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2020/12/22

SGLT2阻害薬の注意点

  腎臓内科医師が使う薬剤で最も近年注目を浴びているのが, SGLT2阻害薬である. 当初はDMの治療薬として登場したが, 血糖降下作用以外の心血管イベント予防や腎イベント予防などが次々と明らかになり徐々に適応が拡大してきている.

 ただ「First,  do no harm」という言葉があるように, 常に薬剤の良い部分だけでなく注意する部分にも目を向ける必要がある.

 SGLT2阻害薬の副作用の代表として腎機能障害が有名であるが, いくつかの要因が加わることで生じるDKA(糖尿病性ケトアシドーシス)も忘れてはならない. 今回は参考にしやすい文献があったので簡単にご紹介する.

 SGLT2阻害薬内服中の患者がDKAを呈した場合, 1/3の患者の血糖値は正常と言われている. これをEuglycemic DKA(血糖正常DKA)と呼ぶ. ただ残り2/3はもちろん通常のDKAであり血糖値も上昇している.

 これまではDKA/HHSといえば血糖値も上昇していることが当然だったので, まずこの疾患のことを知る必要がある. なぜなら, 血糖上昇が軽度(<250mg/dl)であるため, 多飲や多尿も軽度であり重篤感が一見認められず見逃されることがあるからである. 

 頻度は観察研究で, 2型DM患者の場合, 1.3-8.8イベント/1000人・年であり1型の場合, 7.3イベント/1000人と1型DMの患者の方が発症しやすい. 特にSGLT2阻害薬を新規に開始してから180日以内に発症することが多いと言われている.

 ここからはQ and A形式で解説する.


 Q SGLT2阻害薬とケトアシドーシスの関係は?

 実はSGLT2阻害薬は複数の臓器に作用している. 言葉で全てを表現するのは難しいため, 本文中の図.1を引用する. SGLT2阻害薬自体にケトン体産生を亢進する作用があり血中ケトンが高値となる. 最終的には, 肝臓からの血糖産生より高血糖が, 腎臓からの血糖排出によりEuglycemicとなるので両者を天秤にかけた時の傾きで最終的に血糖が高いか正常かが決まる. 


 図1:ケトアシドーシスの状況でのSGLT2阻害薬の働き


 Q 注意すべき背景因子は?

 複数ある. 特に, 過剰なアルコール摂取や違法薬物使用者, 食事の偏り(低炭水化物食, ケトン食), 妊娠(現在妊娠を試みている or 妊婦), DKAの既往あり, インスリンへのコンプライアンス不良, インスリン持続ポンプの使用 などが挙げられている.

 

 Q どんなイベントで発症するのか?

 嘔吐, 脱水, 急性の感染, 手術のための入院や緊急入院, インスリンの効果不良 などいわゆるシックデイの状況が生まれることが発症しやすい要因である.


 Q 診断は?

 SGLT2阻害薬を内服している状況で, 血中ケトン上昇とアシドーシスを認めることで診断される. また, 1/3が血糖値が正常であることに注意が必要である. ここでケトン体測定が血中ケトンとされているのは, 尿ケトンと比較して測定できるケトン体の種類が異なるためである. 

 血清ケトン体:3分画であるβヒドロキシ酪酸, アセト酢酸とアセトンを検出

 尿中ケトン定性:ケトン体3分画のうちアセト酢酸とアセトンは陽性と出るが, βヒドロキシ酪酸は陰性

  DKAの際は尿中のβヒドロキシ酪酸の割合が増加する為, 尿ケトン体測定では陰性とでうるためである. 他のアセト酢酸とアセトンは尿中ケトン陽性となるが割合が低下しているため, DKAでもしばしば尿ケトンは陰性だが血中ケトンは陽性となる) 


 Q 治療は? 

 STICH protocolで対応する. 一部強引に頭文字を取った語呂であり, Stop sglT2 inhibitor:SGLT2阻害薬を中止, Inject bolus insulin:インスリン投与, Consume 30g 炭水化物:適度な炭水化物の摂取(インスリンと併せて, ケトン体産生を抑制するため), Hydrate:補液と呼ばれており, 薬剤を中止する以外は普段のDKA/HHSの対応と何ら変わりない.


 Q 予防は?

 SGLT2阻害薬を内服しているとある一定の確率で起きうることを医療者も患者も認識しておくことが重要であり, 患者毎のリスク因子, また新規イベントがあった時に受診するように促す. 

 SGLT2阻害薬はとても期待されている薬であり慢性腎臓病, 糖尿病, 慢性心不全の今後の管理に大きな影響を与えると考えられている. 注目されている薬だからこそ, 様々な側面を理解して適応のある患者さんには使用していきたいと思う。

2020/10/02

(EMPEROR Reducedと)DAPA-CKDスタディ

 2019年4月にCREDENCE(こちらも参照)により「糖尿病のある」CKD患者に示されたSGLT2阻害薬の腎保護作用。しかし、当時から同薬は「糖尿病のない」CKDに対しても有効であろうと推察されていた。

 そしてついに、EMPEROR Reduced(doi:10.1056/NEJMoa2022190)、DAPA-CKD(doi:10.1056/NEJMoa2024816)スタディが発表されたので、順を追って説明したい。


1. EMPEROR-Reducedスタディ


 EMPEROR-Reducedは、EFの低下した心不全(HFrEF)患者を対象にエンパグリフロジン(以下、エンパ)の有効性を調べた日本を含む他国籍RCTだ。ダパグリフロジン(以下、ダパ)の有効性を示した前年のDAPA-HF(NEJM 2019 381 1995)よりも左室収縮能が低い患者を対象にしたことを強調した命名である(平均EF 27%、NT-proBNPは1900pg/ml)。

 両群あわせて3730人の患者が「その国の標準的な」心不全治療を受け、介入群にはエンパ(10mg/d)、対照群にはプラセボが投与された。利尿薬がどのように使われたかは不明だが(ARNIとMRAのみ記載がある)、参考までに日本の心不全ガイドラインに挙げられた利尿薬の推奨用量を以下に載せる。


急性・慢性心不全診療ガイドライン
(2017年改訂版)


 その結果、プライマリ・アウトカムの心血管系死亡と(初回)心不全入院で有意差がみられた(介入群15.8/100人・年、対照群21.0/100人・年、p<0.001)。DAPA-HFと同様、糖尿病の有無に関わらず有効性が示された(糖尿病患者・非糖尿病患者のハザード比は0.72・0.78)。

 それだけでなく、セカンダリ・アウトカムの一つ、eGFRの低下率を調べると、有意差がみられた(介入群-0.55ml/min/1.73m2/年、対照群-2.28ml/min/1.73m2/年、p<0.001)。そして、図にあるように、RAA系阻害薬に見られるような「eGFRが開始直後下がって維持される」パターンも示された。


(赤太線は筆者)


 ただし、本スタディは次に挙げるCKD-DAPAと違い、心不全患者を対象にしたものである。よって、患者の平均eGFRは約61ml/min/1.73m2(約半数が60未満だが、20未満は除外)で、蛋白尿などのデータはなかった(除外基準にも含まれてはいない)。

 なお、SGLT2阻害薬は原理的には低血糖を起こしにくいはずであるが、血糖70mg/dl未満で誰かの助けを必要とした低血糖イベントは、非糖尿病患者の介入群で7件(0.7%)報告があった。ただし、対照群でも6件(0.6%)報告されていた。


2. DAPA-CKD


 DAPA-CKDは、DAPA-HFで(糖尿病の有無に関わらず)心不全患者に対する有効性が確認されたダパ10mg/dを、(これまた糖尿病の有無に関わらず)CKD患者に対して用い、腎保護作用がみられるかを確かめたものだ。腎臓内科としては、EMPEROR Reducedよりもこちらのほうが重要であり、詳しめに解説したい。


■対象患者は?


 日本を含む21カ国386施設で、eGFRが25-75ml/min/1.73m2で尿Alb/Cr比が0.2-5.0の成人CKD患者(4週以上ACEI/ARBを内服している)をリクルート。除外基準にADPKD・ARPKD・ANCA関連腎炎・ループス腎炎・NYHA4度の心不全、12週以内の心血管系イベント/治療などが含まれた。

 その結果、両群あわせて4304人があつまった。平均年齢は約61歳、男性約2/3、アジア系約1/3。平均eGFRは約43ml/min/1.73m2(60以上が約10%、45-60が約30%、30-45が約40%、25-30が約15%)、平均尿Alb/Cr比は約0.9(約半数が1.0以上)だった。

 糖尿病かどうかは問わなかった(ただし1型糖尿病は除外された)が、2型糖尿病患者は全体の約2/3を占めた。平均血圧は約130/70台mmHg、ACEI/ARBに加えて約4割が利尿薬を内服し、カリウム値は平均4.6mEq/lであった。


■アウトカムは?


 プライマリ・アウトカムは、①eGFR低下(50%以上の低下が28日以上あけた再検でも持続)、②末期腎不全(28日以上の維持透析依存、腎移植、またはeGFR15%未満が28日以上あけた再検でも持続)、③腎・心血管系による死亡、のいずれかが最初に起きるまでの時間。

 セカンダリ・アウトカムは、以下の3つ。A:上記①-③(③は、腎による死亡のみ)すべてを複合した時間(①のあと②になって③になる患者もいるので)、B:心血管系アウトカム(心血管系による死亡、心不全入院)すべてを複合した時間、C:総死亡だった。

 また、安全性については、一般的な副作用のみならず、体液貯留・低血糖・骨折・足切断・ケトアシドーシス・フルニエ壊疽などSGLT2阻害薬との関連が懸念されるものも特に調べられた(フルニエ壊疽は、全例を内部安全調査グループが検証した)。


■結果は?


 まず、結果が明らかすぎて、早期中止になった。

 平均2.4年の観察期間で、プライマリ・アウトカムに挙げたイベント①~③が対照群の14%にみられたのに対し、介入群では9%。ハザード比は0.61(信頼区間0.51-0.72)、p<0.001、NNT(1人をイベントから救うために何人の患者に薬を飲ませればよいか)は19だった(信頼区間15-27)。

 ①②③の内訳は下記(*をつけた項目はハザード比の信頼区間が1未満、+をつけた項目は1をまたいだ)。


          介入群  対照群
eGFR低下*     5.2% 9.3%
末期腎不全*  5.1%  7.5%
腎関連死亡    <0.1%   0.3% 
心血管系死亡+  3.0%    3.7%

 
 eGFRの低下傾向をグラフにすると、やはり「最初さがって維持される(低下率が緩徐になる)」傾向がみられた。


表3を元に作成
(青:介入群、赤:対照群)


 また、セカンダリ・アウトカムも、下に示したようにA・B・Cのいずれも介入群で有意に低かった。


  ハザード比(信頼区間) 
A   0.56(0.45-0.68)
B   0.71(0.55-0.92)
C   0.69(0.52-0.88)


■サブ解析は?


 プライマリ・アウトカムのハザード比は糖尿病の有無にかかわらず低かった(糖尿病群で0.64、非糖尿病群で0.50;信頼区間はそれぞれ0.52-0.79、0.35-0.72)。また、eGFRでも差はなく(45ml/min/1.73m2以上で0.63、以上で0.49;信頼区間はそれぞれ0.51-0.78、0.34-0.69)、蛋白尿の多寡でも差はなかった(尿Alb/Cr比1以下で0.54、1以上で0.62;信頼区間はそれぞれ0.37-077、0.50-0.76)。

 年齢(65歳以下・以上)・性別・血圧(収縮期血圧130mmHg以下・以上)などでも有意差はなかったが、地域では唯一「アジア」がハザード比の有意差がギリギリ(0.70、信頼区間0.48-1.0)であった。ただ、人種の「アジア系」は、それほどではなかった(0.66、信頼区間0.46-0.93)。


■安全性は?

 
 有害事象による内服中止、重度有害事象、上述のSGLT2阻害薬で懸念される有害事象の発生率は以下の通りであった。とくに懸念されたフルニエ壊疽は、介入群では0件で、むしろ対照群で1件みられた。


          介入群 対照群 
内服中止          5.5%   5.7%
重度有害事象  29.5%   33.9%
足切断      1.6%  1.8%
DKA(確定+疑い) 0.0%  <0.1%
骨折       4%   3.2%
腎関連有害事象  7.2%  8.7%
重度の低血糖   0.7%  1.3%
体液欠乏     5.9%  4.2%


3. 感想


 冒頭にも触れたように、SGLT2阻害薬は以前から「糖尿病の有無に関わらず心不全・CKD患者で有益であろう」と憶測されていたので、これらのスタディ結果は納得といえる。

 米国FDAは、DAPA-HF発表から約半年後の今年5月にダパを心不全に認可している(こちらも参照)。エンパが心不全に、ダパがCKDに認可されるのは時間の問題だろう。その後、日本をふくむ各国でも使用は広がると思われる。

 個人的には、2013年に「こんな薬があるのか!」と驚いてから(こちらも参照)、糖尿病→糖尿病のあるCKD→心不全→CKDと適応がひろがっていくのを同時代に見られていることをエキサイティングに感じる。

 ・・というのも、そうではなかったかもしれないからである。

 SGLT2阻害薬は19世紀フランスでリンゴの樹皮から抽出された(Annales Academie Science 1835 15 178)フロリジンを祖にもち、〇〇フロジンと呼ばれるのもそのためである。

 しかし、尿糖を起こすことはすぐにわかったが、SGLT阻害作用が示されるまで100年以上かかった(Am J Physiol 1973 224 552)。この発見がなかったら、T-1095(日本の製薬会社がつくったプロトタイプ)などの試行錯誤を経て現在に至ることはなかっただろう。

 今後も、こうした「科学的な本草学」ともいうべき方法で(できれば自分とその患者が生きているあいだに)サクセス・ストーリーがたくさん起きるといいなと思う。


 


 

2020/09/27

SIADの治療、水制限?追加治療は何がいい?

 今年になって、SIADの治療のRCTの論文が3つも出ている。どれも、power自体は小さな研究ではあるが、非常参考になるので少し紹介したい。

2019年に出された、SIADの最新治療と展望はぜひ読んでもらいたい。

本邦のガイドラインでは、治療の手引きでは下記のように記載されている。

次のいずれか(組み合わせも含む)の治療法を選択する。

1:原疾患の治療を行う。

2:1日の総水分摂取量を体重1 kg当り15~20 mlに制限する。 

3:食塩を経口的または非経口的に1日200 mEq以上投与する。

4:重症低ナトリウム血症(120 mEq/L以下)で中枢神経系症状を伴うなど速やかな治療を必要とする場合はフロセミドを随時10~20 mg静脈内に投与し、尿中ナトリ ウム排泄量に相当する3%食塩水を投与する。その際、橋中心髄鞘崩壊を防止す るために1日の血清ナトリウム濃度上昇は10 mEq/L以下とする。

5:異所性バゾプレシン産生腫瘍に原因し、既存の治療で効果不十分な場合に限り、 成人にはモザバプタン塩酸塩錠(30 mg)を1日1回1錠食後に経口投与する。投与開 始3日間で有効性が認められた場合に限り、引き続き7日間まで継続投与するこ とができる。

6:デメクロサイクリンを1日600~1,200 mg経口投与する。


SIADに伴うものでも、重症低Na血症であれば治療は3%生理食塩水などの高張食塩水を用いて治療するが、Naが125や130mEq/L程度のSIADに対しての治療はかなり統一されていないと感じる。水制限をして、塩分負荷をする治療を行うが、患者さんによっては塩分負荷がかなり苦痛に感じる人も多い。

では、ここから3本の結果を説明していく。

・まず、タイで行われたRCT(EFFUSE-FLUID Trial)で92人のSIAD患者さん(腎機能はeGFR>60mL/min/1.73m2)に対して、水分制限群(500-1000ml/day未満)、水分制限+フロセミド群(20-40mg/day)、水分制限+塩分負荷(3g/day)+フロセミド群で比較を行っている。

primary outcomeは4、7、14、28日目の血清Naの変化をみている。


この試験は、open-label試験であり、バイアスの混入は否定できないこと、powerが足りないというlimitationはあるが、水分制限とその他の治療にNa変化の上では大きな変化は認めず、フロセミド投与群では急性腎不全と低カリウム血症の発症の割合が高かった。



ここで、SIADの低Na血症の治療のときにまずは水制限。そして必要があれば追加の治療を検討する。その際にフロセミドや塩分負荷以外の方法はないのか?ということが疑問として出てくる。

追加治療という点でよくトルバプタンを使用することが多くなってきている。しかし、トルバプタンは高価な治療薬であり、また過度に補正されすぎることがある。

そこで、2020年の報告で出てきたものが、エンパグリフロジンのRCTである。


・これは、スイスからの報告であり二重盲検でのRCTで87人のSIAD患者に対して、水分制限(<1000mL/day)に1日1回のエンパグリフロジン群とプラセボ群で4日間投与して比較したものである。primary endpointは4日投与してのNa変化である。

そもそも、SGLT2が用いられている理由は、近位尿細管からのグルコースの再吸収阻害により、尿糖を増加させ、浸透圧利尿により自由水排泄が促されるためである。



エンパグリフロジン投与群ではNa改善においてプラセボに比較して有意に改善を認めていた。

                                  


そして、飲水制限が治療の前提で話していたけど、本当に飲水制限はいい治療なの?というのがアイルランドからの報告で出ている。


この報告は非割り付けのRCTでSIAD患者(46人)に対して水制限群(1L/day未満)と水制限をしない群で比較したものである。primary endpointは4日目と30日目の血清Naの変化である。



水制限群では、11日目の早期にNaは速やかに増加していることがわかる。しかし、その後はそこまで血清Naは動いていない。しかし、非飲水制限群と比較して血清Na濃度は有意に改善していることがわかる。

また、上記の表が、飲水制限群と非制限群の飲水量の違いになる。


この研究から、飲水制限は有用な治療であるが、飲水制限群でも何人かの患者はNa上昇が不十分で飲水制限に追加の治療が必要になっていた。その際の追加治療に関しては、費用・効果などを考えての治療になってくる。今後はSGLT2も一つの選択肢になるかもしれない。


SIADは意外に出会う機会は多い。その中で、最新の知識をupdateしながら管理する必要がある。




2018/11/15

じーんとする学会

 ポスター・口演から生涯学習・人脈作りまで、学会に期待するものは沢山あるだろう。しかし、せっかく世界規模の学会に行くからには、「ビックリ・ワクワクするような発見や発表はないかな?」という蓋を開ける前のサスペンスにも期待したい。



 そんなわけで今年の米国腎臓学会にもHIGH-IMPACT CLINICAL TRIALS(RESULTS THAT COULD IMPROVE KIDNEY CARE)コーナーがあって、大事な研究成果を研究者から直接聴くことができた。一覧はもう公表されている。

・ DPP4阻害薬リナグリプチンのCKD患者に対する腎保護・心血管系の安全性について(CARMELINA®スタディ)

・透析患者で鉄を高用量静注投与しESA量を下げる試みと、その安全性について(PIVOTALスタディ、DOI: 10.1056/NEJMoa1810742)

・次世代SGLT2阻害薬(ベキサグリフロジン)のステージ3CKD患者への有効性と安全性について

・心臓手術後の輸血戦略を比較したTRICSスタディで、閾値を7g/dlにさげてもAKIは増えな
かったというサブ解析

・カナダで透析導入を遅らせる政策が施行されたあとの影響をしらべた、プラグマティック・スタディ

・炭酸カルシウムと炭酸ランタンをくらべて透析患者の心血管系死への影響を調べたLANDMARKスタディ(開始前の説明はClin Exp Nephrol 2017 21 531)

・透析のうつ病患者にSSRIと認知行動療法(透析中、あるいは個室で)を比較したところSSRIのほうが優れていたというスタディ


 PIVOTAL、LANDMARKについては別に考察したい。DPP4阻害薬とSGLT2阻害薬の話は、おそらくそのうち製薬会社の方々から説明されるだろう。透析導入の話は、カナダで巨大な透析レジストリができて、今後さまざまなプラグマティック・スタディが組めるようになったことに意義があるようだった。

 いずれも今後が期待されるし、そういう拍手に会場はつつまれた。

 しかし、最後のスタディは少しちがった。

 結果は私には意外だった。認知行動療法はすべての人には向いていない(宿題をしたり大変)し、透析中にやるのとカウンセリング室でやるのでは効果がちがうのかもしれない。ただ、リハビリなどと一緒で、長生きもさることながら患者さんが透析室に来るのが楽しくハッピーになることを意図した取り組みは、歓迎されるべきだ。

 発表のあと、聴衆の一人が「質問ではありませんが」と前置きしたうえで、「あまり誰も気に留めないこの問題に取り組んでくれて、ありがとう」とコメントした。そして、そのあとに暖かな拍手が起きた。

 それを聴くのは、2013年アトランタの米国腎臓学会で経験したのにも近い、じーんとする感覚だった。

 ワクワク・ドキドキだけでなく、(腎臓だけに?)じーんとするのも学会の醍醐味かもしれない。




 

 


2018/10/05

SGLT2と腎臓に関して

 この話題に関しては何回もこのブログで取り上げている(CANVASとCREDENCEEMPA-REG outcome)。

 とてもいいreviewがAJKDに出ているのでぜひ参考にしてもらいたい。

 SGLT2の使用割合はおそらく全世界で増加しているだろう。

 去年の日経メディカルの記事では処方率は低空飛行とのことであるが、今後使用が期待されている。

 まずは、種類の復習。現時点(2018年)では6種類のSGLT2阻害薬が本邦ではあり、色々と差別化をはかろうと試験が行われている。




 ・スーグラ®

 最初に発売されたSGLT2阻害薬

 用法:1150mgを投与し、効果不十分な場合には1日量として100mgまで増量可

 肝機能が低下している場合などに対する低用量規格(25mg錠)も

 他の糖尿病治療薬との配合製剤に関してDPP-4阻害薬(シタグリプチン)との配合剤(スージャヌ配合錠)がある

 ・ルセフィ®

 用法:通常、112.5mgを投与し、効果不十分な場合は1日量として5mgまで増量可能

 ・フォシーガ®

 用法:通常、115mgを投与し、効果不十分な場合は1日量として10mgまで増量可能

 ・デベルザ,アプルウェイ®

 用法:通常、1120mgを投与する

 ・カナグル®

 用法:通常、11100mgを投与する

 他の糖尿病治療薬との配合製剤に関して

 DPP-4阻害薬(テネリグリプチン)との配合剤(カナリア配合錠)がある

 ・ジャディアンス®

 用法:通常、1110mgを投与し、効果不十分な場合には1日量として25mgまで増量可

 現在までの有用なもの、これから結果が出る試験のまとめとしては下図になる。


AJKD 2017より


 まだ、Dapagliflozinの結果とCanagliflozinのCREDENCEは出てはいないが、以前に示したようにEMPHA-REGやCAMVASでの結果から、有用な結果は見いだされている。

 この糖尿病性腎症に対して予防的に働く機序に関しては直接的な効果と間接的な効果に分けて考えると非常に理解しやすい。

 直接的な効果
 
 ・近位尿細管のNaCLとGlucoseの再吸収をSGLT2阻害薬が防ぐことで、tubloglomerular feedbackがかかり、輸出細動脈の収縮が生じGFRを担保する(下図参照)。
 ・近位尿細管での血糖の再吸収阻害で細胞の炎症や繊維化を防ぐことができる(PLos one 2013)。

 間接的な効果

 ・SGLT2阻害薬による体重の減少
 ・HbA1cの低下
 ・血圧の低下

 などが挙げられる。


AJKD2017より


 日常診療の中で、患者さんのことを考えながらどのように自分の処方が役に立っているのか、そしてそれを常にアンテナを張ってアップデートをしていくことは非常に重要だと感じる。




2017/06/22

CANVASとCREDENCE

 Canagliflozinの治験CANVASと、続編CANVAS-Rスタディの結果がNEJMにでた(DOI:10.1056/NEJMoa1611925)。昨年書いたEMPA-REGと似た結果で、心血管系イベントが有意に下がったといっても、心不全がRR 0.78(信頼区間0.67-0.91)なほかは信頼区間が1.0をまたいでしまう。血圧がさがり体重がへるのもEMPA-REGと同様だ。

 気になることが3点ある。1点目はサブ解析の結果だ。人種ごとに結果を見ると白人の心血管系イベントRRは0.84(0.73-0.96)で有意、黒人はRR 0.45だが信頼区間は0.19-1.03でギリギリ1をまたぐ。そしてアジア系はRR 1.08(信頼区間0.72-1.64)で、なんとプラセボと変わらない。がっかりだ。

 このスタディは30カ国でおこなわれたのでアジア系は全体の13.4%とそんなに少なくはない。有意差が出なかったというのは信頼できるデータかもしれない。そのうち「CANVAS-J」みたいな日本のデータがでるだろうが(パンフレットの表紙はこんな感じか?写真)、この結果と余りに違わないか検証する必要がある。




 2点目は腎予後だ。アルブミン尿の進展、eGFRの低下、透析や腎による死亡はいずれも介入群で数字上はめざましく低い(CIが余裕で1.0未満)。しかしアブストラクトにもあるように、これらの結果は彼らが事前に計画した仮説検証モデルによれば統計学的に有意とはいえなかった。それで結論はpossible benefitと言っている。まして、人種差があるかもわからない。

 SGLT2阻害薬のクラスはどれも腎症予防効果があるように言われているし、その期待に水を差すつもりはない。武器は多いほうがいい。適応のあるひとに期待して使うことも、間違っていないと思う。ただ結果が「possible effect(効くかもしれない)」なことは知っておきたい。

 ここでやめておいても「効く(らしい)!」で(特に日本では)売れるだろうに、「結局ちがった…」というリスクを負ってでも、この会社と研究者は白黒つけに腎予後のCREDENCE(信用という意味)スタディを走らせている。金儲けだけじゃなくて、ほんとうに結果を追求したいのならplausibleなだけでなくapplaudableと思う。

 だからこそ突き詰めてほしいのが3点目、副作用についてだ。以前にFDAが警告していたが、やはり介入群で有意に足切断例がおおかった。ほとんどは趾レベルだが、気持ちが悪いし、いつか足元をすくわれそうだ(写真は絵にかいた穴)。糖尿病患者さんにとって末梢動脈疾患と足壊疽は大問題であり、この仕組みがわかって新しい治療になるかもしれないから研究を期待したい。




 また、日本ではまだあまり知られていないようだから書いておくが、SGLT2阻害薬には血糖正常DKA(eDKA)の副作用がある。すい臓のα細胞にSGLT2があるのでグルカゴン産生に傾く。私も書いたが、代謝のお話だし、詳しくは日本の先生方がお書きになったこちらの論文を参照してほしい。こちらはここまで分かっているし、足壊疽も調べたら何か分かるはず。



[2019年4月18日追記]上に紹介したCREDENCEの結果が、ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシンに今日でた(DOI: 10.1056/NEJMoa1811744、無料で読める)!





 eGFRが30-90ml/min/1.73m2(30-60の患者が60%、中央値は56)でアルブミン尿(300-5000mg/gCr、中央値は927)のあるDKD患者(HgbA1cは6.5-12%、ドイツのみ6.5-10%、中央値は8.3)を対象にして、カナグリフロジン100mg/日とプラセボを比較したこの試験は、アウトカムに早期から明確な差が出て2.6年で「うれしい」中断となった。

 プライマリ・アウトカムは①末期腎不全(30日以上の透析、腎移植、30日以上のeGFR15未満)、②Cr増加(ランダム化前・時から2倍以上が30日以上)、③腎・心疾患死亡を合わせたものだった。これが介入群で43.2/1000人・年、プラセボ群で61.2/1000人・年だった。
もちろん介入群で有意に低い。

 つまり、こういうことだ。





 絶対リスク減少(ARR)は61.2/1000と43.2/1000の差で、1.8%/人・年。1000人を2.5年治療すると、1000×0.018×2.5で45のアウトカム・イベントを予防できることになる。これを言い換えたものがNNT(number needed to treat、何人に治療すればイベントをひとつ回避できるか)というが、CREDENCEで計算されたCanagliflozinのNNTは:

 「22(95%信頼区間15-38)」だった。

 アトルバスタチン10mgを加えた時の心血管イベント/死亡予防効果をしらべたASCOT-LLA(Lancet 2003 361 1149)では、3.3年間治療して得られるNNTが98だったというから、かなりよい数字といえよう(下表は、Oxfordの関係者が独自にエビデンスを鑑定するサイトBandolierから)。




 では、誰に何がどう良かったのか?

 まず「誰に」であるが、サブ解析ではeGFRは60未満の群(数字上は30-44よりは45-59のほうがいっそう有意)、アルブミン尿は1000mg/gCr以上の群で有意差がみられた。スタディが5000mg/gCr以上を除外したのは効果がでないことを怖れたからと思われるが、1000mg/gCrではむしろ有意差が出なかったので、蛋白尿がある程度あったほうが効果が期待できるのかもしれない。

 また特筆すべきは、CANVASでは信頼区間が1にかかってしまったアジア系(コホート全体の19%:アジアからは中国が参加している)が今回ハザード比0.66で、95%信頼区間も0.46-0.95だったことだろう。

 つぎに「何が」についてであるが、個々のアウトカムはいずれも介入群で低かった。ただし細かく見ると、ハザード比の95%信頼区間が0.99未満だったのはCr上昇とeGFR15未満で、透析・移植と心血管死亡はそれぞれ0.55-1.00、0.61-1.00であった。公平に言ってフォロー期間が短く実数が少なかった可能性を最も疑う。

 最後に「どう」であるが、これが解明されるのはもう少し先になりそうだ。糸球体ろ過圧から尿細管代謝まで、論文の引用文献11-17にさまざまな推察が載っているので、アクセスのある方は読んでみるとよいだろう。

11:Circulation 2014 129 587
12:Physiol Rev 1990 70 665
13:JCI 1987 80 670
14:Curr Hypertens Rep 2019 21 12
15:Eur J Endocrinol 2018 178 R113
16:Cell Rep 2018 25 677 (e4)
17:ACKD 2018 25 244

 それでは、副作用についてはどうか?

 上にも書いた足切断や骨折のリスクには有意差がなかった。DKAはやはり有意に高かったが、使い方を分かってきたせいか11件/2200人だった(サプリメントによれば1件が血糖250mg/dl未満のいわゆる「eDKA」であった)。

 尿路・性器感染症についてはサプリメントに書かれているが、尿路のほうは有意差がなく、性器真菌感染症は男性で28件/1439人、女性で22件/761人と有意に高かった。


 腎臓内科のフィールドで、しかもDKDという本丸で、ここまで強いエビデンスが出たのは本当に久しぶりだと思う。約束どおり、investigatorの皆さまに拍手を送りたい。近位尿細管などいままで未解明だった領域に臨床応用が進む第一歩。今後もこの調子で行けば、きっとキセキは起きる。




[2019年5月24日追記]上記CREDENCEの結果はメルボルン開催のWorld Congress of Nephrology(WCN)でPIのVlado Perkovic先生から発表されたが、そのとき会場の聴衆が本当にスタンディング・オベーションしていたことが分かった。

 スタンディング・オベーションは、プライマリ・アウトカムを紹介する時、あえてP値のない2本のグラフをスライドにして、そのあとからP値が「0.00001」だと発表したときに起こったそうだ。いわれてみれば、驚異的な値だ。

 もう読者は推察されているだろうが、これもKSN2019で得た情報だ。APSN/KSN CMEで、APSN会長でもある(WCNにもいらっしゃった)南学正臣先生が、酸化ストレスと低酸素のAKIやDKDへの影響についてのレクチャのなかで紹介してくださった。

 もちろんレクチャはスタンディング・オベーションだけでなく、「何が良かったか?」「これからは?」など一歩も二歩も踏み込んだもの(写真は、バルドキソロン国内第三相試験、AYAMEの紹介)だったが、それについては稿を改めて紹介する予定だ。






2017/04/17

近位尿細管はいま

 ネフロンで治療のターゲットになってきたのは主に遠位だ。そこが最終的なファインチューニングを行うので調節するのにちょうどよいからと思われる。いっぽう、再吸収のほとんどを担当し、腎臓でもっともエネルギーを消費するところでもある近位尿細管は調節するには難しい。近位尿細管で脱炭酸酵素を阻害するアセタゾラミドも利尿薬として使い勝手のよい薬ではない(代謝性アルカローシスで利尿薬を切れないときの最後の手など)。

 しかし、近位尿細管というフロンティアも研究でさまざまな標的分子がみつかっているからこれから薬ができるかもしれない。たとえば最近Kidney NewsのDetective NephronにeDKAが取り上げられた(エピソード18)SGLT2阻害薬は近位尿細管がターゲットだ。近位尿細管は尿酸の再吸収もおこなっているから、昔からあるベンズブロマロンにかわるあたらしい再吸収阻害薬なんかも開発されるかもしれない。

 という流れで読むと興味深い論文が、JASNにでていた(doi;10.1681/ASN.2016080930)近位尿細管でのHCO3-吸収はreclamationと呼ばれ、再吸収と呼ばれない。HCO3は、直接再吸収するのではなく、内腔の脱炭酸酵素によってHCO3がCO2になって細胞内に入り、それが細胞内の脱炭酸酵素CA2によってHCO3になり、NBCe1から身体に入る(いっしょにできるH+は尿に排泄されアンモニアやリン酸にバッファーされる、図は論文から)。




 論文では、上記の過程と別に、ろ過されたHCO3の15%程度は新しく見つかったNa/HCO3共輸送体であるMCDL-NBCn2を介して直接尿細管細胞に再吸収されているかもしれないという仮説を、数学的には証明した(図、論文から)。Na/HCO3共輸送体は何種類もあるから闇雲にブロックするわけにもいかないだろうが、近位尿細管の生理学が新たにわかることで新しい治療につながることを期待したい。





 [2017年6月追加]本文で予言した、URATに働きかける新しい尿酸降下薬は、実在する。Lesinurad(商品名Zurampic®)がそれで、URAT1の阻害薬だ。第3相試験で、Febuxostatとの併用群(400mg/d)がFebuxostat単独より尿酸値をさげ、痛風結節を縮小した(DOI:10.1002/art.40159)。200mg/dでは尿酸値の追加効果に有意差がなかった。やはり、近位尿細管はフロンティアだ。


2016/08/12

R and D

 こないだEテレを見ていたら、ドラッグ・リポジショニングという考え方が流行っていると言っていた。新規薬を開発するのにはお金がかかってリターンの保証がなく採算がとれない。そこで既存薬に新しい適応みつけようということだ。たしかにシルデナフィルが心筋梗塞の薬として開発されたがEDの治療薬に生まれ変わったり、複数の効能がみつかることはある。ただ、1番目の効能に比べて2番目の効能は眉唾じゃないかと思ってしまう(ロサルタンの尿酸低下作用とか、カンデサルタン・オルメサルタン・テルミサルタンのPPARγ活性化を介したインスリン抵抗改善作用とか)。新薬は高いから医療費的にはいいことだが。

 そんななか地道にR and B(写真はレイ・チャールズ)、じゃなかったR and D(研究開発)をしているのはボストンやベイエリアの大学からスピンアウトしたベンチャーくらいなのか。わが国は数字は知らないが薬の多くが海外うまれのものを委託販売するかライセンスを買って生産するかで、医療費すなわち税金などをどんどん海外にロイヤルティーとして垂れ流しているのが個人的には憂慮される。欧米が国益を保護している(トルバプタンのFDA却下だって、どこまで医学的な判断だか)ので、日本は東南アジアとインドあたりに活路を見出すつもりなのだろうか。

 ただこういう話は基本的に抗がん剤だのモノクローナル抗体だのと思っていた。が、JASNの速報でPendrin/NDCBE阻害薬の実験結果がでた(doi:10.1681/ASN.2015121312)。それぞれ集合管のB型介在細胞と非A非B介在細胞にあるCl-/HCO3-交換体、Na+依存のCl-/HCO3-交換体だ(以前にここここで触れた)。これらだけを単独で阻害しても利尿効果はみられなかったが、フロセミドとの併用や、慢性的なフロセミド使用モデル(遠位ネフロンが代償的にNa再吸収を増やす)で利尿効果を増幅した。腎だけでなく副腎にもPendrinはある(Am J Physiol Endocrinol Metab 2015 309 E534)のでホルモン抑制に働いたかもしれない。

 で、これらを阻害する小分子をみつけるのがhigh throughput screeningというシステムだ。ロボット、データ処理、解析ソフトウェアを使って何百万という実験操作を一度に行うことができる(と英語版ウィキペディアにすら書いてあるが初めて知った)。エディトリアル(doi:10.1681/ASN.2016070720)によれば、Pendrin/NDCBEだけでなく尿素トランスポーターUT-A1選択的阻害薬(Nat Rev Nephrol 2015 11 113、尿濃縮に必要な浸透圧勾配を消す)、ROMK(ROMKは先天異常で立派にType 2 Bartterを起こす、体液保存に重要なチャネル)阻害薬Compound Aも見つかっている(Expert Opin Ther Pat 2015 25 1035)。

 Compound Aが細胞質ドメインでROMKに結合してイオン通過孔をふさぐことや、[5-(2-(4-(2-(4-(1H-tetrazol-1-yl)phenyl)acetyl)piperazin-1-yl)ethyl)isobenzofuran-1(3H)-one)]という長い名前を持っていることはこの際擱いて、とにかく人工知能、ロボット工学、ビッグデータ処理能力の発達によって本来R&Dは容易になったはずである。まあこれらの投資にお金がかかるのかもしれないが、やっぱり技術立国の日本が、オリンピックの金メダルのように、オリジナルのお薬で世界に通用するタクロリムスやイベルメクチンのような奇跡をたくさん起こすことを個人的には期待してしまう。

 もっとも今あげたお薬は動物実験レベルなのでどう転ぶかわらない(英語でくるかもしれない新薬をin the pipelineといったりする;日本語なら「卵」か)。いま利尿剤扱いされるお薬はNCCをターゲットとするサイアザイド、NKCC2のループ、鉱質コルチコイド受容体のMRA(余談だがPMSのお薬ヤーズにはスピロノラクトンより受容体親和性が8-10倍高いがプロゲステロン受容体にも親和性を持つドロスピレノンが入っている)、ENaCのアミロライド、脱炭酸酵素のアセタゾラミド、そして新たにV2RのバプタンとSGLT2のグリフロジンが加わったところだ。今後、さまざまにネフロン標的をブロックする「受容体標的利尿」診療の時代がくるのだろうか。





2016/06/16

LEADER and EMPA-REG OUTCOME

 最近FDAがPADリスクの調査やAKIの注意喚起を発しているSGLT2阻害薬だが、ひたすらA1cの低下と安全性・便利さを謳って宣伝される新規経口血糖降下薬のなかで、いち早く昨年にhard endpointである心血管死のリスク減少を示したのはEMPA-REG OUTCOMEスタディ(NEJM 2015 373 2117)で、その薬はSGLT2阻害薬のEmpagliflozinだった(ただしnon-fatal MIとstrokeでは有意差なし、心不全入院は有意差あり;まあSGLT2阻害薬は利尿剤だから)だった。

 DPP4阻害薬、GLP-1受容体アゴニスト(以下GLP1アゴニスト)はEXAMINE、SAVOR-TIMI53、TECOS、ELIXAなどのスタディがいずれも心血管リスクで有意差がでず、今週になってGLP-1アゴニストのLiraglutideで有意差を示したLEADERスタディがでた(DOI: 10.1056/NEJMoa1603827、心血管死に有意差あり、non-fatal MIとstrokeと心不全入院に有意差なし)。

 スタディが組まれすぎて、同じクラスのなかでEmpagliflozinとLiraglutideは特別よい薬なのか、このクラスが特別よいのかはわからない。スタディごと心血管リスクの定義やリクルートするA1cの閾値などが微妙に違うようだ。もちろん私は全ては読んでいないが、editorialによれば(DOI: 10.1056/NEJMe1607413)LEADERスタディは心疾患が比較的軽症だがA1cは高め(8.5%以上)の群を対象にしているらしい。一方EMPA-REG OUTCOMEスタディのサブ解析ではA1c 8.5%以下の群はリスク減に有意差があって以上の群には有意差がなかった。

 ただ直感で思うのは、GLP1アゴニストとSGLT2阻害薬はどちらも体重が減る(前者は食欲と身体活動性に関係し米国では2014年に肥満症の適応も受けている、後者は糖排泄と浸透圧利尿を起こす)ことだ。ADAの2016年ガイドラインでメトフォルミンに1剤追加する目安の表にも書いてある(Ann Int Med 2016 164 542、「効果」についてはDiabetes Care 2015 38 140を参照)。

SU
効果:High
低血糖リスク:Moderate
体重:Gain
副作用:低血糖
薬価:Low

TZD
効果:High
低血糖リスク:Low 
体重:Gain
副作用:浮腫、心不全、骨折
薬価:Low

DPP4阻害薬
効果:Intermediate
低血糖リスク:Low
体重:Neutral
副作用:まれ
薬価:High

SGLT2阻害薬
効果:Intermediate
低血糖リスク:Low
体重:Loss
副作用:生殖泌尿器感染、脱水
薬価:High

GLP1アゴニスト
効果:High
低血糖リスク:Low
体重:Loss
副作用:胃腸症状
薬価:High

Basal insulin
効果:Highest
低血糖リスク:High
体重:Gain
副作用:低血糖
薬価:Variable

実際LEADERスタディでは介入群で体重が2−3kg減り、収縮期血圧も4−5mmHg下がった。EMPA-REG OUTCOMEスタディでもやはり体重が2−3kg減り、腹囲が5cmほそくなり、収縮期血圧が4-5mmHg下がった。メタボが少し解除されたのかもしれない。私にはこのふたつのスタディが、心血管リスクのある糖尿病患者における心血管死・心不全増悪の予防にはA1cの低下だけでなく減量と降圧+そのための食事と運動が重要だ(が、それは言うほど簡単ではないので高くても薬で治療するしかない)と言っているように思える。

 さらに、Empagliflozinについては同じ号でEMPA−REG OUTCOMEスタディ(MDRD eGFR 30ml/min/1.73m2以上)のpost hoc解析で腎症進行を抑制すると発表された(DOI: 10.1056/NEJMoa1515920)。具体的には顕性アルブミン尿への進行、eGFRの低下、透析導入など。興味深いのは介入群でeGFRがスタディ数カ月以内に一度3-4ml/min/1.73m2さがりそのあと維持されることだ。最初は腎血流低下を反映し、以後は未知の腎保護機序が効いているのだろうか。

 EMPA−REG OUTCOMEは日本も参加したスタディだ。また新しいためか同じクラスのなかではまだAKI・PADの嫌疑がかかっていないから、Empagliflozinは売り時かもしれない。Liraglutideも日本で認可されているが、LEADERスタディに日本は参加していない(アジアでは中国、台湾、韓国、インドなどが参加している)。SecretogogueのなかではDPP4阻害薬にくらべてシェアの小さいGLP1アゴニストだが、LEADERスタディを受けて日本でもLEADER-Jみたいなのが組まれるかもしれない。なおLiraglutideは腎機能低下例に禁忌ではない(慎重投与)だからLEADERの除外基準にもeGFRは入っていないが、心血管保護が有意にみられたのはeGFRが30−60ml/min/1.73m2の群だった。






2015/05/20

FDA warning!

 糖尿病薬市場を席巻する勢いで各社が雨後の竹の子のように開発し宣伝する(ので同じような説明を何度も何度もお弁当を食わされて聞かされる羽目になり辟易している)SGLT2阻害薬だが、残念なお知らせが届いた。FDAが5月15日にcanagliflozin、dapagliflozin、empagliflozinでDKAとケトアシドーシスの報告が相次いでいるという警告を出し、引き続き調査を行っていくからうえの三剤に限らずすべてのSGLT2阻害剤を処方する(内服する)際には慎重に、と発表した。

 その4日後、昨日のお薬屋さんの説明会もSGLT2阻害薬についてだったのに、そんなこと一言も言ってくれなかった。ただ「長期処方が可能になりますので是非ご検討ください」としか言われなかった。私が毎日受け取る米国腎臓内科学会のニュースレターのトップニュースだったから初めて知った…。ここまでくると、お薬屋さんが怖い。売れさえすればいいのか?各担当者ごとにノルマとかがあるから仕方ないのか?患者さんのためには「効く」というよい情報も「危険」という悪い情報も包み隠さず教えてくれるのがフェアプレーじゃないのか?調査中だからまだなんとも分からない、濡れ衣だったということもありえる訳だし。

 [追加]この報告は、SGLT2阻害剤内服によってつくられるグルカゴン過剰状態(先日書いた)と符合するかもしれない。グルカゴン過剰はDKAにcontributory(if not essential)で、この環境下では肝細胞でアシルCoAがcarnitine palmityl transferase reactionsによってどんどんミトコンドリア内に入り、β酸化によりどんどんアセチルCoAができ、これがTCA回路に入りきれずに、アセト酢酸(ケトン体)に代謝される。

 [2016年6月追加]CanagliflozinのCANVASトライアルで投与群には脚、趾の切断が有意に多いという途中経過の安全報告が出たと5月18日にFDAが発表し、調査中だ。またその数週間後にFDAがCanagliflozin、DapagliflozinにAKIの注意喚起をつけた。Empagliflozinはアメリカで処方が少ないのためか報告が少なくラベルはつかなかった。



2015/04/28

Gliflozines as alpha cell secretogogue

 SGLT2阻害剤が市場に出て久しい(腎臓内科的に面白い薬なので以前に触れた;リンクはこちらこちら)。血圧も下がり体重も減って、副作用も性器感染症などマイナー(あと脱水に注意しなければならないが)で、インスリンが不要になったり患者満足感が高かったりというので各社がしのぎを削ってこのクラスの新薬を作った(一般名がgliflozinで終るのでgliflozinsとも呼ばれる)。しかし時間がたつといろんな事がわかってくるもので、SGLT2阻害剤を内服するとグルカゴン産生が促進される。膵島のα細胞にはSGLT2があって、SGLT2をブロックするとK(ATP)チャネルを介した機序でグルカゴン産生が亢進されるそうだ(doi:10.1038/nm.3828)。グルカゴン産生が亢進すると何か悪いことがあるだろうか。低血糖のときに打つことがあるくらいだから、交感神経系が亢進しそうで、高グルカゴン血症に常時さらされているのはあまり良いことには思えない。グルカゴンをブロックする薬をつくって一緒に内服するといいのかもしれないが。


2013/04/06

Canagliflozin 2/2

 今のところSGLT2阻害薬が認可されている(SGLT1阻害薬も開発されているが)。SGLT2は腎が主な発現場所(脳や肝臓にもあるが)で、これに異常があると腎性尿糖になるが、患者さんに大したことは起こらない(子供のおねしょという話もあるが)。一方SGLT1は腸管での発現がメインで、これが異常だと吸収不良で下痢になる。

 SGLT2阻害剤の良い点は、血糖が下がり、体重も減ること(カロリーを捨てているから)。多量の尿糖により血糖が下がれば尿中に捨てられる糖も減るので、低血糖が起こりにくいかもしれない。さらに尿糖により浸透圧利尿がかかり、尿細管流量の増加を感知したmacula densaがTGフィードバックによりGFRを下げて早期糖尿病性腎症のhyperfiltrationを緩和するかもしれない。

 心配な点は、尿路感染症、カンジダ症、体液量減少による低血圧、腎機能がよくないと効かないかもしれない、膀胱上皮が長期グルコースに曝され続けることによるがん化リスクなど。Systematic reviewによれば感染症は有意に多かったが軽度だった(BMJ Open 2012 2 e001)。血圧低下は、むしろ効能と考えられているようだ。

 がん化リスクは先行薬dapagliflozinのFDA認可が見送られた主な理由だが、detection biasと言われている。腎機能についてはGFR 30-50のCKD 患者に半年試したデータがあり、効いていた(doi:10.1111/dom.12090)。GFRが最初の三週間で3-4ml/min/1.73m2下がったが、以後はそのままで経過した。


[2020年10月6日追記]上述のSGLT2遺伝子異常は、原発性腎性尿糖(primary renal glucosuria、OMIM 233100)と呼ばれる。表現型によってグルコース再吸収障害には差があるが、1987年には再吸収がまったくない症例が「0型」として報告された(Clin Nephrol 1987 27 157)。

 11歳男児だった症例は、1歳からの湿疹、持続する夜尿・頻尿・多飲などあり、調べると1日109-141gのグルコース排泄がみられた。さらに調べると、SGLT2遺伝子に5塩基欠損(973-977、ATGTT、エキソン8内)をホモで持っていた(両親ともヘテロ;遠い親戚にあたる)。

 尿糖のほかには蛋白尿やアミノ酸尿もなく、腎機能や電解質も正常であった。ただし、身長はひくく、性的成熟(pubertal development)は遅れていたという。

 その後、どうなったか?

 20年後の報告(NDT 2004 19 2394)によれば、身長は175cmにのびた(ドイツ人男性の平均からすれば25パーセンタイル)が、性的成熟については記載がなかった。湿疹は、変わらずみられた。尿糖は持続し、日々3-5Lの水分を飲んでいたが、血糖は正常で、体重は74kg(BMIは24)。血圧は125/85mmHgであった。

 また尿糖以外の腎機能については、血清クレアチニンが0.6mg/dlで、血清電解質異常はなかった。なお、蛋白尿は陰性であったが尿電解質のなかでは尿Ca/Cr比がたかかった(1.07mmol/mmol、正常は0.57未満)。

 
ところで、〇〇阻害薬がでると、「〇〇遺伝子がまったくなかったら、どうなるの?」と考えたくなるものである(たとえばPCSK9遺伝子など)。

Canagliflozin 1/2

 腎臓内科の教科書Brennerを読んで有機溶質の再吸収/分泌について勉強していた矢先、FDAがcanagliflozin(Invokana®)を認可した。これは近位尿細管にあるNa+とグルコースのco-transporter、SGLT2を阻害する腎臓生理学をうまく利用した薬だ。製薬業界と糖尿病関係者にはすでによく知られており、他でも上手に説明されているが、私なりに書く。

 糸球体ろ過によってグルコースがサケの遡上のごとく大量に流れてきて、近位尿細管はこれを一匹残らず回収するよう命じられている。それは古代より生命にとってグルコースが貴重なエネルギー源で、グルコースを捨てなければならない状況(高血糖)など滅多になかったからだ。

 そのために、近位尿細管細胞の内腔側には二種類のトランスポーターが用意されている。SGLT2は最初にグルコースをごっそり回収するのが役目で、いわば網。SGLT1は残りを拾い集めるのが役目で、いわば釣り。どちらもNa+-K+-ATPaseによってうまれた細胞内の陰性電位を利用している。間質側へはGLUT1とGLUT2から運ばれる。

 このシステムのおかげで、尿細管に届くグルコース量が400mg/min/1.73m2近くにならない限り、尿中に貴重な燃料である糖が捨てられることはない(CJASN 2010 5 133)。しかし血糖を下げたい場合、このシステムは邪魔だ。だからブロックしてはどうかと言うわけ。さてSGLT1、SGLT2、どちらをブロックしよう?つづく。