これは、米国南部の大学病院でカテーテルで導入されてからシャント造設となった透析患者さんを対象に行なわれた後方視研究だ。術後の超音波所見からシャントが発達(英語ではmaturation、成熟という)するかどうかを予測できるかを調べ、とくに血流量・シャント血管径が決め手になるという結論だった。
これ自体は、以前になされた小規模研究を追認する形で、さほど驚くことではない。
私がこの論文で最も驚いたのは、造設された内シャントのうち63%が上腕、37%が前腕だったという事実だ。
国際比較DOPPSのデータでも、異様なほどに米国のみ上腕内シャントが急増している。グラフ(AJKD 2018 71 469)は、左が日本、真ん中が欧州・オーストラリア・ニュージーランド、右が米国だ。その米国で、1996-2001年時の調査で30%あった上腕内シャントは、2012-2015年時には68%となっている。さらに調べると、男性より女性が、若年者より高齢者が上腕内シャントになりやすかった。
以前「フィスチュラ・ファースト」で説明したように、このように偶然で説明できないトレンドがみられた場合には、理由がある。それを端的に言うと、「上腕・ファースト」になってしまったということだ。
前腕につくっても、詰ったり、血流が十分取れないことが多い(米国のQBは400-500ml/minが一般的で、これくらいないとKt/Vを保てないとされる;体型の違いだろうか)。高齢者や女性では尚更だ。しかし、フィスチュラ・ファーストはゼッタイだから、カテーテルには戻れない。
だったらいっそ、最初から上腕に作ってしまえ、というわけだ。
上腕は深くて穿刺しづらい(血管の周りに出血することもある)し、血流量が多いと心不全にもなるし、長くつかって機能不全になったときに再建の選択肢が減る。しかし、それしかないなら仕方がない。
太平洋の対岸にいると「こうすればよいのに」とあれこれ思わないこともないが、「所変われば」なのかもしれない。今はこちら側で、せっせと前腕内シャントを作る腕前を上げるしかない。ただ、これから米国の文献を読むときにはシャントと言っても別物を指していることに注意しなければならないと思った。