1. 手技
まず前提として、両者とも肘窩ないし前腕近位のシャントとなる。静脈には表在静脈と深部静脈をつなぐ貫通枝が、動脈には上腕動脈(または橈骨動脈・尺骨動脈の近位)が用いられるため、グラーツ・シャントの変法とも言える(図はKI 1977 11 71)。
C:橈側皮静脈、B:正中皮静脈、P:貫通枝、BA:上腕動脈 |
一つ目のWavelinQ®は、動静脈に0.014インチ・ガイドワイヤーをつうじてカテーテルを留置し、吻合予定部に置かれた磁石によって動静脈をくっつける。そして、静脈側に付けられた電極から60Wのラジオ波を0.7秒放射して、幅1mm・長さ4mmの吻合スリットを形成する。
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第一世代は6Frシステムで上腕シースからのアプローチだったが、第二世代は4Frシステムで、手首の橈骨動脈からもアプローチ可能だ。後述するEllipsys®とちがい、術後は血管造影を行い、深部の上腕静脈にコイル塞栓が追加されることが多い。よって、手技も1時間くらいはかかる(ラジオ波による不随意運動を防ぐため、腕は固定する)。
二つ目のEllipsys®システムは、肘窩の皮静脈から6Frシースを留置し、0.021インチ・ガイドワイヤーに沿わせたマイクロ・パンクチャー・ニードルで動脈を貫通させ、ガイドワイヤーを通す。ガイドワイヤーを0.014インチに入れ替えてからカテーテル(thermal resistance anastomosis device、TRADとも)を挿入し、その先端で動静脈を挟み、15秒間くらい加熱して吻合する。
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確認に血管造影は不要で、全過程をエコー下で行う。前述のWavelinQ®は吻合部位が脆弱なため直後のPTAは不可なのに対し、Ellipsys®は直後のPTAが推奨される。カテーテル1本であり、慣れた人がやれば20分もあればできるらしい(こちらも参照)。
2. 臨床成績
WavelinQ®はFLEX(J Vasc Interv Radiol 2015 26 484)、NEAT(AJKD 2017 70 486)、EASEスタディ(Ann Vasc Surg 2019 60 182)などで検証されている。
最新のEASEスタディは32人の患者を対象にしたパラグアイの1施設試験だが、成功率100%、有害事象に静脈のガイドワイヤー穿通が1件、平均血流量は術後1・30・180日で751・886・845ml/minだった。6ヶ月後の開存率は83%、PTAなどの再介入率は0.2/年・人。シャント穿刺までの平均日数は43日だった。
Ellipsys®も少なくとも3つのスタディ(J Vasc Interv Radiol 2017 28 380、J Vasc Interv Radiol 2017 29 149 e5、J Vasc Surg 2018 68 1150)で検証されている。
最も新しい34人の患者を対象にしたパリとオクラホマの試験では、成功率97%、平均血流量は術直後とフォローアップ時に669・946ml/min。手術の6週後には全例がシャント穿刺可能で、有害事象と再介入は1件もなかったという。
ただし、これらのスタディはランダム化や対照ができないうえ、各種バイアスを免れない。慣れた人が向いている患者にやれば、うまくいくということだろう。
3. 外科的内シャント造設との比較
経皮的な内シャント造設は、静脈への侵襲が少ないので手術より狭窄を起こしにくいようにも思われるが、心不全やスティールなど年単位の長期成績は検証されなければならない。また、欧米では手術費用が高額のため「(デバイスは高価だが)手術代とPTA代が浮く」という論調も増えてきている(J Vasc Access 2017 18 8、DOI: 10.1177/1129729820921021など)。
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いかがであろうか?日本では、①前腕ファースト(米国は上腕ファースト、こちらも参照)であり、②手術費用も相対的には安い(保険点数は18080点、前掲論文は手術費用を€33041と算定している。なお経皮的内シャント造設の費用は€5722)。だから現状では、日本への影響は限定的かもしれない。
しかし、大動脈瘤や大動脈弁狭窄症などで手術の代わりに血管内修復術やTAVRなどができるようになった流れを考えれば、より低侵襲の治療モダリティはあったほうがよい。短時間の手技で再介入率が低いのなら、なおさらだ。
「WavelinQデバイス」、「Ellipsysデバイス」とGoogle検索しても日本のサイトがヒットしないくらいだから、日本市場への参入はあっても水面下なのだろうが、そのうち登場する日も来るだろう。それを慎重かつ楽しみに待っていたい。