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2017/05/07

腎移植レシピエントとHCO3濃度

 腎移植患者さんと代謝性アシドーシスといえば、移植時点のグラフト機能(献腎か生体腎か)、カルシニューリン阻害薬(4RTAの原因となる)、そして高血圧や糖尿病や原疾患などによるCKDの進行などが関係していそうで、おそらく代謝性アシドーシスのあるレシピエントはそうでないレシピエントに比べてグラフト予後や生命予後がわるい気がする。これを調べた韓国のグループによる論文が昨年出た(doi:10.1681/ASN.2016070793)。

 結果を見ると移植3ヵ月後のポイントTCO2、時間ごと追ったtime-varying TCO2いずれも、低い群で正常群にくらべグラフト予後が有意にわるく、生命予後はtime-varying TCO2が低い群で正常群より有意にわるかった。前段の交絡因子(eGFR、合併症、ドナーのタイプ、タクロリムスかシクロスポリンかなど;タクロリムス群のほうがシクロスポリン群よりTCO2が低かった)などを補正しても、有意だった。



 なお、これらの施設(ソウル大学病院、ソウル大学Boramaeメディカルセンター、ソウル峨山病院)ではTCO2が22mEq/l以下の群の約10%に重曹を使っている。

 個人的にこの論文は、韓国の移植事情が見え隠れして興味深かった。生体腎が約7割、ABO不適合が約5%、レシピエントの男女比が約6:4、PEKTが約10%、など。ABO不適合が少ないのはKPDの影響だろうか(以前かいたが、最初におこなったのは韓国だ)。


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 ここまで腎におけるHCO3回収、酸排泄とアンモニア輸送のしくみ、スチュワート法のエッセンス、高Cl輸液とSIDアシドーシス、酸負荷・酸産生・酸排泄を計算する歴史やそれにもとづいたCKDアシドーシスの診療、重曹の使い方、血液透析患者さんの血中・透析液HCO3濃度と移植患者さんの代謝性アシドーシスについて最近の論文をレビューしてみた。

 知らないことがたくさんあったし、調べるほどわからないことは増えるけど、こういう機会があるとまた新しい知見が網にひっかかり少しずつ深めていくことも出来るからありがたい。酸塩基平衡はさまざまな患者さんのさまざまなシチュエーション、さらに人間だけでなく動物・自然界までも支配する普遍的名法則だから、いろいろ飽きない。

 ほら、いま日本の温室で見ごろのこの花がなぜこんなに鮮やかかだって、色素とpHで決まる(Biochemical Systematics and Ecology 2010 38 630)のだから。花の名前は、ヒスイカズラ。






 [2017年6月追加]オンラインで先行した上記論文に紙が追いついて(JASN 2017 28 1886)、エディトリアルも手にはいった(JASN 2017 28 1672)。このエディトリアル論文の注目度を示すAltmetricsのAttention Scoreは115で、トップ5%の注目度らしい。なかでもわたしの注目は、タクロリムスとシクロスポリンがアシドーシスを起こす仕組みに違いがあることだった。

 シクロスポリンは、ペプチジルプロリルcic-transイソメラーゼ活性をもつシクロフィリンをブロックしてβ介在細胞(β、すなわちbaseを捨てる)からα介在細胞(alpha、すなわちacidを捨てる)への変身を妨げる(Am J Physiol 2005 288 F40)。それに対してタクロリムスはNHE3、アニオン交換体(AE1)、Na/HCO3共輸送体(NBCn1)などの発現を減らす(Am J Physiol 2009 297 F499)。いままでカルシニューリンインヒビターはRAA系をレニンのところでブロックする(図はNEJM 2004 351 585より)と教わってきたが、もう少し複雑みたいだ。


 実際、冒頭のスタディでもシクロスポリンよりもタクロリムスで有意にアシドーシスが多かった。CNI-sparingレジメンのベラタセプトがシクロスポリンに優れていたBENEFIT-EXTスタディ(Am J Transplant 2016 16 3192)の結果も、このような差を考慮しなければならないのかもしれない。


2017/05/06

透析液のHCO3濃度

 腎臓から酸を排泄できない血液透析患者さんではどのように酸のバランスをたもつか。からだにたまった酸が透析によって排泄できればいいが、抜けにくいものもおおい。それで、透析液からアルカリを体内にバッファーすることで酸を中和するのがメインの方法になる。

 透析液のアルカリはもともと酢酸イオンで肝臓でHCO3に変換されていたが、透析中の低血圧や心筋抑制などの副作用が懸念された。それでアルカリの大部分は重炭酸イオンにおきかえられた。それでも、カルシウムと重炭酸が沈殿しないよう少量の有機酸が必要なので、酢酸や酢酸ナトリウム、クエン酸がまぜてありこれらも体内でアルカリとなる。

 透析膜の内と外で重炭酸がどのような動きをするかは複雑だが、透析患者さんにおける酸塩基バランスはおおまかに図のようになる(KI 2016 89 1008)。透析しないあいだに酸がたまり体液貯留でHCO3-濃度がさがり、透析するとHCO3がバッファーされHCO3濃度があがる。


 こうしてくわえるアルカリ量が次の透析までに摂取や産生でためる酸の量とほぼ等しくなって、透析前のHCO3が一定に保たれる。…はずであるが、実際はそうでもない。透析間隔や食事量、体重の増えなどあり同じ患者さんでも一定しないし、体格や透析膜、血液流量などの違いで患者さんどうしでもばらつきがある。

 透析HCO3濃度(以下D-BIC)は各国で大きく差がある。2002-2011年のDOPPSデータ(AJKD 2013 62 738)をみると、北米でたかく(アメリカでは半数近くが38mEq/l以上)、欧州は大半の患者さんで33-37mEq/l(ドイツは32mEq/l以下の患者さんも多い)、そして日本では30mEq/l以下の患者さんが83%だ。

 米国でこんなにD-BICが高いのは、2000年に透析患者さんでHCO3濃度を毎月測り22mEq/lを維持しようという推奨がKDOQIからでてみんながD-BICを上げていったからだ。しかし、たかいD-BICで一気にpHをあげると低K血症、血管石灰化などにともなう血行動態の不安定や不整脈(突然死)や、免疫機能低下にともなう感染症などたくさんの心配がある(図、前掲KI論文)。



 実際透析大手FreseniusデータでD-BICが28mmol/l以上の群は突然死のリスクが高かったので透析前HCO3が24mEq/l以上の患者さんではD-BICを下げる方針にした。D-BICそのものではないが、FDAは2012年に透析液に含まれるクエン酸や酢酸もアルカリの一部として考慮するよう、安全に関する通達をだした。

 そもそも、KDOQIの推奨はアシドーシスの筋肉や骨にたいする影響を懸念してだされた。しかし、透析前HCO3濃度がひくい透析患者さんは酸摂取がおおい、つまりたんぱく摂取がおおい患者さんとも言えるから、彼らのほうがPEWがなくて栄養状態はいいのかもしれない。

 2006年にでた米透析施設最大手DaVitaコホートの研究(CJASN 2006 1 70)がこれを示唆している。栄養状態を考慮しないと透析前HCO3濃度がたかいほど死亡率が高かったが(図左)、栄養状態とcase-mixで補正すると2015カーブが反転しHCO3濃度が低いほど死亡率が高くなった(図右)。

 

 ではD-BICは低いほうがいいのだろうか?D-BICが多国より明らかに低い日本では、透析患者さんの予後がもっともよい。ただ、あまりにも他国とちがいすぎて前掲DOPPS論文では日本だけ分析から除外されてしまった。それでというわけでもないだろうが、日本のデータを独自に分析した論文が2015年にでた(AJKD 2015 66 469)。
 
 注目すべき点はいくつかあるが、ひとつめは透析前後のHCO3だけでなくpHにも注目し、結局死亡率に唯一有意に相関したのはHCO3ではなく透析前pHが7.40以上の群だけだったこと(生データが白丸、補正後が黒丸)。たしかにHCO3濃度が同じでもpCO2がひくくpHが高い患者さんとpCO2がたかくpHがひくい患者さんでは血管、筋、骨などへの影響がちがう気がする。



 ふたつめは透析液の総アルカリ濃度がいっしょでもD-BICが多ければ透析後のHCO3濃度とpH、透析前のHCO3濃度とpHは高くなったことだ(D-BIC 35とクエン酸1mEq/lの液と、D-BIC 31で酢酸6mEq/lの液を比較した)。FDAの通達は「クエン酸も結局アルカリとして体の中でHCO3になるのだから一緒」というものだったが、透析膜内外のHCO3濃度差はいくら透析液の総アルカリ濃度が一緒でもD-BICの影響を直接うける。

 このスタディは死亡率が低すぎて統計的なパワーが足りない(患者さんにとってはいいことだが)など限界もある。しかしpHの話などはアシドーシス診療を根本から変える可能性もあり、これからの同様な再試や大規模な研究を待ちたい。

 

2016/02/04

150mEq/l NaHCO3

 日本には150mEq/lの炭酸ナトリウム輸液はないのかと思っていたが、友達の病院にはあるという。幻?と思っていたら、ちゃんとあった。炭酸水素Na静注1.26%バッグ「フソー」という(友だちが言っていたのは別の商品名だった気もするが、とにかくある)。1992年から販売されていて、アシドーシス以外にも蕁麻疹やめまいに適応があるらしい。

 でも、なくても作れる。7%メイロン60ml(3管)には50mEqのNaHCO3がふくまれているから5%ブドウ糖液500mlバッグから90ml捨ててメイロン90mlを混注すれば、同じ濃度のものができる(8.4%メイロンはわかりやすくて1mEq/mlなので、同じことを75mlですればいい)。

 …という計算をおこたってきたばっかりに、たとえば激しい下痢による体液減少にともなう重症の(HCO3-が10−12mEq/l以下、あるいは呼吸性代償でへとへとになっている)AG非開大代謝性アシドーシスのような、明らかに150mEq/lの炭酸ナトリウム輸液をつかうべき機会を何度もふいにしてきた。

 ただし、よく知られているように代謝性アシドーシスにおける炭酸水素ナトリウムの治療には細胞内アシドーシスを悪化させるとか呼吸が悪い人では体内で変換されたCO2が貯まるとか問題もある。
 
 ただ重度のアシデミアはカテコラミンの反応性を落とすだけでなく、心収縮力を低下させ(細胞へのCa2+流入をH+が競争的に阻害するのが主因だとか)、動脈拡張、静脈収縮、不整脈などをおこし血行動態を不安定にするから、そのようなばあい「溢水の心配がない限り」炭酸水素ナトリウムで治療してもよいとある(だから、こないだ書いた腎皮質壊死のように尿が出る見込みのないひとには難しい…あくまで透析までのつなぎだ)。

 KDIGO AKIガイドラインにはpHいくつ以下の重症アシドーシスで透析するかという質問に答えるエビデンスはなく、数字のトレンドや基礎疾患などに応じて決めるとある。UpToDateには7.1以下とあり、その根拠は7.1以下で上述の血行動態異常がおきるためとしている。



2015/04/14

介在細胞(aka 生涯教育)

 ぱっとめくったページが腎生理特集で、遠位ネフロンの介在細胞についてだった(CJASN 2015 10 305)。Last authorのDr. Pastor-Solerは私がUPMC(University of Pittsburgh Medical Center)の腎臓内科フェローシップの面接に行ったとき面接官の一人だった。またアイオワ大学腎臓内科のボスであったDr. John Stokesが亡くなって後任を選ぶのに、彼女がアイオワまで面接に来て講演した(そのときも介在細胞の話だった)。

 First authorとsecond authorは彼女の部下なのだろう、ヤングスタッフ、あるいはフェロー。アイオワも尿細管(とくに遠位ネフロン)を研究しているから、私も米国に残っていたらこういった総説を書く機会があったのかもしれないなどと思ったりする。が、今となってはこうしてせめて読者としてついていくしかない。これが"C(Clinical)"JASNに載っているということは、臨床家でも専門医ならこれくらいは知っておけということだ…。

 介在細胞は、遠位ネフロン(発生学的には中腎由来の部分)にあって、形態的には簡単に見分けられる。他の尿細管細胞にある中心に一本立った線毛がないからだ(なおこの線毛がどんな機能をしているかはまだ分かっていない、おそらく尿のフローセンサーだろうと推察されるが)。その名の通り、A型介在細胞は酸(acid)を、B型介在細胞は塩基(base)を排泄する。

 A型介在細胞は内腔側にH+-ATPase、H+/K+-ATPaseを持ちH+を排泄し、H+と一緒に出来るHCO3-(この反応はCAII: carbonic anhydrase IIによりなされる;B型介在細胞も同じ)は血管側のAE1(anion exchanger 1)に取り込まれる。またA型介在細胞は内腔側に大きなK+チャネル(big KだからBKチャネルという、またはMaxi-Kチャネルともいう)があってカリウム過剰摂取のときなどにK+をflow-dependentに排泄する。

 それに対してB型介在細胞はA型介在細胞をひっくり返したようにチャネルが付いていて、内腔側にあるPendrinと呼ばれるCl-/HCO3- exchangerでHCO3-を排泄し、逆にH+-ATPaseが血管側に付いている。

 ここまでは、よく知られたことで教科書にも書いてある。臨床的には、H+-ATPaseのa4、B1サブユニットの異常やAE1の遺伝子異常が遠位RTAを起こすことが知られている(以前に触れた)し、Pendrinの異常はPended症候群を起こす(これも以前に触れた)。このあと知らないことが次々に出てきた。

 まずはB型介在細胞の内腔側にあるNDCBE(Na+-driven chloride/bicarbonate exchanger)だ。B型介在細胞で能動的にH+が血管側に出ると細胞内外に電位差が起こり、NDCBEを通じてNa+が内腔側から細胞内に入ってくる(そして血管側のAE4; anion exchanger 4を使って再吸収される)。同時にHCO3-が細胞内に入りCl-が内腔側に出るが、Pendrinも回るので細胞内に入ったHCO3-は内腔側に再び出て行きCl-が細胞内に再吸収される。

 結果、NDCBEが一回周りPendrinが二回周れば、H+-ATPaseによってNaClが再吸収されることになる。いままで遠位ネフロンでのECF再吸収は主細胞の3Na+-2K+-ATPaseによるENaCのみで起こり、残りの現象はENaCによって生じた電位差を利用して説明されてきたので、これは意外だった。

 さらに、内腔側と血管側だけでなく介在細胞質内のメカニズムも分かってきた。たとえばA型介在細胞では、H+をたくさん捨てさせる機構としてCAIIでH+と一緒にできるHCO3-を感知するsAC(solubule adenylyl cyclase)活性化→cAMP/PKA活性化→H+-ATPaseの175番アミノ酸残基(Ser)を介したものが発見されている。

 逆にH+排泄をdownregulateする機構には[AMP]/[ATP]比の増加→AMPK(AMP-activated protein kinase)活性化→H+-ATPaseの384番アミノ酸残基(Ser)を介したものがある。センサーでいえば、内腔のpHを感知するものとしてGPR4(G protein-coupled receptor 4)、non-receptor tyrosine kinase Pyk2が調べられている。

 いわゆるaldosterone paradoxと呼ばれる現象(アルドステロンは高K血症時にはK+排泄をしてNaCl再吸収はしないのに、体液不足時にはNaCl再吸収はするのにK排泄はしない;いまではアンジオテンシンIIとWNK4が関わっていることが分かっているが、これはまた別に書く)にも、介在細胞が関わっている。高K血症でアルドステロンが出るがレニンやアンジオテンシンはない場合、介在細胞のMR(mineralcorticoid receptor)はリン酸化されておりアルドステロンは主細胞にしか作用できない。それでENaC↑→ROMK↑→K+排泄が起こる。

 それに対し体液不足でRAASが活性化されている場合、介在細胞内MRのリン酸化が解けてアルドステロンが介在細胞に作用できるようになる。そうすればH+-ATPaseによるNaCl再吸収でENaCまでNa+が届かなかったり、A型介在細胞のH+/K+-ATPaseによりK+が再吸収されたりして、NaClは吸収されてもK+は排泄されない。

 他にも介在細胞のH+-ATPaseを修飾するタンパクにはPRR(prorenin receptor)があり、これがreninやproreninをひきつけるのでRAA系の反応効率が上がり、angiotensinogen→angiotensinの変換効率は4倍になる。また介在細胞はPGE2を産生し、paracrineな方法で主細胞のENaCをdownregulateするなどが書かれていた。

 そして最後に、これは介在細胞に限ったことではないが、尿細管細胞はTLR(Toll-like receptor)のほぼ全種類を持っていて、とくにTLR4はuropathogenic E. coliを認識しているといわれ、さまざまなAMP(antimicrobial peptides)を放出して尿を無菌に保とうとすると書かれていた。AMPはdefensin(とくにβ-defensin-2はヘンレ係蹄から集合管まで広く分布している)や、RNAase7(こちらは介在細胞、膀胱上皮、尿道上皮に分布している)、cathelicidin、hepcidinなど100アミノ酸残基以下のペプチドだ。

 これらの殺菌物質のほかに静菌物質もあり、A型介在細胞はlipocalin 2を産生する。lipocalin 2と言われてもピンとこないだろうが、これはNGAL(neutrophil gelatinase-associated lipocalin)のことだ。NGALはAKIでも産生されるが、感染時にも産生されグラム陰性菌の増殖に必要なenterochelinとFe3+の結合体に張り付いて増殖を抑える。さらにNGALはTLRの活性化にも必須とされている。

 こんなに長く文献をまとめたのは久しぶりだ。時間があったこともあるが、これを毎日やったら疲弊する。フェロー時代は学びのシャワーを浴びるのが良いからどんどん論文を読んでどんどん吸収していたが、スタッフになったいま、生涯教育として専門性をアップデートするためには、やはり何度も何度もいうように持久力が必要で、そのコツも学んでいかなくてはならない。




[2018年11月追加]本文の最後に介在細胞が抗菌ペプチド(antimicrobial peptide、AMP)を産生して尿路感染症から腎臓を守っていると書いたが、それがインスリン受容体の支配下にあるという論文がJCIにでた(doi.org/10.1172/JCI98595)。糖尿病患者で尿路感染症が多いことと関係あるかもしれない、と著者は言う。


2015/03/03

ニッポンの酸塩基平衡

 腎臓内科学会が主催するセミナーをお手伝いしてきた。そこで、生化学のNa+とCl-だけでpH、pCO2、HCO3-を読もうとするニッポンの酸塩基平衡を習った。Na+からCl-をひくと、HCO3-とAGだ。

☆AGが正常(12)、HCO3-が正常(24)ならNa+ひくCl-は36になるはずである。この値が36からはずれている時には酸塩基平衡を疑わなければならない☆

 AGを12と仮定すればHCO3-を求めることができる。
 
 HCO3-からpCO2を求めるには、呼吸性の二次的(代償性)反応幅ΔpCO2がだいたいΔHCO3-かける1(個人的には代謝性アシドーシスでは1.2、代謝性アルカローシスでは0.7という人体実験データから得られた係数を使いたいが、面倒だから1にしてしまえということらしい)なことから、

pCO2=40-(25-HCO3-) ⇔ pCO2=HCO3-+15

 HCO3-の正常値は24だが、覚えやすいように25に水増しして、マジックナンバー15がうまれるようにしている。これは米国の高名な先生が思いついて日本に伝えたそうだが、私は米国の腎臓内科フェローシップでは習わなかった。

 次にpHを計算で求めるが、まずそのために[H+]を求める(logはぱっと計算できないから)。[H+]、pCO2、HCO3-の間にはH-Hの式から次の関係がある;

[H+]=24xpCO2 / HCO3-

 で、pH7.40のとき[H+]は40nmol/lで、この周囲でpHの小数点以下+[H+]=80が成り立っていることから、

pH=7.80-[H+]/100

 となる。なんというか、個人的にはここまでしなくても生化学でHCO3-を測ったりガスを取ればいいような気がする(静脈血でもいいから)。ただ日本の一般生化学からも酸塩基平衡をひねり出すことができるというのは発見だった。



2014/02/11

電極法 (aka HCO3- measurement)

 腎臓内科に限らず多くの人が生化学でオーダーしている電解質だが、これがどんなふうに測定されているかをこないだ初めて知った。Na+、K+、Cl-については電極法という方法で測定するそうだ。要は検体とレファレンス溶液の電位差を測定するわけだが、検体にはいろんなイオンが入っているので個々のイオン濃度を測定するには個々のイオンに選択的な電極膜が必要だ。そこでNa+、K+についてはクラウンエーテルと呼ばれる王冠の形をしたエーテル化合物の膜が用いられ、Cl-には超積層固定化分子配向膜が用いられる。クラウンエーテルの構造式はほんとうに王冠みたいで美しいし、「超積層固定化分子配向膜」なんて、そんな高度な技術を用いてCl-濃度を測定していたとは驚いた。

 さて、日本はCl-を測るがHCO3-はガス分析でpHとpCO2から計算した値を用いるので、生化学だけでは酸塩基平衡もアニオンギャップも分からない(それならいっそCl-も測らなければいいという考えもあろうが)。「住めば都」、米国でCRPなしで診療できたように(もっとも私は日本にいたときからCRPは非特異的だし余り使わなかったが)、日本でHCO3-が基本生化学に入っていなくても診療ができないことはない。ただ疑問なのは、米国でCRPは「測らない」だけで「測れない」ことはない(膵炎などでは使ったし、高感度CRPは冠動脈疾患のリスク因子として研究もされている)のに、どうしてHCO3-は日本の病院で「測れない」のだろうかということだ。

 その謎に迫るために、まずHCO3-の測定がどのようになされているのか調べてみた。すると、私が生まれる前の1976年に発表された方法(Clin Chem 1976 22 243)がいまでも使用されていることが分かった。その方法とは、まずHCO3-をphosphoenolpyruvateとともにphosphoenolpyruvate carboxylaseという酵素で反応させoxaloacetateをつくり、oxaloacetateをNADHとともにmalate dehydrogenaseという酵素で反応させmalateとNAD+をつくる。NADHが酸化され減少すると、340nm波長のスペクトルが減少する。このスペクトルの減少幅が検体のHCO3-濃度に比例することから、HCO3-濃度を定量できる。

 ということで、おそらく日本にもphosphoenolpyruvate、NADH、phosphoenolpyruvate carboxylase、malate dehydrogenaseは存在し、スペクトロメターも存在するだろうから、日本でこの方法を用いてHCO3-を測定しないのは単純に慣習の問題なのだろう(あるいは、これらの基質が日本には希少ということもまったくあり得なくはないが)。まあ、静脈サンプルから直接測定したHCO3-濃度とABGから計算したHCO3-濃度にはほとんど差がなかったという報告(Clin Chem 2008 54 1586)もあるし、日本にも血液ガス分析装置ならたいていの病院にはあるのでそこまで不便はないが、この酵素法が日本にもあるのか、もう少し調べてみたい。


 [2016年6月追加]酵素法はシーメンスのディメンション®シリーズ(日本にはEXL®、Vista®があるが最高スペックのRxL Max®を使っているところもあるようだ)で測定できる。また最近、東洋紡がダイヤカラーCO2®を売っている。補酵素にMg2+を使うことと、吸光度計では波長405nm(青紫)と505nm(緑)における吸光度の差を精製水を対照に光路長10mmで測定し、インキュベーション後の吸光度からインキュベーション開始時のを差し引いた値を求めるらしい。またベックマン・コールター社がシンクロンシステム®用の試薬を売っていたがシンクロンじたいが日本にはないようだ(UA®、Unicel DxC®;これらは電極法で緊急時測定項目としてCO2を測れるらしい)。


2011/02/08

RTA

 Noon lectureで腎臓内科医がRTAの話をした。彼女はうちの病院では珍しいHarvard graduateで、教育熱心で有名な先生なのだが、RTAは何と言っても複雑で、聴いている人はほとんど寝ているか苦笑するかしていた。私も正直難解と思ったが、聴きながら非常に面白い物の見方が得られた。さらに、理解を助ける三つのポイントも学んだ。
 面白い物の見方とは、アシドーシスのプロセスを尿細管細胞側(外側)からではなく、尿細管内腔(内側)に視点を置いて観察するということだ。糸球体を透過して濾し出された多くの溶質達が、あたかもシティマラソンのように一斉に内腔を走り出し、途中で「じゃあこれで」と消えていったり(再吸収)、途中から「やあどうも」と参加してきたり(排泄)するイメージ。
 それを踏まえて、三つのポイントについて。一つは、NAE(net acid excretion)という概念だ。
      
NAE = NH4 + titratable acid - HCO3

 腎臓が排出する酸はこの三つにより決定される。遠位RTAは前者二つの異常、近位RTAはHCO3再吸収の異常。NH4イオンは、尿アニオンギャップまたは尿浸透圧ギャップにより推定できる。titratable acidは、尿pHに反映される(NH4についたプロトンは固くアンモニアに結びついて離れず、尿中プロトンのほとんどは滴定酸由来なため)。

 二つ目は、aldosteroneの作用だ。遠位尿細管の詳しいレセプターはさておき、基本的にこのホルモンのおかげで遠位尿細管でNa吸収が起こり、結果生じるluminal negative driving force(尿細管内腔が陰性にチャージされ、それにより陽イオンを引き込もうとする力)によりプロトンとKが排泄されるというイメージが頭に入った。これによりType 4 RTAの機序、それにType 4 RTAが高K血症をきたすことが容易に説明できる。

 三つ目は、HCO3 is a non-reabsorbable anion in distal tubuleという概念だ。あたかも高速道路のように、近位尿細管というexitを逃すとHCO3はそのまま再吸収されずに走りつづけるしかない。その結果、電気的中性を保つためNaを(Kも)遠位尿細管まで引き連れることになり、前述のaldosteroneの作用によりここでNa再吸収とK排泄が起こる。これが近位RTAが低K血症をおこす理由だ。