH4+は、ヘンレ係蹄上行脚でなんとNKCC2(とapical K+ channel)から再吸収される。というのも、NH4+とK+は大きさや電荷がほぼ同じだからだ。そして基底側のNHE4から間質に戻ると考えられている。

 間質のアンモニアは、永らくNH3分子として組織を漂流し、集合管を透過して内腔にたどり着きNH4+になると考えられていた。しかし最近になってRhBG、RhCGが発見された。RhBGもRhCGも赤血球上でRh血液型を決定するRhAGの従兄弟だが、これらは腎臓・肝臓・腸などアンモニア輸送に関わる臓器に発現している。

 腎集合管でRhBG、RhCGは酸・アルカリ排泄を司る介在細胞により多く見られ、内腔側にも基底側にもある。RhBG、RhCGがNH3チャネルなのかNH4+チャネルなのか意見が分かれ、今後の研究が待たれる(私には、NH3として内腔に出てH+をバッファーしているように思われる)。RhCGは慢性アシドーシスで酸排泄のニーズに応えて発現が増えるなど、調節メカニズムもありそうだ。

2013/07/18

アンモニアと腎 1/2

 我々は魚でないので、窒素老廃物をアンモニアのままにしておけない。1gのアンモニアを毒性レベル以下に希釈するには400mlもの水が必要だからだ(Journal of Experimental Biology 1995 198 273)。それで哺乳類は窒素排泄に尿素を用い、同時に尿素により腎の浸透圧勾配を形成し水保存を可能にしている。

 しかし私達はアンモニアに重要な役割を与えている。それは、酸排泄だ。H+をH+のまま尿に排泄するのには限界がある。尿pHを4まで下げても(血液・間質の約1000倍だ)0.1mEq/L、一日に1mEqも排泄できない。不揮発酸にbufferさせるのにも限界がある。それを越えた酸排泄は、NH4+で行われる(腎臓はNH4+をたくさん作ることが出来る)。

 Eastern Carolina UniversityのTejas Desai先生が主宰するNephrology On Demandの明快レクチャ10-minutes roundsでは尿細管を財布に例えて「H+(と不揮発酸)は現金、NH4+はクレジットカード」と説明する。支払うべきお金すべてを現金で財布に詰め込むのは不可能だから、大きなお金はクレジットカードで決済するというわけ。では、腎臓はNH4+をどのように産生・排泄しているのか?続く。

2012/10/10

野菜や果物を摂ろう

 今週のJournal Clubは、重曹より野菜や果物を摂ろうという、一風変わったトピックだった(KI 2012 81 86)。同じ号のエディトリアル(KI 2012 81 7)の題名も「CKD(慢性腎不全)の進行を止める鍵は薬局ではなく市場にあるかもしれない」と刺激的だ。どういうことか。

 重曹はCKDの末期で透析を遅らせるために用いられる(有効性を示したスタディはJASN 2009 20 2075)が、CKDの早期であっても病気の進行を抑えるというデータもある(KI 2010 78 303)。アシドーシスが腎不全を進行させる機序の一つは、アンモニアがC3のconformational changeを起こすことによる補体経路の活性化だ(アンモニアがC3分子内のthioester bondを解くらしい)。

 重曹はアシドーシスを改善するが、ナトリウムも摂取するので体液貯留や血圧上昇の心配がある。そこで、重曹の代わりに食事でAlkaliを摂ろう、というわけだ。ここで、アルカリ食品という意味を説明しなければならない(オレンジジュースがアルカリと言われても混乱するでしょう?)。

 酸の電離式をおぼえているだろうか(HA⇔H+ + A-)。アルカリ食品とは、このA-(具体的には有機酸のlactateやacetate)を含む食事のことだ。これらは細胞内でTCAサイクルに入る際にH+を食う。このH+は、水と二酸化炭素から来る(H2O + CO2 ⇔ H+ + HCO3-)ので、結果的にHCO3-が生まれる。だからアルカリ食品なのだ。

 逆に酸性食品とは、基本的に肉のことだ。肉、タンパク質にはtitratable acid(滴定酸、sulfateなど)が多く、腎臓にとってacid loadになる。各食品のミネラル元素(Na、K、Ca、Mg、Cl、PO4、SO4)、タンパク質の比率、それに腸管からの吸収率を勘案して、potential renal acid loadを算出したデータ(J Am Diet Assoc 1995 95 791)によると、アルカリ性食品(野菜・果物・ワイン)のなかではレーズンとほうれん草が飛びぬけてアルカリだった。

 Alkali-rich dietは、重曹にくらべて優れているのか?このスタディはrenal acid loadを50%下げる等価のアルカリ食品と重曹をCKD stage 1、2の患者群それぞれに30日摂取してもらい、尿中の腎障害マーカーとされる分子(N-acetyl-beta-D-glucosaminidaseなど)を測定した。結果はCKD stage 1ではどちらも効果なし、Stage 2では両者ほぼ同効果だった。

 研究グループは、食品のほうがカリウムも多いし血圧低下効果もあるから、重曹よりも食品がいいかもしれないと言う。野菜や果物は、腎臓のみならず多くの面でおそらくヘルシーなはず(常識的にもそう)だが、このように科学的に示そうするのも大事かなとは思う。

 [2013年3月追加]CJASNにStage 4 hypertensive CKD患者を対象にした同様のスタディがでて、TCO2(HCO3のこと)は野菜より錠剤のほうが上がったが、腎障害の尿マーカーの改善は大差なかった(CJASN 2013 8 371)。野菜と果実にはKが多く含まれるが、血清Kにも差はなかった(アルドステロンが働いたせいか)。

 [2013年4月追加]動物モデルの論文。7/8腎摘ラットでNaHCO3投与が生理食塩水投与に比べてアンモニア産生を抑えC3活性を抑えた(JCI 1985 76 667)。5/6腎摘ラットにcalcium citrateとcaptoprilを投与し組織学的に傷害が抑えられた(KI 2004 65 1224)。2/3腎摘ラットで腎組織のH+量をmicrodialysisで測るとGFR低下に相関していた(KI 2009 75 929)。2/3腎摘ラットでH+貯留に相関したendothelin-1とaldosteroneをアルカリ投与が緩和した(KI 2010 78 1128)。

2012/02/27

高アンモニア血症

 外科ICUと働くと、内科と考えが違うので時に面倒だが時にとても刺激的だ。たとえば心臓外科が、「心臓バイパス手術前に透析しておくと、透析患者でない慢性腎臓病患者であっても術後の成績が良いという論文が出たから透析してくれ」と言ってきたり。さてこないだは肺移植後の患者さんが高アンモニア血症で、緊急持続透析してくれという申し出があった。

 彼らによれば、高アンモニア血症は肺移植後のまれだが重篤な合併症で、意識障害をきたし、脳圧亢進の危険もあるという。原因は不明で、尿素サイクルのどこかが先天的あるいは後天的に異常なのだろう。症例報告をみる限り主な治療として透析が行われている(Arch Neurol 1999 56 481、Ann Intern Med 2000 132 283、どちらもペンシルベニア大学)。うちの大学の肺移植外科医もペンシルベニア大学出身だ。

 私たちは肝性脳症に透析をしない。それは透析によりアンモニアを除去するのではなく、アンモニアの産生を抑えるのが治療だと考えるからだ。同じことが乳酸アシドーシスにも言える(ショックが改善できなければ透析で患者さんが助かることはない)。だからこの依頼を受けた時に違和感があったが、結局透析した。しかもCVVHDFでアンモニア濃度が下がらなかったので、効果的に除去するために一回あたり6-8時間のintermittent dialysisを繰り返した。

 おかげで患者さんの意識状態は戻ったが、「アンモニアの産生を抑えなければ透析をやめればまた溜まるのだは?」という私の心配は残っている。今のところlactuloseなども使いながら透析なしでアンモニア濃度は低く保たれている様子だ。別の腎臓内科チームが診療しているので、また当直の時(全チームをカバーする時)にでも彼らに状況を聞いてフォローアップしよう。

2011/02/08

RTA

 Noon lectureで腎臓内科医がRTAの話をした。彼女はうちの病院では珍しいHarvard graduateで、教育熱心で有名な先生なのだが、RTAは何と言っても複雑で、聴いている人はほとんど寝ているか苦笑するかしていた。私も正直難解と思ったが、聴きながら非常に面白い物の見方が得られた。さらに、理解を助ける三つのポイントも学んだ。
 面白い物の見方とは、アシドーシスのプロセスを尿細管細胞側(外側)からではなく、尿細管内腔(内側)に視点を置いて観察するということだ。糸球体を透過して濾し出された多くの溶質達が、あたかもシティマラソンのように一斉に内腔を走り出し、途中で「じゃあこれで」と消えていったり(再吸収)、途中から「やあどうも」と参加してきたり(排泄)するイメージ。
 それを踏まえて、三つのポイントについて。一つは、NAE(net acid excretion)という概念だ。
      
NAE = NH4 + titratable acid - HCO3

 腎臓が排出する酸はこの三つにより決定される。遠位RTAは前者二つの異常、近位RTAはHCO3再吸収の異常。NH4イオンは、尿アニオンギャップまたは尿浸透圧ギャップにより推定できる。titratable acidは、尿pHに反映される(NH4についたプロトンは固くアンモニアに結びついて離れず、尿中プロトンのほとんどは滴定酸由来なため)。

 二つ目は、aldosteroneの作用だ。遠位尿細管の詳しいレセプターはさておき、基本的にこのホルモンのおかげで遠位尿細管でNa吸収が起こり、結果生じるluminal negative driving force(尿細管内腔が陰性にチャージされ、それにより陽イオンを引き込もうとする力)によりプロトンとKが排泄されるというイメージが頭に入った。これによりType 4 RTAの機序、それにType 4 RTAが高K血症をきたすことが容易に説明できる。

 三つ目は、HCO3 is a non-reabsorbable anion in distal tubuleという概念だ。あたかも高速道路のように、近位尿細管というexitを逃すとHCO3はそのまま再吸収されずに走りつづけるしかない。その結果、電気的中性を保つためNaを(Kも)遠位尿細管まで引き連れることになり、前述のaldosteroneの作用によりここでNa再吸収とK排泄が起こる。これが近位RTAが低K血症をおこす理由だ。