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2020/09/04

速報 IN.PACT AVスタディ

 バスキュラーアクセス領域に、ビッグ・ニュースだ。パクリタキセル被覆バルーンIN.PACT AV®による内シャント狭窄への効果が示され、先週のニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシンに報告された(NEJM 2020 383 733)。二部構成で紹介したい。


引用元はこちら


1. 概要


 このスタディは米国・日本・ニュージーランド29施設で(日本からは4市中病院と2大学病院)おこなわれ、血液透析患者330人(日本からは112人)の、内シャント狭窄(狭窄率50%以上、新規か再狭窄かは問わない)が対象だった。

 シャントの内訳は:

前腕(橈骨動脈-橈側皮静脈)166人
肘(上腕動脈-橈側皮静脈)120人
肘(上腕動脈-穿通枝)32人
その他 12人

 標的となった狭窄の部位は:

吻合部 84人
動脈流入路 11人
橈側皮静脈本幹 66人
穿刺部 37人
吻合部静脈側* 26人
(*swing point、周囲組織から剥離し「ぶらぶら」させた皮静脈の基点)
静脈流出路 106人

 とある。論文には国ごとのシャント種類・狭窄部位の内訳はないが、肘シャントの多くは「上腕・ファースト(こちらも参照)」の米国で、その多くが静脈流出路の狭窄であったろうと推察される(狭窄前後の静脈径は、平均7.2ミリもある)。


肘シャント(引用元はこちら


 こうしたシャント狭窄に対し、介入群・対照群のいずれもpre-dilationで拡張を行い(平均バルーン径:7.2ミリ、平均拡張回数:2.1回、平均最高拡張圧:18気圧)、両群ともに狭窄率は10%程度に改善した。

 そのうえで、介入群は0.035インチガイドワイヤー対応の薬剤被覆バルーンで、対照群は標準バルーンで、それぞれ追加拡張をおこなった(平均バルーン径:7.3ミリ、平均バルーン長:54ミリ、平均拡張回数:1.3回、平均最高拡張圧:10気圧)。

 なお、スタディの性質上どうしようもないことだが、標準バルーンと薬剤被覆バルーンは見た目が異なるため、バイアスを排除できない。それでなのかは分からないが、介入群は全例が180秒以上拡張していたのに対し、対照群は64%しかしていなかった。いずれにせよ、両群とも申し分なく狭窄を解消し、手技を終えた。


 それで、どうなったか?


 プライマリエンドポイントは、手技後6ヶ月間の開存率。つまり、再手技(①シャント不全徴候をともなう50%以上の再狭窄、または②シャント不全徴候を伴わない70%以上の再狭窄があった場合)がなく、シャント流路内に血栓もできないことだった。

 その結果、対照群の6ヶ月開存率は59.5%だったのに対し、介入群は82.2%だった(p<0.001)。ワースト・ケース・シナリオ解析(フォローできなかった介入群は全例再手技となり、フォローできなかった対照群は全例開存していたと仮定)でも、充分に有意差がでた(62.5% v. 73.5%、p=0.02)。


再手技減少の宣伝(引用元はこちら


 なお、国ごとや病変部位ごとのサブ解析データは入手できなかったが、「米国」と「米国以外(ニュージーランドは4症例なので、ほぼ日本)」のサブ解析ではどちらも遜色ない結果だった(米国の開存率は介入群で81%・対照群で65%、米国以外は介入群で83%・対照群で50.8%)。

 安全性は、手技後30日以内のシャント関連有害事象に有意差はなく(介入群4.2%、対照群4.4%、p=0.002)、12ヶ月後の死亡率にも有意差はなかった(介入群9.4%、対照群9.6%)。ただし、あえて挙げると手技後12ヶ月以内の肺炎が介入群で高かった(介入群7.1%、対照群3.1%、有意差データはなし)。


2. 感想


 パクリタキセル被覆バルーンといえば、末梢動脈疾患にはすでにLUTONIX®(こちらも参照)とINPACT®が用いられ、どちらも遜色ない印象で用いられているようだ(ドイツのリアルワールドなデータ・インタビューはこちら)。

 バスキュラーアクセス治療ではまずLUTONIX®が認可されたが、その根拠となる報告がやや残念(こちらも参照)で、「やっぱりシャントは別なのか・・」というペシミズムが拭えなかった。だから、今回申し分のない結果がでて、よかった。

 なお安全性については、末梢動脈疾患では被覆バルーン群で死亡率が対照群よりたかく心配された。しかし因果関係は明らかでなく、少なくともバスキュラー・アクセス領域のメタ・アナリシスでは有意差がみられなかった(J Endovasc Ther 2019 26 600)。
  
 ひきつづき短期・長期の有害事象には留意が必要なのはもちろんだが、バスキュラーアクセスの場合、論文著者もいうようにシャントの頻回狭窄や早期再閉塞による害(入院、再手術、不十分な透析、カテーテル関連合併症など)との兼ね合いも考慮すべきなのだろう。

 また本スタディは、日本の施設も参加しているので親しみやすいだろう。実臨床では得てして、「遠くのhigh-qualityスタディ」よりも「近くのnot-so-high-qualityスタディ」のほうが結果を受け入れやすいものだ。「近くてhigh-qualityスタディ」の今回、日本側の詳細な情報がわかると、より参考になるだろう。


  そのうえで、どうするか?


 日本のシャントPTA医療は、今年の医療報酬改定で点数が引き下げられる以前から「1処置1バルーン」の原則で成り立っている。よって、被覆バルーンを追加するのは、いまのところは頻回狭窄のケースなどに限定されるだろう。

 その意味では今回、新規より再狭窄病変で有意に開存率がすぐれていたのは、朗報かもしれない(新規病変は介入群90.7%・対照群75.6%で信頼区間[-0.1%~30.4%]、再狭窄病変は介入群78.9%・対照群52.4%で信頼区間[14.2%~38.8%])。

 今後、その有効性がリアル・ワールドで確認されれば、「被覆バルーンを追加すればPTA1回分(+再手術、入院、カテーテル・・・)が節約できる」といった議論が進むかもしれない。

 医療費の問題は複雑だが、いわゆる「ステークホルダー」それぞれが納得できるとよいだろう。なおその際には、「患者」という大切なステークホルダーのことも忘れてはならない。PTAの痛みに耐えるのも、新しい機器の関連有害事象を被りうるのも、結局は患者だからだ。






2020/06/17

切らない、縫わない、内シャント

 切らない、縫わない、内シャント・・「ないないづくし」だが、そんなデバイスが本当に「ある」。しかも、二つ。すでに認可された欧米では「どちらがよいか」まで議論になり始めているので、本ブログでも紹介したい(参考文献はGefässchirurgie 2019 24 25、doi:10.1007/s00772-018-0500-y)。


1. 手技


 まず前提として、両者とも肘窩ないし前腕近位のシャントとなる。静脈には表在静脈と深部静脈をつなぐ貫通枝が、動脈には上腕動脈(または橈骨動脈・尺骨動脈の近位)が用いられるため、グラーツ・シャントの変法とも言える(図はKI 1977 11 71)。


C:橈側皮静脈、B:正中皮静脈、P:貫通枝、BA:上腕動脈


 一つ目のWavelinQ®は、動静脈に0.014インチ・ガイドワイヤーをつうじてカテーテルを留置し、吻合予定部に置かれた磁石によって動静脈をくっつける。そして、静脈側に付けられた電極から60Wのラジオ波を0.7秒放射して、幅1mm・長さ4mmの吻合スリットを形成する。


(出典はこちら


 第一世代は6Frシステムで上腕シースからのアプローチだったが、第二世代は4Frシステムで、手首の橈骨動脈からもアプローチ可能だ。後述するEllipsys®とちがい、術後は血管造影を行い、深部の上腕静脈にコイル塞栓が追加されることが多い。よって、手技も1時間くらいはかかる(ラジオ波による不随意運動を防ぐため、腕は固定する)。


 二つ目のEllipsys®システムは、肘窩の皮静脈から6Frシースを留置し、0.021インチ・ガイドワイヤーに沿わせたマイクロ・パンクチャー・ニードルで動脈を貫通させ、ガイドワイヤーを通す。ガイドワイヤーを0.014インチに入れ替えてからカテーテル(thermal resistance anastomosis device、TRADとも)を挿入し、その先端で動静脈を挟み、15秒間くらい加熱して吻合する。


(出典はこちら

 
 確認に血管造影は不要で、全過程をエコー下で行う。前述のWavelinQ®は吻合部位が脆弱なため直後のPTAは不可なのに対し、Ellipsys®は直後のPTAが推奨される。カテーテル1本であり、慣れた人がやれば20分もあればできるらしい(こちらも参照)。


2. 臨床成績

 WavelinQ®はFLEX(J Vasc Interv Radiol 2015 26 484)、NEAT(AJKD 2017 70 486)、EASEスタディ(Ann Vasc Surg 2019 60 182)などで検証されている。

 最新のEASEスタディは32人の患者を対象にしたパラグアイの1施設試験だが、成功率100%、有害事象に静脈のガイドワイヤー穿通が1件、平均血流量は術後1・30・180日で751・886・845ml/minだった。6ヶ月後の開存率は83%、PTAなどの再介入率は0.2/年・人。シャント穿刺までの平均日数は43日だった。

 Ellipsys®も少なくとも3つのスタディ(J Vasc Interv Radiol 2017 28 380、J Vasc Interv Radiol 2017 29 149 e5、J Vasc Surg 2018 68 1150)で検証されている。

 最も新しい34人の患者を対象にしたパリとオクラホマの試験では、成功率97%、平均血流量は術直後とフォローアップ時に669・946ml/min。手術の6週後には全例がシャント穿刺可能で、有害事象と再介入は1件もなかったという。

 ただし、これらのスタディはランダム化や対照ができないうえ、各種バイアスを免れない。慣れた人が向いている患者にやれば、うまくいくということだろう。


3. 外科的内シャント造設との比較


 経皮的な内シャント造設は、静脈への侵襲が少ないので手術より狭窄を起こしにくいようにも思われるが、心不全やスティールなど年単位の長期成績は検証されなければならない。また、欧米では手術費用が高額のため「(デバイスは高価だが)手術代とPTA代が浮く」という論調も増えてきている(J Vasc Access 2017 18 8、DOI: 10.1177/1129729820921021など)。


☆ ★ ☆


 いかがであろうか?日本では、①前腕ファースト(米国は上腕ファースト、こちらも参照)であり、②手術費用も相対的には安い(保険点数は18080点、前掲論文は手術費用を€33041と算定している。なお経皮的内シャント造設の費用は€5722)。だから現状では、日本への影響は限定的かもしれない。

 しかし、大動脈瘤や大動脈弁狭窄症などで手術の代わりに血管内修復術やTAVRなどができるようになった流れを考えれば、より低侵襲の治療モダリティはあったほうがよい。短時間の手技で再介入率が低いのなら、なおさらだ。

 「WavelinQデバイス」、「Ellipsysデバイス」とGoogle検索しても日本のサイトがヒットしないくらいだから、日本市場への参入はあっても水面下なのだろうが、そのうち登場する日も来るだろう。それを慎重かつ楽しみに待っていたい。






2020/05/19

外科医の覚悟に触れる

 「覚悟」という言葉を医療で最もよく聴く分野は、心臓血管外科だろう。そうした著書や番組も多数ある。心臓も大動脈も患者に1つしかないし、失敗すれば患者はその場で死んでしまうのだから、当然だろう。

 「覚悟」には、技術の習熟はもちろん、適応や術式の決定、想定外事態へのトラブルシュート能力なども含まれる。また「ハートの強さ」や「胆力」も強調され、名心臓血管外科医はサムライに例えられることすらある。

 内シャント造設術も、手術であるからには、当然このような「覚悟」が求められる。心臓や大動脈と同じように、手術に適切な皮静脈が1本しかないこともあるし、バスキュラーアクセスの確立は患者の生死に関わる大問題だからだ。


 ・・だから、たとえ吻合するはずの皮静脈が下図のように前腕中程で破れていても、なんとかしなければならない。




 「術前評価が甘かったかな」「静脈の拡張圧が強すぎたかな」・・反省はもちろん必要だ(シャント予定肢にルート・採血禁したかの確認も!)。じっさい筆者は直ちに反省し、心と頭がフリーズしかけた。

 しかし幸いなことに、その前日に心臓血管外科医の本(書名もずばり『心臓外科医の覚悟』、山本晋著)を読んでいた。そこで、「登山と一緒で、遭難してもなんとか安全に下山してこなければならない」と気持ちを持ち直すことができた。

 で、どうするか?

 とりあえず、①他につなげる皮静脈が近くにないか探すか、②損傷部位までなんとか露出させて修復するか、③肘側で一から作り直すか、を思いついた。

 


 結局①の皮静脈はなく、③は侵襲も流量も増えてしまう。さいわい損傷部位が皮切創からアプローチ可能だったため②を選んだが・・正直初めての経験だ。でも、狭窄したら「PTAまたは③」と、覚悟を決めた。

 ベストを尽くして7-0プロリン糸で薄く単結節で縫い、漏れは止まった。血管鉗子を解放後の数時間はスリルが不安定だったが、そのあと安定し、さいわい1-2週間で穿刺使用可能となった。

 こんなことは、もちろん「ハドソン川のキセキ」くらい稀でなければならない。しかし、手術のたびに「覚悟」は必要だと痛感した。手術もできるようになりたい!という読者には、手技のコツなどの教科書だけでなく「覚悟本」にも触れることをお勧めしたい。



宮本武蔵『五輪書』を元に作成


2020/01/29

フォガティー・カテーテル

 末期腎不全に対して、ひだり前腕の人工血管内シャントで血液透析を受ける70歳男性が、シャント音がないため来院。診察上シャントは閉塞しており、エコーで静脈側吻合部に血栓が付着していた。




Q1:どうしますか?


 こんなとき、筆者は狭窄を拡張させるバルーンを用いて圧排していた。しかし往々にして、圧排だけでは血栓は除去できない。




 血栓を除去するには、付着部のところから離断させるしかない。しかし、狭窄を拡張させるためのバルーンは「ツルツル」していて、血栓を「こそぎとる」力が弱い。ではどうするか?

 そんなときにおススメなのが、「血栓除去用バルーン」だ。バルーン部分は摩擦係数の高いゴムで出来ている。本来は膨らませてから引き抜く道具だが、血栓の前後で「ゴシゴシ」していると、血栓を血管壁からはがすことができる。






 ハッピーエンドだが、このように血栓除去に効果を発揮するバルーンカテーテルがあることは、その業界の方には常識であり、取り立てて書くまでもないほどだろう(筆者は最近まで知らなかったが)。そこで、二番目の質問に移りたい。

 
Q2:誰に感謝しますか?


 まあこれも、血栓除去バルーンカテーテルが「フォガティー」と呼ばれていることを考えれば自明であるが、Thomas J. Fogarty先生(1934-)がこのカテーテルを開発するに至った経緯はあまり知られていないかもしれないので、紹介しておく(参考文献:英語版Wikipedia)。

 
 フォガティー先生はオハイオ州シンシナティ生まれの米国人医師であるが、8歳で鉄道技師だった父親を亡くしてから、模型飛行機からスクーターのクラッチまで、いろいろ自分で作って売る生活をしていたという。

 少年時代はボクサーになることを目標にしていたが、中学生時代に医療機器清掃のバイトをしていた病院で器用さを買われて手術助手の役目をしたりするうち、高校時代には医師を志すようになった。

 学校の成績はよくなかったが、病院の恩師であるJack Cranley先生の助けもあって1960年にシンシナティ大学医学部を卒業。その在学中から、病院で多くの患者が下肢動脈塞栓から死亡するのを目にしていたため、侵襲の少ない血栓除去バルーンを開発していた。

 まず彼は、(おそらく自宅の)屋根裏部屋で尿道カテーテルを触りながら、その先端に5.0サイズ手術用手袋の小指部分をつけることを思いついた。これで、原理的には、バルーン内に生理食塩水を充満させ、血管径まで広げて引き抜いてくれば血栓を除去できる。

 バルーンとカテーテル(ラテックスとビニル樹脂)をくっつける接着剤が手に入らないのが問題だったが、彼は小さい時からフライ・フィッシングをしていたので、それを応用して両者を結んでくくりつけた。そして、ガラス管にゼリーをつめたモデルを用いた試行錯誤により、バルーンの血栓除去力と強度を工夫した。

 彼はさっそくこれを企業に売り込んだが、最初の数年はまったく相手にされなった。しかし恩師のCranley先生は彼を励まし続け、シンシナティ大学で研修中はそこで外科医に自作のデバイスを使ってもらっていた。

 1962年からはオレゴン大学に移ったが、そこの胸部外科部長のAl Starr先生が知り合いのエンジニア、Lowell Edwardsに実用化を持ちかけてくれた。1969年に特許を登録し、Lowellの会社で製造販売がスタートする。その会社こそが、Edwards Life Science社である。

 
 この話には、成功の秘訣がたくさん詰まっている気がする。こうして日本語で書いておくことで、どこかで誰かがイノベーションを起こすきっかけになれば、うれしい。そんなわけで、フォガティー先生、ありがとうございます。



(出典はこちら

2019/12/27

印象派インターベンショナリスト

 ひだり前腕内シャントで血液透析を行う60歳女性が、シャント閉塞後に来院。マッサージで血流は再開するも、診察すると吻合部静脈側に狭窄がみられ、吻合部は瘤を形成していた。同部のシャント造影所見は、下記。





 PTAを試みるため、肘部のシャント本幹から逆行性に(末梢側に向かって)ガイドワイヤーを進めたが、下記のように末梢側の橈骨動脈にしか入らない。




Q:どうしますか?

 
 ガイドワイヤーの先端を指先において、吻合部静脈側の狭窄部を拡張する方法もあるが、作業の最中に抜けたり末梢の動脈を損傷したりするリスクを考えると、やはりガイドワイヤーは中枢側の橈骨動脈に通したい。

 しかし、ガイドワイヤーは(下図のように)急には曲がれない。




 そのため、下図のようなアウトコースを通って中枢側の橈骨動脈入口にアプローチせざるを得ない。




 ここから、下図赤マルの部分にガイドワイヤー先端を引っ掛けられればよいのだが・・。




 引っかからないと、物別れに終ってしまう。




 クルクル頑張ったが、引っ掛からない。いたずらに時間を費やして、患者負担と放射線被爆を増やすわけにもいかない。引っ掛けるための別の方法はないか?と考えて、「ワイヤーの先端にもっと角度があれば」と思いついた(下図)。 



 
 といっても、IVRやPCIにくらべて「質素な」シャントPTAでは、下記のように豊富なバリエーションのワイヤーがゴルフクラブのようにストックされているわけではない。


(出典はこちら

 
 それでもワイヤー棚を探すと、なんとか「先端のアングルを自分で変えられる」ものが見つかり、それを使って事なきを得た。




 「先端のアングルを変えられる」ワイヤーは、IVRやPCIをなさる方には常識だろうが、腎臓内科だと知らない方もおおいだろう(正直、筆者は知らなかった)。あると、時には役に立つし、使って引っ掛かると、嬉しい。


* * *


 米国家庭医・医学教育者のリチャード・コルガン著『医のアート ヒーラーへのアドバイス(邦訳は2019年、筆者による)』に、以下の一節がある。 


 印象的な出来事であっても、書き残しておかなければ、時が経つにつれて色褪せ、結局は忘れられてしまう。しかし心に残った経験を書き留めておけば、その後いつまででもその出来事を思い出せるだけでなく、当時の自分に再会してその頃あった人生の出来事までも回想できる。こうした思い出は、人生における真の宝物であり、落ち込んだ時やつらいときには元気づけてくれるし、押し流されそうな時には原点に引き戻してくれるだろう。 


 今年も残りわずかだが、来年も印象に残った出来事は書き残しておきたい。それがいつかどこかであなたの何かを豊かにしたならば、幸いである(写真は山梨・静岡県道71号線)。



(今年71件目の投稿!来年もよろしくおねがいします)

2019/11/28

内シャントは透析のためならず?

医師 「そろそろシャントを作ったほうがよいと思います」
患者 「シャントを作ったらすぐに透析になっちゃうんですか?」

 日本透析学会のガイドラインは、「透析導入の少なくとも1か月以上前のAVF、AVGの作製」を推奨している(透析会誌 2013 46 1107)。日本はAVF作製から穿刺までの期間が約2週間と圧倒的に短いので、それに少し余裕を持たせた「1ヶ月以上前」となっているのだろう。

 いずれにしても、「透析をするからシャントを作る」のであり、「シャントを作るから透析になる」わけではない。それどころか、先日BMC Nephrologyにでた論文によれば、「シャントを作ることで透析導入を遅らせられるかもしれない」(doi:10.1186/s12882-019-1607-4)。

 一施設の後ろ向きスタディであり質は高くないが、カナダにある大学病院のCKD外来で内シャント(グラフト、カテーテルは含めず)を作製された146人の患者について、作製前後のeGFRを見直してみると、以下のようなeGFRのスロープが得られた。論文著者によれば、以前からこの傾向を示唆するスタディはいくつか発表されていたという。


前掲論文より


 グラフによれば、eGFR低下率は、内シャント作成後に-3.6から-2.2ml/min/1.73m2/年と、有意に抑えられた。eGFR低下に対する有効な治療の少ない現状では、注目に値する数字だ。なにせ、eGFRが12から8ml/min/1.73m2に下がる期間が、半年以上延長される計算なのだから。

 しかし、筆者も論文著者も、「シャントってすごい!」と飛びつくほどナイーブではない。交絡因子として、RAA系阻害薬の開始・中止などは考慮されているが、内シャント作製を機に患者の治療アドヒアランスが向上した可能性などは否定できない(上図も、よくみるとシャント作製前からスロープが平らになっている・・)。

 それでも、内シャントの腎保護作用を説明しうる機序がないわけではない。一つは内シャント作成時の動脈クランプや、作製後の軽度の手指虚血などによるRIPC(remote ischemic pre-conditioning、こちらも参照)効果。もう一つは、シャント血流による全身血管抵抗の低下や心拍出量の増加による腎潅流の改善だ。

 じっさい、この論文でもシャント作製後には拡張期血圧が4mmHg程度、有意にさがっていた(この現象は他でも実証されている、Am J Hypertens 2019 32 858)。また、移植後にシャントを閉じたら腎機能が低下したというスタディもある(NDT 2017 32 196)。
 
 ただし、非生理的なシャント血流はいわば諸刃の剣であり、血流量と心機能によっては高拍出量性心不全を起こす(こちらこちらも参照)。今回の論文では心不全患者が6%と少なく、シャントの血流量・タイプ(上腕・前腕など)は考慮されていない。心機能低下例の多い患者コホートに大血流シャントを作製していたら、違う結果になっていただろう。


 何であれ、透析を始めるにあたってはバスキュラーアクセスがあったほうがよく、なかでも内シャントが望ましいことは周知の事実である(こちらも参照)。今後こうした研究が進み、患者さんに「(適切な症例に適切な血流と種類の)シャントを作ったら腎臓が長持ちしますよ」と言えるようになれば、一石二鳥なのだが。



ルイス・キャロル『不思議の国のアリス』より



2019/11/25

すてきな稼業

 70歳女性。末期腎不全のため、ひだり前腕内シャントから血液透析を受けている。再循環率25%、シャント血流250ml/分、RI 0.7。シャントは数年前に造設されたが、いままでシャントPTAを受けたことはない。肘部から末梢側に向けて(流れに逆らって)造影したところ、下図のような所見であった。


末梢側が造影されない


Q:どうしますか?
 

 再循環率がたかいだけなら中枢側の病変も考えられるが、浮腫など静脈高血圧を示唆する所見はみられない。血液流量が低いことから、末梢(吻合部)の病変が示唆される。また、本例のように長い間PTAを受けていない場合、本幹が途絶し側副血行路でシャントが成立していることも多い。

 なので、本症例を動脈側から流れに沿って造影したなら、下図のように「もやもや病」のような所見だろう。


吻合部が狭窄・本幹が途絶・側副路が発達


 側副血行路は患者さんの身体が工夫した結果であるが、残念ながらこのタイプは修復が難しい。PTAをしようにも本幹は途絶して時間が経っているのでガイドワイヤーは入らないことが多い。また手術で再建しようにも、つなぎなおす本幹がない(肘シャントになってしまうだろう)。

 しかし、「意志のあるところに道ができる」というわけで、エコーで道をさがす。すると、下図のようにどうにか一本、糸のような道がみつかることもある。


(破線は元の本幹)


 ここで求められるのが、臆病と蛮勇を避ける中庸の徳を説いたアリストテレスのいう「フロネシス(実践知)」であり、日常語彙でいう「臨床判断」である。通せるのか?安全に?という考えなしに突っ込むわけには行かない。

 そのうえで、たとえ可能性が未知でもやることが正しいと信じるのなら、孟子の言うように「千万人といえどもわれ往かん(公孫丑章句 上)」である。あるいは、先日公開されたディズニー映画『アナと雪の女王2』にある、“Into the Unknown”である。

 細いところを細いワイヤーでそーっと通し(こちらも参照)、追従させた造影カテーテルで道を確認しながらすすめ、固いところは太いワイヤーに入れ替えてぐっと押す。通したら、これまたそーっとバルーンで拡げる。

 すると・・・下図のような新しい本幹ができる。これで、患者さんはその日から透析が問題なく行える。


側副路は造影されなくなる


 ディズニー映画『ピノキオ(1940年)』の“Hi-Diddle-Dee-Dee”で歌われるショービジネスのような「すてきな稼業」ではなく、『メリーポピンズ(1964年)』の“Chim-Chim-Cheree”に歌われる煙突掃除のようなシャントPTA。こんな時はまさに、「何て素敵な、この眺め」である。



(出典はこちら

2019/08/28

秘伝?ガイドワイヤーの持ち方

 ガイドワイヤーの持ち方にもいろいろあるようで、たとえば『こうすれば必ず通過する!PCI医必携ガイドワイヤー“秘伝”テクニック(村松俊哉著、2018年)』は、いろいろな持ち方があるとしながらも、自らのやり方である手をワイヤーの下に置き鉛筆のようにホールドする方法を推奨している(これを「お箸持ち」と呼んでいる)。


(『箸のはしばし』より)


 ではインターベンショナル・ネフロロジーではどうか?基本的過ぎるのか、『バスキュラーアクセス治療学(大平整爾監修、第1版は2013年)』にも、透析学会による『血液透析用バスキュラーアクセスのインターベンションによる修復の基本的技術に関するガイドライン(透析会誌 2002 35 57)』にも、持ち方は書かれていない。

 そんなわけで、施設によってさまざまな流儀があると思われる。筆者は最初に「人差し指と中指、あるいは人差し指と薬指を少し離し、その2本の指の腹を橋渡ししたガイドワイヤーの中央部を親指の腹で支える」という方法を習った。が、フルート並みに難しく感じられて、習得できなかった。


(YAMAHAサイトより)


 しかし、ガイドワイヤーの先端を狭窄部の入り口に滑り込ませるためには、図のようにガイドワイヤーを「クルクル」回転させて探る技術が不可欠だ。



 
 なんとかしなければならない・・。啄木先生のように途方にくれ、「働けど働けどなお(わがPTA)楽にならざり、ぢっと手を見る」日々が続いた。

 しかし、お箸と同じでとにかく用を足せれば(「クルクル」できれば)よいと思いなおし、通勤中に道の雑草を抜いて「クルクル」していたら、数週間でなんとかできるようになった。





 「お箸持ち」や「フルート持ち」のような優美さはないが、難しめの狭窄もわりと楽に越えてくれる、頼もしい「雑草持ち」。もし持ち方で困っている方がいたら、試してみてもいいかもしれない。なお、親水性ポリマーコーティングされたガイドワイヤーはすべるので、持つ部分は寧ろ乾いたガーゼで水気を拭いたほうが「クルクル」しやすい。




2019/06/07

AVG閉塞のPTAという道

 読者のなかには、2年前に書かれたこちらの投稿をおぼえておられる方もおられるかもしれない。今回は、AVG閉塞をPTAで治療する様子を紹介したい。

 AVG閉塞を治療するときには、以下の3つを成し遂げなければならない。

1.ひろげる
2.血栓をなくす
3.合併症をおこさない

 まず1.であるが、こちらは閉塞していない場合のPTAと同じで、文字通り「経皮的に(percutanous)内腔側から(transluminal)血管形成(angioplasty)」を行う。とくに静脈側流出路に狭窄がある場合はよく拡張しておかないと、せっかく再開通させても人工血管内の血栓が狭窄部で詰まり、さらに血栓ができる・・という繰り返しになってしまう。

 つづいて2.であるが、こちらは血栓に居なくなるか消えてもらわなければならない。しかし本来バルーンはひろげる道具であり、血栓のあるところでひろげても圧排されるだけで動いてくれないことも多い。

 それで、拡張用のカテーテルバルーンを少しふくらませてからインフレーターのトリガーを抜いて拡張圧ゼロにして血栓を引きずってきたり、血栓除去用のFogarty embolectomy catheter(現場では単に「フォガティー」とも)を出したり、シース・イントロデューサーのポートから吸引したり、ウロキナーゼなどの血栓溶解薬を使ったりする。


 なお筆者はトロンボーン経験者なので、スライドの中を掃除する下記のような道具があればなあ・・といつも思う(写真は、ヤマハ フレキシブルクリーナー SL FCLSL4)。




 そして最後に3.。「平時」のAVG閉塞PTAは、「ヘアカット(こちらも参照)」に一手間加えた「ヘアカラー」くらいで済む。しかし、困難症例では「レスキュー」の様相を呈することもあり、二次災害にも気をつけなければならない(写真は2012年公開の映画『BRAVEHEARTS 海猿』より)。


(出典はこちら


 そんなとき、閉塞が解除できないのならそこでやめるしかない。むしろ危険なのは、頑張った末に静脈側が詰まったまま、静脈側の血管が破れ(血管造影ができないのでガイドワイヤーが迷入するおそれがあるし、狭窄がきつい場合はどうしても破るリスクが高くなる)、動脈側は開いているというケースだ。止血のため、緊急手術が必要なこともある。

 そして最後に、AVG閉塞は緊急に入ることも多く、手技・放射線使用時間も長い。だから、患者さんだけではなく、PTAチーム(看護師、臨床工学技師、放射線科技師、医師ら)の心身も守らなければならない。
 


 こうしたことを踏まえて毎回臨むのであるが、「開眼したか?」と思い上がるたびに「まだまだ・・!」と思い知らされるなど、またまだ道遠い筆者である(写真は1954年公開の映画『道』より)。






2019/04/05

他山の石

 先月、ガイドワイヤーの重要性と危険性について論じたが、「抜き忘れ」については論じなかった。しかし、医療事故情報収集等事業がおこなった調査の第34回報告書(透析関連の事故をあつかったIII、2【1】)によれば、2004年から2013年までに、穿刺時の「外套(注:外筒の意味だろう)・ガイドワイヤーの残存」の事例が9件あった。うちガイドワイヤーは5件だが、リアルな数字だ。

 報告書には具体的な事例が二つ挙げられているが、ひとつは:

血液浄化用のダブルルーメンカテーテルを鼠径部から挿入留置した。その後血液浄化装置にて血液透析を開始したところ送血管の圧が高く、脱血管に切り替えた。送血管の圧の高さを調べるためにエックス線撮影したところ、ガイドワイヤーの遺残を発見した。小切開にて、ガイドワイヤー、カテーテルを抜去した。改めてカテーテルを挿入し透析を開始した。

 「遺残」とあることから、ガイドワイヤー抜去時にガイドワイヤーが途中で切れた可能性がある。幸い筆者にはその経験がないが、逆に言えば同じ事故に遭遇しても知らなければこの報告同様に気づくのが遅れたかもしれない。

 ただし背景には「カテーテルを留置した際に、ガイドワイヤーを抜くことを失念した」とあり、遺残ではなく全部だった可能性もある。脱血・送血用のルーメン以外にもうひとつ(通常のCVカテーテルとしての)ルーメンがあって、そこからガイドワイヤーがでてくる仕組みだったのかもしれない。

 また、大腿静脈から挿入するのはたいてい緊急なことがおおく、反省点として「早く透析を開始したいと焦りがあった」と挙げられているのを見ると、(その気持ちはよくわかるので)他人事ではないなと身につまされる。

 もうひとつの具体例はICUで、内頚静脈に入っていた中心静脈カテーテルを切って、そこからガイドワイヤーを挿入して透析用カテーテルに入れ替えを試みた際に、断端が静脈内に入ってしまった・・・というものだ。

 これについて報告書は「医師が過労のため体調不良であり、注意力が落ちていた可能性が高い」などと考察している。「過労」、「体調不良」などと聞かされると、働き方と体調を管理することも「カテ道」にとって大事な要素だなと改めて痛感する。


 報告書は、こうした事例を受けての改善点に「院内で事例を共有する」を挙げている。それはもっともだし、じっさい報告書がPDFとして(建設的な意味で)院外に共有されている(リンクはこちら)のは本当にありがたい。ぜひ、他山の石として肝に銘じたい(下図は日本医療機能評価機構ウェブサイトより)。





2019/03/29

カテーテル留置にあらまほしき事

 腎臓内科フェローが当直で緊急に透析カテーテルを挿入するのは、日本でも米国でも同じだ。しかし米国では「やりたい人がやればよい(そのほうが患者も安全だ)」という風潮が高まっており、CJASNでも2018年に賛否両論が掲載された(「必修であるべき」がCJASN 2018 13 1099、「必修でなくてよい」がCJASN 2018 13 1102)。

 筆者は、8年前のある出来事がいまだに忘れられず(123)、その後も「カテ道」で経験を積ませていただき、現在の施設でもカテを入れている。そんなわけで、大腿静脈からガイドワイヤーの付属していないCVカテーテル(透析用ではないもの)キットを挿入したある日のこと。

 そのキットは、穿刺針の外筒がシース・イントロデューサーのような役割を果たし、その内腔からカテーテルを挿入する(挿入後は外筒を剥いて除去できるようになっている)ものだった。

 しかしカテーテルだけでは操作性がわるく、少しでも抵抗があると(左で総腸骨静脈と動脈が交差するなど)進まないし、一旦細い静脈に迷入するとバックはできるが方向転換ができない。抜いたり出したりするたび位置確認にポータブルX線を撮っても、埒が明かない。

 しかし、CVカテーテルは「カテーテル」というだけあって、どれも「何ゲージ」という以外に、内腔に「何インチ(0.025、0.035など)」のガイドワイヤーが入るか明記してある。そこで、透視下にカテーテル内腔からガイドワイヤーを進めると、するすると容易にIVCに入ってカテーテルを導いてくれた。

  吉田兼好の『徒然草』第52段は仁和寺の和尚が石清水八幡(写真)に行った時の話で、「少しのことにも、先達はあらまほしき事なり」とある。




 ガイドワイヤーもまた、あると大変ありがたいものである。

 しかし、注意すべき点もある。それは、先端がどこにいるかわからないガイドワイヤーは、却ってあぶないということだ。

 たとえば内頚静脈からCVカテーテルを挿入する場合、ベッドサイドでガイドワイヤーの先端位置を確認することはむずかしい。「心電図モニターで不整脈(心室性期外収縮や非持続性心室頻拍)が出れば心室内だから、引きましょう」などというが、それ以外にも迷入してほしくない(穿破してほしくない)場所は沢山ある。

 だから筆者は、最近もっぱら(透析用か、短期・長期用かを問わず)CVカテーテルはカテ室で挿入することにしている。安全には替えられないからだ。

 「少しのことにも、ガイドワイヤーと透視はあらまほしき事なり」とでも言おうか。




 

2019/02/22

こつこつとコツをひろう道

 腎臓内科を目指す人はやっぱり病態生理とかを詳しく知りたいのかなあと思っていたら、バスキュラーアクセスの各手技に習熟したいという情熱を持った人も多い。英語だとinterventional nephrologyと呼ばれ、やはり米国でも注目を集めている(CJASN 2013 8 1211)。かくいう筆者もそこへ足を踏み入れたひとりだ。

 さまざまな工夫がモノを言う世界なので、最初はとにかくお師匠たちの教えてくれるコツをひとつひとつ書きとめていたが、だんだんやりながら自分なりに得たコツもでてきた。お師匠たちのコツにくらべれば小さなことだが、このような媒体でシェアすればなんらかの形で役に立つかも知れない。たとえばこんなことだ。

1.局所麻酔

 「シャントPTAは内側からだから局所麻酔は効かない」という話もあるが、キシロカイン1ml程度をしっかりと拡張部位の周囲に置いてくれば、けっこう効く。

2.バルーンの進め方

 内シャントでシャント本幹の側からガイドワイヤーに沿わせてバルーンを進めても吻合部でつかえて越えない時には、①動静脈が吻合部でつくる角度を鈍にする、②ワイヤーのたわみをまっすぐにする、などを習った。が、③バルーン部分を指でやさしく「くい」っと入れ込むのがけっこう効く。

3.清潔野

 患者さんを覆う清潔野と物品を置く清潔野(台など)は、連続しているとなにかと便利(図は右内頚静脈への透析カテ挿入時だが、大腿静脈やシャントPTAでも同様だ)。




 たとえば、①患者さんのうえに穿刺針などをおかないので安全でマナーに適う、②ガイドワイヤーが不潔になりにくい、③術者が動いたり振り向いたりする手間が減る(筆者の施設では台が術者の後ろにあった)、④エコープローブを落としにくい、などが挙げられる。

 おそらく、こういったコツは筆者が気づくよりずっと前からよく知られていると思われる(筆者も1.は手術時の経験を転用している)。でも、自分で気づくのはうれしい。こういう繰り返しで、『羊と鋼の森』のように道を分け入っていくのかなと思う(こちらも参照)。





2018/11/23

シカゴおみやげ

 例年春と秋は学会シーズンだが、シカゴはこの時期に多数の学会誘致に成功している(もう寒いにもかかわらず・・私の留学していた夏はこんな感じだが)。本土の真ん中にあってみんなが参加しやすいのかもしれない。




 そのひとつがAHA(米国心臓協会)で、私は参加していないがこんなニュースがメールボックスに入ってきた。 

Cardiac Remodeling Following Ligation of Arteriovenous Fistula in Stable Renal Transplant Recipients: a Randomised Controlled Study. Abstract 19322

 発表は著者がインタビューを受けるくらい(リンク内にYouTube動画あり)だから、かなり注目されたのだろう。

 これは、腎移植後1年が経過し、安定したグラフト機能があって、もう透析することはないと見込まれるのなら、「保険」としてシャントを残すメリットよりも、心負荷のデメリットのほうが大きいんじゃないですか?という問いに答えるスタディだ。
 
 約30例ずつのランダム化で結紮群と非結紮群をくらべたところ、6ヵ月後に結紮群で心MRI上左室筋肉量がマイナス11g/m2と有意に減少した。左室筋肉量は心血管死の代理マーカーとして確立しており、これは相当インパクトのある数字だ。ほかにも、左房容積がさがる(心房細動になりにくい)、ANP・BNPなどの心筋ホルモン値の低下などがみられた。

 そうはいっても、移植患者さんのシャントを閉じるというのは相当覚悟のいることで、(シャント感染など他の理由がない限り)まずやらない。この発表が大きく取り上げられたのも、そのためである。

 移植業界は施設間で診療の差が大きいが、このオーストラリア発のパイロットスタディから、グラフト生着率のよい時代にあわせ移植医療がかわっていくかもしれない(下図は英エコノミスト誌2018年10月27日付のオーストラリア特集号)。






2018/11/19

チーム・チミーノの栄光

 以前、カテーテル関係で英国のショルドン医師とフランス領アルジェリアのオーバニアック医師を紹介した。こんどは、内シャントを語る上でかならず紹介される米国のJames E. Cimino(チミーノ、1928-2010)医師の話をしよう。


画像はこちらから

 彼自身に取材して書かれたRenal and Urology News(2006年10月1日付)も参考にされたい。当初は呼吸生理の研究を志していたチミーノ氏だが、32歳で1960年にブロンクスの退役軍人病院の透析センターを立ち上げを依頼されオファーを受ける。

 彼によれば、当時は(今もだが)バスキュラーアクセスは「血液透析のアキレス腱」だった。透析のたび刺していると、刺せる血管がなくなってしまう。それで1959年に開発されたのがScribner-Quintonシャント(写真)だが、外シャントであり閉塞・感染・皮膚壊死などが多発した。


CJASN 2010 5 2146

 そこで何とかできないかと考えた彼が思い出したのが、学生時代にベルビュー病院でphlebotomist(採血・ルートなどで静脈穿刺する仕事)をしていたときの記憶だった。これは割と有名な話のようだ。

 当時、病院にいた多くの朝鮮戦争の退役軍人のなかには損傷によって動静脈瘻(fistula)を持つ患者がいた。そして彼は、そういった血管は穿刺が容易なことを経験として知っていた。

 ならば、身体の中で血管どうしを人工的につなげてはどうか?というわけだ(それで、この方式を英語ではシャントといわずfistulaという)。最初は心不全などを怖れて(こちらも参照)静脈-静脈シャントを作成したが、流れが少なくうまく行かない。

 心不全は恐ろしい。Do no harmだ。しかし、どれだけ非生理的な流れであっても、バスキュラーアクセスなしでは透析患者さんは「どうしようもない(doomed)」。

 それで意を決して橈骨動脈と橈側皮静脈をつないだ。最初の症例は患者の脱水がつよく血圧が低すぎて閉塞した。そのあと試行錯誤を繰り返し、1966年の学会(ASAIO、まだASNはなかった)に発表し、同年論文もだした(NEJM 1966 275 1089)。筆頭著者のブレシア医師は、当初は3年目レジデントとしてチームに参加していた。

 そんな若いチームの発表なこともあってか、学会ではほとんど無視されたそうだ。しかし、彼によれば「よいネズミ捕り器はいずれ人々の心を勝ち取る(経済学で、クオリティーが宣伝に勝る意味のことわざ)」もので、数年のうちに大ヒットとなった。いまでもだ(最近はeverlinQ®などの血管内アブレーションも行われるが、原理としてはチミーノ・シャントのバリエーションに過ぎない)。


 彼自身はその後、栄養学や緩和ケアの道に進んだが、Calvary Hospitalという米国有数の緩和ケアセンター・グループをつくるなど、どの分野でもパイオニアとして活躍した医師だった。このように現状に満足しないで挑戦する姿勢から学べる点は、多い。改めて冥福をお祈り申し上げる。



2018/11/07

対岸のカテ感染予防

 透析カテーテルの話は、血液透析(HD)であれ腹膜透析(PD)であれ、それらを診ていない限りは「遠い」ものになってしまう。以前アメリカにいたころPDカテ感染予防に蜂蜜を試した話を書いた(結局だめだった、Lancet Infect Dis 2014 14 23)が、話としては興味深くても「ふーん」で終った感がある。

 またPDカテ感染では「さまざまなペット動物がPDカテーテルを触って珍しい感染をおこした」という報告も多い(たとえば、ハムスターはPediatr Infect Dis J 2004 23 368)が、これもPDを診ていないと実感はわかないだろう。




 血液透析カテーテルの感染も同様で、診ていないと「カテーテルなんかにするからでしょ」「うちはカテーテルの患者さんはいないので」で終ってしまうが、診ていると切実な問題だ。だから、カテーテルでHDを行なう患者さんの多い(導入時の80%!)米国で行なわれた米国腎臓学会で、カテーテル感染予防キットClearGuard HD(図)が注目を集めていたのもうなずける。




 この分野ではながらく抗菌薬によるロックが主流だったが、Clear Guard HDは芯の部分にChrolhexidineがコートしてあり、カテーテル内腔を消毒する。透析大手DaVita施設で既存のTego + Curosに対する有意性を示した論文はJASNに(JASN 2018 29 1336)、別の大手Fresenius施設で標準カテ指導と比較して感染を有意に減らした論文はAJKD(AJKD 2017 69 220)にそれぞれ載った。

 もちろんopen-labelだが、いずれも大規模スタディであり、Chrolhexidineは術創消毒などでは第一選択になりつつある。コスト(1回で使い捨てなのでそれなりにお金はかかるだろう;ただし、感染を防ぐことで費用対効果があるかもしれない)や副作用次第では広く用いられるようになるかもしれない。

 「ふーん」と思うのも、無理はない。以前触れたようにいまの数字ではカテーテルは日本の血液透析患者さんの1%にすぎない。しかし、2018年は透析学会により10年に一度の調査がおこなわれるはずで、その結果カテーテル患者さんが1%から少しでも増えていた場合、この話題は割とクローズアップされるだろう(患者さんの高齢化など、そうなる可能性は十分ある)。個人的には、そうでないことを願う。